首都機能の移転先新都市は「我が国の進むべき方向を国の内外に示す象徴となるべきもの」(国会等移転審議会答申)と位置づけられています。まちづくりの観点からは21世紀の新たな都市の姿を国の内外に示す絶好の機会ととらえ、移転先新都市を構成する際の基本的な考え方を以下のように設定しました。
21世紀型都市の提示 | 最先端技術の導入 | 新ライフスタイルの構造 |
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環境問題等の今日的な都市問題の解決や、20世紀型新都市(我が国のニュータウン、海外の新首都など)の限界の打破に積極的に取り組み、21世紀型における都市の姿を国内外に提示します。 | 課題の解決にあたっては、都市づくりに関する各種先端技術を導入し、その国内外への波及やさらなる技術開発の促進につなげるよう創意工夫を図ります。 | 人や情報の交流を支える快適性、自然や文化の豊かさなど、多様な魅力を兼ね備えた都市を形成し、市民の新しいライフスタイルの創造を支援します。 |
今日的な都市問題のうち、特に《環境問題への対応》《高度情報化への対応》《国際化への対応》については移転先新都市としても取り組むべき課題であることから、まちづくりに際して先進的な取り組みが必要です。
この3つの最重要課題への解決策と、新たな時代に向けた都市づくりの方向を踏まえ、移転先新都市形成の3つのシナリオを提案します。
価値観が多様化し、また都市づくりに関わる各方面の技術が高度に進展し続ける今日、新たな時代の都市づくりにあたっては、土地利用・都市施設・市街地開発等の都市計画に加え、新たな概念を取り入れて新都市の計画を組み立てることが重要です。
そこで、都市活動のシステムを、下図のように《4つの階層(レイヤー)》が積み重なって構成されているものととらえます。
移転先新都市では、これら4つの要素が相互に連関し合い、好循環を生み出すことで、今日的な都市問題の効果的な解決を図ります。また、《環境》《高度情報化》《国際化》への対応を通じて、他の都市問題(少子・高齢化など)の連鎖的な解決も図ります。
移転先新都市は、主要な首都機能をもつ「国会都市」と、周辺にある既存の中小規模の都市で構成され、機能や活動の面で相互補完的に連携を図ります。
また、時代の変化や社会経済的な需要への柔軟に対応し、財政支出増を可能な限り避けることを心がけ、段階的に整備を進めていきます。
Step.1 移転前段階のイメージ
Step.2 まちびらき(国会開催)時のイメージ
Step.3 発展・成熟段階のイメージ
ハードの偏重や機能鈍化型の土地利用計画などにより≪都市としての面白さ≫を欠いてしまった20世紀型新都市づくりの反省から、移転先新都市では、雑然性・雑居性・喧噪性といった都市の表情を当初からあわせ持つことが望まれます。
そのためには、市民や企業が主体的かつ自由に活動を展開しうる部分を都市の中に十分確保し、公的主体による都市環境全体の適切なコントロールとうまく組み合わせる仕組みを構築し、運営していきます。
公共施設やその周辺の空間の建築デザインや景観デザインについては、世界最高水準のデザイン性を展開するべく、国内外の知恵や技術を結集することにより、国際的な観光資源ともなる都市環境としての美しさや質の高さを先導的に実現します。
民間施設によって住宅、商業・サービス、業務等の機能展開を期待する部分については、リースホールド方式※を採る場合であっても、民間の自由度の大きい利用を可能とすることによって、”都市としての面白さ”を規定する雑全的な部分を醸成します。
都市環境の美しさを左右する公共的な空間を面した一定の土地については、開放的な空間が形成されるよう、適切な単位毎に民間同士で一定のルールを取り決めてもらいながら、各々創意工夫に基づく整備・管理を図ります。
公共主体が土地を保有しながら、市民に管理・運営させる、いわば”都市の土地”(ex市民広場)を、都市内に分散的に確保することにより、都市市民の自発的でユニークな活動を喚起します。
首都機能移転の概要
首都機能移転とは、国会や政府の中枢機能、最高裁判所などの首都機能の一部を東京圏外に移転することで、「国政全般の改革の促進」、「東京一極集中の是正」、「災害対応力の強化」などの意義・効果があります。
昭和30年代から、首都機能移転に関する多くの提言が行われてきましたが、平成2年の国会決議により国において本格的な検討が始まり、平成11年12月に、「国会等移転審議会」から移転候補地を選定する答申が行われました。
新しい都市論を踏まえた移転先新都市のあり方に関する検討会報告
上記答申を踏まえ、都市計画、都市文化、ライフスタイル等の視点から移転先新都市のあり方について検討するため、「新しい都市論を踏まえた移転先新都市のあり方に関する検討会」が設置され、平成13年3月に検討会報告がまとめられました。
報告では、移転先新都市の形成に当たっては、「今日的都市問題の解決策」と「新たな時代に向けた都市づくりの方向」を踏まえて計画を組み立てるべきであるものとし、この考え方に基づき、(1)都市問題への取り組みのシナリオ、(2)移転先新都市の成長のシナリオ及び(3)≪五感≫的魅力の形成・醸成のシナリオを移転先新都市形成の戦略的シナリオとして提案しています。