東北開発促進計画(第五次)

〜21世紀を先導する自然共存型社会をめざして〜


 東北開発促進計画とは、東北開発促進法に基づいて作成される東北地方における総合的開発の促進に関する計画のことです。この度、第五次の計画が国土審議会東北地方開発特別委員会の審議を経て、平成11年3月30日に閣議決定されました。その内容を紹介します。



−目      次−




第1章 計画の性格と課題

 第1節 計画策定の意義

  1 計画策定の意義

  2 計画期間

  3 計画の性格

 第2節 東北の歴史と国土

  1 東北の歩み

  2 東北の国土

 第3節 計画の課題

  1 20世紀の日本の国土構造

  2 近年の東北を取り巻く状況の変化

  3 社会経済環境・人々の意識の変化

  4 計画の課題

第2章 計画の基本目標と基本方針

 第1節 計画の基本目標

 第2節 計画の基本方針

  1 ゆとりある暮らしの中で、自然の恵み、都市的サービスを享受できる東北

  2 世界と人々やもの、情報、文化が交流する開かれた東北

  3 魅力ある職場が存在し、産業に活力のある東北

 第3節 計画推進に向けた多様な主体による取組

 第4節 東北の人口・社会経済の動向

  1 東北の人口・世帯の動向

  2 東北の社会経済の動向

第3章 東北整備のための方向と施策

 第1節 ゆとりある暮らしを営むために

  1 地域の創意と工夫が活かされた地域づくり

  2 多彩なライフスタイルの展開が可能な総合的居住環境の整備

  3 東北における多自然居住地域の創造

  4 生活をゆったり過ごせ、子供がのびのび育ち、高齢者等が安心して暮らせる環境整備

  5 歴史と文化を大切にする美しい地域づくり

  6 東北における都市のネットワーク形成と多彩で高度な都市機能の充実

  7 雪と共存する地域づくり

  8 半島・離島地域の利便性向上
   (1) 半島地域
   (2) 離島地域

 第2節 自然の恵みを守り、味わうために

  1 自然と共存する地域整備
   (1) 水系、森林、海浜等豊かな環境の管理
   (2) 環境と調和した地域整備
   (3) 公害・環境ホルモン等への対応

  2 中山間地域等の活性化と周辺地域との連携

  3 災害に強い地域づくり

  4 流域圏に着目した国土の保全と管理
   (1) 河川の上下流連携と管理
   (2) 森林の管理
   (3) 農用地等の管理

  5 循環型社会の構築をめざした廃棄物・リサイクル問題への対応

  6 自然と人とのふれあい

 第3節 世界と人々やもの、情報、文化が交流する開かれた東北のために

  1 東北のラダー型地域構造形成のための基盤整備
   (1) 東北の基盤整備の現状
   (2) 東北のラダー型地域構造形成のための基盤整備

  2 世界に開かれた広域国際交流圏「東北」の形成
   (1) 広域国際交流圏形成へ向けての東北のポテンシャルと課題
   (2) 広域国際交流圏「東北」形成への取組

  3 広域連携による地域づくり

  4 首都圏との連携と交流

 第4節 魅力ある職場を確保し、活力ある産業を育てるために

  1 独創的な研究開発機能の充実と成長分野の産業育成

  2 多彩なライフスタイルを支える産業の展開

  3 高度化、高付加価値化による産業構造の強化と多彩な地域産業の充実

  4 豊かな農林水産業の展開
   (1) 農業
   (2) 林業
   (3) 水産業
   (4) 地域間交流等における農林水産業の役割

  5 東北の活力を支える人材の育成

  6 エネルギーの安定供給

  7 地域金融の充実

第4章 計画実施にあたっての留意点

  1 住民参加による計画推進

  2 重点的かつ効率的で、公平に配慮した地域整備

  3 他計画等との調整

  4 計画の評価及び弾力的な運用



−本      文−




第1章 計画の性格と意義

第1節 計画策定の意義

1 計画策定の意義

 21世紀を迎えようとしている。
 戦後、東北では、緑豊かな自然を残したまま、所得格差の縮小、人々の利便性の向上等が果たされ、平成に入ってからは、域内総生産額も全国平均を上回る伸びを遂げてきている。
 今後、東北は、よりよい環境が求められる21世紀に向けて、その環境に恵まれたポテンシャルを活かし、人々の暮らしのゆとりを深めながら、日本全体、世界へ、さらにさまざまな貢献を進めていくことが期待されている。
 戦後の東北の発展を支えてきた4次にわたる開発促進計画に続く、第5次の本計画は、人々が自然と共存しながら、ゆとりある生活をおくることができる東北を形成し、21世紀の日本の国土を先導するフロンティアとしての役割を円滑に担えるよう、東北がさらに活力を有し、調和のとれた発展を続けていくために策定するものである。

2 計画期間

 計画中に記載されている施策の実施時期については概ね平成22〜27(2010〜2015)年を目標年次とするが、東北の望ましい姿については、21世紀前半を見通して掲げるものとする。

3 計画の性格

 この計画は、東北開発促進法に基づき策定したものであり、東北を暮らしやすい地域とするため、平成10年3月に策定された新しい全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン──地域の自立の促進と美しい国土の創造──」に示された理念に即し、長期的かつ総合的な観点から今後の東北の発展方向と施策の推進のための方針及び大綱を示すものである。
 したがって、東北に関わるすべての人々のための計画となること、すなわち、国及び地方公共団体の東北に関わる事業実施の基本となるとともに、地方公共団体が独自に事業を実施するに当たっての指針となり、また、地域振興を図る上での民間事業に対する指針及び住民等による自主的な地域づくりの指針となることが期待される。
 なお、本計画での「東北」とは、東北開発促進法に基づき、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県及び新潟県の区域をいう。

第2節 東北の歴史と国土

1 東北の歩み

 東北では縄文時代から狩猟・採集を基礎とした生活が営まれ、中には三内丸山遺跡にみられるように大規模な集落を形成し、高度な社会生活、域内外との活発な交流を展開していたとみられるところもあった。
 その後、日本海を通じて渤海使が来航するなど、北方とも交流を展開する一方、11、12世紀の奥州藤原氏にみられるように、経済、文化面等において独自の発展を遂げてきた。
 近世以降、宝暦・天明の大飢饉などの自然災害に幾度か見舞われたものの、新田の開墾、水利技術の発展が進み、北上川、最上川などの河川舟運、東廻り海運、西廻り海運の発達とも相まって、東北は江戸、大坂への主要な食糧供給地域として発展し、東北の米は江戸などの米相場を定める基準米とされるほどであった。
 明治以降、東北では、安積開墾などの開発事業も進められたものの、資本蓄積の遅れ、戊辰戦争の影響等から発展の遅れは否めなかった。また、三陸大津波をはじめとする災害にも見舞われ、東北振興が国家的な課題となった。政府は、これらの東北における諸問題を根本的に解決するため、東北振興調査会を設置するなど東北振興に努めたが、十分な成果を得ぬまま第二次世界大戦へと突入した。
 戦後の復興期において東北は、北海道とともにその開発が国家的な観点からクローズアップされ、北上などにおいて特定地域総合開発が進められた。
 昭和30年代になると、東北開発は国の重要施策として取り上げられ、昭和32年には東北開発促進法、東北開発株式会社法及び北海道東北開発公庫法のいわゆる東北開発三法が制定された。
 その後、高度経済成長期においては、全国的に工業化が進展する中、東北は、豊かな自然や文化・風土を残しつつ、食料、資源・エネルギー、労働力の供給等を通じて我が国の経済発展に寄与してきたが、全国との所得格差の縮小はわずかなものにとどまった。
 昭和50年代以降、高速道路、新幹線、空港等の高速交通体系の整備が逐次進展するとともに、食料品等の地域資源を活かした産業に加えて、電気機械産業等の集積が高まりをみせており、特に平成に入ってからは、東北の域内総生産の伸びは全国の伸びを上回り、全国との所得格差も大幅に縮小しつつあるなど、東北は21世紀に向けて発展の新しいステージに入りつつある。
 また、東北開発の進展状況と地域開発に係る政策手段の多様化に鑑み、東北開発株式会社法は昭和61年に廃止され、民営移行がなされた。北海道東北開発公庫は平成11年の通常国会において法律改正を行うことにより廃止され、日本開発銀行を廃止の上設立される新銀行に統合されることとなった。

2 東北の国土

 このような歩みを遂げてきた東北は、国土の約2割を占める広大な地域に全国の約1割にあたる人々が住み、日本海側を中心とした豪雪地帯や豊富な水量を誇る河川、有数の収穫高を誇る稲作地帯、ヒバ、スギなどの木材を産する森林地帯、変化に富んだ海岸、好漁場である海域など豊かな自然環境に恵まれている。こうした環境の中で、東北は、仙台、新潟等の地方中枢・中核都市、人口十数万から数万人程度の地方中心都市や小都市が多核的に分散する変化に富んだ地域を形成している。
 東北の特徴となるブナ林を原生的な状態で残している白神山地が世界遺産へ、伊豆沼・内沼、佐潟がラムサール条約へ登録されるなど、世界的に見ても、東北はその自然の豊かさが脚光を浴びている地域である。
 また、東北は、大都市圏で減少している美しい自然に加えて、長い歴史に培われた文化や風土、地域社会における人と人とのつながりを豊富に有しており、これからの時代に求められる多様で広がりを持った地域の形成を可能とする優れた固有の特性を備えている。


第3節 計画の課題

1 20世紀の日本の国土構造

 20世紀の日本は、急激な人口増加と農業主体の生産構造から工業主体の生産構造への転換があいまって、地方部から都市部への人口流出が進んだ時代であった。また、第二次世界大戦後は急速な工業化による高度経済成長が進み、日本は世界有数の経済繁栄を享受し、その結果、国民の生活水準は大幅に向上した。
 この経済成長の過程で形成されたのが、東京という一極、太平洋ベルト地帯という一軸に集積が集中し、都市化が進展した一極一軸型の国土構造である。この一極一軸型の国土構造の中では、東京をはじめとする大都市での過度な人口集中や地価問題、地方圏での過疎問題、国土全体での文化の均一化や環境問題等さまざまな面での問題が生じた。この国土構造の形成の中で東北の果たしてきた主要な役割は、食料・労働力等の大都市地域への供給であった。

2 近年の東北を取り巻く状況の変化

 しかし、近年、我が国全体の総人口の伸びが鈍化し、社会移動が沈静化する中で、国土全体として、20世紀の特徴であった急激な人口増加等に伴う国土構造の変化が沈静化しつつある。
 東北においても、その人口増加は緩やかになってきており、人口移動についても、東北全体で長期的にみて、転出超過から転出入が拮抗する形へと変化してきている。すなわち、東北においては、農山漁村、中小都市など過疎化、高齢化が進むことで地域の活力の低下が危惧される地域はあるものの、地域全体として、昭和30年代、40年代にみられたような東京圏などへの一方的な人口流出は終わりを告げている。
 東北の地域構造に目を転じれば、河川に沿って広がる平野や点在する盆地などを中心に都市機能や産業の集積等が進んできており、また、日本海沿岸、三陸沿岸など高速交通体系の整備が十分とはいえない地域が存在しているものの、東北縦貫・関越・北陸自動車道、東北・上越新幹線等の南北方向とあわせて東北横断自動車道等の東西方向の整備も進んできている。
 このように、東北においては、都市機能や産業の集積、南北及び東西方向に展開する高速交通体系等から構成されるラダー(梯子)型地域構造の形成に向けた基礎が築かれつつある。
 産業の面では、東北は、工業出荷額の伸びや工場立地件数の全国シェアについても高水準を維持しており、全国的にみても成長性が高い地域となっている。この中でも特に南東北地域への工業立地は盛んである。また、所得の面からみても全国との格差の縮小が進んでいる。

3 社会経済環境・人々の意識の変化

 社会経済環境の面では、地球規模での温暖化、食料、資源等の問題への取組が必要とされ、人々の国際的な活動が活発化する地球時代の進展、少子化等に起因する人口減少やさらなる過疎化・高齢化の進展、情報通信の発展によるさらなる高度情報化の進展が予想される。
 人々の意識の面では、ものの豊かさから心の豊かさ、自然とのふれあいをより大切にする人々の増加にみられるような価値観の変化、多様化が進展している。
 今後はこれらの社会経済環境や人々の意識の変化に対応していく必要がある。

4 計画の課題

 今後の東北の整備に当たっては、近年の東北を取り巻く状況の変化や社会経済環境・人々の意識の変化を踏まえ、その豊かな自然等のポテンシャルを活かして進めることが必要である。その上で、人々が多彩なライフスタイルを展開することが可能で、魅力ある職場、活力ある産業が立地する社会を形成することにより、環境が重視される21世紀の日本における多軸型国土構造の形成を先導する自然共存型社会のフロンティアとして東北を整備していくことが課題となる。


第2章 計画の基本目標と基本方針


第1節 計画の基本目標

 21世紀の社会経済を展望すると、今後は、生活のゆとりや環境、一人ひとりの個性や価値観がさらに重視され、それぞれの個性や価値観に合致した多彩な生活様式を人々が展開できる可能性が求められる時代となると考えられる。
 また、豊かな自然、美しい景観、独自の文化に恵まれるとともに、高い成長力を有する東北は、このような人々の要請に応える舞台となる可能性を有しており、長期的な視点から、さらに良好な環境の整備を進めていく必要がある。
 東北開発促進計画(第五次)は、東北の持つ優れた条件を活かしながら、21世紀前半という長期を見通して、高速交通基盤等が整備されるとともに、活力ある産業が立地し、東北に住んでいる人々や他の地域から移り住んでくる人々をはじめ東北と関わりを持つ一人ひとりにとって、人々の持つ多様な価値観に対応した多彩なライフスタイルの展開が可能で、暮らしやすく活力のある東北を形成していくことを計画の基本目標とする。


第2節 計画の基本方針

 計画の基本目標である「多彩なライフスタイルの展開が可能で、暮らしやすく活力のある東北」を形成するための計画の基本方針は次のとおりである。

1 ゆとりある暮らしの中で、自然の恵み、都市的サービスを享受できる東北

 四季の変化が美しく、豊かな自然環境に恵まれていることは東北の特性である。東北が21世紀に向け調和のとれた新しいライフスタイルが展開されるフロンティアとなるためには、この特性を活かし、人々が自然とふれあうことにより、自然の恵みを享受し、自然と調和した生活様式を生み出すとともに、積極的に豊かな自然を次なる世代へと継承することが必要である。
 また、人間が暮らしていく上で基本となる生活の安心・安全を確保するとともに、生活の快適性を向上させ、都市的サービスの享受をより容易にしていく必要がある。
 このため、恵まれた自然環境の保全への取組、日々の暮らしの中での安心・安全の確保への取組、さまざまなサービスの充実やアクセスの向上をはじめ生活の快適性を向上させる取組等を進め、人々が恵まれた環境の中でさまざまな面でゆとりのある暮らしをおくることができる東北の形成を進める。

2 世界と人々やもの、情報、文化が交流する開かれた東北

 一層の広域交流の進展、国際化が予想される21世紀に向けて東北を発展させるためには、国内での交流はもとより、世界と人々やもの、情報、文化が交流する開かれた東北を形成する必要がある。また、人々が多彩なライフスタイルを東北で展開することを可能とするためには、国内外と交流できる開かれた社会を形成する必要がある。
 このため、北東国土軸及び日本海国土軸の形成を長期的に展望しつつ、逐次整備されつつある高速交通体系や高度情報通信基盤等を活かしながら、域内及び域外との広域的な連携を進めることにより、東北全体として、ラダー(梯子)型地域構造の形成を進め、地域の自立的発展に向けた条件の整備を図る。
 また、世界と交流する東北を形成するため、広域的な国際交流圏形成のための国際的なゲートウェイ機能など基盤整備を進めるとともに、東北から世界へ向けて個性ある情報発信を進める。
 さらに、国内外と人々が自由に行き来し、情報や文化面での交流ができる環境づくりを進める。

3 魅力ある職場が存在し、産業に活力のある東北

 21世紀の東北が発展し、多彩なライフスタイルの展開が可能となるためには、そこに居住する人々にとって魅力ある職場が存在することが必要であり、活発な産業活動がその基盤となる。また、魅力ある職場が存在することにより、人々の多彩な自己実現が可能となる。
 このため、東北における優れた学術研究機能の集積等を活用した今後の東北の発展を牽引する成長産業の育成や独創的な研究開発機能の充実、既存産業の高度化・高付加価値化、東北の特色を活かした地場産業の多彩な展開等を進める。
 東北の特徴である農林水産業については、その地域特性を活かしつつ、生産性や質の向上を図り、食料等の安定供給を支える。
 また、さまざまな価値観を持つ人々が住み、滞在することが促進されるような多彩なライフスタイルを支える産業の展開を進め、活力ある東北を形成する。



 これら3つの基本方針に基づいて、地域づくりや交通基盤の整備など本計画が進められることにより、風の匂いが感じられ、時間がゆったり流れる生活と、都市的でハイテンポな生活の双方を選択的に享受することが可能となり、人々にとって「多彩なライフスタイルの展開が可能で、暮らしやすく活力のある東北」が実現される。そして、このことは、21世紀に向け調和のとれた新しいライフスタイルが展開されるフロンティアとしての東北が形成されることにほかならず、これらにより、北東国土軸及び日本海国土軸形成の基礎が築かれる。


第3節 計画推進に向けた多様な主体による取組

 21世紀に向けた東北の地域づくりにあたっては、公的主体である国、地方公共団体等による地域整備のための施策の実施とともに、住民をはじめとする民間主体の理解、参加、協力が不可欠である。このため、これら多様な主体の参加と連携による地域の創意と工夫を重視した地域づくりを進める。
 具体的には、国、地方公共団体等はそれぞれのレベルで役割を分担しながら、地域づくりのためのハード・ソフト両面にわたる各種の基盤を整備し、住民、NPO、民間企業等はそれぞれの立場から東北をよりよい地域とするための活動を担うことを計画推進の基本的な方法とし、多様な主体がそれぞれの立場から連携して地域整備を担うこととする。


第4節 東北の人口・社会経済の動向

1 東北の人口・世帯の動向

 日本の総人口は平成19年をピークとしてその後は緩やかな減少局面に移行し、この中で高齢化がさらに進行していくものと見込まれる。東北においても同様に、本計画期間中に人口はピークを迎え、その後緩やかな減少が進むとともに、高齢化が進行するものと見込まれる。
 東北の総人口は、昭和60年の1220万人から緩やかに増加し、平成7年には1232万人に達した。東北の人口構成や人口動向等を勘案して、将来の推計を行うと、今後、東北では高齢化が進展するとともに、少子化等による緩やかな人口減少が将来的に進行し、平成17年前後の1238万人前後をピークとして、平成27年には1220万人前後まで減少すると見込まれる。
 東北の老年(65歳以上)人口は、昭和60年の144万人から平成7年には214万人に増加しており、平成27年にはいわゆる「団塊の世代」が65歳以上となることからさらに増加して319万人前後となり、東北の全人口に対するシェアでみても26%前後(平成7年は17%)に高まると見込まれる。
 一方、東北の生産年齢(15〜64歳)人口は、昭和60年の815万人から平成7年には811万人に微減したが、平成27年には725万人前後へと急激に減少し、東北の全人口に対するシェアでみても59%前後(平成7年は66%)となると見込まれる。
 また、東北の若年(0〜14歳)人口は、昭和60年の262万人から平成7年には207万人に減少しており、平成27年には176万人前後へとさらに減少し、東北の全人口に対するシェアでみても14%前後(平成7年は17%)となると見込まれる。
 東北の一般世帯数は、核家族化による1世帯あたり人員の減少から、昭和60年の343万世帯から平成7年には385万世帯に増加しており、平成27年にはさらに増加し、470万世帯前後となると見込まれる。その中でも特に、高齢単身者世帯は急速に増加し、平成7年の16万世帯から平成27年には東北の一般世帯総数の約10%に当たる47万世帯前後に達すると見込まれる。

2 東北の社会経済の動向

 東北は自然公園面積がブロック毎の比較でみても広く、農地・森林等の地域に占める比率も高いなど緑豊かな地域である。このような環境の中で、持ち家比率が全国平均の1.2倍、一住居当たりの住宅延べ面積が全国平均の1.3倍の水準にあり、通勤時間の中位数も約20分と全国平均の約7割と短いなど人々がゆとりある暮らしを過ごしやすい環境にあり、今後ともこれを維持していく必要がある。
 一方、下水道普及率、市町村道舗装率等の社会資本の面や、医療機関までの距離、実質賃金等の面では、全国平均をかなり下回っており、これらを改善していく必要がある。
 東北の域内総生産は昭和60年に29兆円(平成2暦年価格。以下同じ。)であったが、平成7年に40兆円となり、この間年率平均3.4%で成長してきた。今後の東北の経済は、成長率は鈍化するものの着実な成長を続けると見込まれる。
 東北の就業者数は、第1次産業では昭和60年の115万人が平成7年に75万人に減少し、第2次産業は昭和60年の183万人が平成7年には202万人に増加した。第3次産業は昭和60年の308万人が平成7年には354万人に増加した。
 今後の東北の就業構造は経済のサービス化の進展等により、第1次産業がさらに減少し、第3次産業は増加、第2次産業は微増すると見込まれる。


第3章 東北整備のための方向と施策

 本章では、第2章で示した3つの基本方針である「ゆとりある暮らしの中で、自然の恵み、都市的サービスを享受できる東北」、「世界と人々やもの、情報、文化が交流する開かれた東北」、「魅力ある職場が存在し、産業に活力のある東北」を実現するための具体的方向と施策を示す。
 なお、第一の基本方針である「ゆとりある暮らしの中で、自然の恵み、都市的サービスを享受できる東北」については、「ゆとりある暮らしを営むために」と「自然の恵みを守り、味わうために」という2つの節にわけて記述している。

第1節 ゆとりある暮らしを営むために

1 地域の創意と工夫が活かされた地域づくり

 東北は、良質な自然、美しい景観、貴重な遺跡、伝統的な文化に恵まれており、しかも人々の結びつきの残された地域社会があり、その風土は多彩なライフスタイルを展開する場となる可能性を有している。
 これからの東北では、これらの固有の特性や資源を大切にしながら地域振興を図るとともに、住民、民間企業、地方公共団体等のさまざまな主体が参加する地域の創意と工夫を活かした活力に満ちた持続可能な地域づくりを進める必要がある。
 このため、住民一人ひとりが美しい地域づくりを進める「うつくしま、ふくしま。」県民運動、山形での県民参加交流型社会構想やボランティア、NPO活動等の地域におけるさまざまな活動をさらに進めていくとともに、こうした活動の交流拠点整備や支援策の充実等を進める。また、東北全体におけるボランティア活動等の連携を進め、このような活動に人々が参加しやすい社会を形成する。さらに、地域戦略プランの推進により、それぞれの地域が自らテーマを選び、主体的に策定した、活力とゆとり・うるおい空間の創造のための総合的なプランに基づく地域づくりを支援する。

2 多彩なライフスタイルの展開が可能な総合的居住環境の整備

 東北はゆとりある居住環境を有しているが、その基盤となる生活関連社会資本の整備については、全国と比較して遅れている部分もある。これらの社会資本を含めた総合的居住環境の整備は、東北の豊かな自然とあいまって、東北へ人々をひきつけ、多彩なライフスタイルの展開を図る上での基盤となるものである。
 また、少子化等により東北の若者の数は減少傾向にあるが、地元に残る傾向は高まっており、域外への流出数は減少傾向にある。こうした傾向を持続するため、地域に若者が残りたくなり、帰りたくなり、行きたくなるような魅力的な地域づくりをさらに進めていく必要がある。
 さらに、UJIターンをはじめとして、さまざまな人々が東北に集まるような環境を整備していく必要がある。
 このため、東北の恵まれた環境を活かして、観光や交流により短期間地域に来訪した人々や大学生活や仕事のために東北に居住した人々が再び訪れたり、ライフステージに応じて半定住したり、地域の魅力を感じた人々が定住できるような開かれた地域づくりを進める。
 また、八戸圏域等における上水道の整備を進めるとともに、全国的にみても低い水準にある下水道の整備を、新潟市等の東北の各都市や北上川上流、秋田湾雄物川流域等において進める。さらに、農山漁村地域における汚水処理施設等の整備を進めるとともに、核家族化や高齢者の増加等に対応した住宅の整備を進めるなど生活関連資本の充実を図る。

3 東北における多自然居住地域の創造

 東北は、積雪が多く、春から初夏にかけての雪解けが豊富な水量をもたらす日本海側、ブナ林等落葉広葉樹林が連なる奥羽山脈、雪のあまり多くない冬と涼しい夏を持つ太平洋側、変化に富み、豊かな海の幸をもたらす三陸海岸、山脈や山地の間に広がる平野や大河、点在する盆地などのさまざまな自然的特性や歴史と風土を有する。また、個性ある都市がブナやミズナラなど主に落葉広葉樹林からなる森をはじめとする豊かな自然に恵まれた農山漁村の間に点在しており、都市的サービスとゆとりある居住環境や豊かな自然をあわせて享受できる多自然居住地域を創造する条件に恵まれた地域である。
 この東北で多彩なライフスタイルの展開を実現するためには、都市と周辺地域との地域連携を進めることによって、全体として自然環境と都市的サービスへのアクセスが一定条件の下で可能となるような、都市と農村それぞれの長所を享受できる地域の形成が求められる。また、このような地域形成を進める上で、東北の特性として都市間の距離が長いことや冬には積雪が見られる地域が多いことから、地域交通基盤、情報通信基盤の整備が不可欠であり、都市部と農村部の活発な連携・交流とあわせ進める必要がある。さらに、東北においては、市町村道の舗装率が低いなど社会資本の整備が未だ不十分な面もある。
 このため、都市機能を充実させるとともに、行政、産業、文化、教育・研究、医療・福祉などさまざまな機能の特性や立地条件に応じて、広域の市町村の連携により一定の機能を確保しうるような形で、それぞれの機能の共同利用や連携に伴う利用人口の増大に対応した高度化を進める。こうして地域の自立的発展に向けた条件の整備を図ることにより、東北の自然的条件等を踏まえながら、自然の恵みと都市的サービスの双方を享受できる多自然居住地域の創造を進めていく。
 多自然居住地域の創造にあたっては、広域的な協力体制の整備が有効と考えられる廃棄物の処理、災害時の協力体制、広域の環境対策等については、複数の自治体が協力・連携することにより、より効率的かつ効果的な対応を進める。個別の地方公共団体による整備が困難な高度な医療・福祉施設をはじめとする施設については、市町村相互の共同利用等を進めるとともに、市町村を越えた広域を対象とした拠点施設についての高度化を進める。
 さらに、自動車の普及に伴い日常生活をおくる上で道路整備の必要性が高まっており、日常生活に関係の深い道路の整備・改良、良好な維持管理、積雪時の交通の確保、交通安全の確保を進める。
 今後、環境保全の観点や高齢化等に伴い公共交通の役割も高まることから、地域住民のニーズに配慮した鉄道在来線の機能・サービスの強化、域内バス路線等の生活交通の維持・整備、交通機関・施設のバリアフリー化等を進め、広域的な地域の連携を図る。
 情報通信基盤の発展は、これまでの地域振興にとって基本的な課題であった時間や距離の制約の克服を可能にするなど優れた特性を持つ。このため、マルチメディアの活用による高齢化、過疎、積雪等の地域の実情に即した遠隔地医療サービス、在宅保健福祉サービス、広域行政窓口システム等の新しいサービスの開発、導入等地域活性化への活用を進める。

4 生活をゆったり過ごせ、子どもがのびのび育ち、高齢者等が安心して暮らせる環境整備

 東北は、豊かな自然、温泉、温かい人情など生活をゆったり過ごすことが可能な地域資源に恵まれている。このような地域資源を基盤として、さらに日々の生活を充実し、多彩なライフスタイルを実現していくためには、スポーツ、生涯学習等の活動に容易に取り組むことが可能な環境の整備が必要である。また、日々の暮らしを安心して過ごすことができる医療施設の整備についても取り組む必要がある。
 このため、人々が健康の増進のために利用できる公園を整備するとともに、宮城県総合運動公園や新潟県総合スタジアム等の国際競技大会にも対応できる運動公園・スポーツ施設等の整備を進める。また、きめ細かな教育ニーズへの対応や生涯学習に誰もが取り組める機会の拡大に努める。さらに、地域で安心した暮らしが営めるよう、生涯にわたる健康づくりを支援するとともに、救急医療やがんなどについての高度な医療体制の整備等を進める。あわせて、各地に点在する全国屈指の温泉群のゆとりある暮らしに向けた活用を進める。
 東北においても、少子高齢化社会の到来に対応して、次代を担う子どもが個性豊かにのびのびと育つことができ、安心して子育てができる環境整備や、今後増大する高齢者が安心して暮らせる環境整備が重要な課題となってくる。また、女性や障害者が多彩なライフスタイルを展開する上で欠かせない男女共同参画社会の形成の促進やハンディキャップを持つ人々が不自由を感じずに暮らせる環境の整備が必要である。
 このため、保育施設の充実をはじめとする子育て環境の整備や、子どもたちが自由に遊ぶことができる公園や緑地、水辺の整備などのびのびと過ごせる環境の整備を進める。
 また、子どもたちの個性を引き出す教育を行うとともに、秋田県の「ふるさと教育」にみられるような自らの地域を学ぶ心を醸成する取組を進める。
 さらに、高齢者及び障害者福祉施設の整備や高齢者等が暮らしやすいコミュニティの形成を進めるとともに、健常者と障害者の分け隔てなくすべての人が暮らしやすいユニバーサルデザインやバリアフリーなどの考え方を重視した地域づくりを進める。
 あわせて、男女が共同して社会に参加できる環境やその拠点についても整備を進めるとともに、女性や高齢者が今まで以上に積極的に社会に参加できるよう就業等にあたっての環境を整備する。
 なお、このような環境の整備は必ずしも公的主体によるハード面の整備だけでは達成しえないため、すべての人々が暮らしやすいような社会を形成するという気運の醸成やそのための住民の活動に対して、公的主体がソフト面においても積極的な支援を行う。

5 歴史と文化を大切にする美しい地域づくり

 東北には、日本を代表する三内丸山の縄文遺跡や奥州藤原氏の平泉をはじめ、中世の館あと、近世の城下町、河岸や宿場町などが存在し、寺社、民家などの歴史的建造物や遺構などが多く残されている。また、ねぶた、竿燈、七夕、花笠など多彩な地域に根づいた祭り、伝統芸能、食文化や美しい景観に恵まれており、独自の地域アイデンティティの源となっている。
 東北が地域の独自性を有しながら発展していくためには、これら地域の持つ価値を住民自らが認めながら、地域づくりの資源として活かし、歴史と文化やその美しい景観を継承していくとともに、21世紀に向けて、世界に対し、積極的に新たな文化を創造していくことが重要である。
 このため、松尾芭蕉をはじめとする先人たちに詠まれ、宮沢賢治などを育んだ文学的風土や三内丸山に代表される縄文文化を踏まえ、東北の歴史や文化を掘り起こす研究等への取組を進めるとともに、その歴史的、文化的環境の適切な保全・復元を図り、これらを現代に活かした歴史と文化を大切にする風土を形成する。このような歴史、文化を大切にする取組を東北各地で進めることにより、東北全体として歴史・文化回廊を形成していく。
 また、青森県総合芸術パークやせんだいメディアテークなど新たな文化を生み出すための拠点の整備、芸術活動への支援等を通じて、東北での個性豊かな新たな文化の創造や世界への情報発信を進める。
 さらに、東北らしい美しい風景や景観を残し、また、創り出していくために、山形県金山町の景観づくりにみられるような環境と調和する素材やデザインの活用を進める。加えて、仙台市における杜の都の風土を育む景観形成をはじめ、公的主体による景観への配慮と住民自らによる美しい地域づくりへの支援を進めるなど、景観を意識した総合的な地域づくりを行う。

6 東北における都市のネットワーク形成と多彩で高度な都市機能の充実

 東北において、人々が多彩なライフスタイルの展開を可能とするためには、東北の特徴である点在する個性ある都市の結びつきによるネットワークを形成するとともに、さまざまな分野における高度な都市機能の充実を図る必要がある。
 このような都市のネットワークを形成するためには、東北における中枢拠点都市圏である仙台及び新潟においては、東北全体のニーズ、連携の可能性等を踏まえながら、中枢管理、研究開発、情報、国際交流等の高次都市機能の充実を図る必要がある。これら両都市の国際交流機能については、広域国際交流圏の拠点としての機能を果たすことが求められる。
 また、地方中核都市としての機能を有する青森、八戸、盛岡、秋田、山形、いわき、郡山、福島においては、業務管理、情報、研究開発、高次教育・文化、医療・福祉等の高次都市機能の充実を図る必要がある。これらの都市の国際交流機能については、中枢拠点都市圏との適切な機能分担を図り、広域国際交流圏の中でその機能を果たすことが求められる。
 さらに、地域の中心となる弘前、石巻、鶴岡、酒田、会津若松、長岡、上越等の地方中心都市や小都市においては、多自然居住地域の拠点として、都市的サービスを提供するとともに、それぞれの特性を踏まえた個性あるまちづくりを通じて都市の魅力と活力を創出することにより、地域の自立の基礎を形成することが求められる。特に小都市においては、自然、文化、産業などそれぞれの特性を活かした独自のまちづくりが求められる。
 これらの都市の整備のため、市街地再開発、仙台長町等における区画整理、山形駅周辺等の都市拠点の整備等を進めることにより、業務管理、情報、教育・文化等の都市機能を高度化し、都市の個性や拠点性を一層高めるとともに、電線類の地中化等により美しい街並みを形成する。
 また、これらハード面の整備とあわせて、都市は人々の交流を通して文化を創造する場であることを踏まえ、それぞれの都市の持つ独自の文化や伝統、自然と調和した都市景観などそのまちに住む人々が育んできたまちへの愛着を大事にした都市づくりを進める。
 さらに、北上中部、雄物川流域、置賜等の地方拠点都市地域については、地域社会の中心となる地域として整備を進める。
 あわせて、盛岡南、山形等において新都市の開発整備を進める。阿武隈地域においては、高速交通体系の整備に伴う開発可能性の高まりを踏まえ、自然と調和した開発構想を進める。
 中心市街地については、地域の創意工夫を活かしながら、市街地の整備改善と商業等の立地促進・育成、公共交通機関の利便性の増進等により、活性化対策を進めるとともに、周辺地域からの円滑なアクセスの確保等により広域連携を進め、周辺市町村に対して、医療・福祉、教育・文化、消費・娯楽等の都市的サービスや身近な就業機会を提供する機能を強化する。
 都市交通問題については、仙台東部及び仙台北部道路等の高規格幹線道路、仙台南部及び郡山西環状道路等の地域高規格道路並びに各地でのバイパス及び都市計画道路等の整備や、パークアンドライド等のTDM(交通需要マネジメント)施策等を進め、混雑の緩和を図る。また、利用しやすいバスシステムの構築など公共交通機関の利便性の向上を図るとともに、その利用を推進する。特に、仙台市においては、東西線など軌道系交通機関の整備についての検討もあわせて進め、総合交通体系の充実を図る。あわせて、低燃費車・低公害車の普及等を図るとともに、共同集配システムの構築等物流の効率化を図る。
 また、東北の諸都市でみられる低密度な市街地の拡大に伴うスプロールについては、環境への影響等に鑑み抑制を図り、都市らしさを失わないコンパクトな街づくりをめざす。

7 雪と共存する地域づくり

 東北はその面積の約85%が豪雪地帯対策特別措置法に基づく豪雪地帯の指定を受けており、そのうち約44%が特別豪雪地帯である。特に日本海側地域は全国有数の豪雪地帯であり、恒常的に大量の降積雪がある。雪は美しい景観を生み出し、美しい四季を彩るが、地域住民の生活、産業の面では障害も生じている。
 こうした豪雪地帯においては、雪に強い地域づくりのための克雪対策を充実するとともに、雪を活用した産業振興等により地域活性化を図り、また、雪国の特性を活かした交流と連携を促進することが重要である。
 このため、冬期の安全で快適な移動性の確保に向け、適時適切な除排雪、防雪施設や消融雪施設の整備及びその維持管理対策を進める。
 また、雪国の豊かな自然環境や美しい景観の保全を行うとともに、スノーツーリズムや雪と親しみ、雪を楽しむ親雪活動を進め、雪とともに生きる新たな雪国文化の醸成を図る。
 さらに、高齢者等に配慮した克雪住宅の普及、除排雪機能の高い河川や下水道の整備、雪崩等への災害対策、雪国の特性に対応した農林水産業の育成、雪の冷熱エネルギーの利用など克雪・利雪技術の研究開発等を進める。

8 半島・離島地域の利便性向上

 半島地域及び離島地域は、国土や自然環境の保全を進める上で重要な地域であるとともに、その地域資源等を活かし、多彩なライフスタイルの展開を図ることが可能な地域でもある。このため、それぞれの地域特性に対応した地域整備を進める。

(1) 半島地域
 津軽、下北及び男鹿の半島地域は、地域独自の文化を有するものの、三方を海に囲まれ、幹線交通体系から離れていることなどから、産業立地の遅れ、過疎化・高齢化等の課題が残されている。そこで、これらの地域においては、今後とも、周辺地域と連携を図りながら、各種社会基盤の整備等を進め、地域の活性化を図る必要がある。
 このため、下北半島縦貫道路、半島循環道路等の交通基盤の整備を進めるとともに、国土保全施設の整備及び生活環境の整備を進める。
 産業については、地域資源を活かした新たな産業振興を進めるとともに、美しい自然環境、伝統文化、海洋資源等の特性を保全、活用することにより、観光ルートの形成、海洋研究の推進等を図る。また、半島文化を活かした個性ある地域づくりを支援し、新たな半島文化の創造を図る。
 
(2) 離島地域
 宮城県の大島(気仙沼市)、牡鹿諸島、浦戸諸島、山形県の飛島、新潟県の粟島、佐渡島の離島地域は、排他的経済水域を含む国土の保全・管理上の重要な拠点であり、特色ある地域資源を有するものの、海に囲まれ、面積が比較的狭い地域が多く、また、本土から離れているという地理的特殊性から、経済的、社会的諸条件で本土との格差を有している。
 このため、交流圏の拡大に向け、離島と本土を結ぶ交通基盤等の整備や航路等の維持を図る。また、地域の基幹産業である水産業の振興等により、特色ある離島産品の生産を推進する。さらに、恵まれた自然環境を活用した保養・療養活動(アイランドテラピー)をはじめとする魅力ある離島観光の振興を図る。
 生活基盤については、渇水対策の推進、医療・福祉体制等の整備を進める。また、国土保全施設の整備や総合的な防災対策を進める。このほか、自然環境や集落景観の保全、伝統文化の継承と発展を図る。

第2節 自然の恵みを守り、味わうために

1 自然と共存する地域整備

(1)水系、森林、海浜等豊かな環境の管理
 東北には、十和田八幡平、磐梯朝日、陸中海岸、日光、上信越高原国立公園等美しい景観に恵まれた豊かな自然環境、世界遺産に指定された白神山地やラムサール条約登録湿地である宮城県の伊豆沼・内沼、新潟県の佐潟など生態系にとって重要な自然があり、これらは東北を代表する世界的にみても貴重な地域資源である。
 これらの自然環境については、それぞれの地域の自然特性に応じて、生態系を含めた総合的な管理を進めることにより、東北全体を自然共存型地域として次世代へ継承していく必要がある。
 このため、白神山地、尾瀬、伊豆沼・内沼、佐潟をはじめとする貴重な自然環境について適切な管理を進める。また、東北の中央を走る奥羽山脈での自然生態系の保全をはじめ、東北全体で恵まれた生態系のネットワークが形成されるよう自然環境の保全を進めていく。

(2)環境と調和した地域整備
 豊かな自然に恵まれた東北での地域整備にあたっては、環境への影響を重視していく必要がある。また、将来世代に対する現在世代の責務として、地球温暖化問題等に対応して、自然界の物質循環への負荷を少なくすることが不可欠である。
 このため、自然環境条件に十分配慮した地域計画に基づいた地域整備、公共交通機関の利用促進・物流の効率化による環境への負荷の少ない交通体系の形成を進めるなど環境への影響を抑制するとともに、積極的に良好な環境の創出を図る。
 また、温室効果ガスの排出の少ない社会・生産構造の形成を進め、住民の一人ひとりが身近なところから生活様式を見直すための意識啓発と取組への参加を促すとともに、二酸化炭素の吸収と貯留の観点から、森林や都市等の緑の保全と整備、木材の利用を進める。
 さらに、物質循環の視点から自然の浄化能力等の活用を進めるとともに、松島湾の浄化をはじめ、大気、水域等の良好な自然環境の回復を図る。
 あわせて、良好な環境の形成のため、都市公園の整備等を進めるとともに、河川や港湾・海岸等における良好な水辺空間や多様な生物が生息可能なビオトープの整備を図る。また、グラウンドワーク型地域づくり活動など地域の住民が主体となった環境づくりのための取組を進める。
 国土開発に係る事業の実施に際して、自然環境の保全等を図るため、環境影響評価の実施等を通じて、保全すべき場所の改変を避け、あるいはこれを最小にするなどの対策を優先しつつ、適切な対策を講じる。

(3)公害・環境ホルモン等への対応
 人間の活動に伴う環境悪化が進んだ地域では、環境の回復に向けた取組を強力に進める必要がある。
 このため、窒素酸化物等による大気汚染、水質汚濁、交通騒音等公害の解決に向けて、総合的に対策を進める。
 また、広域に影響を及ぼす酸性雨についても、東アジア諸国と連携した酸性雨モニタリングネットワーク等の取組を進める。
 さらに、ダイオキシン類や内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)など、人の健康や生態系に有害な影響をもたらすおそれのある化学物質の環境リスクを低減させるための取組を進める。

2 中山間地域等の活性化と周辺地域との連携

 東北の中山間地域等は、森林等の豊かな自然や棚田等の美しい景観を有しているが、地域社会の担い手である若者の流出等にともなって過疎化がさらに進行し、地域社会の諸機能の維持が困難になったところが多くなっている。このため、国土管理上重要な農地や森林等の管理が行き届かず、環境保全や防災、食料生産力の確保等国民生活の安全・安心を確保する上でさまざまな問題が生じている。
 将来にわたり、森林、農用地等の適正な管理を進め、地域社会を活性化させるため、豊かな自然環境が市町村の枠を越えた地域全体の共有財産であるという認識を醸成しつつ、中小都市と周辺の中山間地域等を含む農山漁村等の豊かな自然環境に恵まれた地域において多自然居住地域を創造する。
 また、最上地域におけるエコポリスをめざした環境と調和した地域づくりや奥会津地域における豊かな自然や四季折々の行事等を活用した歳時記の郷をめざす地域づくり、山形県の白鷹丘陵、月山山麓等における中山間地域等でのモデル的農業・農村整備、岩手県の平庭高原におけるシラカバ林を活用した地域づくりなど多自然居住に対する独自の取組をさらに進めていく。さらに、地域資源を活用し、文化交流等によるソフト面からの地域活性化を図る。

3 災害に強い地域づくり

 住民の安全・安心は地域づくりの基本であり、防災対策を進めることは重要である。その際、災害の発生を未然に防止するという視点だけでなく、災害が発生しても生じる被害を最小化するという視点に立った「減災対策」を重視する。
 このため、治山・治水施設、海岸保全施設等の国土保全施設の整備を推進するとともに、構造物の耐震性能等の確保を進め、地震災害、風水害、津波、火山、林野火災等の災害に強い地域づくりを進める。
 洪水・土砂災害に対する安全性確保のためには、適正な土砂管理に配慮した最上川水系、信濃川水系等における砂防施設の整備、土石流・がけ崩れ・地すべり等に対する施設の整備、市街地に隣接する山麓斜面の樹林帯の保全、整備等を進める。
 河川整備等については、長期的な河川整備の目標の下、当面21世紀初頭において、信濃川、北上川、雄物川、最上川、阿武隈川等の大河川において30年から40年に一度、中小河川及び土砂災害対策については5年から10年に一度の降雨規模を対象とした整備を行う。
 また、地理的に被害を受けやすい三陸沿岸等への津波災害対策として、釜石港等において湾口防波堤の整備等を進める。さらに、東北における火山活動について、岩手山におけるように、活動状況に応じて適切な対策を講じる。
 地域防災については、防災拠点や防災公園の整備等により対応力を強化するとともに、防災意識を啓発する教育を進めるなど住民やコミュニティレベルでの災害への対応力を強化する。その際、災害弱者について配慮する。また、地方公共団体間や民間団体等との災害時の相互協力の推進及び災害時医療体制の整備等の防災対策を進める。

4 流域圏に着目した国土の保全と管理

 東北の土地利用の大部分を占め、公益的機能の発揮が期待される森林、農用地の適正な管理や、水質保全、治山・治水対策など流域圏の総合的管理は国土の保全と管理において重要な課題である。

(1)河川の上下流連携と管理
 東北においては、歴史的にも河川を通じた上下流連携が活発に図られてきたが、国土の持続的な利用と健全な水循環系の回復を進めるためには、流域圏の歴史的な風土性を認識し、河川、森林、農用地等の国土管理上の各々の役割に留意しつつ、総合的に施策を展開する必要がある。
 このため、上流の水源地域とその恵みを享受する下流地域が一体となって、流域の水源かん養機能の保全と回復をめざし森林整備を進めるとともに、両地域の連携により水源地域の国土管理の充実を図る。北上川、最上川、阿武隈川等の流域においては、健全な水循環の保全と回復を図り、東日本における水回廊の形成を進めるとともに、多様な流域内交流・連携を推進する取組等を支援する。
 また、きれいな水、おいしい水への住民の高いニーズを踏まえ、汚水処理施設の整備、農業用用排水施設、河川、ダム貯水池等における水質浄化等を推進し、河川、湖沼等の水質保全を図るとともに、海域の汚染を防ぐ。
 さらに、利水に対する安全度を高めるため、水資源の有効利用を図るとともに、岩手県の胆沢ダム、山形県の長井ダム、福島県の摺上川ダム等の多目的ダム等による水資源開発を進める。
 あわせて、北上川等におけるまちづくりと調和し流域の視点にたった河川、下水道、ダム、放水路等の整備を進める。

(2)森林の管理
 東北の7割弱を占める森林については、国土の保全や水資源のかん養等の公益的機能の確保、大気、水、土壌、樹木を中心とする植物、動物等からなる森林生態系の保全並びに再生産可能な資源としての持続的な利用を図ることが必要である。また、上流の森林の保全は川や海の生態系にも影響を及ぼすため、その保全を進める必要がある。さらに、近年、人と森林とのふれあいの促進が求められている。
 このため、荒廃地等への植栽、間伐や保育、複層状態の森林の整備及び保全施設の整備等による水土保全機能の高い森林整備を進める。また、原生的自然林等からなる多様な生態系の保全を図るとともに、ブナ林等の広葉樹の保全・育成、自然共存型地域づくりのための身近な自然である都市近郊林及び里山林の保全など、美しく健全で親しみのある森林整備を進める。

(3)農用地等の管理
 農用地は、東北の約14%に広がり、我が国の食料供給基地である東北の食料生産の基盤として豊かな国民生活を支えている。また、農用地は、水田の雨水貯留・土砂流出防止、平地水田の遊水機能や潤いある水辺環境の創出等にみられるように、公益的な効果の発揮にも寄与しうるものであり、その適切な維持管理は重要な課題である。米どころ東北では、水田風景は一種の原風景ともいえるが、近年、担い手の減少等により耕作放棄地が増加するなど農用地等の適正な管理が困難となってきている状況もある。
 こうした状況を踏まえ、農用地等の基盤整備や農道の整備等基礎的条件の整備を進めるとともに、担い手の育成を進めることにより、農業の健全な発展と優良農地の維持及び確保を図る。

5 循環型社会の構築をめざした廃棄物・リサイクル問題への対応

 東北の豊かな自然や暮らしを守っていく上で、廃棄物問題への対応は重要である。廃棄物の量の増大や質の多様化、処分場の逼迫等の問題に対応するため、廃棄物等の発生抑制、再使用、原材料としての利用、エネルギーとしての利用を進めるとともに、発生した廃棄物等についてその適正な処理を行っていく必要がある。
 このため、循環型社会の構築をめざした環境教育、意識啓発を図るとともに、住民及び企業の協力を得て、産業及び家庭からの廃棄物発生をできる限り抑制する。また、廃棄物や建設副産物の種類に応じた資源の回収・利用体制の充実、整備等を図るとともに、リサイクル関連施設、処理施設等の整備による廃棄物等の適正処理体制の整備を進める。さらに、ダイオキシン類の発生抑制等のため、ごみ処理の広域化を推進する。あわせて、秋田等において地域に集積している鉱業関連技術等を活用したリサイクル事業を進めるとともに、長井市における地域循環システムへの取組など地域でのリサイクル事業を進める。

6 自然と人とのふれあい

 東北の自然を守り育てていくためには、自然に恵まれた地域に住む住民の努力のみならず、すべての住民の理解と協力が必要である。また、今後のライフスタイルにおいては、より自然とのふれあいが重視されると考えられる。
 東北全体として自然共存型の地域を形成するため、人と自然との関わり、生態系の仕組み、森林の機能等について、身近な自然とのふれあい、農山村におけるグリーン・ツーリズム、雪とのふれあい、海、川とのふれあい、優れた自然の風景地における自然体験等の参加型・体験型の交流や市民農園の整備、環境についての教育を進めることにより、住民全体の理解を深めることができる体制を整備する。
 また、保健休養、自然観察、野外生活体験、農林漁業体験等のための施設や広域的な歩道網、マリーナ等の整備を進めるとともに、自然環境保全活動への参加の促進に向けた人材の育成や情報提供等を図る。
 さらに、人と自然が身近にふれあうことができるよう、十和田湖・奥入瀬渓流や裏磐梯等の国立公園をはじめとする自然公園等の整備を進めるとともに、国営みちのく杜の湖畔公園、国営越後丘陵公園等の整備や、みやぎ未来の森、最上川源流の森・遊学の森等の森林の整備を進める。

第3節 世界と人々やもの、情報、文化が交流する開かれた東北のために

1 東北のラダー型地域構造形成のための基盤整備

(1)東北の基盤整備の現状
 東北においては、東北縦貫自動車道、関越自動車道、北陸自動車道等の高規格幹線道路、東北、上越新幹線など首都圏と東北の主要都市を南北方向に結ぶ高速交通基盤が昭和50年代から昭和60年代前半にかけて整備されてきた。
 さらに近年、従来高速交通基盤の整備が十分ではなかった東北の東西方向についても、東北横断自動車道釜石秋田線の北上・秋田間、東北横断自動車道いわき新潟線が平成9年に開通し、山形新幹線が平成4年に、秋田新幹線が平成9年に開業するなど整備が進みつつある。
 このような東北を東西方向に結ぶ交通基盤整備の近年の進展は、首都圏を経由しないで東北の太平洋側から日本海沿岸地域を経由して西日本方面へ旅客や物資を輸送することを可能とし、産業活動や観光面で、太平洋側と日本海側の地域資源を同時に活用することを可能とするなど東北における交流・連携に大きなインパクトを与えている。
 これらの近年の高速交通体系の整備により、東北全体としては、日本海沿岸、三陸沿岸など高速交通基盤の整備が十分とはいえない地域があるものの、ラダー(梯子)型地域構造の形成に向けた基礎が築かれつつある。

(2)東北のラダー型地域構造形成のための基盤整備
 今後の東北の発展のためには、長期的に北東国土軸と日本海国土軸の形成及び相互の連携を展望しつつ、域内各地を短時間で結ぶ南北及び東西方向の基盤整備を進めることにより、ラダー型地域構造形成のための基礎を築き、域内外の交流・連携を活発化していく必要がある。このように、地域連携の活発化を通じて開かれた地域を東北において形成することは、国土構造形成の流れをこれまでの一極一軸集中から多軸型へと転換させることにも寄与する。
 このため、東北を南北に結ぶ幹線である東北縦貫(八戸線)、日本海沿岸東北、常磐、三陸縦貫、八戸・久慈、東北中央及び関越自動車道(上越線)の整備を進めるとともに、東西方向の連携強化のため、東北横断(釜石秋田線、酒田線)及び津軽自動車道の整備を進める。あわせて、東北横断自動車道(いわき新潟線)の4車線化を進める。
 また、これらの高規格幹線道路を補完する東西方向の宮古盛岡横断、盛岡秋田、本荘大曲、新庄酒田、新潟山形南部連絡、上越魚沼地域振興快速及び新潟東西道路、南北方向の三陸北縦貫、会津縦貫北・南及び松本糸魚川連絡道路など地域高規格道路の整備を進める。さらに、ラダー型地域構造の基礎を支える国道の整備を進めるとともに、ITS(高度道路交通システム)の推進を図る。あわせて、高規格幹線道路等の整備を踏まえ、高速バスの運行の充実を図る。
 新幹線鉄道については、平成10年1月の政府・与党検討委員会の検討結果等に基づき、東北新幹線盛岡・八戸間及び八戸・新青森間並びに北陸新幹線糸魚川・魚津間及び長野・上越間について着実に整備を進めるとともに、北海道新幹線及び北陸新幹線の上記以外の区間について所要の事業を進める。新幹線直通運転については、山形新幹線山形・新庄間の延伸を進める。
 青函地域については、地域においてもさまざまな検討等がなされているが、交流圏構想等の動向を見つつ、カートレイン等青函トンネルの一層の活用方策、津軽海峡を横断する新たな交通体系について、長期的視点に立って検討する。
 また、地域に新しい可能性をもたらす高度な情報通信基盤の整備は、人々の自由な居住、就業の幅を広げるとともに、企業立地の自由度を拡大し、多彩なライフスタイルの展開を可能にするものとして、今後とも重要性が増大するものであり、環境に対する影響も比較的小さいなど優れた特性を持つ。
 このため、光ファイバ網の整備については、平成7年の高度情報通信社会推進に向けた基本方針で示された平成22年を念頭に置いた整備を、平成17年への前倒しに向けて、民間事業者の活力を活かし、できるだけ早期に実現するよう努力するなど高度情報通信基盤の整備を進める。地方公共団体及び国においてもネットワーク化のための環境整備等を進め、域内外の交流・連携の活発化を図る。
 また、情報通信の高速化のためのISDN(サービス総合デジタル網)サービスの普及を図るとともに、中継局等の整備により携帯・自動車電話等の移動通信サービスの利用条件の均等化を図る。さらに、市内通話料金でインターネットにアクセスできることをめざしたアクセス拠点の整備を進める。

2 世界に開かれた広域国際交流圏「東北」の形成

(1)広域国際交流圏形成へ向けての東北のポテンシャルと課題
 古くから東北は、北方地域との交易や日本海を通じた交流など、海外との交流の歴史を持つ。しかし、近年の東北における国際的な交流は首都圏を通じて行われることも多い。
 一方、社会経済活動のグローバル化の進展に対応して、地域における主体的な国際交流・連携の展開を図ることが求められており、東北においても、歴史的・地理的に関係の深い環日本海地域や、北米地域と大圏航路では近いという優位性のある環太平洋地域等を視野に入れた広域的な国際交流圏の形成を進める必要がある。国際交流圏の形成に当たっては、経済成長の著しい中国、豊富な自然資源を背景にして経済面での交流のポテンシャルの大きいロシアなど北東アジアや、経済統合が進展しつつある東南アジアなどとの国際交流・連携の展開が重要と考えられる。
 また、東北は、オランダ、オーストラリアなどと匹敵する域内総生産を有するとともに、豊かな自然環境と美しい四季の変化を有するなど「庭園の島」という「21世紀の国土のグランドデザイン」のコンセプトを体現する多様な自然的条件、縄文文化、奥州藤原氏をはじめとする独自の歴史、文化や人情を有するなど国際交流のための独自の地域資源を有している。
 世界や国内他地域と東北を直接結ぶ基盤としての空港については、仙台空港が平成10年に3000m化、新潟空港が平成8年に2500m化されるとともに、庄内、福島、大館能代の各空港が近年開港するなど整備が進められてきている。国際定期便については、仙台、新潟、青森空港と極東ロシアやアジア地域を中心とした都市との間に就航しており、その他の空港においても国際チャーター便が就航している。
 国内外の物流の拠点となる港湾については新潟、塩釜港(仙台港)をはじめとして整備が進められてきており、新潟、塩釜、八戸、秋田港等で外貿コンテナ航路も開設されている。
 このように国際交流に向けての条件は整いつつあるものの、人口当たり出国日本人数や人口当たり外国人人口は全国と比して少ないなど交流の実績という面ではなお遅れているという実状もある。

(2)広域国際交流圏「東北」形成への取組
 今後、東北の特色を活かしながら、国内のみならず世界と人々や情報、文化、芸術等が交流する広域国際交流圏「東北」を形成していくためには、ハード・ソフトの両面から基盤整備を進める必要がある。
 このため、東北における東北大学をはじめとする優れた学術研究機能の集積、基礎・応用技術開発の実績を活かして、東北独自の情報を発信するための知的センター機能を充実させ、国際交流・連携を進める。また、歴史資源の活用や貴重な自然資源の保全・整備等を通じた独自の地域づくりを進めるとともに、国際研修を積極的に受け入れるなど東北の特色や経験を活かした国際交流を進める。特に、日本海側においては、新潟における環日本海経済研究所等の集積や地域的・歴史的つながりを活かして、経済・文化等の面にわたって環日本海交流を進める。さらに、今後増大すると考えられる諸外国との交流に向けて、異質な文化に対する寛容な包容力を持つことも必要と考えられる。
 仙台、新潟を核とする中枢拠点都市圏及び各地の地方中核都市圏においては、中枢管理機能、研究開発機能、商業・サービス機能、物流機能、コンベンション機能、さらには高度な教育・文化・スポーツ機能等の集積を図るとともに、ランゲージバリアへの対応等を進め、世界に開かれた都市機能の整備を図る。
 国際交流へのゲートウェイ機能として、空路による国際交流の広域的な拠点となる仙台、新潟空港の整備を進めるとともにアクセスのための交通基盤等の整備を図る。また、花巻空港の2500m化を進めるとともに、青森、秋田、山形、福島空港の滑走路延長については、国と地方の役割分担についての検討等を踏まえた対応を行うなど東北における空港機能の充実を図る。
 また、長期的には、東北において、国際航空需要に対し利便性の高いサービスを提供するため、既存ストックを活用して、国内及びアジアとのネットワークと連携がとれ、グローバルなネットワークも視野に入れた地域のゲートとなる国際空港の配置を構想する。
 港湾については、東アジアに加えて、欧米等も視野に入れた国際交流の広域的な拠点となる塩釜、新潟港において、地域のゲートとしての長期的な機能強化を構想しつつ、国際海上コンテナターミナル等を整備するとともに、新潟港等において、港湾における交流拠点の形成を図る。また、地域から海外へ直接交流できる拠点等として八戸、秋田、酒田、石巻及び小名浜港等の整備を進めるとともに、海陸複合一貫輸送の拠点となる港湾を整備する。物流については、域内産品についても、域内ではなく首都圏の港湾を利用している比率が高いが、アクセスも含めた港湾の利便性を高め、ロスの少ない物流構造を形成する。
 また、空港、港湾、道路等の総合交通ネットワークの形成を国際交流インフラ推進事業等により進めるとともに、需要に応じた国際定期便の開設、空港運用時間の延長を進めるなど、新時代に対応した国内外を結ぶ多様な交通体系の充実を図る。さらに、貿易を促進し、地域経済の活性化を図るため、空港・港湾及びその周辺地域等に輸入に関連する施設・機能を集積させる輸入促進地域(FAZ)の整備を八戸港、塩釜港・仙台空港、新潟港において進める。
 あわせて、国際的な観光レクリエーション拠点を整備することなどにより国際交流機能の基盤を強化するとともに、2002年FIFAワールドカップ、ワールドゲームズ2001年秋田大会、アジア冬季競技大会、世界地熱会議等のさまざまな国際イベントや新潟アジア文化祭をはじめとする文化交流を通じ、世界に開かれた東北をアピールする。

3 広域連携による地域づくり

 東北では、近年の東西方向の高速交通体系の整備や、人々・ものの動きの広域化に対応して、交通手段が十分に整備されていなかったため困難であった東西方向の交流や、行政区域を越えた交流が活発化してきており、地域住民による広域的交流や地域づくりに対する意識も高まりつつある。また、東北というブロックを超えた交流の動きも進んでいる。これらの交流・連携の動きは、地域相互が個性豊かな異質なものに接触する機会の増加につながり、地域社会全体の活性化、新たなものの創造を促進すると考えられる。
 このため、秋田・盛岡等の中核都市、角館の歴史的街並み、横手のかまくら、平泉等の文化、北上等における工業集積等があり、秋田新幹線・東北横断自動車道釜石秋田線等で結ばれる秋田・岩手の地域連携軸、仙台・山形・酒田・鶴岡・石巻・新庄等の都市、松島・山寺・蔵王・月山等の観光資源があり、今後開通が見込まれる東北横断自動車道酒田線等で結ばれる宮城・山形の地域連携軸、新潟・郡山・いわき等の都市及び産業集積があり、常磐、東北縦貫及び北陸自動車道が東北横断自動車道いわき新潟線で結ばれたことにより新たな物流や人の移動のルートとなる福島・新潟の地域連携軸等の形成を図る。
 また、青森、秋田、岩手の北東北3県における雄大な自然に恵まれた十和田、八幡平を囲む環境共生型の地域形成に向けた連携や比較的近距離に大きな都市集積を有する仙台・福島・山形を結ぶ地域連携を進める。
 さらに、現在高速交通体系の整備が十分ではない日本海沿岸地域及び三陸沿岸地域については、環境と調和した研究開発・物流拠点や海洋性レクリエーション拠点の形成等を図るとともに、高規格幹線道路及び地域高規格道路等の整備を進めることにより、沿岸域各都市及び内陸部との交流・連携を促進する。
 ブロックを越えた交流として、青函地域は、南北に縦走する日本列島と太平洋・日本海をつなぐ津軽海峡が交差する十字路に位置し、インターブロック交流圏として今後の発展が期待される地域であることから、高度な情報通信基盤の整備、情報共有の促進等を通じたより一層の交流・連携を進める。東北と首都圏の接点である福島、茨城、栃木の県際地域においても、交通基盤の整備等を図りつつ、その交流・連携を進める。また、歴史的につながりの深い新潟と群馬、長野、富山との交流を進める。
 こうした隣接する二ないし三県間の交流・連携に加えて、近年、高速交通体系の進展により、人々の生活範囲や経済活動はますます広域化しており、東北全体というブロック単位での対応の重要性も増大している。このようなブロック全体での広域連携には、事業実施の効率化や施設の相互利用等による相乗効果も期待できる。 このため、東北ブロック全体において、県立大学等間の相互交流連携や美術館ネットワーク等の文化交流、環境問題、国際交流等さまざまな分野における広域連携事業を進める。
 これらさまざまなレベルでの広域的な地域連携を進めることにより、北東北や南東北における地域連携軸及び広域的な交流圏の形成をめざすとともに、地域相互の交流を深め、東北におけるラダー型地域構造の形成及び東北全体としての調和のとれた発展を図る。

4 首都圏との連携と交流

 東北は、隣接する人口が集積した首都圏と比べ、広大な土地、豊かな自然が卓越しているなど、人々がゆとりを持った多彩なライフスタイルを展開できる可能性を有しており、また、首都圏から来訪する人々も多い。また、近年の高速交通体系の整備により、東北の人々が首都圏の高次都市機能にアクセスすることも容易になってきている。企業活動においても利便性が高まっており、首都圏からの企業立地も盛んである。
 一方、首都圏、特に東京圏においては、全国的、国際的なレベルの政治、経済、文化等さまざまな機能が集積しているものの、こうした東京圏への高次都市機能の一極集中は、大規模地震等非常時に東京圏の中枢機能が麻痺した場合、全国的、国際的に大きな混乱を引き起こすおそれが懸念されている。
 このため、東北では今後とも首都圏をはじめとする他地域の人々が繰り返し訪れ、居住するような魅力ある地域づくりを進めるとともに、国土の均衡ある発展、緊急時の危機管理等の観点から、東北各地域の特性に即した形で、首都圏に集中するさまざまな高次都市機能の受入れを進める。
 首都機能移転については、北東地域(宮城県南部から福島県を経て、栃木県中北部・茨城県中北部に至る東北新幹線等の交通軸の周辺に幅広く拡がる地域を中心とする地域)は、豊かな自然条件を活かした整備が可能であること、東京との連携が容易であることなどから、平成10年1月に調査対象地域に選定されている。
 首都機能移転は、国民の意識や価値観に密接に関わるとともに、21世紀における我が国のあり方に大きな影響を与えるものであり、今後とも、首都機能移転の具体化に向けて積極的な検討を進めるとともに、国民の合意形成に向けて一層の取組が必要である。

第4節 魅力ある職場を確保し、活力ある産業を育てるために

1 独創的な研究開発機能の充実と成長分野の産業育成

 東北では、古くは本多光太郎のKS鋼、八木秀次の八木アンテナ等で知られるように、独創的な研究開発が進められてきた。近年では、半導体や光ファイバなど光通信技術等の分野での新技術の開発及び集積が進んでいる。
 東北が今後とも経済の活力を持続し、21世紀に向けて、地球社会を先導する産業・技術を育む地域の形成を図るためには、知識、技術、情報等の創出をさらに進めるとともに、今後の成長分野となる産業を育成していく必要がある。
 このため、東北インテリジェント・コスモス構想をはじめとする産学官の連携・協力のもとに、技術・人材・情報等のネットワークを構築し、東北全体において独創的な研究開発等を展開する活動の一層の推進を図るとともに、高等教育機関や試験研究機関等の知的資本の充実及びネットワーク化を図り、国際的水準の研究開発拠点の整備を進める。また、岩手県立大学、東北大学、仙台市情報・産業プラザ、会津大学及び新潟大学に接続される超高速光ファイバ回線による研究開発用ギガビットネットワークを活用した高度アプリケーションの開発等を進める。
 地域の産業界が一体となったベンチャー企業育成に向けた運動については、その推進及び公的主体によるベンチャー企業への支援、大学、試験研究機関等の有する技術シーズの流通促進、技術シーズと市場ニーズとを結びつけるインキュベート機能の強化等により、これらの研究成果や技術開発の産業化を促進する。特に、東北大学未来科学技術共同研究センターをはじめとする各大学の地域共同研究センターによる産学連携や大学の研究成果の技術移転等を進めることにより、新産業や新商品の創出を進める。
 さらに、今後の成長産業と考えられるバイオ、情報通信、環境等の分野について、東北での独創性のある研究開発や技術の蓄積を活用しながら、その育成を進める。

2 多彩なライフスタイルを支える産業の展開

 東北は、豊かな自然風土、美しい景観に恵まれた地域が広がっており、多彩なライフスタイルの展開が期待される地域である。この東北に、創造力を持つ人材やさまざまな価値観を持つ人々が集まり、そのライフスタイルを自在に展開するためには、豊かな自然環境を保持するとともに、中枢拠点都市圏や県庁所在都市をはじめとする中核都市の個性や拠点性の向上、地域間相互の交流・連携を進め、高い水準のサービスや商品を提供できる魅力的な地域づくりを行う必要がある。
 このため、多彩なライフスタイルの展開を支える商業、サービス業や今後の高齢化社会等に対応した医療・福祉・健康、余暇等の生活に関連した産業を充実させるとともに、多彩な人材が集うような良好な居住環境の形成を進める。
 また、今後の成長が期待される情報、企画・設計等の知識財を生産する産業は、居住地立地である面があるため、豊かな自然環境を活かしながら、情報通信の利用環境を整備することなどにより、その分散を図る。
 さらに、東北の温泉、スキー、祭りなどのさまざまな観光資源を活用した東北ならではの人情味あふれる観光振興を進めるとともに、周遊ルートの設定など国内外に向けた広域観光連携の展開を図る。あわせて、東北の恵まれた環境を活かした田園の生活を味わうことができるグリーンツーリズムや豊かな自然を味わうことができるリゾート整備を岩木山周辺、三陸海岸、栗駒・船形、田沢湖周辺、蔵王・月山、会津、魚沼丘陵といった総合保養地域等において、地域の特性を活かすとともに、自然環境との調和を重視しながら進める。

3 高度化、高付加価値化による産業構造の強化と多彩な地域産業の充実

 東北においては、高速交通基盤整備の進展を背景に、高速道路のインターチェンジの周辺地域を中心に、シリコンロードとも呼ばれる電子機器をはじめとする電気機械等の先端的な加工・組立型の工場の立地・集積がみられ、近年の東北の工場立地件数は全国の約2割前後のシェアを常に維持している。このような工場立地の増加に伴い、工業出荷額の全国シェアも増加してきており、平成7年には7%を越え、首都圏、近畿圏、中部圏の三大圏に次ぐものとなっている。また、食料品等の地域資源を活かした製造業の生産高も高い。しかし、一方では、東北の製造業の労働生産性(従業者一人当たりの製造品出荷額)は、パルプ・紙・紙加工品以外の業種では、全国に比べてまだ低い水準にとどまっている。
 このため、地域間競争が一層激化すると考えられる21世紀に向け、東北の産業活動のより一層の高度化、高付加価値化を進めていく。
 また、企業にとって魅力ある立地環境を整備するため、従来東北では集積が遅れている情報サービス、デザイン業をはじめとする産業の高度化に必要な産業支援のためのサービス業等の集積と充実を図る。あわせて、情報提供等を通じて、進出企業と地場企業の連携を進める。
 さらに、東北の地域特性を活かした環境、バイオテクノロジー、海洋資源等の分野において地域産業の充実を図り、21世紀に必要とされる自然との共存、環境との調和に配慮した技術開発や産業展開を進める。岩手県における日本一の炭の里づくりなど特色ある地場産品開発についてもその動きを進めていく。
 産業基盤については、東北での高規格幹線道路、空港、港湾、鉄道等の交通ネットワークの一体的かつ効率的な整備や第二仙台北部等の中核工業団地、花巻及び郡山流通業務団地等の物流拠点の整備を図る。また、いわきにおける海洋とエネルギーを中心とした振興拠点の整備や八戸、北上川流域、中越における基盤的技術産業の集積を進める。さらに、テクノポリス地域、頭脳立地地域、地方拠点都市地域等において、これまでの産業集積等を活かしつつ、産業のより一層の高度化や集積へ向けてその機能を強化するとともに、新事業創出支援体制の強化を図る。
 むつ小川原地域については、我が国にとって重要な施設である国家石油備蓄基地や核燃料サイクル施設の立地・建設に加えて研究施設の立地が進んでいるが、近年の経済社会情勢の変化及び「「苫小牧東部開発」及び「むつ小川原開発」の両プロジェクトの取扱いについて」(平成10年12月25日閣議了解)を踏まえて、これまでの基盤整備を生かし、諸施設の集積可能性を含め、開発方策等の検討を行いつつ、それに基づき推進する。
 これまで東北の産業の中核を担ってきた高度かつ独自の技術を有する中堅・中小企業等及び高度な技能を有する労働者の集積は、今後とも東北の「ものづくり」機能を支えるものであり、その維持・発展を図る。
 あわせて、新たな産業分野の育成のみならず、既存分野の活性化等を通じて、地域での豊かな生活や多彩なライフスタイルの展開の基礎となる職場の確保及び雇用の安定に努める。
 また、地域内の異業種交流や産学官交流等を活性化させることにより、企業・大学等・研究開発機関間に情報ネットワークを形成する。そして、こうしたネットワークを利用した広域連携を進めることにより、商品開発等に関する幅広い情報に接する機会を提供し、既存産業の高度化、高付加価値化と新しい産業の創出を進める。
 さらに、東北での豊かな自然を守り、良好な環境を今後とも維持していくため、企業自らが公害の防止、自然環境の保全についてその責任を果たすとともに、生産、流通、使用、廃棄等の全面にわたって環境にやさしい製品の開発に努めるなど環境管理への取組を進める。

4 豊かな農林水産業の展開

(1)農業
 東北は、全国の農業粗生産額の約2割を占め、米については全国の3割以上を占める我が国における代表的な米作地帯である。りんごをはじめとする果実、畜産においても、全国の2割近くの粗生産額を占めており、我が国の食料供給の上で大きな役割を果たしてきている。また、農地は、周辺の森林等と調和した美しい東北の田園景観やふるさとのイメージの形成等に大きく寄与している。
 一方、東北の農業は、全国的な傾向でもある高コストによる価格競争力の低下、耕作放棄地の増加、担い手や後継者の不足などきわめて厳しい環境におかれている。特に、農業の担い手の不足は深刻な問題であり、農業者の高齢化とともに、耕作放棄地の増加をはじめ、地域社会にも大きな影響を及ぼしつつある。農地がいったんかい廃や転用されると、その回復には非常な困難を伴うことを考えると、世界的にも発展途上国における人口増加等を背景に将来の食料の安定供給に関する懸念があることから、こうした問題への適切な対応が必要とされる。
 このように東北で大きな役割を果たしている農業については、優良農地、農業用水の確保や地力の維持及び増進に努めるとともに、技術・経営能力に優れた担い手の育成及び確保、農業技術の開発及び普及等を図る必要がある。また、農業生産に当たっては、環境への負荷に配慮し、自然循環機能を重視する必要がある。
 このため、農地については、かんがい排水施設をはじめ土地改良施設の高質化を図り、宮城県の鳴瀬川、岩手県の馬淵川沿岸等においてかんがい排水事業をはじめとする農業基盤の整備を進める。
 また、生産・加工・流通基盤の整備及び経営規模の拡大を進め、バイオテクノロジー等を活用した新品種の育成や栽培技術の確立等を通じて高度化・複合化を進める。さらに、地域のニーズに応じた研究開発のため農業試験場等と生産現場の連携を強化し、多様な地域資源を活かした複合経営を地域の状況に応じて進める。アジアなどとの国際協力については、東北に蓄積された農業技術やノウハウを活用して進める方策について検討する。
 あわせて、情報通信基盤を活用し、農産物の出荷状況や市況等の迅速な把握を進めるとともに、消費者と生産者を直接結ぶ生産流通体制の構築を進め、消費者の関心が高まっている食料の安全性や消費者の嗜好の変化への対応が進んだ東北農業を確立する。
 担い手不足が顕在化しつつある農業の活性化のためには、農業に関心の高い若者や経営者意識を有する者のUターン、Iターン等による外部からの参入を促進することにより、新たな発想や活動を地域に導入することが重要である。特に、農外からの新規参入者については、初期のハンディキャップの克服が課題となるため、生産・経営技術の習得、農地・施設や住宅の斡旋等の施策の充実を進める。

(2)林業
 東北は、全国の林産物素材生産量の2割を超える有数の林業地帯であり、青森ヒバ、秋田杉、金山杉などの良質材を有する。また、森林は国土保全や美しい景観形成にも大きく寄与している。しかし、一方では、木材価格の低迷、労働力の不足や高齢化等により林業経営は厳しい状況にある。
 この豊富な東北の森林資源を活用するため、間伐等の推進による森林の育成を図りつつ、人工林の管理や林道整備、経営体の体質強化、機械化、担い手の育成等を図るほか、木材製品の高付加価値化や地元材のブランド化及びその流通体制の整備を進める。
 また、国土保全、森林生態系の保全等の観点からも森林の管理は重要であるため、木材生産とともに公益的機能の維持・増進を図る。また、里山林の保全・整備等により、人々が森とふれあうことができる環境を整備する。
 さらに、木材製品等の生産、加工、販売から、森林空間や景観そのものをも活用し、健康や心身のリフレッシュに着目した森林レクリエーションなど森林の多面的利用による「もり業」の展開を図る。

(3)水産業
 東北には、親潮と黒潮がぶつかる世界有数の好漁場である三陸沖や養殖業等に適した陸奥湾、仙台湾など優良な漁場があり、漁業生産量は全国の約17%を占めている。特に養殖業においては全国シェアは2割を超え、特にわかめ、かき、ほたて等は高いシェアを占めている。水産加工品の全国シェアも2割を超えている。
 このため、東北の水産業については、そのすぐれた水産資源の管理を進め、沿岸漁場を整備するとともに、栽培漁業、養殖業等のつくり育てる漁業を進める。また、岩手県におけるリモートセンシング技術による水産情報システムの整備等の水産業に関する技術開発を進める。減少している水産業の担い手については、その確保を進めるとともに、海に関する知識を活用した遊漁、料理の提供、水産物の加工販売等の地域資源を活かした「うみ業」への取組を進める。さらに、八戸地域等において、漁港・漁村間での連携と機能分担による効率的な生産基盤の整備や漁村の活性化を図るとともに、消費者の安全で新鮮な水産物への要求に応えた加工・流通基盤や販売体制の整備を進める。

(4)地域間交流等における農林水産業の役割
 自然を活用した産業である農林水産業には、人と自然の接点という側面があり、東北で農林水産業を通した自然とのふれあいを図ることは大きな意味を持つ。
 このため、食料・木材生産という基本的な農林水産業の機能の強化に加えて、森林、農用地や海洋・沿岸域の適切な保全に向けての地域活動を支援し、森林から海にいたる流域圏が一体となった生態系の保全を進める。
 また、全国的にみても豊かで恵まれた農林水産物、自然環境等の地域資源を活用した複合的経営やグリーン・ツーリズム等の推進を図り、都市住民等との交流、多彩なライフスタイルの展開の場としての地域整備、観光、レクリエーションの機会の提供という観点を踏まえた体験型、参加型の農林水産業の展開を進める。

5 東北の活力を支える人材の育成

 21世紀の日本の国土を先導するフロンティアとしての活力ある東北を支えるためには、一人ひとりの多彩なライフスタイルの展開を可能とするとともに、産業界からの多様な需要、研究開発の高度化、国際化、地域づくり等に対応できる創造的な人材の育成を図る必要がある。
 このため、大学をはじめ、高等教育機関や試験研究機関等の整備を進めることにより、将来を担う若者をはじめとする人材を育成するとともに、産学官の交流・連携を図り、産業の高度化等への対応を進める。あわせて、大学等における地域貢献、国際交流等の機能を強化していく。
 また、東北での高等教育ニーズを踏まえて、平成9年に宮城大学が、平成10年に岩手県立大学が開学し、平成11年には秋田県立大学と青森県立保健大学が開学予定であるなど東北各地でコンピュータ、デザイン、看護、社会福祉など新たな社会的ニーズを踏まえた県立大学等が相次いで設立されているが、さらに、庄内地域に社会公共政策等の分野において特色のある大学の設置に向けて検討を進めるなど大学や大学院の充実を図り、新たな時代に対応する人材の育成を進める。
 さらに、こうした県立大学等が教育研究、地域貢献、国際交流等の分野での相互交流連携を進めることにより、その機能や資源の補完、活用を図る。こうした知的ネットワークの整備等を通じて、東北で多くの人々が必要な情報や学習機会等に容易にアクセスできる環境を整備し、生涯学習をはじめ学ぶ側のニーズに対応できる教育環境・体制の充実を図るとともに、東北の情報発信機能を高める。

6 エネルギーの安定供給

 東北の発電電力量は全国の約4分の1を占めており、東北は首都圏の日々の生活や産業活動を支えるエネルギー供給基地としても大きな役割を担っている。今後とも、エネルギーについては、地元住民、地方公共団体等の理解、協力を得ながら、安定供給を確保するとともに、地球温暖化等の観点から、二酸化炭素の排出の抑制を含め、環境保全対策を進める必要がある。
 このため、省エネルギーへの取組を進めるとともに、安全性の確保を最重点としつつ、住民の理解と協力を求めながら、原子力発電等により、安定的な電力供給の確保を図る。また、発電所等の立地地域については、電源三法等の諸制度を活用して総合的な基盤の整備を図るとともに、地域経済の自立的発展に向けた地域の主体的な取組を支援する。さらに、地熱、太陽光発電、風力発電等の自然エネルギーの開発利用を進める。

7 地域金融の充実

 近年の経済・金融環境の悪化は東北の地域経済にも大きな影響を及ぼしているが、地域経済の活性化のためには地域金融の充実が重要である。
 このため、ベンチャー企業をはじめとする新規産業創造、地域産業の育成、民間活力を活用した社会資本整備、地域づくり支援等にも資する地域金融の充実を図る。また、北海道東北開発公庫が廃止されることに伴い、日本開発銀行を廃止の上設立される新銀行の業務において、従来、同公庫の対象であった分野への金融が十全に確保されるための措置を講じる。


第4章 計画実施にあたっての留意点

1 住民参加による計画推進

 本計画の実施に当たっては、NPO、民間企業等を含め住民の理解、参加、協力が不可欠であり、住民が自らの選択と責任に基づいて行動するためには情報の公開がその基礎となる。
 このため、国、地方公共団体は住民が本計画の推進に積極的に参加できるよう、国土づくり、地域づくりに関する情報を広く開示、提供し、説明するなど住民が容易に利用できる体制を整備する。そして、こうしたことなどを通じて、住民の主体性を重視し、住民と協調しながら計画を推進する。
 また、本計画に基づき実施される事業については、地域づくりへの住民の参加意識に応えた住民参加と合意形成のシステムを整えることなどにより、住民の意向を反映させる。

2 重点的かつ効率的で、公平に配慮した地域整備

 今後の東北の地域整備においては、東北の国土の状況、公共施設の整備状況等を勘案の上、地域間の公平に配慮しつつ、長期的な投資余力の減少という財政的な制約を踏まえ、計画目標の達成に必要な重点的かつ効率的な地域整備を進める必要がある。
 このため、計画目標の達成に必要な基盤について重点的に投資を行うとともに、地域連携、建設コストの縮減、ストックの有効利用等により効率的な投資を行う。また、民間の資金、経営能力及び技術的能力の活用が図られるよう必要な体制を整備する。

3 他計画等との調整

 本計画は、新しい全国総合開発計画である「21世紀の国土のグランドデザイン」と調整の上、作成されたものであるが、さらに、本計画を効果的に実施するため、国土利用に関する諸計画、各県の総合計画をはじめとする各種長期計画と緊密な連携調整を図るとともに、環境保全に関する各種計画との連携を図る。

4 計画の評価及び弾力的な運用

 本計画の実施に当たっては、国土審議会東北地方開発特別委員会は計画実施状況の評価を適時実施する。
 また、本計画は平成22〜27年を目標年次としており、その間にさまざまな前提条件等の変化が生じると想定される。このため、今後の東北の発展状況、諸情勢の変化、行財政改革の進展等に応じて、必要に応じて計画の見直し等を行う。


問い合わせ先
 国土交通省 国土計画局 地方計画課
 TEL. 03-5253-8364 FAX. 03-5253-1572


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