平 成 1 1 年 3 月
                           国土庁大都市圏整備局

     第5次首都圏基本計画の要旨


 本計画は、過密等に起因する大都市問題の発生や東京中心部への一極依存構造の形
成等の課題に広域的に対処し、首都圏に居住し又は首都圏を活躍の場とする多様な主
体が生活や活動の質を高めることのできる社会を実現するため、広域的な視野の下に、
地域の将来展望を示し、長期的、総合的な視点から地域整備を推進することを目的と
して策定するものである。
なお、本計画の期間は、平成11年度(1999年度)から平成27年度(2015年度)まで
の、17箇年とする。

1.首都圏の果たすべき役割と課題

 @首都圏の果たすべき役割
   我が国をめぐる大きな変化と、新しい全総に示された我が国が目指す将来像の
  下で、首都圏は、以下のような大きな役割を果たす必要がある。
   ・国際的競争力を維持し、我が国の活力創出に資する地域の形成
   ・国内外にわたる、多様な活動の連携を支援する地域の形成
   ・自然の循環を重視した、環境共生型の地域構造や生活様式の創出
   ・4千万人の暮らしを支える、安全で快適な生活の場の形成

 A首都圏整備の現状と課題
   新しい首都圏基本計画において特に考慮すべき首都圏の課題は、次のとおりで
  ある。
    ・依然として大きな問題である過密と東京中心部への一極依存構造への対応
   ・東京都市圏における、自立性の高い地域の形成に向けた拠点整備への一層の
    取組
   ・北関東・山梨・関東東部地域における地域整備の新たな展開
   ・都市空間の再編整備への本格的な取組

2.首都圏の目標とする社会や生活の姿

  次のような目標とすべき社会や生活の姿を掲げ、首都圏の整備を推進する。

 @我が国の活力創出に資する自由な活動の場の整備
   世界規模での競争の激化等の中で、首都圏が引き続き我が国の発展に寄与する
  ため、個人や企業による経済・社会・文化活動が展開しやすい場を形成する。

 A個人主体の多様な活動の展開を可能とする社会の実現
   価値観、生活様式の多様化や情報収集・発信能力の高まりに伴う個人の社会的
  影響力の増大等を踏まえ、個人やNPO等の主体的・自発的活動を積極的に取り
  入れるとともに、特に女性や高齢者等の自由な社会的活動を妨げる諸要因の解消
  に努める。

 B環境と共生する首都圏の実現
   環境負荷の低減、自然循環の回復及び個人の健康と快適性の向上を重視した持
  続可能な社会を実現する地域整備を進めるとともに、それにふさわしい生活様式
  の創造を図る。

 C安全、快適で質の高い生活環境を備えた地域の形成
   震災等の大規模災害に対する防災性の向上により安全、安心を確保するととも
  に、通勤混雑等の大都市問題の解決により、地域特性を踏まえた暮らしやすい居
  住環境の整備を推進する。

 D将来の世代に引き継ぐ共有の資産としての首都圏の創造
   世代を越えて効用が十分に発揮される社会資本の整備を、官民一体となって重
  点的かつ効率的に行う。また、分散型ネットワーク構造を支える広域的基盤施設
  の整備を重点的に推進する。さらに、東京湾の適正な利用と保全を図る。

3.目指すべき地域構造

  大都市問題を解決し、上記のような目指すべき将来像を実現するため、次のよう
 な地域構造の形成を目指す。

 @地域構造の基本的方向
   現在の東京中心部への一極依存構造から、首都圏の各地域が、拠点的な都市を
  中心に自立性の高い地域を形成し、相互の機能分担と連携・交流を行う、「分散
  型ネットワーク構造」を目指す。
   このため、首都圏内外との広域的な連携の拠点となる業務核都市、関東北部・
  内陸西部地域の中核都市圏を「広域連携拠点」として、その育成・整備を進める
  とともに、拠点相互間や他の地域等との連携・交流を強化する。また、地域にお
  ける諸活動の中心となる都市を「地域の拠点」として機能の集積を高める。

 A地域整備の基本的考え方
   このような首都圏の目指すべき地域構造を踏まえて、首都圏を、「東京都市圏」、
  「関東北部地域」、「関東東部地域」、「内陸西部地域」及び「島しょ地域」
  の5つに分け、各地域の特性に応じて、地域の整備を推進する。

 ○東京都市圏
   東京都市圏においては、東京中心部への一極依存構造に伴う大都市問題解決の
  ため、「都市構造の再編整備」を進める。
   東京中心部においては、都心居住等都市空間の再編整備を推進する。
   近郊地域においては、広域連携拠点を中心に自立性の高い地域を形成するとと
  もに、拠点間の連携の強化を図り、環状拠点都市群を形成する。

 ○関東北部地域、関東東部地域、内陸西部地域
   平野部等においては、秩序ある土地利用を守りつつ、拠点性の高い都市を中心
  に自立性の高い地域を形成することにより「都市的な活力と田園的な魅力を兼
  ね備えた地域の整備」を推進する。また、環状方向に地域の連携を図り首都圏
  における大環状連携軸を形成する。
   周辺の自然豊かな地域においては、自然環境を保全するとともに、「豊かな自
  然との交流をいかした地域の整備」を進める。

 ○島しょ地域
   交通、情報通信体系の整備の推進や生活環境の改善により、地域の自立性の向
  上を図る。

 B地域整備の方策
   上記のような地域整備を推進するに当たっては、それぞれの地域の状況に応じ
  て既成市街地、近郊整備地帯、都市開発区域について講じられている施策を有効
  に活用するとともに、業務核都市制度等の積極的活用、交通、情報通信体系等広
  域的基盤施設の整備を推進する。

4.人口フレーム

 @人口
   首都圏の人口は、1995年の約4,040万人から、2011年に約4,190万人に達した
  のち減少に転じ、2015年には約4,180万人になると見込む。

 A就業者数
   高齢化の進行による労働力人口の減少に対して、働く能力と意思がありながら
  これまで就業機会に恵まれなかった女性や高齢者の労働力率が上昇することによ
  り、2015年においても1995年と同程度の約2,120万人が維持されると見込む。
  この場合、職住近接の実現や、就業形態の多様化が不可欠である。
   また、支援施策の充実等により、テレワークが普及するとした場合の試算では、
  テレワーク型就業者数(テレワークを週1回以上実施している就業者数)は1995
  年の約13万人から2015年には約340万人となる。

5.首都圏の将来像実現のための施策

  首都圏の将来像を実現するため、次のような施策を展開する。

 @我が国の活力創出に資する自由な活動の場の整備
  例)事業展開のための魅力ある環境づくり
    規制緩和の推進等による自由な事業環境の整備や高コスト構造の是正及び産
   業基盤の整備等により、利便性・効率性が高く国際的にも魅力のある事業環境
   の整備を推進するとともに、新規産業の創出・育成を図る。

 A個人主体の多様な活動の展開を可能とする社会の実現
  例)SOHO・テレワーク等の推進
    就業の選択肢を広げ、一極依存構造の改善にも資するSOHO(スモールオ
   フィス、ホームオフィス)・テレワーク等を推進する。

 B環境と共生する首都圏の実現
  例)水と緑の保全・創出
    広域レベルでの水と緑のネットワークの形成、里山林等の保全、水資源の有
   効利用、多自然型の水辺空間整備の推進等により、水と緑の保全・創出を図る。
  例)資源循環・リサイクルの推進
    大量の廃棄物を排出する首都圏において最終処分量の削減を図るため、リサ
   イクルの推進等による資源循環システムの構築を推進する。

 C安全、快適で質の高い生活環境を備えた地域の形成
  例)防災性の向上
    諸機能の分散、基盤施設のリダンダンシーの確保(非常時の代替・補完手段
   の確保)、老朽木造密集市街地の解消等によって、震災等の大規模災害に対す
   る防災性の向上を図る。
  例)都心居住の推進
    職住近接を実現し、都心部の経済・文化機能の集積をいかした自由な活動の
   場の創造を図るため、都心居住を一層積極的に推進する。
  例)美しい街並みの形成
    地区計画等を活用して、市民社会共有の資産としての美しい街並みの形成を
   図る。

 D将来の世代に引き継ぐ資産としての首都圏の創造
  例)交通、情報通信体系の整備
    分散型ネットワーク構造を支える広域的基盤施設として、環状方向の道路や
   公共交通機関の整備を重点的に進めるとともに、光ファイバ網等情報通信体系
   の整備を推進する。

6.地域別整備構想

  各地域の特性に応じて次のようにその整備を推進するとともに、各地域間の連携
 を強化し、首都圏全体の地域整備を進める。

 @東京都市圏
  東京都市圏は、既に連坦した市街地が形成され、社会経済的に一体的な都市圏と
 なっている概ね東京の通勤圏であり、様々な大都市問題が現れている地域である。
 この地域においては、東京中心部と近郊地域において適切な機能分担と連携の下、
 都市機能の再配置を進める。
  このうち、東京中心部においては、我が国の経済社会を先導していくことが期待
 される機能の充実を図るとともに、都心居住の推進や老朽木造密集市街地の解消、
 低・未利用地の有効活用等、都市空間の再編整備を推進する。
  近郊地域においては、広域連携拠点となる業務核都市を重点的に育成・整備する
 ことにより、業務・商業・文化・居住等の機能がバランスよく配置された自立性の
 高い地域の形成を図るとともに、各地域における生活や諸活動の中心となる地域の
 拠点の育成・整備を進める。さらに、拠点間の連携の強化を図り、環状方向に拠点
 的な都市が帯状に連坦する「環状拠点都市群」を育成・整備し、東京中心部との
 適切な機能分担を図る。

 ○「広域連携拠点」の中心となる都市
   業務核都市 横浜・川崎、厚木、町田・相模原、八王子・立川・多摩、青梅、
          川越、熊谷、浦和・大宮、春日部・越谷、柏、土浦・つくば・牛久、
          成田、千葉、木更津

 ○「地域の拠点」の中心となる都市
   地域の中心性を持っている都市
         横須賀、藤沢、平塚、小田原、所沢、川口、市川、船橋、松戸等

 A関東北部地域、関東東部地域、内陸西部地域
  関東北部、関東東部、内陸西部の諸地域は、商工業機能等の集積があり地域の中
 心として発展する都市が形成されてきた一方、比較的農業的、自然的土地利用が残
 されている地域である。
  この地域の平野部等においては、秩序ある土地利用を図りつつ、広域中心性を有
 する中核都市圏を広域連携拠点として育成・整備するとともに、これらの拠点の間
 に連坦する地域の拠点となる都市を育成・整備することにより、都市的な活力と
 田園的な魅力を兼ね備えた自立性の高い地域の形成を図る。さらに、今後は環
 状方向に地域の連携を進め「首都圏における大環状連携軸」の形成を推進する。
  また周辺の自然豊かな地域は、住民の居住・就業の場であるとともに、水資源を
 はじめとして多くの面で首都圏が依存する地域であり、自然環境を保全するととも
 に、自然をいかした交流の場の整備を進める。

 ○「広域連携拠点」の中心となる都市
   中核都市圏  水戸、宇都宮、前橋・高崎、甲府

 ○「地域の拠点」の中心となる都市
   関東北部を横断する軸状の都市群
           下館・結城、栃木・小山、足利・佐野、桐生・太田・館林、
           本庄
   放射状の交通体系に沿った地域の拠点
           高萩・北茨城、大田原等、沼田、秩父
   関東東部地域 茂原・東金、鹿嶋・神栖
   内陸西部地域 富士吉田

 B島しょ地域
  美しい海洋に代表される自然に恵まれた地域であり、交通、情報通信体系の整備
 や生活環境の改善により、地域の自立性を高める。

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