新・全国総合開発計画 「21世紀の国土のグランドデザイン」 −地域の自立の促進と美しい国土の創造− 平成10年3月31日 第1部 国土計画の基本的考え方 第1章 21世紀の国土のグランドデザイン 我々は、今、21世紀の幕開けのときを迎えようとしている。21世紀の文明の相貌はいまだ判然とはしないものの、人類社会が新世紀にふさわしい新しい文明を生み出し、明るい未来を切り拓くことが強く期待されている。 経済面での欧米諸国へのキャッチアップを終えた地球社会のフロントランナーの一員として、環境、資源の有限性が強く意識される21世紀において求めるものは、経済的な豊かさとともに精神的な豊かさを味わうことができる、ゆとりと美しさに満ちた暮らしを実現することである。このため、豊かな生活の源泉である経済社会の活力を維持しながら、その恵みによって人間を癒すものである自然を保全し回復するとともに、人間の行うあらゆる活動に豊かな充実感と生きる意味を与えるものである文化を創造し、人々に多様な暮らしの選択可能性を提供することのできる国土の構想が求められる。この計画においては、これを21世紀の国土のグランドデザインとして提示する。 第1節 国土をめぐる諸状況の大転換 経済の量的拡大を先導し生活水準の大幅な向上をもたらした20世紀の文明が地球環境の有限性に直面するとともに、高度情報化にともなって拓ける新地平を前にして、大きく変貌を遂げようとしている。21世紀への移行期に当たる今、キャッチアップのための開発が結果として東京一極集中をもたらしてきた20世紀という時代を超えて国民意識や時代の潮流に大きな転換が生じつつあり、21世紀の経済社会の在りようを展望すると、国土とそれを構成する地域とをめぐる諸状況は、戦後の50年間のそれとは大きく異なるものになると見通される。 1 国民意識の大転換 我が国は、20世紀型の経済発展を通じて経済の量的拡大を遂げてきた一方で、生活、環境、文化、産業の面で様々な問題を抱えている。そのような状況を背景として生じた、価値観、生活様式の多様化は、我が国の経済社会が個性の尊重、多様性の重視という観点に立って、効率性の向上と併せて人の活動と自然との調和を含めた質的向上を目指すべき段階に入ったことを示している。 欧米諸国への経済面でのキャッチアップが達成され、経済が成熟化するのと並行して、人々の価値観も物の豊かさより人と人とのふれあい等心の豊かさを重視する方向に変化してきている。また、自らの子供に依存しないで老後の生活を送ることができる経済的に自立した高齢者層が出現しており、しかも、医療水準の高まりもあって、これらの高齢者の健康水準は以前に比べてかなり良好となっている。このような元気で豊かな高齢者の社会参加が進展しつつあることは、経済社会の各方面において、質や熟度の高さを重視する潮流を生み出している。 キャッチアップを効率的に進める中で形成され、定着してきた画一的、横並び志向の制度や慣行にも、暮らしの選択可能性を狭めたり、新しい産業の展開を妨げるなど時代の変化に対応できなくなっている面がみられる。自己責任の下での消費者や事業者による選択の幅を広げる方向で規制緩和が推進され、地方公共団体の自主性及び自立性を高める方向で地方分権に向けた制度の見直しが進められている。ボランティアやNPOも活発さを増し、これを支援するための制度の検討が進められている。教育の分野では、創造力のある人材の育成を目指して、個性や得意分野を尊重するようになっている。雇用の面においても、労働の参入や転出をしやすくする方向での諸制度の見直しを始め大きな変化の兆しが現れている。 都市化が進み、日常の中で自然に親しむ機会が減少するにつれて、生活の利便性よりも自然とのふれあいを重視するという自然志向の高まりがみられ、自由時間を過ごしたり、子供を育てる場として、自然の豊かな地域を高く評価する人々が増えている。清浄な水、空気を求める人々の欲求が強まるなど生存基盤としての環境も強く意識されるようになっている。また、「克服すべき自然」という観念にとらわれない、人と自然との新たな関係が模索される中で、自然災害への対応についても、災害を未然に防止する方向だけで考えるのではなく、その発生を前提にいかに柔軟に対応するかという考え方が広まりつつある。 女性の社会進出が拡大を続ける中、性別にこだわらない多様な生活様式が求められるようになってきている。家事、子育てや家族の介護の負担が著しく女性に偏っていること、女性が継続して働くことができる条件が未整備であること等女性の社会参画を妨げている要因をできるだけ取り除こうとする機運が盛り上がりをみせている。少子化による人口減少局面が目前に迫ってきた結果、子育ての負担を社会全体で担おうとする動きがある。大幅増が見込まれる高齢者の介護をどう負担するかも国民の大きな関心事項になっている。 以上まとめると、@量よりも質、所得や収入を上げることよりもゆとり、新しさや刺激よりもくつろぎが尊ばれるようになっている、A自由な選択と自己責任が重視されるようになっている、B自然がかけがえのないものとして再認識され、自然の価値により重きが置かれるようになっている、C男女が性別による固定的役割分担にとらわれず、社会の対等な構成員として、あらゆる分野に参画し、ともに責任を担おうとする考え方が浸透しつつある、というように新しい価値観への転換が進みつつある。それに応じた新しい文化と生活様式の創造が求められている中、国民は、新しい暮らしの立て方を可能にする国土のあり方を模索し始めるとともに、国土づくりへの主体的な参画の機会を求めている。 2 地球時代 今や地球全体が様々な意味において一つの圏域と化しつつある。 温暖化等地球環境の悪化が一層進行するおそれがあるとともに、地球規模での食料、資源やエネルギーの供給制約が表面化する可能性が高まっている。地球環境の保全と循環型資源利用を推進するための国際的枠組みは強化されつつあり、その中で、国土の自然を将来世代や世界と共有する資産として引き継いでいくための取組が行われていこうとしている。 企業は、最適な活動の場を求めて国を選択するという傾向を強めており、個人のレベルでも、広く世界を舞台とする人々の活動が日常化しつつある。このことは、国境を越えた地域間の競争がさらに厳しいものになることを意味する。地域は生活環境の質、自然や文化の豊かさ、知的資本の充実度、生産基盤の効率性、交流基盤の質の高さ、特に、グローバルネットワークとの接続性等多面的な魅力を問われることとなる。こうした中で、高コスト構造を是正すること等を目指して進められている経済社会構造の抜本的な改革は、地域の発展にとって決定的に重要である。 中国、アセアン等の経済発展により、21世紀には我が国と他のアジア諸国との交流量が飛躍的に増大すると見込まれる。これにともない、現在は欧米等遠隔の諸国との大都市間交流が中心となっている我が国の国際交流が近接した地域間の直接的な交流を含む多様な展開を示すものへと変わろうとしている。 3 人口減少・高齢化時代 我が国の総人口は、少子化を主因にこのところ急速に伸びが鈍化してきており、21世紀初頭にピークを迎えた後しばらくして本格的な人口減少局面に入ることがほぼ確実であり、同時に高齢化が一層進行すると見込まれる。その結果、全国的に地域の担い手たる人々の減少と高齢者の増加という形で地域社会が大きく変容することとなろう。高齢化にともない21世紀初頭以降には経済成長率の低下、投資余力の減少が進行すると見込まれるが、これを目前にして、経済の効率化や技術革新の促進、国土基盤投資の重点化、効率化等が一層推進されている。 一方で、人口増加がみられなくなった局面では、増え続ける人口を支えるという当面の必要に迫られた都市的土地利用への転換圧力が全国総体としては、低下し、長期的な視野の下に国土づくりを進めることができる可能性がある。高齢化には、社会参加の意欲も高く、自由度の高い生活を享受できる人々が増加するという積極的な側面もあることを忘れてはならない。 4 高度情報化時代 21世紀初頭において、国内に限らず地球的な規模で時間と距離の制約が克服され、対面に近い双方向の交流環境が実現すると見込まれ、経済社会の様々な側面において情報通信の果たす役割が飛躍的に高まろうとしている。 距離や移動にともなう障害が克服されると、住む場所や働いたり学んだりする場所の選択の幅が拡がるとともに、知見、情報へのアクセスの地域間格差は解消に向かい、情報格差は居住地よりも個人の資質や意欲によって決まることとなる。自然や文化の豊かさ等居住地としての魅力に関する情報の入手が容易になることは人々のモビリティをさらに高めることになろう。 テレワーク(情報通信を活用した遠隔勤務)による交通の代替、電子媒体による印刷物の代替等は、適切に行われる場合には資源やエネルギーの節約となり、環境負荷の低減をもたらすこととなる。 情報通信分野を中心にして新たな産業の出現が期待されるとともに、多くの分野において今後不可欠となるグローバルな情報資源へのアクセスが全国どこでも可能になり、経営の意思決定等本社機能を含めた企業立地の自由度が大幅に拡大することとなろう。 このように、我が国においてもより自由で開かれた社会が形成されるとともに、集積の低さや大都市からの距離といった克服困難な不利な条件を抱えていた地域社会に今までにない発展の機会がもたらされようとしている。特に、全世界が一体となった情報空間を生かす創意工夫がそうした地域の発展をリードする重要な要素の一つとなろう。 第2節 国土構造転換の必要性 現在の国土構造は、東京を頂点とする太平洋ベルト地帯に人口や諸機能が集中しているが、これは経済面を中心とする欧米への最短コースでのキャッチアップという20世紀の歴史的発展段階を色濃く反映したものである。経済の量的拡大を優先してきたことの成果が今日の経済水準の高さであるが、もう一方の帰結が東京という一極、太平洋ベルト地帯という一軸に集中した国土構造である。以下にみるような、活気に乏しい地方での生活、ゆとりのない大都市での生活、劣化した自然、美しさの失われた景観、局所の災害から全国が重大な影響を受けるという脆弱性等の諸問題は、まさしく国土構造上の問題である。 (一極一軸集中に至った過程) 今日の国土構造が形づくられていく過程は、戦前期の中央集権的な政府主導の下、軍需色の強い重化学工業化が図られる中で、資源輸入に有利な臨海型の工業配置が太平洋岸に形成されたことに始まる。戦争による打撃と復興を経て、この重化学工業化の基礎のある地域には、欧米へのキャッチアップを目指した官民の集中的な投資が行われて産業が集積し、就業機会を求めて人口が移動した。その結果、軸状に都市の連たん化が進み、太平洋ベルト地帯が形成されていった。この地域が我が国の高度経済成長を牽引したが、過密問題も抱えることとなった。他方で、太平洋ベルト地帯から離れた地域は、生産活動や自然や国土の保全等の面で役割を果してきた側面はあるものの、人口が流出し、都市の利便性を享受しにくい地域を中心に過疎問題が深刻化した。このようにして、一軸集中というべき国土構造が形成されるとともに、地域間格差が拡大していった。 高度成長期末期には、以前からの政策誘導に加え、太平洋ベルト地帯内での過密問題や公害が深刻化したことから重厚長大型産業を中心に地方に分散する傾向を示したものの、この傾向は2次にわたる石油危機によってとん挫した。安定成長期に入ると、素材型産業の構造的不振、加工組立産業の隆盛等を背景に太平洋ベルト地帯内の発展に不均等化が生じた。その後は、経済のサービス化、ソフト化から企業の中枢管理機能や金融の東京集中がさらに進み、東京一極集中へとつながった。 近年、最大の課題となっていた東京一極集中の状況に変化の兆しがみられ、地方圏では高速道路を中心とする高速交通ネットワークの整備を背景に中枢・中核都市は拠点性を高め、その効果が周辺地域にも広く及びつつある。しかしながら、東京圏への集中度は依然として高い。 (国土が抱える諸問題) 太平洋ベルト地帯から離れた地域においては、工業立地はあるものの高次の管理機能や研究開発機能を持たない生産機能中心であり、しかも、経済のグローバル化により地域が厳しい国際競争にさらされる中で、生産機能の海外移転に直面している。国際交流はもちろんのこと国内の交流でも大都市圏の国際交流機能、高次都市機能に依存することが多く、マスメディア等を通じた東京発の文化や情報に依存するなど、地域固有の文化や交流の歴史、豊かな自然は十分に活かされているとはいえない。また、県内またはブロック内での一極集中が懸念される地域もみられる。中枢・中核都市の利便性を享受しにくい地域を中心に、人口減少や高齢化が顕著に進行しており、特に、国土の多くを占め、国民全体の生活に多様な役割を果たしてきた中山間地域等においては、地域社会の担い手である若者の流出等にともなって過疎化がさらに進行し、地域社会の諸機能の維持が困難になったところが多くなっている。このため、国土管理上重要な農地や森林等の管理が行き届かず、環境保全や防災、食料生産力の確保等国民生活の安全・安心を確保する上で様々な問題が生じている。 太平洋ベルト地帯内部においては、大都市を中心に、人口、諸機能の過度の集中により、居住環境の悪化、交通渋滞、大気や水質の汚染等環境への負荷の高まり、水需給の逼迫等様々な過密問題が発生している。都市の連たん化にともない農地や森林が大幅に減少したことや、河川や沿岸では、水質の悪化、親水性への配慮を欠いた堤防や護岸により水面から隔てられたこと等により、人々が身近な自然に親しむ機会が大幅に減少してしまったところが多い。近代的ではあるが無機質で画一的な地域形成が進んだ結果、各地の文化と生活様式の多様性が失われた。過密問題が解決をみない一方で、東京を始めとする大都市の都心部では人口空洞化から地域社会の崩壊が進んでおり、工業の集積地では産業構造や物流形態の変化から臨海部の工場跡地、鉄道跡地等の低未利用地が発生している。 東京圏では、首都機能があることに加え、東京に集中している企業の中枢管理機能や国際交流機能等の諸機能が経済社会に果たす役割が拡大し、他地域の東京依存を強めている。このため、大規模地震等において東京圏の機能が麻痺した場合、全国的にも大きな混乱を引き起こすおそれがある。また、太平洋ベルト地帯に集中する交通需要に対応するための主要幹線経路が一部では非常に狭い範囲内に集中して配置されていることから、大規模地震、洪水等による災害によって、これら幹線が被害を受けると全国の機能に影響を及ぼしてしまう懸念がある。 こうした国土の状況が続くのでは、これからの経済社会の発展に明るい展望が開けないことは明らかである。 (21世紀への展望を開く国土構造の転換) 我が国においては、それぞれの時代状況を反映した国土構造が形成され、変遷を重ねてきた。経済社会の発展にともない、国土構造を規定する要因も地形、気候等の自然条件に始まり、政治体制、産業や交通のあり方、文化の担い手や海外との交流のあり方等へと複雑多様化してきた。その長い歴史を視野に入れるならば、東京を頂点とする太平洋ベルト地帯に集中した国土構造の形成が進んだのは高々この 100年間のことであり、現在の国土構造を固定的なものととらえるべきではない。しかも、この変化を主導してきた人口急増と工業化の進展を背景とする都市の成長は、目前に迫った人口減少局面、産業構造の変化を背景に局面を替えてきており、国土構造形成の流れを転換することが十分に可能な状況が醸成されつつある。 国民意識及び時代の潮流の大きな転換を踏まえ、21世紀の文明にふさわしい国土づくりを進めていくためには、国土構造形成の流れを太平洋ベルト地帯への一軸集中から東京一極集中へとつながってきたこれまでの方向から明確に転換する必要がある。 第3節 多軸型国土構造の形成 (21世紀の国土づくりの考え方) 国土構造形成の流れを望ましい方向に導くため、まず、東京を頂点に「中枢」とそれへの「依存」という関係を作り出してきた都市間の階層構造を「自立」と「相互補完」に基づくより水平的なネットワーク構造へと転換する。すなわち、「集中」と「巨大化」により集積効果を上げるのではなく、広い圏域において、それぞれに個性的な地域間の「連携」と「交流」により集積に替わる効果を発揮させる。 つぎに、生産、流通、消費を支える機能を効率的なものにしていくことが豊かな生活の基礎であるが、それにとどまることなく、自然環境を保全、回復する機能、新しい文化と生活様式を創造する機能を兼ね備えた多様性のある地域づくりを志向する。 さらに、日本の一地方としての役割分担の視点から各地域の発展方向を導き出すというだけでなく、アジア・太平洋地域を構成する諸地域の一つ、地球社会の一員としての地域という視点から各地域の国際交流機能、高次都市機能を構築する。 こうした観点に立つと、20世紀型の都市、産業文明の波に洗われることの少なかった太平洋ベルト地帯から離れた地域は、今なお豊かな自然の中に点在する肥大化を免れた都市、薄れたとはいえ伝統文化の色濃く残る暮らし、地理的特性に基づく国際交流の歴史等という長所を有しており、これらの地域を21世紀の文明の創造を目指すフロンティアとして位置付ける。同時に、太平洋ベルト地帯とその周辺地域においてはこれまで形成された集積を活かして質的向上を図るため、再生を進めることとする。 (国土軸形成の方向) 以上のように国土づくりの考え方を転換すると、これからの国土構造を規定していく要素として、20世紀の国土構造の形成を主導してきた人口と工業の集積の比重が下がり、文化と生活様式創造の基礎的条件である気候や風土等、そして、生態系のネットワーク、海域や水系を通じた自然環境の一体性、さらには、交流の歴史的蓄積と文化遺産、アジア・太平洋地域に占める地理的特性等が重要性を増していくこととなる。21世紀を通じて、この国土づくりの方向を維持するならば、これらの要素における共通性に根ざしたそれぞれに特色のある地域の連なりが、国土を構成する大括りな圏域としての輪郭を次第に明瞭にしていくとともに、相互補完によりそれぞれの特色を生かした連携を通じて国土空間を多様性のあるものにしていくこととなろう。 現在、このような国土づくりの方向に沿った形で国土の縦断方向に長く連なる軸状の圏域を形成することを目指した地域づくりの運動が「国土軸構想」の名の下に各地で展開されていることを踏まえ、それらの圏域を国土軸と呼び、複数の国土軸が相互に連携することにより形成される多軸型の国土構造を目指す。 各地域から提唱されている「ほくとう新国土軸」「日本海国土軸」「太平洋新国土軸」といった構想を踏まえて、現時点における展望を示すならば、@中央高地から関東北部を経て、東北の太平洋側、北海道に至る地域及びその周辺地域、A九州北部から本州の日本海側、北海道の日本海側に至る地域及びその周辺地域、そして、B沖縄から九州中南部、四国、紀伊半島を経て伊勢湾沿岸に至る地域及びその周辺地域に新しい国土軸が形成されていくものと見込まれる。並行して、C太平洋ベルト地帯とその周辺地域も国土軸への再生が進んでいこう。これらの国土軸は、国と地域の取組により形成が進むに従い、その範囲や性格が明確になっていくものであると考えられるが、以下、本計画においては、順に「北東国土軸」「日本海国土軸」「太平洋新国土軸」「西日本国土軸」と呼ぶ。 太平洋ベルト地帯から離れた地域に形成される新しい国土軸において展開される生活と就業の場、交流及びそこでの人と自然とのかかわりの姿としては、我が国の近代国家的地域像となった太平洋ベルト地帯のそれとは質的に異なるものを目指す。このため、新しい国土軸においては、小規模でまとまりのよい都市が効率的で環境負荷の少ない交通、情報通信基盤で結び付けられた都市のネットワークと美しい田園、森林、河川、沿岸等を通ずる自然のネットワークが重層的に共存する状況を創出する。そして、それぞれに魅力を持つ都市と農山漁村との連携の下で、ゆとりと利便性を併せ享受することができ、しかも、歴史と風土の特性に根ざした新しい文化と生活様式が育まれ、それらに基づいた特色ある知的な付加価値の高い産業を有する地域を創造していく。なお、従来にも増して人、物、情報の活発な交流が行われることになるが、地域の特性に対応した柔軟性の高い交通、情報通信を可能にする新しいシステムの開発が求められる。 これと並行して、太平洋ベルト地帯においては、人口増加圧力の緩和がもたらす機会を生かして過密にともなう大都市の諸問題の解決を図るとともに、熟度の高い都市的な文化と生活様式の創造、美しい都市景観の形成、産業構造の転換を進め、さらに、残された自然の保全と周辺地域の劣化した自然の回復を図ることを通じて、より魅力的な空間として再生する。 高度情報通信社会の到来にともない、日本のどの地域においても、時間と距離の制約を超えた地球規模の交流が可能となるという状況の下で、これらの国土軸を構成する地域は、それぞれに世界に開かれ、広く世界と交流するとともに、そのアジア・太平洋地域に占める地理的特性に応じて近隣諸国との密度の高い交流が活発に展開されることとなる。 太平洋ベルト地帯は明治以降 100年を超す時間の経過の中で形成されてきたものである。同じように長期的な視野に立って新しい国土軸の形成に取り組み、一極一軸型の国土構造を多軸型のものに転換することによって、多様な地域特性を十全に展開させた国土の均衡ある発展を実現し、人々に多様な暮らしの選択可能性を提供することが21世紀における国土政策の基本方向である。複数の新しい国土軸の形成、太平洋ベルト地帯とその周辺地域の再生が進み、それぞれの国土軸がその特徴を生かしながら相互に補完、連携することにより、日本列島は、人々の価値観に応じて、性、年齢を問わずところを得た就業と生活を可能にする多様性に富んだ美しい国土空間としてとらえられることとなる。このようにして、歴史と風土の特性に根ざした新しい文化と生活様式を持つ人々が住む美しい国土、庭園の島とも言うべき、世界に誇り得る日本列島を現出させ、地球時代に生きる我が国のアイデンティティを確立する。 第4節 4つの国土軸の展望 各地域の潜在的な可能性を踏まえ、国土軸としての発展方向及び近隣諸国との交流をはじめとする国際交流の姿を展望すれば、それぞれ、次のようなものとなろう。 「北東国土軸」には、自然と共存できる適正な規模を有する21世紀型の都市集積と中小都市とを含む都市のネットワークと豊かな森林に覆われた山脈、広大な流域を持つ河川とそれらに沿った盆地が形作る自然のネットワークが重層的に形成されていく。また、アジア・太平洋地域や北方圏との交流を深めていくが、なかでも、広大な北海道には北方圏に重点をおいた国際交流拠点が形成されていくこととなる。 「日本海国土軸」には、歴史と伝統に富んだ都市のネットワークと降雪量が多い山地や河川、沿岸に連なる中小平野等からなる自然のネットワークが重層的に形成されていく。また、日本海を取り巻く朝鮮半島、中国北東部、ロシア沿海州との間で、日本海の環境保全のための国際協力を進めるとともに、経済面、文化面での交流を深めることを通じて環日本海交流を推進する地域となっていく。 「太平洋新国土軸」には、海洋性を生かした開発と環境保全を両立させた先進的な都市のネットワークと黒潮洗う半島、島しょから内海にかけて温暖な気候によって育まれた自然のネットワークが重層的に形成されていく。また、急速に発展するアジア・太平洋地域との交流を深めていくが、なかでも、その地理的、歴史的特性から沖縄に重要な国際交流拠点が形成されていくこととなる。 「西日本国土軸」には、都市的色彩を強く保った集積地帯と内湾、内海とそこに注ぎ込む河川、人工林や農地等の二次的自然を適切に管理した周辺地域が連携した、より魅力的な居住地域が形成されていく。また、アジア・太平洋地域に数ヵ所形成されていくとみられる世界的メガロポリスとの間で競争しつつ、役割分担していくこととなる。 第2章 計画の課題と戦略 この計画は、目標年次2010-2015年までの計画期間中に、国土構造転換への道を切り拓き、長期構想「21世紀の国土のグランドデザイン」実現の基礎を築くことを目標に、時代に適合した課題を設定し、戦略的に施策を展開する。 国民意識の転換が進み、少子化、高齢化にともなう人的、財政的制約が増すこの計画期間中の国土づくりには、各地域の個性的で主体的な地域づくりへの取組とともに、国、地方公共団体に加え、民間企業、ボランティア団体、地域住民等多様な主体の責任ある積極的な参加と、各主体の資質を生かした相互の連携がこれまで以上に求められる。この計画は、地域の選択と責任に基づく主体的な地域づくりを重視して、多様な主体の参加と相互の連携によって国土づくりを進める新たな指針を示すものである。 第1節 基本的課題 国土構造転換への道を切り拓き、「21世紀の国土のグランドデザイン」実現の基礎を築くため、以下の基本的課題を掲げ総合的に取り組む。 (自立の促進と誇りの持てる地域の創造) 第1に、地域が自ら将来の展望を切り拓くことが可能となるよう、地域の自立を促進し、自然や文化を重視した誇りの持てる地域を創造する。 多軸型の国土構造を形成し、人々の価値観に応じた暮らしの選択可能性を高め、多様性に富んだ美しい国土を実現していくためには、各地域において、質の高い生活と就業を可能とし、歴史や風土、文化的蓄積等の地域の特性を生かした自立的な地域づくりを進めていくことが重要である。この地域づくりは、各地域の選択と責任による主体的な取組を基本として行われるべきである。 地域の自立を促すため、地方分権の推進等の制度的な条件を整えるとともに、生活に必要なサービスを提供する生活基盤と地域の自助努力による発展を可能とする国土基盤を一定の条件内で整備するなど機会の均等化を進める必要がある。このような条件整備の下で、各地域は創意と工夫によって、地域の特性を生かしつつ、魅力ある地域づくりを進めていくことが期待される。 (国土の安全と暮らしの安心の確保) 第2に、大規模な地震を始めとする様々な自然災害等に対し国土の安全性を向上するとともに、長期的に見込まれる人口減少・高齢化、世界的な気候変動や地球資源の減少に対し、暮らしの安心を確保する。 阪神・淡路大震災を契機に、改めて災害に対する安全の大切さが認識され、国土の安全性の確保や危機管理体制の充実が一層強く求められている。我が国の国土が自然災害を発生しやすい特性を有していること等を踏まえ、自然との共存や国土構造上の災害対応力の向上という視点も含め、災害に対し粘り強く、かつ、しなやかに対応していくことが重要である。阪神・淡路地域の復興については、これを着実に進めるとともに、今後の高齢化時代における安全な国土づくり、地域づくりのモデルとして生かしていく必要がある。 また、少子化、高齢化とともに、国民の価値観、生活様式の多様化が進む中で、性別、年齢にかかわらず社会に参加し、生きがいを持って安心して暮らすことのできる豊かな地域社会を実現することが求められる。さらに、世界的な気候変動や食料・エネルギー需給の逼迫が懸念される中で、日々の生活に欠くことのできない水、食料、エネルギー等の安定的確保に取り組む必要がある。 (恵み豊かな自然の享受と継承) 第3に、人類の生存基盤である環境と資源の有限性を認識し、精神的、物質的な恵みをもたらす豊かな自然を持続可能な形で享受しつつ、将来に継承する。 国土の自然環境は、国民がゆとりと美しさに満ちた暮らしを営む上で不可欠な精神的、物質的恵みをもたらす存在であるとともに、人類共通の生存基盤である地球環境と一体をなすものであり、自然と人間との豊かなふれあいを保ちつつ、これを美しく健全な状態で将来世代に引き継いでいくことが求められる。 このため、自然環境の量的減少と質的劣化の進行に対し、今後、生物の多様性の確保という視点も含め、望ましい国土構造を支える自然のネットワークを重視して、美しい田園、森林、河川、沿岸等において自然環境の保全と回復を図るとともに、人の活動と自然とのかかわりを再編成していくことが重要である。地球環境を損なうおそれのある大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会活動や生活様式を見直し、自然の再生能力や浄化能力を活用しつつ、資源・エネルギーの循環的、効率的利用を進め、自然界の物質循環への負荷の少ない諸活動の営みを可能とする循環型の国土を形成していく必要がある。 (活力ある経済社会の構築) 第4に、国内外の地域間競争が厳しさを増す中で、豊かな生活と雇用の安定を確保できるよう、経済構造改革を進め、活力ある経済社会を構築する。 経済のグローバル化の進展及びアジア地域の経済的な急成長にともない、国境を越えた地域間競争が一層激化し、企業が国や地域を選ぶ時代を迎えている。また、今後、我が国の少子化、高齢化の進行にともない、経済活力の低下が懸念されている。こうした中で、望ましい国土構造実現の基礎を築くためには、地域の資源を生かしつつ付加価値の高い産業を育成し、また、新しい生活様式に対応する新たな産業を創出することにより、活力ある経済社会を構築していくことが求められる。 このため、規制緩和の推進等による自由な事業環境の整備を進めるとともに、高コスト構造の是正や、物流、情報通信、国際交流等の基盤とそのソフト面も含めた充実等を図ることによって、国際的にも魅力ある立地環境を整備し、我が国に立地する企業の国際競争力を高めていくことが重要である。また、研究、技術開発や人材育成機能を充実するとともに、産学官の連携と協力等により新規産業の創出と既存産業の高度化を促すことが重要である。 (世界に開かれた国土の形成) 第5に、全国各地域がそれぞれの特性を生かして国際的役割を担い、世界と交流し、国土の隅々までが世界に開かれる状況を創出する。 国境を越えた経済、学術、文化、スポーツ、観光等多様な分野における地域間交流が活発化し、しかも、日本企業や日本人が海外に進出するのみならず、外国企業や外国人が日本を訪れ、活動する機会が一層増えると見込まれる。このような地球時代において、世界に誇り得る我が国のアイデンティティを確立できるよう、全国各地域が地球社会を構成する一員であるという認識に立ち、各地域の持つ資源、魅力を生かして国際的な役割を担うことができるよう条件を整え、アジア・太平洋地域を始めとする世界に開かれた国土構造実現の基礎を築いていく必要がある。 このため、国際交流を促す制度的取組や国土基盤の整備とともに、我が国において整備される世界的な水準の学術、医療等の基盤が、我が国の利用のみならず、アジア・太平洋地域を始めとする世界の人々の利用にも供せられるよう整えていく視点が重要となる。さらに、環境、防災等地球規模で対処すべき課題に対して、我が国の技術や経験を生かしながら、国及び地域が国際的活動に積極的に参画し、協力していくことが求められる。 第2節 課題達成のための戦略 基本的課題の達成のために効果的に取り組み、多軸型国土構造への転換の端緒を開くため、多様な主体の参加と地域間の連携を進めつつ、以下の戦略を展開していく。 地域に即した戦略として、過疎化、高齢化により地域社会が変貌しつつある一方で、豊かな自然や固有の文化が残されている中小都市や農山漁村等からなる地域において、誇りの持てる自立的な地域づくりを進める。また、我が国の今日の発展を導き、今後、自然の回復や居住の安全性の向上、さらには活力ある経済社会の構築に貢献する新たな役割が求められる大都市において、都市空間の修復、更新に取り組む。 一方、広域的に展開する戦略として、国内外の地域間競争が激しくなる中で、地域間の連携と交流によって地域の個性ある自立を広域にわたり促進するとともに、世界に開かれた国土の形成に向けて、国際面での地域の自立を進める広域的な交流圏の形成に取り組む。 これら地域間の連携と交流を促すため、各種機能へのアクセス機会の均等化を図る観点から交通、情報通信基盤の整備を進める。 (多自然居住地域の創造) 中小都市と中山間地域等を含む農山漁村等の豊かな自然環境に恵まれた地域を、21世紀の新たな生活様式を可能とする国土のフロンティアとして位置付けるとともに、地域内外の連携を進め、都市的なサービスとゆとりある居住環境、豊かな自然を併せて享受できる誇りの持てる自立的な圏域として、「多自然居住地域」を創造する。 多自然居住地域の生活圏域は、地域の選択に基づく連携により、中小都市等を圏域の中核として周辺の農山漁村から形成される。中小都市等は圏域の中心都市として、基礎的な医療と福祉、教育と文化、消費等の都市的サービスや身近な就業機会を周辺の農山漁村に提供する。多自然居住地域において、質の高い生活と就業を可能とするため、農林水産業や地域の持つ自然や文化等資源を総合的に活用した新しい産業システムの構築、高度な情報通信の活用による立地自由度の高い産業の育成を図るとともに、生活基盤等の暮らしの条件の整備を行う。また、田園、森林、河川、沿岸等における自然環境が適切に保全、管理された美しくアメニティに満ちた地域づくりを進める。 さらに、交通、情報通信基盤の整備を進めることにより、多自然居住地域は、大都市や中枢・中核都市等と交流、連携し、これらの都市地域から高度な医療、文化等の高次都市機能を享受する一方、交流人口の拡大やUJIターンの促進を図り、マルチハビテーション(複数地域居住)、テレワーク(情報通信を活用した遠隔勤務)を進め、地域の活性化を図る。また、我が国を代表する国際観光地となり得る地区やルートの形成等を進めることにより、「小さな世界都市」等世界に誇り得る地域の整備を進める。 (大都市のリノベーション) 人口、諸機能の集中が著しく、過密にともなう諸問題を抱えている大都市において、人間性の回復を重視した安全でうるおいのある豊かな生活空間を再生するとともに、我が国の経済活力の維持に積極的に貢献し、高次都市機能の円滑かつ効率的な発揮を可能とするため、大都市空間を修復、更新し、有効に活用する「大都市のリノベーション」を推進する。 このため、都心部における居住機能の回復と長時間通勤、交通混雑の解消を図るなど、快適な都市生活を実現するとともに、老朽木造密集市街地の解消と防災拠点の整備を図り、都市の防災性を向上させる。また、都市の環境・アメニティ、景観等に配慮したまちづくりを進めるとともに、大都市の位置する内湾域において、環境の保全、回復を図る。さらに、都心部に過度に集中する諸機能を分散するとともに、産業構造の転換等によって発生する大規模低未利用地において土地利用転換を図り都市基盤の整備による有効利用を促進するなど、都市構造の抜本的な再編を進める。 これらに加え、社会的ニーズの変化や国際的分業体制の一層の深化に対応するため、これまで我が国経済を支えてきた産業集積地域において高度な技術・技能集積の維持と発展を図るとともに、都市機能や産業の集積への近接性等を生かし、新たな事業開拓や新規創業活動を促進する。 このような都市機能、産業の高質化の取組と併せて、三大都市圏、地方中枢都市圏及びこれに準ずる地方中核都市圏を、高次都市機能の集積の拠点、広域国際交流圏の拠点である「中枢拠点都市圏」として位置付け全国に整備し、これらの都市圏相互の機能分担と連携を進め、大都市の負荷の軽減を図ることにより、大都市のリノベーションに資する。 (地域連携軸の展開) 地域の自立を促進し、活力ある地域社会を形成するため、異なる資質を有するなどの市町村等地域が、都道府県境を越えるなど広域にわたり連携することにより、軸状のつらなりからなる地域連携のまとまりとして「地域連携軸」を形成し、全国土に展開する。 地域連携軸は、地域の持つ資源、魅力を広域的に共有し、相互の機能分担と連携を進めるもので、地域の選択に基づく連携を基本に形成される。 地域連携軸上では、交通、情報通信基盤の下で、地域間の人、物、情報の活発な交流が行われ、生活、産業、文化等の諸活動が日常の生活圏域を越えて広域に営まれ、選択可能性の高い暮らしが可能となる。地域間の連携により、諸機能の効率的配置及びその効果的な利用、観光を始め地域産業の振興等が行われ、活力ある地域が形成される。地域連携軸の形成は、異なった歴史や文化を有する地域等の間の連携と交流を通じて、地域の持つ個性の自覚と新しい文化や価値の創出をもたらす創造的空間となる。 魅力的で個性的な地域連携軸の形成が国土に縦横に展開されることによって、活力ある誇りの持てる自立的な地域づくりが促進される。 (広域国際交流圏の形成) 国境を越えた地域間競争や地域間連携に対応するとともに、全国の各地域が、世界に広く開かれ、独自性のある国際的役割を担い、東京等大都市に依存しない自立的な国際交流活動を可能とするため、国土に複数の地域的まとまりからなる「広域国際交流圏」を形成する。 広域国際交流圏は、世界的な交流機能を有する圏域で、我が国の持つ地理的形状や経済社会的集積の状況からみると、中枢拠点都市圏またはその連携を核として地域ブロックを越える程度の広がりが想定されるが、これらの圏域づくりは、地域間の連携を基本に形成される。 広域国際交流圏では、アジア・太平洋地域を始めとする諸外国とのアクセス性を高める空港、港湾やこれらを結ぶ交通基盤、情報通信基盤の下で、国際交流のための各種機能の整備とその活用、国際感覚あふれる人材の育成等により、国際的な経済、学術、研究、文化、スポーツ、観光等の多様な分野で交流が展開される。また、各地域に国際的に魅力ある立地環境の整備が進むとともに、国際的な連携や交流を通じて世界に誇り得る地域の整備が促進される。 地域の特性を生かした広域国際交流圏の形成により、活力ある地域からなる我が国の経済社会の構築と、多様な国際交流に基づく世界に開かれた国土の形成が促進される。 このような戦略の展開により、基本的課題の達成への取組が進み、多軸型国土構造を目指す長期構想実現の基礎が築かれる。すなわち、多自然居住地域の創造は、太平洋ベルト地帯等都市集積から離れた地域を始めとして、地域間の連携を進め、地域の自立を促進し、自然環境の保全等を進めるもので、国土に広く誇りの持てる美しい地域を創り出し、国土軸の形成に資する。また、大都市のリノベーションは、東京圏を始めとする人口、諸機能が集中している地域である大都市において、過密にともなう諸問題を解決し、安全でうるおいのある生活空間を再生するとともに都市機能の高質化と産業構造の転換を進めるもので、太平洋ベルト地帯及びその周辺地域の再生をもたらし西日本国土軸の形成に資する。あわせて、中枢拠点都市圏の形成は、都市間の階層構造をより水平的なネットワーク構造に転換することにつながる。 一方、地域連携軸の展開は、地域間相互の連携と交流を進め地域の活性化をもたらすもので、これが国土の縦断方向に多数連なりあうことにより、国土軸の形成に寄与するとともに、国土の横断方向に展開されることにより、複数の国土軸が相互に補完、連携する状況をもたらす。さらに、広域国際交流圏の形成は、複数のこれら交流圏により全国土を覆うことにより、地球規模での活発な交流可能性を飛躍的に高めるもので、国土を構成する諸地域を広く世界に開き、特徴ある国際性を有する国土軸の形成に寄与する。 第3節 特定課題とその対応 「21世紀の国土のグランドデザイン」の実現に向けて、東京一極集中につながってきた国土構造を転換する上で重要な課題である「首都機能と東京問題」、及び世界に開かれた多軸型の国土構造実現の基礎を築く上でアジア・太平洋地域におけるその新たな位置付けが求められる「基地問題を抱える沖縄の振興」を特定課題として掲げ、これに取り組む。 1 首都機能と東京問題 東京圏への人口、諸機能の集中は、近年、その一部について緩和の兆しがみられるものの、ストック面からみると依然として著しく、国土構造上大きな問題である。また、東京では、首都としての機能のみでなく、経済、文化の中心としての機能の円滑な発揮に支障が生じているとともに、長時間通勤、交通混雑、災害に対する脆弱性、大気・水質汚染、水需給の逼迫、廃棄物の処理等様々な大都市問題が発生している。 東京一極集中の問題を解決し、東京が21世紀においても先端性と活力に富んだ世界の中枢都市としての機能を果たしていくことを可能とするためには、東京が 3,000万人を超える人口を擁する世界最大の都市圏を形成していること、東京が我が国の首都であることという2つの側面に着目して、各種の施策を総合的に推進していかなければならない。 第1に、長期的観点から多軸型国土構造への転換を目指し、国土全体にわたる機能分担と連携のあり方を踏まえつつ、東京都区部等への高次都市機能の過度の集中の抑制と分散、職住のバランスのとれた地域構造の構築等に積極的に取り組む必要がある。 具体的には、国土全体に及ぶ広域的観点から、東京を頂点とする都市の階層構造を是正するため、東京圏と中枢拠点都市圏との適切な機能分担と連携を進め、高次都市機能の全国的展開とネットワーク化を図る。東京圏では、業務機能を始めとする諸機能の集積の核として業務核都市等の総合的な育成、整備を推進する。また、都心居住等の推進を図るとともに、大規模地震等に対する安全性の確保、安定した水資源の確保、環境やアメニティの向上を図るなど、我が国を代表する都市東京にふさわしい豊かでうるおいのある総合的生活環境を創造する。 第2に、首都機能移転については、積極的な対応を図ることが必要である。現在、国会等移転審議会において、調査・検討が進められている首都機能移転の問題は、政治、行政の中心地と経済、文化の中心地を物理的に分離することにより、東京の優位性の相対化を図るものであり、国土政策上、東京一極集中への基本的対応として非常に重要なものである。 首都機能移転がもたらす効果は極めて多岐、広範にわたるが、国土構造の観点からは次のようなものが期待される。 @ 東京とは質的に異なる新都市が形成されるとともに、これと全国の中枢拠点都市圏との間の交通、情報通信ネットワークを通じた多様な連携が促進されることにより、東京を頂点とする国土構造の改編が進む。 A 政経分離によって、政治、行政の中心地となる新都市と経済、文化の中心地となる東京のそれぞれが大都市問題に配慮された我が国を代表する都市として並立し、相互に密接な機能分担と連携を図ることにより、各々の機能がより一層円滑に発揮される。 B 大規模地震等が発生した場合にも、新都市と東京との同時被災の回避が可能となり、危機管理機能を始め国土の災害対応力が向上するとともに、移転跡地を有効に活用することにより東京の防災性が強化される。 首都機能移転は、以上のように、国土政策上極めて大きな効果を有するものである。現在、国会等移転審議会では、移転先候補地の選定に向けて調査対象地域を設定し、具体的な地域に即した検討を行う段階へと進んだところであり、地方分権、規制緩和、行財政改革等の国政全般の改革を並行して着実に進めつつ、首都機能移転の具体化に向けて積極的に検討を進めるべきである。 この場合、首都機能移転は、国民の意識や価値観に密接にかかわるとともに、21世紀における我が国の政治、経済、文化等のあり方に大きな影響を与えるものであり、国会等の移転に関する法律等にのっとり、開かれた公正な手続きの下で国民の合意を図っていくことが必要である。 2 基地問題を抱える沖縄の振興 先の大戦において甚大な人的、物的被害を受けた沖縄が昭和47年に本土復帰を遂げてから四半世紀が過ぎる。復帰までの26年余の期間、沖縄は我が国の施政権外に置かれたこと等にかんがみ、政府は、これまで、多額の国費を投入し、基本的な社会資本の整備や地理的、自然的な特性に即した沖縄の振興開発を実施した。その結果、本土との諸格差は次第に縮小するなど、着実にその成果を上げてきた。しかしながら、沖縄は、本土から遠隔の地にあり、多数の離島により構成されている等の不利な条件を抱えている。さらに、アジア・太平洋地域の平和と安定にとって重要な役割を果たす日米安保体制の中で、沖縄には、今なお国土の 0.6%の地に我が国の米軍施設・区域の75%が集中し、その負担は重く、依然として本土とは異なる事情を抱えた地域である。 一方、我が国とアジア・太平洋地域を始めとする諸国との相互依存関係が一段と強まり、人的、物的、資金、情報の交流の度合いは更に深まるものと見込まれる。こうした中で、基地問題を抱える沖縄の振興開発に当たっては、沖縄の有する地理的・自然的特性と独自の伝統文化及び国際性豊かな県民性を生かしながら、一地域の自立という視点を超えて、我が国ひいてはアジア・太平洋地域の経済社会及び文化の発展に寄与する特色ある地域の形成を目指すという視点が重要である。 沖縄は、太平洋新国土軸から東南アジア諸国等の熱帯・亜熱帯の交流圏に通じる結節点にあるという地理的特性を有するとともに、広大な海域からなる我が国唯一の亜熱帯海洋性の気候的特性を持ち、豊かな自然や独特の文化等多様で貴重な地域資源を有している。また、それらを背景に、「万国津梁(しんりょう)の精神」に代表される多様性を受け入れる国際感覚と相互扶助の精神を育むなど魅力的な地域として成長、発展してきた。 今後、沖縄は、平和交流拠点として、国際協力拠点として、多元的な交流の展開の場となることが期待される。これら交流拠点の形成に際して基幹産業である観光産業の振興は重要であり、亜熱帯海洋性の豊かな自然や歴史、文化等の地域資源を生かした魅力ある国際的な観光・保養機能の充実が望まれる。また、特別自由貿易地域等を中心とする産業の新規展開の推進による交易型産業の新規立地や活性化が期待される。さらに、高度な情報通信機能の活用と交通機能の拡充によって、島しょ地域が抱える不利性を克服した多自然居住地域の創造の場となることが期待される。このような期待にこたえることにより、沖縄は、我が国ひいてはアジア・太平洋地域の経済社会及び文化の発展に貢献する地域として、太平洋新国土軸の形成の端緒を開くことが望まれる。 このような発展の可能性を持つ沖縄は、「太平洋・平和の交流拠点(パシフィック・クロスロード)」と位置付けることができる。 基地問題を抱える沖縄の振興に当たっては、以上の位置付けを基本として、これまで同様、沖縄の経済振興と基地問題はいずれも重要な課題であるとの認識に基づき、沖縄の主体的な取組を基に国がその責務を果たすことによって、各般の施策を進める。 また、土地利用上大きな制約となっている米軍施設・区域については、普天間飛行場の返還等沖縄にある米軍施設・区域の約21%、5002haの縮小が盛り込まれている平成8年12月の「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」の最終報告の内容を着実に実施し、その進展を踏まえつつ跡地の利用を計画的に進める。 第3章 計画の実現に向けた取組 第1節 「参加と連携」による国土づくり 各地域において個性的で魅力的な地域づくりを実現するためには、地域住民、ボランティア団体、民間企業等の多様な主体による地域づくりを全面的に展開していくことが求められる。このような多様な主体の参加は、従来の行政では十分に対応しきれなかった分野を補完するのみならず、多様な要請に対応するきめ細かいサービスの提供とその質の向上を可能とする。 また、人口減少・高齢化や国境を越えた地域間競争の中で、国土管理を始め多様な国民の要請にこたえ、質の高い自立的な地域社会を形成していくためには、既存の行政単位の枠を越えた広域的な発想が重要であり、関連する地域の主体的な取組としての連携による施策の展開が求められる。このような地域連携は、新たな地域発展の機会を創出し、地域が提供するサービスの高度化と効率的な基盤整備を可能とし、また、地域に共通する広域的な課題の解決等に効果を発揮し得るものである。 この計画においては、「参加と連携」による国土づくり、地域づくりを推進することとする。 1 多様な主体間での役割分担 「参加と連携」により国土づくりを進めるに当たっては、公的主体と民間主体の間、そして公的主体内における国と地方の間の適切な役割分担が不可欠である。 公的主体と民間主体の役割分担については、公的主体は、国民の意見を広く求めつつ、国土づくり、地域づくりに関する計画を提示し、これに関する調整を行うこと、国土づくり、地域づくりに関する制度的な枠組みを整備すること等の役割を果たし、民間主体は、自らの創意工夫に基づき、国土づくり、地域づくりに参加することが原則である。国土基盤整備やサービスの提供については、国または地方公共団体は、民間主体に委ねた場合には質や量において国民生活上必要に足るだけの供給を期待できない国土基盤整備やサービスの提供を行い、民間でできるものは民間に委ねる。 次に、公的主体内における役割分担については、国は、国家的見地から「参加と連携」を支援するという基本的な考え方の下、基幹的な基盤の整備を進めるとともに、各地域の有する情報を集約し他の地域に提供するなど、広域的なサービス提供の観点から地域連携を支援することとし、都道府県、市町村は、地域的視点から地域づくりへの多様な主体の参加を支援、調整、活用するとともに、地域連携においては、主体的な役割を担う。 国土づくり、地域づくりを進めるに当たっての費用負担については、現在世代と将来世代が適切に負担を担うよう世代間の公平性に配慮しつつ、適正な受益者負担の考え方の下に、各施策ごとに公的主体と民間主体、国と地方の役割に応じた費用負担により行う。 2 多様な主体の参加を推進するための方策 国土づくり、地域づくりに当たって、多様な主体の責任ある参加を推進するための環境整備として以下の取組を行う。 (国民参加の基礎となる情報の公開) 国民が地域づくりに積極的に参加できる環境を整備するためには、国民が自らの選択と責任に基づいて行動するための基礎となる情報の公開が必要である。このため、国、地方を問わず、行政の持つ国土づくりに関する情報を広く開示、提供し、国民が容易に利用できる体制を整備する。また、国土基盤投資に係る事業採択の基準や基盤投資に関する費用対効果分析等の公開を進めることにより、国土基盤整備の推進に係る意思決定の客観性及び透明性の向上に努める。 さらに、二酸化炭素等の排出抑制等、国民が自ら率先して環境の保全に取り組むことが求められている現状を踏まえ、国及び地方公共団体は、個々の国民が環境保全にかかわる手法等に関する情報をより積極的に公開するとともに、広報の充実等、国民の理解を得るための方策を整える。 (民間主体の能力や資金の活用に向けた取組) 国土基盤整備や住民サービスの提供に関して、民間主体の資金や能力を適切に活用する観点から、行政改革の積極的な推進と併せて、民間主体の積極的参加に向けた諸規制の緩和を推進する。また、民間のノウハウ、資金力を活用した事業の推進方式を検討する。 地域づくりの国民参加の主要な手法となり得るボランティアやNPOの活動については、その一層の推進を図るため、関係機関等と連携、協力して、ボランティア休暇制度の導入、ボランティア団体等NPOへの法人格の付与を含め、これらの活動の支援策を推進する。 (積極的な地方分権の推進) 地域住民の積極的な参加の下、地域が自らの選択と責任で地域づくりを行うためには、その基礎として、地域づくりに必要な事業を行うに足るだけの権限や財源を地方公共団体が有していることが不可欠である。このため、地方分権を積極的に進め、地域づくりや住民サービスに関する諸権限の地方への委譲、必要な地方一般財源の確保、補助金等の整理合理化、国の関与の整理縮小等を行うことにより、地方公共団体が主体となって基盤整備等を行うことができる環境の整備について検討し、順次その実現を図る。 (地域づくりにおける住民参加と合意形成のシステムの整備) 地域づくりへの住民の参加意識の高まりにこたえ、地方公共団体が中心となって、地域づくりにおける住民参加と合意形成のシステムを整えることが重要である。特に、地域づくりに係る土地利用や基盤整備については、国及び地方公共団体は、計画段階から住民意見を広く求める体制を整備する必要がある。その際、住民の責任ある参加が可能となるよう、基盤投資の効果、所要資金とその負担、環境への影響、地域の災害危険度等についての情報提供の仕組みの構築を図る。 3 地域間の連携を推進するための方策 地域連携を推進するに当たっては、その基礎として連携意識の醸成を進めるとともに、地域間の連携の主体の円滑な形成が図られることが重要であり、また、地域の取組を踏まえた国による支援策も必要である。このような観点から次のような取組を行う。 (連携意識の醸成と連携主体の形成) 地域連携の促進を図るためには、その基礎として、連携を行う地域の住民同士が交流し、互いの地域への理解や共感を深め、協力や連携を進めるという意識の醸成が重要である。従って、地方公共団体は、自ら積極的に他の地方公共団体と連携、協力する意識を持ち、住民意識の醸成を図るための交流事業の実施や、共同利用施設の整備等を行うなど、地域間の連携を着実に進めることが求められる。 多自然居住地域の創造、地域連携軸の展開等の地域連携によって推進されるプロジェクトにおいては、その主体の形成が重要である。このため、広域連合や一部事務組合等既存の広域行政制度を活用するとともに、地域間の連携の主体となる協議組織等について、その支援方策を検討する。また、地域間の連携を効果的なものにするためにも、基礎的な地方公共団体である市町村の自主的合併を積極的に推進する。 (国による地域連携の支援策) 地域連携を実効あるものとするため、地方分権の積極的な推進と併せて、国は既存の行政区域を越えた多様な地域間の連携を支援、促進する。すなわち、各地において進められている地域連携軸構想、多自然居住地域の創造等を推進する観点から、これらの先導的な地域における連携施策の展開手法や事業内容等の体系化と普及を行うとともに、地域の取組を踏まえつつ、基幹的な基盤の整備や複数の地方公共団体が共同して作成する計画に基づき行う共同事業に対する支援を含め、国として講ずるべき支援策の早期の具体化を図る。この一環として、国は、地域間の連携や交流の基礎となる情報の提供や地方公共団体への助言を行う。さらに、国と地方公共団体の連絡や調整をより円滑に進める観点から、必要な方策について検討する。 第2節 国土基盤投資の計画的推進 この計画の目標を達成するには、引き続き国土の均衡ある発展を図るという基本方向の下で、国土基盤整備を着実に推進する必要がある。その際、@ゆとりやくつろぎ、自然環境等を重視する国民意識の大転換や確実視される人口減少局面等計画期間を超えて進む経済社会構造の大きな変化に対応できる基盤整備を着実かつ計画的に進めることが求められていること、A現在進められている財政構造改革と連携することはもとより、長期的な投資余力の減少にこたえられる基盤投資が求められていること、Bこれまで進められてきた様々な施策の推進等により、地域間の所得等の格差が縮小してきている一方、中山間地域等で地域社会の維持が困難となる地域が広範に現れたり、地域の特色が失われ全国が画一化するなど新しい地域問題が現出し、これに対応した基盤整備が求められていること等、国土基盤投資を巡る諸状況の大きな変化を踏まえ、新しい時代に沿った国土基盤投資の推進が必要となっている。 今後の国土基盤投資は、財源が限られたものであることを改めて認識した上で、投資を真に効果的なものとすることを基本としなければならない。現下の厳しい財政事情や長期的な投資余力の減少、人口減少下での成熟した社会の到来等を勘案し、限られた資金を各政策目的に照らし効果的なものとする努力が各方面でなされる必要がある。また、これまでに積み上げられてきたストックを維持、更新するための投資が今後増大することが予想されることから、このような更新投資と新規投資の間のバランスにも配慮する必要がある。 国土基盤投資の基本方向の第1は、「21世紀初頭には社会資本が全体としておおむね整備されることを目標とする」とされている公共投資基本計画(平成9年6月)を踏まえ、社会経済構造の大きな変化に対応できる基盤整備を推進するため、長期的視点に立って計画的な投資を進めることである。そして、この投資を効果的なものとするため、既存ストックの有効利用方策等ソフトな施策も含め重点的、効率的投資に努めることである。 第2は、地域特性を十分踏まえた上での投資の推進である。この計画の目指すものは、全国各地域が特色を持って発展する多様性に富んだ国土の形成であり、重点的、効率的投資を進めるに際し、この目標に沿った地域の発展が図れるよう、各地域の自然条件や経済社会条件の差異等に留意しつつ効果的な投資を進めることである。 第3は、次の時代に備えた投資の推進や、そのための新しい投資の考え方の確立を図ることである。この計画期間は、長期構想実現の基礎づくりの期間であり、計画期間を超えて進む人口減少、投資余力の減少等に効果的に対応できるよう様々な努力を続けなければならない。 1 重点的、効率的基盤投資 (1) 重点的基盤投資 (計画の課題達成に向けた基盤投資) 国土基盤の整備は、明治以降現在まで時代の要請に応じ、その重点分野を変化させつつ進められてきた。時代の転換期に策定したこの計画では、経済社会構造の大きな変化に対応するため、計画期間中に取り組むべき課題として、自立の促進と誇りの持てる地域の創造を始めとする基本的課題及び特定課題を提示している。これらの課題は、関連するソフトな施策と一体となって必要な基盤投資が推進されることにより達成されていくものである。このため、長期的視点に立ち、第2章に掲げた課題の達成に資する基盤の整備に重点を置き、投資を推進する。 なお、既に進められている国民生活の質の向上及び経済構造改革に資する分野への公共投資の重点化の方向は、この基盤投資の重点化の方向と軌を一にするものであり、その推進がこの計画の目標の達成につながるものである。 (戦略の展開に資する基盤投資) 基本的課題を達成していくためには、地域の主体的な選択を基本に、複数の地方公共団体が連携し、国等とともに、戦略を展開していくことが特に効果的と考えられる。このため、地域的には、多自然居住地域の創造に向けた、豊かな自然環境や国土の保全、地域の自立の基礎となる生活の高質化及び地域資源を活用した産業の高度化に資する投資、並びに大都市のリノベーションに向けた都市構造の抜本的な再編や防災性の向上、環境の保全、回復及び産業の高質化に資する基盤投資を、また広域的、全国的には、地域連携軸の展開及び広域国際交流圏の形成に向けた、交通、情報通信体系の形成、多様な国際交流機会の創出に資する基盤投資を、国、地方公共団体及び民間の総合的努力により、確実に進める。 (2) 効率的基盤投資 (連携投資の推進) 国土基盤投資の効率化を実現するためには、国土基盤整備に携わる省庁間、そして地方公共団体間の適切な連携が必要である。このため、国にあっては、国全体としての二酸化炭素等の排出量の削減、総合的な物流施策や防災対策の推進等総合的に取り組むべき課題への対応や、 類似事業間の効率的な組み合わせ等を目指し、省庁間の枠を超えて事業間の連携を強化する。 この際、各行政主体間の施策の調整や国土基盤の整備に係る各種の長期計画相互の調整、連携等を円滑に進めるための調整機能の充実が不可欠であり、このため、調整体制の充実を図る。この一環として、事業間の調整、調査の調整等のため、国土総合開発事業調整費等の調整機能の活用を図る。また、地方公共団体においては、1つの地方公共団体においてフルセットで施設を整備するという発想にとらわれることなく、地域連携の発想に基づいて、国土基盤整備に当たって他の地方公共団体との連携により効率的な投資を目指すことが期待される。 なお、この計画において掲げた戦略を始め、総合的、一体的に取り組むことが不可欠な施策については、調査段階から調整と連携を図りつつ進める。 地域が責任ある選択と負担の下で、主体となって地域づくりを進め、国はそれを支援できるよう、国及び地方公共団体間、地方公共団体相互間の基盤投資にかかわる調整を行うなど調整体制を整備する。 (建設コストの縮減) 海外諸国に比し割高となっている建設コストを縮減し、限られた資金の中で基盤投資を効率的に進めることは、実質的な国土基盤の蓄積を保証することに直結し、効率的投資を進める上で最も重要な課題の1つである。しかし、我が国の建設コストは、厳しい自然条件の存在、人件費、物価等我が国全般の高コスト構造、受発注のシステム、建設業の生産性、土地の所有権等の権利調整の難航等様々な要因があり、その縮減は容易ではない。このため、「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」(平成9年4月)において定められている公共工事のコストを少なくとも10%以上縮減するとの目標の下で、資材費の縮減や機械化等を通じた生産性の向上、工事実施に係る各種の規制緩和、コスト縮減に向けた技術の開発とその導入の円滑化、受発注における競争原理の一層の活用、地域の実情に合わせた構造基準の適切な運用等各般の施策について、適宜その成果を点検し必要に応じ見直しを行いつつ、総合的に進める。また、土地利用コスト縮減のため大深度地下利用の技術の実用化等の検討を推進する。 ストックの増大により、維持管理や更新の費用も含めたトータルとしてのコストの縮減や、維持管理や更新が容易な施設の整備も重要となる。このため、構造物のメンテナンスフリー化等のライフサイクルコストを低減する構造物の選定、維持管理や更新を効率的、経済的に行えるような技術の開発等を推進する。 (ストックの有効利用) 我が国において国土基盤の蓄積が相当程度進んできていることを踏まえ、必要な資金を確保し、ストックの適切な維持管理や更新を進める。また、情報通信システムの活用等による維持管理の効率化を図りつつ、新たな基盤整備を進めるのみでなく、極力ストックを活用するとの観点に立って、各般の施策を進める。 機能的に陳腐化したり容量的に余裕のある施設の活用、再整備を進めることとし、既存施設の構造評価手法、再整備に係る技術の開発等を進める。高齢者福祉施設、地域防災拠点、情報ネットワークの拠点等の整備に当たってのコミュニティレベルに配置されている学校、交番、郵便局等の活用方策、うるおいある緑地空間、水辺空間を確保するに当たっての低未利用地、水路、運河等の活用、再整備等、実質的に投資の軽減に資する施策を推進する。 ストックの有効利用のためのソフトな施策として、大都市圏等での交通混雑の緩和に向けてのTDM(交通需要マネジメント)施策を推進するとともに、ITS(高度道路交通システム)の活用を図る。さらに、交通機関乗り換え時のダイヤの調整による利用者の利便性の向上、文化、スポーツ施設等の利用時間帯の拡大、利用の広域化等、新たな基盤投資をともなわずに国土基盤の利用水準を向上させる運営方策等の導入を進める。また、公的施設の財産上の利用制限の弾力化等の制度的な対応についての検討、施設の管理運営における民間委託の積極的な活用を進める。 (費用対効果分析等を導入した客観的評価に基づく投資) 新規の基盤投資に着手するに当たっては、その必要性について十分吟味するとともに、その投資を真に効果的なものとする必要がある。このため、国、地方公共団体を通じ、投資効果の早期発現を図る観点から、それぞれの事業において、費用対効果分析等可能な限り客観的な評価を行った上で、投資の優先順位を定め事業の絞り込みを進めるなど投資の効率化に努める。また、硬直的な事業の実施を避けるため、事業の実施段階において、適宜その事業目的の的確性、投資効果等を点検し適切な対応を図る。特に、事業採択後一定期間経過後で未着工の事業や長期にわたる事業等を対象に再評価を行い、その結果に基づき必要な見直しを行う。 これら費用対効果分析や再評価に当たっては、その手続き及び内容等を公表するなど、透明性の確保に十分配意する。 (民間活力を活用した国土基盤投資の推進) 従来は公的主体が担ってきた国土基盤投資においても、競争原理が働く民間主体に対して、事業をその内容に応じて部分的ないし包括的に委ねることによって、より少ない費用で質の高い効果が得られることが期待される。このため、今後の国土基盤整備に当たっては、イギリスのPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)のような諸外国の先進事例を参考にしつつ、従来は公的主体が自ら行ってきた分野も含めて、民間活力を積極的に活用する。 2 地域特性を踏まえた効果的な基盤投資 (特色ある地域の発展を目指した投資) 多様性のある国土を築く基本は、地域が主体となり、その自然的、社会的特性を生かしつつ、創意と工夫を競い合い進める特色ある地域づくりに置かれなければならない。 このため、まず、地域の自立を促す国土基盤を一定の条件内で整備するなど機会の均等化を図る必要があり、生活環境施設の地域間の不均衡の是正及び高次な都市機能等の享受を広域的に可能とするための拠点施設、アクセス施設等について、重点的な投資を進める。 つぎに、地域のニーズを尊重することが創意と工夫を発揮する地域づくりに基本的に重要である。このため、地域が自らの責任と選択により地域づくりを行えるよう地方分権を積極的に進め、補助金等の整理合理化や必要な地方一般財源の確保について不断の努力を行うとともに、補助事業等について地方公共団体が選択、活用ができる仕組みの充実、地域の諸条件や創意工夫を反映できるような施設の構造基準の弾力化、国の行う事業について地域ニーズ反映のための仕組みの強化等基盤投資に係る幅広い施策の推進を図る。 さらに、多くの課題を抱える地域について戦略的な対応を図るための投資の推進が必要であり、中小都市と中山間地域等を含む農山漁村等を多自然居住地域として創造していくために必要な基盤への投資、並びに大都市地域の再生に資する基盤への投資を確実に進める。 (地域のストックと調和した投資の推進) 各地域においても相当なストックが蓄積されてきており、これらストックの有効活用を図りつつ地域への計画的な投資を進めることが必要である。特に、交通、情報通信体系の活用等により市町村や県等の境界を越えて施設の広域的利用が可能となってきていることから、地域連携軸の展開の取組等を通じ、地域連携の下での既存施設の相互利用の促進を図るとともに、新規の基盤整備を行うに当たっての広域的観点に立った既存施設の利用可能性の点検や広域利用を前提とした連携投資の推進を図る。 3 次世代に備えた効果的な基盤投資 (新技術の開発に係る投資) 我が国の発展にとって欠くことのできない新しい技術の開発、導入に向け、関係投資を一層進めることが重要である。このため、基盤となる研究開発機能の強化を進めるとともに、その利用の高度化、効率化を促す情報通信技術の活用を積極的に進める。これらの研究開発基盤の基で、@超電導磁気浮上式鉄道、ITS、TSL(新形式超高速船)、新物流システム、光通信システム技術等の21世紀の国土づくりに新しい可能性を拓く交通、情報通信技術、A低公害車、新エネルギー、省エネルギー、廃棄物のリサイクル等の環境負荷の低減に資する技術及び、B都市の防災・環境改善、生物、バイオテクノロジーを活用した環境改善や生産性向上、超大型浮体式海洋構造物等自然との共存や国土空間の有効利用に関する技術等新技術の開発、実用化を推進する。また、高齢化や人口減少等需要構造の質的、量的変化に対応した、新たな交通システム、生活排水等処理技術等の研究開発に取り組む。これらの投資が、効果的なものとなるよう、研究成果の活用度等により適切な評価を実施しつつ行う。 (新しい視点に立った国土基盤投資) 今後の経済社会構造の大きな変化に対応できるよう、新しい視点を持った基盤整備を進めることも重要となる。投資余力の減少に備え、安全度が高く長期の使用が可能である、平常時のみならず災害時にも活用できるなど基盤利用効率を向上させる視点、より使いやすい、地域景観と調和する、自然とのふれあいや環境の保全、回復に寄与するなど、利用者の立場や自然との共存の視点を重視した取組を強化する。また、地球時代の進展の中で、規模、機能面で国際的水準に比し立ち遅れた基盤についての水準の向上や海外諸国の基盤整備の計画との連携等の国際的調和の視点や、海外諸国への便益をも考慮する国際的便益の視点を持った基盤整備を進める。 (効果的な基盤投資に向けての幅広い検討) 長期的な投資余力の減少に備え、効果的な国土基盤投資実現のための不断の努力が続けられなければならない。この一環として、費用対効果分析等客観的評価手法の確立や制度のあり方について検討を深める必要があり、それぞれの事業分野においてその特性を踏まえた検討を進める。さらに、各事業分野に共通する手法上の技術的事項、複数の事業が展開されるプロジェクトの総合的評価方策、環境の価値や地域間の条件の差異等の評価方策、評価を行う体制等、費用対効果分析等に係る課題やそのあり方、及び事業の事後評価結果を評価手法等に適切にフィードバックさせる方策等未確立な部分の多い事項について、幅広く検討を進める。 少子化・高齢化等に起因する財政制約の高まりが懸念される中で、今後とも地域住民が望む地域づくりを進めるためには、これまで以上に受益者となる地域住民が自ら受益と負担に関して主体的な判断を行うことが必要になることが予想される。このため、受益に見合った負担のあり方も含めて、各地域において行われる国土基盤整備において、その適切な地域負担のあり方について中長期的な視野に立って検討を進める。 第3節 制度・体制の整備 1 計画の効果的推進 この計画は様々な主体の参加を得て効果的に推進されなければならない。とりわけ、「参加と連携」により、多自然居住地域の創造、大都市のリノベーション、地域連携軸の展開、広域国際交流圏の形成の4つの戦略を効果的に推進するため、国は、地方公共団体、そして様々な民間主体の意向を踏まえ、戦略を推進するための指針となるものを速やかに策定し、4つの戦略の具体的な推進方策を明らかにすることとする。 この計画によって明らかにされた今後の国土づくりの基本的方向を具体化するに当たっては、その基本性を確保しつつ、今後の諸情勢の変化や、現在進められている諸改革の進捗に応じて弾力的な対処がなされなければならない。このため、地域における関連する諸施策の実施状況や本計画に対する国民の意見を十分に把握しつつ、国土審議会において計画の推進状況を毎年点検するとともに、関係行政機関に対して計画の推進に必要な提言を行う。 望ましい国土構造を実現するための基礎となる国土基盤の整備について、着実な整備を進める観点から、本計画と公共投資基本計画等の国土基盤整備に係る各種の長期計画との緊密な連携と調整を図るとともに、国土利用に関する諸計画と、各種の基盤整備に関する計画の調整を行う。また、各種事業間の連携を行うなど事業間の調整を適切に行う。さらに、環境への配慮を十分に行う観点から、国土基盤の整備に当たっては、環境保全に関する各種計画との連携を図るとともに、環境影響評価等を適切に実施する。 四全総においてその形成が目標とされた多極分散型国土は、長期的に多軸型国土を形成する上での過程としてとらえられるべきものであることを踏まえ、本計画の推進に当たっては、多極分散型国土形成促進法に基づく施策を含め、既存施策の有効な活用を図る。 また、今後の諸情勢の変化や行財政改革等の進展に応じて計画の総合的な点検を行い、必要に応じて見直しを行う。 なお、北方領土については、全国土の一環として開発、整備が進められるよう計画されなければならないが、現在、特殊な条件の下におかれているので、条件が整った後、早急にこの計画に所要の改訂を加え、総合開発の基本的方向を示すこととする。 2 土地利用に関する諸施策との連携 21世紀において望ましい国土構造の実現を視野に入れつつ、計画期間中に、多自然居住地域の創造、大都市のリノベーション等本計画の戦略、施策を通じた個性的で魅力ある地域づくりを展開するに際しては、国土の安全性の確保、自然環境の保全、都市構造の再編、美しくアメニティに満ちた地域づくり等の面で、土地利用に係る施策と密接にかかわってくることから、それとの連携強化を推進する必要がある。 (土地政策との連携) 「所有から利用へ」との理念の下、新総合土地政策推進要綱(平成9年2月10日閣議決定)において示された総合的な施策を展開する土地政策との連携を図ることとし、ゆとりある住宅・社会資本の整備と、自然のシステムにかなった豊かで安心できるまちづくり・地域づくりを目指した土地の有効利用による適正な土地利用を推進する。また、特に大都市等の既成市街地を中心に、都市基盤の整備を始め、低未利用地の利用促進、老朽木造密集市街地の整備等による災害に強いまちづくり、都心居住の推進等、土地の有効利用のための諸施策の推進を図る。 (国土計画と整合のとれた土地利用計画の作成) 地方公共団体は、本計画に沿って、 @住民の便益や厚生の向上のための生活基盤の整備、A安全で安心できる地域づくりを推進するための諸施設の整備、オープンスペースの確保、地域区分の設定等、B住民に身近な自然を確保し、後世に継承していくための自然環境の保全、C美しさとアメニティに満ちた地域づくり、D都市機能を充実するための都市基盤の整備、E地域経済を支える産業基盤の形成等を実現していくことが求められ、そのため、これらの諸課題について調和のとれた土地利用計画を作成することが期待される。また、農山漁村において生産地域と併せ居住地域等を一体的に扱う観点から、国土利用計画を始めとする土地利用関係計画の一層の活用、運用改善が図られる必要がある。これに対し、国は、@土地に関する各種計画間の調整が円滑に進むよう体制を整える、A情報の収集・提供や技術的支援の提供の体制を整えるなどの措置を講じ、前述の趣旨を踏まえ、目指すべき土地利用の実現に向けて地方公共団体が策定する土地利用計画の充実が図られるよう努める。 3 国土行政の情報化の推進 高度情報化時代の到来にともない、様々な主体が蓄積、利用する国土空間に関する情報の集 積は、公的主体が行政事務の立案、遂行等に利用するのみならず、民間企業や国民がこれを広く活用し、高度情報化時代における基盤を形成するものである。 このため、国土政策の立案や検討の基礎をなす基盤的な国土情報の整備を含め、国土行政の情報化を一層進めることにより、国土行政の高度化・効率化を図る。加えて、国、地方公共団体が協力して、国土空間情報を整備、利用するための共通の規格やルールを策定するとともに、こうした情報をデータベース化し、データベースを広く利用・活用できるよう努める。 また、国や地方公共団体が蓄積した基盤的な国土情報について、利用や加工が容易な形式で公開することにより、国土政策の立案や検討の過程で広く国民の意見を求めるための基礎を形成するとともに、これを利用した新しい産業の創出にもつながることが期待されることから、各種の媒体を利用した積極的な公開を推進する。 4 新たな国土計画体系の確立 現行の国土計画体系は、昭和25年の国土総合開発法制定を始めとして、昭和30年代を中心とした多くの関連諸法令の制定、さらに昭和49年の国土利用計画法の制定を経て構築されたものであるが、現在、国土計画の理念の明確化の要請や地方分権、行政改革等の諸改革に対応する必要が生じている。このため、国土総合開発法及び国土利用計画法の抜本的な見直しを行い、以下に掲げるような21世紀に向けた新たな要請にこたえ得る国土計画体系の確立を目指す。 (国土計画の理念) 国土計画の理念は、国土の開発のみにとどまらず、国土の利用や保全にまで広がる広汎なものとなっている。国民の価値観の多様化や経済社会情勢の変化に的確に対応しつつ新しい時代の国土づくりを進めるため、これらを総合的な理念として国土計画体系に明確に位置付ける。 (諸改革を踏まえた対応) 地方分権、行政改革等の諸改革を踏まえ、国土計画における全国計画と地方計画の位置付け及び役割の明確化、多様な主体の意見を反映し得るような計画策定手続の整備等を図る。 (指針性の充実) 国土基盤整備を重点的かつ効率的に行う観点から、また、地域のニーズに応じた国土づくりを行う観点から、国土の開発、利用及び保全に関する他の計画との関係で、国土計画の内容が実効あるものとなるよう、指針性の充実を図る。 なお、地域開発に関係する諸法令の下での計画体系については、それぞれに異なる目的、意義等を有するものであるが、時代の変化にともなう新たな政策的要請への対応が求められる。このため、今後、新たな国土計画の理念や国土計画体系の明確化をも踏まえ、そのあり方を検討する。 第2部 分野別施策の基本方向 第1章 国土の保全と管理に関する施策 自然の恩恵と脅威という二面性を考慮しつつ、安全で自然豊かな国土づくりを進める必要がある。我が国は、多様な動植物が育まれ、変化に富んだ美しい自然環境を有している一方で、地震災害、風水害等の自然災害を受けやすいという条件にあり、このような国土の条件と歴史の中で、人と自然との様々なかかわり方が培われてきた。その中で、環境を持続的に維持しながら、自然を有効に活用する生活の知恵や、平常時は表に出ないが、災害時に避難行動や相互扶助等の形で現れる「災害文化」とも呼び得る地域の潜在的文化が根をおろしてきた。近代化、都市化の過程で自然との接触が減り、生活様式が変化する中で、このような自然認識は希薄化してきており、改めて自然の二面性を念頭に置きつつ、21世紀における人と自然の望ましい関係の構築を目指す。 @ 阪神・淡路大震災にかんがみ、危機管理体制の充実、個人や地域コミュニティの役割の再認識、災害が必ず起こるものであることを前提とした対策等、国土の安全性の向上を目指した対策を推進する。 A 国土の自然を将来世代や世界と共有する資産として引き継ぐため、野生生物の生息・生育に配慮した国土の形成、開発事業に際しての環境保全措置の実施、地球温暖化対策、廃棄物対策等による自然界の物質循環への負荷の低減等への積極的な取組等を進める。 B 安全で自然豊かな国土を目指し、自然の系である水系と、これに関連する森林、農用地、都市等により構成される流域圏において、健全な水循環の保全、再生や国土の管理水準の向上に向けて、横断的な組織を軸として地域間や行政機関相互の連携を図りつつ、対策を充実する。 C 沿岸域の総合的な保全と利用を図るため、自然の系を中心として共通性を有する沿岸域圏において、地域の連携による様々な取組を行う。 第1節 国土の安全性の向上 1 国土の安全性を確保するための防災体制等の確立 (1) 減災対策の重視 阪神・淡路大震災のような大規模な自然災害にも対応できるよう、防災対策を強化する。その際、災害の発生を未然に防止するという視点だけでなく、災害に対してしなやかに対応し、生じる被害を最小化するという視点に立った「減災対策」を重視する。 このため、緊急時に対応した交通、情報通信基盤整備、工作物等について重要度に応じた設計基準の導入、少頻度でも発生の可能性のある大きな外力に対する構造物の耐震性能等の確保等について推進する。また、地震観測網を始めとした災害に関する観測体制の整備を行うとともに、災害・防災に関する研究を推進し、自然災害の予測に努める。地域の災害危険度の評価を行い、結果の公表を行うとともに、これを地域開発や土地利用に反映させるよう努める。 また、地域、企業、行政機関等において、災害の種類・規模に応じた災害対策マニュアルを整備するとともに、情報連絡体制、避難・救援・救護体制、ボランティア活用の仕組み、行政機能・企業活動のバックアップ体制を強化するなど、災害時に適切な対応が図られるよう体制の整備を図る。その際、災害弱者について配慮するとともに、都道府県、市町村相互の広域的な協力体制を推進する。 (2) 個人やコミュニティの役割を重視した防災生活圏の形成 防災対策において、住民やコミュニティの自主的な行動と自衛的手段の強化が重要である。このため、地域の防災拠点等を核とした地域の「防災生活圏」の形成を促進し、災害危険度の公表等による住民啓発、防災訓練等により、災害の発生可能性を視野に入れた行動の定着を図る。また、学校教育や社会教育において、地域の災害特性、災害履歴等に関する防災教育を充実する。さらに、地域防災の主体となる、消防団、水防団の強化、地域の自主防災組織の機能強化を図る。これらの活動を支援するため、地域の拠点となる防災拠点や防災公園等の整備を推進するとともに、学校、公民館、行政機関の建物等を災害時に応急的に活用できるよう整備を促進するなど、一般の施設と防災施設との相互の連携を図る。 各々の「防災生活圏」が連携し広域的な防災対応を行うため、防災拠点間の連絡・連携を強化するとともに、広域防災拠点の整備充実を図る。また、企業や医師会等地域団体との連携により、災害時にその力を活用できるよう、地方公共団体等とこれらの団体等との協定の締結等を促進する。 (3) 様々な災害形態への対応と危機管理体制の充実 都市への人口、諸機能等の集中、日常生活の社会基盤への依存の増大、高度情報化、高齢化、国際化等の状況の変化にともない、事故災害も含めて様々な災害形態が生じているとともに、一たん災害が発生した場合に複合的な影響が生じるなど、災害に対する脆弱性が増している。 このため、起こり得る災害形態を想定し、被害の最小化に向けた防災施設、機器等の整備、安全基準・防災計画等の整備、訓練や経済的なリスクの分散等、ハードとソフトを適切に組み合わせた総合的な防災対策を講じる。さらに、国、地方を通じて、広域的に影響の及ぶ自然災害や大規模な事故災害に関して高度で専門的な防災機能を充実し、危機管理体制の充実、基幹的施設の安全管理の強化を図る。また、生活様式の変化に応じた防災知識の普及、新たな防災技術の開発、新たな災害文化の構築を促進するとともに、災害時における国際的な協力体制の確立を図る。 (4) 復旧、復興のための対策の充実 被災した地域の機能回復と再度災害の防止のために、発災後の災害復旧の迅速な実施及び改良復旧を、周辺環境にも配慮しつつ行うとともに、大災害に対応できるよう、復旧、復興のための制度の充実を図る。 2 阪神・淡路地域の復興 阪神・淡路地域の復興については、「生活の再建」、「経済の復興」及び「安全な地域づくり」を基本的課題として取組んでいるが、その成果や経験は、人口、産業が集中した大都市地域直下型地震による災害からの復興として、様々な意味でこれからの安全な国土づくり、地域づくりに生かされるべきものであるので、長期的な視野に立って、官民の良好な協調関係を基本とし、地域の発想を生かし活力を引きだしつつ、諸対策の円滑な推進に努める。 「生活の再建」のために、応急仮設住宅の早期解消等被災者の居住の安定のための住機能の充実、被災者の就職支援等による雇用の安定の確保、生活における心のゆとりやふれ合いにも配慮した被災要介護高齢者等の支援策の充実、災害時にも対応できる医療供給体制の充実、教育活動の回復のための諸施設の復旧、うるおいとやすらぎのある生活環境をとり戻すための文化活動への支援等を推進する。「経済の復興」のために、復旧、復興を支える交通、情報通信基盤の整備、経済復興に資する産業支援体制の整備等を推進する。「安全な地域づくり」のために、オープンスペースとリダンダンシーの確保のための交通基盤とを兼ね備えた安全で快適なまちづくり、防災性を有するライフラインの整備、応急災害対策に資する公共施設の整備等を推進する。 また、阪神・淡路復興委員会の提言による復興特定事業については、提言を踏まえ、適切に対処していく。 3 災害に強い国土づくりの推進 国土を保全し、国土の安全性を確保するため、治山・治水施設、海岸保全施設等の国土保全施設の整備を推進するとともに、災害に強い地域づくりを進める。その際、自然環境、日常時の多目的利用、景観、快適性等について配慮するとともに、高度情報通信技術による災害に関する情報等の活用と情報通信基盤の整備を図る。また、火山災害について、災害を事前に察知、予防するために、火山現象の予知技術の開発、監視、観測研究体制の充実強化や火山砂防対策等を推進するとともに、発災後の二次災害防止のための措置を充実する。 第2節 豊かな自然の保全と享受 国土の自然環境を美しく健全な状態で将来世代に引き継いでいくため、国、地方公共団体、事業者、民間団体、住民等様々な主体の参加と連携の下に、科学的知見の充実や技術の開発を進めつつ、問題の性質に応じて、環境影響評価、社会資本整備、環境教育、情報提供、経済的措置、規制的措置等を適切に組み合わせ活用する。その際、取組を効果的に進めるために、環境政策上の長期的な目標に関する指標の開発、活用を行うとともに、地球温暖化対策、廃棄物対策等の課題に関する適切な目標の下に、施策を計画的に展開する。 1 自然環境の保全 国民の自然志向、生物の多様性の確保への要請を踏まえ、また、地域の自然的、社会的特性やラムサール条約等の国際的な取決めを考慮しつつ、まとまりのあるすぐれた自然環境を有する国立公園等を美しく健全な国土を形成する上での基礎的な蓄積として保全、整備するとともに、農林水産業等を通じた二次的な自然の維持、形成、市民団体等との連携による里山林等の維持、形成等を進める。同時に、人工化の著しい市街地等の土地、沿岸域等において、公共的施設整備等の事業により、樹林地、水辺地の創出、再生等を図るとともに、人工構造物も活用して緑化空間や生物生息空間等を整備し、自然的環境の回復を図る。 (1) 国土規模での生態系ネットワークの形成 国土の自然環境の保全、回復を図る際には、野生生物との共存に向けて均衡のとれた安定した生態系を成立させるという観点から、地球規模、全国規模、地域規模等様々なレベルの生態系のまとまり等を考慮した上で、野生生物の生息・生育に適した空間の連続性、一体性を確保すること、換言すれば、国土規模での生態系ネットワークの形成を目指すことが求められる。こうした認識の下、脊梁山脈部やこれとつながる流域、沿岸域等において、多様な野生生物が生息・生育できるような自然環境からなる系統的、骨格的、持続的な生物生息空間の維持、形成を図り、さらに、各地域において、このような空間とのつながりを考慮しつつ、その特性に応じた生物生息空間の維持、形成を図る。 このため、現存する良好な自然環境を保全するとともに、改善が必要な区域においては、野生生物の生息・生育に適した自然環境への誘導、転換等に向けた整備を進める。また、人工構造物の設置に際しては、生物生息空間の分断の防止に向けて適切な配慮を行う。さらに、このような取組の基盤となる、野生生物等に関する情報の整備とこの情報を基礎とした生物生息空間の維持、形成に関する計画図(エコ・ネット・マップ)の作成を進める。あわせて、生態系の均衡の維持、国民理解の醸成という観点から、野生生物の個体数管理、被害防止施設の整備、啓発拠点の整備や人材の育成等訪問者受け入れの条件整備等を進める。 (2) 自然とのふれあいのための条件整備 保全、回復された自然環境については、国立公園等の自然維持地域、農山漁村、都市といった地域の特性を考慮しつつ、自然とふれあい、自然への理解を深める場として活用するため、保健休養、自然観察、野外生活体験、農林漁業体験等のための施設や広域的な歩道網を計画的に整備するとともに、自然環境保全活動への参加の促進に向けた人材の育成や情報提供、費用徴収を含めた管理の充実等を進める。 (3) ミティゲ−ション(環境影響の回避、最小化と代償) 国土開発に係る事業の実施に際して、自然環境の保全を図るには、環境影響評価の実施等を通じて、保全すべき場所の改変を避け、あるいは、これを最小にするなどの対策を優先しつつ、適切な対策を講ずる必要がある。 このため、@回避、最小化対策の検討の基礎となる環境情報の体系的な収集、整備と情報を広く提供するための体制の整備、A施設の立地を計画する等の早期段階からの環境保全に関する調査、検討等を地域住民、専門家等の参加を得つつ進める。また、影響の回避、最小化の観点に立った対策をとることが困難な場合には、改変される自然環境の代償となるような自然的環境を地域の自然環境の特性を踏まえつつ、計画的に整備し、継続的に管理することが重要であり、このため、@代償的措置や事後調査、それらの実施後の追加的措置の充実、A事業主体及び代償的措置の実施主体と経費負担のあり方についての検討等を進める。 2 自然界の物質循環への負荷の少ない暮らし 美しく健全な国土を回復するには、国土で展開される事業活動や生活活動による自然界の物質循環への負荷を少なくすることが不可欠であり、このような暮らしの実現に向けて、環境保全対策を推進する。 (1) 地球温暖化対策 地球温暖化は、人類の生存基盤にかかわる最も重要な環境問題の一つであり、被害が生じてから対策を講じることが著しく困難な不可逆的な問題であることから、将来世代に対する現在世代の責務として、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出抑制等の取組を積極的に講じていく必要がある。 このため、温室効果ガスの排出の少ない都市・地域構造、交通体系、生産構造やエネルギー供給構造の形成に必要な基盤施設の整備等を進め、国民一人ひとりが身近なところから生活様式を見直すための意識啓発と取組への参加を促すとともに、二酸化炭素の吸収と貯留の観点から、森林や都市等の緑等の保全と整備、木材の利用を進める。同時に、このための技術の研究開発、普及等を進める。また、自然界の物質循環への負荷の少ない国土を形成する観点から、気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議)で採択された京都議定書の着実な実施に向けた地球温暖化対策について総合的に検討を進め、必要な措置を講ずる。加えて、地球温暖化対策のための経済的措置に係る調査研究を進める。 (2) 廃棄物・リサイクル対策 廃棄物の量の増大や質の多様化、最終処分場の逼迫等の問題に対応するため、廃棄物等の発生抑制、再使用、原材料としての利用、エネルギーとしての利用を進めるとともに、発生した廃棄物等についてその適正な処理を行っていく必要がある。 このため、廃棄物や建設副産物の種類に応じた資源の回収・利用体制の充実、整備等を図るとともに、リサイクル関連施設、焼却熱を活用し得る処理施設等の整備を進める。また、地域間の連携、環境の保全を図りつつ、最終処分場の確保を進め、特に大都市圏内の広域処理を推進する。加えて、最終処分場の設置と維持管理に対する規制や手続の整備、不法投棄対策の強化、原状回復措置の充実、公的関与による産業廃棄物処理施設の整備等を進める。 (3) 自然の浄化能力等の活用 自然の浄化能力や自然エネルギーに恵まれている地域では、物質循環への負荷の低減を図るにあたり、これらを活用することが重要である。 このため、物質循環の視点を考慮しつつ、@森林、水田、河川、藻場、干潟等の保全、整備、A化学肥料や農薬の節減、家畜糞尿のリサイクル、B汚水処理施設の整備、C風力、地熱、廃熱等の地域エネルギーの有効活用施設の整備等を進める。さらに、生ごみ、汚泥等から創られる再生資源の効果的利用を図るため、都市部と農山漁村との連携強化に向けた条件整備を進める。 (4) 都市・生活型公害等への対応 人口、諸機能の集中等にともなう環境悪化が進んだ地域では、環境の回復に向けた取組を強力に進める必要がある。 このため、窒素酸化物等による大気汚染、交通騒音、閉鎖性水域の水質汚濁等の解決に向けて、総合的に対策を進め、また、地下水の保全と回復のために必要な対策を講じる。さらに、大気、水域等を美しく快適な状態に回復させるための取組を促進する。 また、ダイオキシン類や内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)等、人の健康や生態系に有害な影響をもたらすおそれのある化学物質の環境リスクを低減させるための取組を推進する。 3 地球時代の環境国際協力 我が国は、国際社会の中で率先して地球環境問題の解決に向けて取り組むとともに、東アジアのモンス−ン地域に位置する国土の地理的特性をも考慮しつつ、協力関係を構築、強化することが必要である。 このため、環境に関して相互理解を深めるための、草の根から地域、国までの様々な段階の国境を越えた交流、連携を促進する。さらに、これらを基礎として、国際的な取決めを考慮し、また、我が国が培ってきた環境の保全に関する技術や経験を生かしつつ、温室効果ガスや酸性雨原因物質等の排出の少ない地域づくり、森林の造成、湿地の保全等について協力を進める。あわせて、地球温暖化対策等に関する国際的な検討に積極的に参加していく。 第3節 流域圏に着目した国土の保全と管理 1 流域圏に着目した国土の総合的な整備 都市的土地利用の進展、生活様式の変化等にともない、人間社会とのかかわりの中で流域の姿は大きく変貌し、あるべき健全な水循環系の姿が失われつつあるとともに、特に中山間地域等において、過疎化、高齢化が進展する中、森林・農用地の適正な管理が困難となってきている。21世紀において、国土の持続的な利用と健全な水循環系の回復を可能とするため、流域及び関連する水利用地域や氾濫原を流域圏としてとらえ、その歴史的な風土性を認識し、河川、森林、農用地等の国土管理上の各々の役割に留意しつつ、総合的に施策を展開する。 (1) 流域圏における施策の総合化 水質保全、治山・治水対策、土砂管理等、水循環を介して流域圏と密接に関連する水や土砂に関する諸問題や、国土の土地利用の大宗を占め、公益的機能の発揮が期待される森林、農用地の適正な管理に関する問題は、行政上の区分を越えて広域的、複層的であり、多分野にわたる課題をかかえている。このため、自然の系である水系と、これに関連する森林、農用地、都市等により構成される流域圏を基本的な単位とし、これらの諸問題に対応する横断的な調整、連携を行うための協議会等の組織化について検討し、その具体化を図る。また、流域の水循環機構の総合的な調査検討を進めるとともに、水循環を介して密接に関連している河川水、地下水等を総合的に管理、保全する方策の必要性及びそのあり方について検討する。 (2) 健全な水循環の保全・回復 上流の水源地域の問題は、水源地域だけではなく、受益を享受する下流地域等と一体となって解決すべき問題である。このため、流域の水源かん養機能の保全と回復を目指し森林整備を進めるとともに、両地域の連携により、水源地域保全のための基金の活用、公的主体の水源林保有の推進等、水源地域対策の充実を図ることを通じて水源地域における国土管理を充実する。また、下流域・丘陵地においては、様々な主体により雨水浸透等による地下水のかん養を進めるとともに、下水道高度処理水を河川へ還元するなど、水循環の健全性を回復する方策を検討する。 (3) 流域意識、上下流意識の醸成 水の問題に対する国民の意識の高揚、自然への関心の高まり等から、流域サミット、森林、農用地、河川等を活用したイベント、文化・自然の研究、水質保全等への取組等、流域に関して様々な市民活動、自治体活動が行われている。これらの諸活動への支援を通じて、地域の風土性として培われてきた流域意識や上下流意識の再構築を目指す。このため、森林や水辺の交流拠点の整備、都市部の施設の上流域への立地等について、関係機関の連携による支援を行うとともに、市民活動のネットワーク化、川づくりや森づくりへの住民等の参加等を促進する。 (4) きれいな水、おいしい水の保全と回復 きれいな水、おいしい水への国民の希求の高い中、汚水処理施設の整備、農業用用排水施設、河川、ダム貯水池等における水質浄化等を推進し、河川、湖沼等の水質保全を図る。また、これらの事業を、流域圏全体で効率的かつ効果的に展開するため、事業間の連携や施策の調整を行う。その際、市街地、農地等の非特定汚染源への対策、地域住民、企業、NPO等の参加と連携について配慮する。また、水道水の供給に当たっては、浄水処理の高度化を重点的に推進するとともに、感染性微生物対策等の水道水質管理を強化する。 さらに、汚水処理施設の設置だけでは不十分な地域や湖沼等閉鎖性水域等の水質改善のために、自然の浄化能力等を活用した水質浄化技術の開発を促進する。また、水質事故への対応等、水質に関する危機管理の充実を図る。 2 安定的な水資源の確保と有効利用 近年の降雨量の不安定化傾向等により、利水に対する安全度が低下し、渇水が起こりやすくなっていることに加え、工業用水の高度利用、生活様式の変化等により、渇水が及ぼす社会的な影響が増大している。また、水資源の賦存状況の偏在等から依然渇水の生じやすい地域が存在している。これらに対応するために、流域圏での総合的な施策展開を図る。 (1) 水資源の有効利用 「節水型社会」を目指し、都市域における雨水、下水処理水等の有効利用を促進するとともに、節水意識の啓発、節水型家庭用品の普及、水道の漏水対策、工業用水の回収率の向上等を推進する。また、地盤沈下等の地下水障害を発生させないよう、地下水の保全と適正な利用を図る。さらに、現行の水利用の実態を明らかにした上で、農業用水、水道用水、工業用水等各種用水の必要量の変化、水環境維持・改善のための新たな水需要等を踏まえ、地域の意向や現代の社会状況に対応した合理的な水利秩序の形成に向けて検討を進め、その実現を図る。 (2) 渇水対策の強化と水資源開発 渇水対策の強化のため、渇水調整のための協議会等を活用するとともに、必要な施設整備を推進する。また、異常渇水時の用途間、地域間の水融通を適正かつ円滑にするため、補償等の観点を含め、有効な調整方策の検討を行い、関係者間の調整を図る。 都市用水需要の増大、水資源開発の遅れ等により、利水に対する安全度が低い水系等において、水資源開発等により利水の安全度を確保する。また、離島、半島等の水資源に恵まれない地域において、生活貯水池、海水淡水化、地下ダム等多様な手段による安定的な水資源の確保を図る。これらの整備を行う上で、既設ダムの再開発、ダム群の連携等、既存の施設を有効に活用する。また、農業水利施設の更新等に併せて農業用水の再編を行い、潜在的余剰水の有効利用を図る。限られた水源を効率的に運用できるよう、河川間を結ぶ調整河川の整備、水道広域化施設の整備等による広域的な水供給システムを整備する。 3 水系の総合的な整備 都市化にともなう洪水量の増大、河川水質の悪化、湧水の枯渇等による河川水量の減少、流出土砂量の変化等、流域の土地利用や水利用の変化にともない顕在化した治水や水環境上の様々な問題に対応するために、流域で連携した総合的な取組を行う。また、ふだんの川の機能に着目した河川整備を推進し、流域における人と川の関係を再構築する。 (1) 流域、氾濫原と一体となった治水対策 洪水・土砂災害に対する安全性を確保するため、総合的な流域対策、洪水に強い社会づくり、施設計画規模を超過する洪水等に対する減災性の確保等、流域圏単位での総合的な取組を推進する。このため、河川が氾濫した場合にも被害を最小限にくいとめるため、河川周辺の樹林帯等の保全、洪水・土砂災害危険区域図、避難図の公表等の氾濫原等における対策を推進する。さらに、洪水・土砂災害にかかわる施設については、適正な土砂管理に配慮した砂防施設の整備、まちづくりと調和し流域の視点に立った河川、下水道、ダム、放水路等の整備、土石流・がけ崩れ・地すべり等に対する施設の整備、市街地に隣接する山麓斜面の樹林帯の保全、整備等を推進する。また、災害対応や河川管理の高度化等を図るため高度な情報通信基盤等を整備する。河川整備等については、長期的な河川整備の目標の下、当面21世紀初頭において、大河川において30年から40年に一度、中小河川及び土砂災害対策については5年から10年に一度の降雨規模を対象とした整備を行う。 また、大都市域等においては、洪水が生じた場合の被害の可能性が大きく、広域的に被害が波及する恐れのあることから、河川整備の早期完成を目指すとともに、施設整備規模を超過する洪水に対する減災性に考慮し、まちづくりと一体となった高規格堤防の整備、大洪水や地震に対する耐災性を高めるための堤防の構造強化を行うとともに、浸水常襲地域の解消のため、排水機場を整備するなど下水道施設整備や治水施設整備を推進する。 一方、中山間地域等においては、洪水・土砂災害による地域の孤立の危険性の高いことから、集落の安全を確保する洪水対策、土砂災害対策等を推進する。 (2) 流域、沿岸域を視野に入れた総合的な土砂管理 河床低下、海岸線の後退等に対処するため、山腹から海岸に至る一連の土砂の流れについて調査、研究を進め、生態系にも配慮した総合的な土砂管理を目指す。このため、陸域においては、貯水ダムの排砂施設、中小洪水時等に土砂の流れを妨げない砂防ダム等の開発等を行う。沿岸域においては、海岸沿いの砂の流れを確保し、砂浜を維持・回復するための工法等の開発、整備を推進する。また、沿岸域の安全を確保するため、高潮、津波、波浪等の外力条件、海岸侵食及び後背地の状況に応じた海岸保全施設の整備を推進する。 (3) 河川空間の自然性と水辺の快適性の向上 自然をいかした川を目指し、河川空間の自然性と水辺の快適性を向上させるため、防災上の配慮や自然になじむ新素材の開発等を行いつつ、自然河岸・河川周辺の樹林帯等の保全、河道の再自然化、多自然型川づくり、魚道の設置等、河川環境の保全、整備を進める。また、高齢者、身障者等にも配慮した人々が親しめる水辺づくりを行うなど、ふだんの川の機能に着目した整備を行う。ダム貯水池等においては、地域にひらかれたダム湖周辺の整備を行うとともに、副ダム等による定常的な水面の確保、湖岸の緑化等により水辺環境の向上を図る。都市部においては、緑地、水路、河川等の整備を連携して行うことにより、水と緑のネットワークを形成し、都市の快適性や防災性の向上に資する。 4 森林の管理 (1) 森林管理の基本方向 国土の3分の2に及ぶ森林については、国土の保全や水資源のかん養等の公益的機能を確保すると同時に、再生産可能な資源として持続的に利用することが肝要である。 しかしながら、近年、林業と木材産業の停滞、森林管理の担い手の減少と高齢化、それらにともなう森林の管理水準の低下がみられるなど、旧来の森林管理の仕組みが十分に機能しなくなっている。一方、自然災害や渇水等に対する関心の高まりにつれて上流等の森林にも着目されるようになるとともに、自然環境や生活環境の保全、交流の場としての利用や、保健的、文化的、教育的な利用等への要請、さらには、森林づくりに参加したいという要請が高まっている。 こうした状況を踏まえ、以下のような基本方向で森林管理に取り組む。 (持続可能な森林経営の推進) 地球環境問題への対応の一環として、世界の森林を舞台に「持続可能な森林経営」の推進に向けた取組が展開されている中で、我が国においても、海外との技術協力等の推進に加えて、国内の森林は地球全体の森林の一部という認識の下、その推進を図る。この場合、持続可能な森林経営の推進を基本的な理念とした上で、国民の森林に対する要請の高まりを踏まえ、林業経営を通じた管理を基本として、各種の整備事業や保全対策を有機的に組み合わせ、計画的に森林資源の質的充実に取り組む。 (21世紀型の森林文化の展開) 我が国では、森林に恵まれた国土条件の下、日常生活、産業、建築、信仰や芸術等の様々な面で森林と深くかかわった「森林文化」を形成してきた。こうした歴史の中で、薪炭や木材等の林産物の確保に加え、水田稲作農業に不可欠な水や肥料の確保等のため、上流の森林や里山林を保全しながらその恩恵を有効に享受していく森林管理の仕組みがこれまで培われ、これが森林文化の根幹をなしてきた。今後は、森林の重要性につき国民意識の一層の向上に努めつつ、都市と山村の交流や連携の推進等による森林とのふれあいや森林づくり等森林管理の仕組みの再構築、再生産可能な木質資源を持続的・安定的に利用するライフスタイルの定着への取組等により、21世紀型の森林文化の育成に取り組む。 (森林管理の充実への対応) 森林は、大気、水、土壌、樹木を中心とする植物、動物等からなる森林生態系を形成しており、下流域を含めた国民の生活と生態系の持続性に密接にかかわっている。また、地域から産出される木材の利用促進は、林業の活性化につながり、地域の森林管理が一層充実したものとなる。こうした考え方の下、民有林と国有林、林業と木材産業、上流と下流等の広範な関係者間における合意形成と連携強化を図り、地域の特性を踏まえた森林の流域管理システムの推進を通じて、森林の整備、林業の活性化等に取り組む。また、国民の森林づくりへの参加や森林の公益的機能の維持・増進、さらには、森林管理の充実を進める条件として、山村の活性化に取り組む。 また、国有林については、国土の保全や原生的な森林生態系の保全等の役割にかんがみ、国有林野の管理経営を木材生産機能重視から公益的機能重視に転換するなど、国有林野事業の健全な運営を通じて、その使命が十全に果たされるよう、国民の要請と時代の変化に対応し、その新たな展開を図る。 (2) 21世紀に向けた森林管理の推進 (森林の総合利用の推進と新たな活用) 森林への理解の醸成を念頭に置きつつ、国民が様々な形で森林に親しみ得る環境の整備を図り、森林の総合利用を推進する。この際、青少年を始めとする国民各層が、人と森林とのかかわり、森林生態系の仕組み、森林の機能等について、身近な森林とのふれあいや、グリーン・ツーリズム等を通じ、体験し、学習できる体制の整備を図る。また、様々な主体が、山村の生活に触れるとともに、自ら参加し森林を育むなど、森林文化を共有し、これを培う機会の充実を図る。さらに、これらの基盤として、森林や、森林の散策等に供する歩道等の森林利用施設の整備に併せて、森林インストラクターの育成、地元の関係者の持つ技術の活用、インターネットの活用等による情報提供等のソフト面の整備も促進する。 このほか、森林の新たな活用を目指し、森林を生かした居住空間や業務空間の形成に取り組む。 (森林管理の主体づくり) 国民参加の森林づくりを推進するとともに、上流と下流の協力を促し、分収林、森林整備のための基金等の活用を推進するなど、森林管理の多様な展開を図る。また、林業経営体や林業事業体の自助努力を基本としつつ、これらに対する適切な支援のほか、森林管理を行う第三セクターの一層の活用等、関係者の連携の下、新規参入を含めた担い手に対する総合的支援を図る。さらに、森林づくりへの参加意欲を実際の森林管理の力に育てるといった観点から、都市と山村の交流や連携を促進する。このほか、森林所有者の地域外への移転等により管理がなされなくなった森林の管理は重要な課題であり、林業経営体、森林組合等による施業受託に加えて、公的機関による森林管理を促進するなど、的確な対応を図る。 (計画的な森林整備の推進) 多様な主体の参加と連携を促進しつつ、現状の森林構成や森林への要請を把握した上で、以下のような森林整備を長期的な視点を持って計画的に推進する。@荒廃地等への植栽、間伐や保育、複層状態の森林の整備、保全施設の整備等を推進し、水土保全機能の高い森林を整備する。A生物多様性の保全、人と森林とのふれあいの促進のため、多様な生態系の保全とそのネットワーク化、混交林化、都市近郊林や里山林の保全、森林景観の整備、広葉樹の保全・育成、保健休養施設の整備等により、美しく健全で親しみのある森林を整備する。B再生産可能な森林資源の持続的利用のため、二酸化炭素の吸収機能も考慮しつつ、高度な循環利用が可能な森林を整備する。 また、森林の管理等に欠かせない林道等路網の整備を推進するとともに、保安林については、治山施設の整備等により、その機能維持及び機能強化を図る。さらに、持続可能な森林経営の推進に関する調査、研究、普及を推進する。加えて、森林の適切な管理に不可欠な森林の資源内容等の情報整備の充実を図る。また、高齢化等が進展する地域では、今後の森林管理の展開を踏まえつつ、必要に応じて所有や境界等の明確化を図る。 5 農用地等の管理 農用地は、国土の約14%に広がりそこに農業用用排水路やため池が網状に張り巡らされ、食料生産の基盤として豊かな国民生活を支えている。また、その適切な維持管理は、棚田等水田の雨水貯留・土砂流出防止、平地水田の遊水機能や、休養や休息等レクリエーション、農業用用排水路、ため池等によるうるおいある水辺環境の創出等美しい景観や豊かな自然環境の提供、子供の情操や社会教育の場の提供等公益的な効果の発揮にも寄与しうるものであるが、近年、中山間地域等において耕作放棄地が増加するなど農用地等の適正な管理が困難になってきている。 こうした状況を踏まえ、以下の施策を推進する。 (1) 農用地等の管理の総合化 農業の健全な発展と優良農地の維持及び確保が行い得るよう総合的な施策の展開を推進する。特に、農用地等の基盤整備や農道の整備、農用地等の防災対策の実施は、農用地等が適切に保全管理されるための基礎的条件であり、中山間地域等において地域の条件に応じた整備を推進する。さらに、地域住民等による農用地等の管理システムの整備、地域住民等と地方公共団体や企業とのパートナーシップの向上による地域の環境改善への支援強化を推進する。また、過疎化等が進行し棚田が残る地域等農用地等の荒廃が懸念される中山間地域等では、@農山村と都市や消費者との交流、連携の推進、A地域の状況に応じて国民の理解を得つつ、公的支援を図るとともに、関係する市町村、農業協同組合、土地改良区、第三セクター等の一層の活用を推進し、農用地等の適切な管理及び担い手の育成を行う。 (2) 農用地等の利活用 全国各地で展開される農用地等の適切な管理に向けての地域活動を支援するとともに、国民が広く農用地等と触れあえるよう、グリーン・ツーリズムや美しいむらづくりを推進する。このため、耕作放棄地等を樹林帯や花畑等に転換、豊かな自然環境の保全、回復のためのビオトープ・ネットワーク等の整備、都市住民に農作業の場等を提供する市民農園の活用、さらに農作業を通じてレクリエーションや体験学習を行うための施設整備と支援システムの充実を図る。その際、農業の活動、農用地等の利活用等不断の適切な管理は、水質の保全等流域圏の水環境の保全、水辺環境の整備によるアメニティの向上等にも寄与しうるものである。 第4節 海洋・沿岸域の保全と利用 地球環境への意識の高まりと国連海洋法条約上の我が国の権利と責務を踏まえ、海洋・沿岸域を人類共有の財産として、また望ましい姿で子孫に引き継ぐべき貴重な国土空間として認識し、適正に保全するとともに多面的に利用していくことが基本である。 我が国の海洋・沿岸域は、それぞれの新しい国土軸に対応する黒潮、親潮、対馬海流に沿う地域と、西日本国土軸に対応する三大湾・瀬戸内海等が連なる地域に大きく分けられる。このような地域特性をいかし、以下の施策を行い、望ましい国土構造の形成に寄与していく。 1 海と人との多様なかかわりの構築 我が国の沿岸域は、厳しい自然条件の下に置かれているとともに、人口、資産の集積が進んでいる。このため、高潮、津波、波浪等による自然災害や全国的に顕在化している海岸侵食に対応し、国民の生命や財産を守り、質の高い安全な沿岸域を形成していくため、地震・津波防災対策の早急な実施、面的防護方式による耐久性の高い整備等の海岸保全施設の整備及び津波・高潮等の観測・情報伝達体制の高度化を推進する。 また、陸・海水系の相互作用の下にある沿岸域では、自然の持つ循環、復元性、多様性が劣化し、海岸侵食、富栄養化や赤潮、多様な生物の産卵・生育に重要な場の減少等の問題が生じている。このため、沿岸域の特性を踏まえ、陸域の取組と併せた自然と調和した土砂管理、水質、底質の改善及び干潟、藻場、砂浜等の浅場とその連続性の質的・量的な回復や自然の浄化能力の修復を広域的、総合的に進め、人間と自然が良好にかかわる美しく健全な沿岸域環境の復元・創造を図る。 さらに、臨海部・海岸を多様な機能をもつ空間として整備し、良好な景観の形成、パブリックアクセスの確保、海の魅力をいかしたウォーターフロントの整備を図る。また、海に由来する自然、生活、文化等にふれあう健康、保養、学習等のための交流、海洋をテーマとした研究・技術交流、漁業等の海洋関連産業の連携・交流、イベントの開催、海上交通網を活用した広域観光ルートの形成等「海流連携」とも言うべき海を通じた連携・交流を推進する。なお、海洋性レクリエーション利用者の組織化や利用ルールの策定、規制と併せたプレジャーボートの保管場所の確保とその広域的ネットワークの形成を進める。 2 沿岸域圏の総合的な計画と管理の推進 沿岸域の安全の確保、多面的な利用、良好な環境の形成及び魅力ある自立的な地域の形成を図るため、沿岸域圏を自然の系として適切にとらえ、地方公共団体が主体となり、沿岸域圏の総合的な管理計画を策定し、各種事業、施策、利用等を総合的、計画的に推進する「沿岸域圏管理」に取組む。そのため、国は、計画策定指針を明らかにし、国の諸事業の活用、民間や非営利組織等の活力の誘導等により地方公共団体を支援する。なお、沿岸域圏が複数の地方公共団体の区域にまたがる場合には、関係地方公共団体が連携し、特に必要がある場合には、国を含めた広域的な連携により、計画の策定、推進を図る。 なかでも、より良好な環境を形成するためには、広域的な視点から沿岸域をとらえ、長期的な目標を掲げ、段階的な計画により環境の復元、創造等を行うことが必要である。あわせて、多様な主体による個別の事業と計画との整合を図るとともに、管理者間の連携の取組を計画で位置付け、その総合的な推進を図る。 3 国際海洋秩序の確立と技術開発 排他的経済水域内の水産資源について適切な権利の行使と義務の履行のため、漁獲可能量制度により再生産資源の特性を生かした資源管理を一層進める。あわせて、開発による影響の緩和も含めた藻場等の良好な漁場環境の保全と回復、資源管理型漁業、栽培漁業等の展開、調査研究の充実により、資源の持続的かつ高度な利用を進める。また、21世紀のフロンティアである海の活用を進めるため、新たな船舶、浮体等による空間利用、水産資源の基礎生産力の向上とその高度利用等の技術開発及び実用化を進めるとともに、大陸棚の石油、天然ガス、深海底の鉱物資源、潮汐、波浪の海洋エネルギー等の調査、開発を推進する。さらに、海洋環境を保護・保全するとともに、地球温暖化、気候変動等の地球規模の諸現象の解明とその正確な予測並びに海洋・沿岸域における事故等への的確な対応のため、国際機関等とも協力しつつ、海洋に関する観測、調査、研究開発、情報整備等を進める。なお、海洋における資源開発・管理や調査・研究等を実施する際には、国際的な協力体制の確立も必要である。 第2章 文化の創造に関する施策 文化とは人々の生活、生き方、考え方そのものの表現であり、今日においては、単なる経済効率の追求を超えて、国民がゆとりある生活を送り、国際的にも普遍性を持った我が国独自の文化を形成することが求められている。このため、ハードとソフトの両面において、ゆとりある生活を実現するための施策を展開するとともに、自然と人々の生活が織りなす国土を世界に誇るに足る美しいものに再生することが求められている。また、地域の特色ある文化は、地域のアイデンティティを形成し、住民が自らの住む地域に誇りと愛着を持つ契機となり、個性的で多様な地域づくりを支える柱となるものである。こうした観点から、人々の暮らしの選択可能性を高める多様な国土を形成するためにも、個性豊かな地域文化の創造と発信が求められている。国土政策においても、個々の文化振興施策の積み重ねだけでなく、文化を広く国民の生活様式としてとらえた総合的な対応が必要とされている。このため、文化に重点を置いた国土政策を次の基本的方向に沿って進める。 @ 文化や美観を重視した国土の再生を図るため、アメニティや景観に配慮した生活空間の形成を進めるとともに、歴史的街並みの保全や貴重な文化遺産の保護を推進する。 A 個性豊かな地域文化の創造と発信を図るため、地域における文化活動の環境整備、地域住民が身近に文化・スポーツ活動に参加する機会や場の拡充、芸術文化の振興を図るとともに、学術、文化、スポーツ等における国際交流を推進する。 B 内外との地域間交流による新たな文化の創出と地域の活性化を図るため、国内外からの観光等の交流を振興する。 第1節 ゆとりある生活空間の形成 1 自然や歴史と調和した美しい地域空間の形成 これまでの経済成長と都市化の進展の中で、生活空間のゆとりが失われるとともに、地域の歴史、文化を物語る街並みや農山漁村の風景が崩れ、長年にわたり地域に保存、伝承されてきた伝統芸能や風俗慣習等の伝統文化も生活とのかかわりを失いつつある。このため、美しさとゆとりのある生活空間の形成を進めるとともに、地域の文化遺産等を活用した個性豊かな地域文化を育て、地域の誇りと生活の充実感を感じられる地域づくりを進める。また、こうした地域独自の文化を開花させるため、地域の多様な主体が担い手として参加することが期待される。 (1) 美しさとゆとりを重視した生活空間の形成 農山漁村等においては、長年の管理により美しく維持され、景観としても価値のある農山漁村や森林の保全と活用を進めつつ、生活環境の整備、地域の美しい居住空間の形成等を図り、あわせて中小都市との連携により都市機能を享受できる環境を整備する施策を展開する。都市においては、個々の建物のみに着目するのではなく、色彩、形状等を含め、借景の思想を生かした周辺の自然景観やスカイラインとの調和を図るとともに、電線類の地中化による電柱の除去等を進め、あわせて、美観を損ねるおそれのある屋外広告物への規制の実効性を高めるため、地区計画、条例に基づく広告物協定等の活用を図る。また、都市公園、水辺空間、散策路等、人々がくつろぎを感じられるゆとりある空間を整備するとともに、建築物の壁面や屋上の緑化等により、緑にあふれ、季節感のある空間の形成を進める。あわせて、周辺と調和したパブリック・アートの設置等により、美観に優れ、ゆとりある都市空間を形成する。 また、我が国の歴史的環境の保全を図りつつ、歴史を生かしたまちづくりを進める観点から、歴史的に価値の高い伝統的建造物群の保存、活用等を通じた歴史的な街並みや集落の保護を促進するとともに、史跡や建造物等の保存、復元及び活用や、これらと一体をなす歴史的風土の保全を積極的に推進する。 (2) 個性と伝統のある地域文化の保存と活用 地域の風俗慣習や伝統芸能は、地域の生活や産業と密接に関連して形成、伝承されてきたものである。特に、中山間地域等を含む農山漁村においては、農地や森林、海とともに生きる個性豊かな生活文化が形成されており、食文化や伝統芸能、昔ながらの農器具、伐採用具、灌漑施設及び漁法等、有形無形の文化財として伝承されてきている。 こうした伝統芸能や工芸技術、全国各地で伝承されている風俗慣習、民俗芸能等の無形の文化財の継承と発展を図るため、各地域における無形の文化財の公開・発表事業等の推進により地域住民の理解と認識を深めるとともに、伝承者の育成、確保等を通じて伝統文化の振興とそれを活用した地域の活性化に努める。また、伝承が困難なものについては、電子メディア等を活用した記録作成によりその保存と活用を図る。 (3) 有形の文化財の保存と活用 各地域に存する建造物や美術工芸品等の有形の文化財の一層の保存と活用を図るため、文化財の種類や特性に応じた修理事業や防災施設等の整備を計画的に推進するとともに、地域の博物館等において、地域住民が文化財等に身近に親しむ機会を拡充する。また、産業、交通及び土木にかかわる構築物等、文化財としての認識や評価が定着していない近代の文化遺産について、多様な保護手法の一層の活用や拡充により適切な保護措置を講じる。埋蔵文化財の保存と活用について広く国民の理解と協力を得ながら、各行政機関が適切に役割分担しつつ相互に連携し、埋蔵文化財の保護を推進する。また、開発事業と埋蔵文化財保護との調整を円滑に進めつつ、埋蔵文化財に関する専門的知識や経験を有する人材の育成及び確保、地域連携による相互派遣等を推進する。さらに、出土品の収納保管や調査成果の活用を行う埋蔵文化財センターの整備等を推進する。 2 多様な主体による地域文化・ゆとりある生活の構築 地域住民がゆとりと充実感を感じられる生活の実現を図るためには、地域文化や地域づくりの本来の担い手であり、地域における生活の主役である地域住民が性別、年齢を問わず、その形成の過程に主体的に参加することが必要である。近年の住民の地域づくりへの参加意欲の高まりとボランティア団体や民間企業等の自発的な活動の活発化を踏まえ、多様な主体の参加と連携による地域づくりを進めるための施策を展開する。 (1) 地域におけるボランティア活動等の推進 地域住民がボランティア活動への参加を通じて、ゆとりと充実感を感じられる生活が実現できるようにするために、ボランティア休暇制度の導入等ボランティア活動への住民参加をより円滑なものとするための環境整備を図る。また、地域の貴重な自然や文化遺産等を守る上で、個人や団体が行う自然的歴史的環境保全のためのナショナルトラスト活動、グランドワーク活動等が重要な役割を果たすことから、これらに対する支援の充実を図る。 (2) 特色ある産業等を通じた地域文化の形成 特色ある伝統工芸や地場産業、商店街、観光等は、その地域に密着することで成り立っており、また、その地域固有の文化を支える基礎として地域産業が寄与している面も大きい。このように、地域の文化と産業は、地域の個性と豊かさを構成する両輪として密接な関係にある。かかる観点から、伝統的な地場産業等を核とするまちづくり等を通じて地域の活性化を図るとともに、伝統芸能、伝統工芸等に関連して様々な産業の活性化を図るなど、地域文化振興と地域産業活性化の連携による魅力的な地域づくりの展開を図る。 (3) 企業文化の創造 地域の文化や空間づくりを担う主体として、企業が個性豊かな美しい地域づくりに積極的に取り組むことが期待されている。このため、経営者及び社員が企業市民としての意識を持ち、それぞれの経営理念にあった活動を行うことができるような企業文化の創造と育成に向けた環境の醸成等を図る。また、芸術支援、自然保護等の分野における企業の社会貢献活動の推進のため、地域メセナ組織の結成と全国的ネットワークの形成を図る。 第2節 地域の個性を生かす新しい文化の創造と発信 1 個性あふれる新たな地域文化の創造と発信 地域の風土や生活の中で育まれてきた伝統文化は、新しい文化を創造する基礎ともなるものである。したがって、今日においてその価値を改めて認識し、時代の新しい流れの中でさらに豊かに育て、地域のアイデンティティの基礎となる個性豊かな地域文化を創造し、発信することは重要な課題である。そのため、地域における文化活動の環境整備を図り、新しい文化の創造に資する施策を展開するとともに、地域の特性を生かした個性豊かな地域づくりを推進する。 (1) 地域における文化活動の環境整備 個性豊かな地域文化を創造し、発信するため、各地域で受け継がれてきた伝統文化を再認識し、新たな芸術文化活動が生き生きと人々の生活の中に展開されるような環境整備を図ることが重要である。このため、文化会館や美術館等の文化施設について、地域住民の自主的な文化活動の場等に積極的に活用するなど、地域固有の魅力の形成と発信の場として、地域特性を生かした環境整備を進める。その際、我が国の文化に関する情報のデータベース化、内外からのアクセス機会の確保等を進めるとともに、ジャンル別専用ホール等の特色ある文化施設を効率的に活用するため、地域連携による広域的観点からの整備及び運営を進める。また、施設等の整備の進展に比して、指導的スタッフや企画制作のノウハウの不足等により、自主公演や企画展が十分でないなどソフト面での基盤が脆弱であることを踏まえ、今後、文化施設の運営や芸術家・芸術団体の活動を支えるアート・マネージメントに係る人材育成の強化等ソフト面の施策に重点を置きつつ、その整備を推進する。さらに、健康的で活力に満ちた地域づくりが行われるよう、指導者や団体の育成や施設整備、地域レベルの大会や講習会の支援、コンクールの開催等を通じて、地域住民が継続的に文化・スポーツ活動に参加できる環境を整備する。 (2) 地域特性に応じた新しい文化の創造 農山漁村を始めとする地方圏においては、豊かな自然環境等を生かして国内外の芸術家等が滞在して創作活動を行ったり、農山漁村の生活文化に触れる機会を拡充するなど、個性豊かな文化風土の醸成を図る。また、中枢拠点都市圏等においては、既存の人口や情報等の集積を生かして、文化的重層性を持つ国際的な情報と文化の拠点となることを目指し、国際的水準の文化活動拠点の整備、国際交流基盤の整備を進めるとともに、快適な都市の賑わいを創出する文化性の高い空間の形成、都市景観やデザイン性等に配慮した建築設計等により都市の象徴となる空間の形成等を通じて新しい都市文化の創造を図る。 2 芸術文化に彩られる豊かな生活の創造 優れた芸術は世代を超えて多くの人々に様々な感動や喜び、やすらぎを与え、豊かな日常生活の支えとなるものであり、芸術文化活動への参加や鑑賞機会の拡充を図る必要がある。同時に芸術は国際社会における相互理解を促進していく上でも大きな役割が期待されるものであり、積極的にその水準の向上を図っていくことが必要である。 (1) 芸術に触れる機会の拡充 創作性の高い公演や企画展等が依然として大都市圏に集中し、住民の芸術鑑賞機会には大きな地域間格差が存在する状況を踏まえ、全国各地域において質の高い芸術を鑑賞する機会を拡充することが必要である。このため、文化施設相互の連携を促進し、ソフト面での施策の推進を図るとともに、地域の芸術文化団体等の活動の促進に努める。また、地方公共団体において、広域的な地域連携により、巡回事業の活用を含めた円滑な公演、展示活動等により鑑賞機会の拡充を図るとともに、美術館等の開館時間の延長の検討を含め、地域住民が優れた芸術文化を楽しむことができるよう努める。さらに、地域住民の文化活動への参加を促進し、地域における文化団体等の自主的な活動の充実や地域文化振興への協力体制の充実を図る。 (2) 芸術文化の水準の向上 国際的水準の芸術文化の創造と発信が都市文化の洗練や「小さな世界都市」の形成につながるものであることを踏まえ、国際的にも評価され得る多様な芸術創造活動の推進を図るとともに、芸術家、芸術文化団体等の地域に根ざした芸術創造活動を促進する。また、優れた映画芸術の製作や新しい技術を活用したメディア芸術の振興のための施策を推進する。 3 国際交流・協力の推進 学術、文化、スポーツ等における国際交流・協力は、世界の様々な文化を持つ人々が互いに理解しあう上で大きな役割を果たしている。我が国が新しい世界文化の創造と発展に積極的に寄与するとともに、それぞれの地域において世界に開かれた交流を通じた地域の活性化を図るためにも、積極的にその推進を図っていくことが重要である。 (1) 国際交流の推進 学術分野において、研究者の交流の増加に対応した受入れ体制の整備を推進するとともに、体系的な留学生受入れ数の増加のための計画を総合的に推進する。その際、滞在する地域や教育機関の内外において、日本人との暖かいふれあいの生まれる環境を整備する。また、地域における日本語教育等への需要の増大に対応する。 文化分野において、地域の文化財等の海外交流展や舞台芸術の海外公演等が計画的、継続的に実施されるよう努めるとともに、地域における国際的な芸術フェスティバルの開催を推進する。また、諸外国の文化財保存修復協力への期待にこたえ、現地の専門家の人材育成等に対する協力や国際的な保存修復機関との交流、協力等を行う。 スポーツ分野において、国内各地で開催予定の国際競技大会の準備に対し必要な協力を行うとともに、これらの大会の開催等を通じた地域活性化や国際交流の推進を図るため、施設の整備、運営に対し必要な協力を行う。 また、今後、地域間、個人同士での国際交流が進む時代を迎えることから、地域における民間主導の国際交流への支援を進めるとともに、地方公共団体における国際的な人材育成のための方策等を促進する。 (2) 国際的な交流拠点の形成 広域国際交流圏において、交流・発信活動の拠点の整備を推進する観点から、美術館、博物館等の展示・研究機能や国際化に対応したサービス機能の向上を図るとともに、各地域の国公私立博物館・美術館相互の連携、協力を推進する。国際化、情報化に対応した国立博物館、美術館等の整備を推進し、国際的な文化拠点を整備する。また、国際会議等を開催できるコンベンションホールやスポーツ施設等の交流施設の整備を推進する。 第3節 国内及び国外からの観光の振興 日常生活を離れ、未知の自然、人、文化等に触れる旅をすることで、人は新たな感動を受け、充実感を覚え、心身をリフレッシュさせることができる。また、地域の自然、歴史、文化等を生かした観光交流の増大は、地域住民が地域独自の文化を発見、創出し、自らの居住する地域空間についてその価値を再認識する契機となる。加えて、国際的に見ても魅力ある観光地の形成は、地域の新たな産業振興や雇用創出につながり、地域の活性化や個性あるまちづくりに寄与するものである。とりわけ、地方圏においては、居住環境、食文化を含めた地域の生活文化自体が魅力的な観光資源であることから、地域の特色のある観光素材、自然や歴史環境等を保全しつつ活用することにより大都市との交流を進め、地域の活性化を促すことが期待される。このため、21世紀における美しい国土の形成や多様な地域文化の創出のための有効な方策の一つとして観光の高質化を位置付け、観光交流を支える交通、情報通信基盤を総合的に整備するとともに、都市及び農山漁村等が一体となった国際観光、国内観光等の振興に向けた施策を実施する。 1 国際観光の振興 近年の日本人海外旅行者数の増加、近隣アジア諸国を訪れる国際観光客の増加にもかかわらず、我が国を訪れる外国人旅行者数はここ数年の横這いまたは微減から平成8年には増加に転じたものの、日本人海外旅行者数の約4分の1の水準にとどまっている。また、これらの訪日外国人観光客の訪問地は東京・大阪中心で、地方観光地への訪問はいまだ低水準にあることを踏まえ、積極的な国際観光の振興が必要である。 (1) 外国人観光客の増加に向けた施策展開 我が国全体を訪れる外国人の大幅な増加を図るべく、訪日旅行の需要を創造するための日本の観光イメージづくりとPR、方面別のマーケティングを進める。また、国内滞在の費用の低廉化を図るため、交通機関を含めた外国人向け各種割引制度の拡充、宿泊料金の低廉化及びこれに関する情報提供機能の強化を進める。さらに、外国人観光客の利便性の向上を図るため、公共交通機関、道路等における外国語やシンボルマーク等を利用した理解しやすい案内表示の充実、案内所の機能拡充、査証の発行の簡素化、国際空港と国内交通の連携の強化、各種情報提供機能の充実等を進める。 (2) 地方圏への外国人観光客の誘致 地方圏への外国人観光客の誘致を図るため、広域的な官民の連携の下、地域の特色を生かしたテーマに即した広域観光ルートの開発、広域観光の拠点となる宿泊滞在拠点の整備等を通じ、我が国を代表する新たな国際的観光地として国際観光テーマ地区の形成を進める。これらの施策により、それぞれの広域国際交流圏において外国人観光客のニーズに概ね圏内で対応できる体制を整備する。また、サービスや受入れ環境の改善、ボランティアによるガイドの配置等を積極的に行い、旅行者を暖かく受け入れる気風や環境の醸成に努める。 2 国内観光等の振興 余暇時間が増大する中で、観光需要の個性化、多様化等に対応した国内観光の高度化を図り、地域間の交流の拡大等を通じて地域の経済や文化を活性化させる観点から、国内観光等の振興に向けた施策を展開する。 (1) 観光産業の高度化に向けた取組 今後増大する個人や家族での旅行需要に対応した国内観光の低価格化と価格・サービス体系の多様化を進めるとともに、余暇時間の増大を踏まえた長期滞在型や拠点を中心とする広域型の旅行のための宿泊施設の整備、高度な観光サービスを提供できる人材の育成等を進める。また、観光客への食材提供や工芸品の販売等の関連する分野を含む一体的な産業として観光産業の振興策を検討する。さらに、地域文化に触れ、地域住民と交流する地域に開かれた観光の実現を図るため、地域住民、行政、観光産業が連携して観光による地域振興計画を策定するなど、地域の主体性ある観光地づくりとホスピタリティの向上を進める。 (2) 旅行需要の拡大に向けた環境整備 今後、交流の機会が増大すると予想される高齢者や障害者が安心して旅行を楽しむことができる環境の整備を図る。また、グリーン・ツーリズム、長期のボランティア、マルチハビテーション(複数地域居住)等による都市と地域の交流人口の拡大を通じて地域社会の活性化を図る施策を行う。 (3) 観光による地域の活性化と地域からの情報発信 観光による地域の振興、活性化を図る観点から、地域独自の自然、文化、歴史等を活用したイベントや体験型観光の育成を進める。また、地域資源の掘り起こしによる市町村ガイドブックの作成等による地域の魅力のPRを促進するとともに、周遊型観光に対応した新たな観光ルートの形成を地域連携により推進する。さらに、各地域の観光資源、宿泊施設等に関する情報のネットワーク化を進め、地域からの情報発信を促進する。 第3章 地域の整備と暮らしに関する施策 豊かで暮らしよい国土を形成していくためには、国土の構成要素である都市及び農山漁村のそれぞれが、今後の経済社会情勢の変化や人々のニーズの多様化、高度化に適切に対応し、地域の歴史、文化、自然環境といった特性を生かして個性的な地域整備を推進していくことが必要であり、次の基本的方向に沿って地域づくりを進める。 @ 都市においては、安全でゆとりとうるおいのある生活を実現するため、地域のニーズに対応して、防災性の強化、居住水準の向上、都市・生活環境の整備を図るとともに、地域の活力の維持増進や都市的利便性の向上を図るため、それぞれの地域特性に応じた都市機能の充実を促進する。 A 多自然居住地域の創造に当たっては、中小都市等と農山漁村との連携により整備が遅れている生活基盤の整備を推進することと併せて、森林、農地、河川、海岸、集落等の地域空間を良好な状態に管理するとともに、これらの地域資源を活用し、地域の独自性を演出する。こうした取組は、誇りの持てる地域づくりを実現し、さらには、地域の所得機会の確保にもつながるものである。 B 暮らしの安心を確保する観点から、本格的な高齢社会において高齢者等が住み慣れた家庭や地域で安心して生活を営むとともに、地域において安心して子供を生み育てることができるよう、地域社会の条件整備を進める。さらに、世界的な気候変動や食料、エネルギー需給の逼迫が懸念される中で、日々の暮らしに欠かすことができない食料、エネルギーの安定的確保に取り組む。 第1節 快適で活力ある都市の整備 経済社会情勢の変化や人々のニーズの多様化、高度化に適切に対応し、地域住民の生活の質の向上と地域の活力の維持増進を図るためには、快適な居住環境の形成、都市機能の充実を目指し、都市づくりを進める必要がある。 居住環境面については、安全で快適な生活を享受できるよう、各地域のニーズに対応して、防災性の強化、居住水準の向上、都市・生活環境の計画的な整備を図ることが求められる。 都市機能面については、各都市において都市の規模や立地条件に応じて地域特性を生かした基礎的な都市機能を充実させるとともに、都市間の多様な地域連携を通じて、一定の条件でアクセスが可能な広域的な圏域内で高次都市機能を享受できる自立的な地域構造の形成を図ることが求められる。 1 安全で快適な生活の実現 安全で快適な生活を実現するため、都市における防災性の向上を図るとともに、ゆとりや豊かさを実感できるような住宅ストックの形成、都市公園等の生活環境施設の整備を推進する。 (1) 都市の防災性の向上 阪神・淡路大震災を契機として、都市における防災対策の重要性が再認識された。この教訓も踏まえ、各地域の実情に応じて、災害に強いまちづくりを目指す。 大規模地震、大洪水等に対応して、都市における生活の安全性を向上させるとともに、被災時の経済社会的な機能障害による国内外に及ぶ混乱を最小限のものとするため、ハード、ソフト両面において都市の防災対策を総合的かつ計画的に推進する。 このため、避難路、避難地、緊急輸送道路、河川舟運路、延焼遮断帯等の体系的整備、防災安全街区の整備、老朽木造密集市街地における老朽木造住宅の建て替えや都市基盤の整備の促進、大河川における堤防の安全性の向上等により、災害に強い都市構造の形成を図る。 また、官公庁施設、病院、学校、公民館等、災害時に防災拠点や避難場所としての重要な機能を発揮すべき公共的建築物については、耐震診断・改修を徹底するとともに、新築に際してはその役割の重要度に応じて耐震性、耐火性を強化する。既存の住宅等の民間建築物については、耐震診断・改修の啓発、指導やこれらに対する支援措置を講じ、耐震性の向上を図る。都市の道路、鉄道等の構造物についても耐震性を確保するための補強対策を積極的に推進する。 上下水道、電気、ガス、電話等のライフラインについては主要な施設の防災性の向上を図る。また、関係機関と密接な連携をとりつつ、共同収容施設としての共同溝、電線共同溝の整備を図るとともに、多ルート化、ループ化等による多重性の確保、代替施設の整備等による代替性の確保を推進する。 被災地の応急対策を円滑に行うため、地域における防災拠点の整備を進めるとともに、大都市圏等においては、国営公園、広域公園、臨海部の緑地、河川敷等を災害時の広域防災拠点として位置付け、備蓄倉庫、緊急輸送基地、防災用ヘリポート等としての機能を確保する。特に、防災用ヘリポートについては、発災時における円滑な機能の発揮と避難住民の安全を確保するため、避難住民の利用部分とは分離するなどの管理システムを含めて整備を図る。 都市における防災体制を強化するため、国、地方公共団体等の各機関において情報の収集・連絡体制の整備を図るとともに、機関相互間の連絡が迅速かつ確実に行えるよう情報伝達経路の明確化、多重化を図る。また、自主防災活動を推進するため、平常時より防災知識の普及、防災訓練の実施等により、自主防災思想の普及、徹底を図るとともに、自主防災組織の育成、強化、防災ボランティアの活動環境の整備を図る。 (2) 良質な住宅・宅地ストックの形成 (良質な住宅ストックの形成) ゆとりある生活を実現するため、住宅マスタープランや大都市地域における住宅及び住宅地の供給に関する基本方針等に基づき、居住水準の向上やバリアフリー化、省エネルギー化、高耐久化等により質の高い住宅ストックを形成する。特に、持家に比して著しく質の劣る借家の居住状況を改善するよう、良質な賃貸住宅の供給を重点的に促進する。このため、関連公共施設の整備を促進しながら、融資や税制上の優遇措置の活用による個人の良質な持家取得の促進や特定優良賃貸住宅制度等の活用による良質な賃貸住宅の供給の促進を図るとともに、定期借地権の活用により所有面よりも利用面を重視した住宅建設を促進するなど、多様な住宅供給を推進する。また、建築基準の性能規定化等の建築規制の合理化や輸入住宅、海外の建築資材・部品の導入の円滑化等により、住宅建設コストの低減を図る。さらに、長期耐用が可能で住戸等の更新が容易な住宅の技術開発を推進する。 (ライフステージに応じた住替えの促進) ライフステージに応じた多様な居住ニーズに対応できるよう、質の高い住宅ストックを活用しつつ、円滑な住替えを促進する。このため、住宅の性能評価・表示システムの確立や物件情報提供システムの普及を図るとともに、消費者相談窓口の設置の促進等により、住宅流通基盤の整備を図る。また、既存の住宅ストックの有効活用を図るため、住宅の増改築・リフォームを促進する。さらに、今後急増することが予想される老朽マンションについて、防災性の向上も勘案しながら、大規模修繕、建て替えを円滑に実施できるシステムをハード、ソフト両面において検討する。 (新たなニーズへの対応) 高齢化に対応するため、高齢者等に配慮した仕様の標準的な設計指針の普及等により、住宅のバリアフリー化を促進するとともに、高齢者等の身体機能の状況に応じて住宅改造を行えるよう、リフォーム技術の開発や人材育成等を図る。また、高齢者福祉施設の利用を容易にする観点から、公共住宅団地において福祉施設を併設するなど福祉施策との連携を積極的に推進する。 環境との調和を図るため、省エネルギー基準の普及、啓発により住宅の省エネルギー化を推進するとともに、環境への負荷を低減した環境共生住宅の建設促進を図る。また、地方定住を促進し、地域の活性化を図るため、住宅マスタープラン等に基づき、地域の特性や独自の発想を生かしながら、個性豊かで良好な景観を形成する住宅や住環境の整備を促進する。 マルチハビテーション(複数地域居住)、テレワーク(情報通信を活用した遠隔勤務)等、住まい方に対する新たなニーズに対応するため、郊外型住宅等の整備、住宅の情報化等を推進する。 (良質な宅地の供給) 国民の居住ニーズの多様化に対応して、良質な宅地を適正な価格で計画的に供給し、ゆとりある豊かな住生活の実現を図るため、新たな宅地需要に対応して、交通等の都市・生活基盤の整備を進めながら、新市街地の計画的開発、市街化区域内農地等の宅地化を積極的に推進する。 大都市圏においては、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する基本方針に基づき、広域的な観点から宅地の計画的な供給を推進する。このため、公民連携を図りつつ、鉄道整備と一体となった宅地開発の推進、緑・景観や高齢者に配慮した優良な宅地開発の促進等を図るとともに、市街化区域内農地の計画的な宅地化や定期借地権の活用を推進する。地方圏においては、定住基盤の整備を図るため、地域の個性、多様性を生かしながら地域の活性化に資する宅地開発を促進する。 また、道路等の関連公共施設の整備を促進するとともに、宅地開発等指導要綱の行過ぎの是正を図る。 (3) 生活環境施設の整備 (都市公園等) 良好な都市環境の形成、防災性の向上、住民の健康、福祉の増進等の都市公園の多様な機能を効果的に発揮させるよう、住区基幹公園、都市基幹公園等の都市公園を、都市公園以外の緑地やオープンスペースとのネットワークの形成に配慮しながら体系的に整備する。特に、都市の防災性の向上の観点から緊急に整備を要する広域防災拠点や広域避難地等となる防災公園を重点的に整備する。 また、都市において良好な自然的環境を保全、創出するため、緑地保全地区、風致地区等の指定を積極的に行うとともに、公共公益施設の敷地、道路等の緑化、建築物の屋上、高架道路の壁面等これまでは緑化が困難であった空間の緑化、河川等における良好な水辺空間の整備や多様な生物が生息可能なビオトープの整備を推進する。民有地の緑化を積極的に推進するため、緑地協定、市民緑地制度の活用等により、住民参加による緑化活動を進める。 さらに、広域的なレクリエーション活動や地域間交流の拠点となる国営公園、大規模公園の整備を推進する。 (下水道) 快適な都市・生活環境の確保を図るとともに、公共用水域の水質の保全を図るため、下水道の整備を計画的に推進する。特に、下水道の整備が遅れている中小都市に重点を置いて事業を実施するとともに、内湾等の閉鎖性水域や水道水源となっている河川、湖沼等の重要水域において、河川浄化対策等と連携して高度処理を推進する。 また、都市において大雨による浸水防除を図るため、河川改修等との連携を図りながら、雨水の速やかな排除や貯留・浸透による流出抑制等、下水道による雨水対策を推進する。 さらに、下水道資源のリサイクルの促進や良好な都市環境の形成を図るため、下水処理水の有効利用、下水汚泥の肥料や建設資材としての再生利用等を進めるとともに、下水道施設の有効利用を図るため、下水道管渠を光ファイバ敷設空間として利用に供する。 (都市内道路) 都市交通需要への対応、良好な市街地の形成、避難路、緊急輸送道路、延焼遮断帯等としての防災機能の向上、良好な歩行空間の創出等を図るため、幹線道路、区画道路、歩道、自転車歩行者道等の体系的な整備を推進する。 また、都市内における交通渋滞を緩和するため、バイパス、環状道路や交通結節点の整備、連続立体交差事業等の推進によりボトルネック対策を強化するとともに、道路空間を活用した新交通システム、都市モノレール等の公共交通機関の整備、駐車場の整備、駐車場案内・誘導システムの整備やITS(高度道路交通システム)の推進を図る。 さらに、都市内における交通の安全を確保するため、道路網の体系的整備と併せ、緊急に安全を確保する必要がある道路について、信号機の設置、歩道の整備、交差点改良等の交通安全施設等の整備を図るなど総合的な交通安全施策を推進する。 2 豊かで活力ある都市づくり (1) 望ましい国土構造に向けての都市整備のあり方 東京一極集中の状況の一部に変化の兆しがみられる一方、地方中枢都市圏やこれらに準ずる地方中核都市圏は人口、高次都市機能の集積を高めるとともに、その効果を広域的に波及させつつあり、地域の自立的発展の拠点としての役割が高まってきている。このような都市をめぐる動向は、国土の均衡ある発展を図る観点から今後とも継続すべきものであり、長期的観点から複数の国土軸から成る望ましい国土構造の実現に向けて、都市間の階層構造をより水平的なネットワーク型に転換する方向で都市整備を積極的に推進する必要がある。 このため、東京圏、関西圏、名古屋圏の三大都市圏、札幌、仙台、広島、福岡・北九州の地方中枢都市圏及びこれらに準ずる規模と機能を有する新潟、金沢・富山、静岡・浜松、岡山・高松、松山、熊本、鹿児島、那覇等の地方中核都市圏を、高次都市機能の集積の拠点、広域国際交流圏の拠点としての中枢拠点都市圏と位置付け、機能の分担と連携を図りつつ、全国土に及ぶ中枢拠点都市圏のネットワークを重層的に形成する。各中枢拠点都市圏においては、規模、特性に応じた機能の整備を重点的に推進するとともに、周辺の県庁所在市程度の都市を中心とする地方中核都市圏や人口が概ね30万人未満の都市を中心とする地方中心・中小都市圏との間に相互に複合的なネットワークを形成し、集積された機能の広域的な波及を図る。 (2) 都市整備の基本的方向 以上のような観点を踏まえつつ、東京圏においては、東京都区部等における人口、諸機能の過度の集中の是正、業務核都市等の育成、整備を引き続き推進しながら、高次都市機能の高質化とその広域的活用を図り、関西圏及び名古屋圏においては、東京圏との機能分担と連携を進めながら、各圏域の特性を踏まえ、特色ある高次都市機能の充実を図る。このため、大都市空間を修復、更新し、有効に活用する「大都市のリノベーション」を積極的に推進し、これにより、巨大都市化と過密にともなう諸問題を解消し、東京圏を始めとする三大都市圏を安全で豊かな生活空間として再生する。 地方圏においては、地方ブロック、県レベルでの地域の自立的発展の拠点の形成を図る観点から中枢拠点都市圏や地方中核都市圏を整備するとともに、地方中心・中小都市において、多自然居住地域の拠点として地域の自立の基礎を形成する。このため、各都市においては、それぞれの規模や立地条件等に応じ、都市間の多様な地域連携を通じて都市機能の充実を図るとともに、地方都市の特色を生かしたゆとりとうるおいのある居住環境の形成を目指し、「地方都市の戦略的整備」を推進する。 三大都市圏、地方圏を通じて、空洞化の進んでいる中心市街地の活性化を始めとする都市の再構築を図る。 この場合、「参加と連携」による国土づくりの考え方に沿って、地域はそれぞれの個性、多様性を生かしながら、豊かで活力ある都市づくりを進め、国はそれを支援、推進するなど、多様な主体間の適切な役割分担と連携を図りながら、都市の整備を進める。 3 大都市のリノベーション (1) 大都市のリノベーションの基本的方向 大都市においては、都心部の空洞化、職住遠隔化等の都市構造の歪み、交通渋滞、大規模地震等による災害に対する脆弱性、大気、水質の汚染等の都市環境の悪化、廃棄物処理問題の深刻化、都心部や臨海部の工場跡地、鉄道施設跡地等の低未利用地の発生等様々な問題が発生している。また、人口、諸機能の過度の集中により都市機能の円滑な発揮が阻害されており、大都市が国境を越えた都市間競争の激化や国際交流の活発化に対応し、我が国の発展に引き続き積極的に貢献していくことが可能か懸念されている。 このため、これらの問題が最も顕著に現れている東京圏を始めとする大都市において、次のような基本的方向に基づき、リノベーションを積極的に推進する必要がある。 @ 大都市における都心部の空洞化、長時間通勤等の問題を解消し、職住のバランスがとれた豊かさが実感できる都市生活を実現する。また、災害に対して極めて脆弱である老朽木造密集市街地の解消や防災拠点の整備等により、都市の防災性を向上させるとともに、都市の環境とアメニティに配慮したまちづくりや美しい都市景観の形成を行うことにより、安全であると同時にゆとりとうるおいのある豊かな都市空間を形成する。 A 国境を越えた都市間競争の激化や国際交流の活発化に対応し、我が国の発展に積極的に貢献していくため、大都市において、高次都市機能の高質化を図るとともに、これらの機能の円滑かつ効率的な発揮を可能とする。 (2) 大都市のリノベーションのための対策 (豊かさが実感できる都市生活の実現) 都心部において居住機能を回復するとともに、長時間通勤等の問題に適切に対応するよう、土地の有効利用に配慮しつつ、職住のバランスのとれた都市構造の形成を図る必要がある。このため、容積率等の建築規制の緩和により中高層住宅の建設促進を図る高層住居誘導地区の指定を推進するとともに、低未利用地を活用した面的整備事業、都心共同住宅供給事業の実施や総合設計制度等の活用等により、都心居住を積極的に推進する。また、都心商業地域において、老朽化した建築物の建て替えによる都市機能の更新を適切に誘導する。 交通渋滞を緩和し、都市機能の円滑な発揮を図るため、バイパス、環状道路の整備や鉄道の連続立体交差化等による交通容量の拡大に加え、VICS(道路交通情報通信システム)や自動料金収受システムの導入等を行うITSの推進、フレックスタイム制の導入やパーク・アンド・ライドの推進等を行うTDM(交通需要マネジメント)施策の推進等を積極的に図る。また、通勤混雑の緩和を図り長時間通勤の是正等に資するため、新線建設、既存の都市鉄道の複々線化等を推進するとともに、新交通システム、都市モノレール等の整備を推進する。 (老朽木造密集市街地の解消と防災拠点の整備) 大都市の都心部周辺に広がる老朽木造密集市街地は、防火、避難・救助等の観点から大規模地震等の災害に対して極めて脆弱であるのみならず、都市のアメニティや居住環境の面での問題を抱えていることから、大都市を安全であると同時にゆとりとうるおいのある生活空間として再生するためには、これらの老朽木造密集市街地の解消と防災拠点の整備を重点的に推進する必要がある。 このため、各地域において老朽木造密集市街地の防災上、居住環境上の問題を調査し、その結果を公表するとともに、住民等から成る協議会活動を支援することにより、防災性の向上と居住環境の改善に向けた住民の自主的なまちづくり活動を推進する。また、防災性の向上に資する土地の権利移転の円滑化を図るとともに、老朽木造建築物の除却や敷地の統合等による建築物の共同建て替え・不燃化を進め、オープンスペースの確保や面的整備事業等による避難路・避難地の整備等を推進する。さらに、被災後の応急対策の円滑化を図るため、防災センター、備蓄倉庫、防災用ヘリポート等を備えた防災拠点の整備を推進する。 (都市の環境・アメニティの向上と美しい都市景観の形成) 環境と調和した都市空間を創造する観点から、都市における環境に対する負荷を低減するため、リサイクルの推進や未利用エネルギーの活用を図るとともに、バイパス・環状道路の整備や高規格幹線道路のインターチェンジ周辺等における広域物流拠点の整備、立体交差化の促進、公共交通機関の整備やパーク・アンド・ライドの推進、自転車の利用促進等のマルチモーダル施策の促進を図る。また、河川における水質浄化、下水処理水の効果的利用、雨水の適正な地下浸透等により健全な水循環を確保する。 自然とふれあえる都市空間を創造するため、河川、沿岸等の身近な水辺空間や公園、緑地の整備等による水と緑のネットワークの形成、市民農園の整備を推進するとともに、緑地保全地区の指定や緑地協定、市民緑地制度の活用等により都市内の樹林地等の保全、創造を図る。 美しい都市景観を形成する観点から、歴史的・文化的遺産の保全・活用を積極的に行うとともに、質の高い都市空間の整備を通じて新たな文化の創造に貢献するまちづくりを推進する。このため、総合的なガイドライン等に基づく公共施設の整備、地区計画、建築協定制度の活用による民間建築物の規制・誘導、電線類の地中化、屋外広告物の規制、傾斜地の斜面緑化、歴史的建造物の保全等を推進し、地方公共団体、地域住民等が一体となった美しいまちづくり活動を積極的に展開する。 (都市構造の再編) 大都市の都心部に過度に集中している諸機能を業務核都市等の周辺都市、あるいは地方の中枢拠点都市圏等へ選択的に分散するとともに、都心部や臨海部に存在する低未利用地の土地利用転換や都市基盤の整備等を図りながら、新たなニーズに対応した全国的、国際的レベルの中枢機能の整備を進める。特に、臨海部の工場跡地等については、必要に応じて土地利用規制の見直しを行いつつ、居住機能、業務機能等の土地利用と工業生産機能等の土地利用の調整を図りながら、広域的な視点から計画的な土地利用転換を推進する。これらにより大都市の高次都市機能の高質化を図るとともに、交通、情報通信ネットワークの整備等によりその広域的活用を図る。 大都市における活動空間や公共施設の用に供する空間の量的な不足に対応し、都市の地下、上空等の積極的な活用を図るため、共同溝・電線共同溝や地下駐車場の整備、建築物と一体となった立体道路の建設、地下河川の整備、下水処理場の上部空間の活用等を推進する。また、大深度地下空間の公共的利用の円滑化に資する方策について、安全性の確保や環境の保全に配慮しつつ検討を進める。 4 地方都市の戦略的整備 (1) 地方都市の戦略的整備の基本的方向 地方圏においては、地方中枢・中核都市圏を中心に都市機能の集積が着実に進んでおり、特に、地方の中枢拠点都市圏における集積は地方ブロック全体に効果を波及させている。しかしながら、これらの都市圏でも、中枢管理、研究開発、情報、国際交流等の高次都市機能については依然として集積が不十分である。また、地方中心・中小都市圏は、その多くが産業構造の変化等により活力が低下しており、地域の拠点としての役割が果たされていない。さらに、道路、下水道、公共交通機関等の都市・生活基盤の整備の状況をみても、地方中心・中小都市のみならず、地方中枢・中核都市においても立ち遅れている。 このため、次のような基本的方向に基づき、地方都市の戦略的整備を積極的に推進する必要がある。 @ 中枢拠点都市圏及び地方中核都市圏は、適切な機能分担と連携を図りながら、地域特性を生かした高次都市機能の強化を図ることにより、地方ブロックレベル、あるいは県レベルにおける地域の自立的発展の拠点としての役割を果たす。地方中心・中小都市は、多自然居住地域の拠点として、地方中核都市圏や他の地方中心・中小都市圏との連携により、都市的サービス機能を始めとした機能の充実や身近な就業機会の提供を図り、地域の自立の基礎を形成する。 A 各都市において、豊かな自然、特色ある歴史、文化、産業等を生かしながら、個性と魅力ある都市づくりを推進する。また、大都市にはないゆとりある快適な生活環境を形成するため、特に、整備が遅れている道路、下水道、公共交通機関等の都市・生活基盤の整備を促進する。 (2) 地方都市の戦略的整備のための対策 (中枢拠点都市圏) 地方の中枢拠点都市圏においては、地域の自立的発展のための拠点の形成を図る観点から、地方ブロック全体のニーズ、連携の可能性等を踏まえながら、中枢管理、研究開発、情報、国際交流等の高次都市機能の充実を図る必要がある。特に、国際交流機能については、地球時代に対応し、世界に開かれた地域づくりを促進する観点から広域国際交流圏の拠点としての機能を果たすことが求められる。 このため、各中枢拠点都市圏において、その規模や機能に応じて適切な役割分担と連携を図りつつ、国際交流機能を強化するよう、地域のニーズや個性を踏まえながら、質の高い国際空港、港湾、高規格幹線道路網やこれらへのアクセスのための道路・公共交通機関、国際会議場・展示場、情報通信基盤等の国際交流基盤の整備を図るとともに、国際会議、イベントの誘致やこれらを企画する組織、人材の育成を行う。また、高次都市機能の受皿となる良好な拠点市街地の整備を行うとともに、既存ストックの有効活用と併せた商業業務施設、公益施設等の集約、再配置を通じた中心市街地の活性化を推進する。さらに、地方における産業の発展を先導するため、大学等を核とした知的な蓄積を活用した研究学園都市、リサーチパーク等の整備を推進するとともに、研究開発機能を担う人材の育成、確保を図るため大学、研究開発機関等の充実や地域企業との連携強化を図る。 また、都市圏を構成する他の都市、あるいは地方中核都市圏等との機能分担と連携を図るため、質の高い交通、情報通信基盤の整備を促進し、広域的な都市圏ネットワークの形成を推進する。 さらに、中枢拠点都市圏は、今後も相対的に高い人口増加とこれにともなう都市圏の拡大が見込まれることから、大都市問題の発生を未然に防止しつつ、都市圏レベルでの都市・生活基盤の一体的かつ先行的な整備やTDM施策の実施、良質な住宅の供給を推進する。 (地方中核都市圏) 県庁所在市または人口が概ね30万人以上の都市である地方中核都市を中心とする都市圏においては、地域の自立的発展に向けた道県レベルでの拠点の形成を図る観点から、道県レベルでのニーズを踏まえながら、業務管理、情報、高次の教育・文化、医療・福祉等の高次都市機能の充実を図る必要がある。また、国際交流機能については、中枢拠点都市圏との適切な機能分担と連携を図りながら広域国際交流圏の副次的な拠点としての機能を果たすことが求められる。 このため、地方中核都市圏において、中枢拠点都市圏と同様、高次都市機能の受皿となる拠点市街地や国際交流基盤の整備を図るほか、地方定住を促す魅力的な就業機会を提供できるよう、高度な生産・研究開発基盤やサービス産業基盤の整備を推進する。 また、産業構造の変化への対応の遅れ等により活力が低下している都市においては、低未利用地を活用した大規模な土地利用転換や街区の再編等を通じて中心市街地の活性化を推進するとともに、高次の業務、商業・サービス、文化等の機能の導入を行い、都市の活性化を図る。 さらに、ゆとりと利便性を兼ね備えた居住環境を実現するため、自然環境の豊かさや職住の近接性といった特性を生かしながら、良質な住宅の供給や道路、河川、下水道等の都市・生活基盤の整備を推進するとともに、特に都市交通については、TDM施策の実施、公共交通機関の整備等を図る。 (地方中心・中小都市圏) 人口が概ね30万人未満の都市である地方中心・中小都市においては、多自然居住地域の拠点として、都市的サービスを提供するとともに、個性あるまちづくりを通じた都市の魅力と活力を創出することにより、地域の自立の基礎を形成することが求められる。また、特に、産業構造の変化への対応が遅れている重化学工業等を基盤とする都市、停滞がみられる国内観光を基盤とする都市等については、既存の集積の有効利用を図りながら、新たな産業基盤の確立や集客能力の向上を図ることが重要である。 このため、地方中心・中小都市において、基礎的な医療・福祉、教育・文化、消費等の都市的サービスや身近な就業機会を提供するとともに、周辺地域からの円滑なアクセスを確保できるよう圏域内の交通、情報通信基盤の整備を図り、地方中心・中小都市圏の一体的整備を推進することとし、特に、地方拠点都市地域については、地域の自立に向けて拠点性の向上を図る。財政上、利用効率上の観点からこれらの都市圏単独では整備できないような高度医療、文化等の高次都市機能については、アクセス条件の向上による地方中核都市圏における機能の享受や他の地方中心・中小都市圏等との連携による整備を図る。 また、近年空洞化がみられる中心市街地においては、地域の個性を生かしながら商店街等の再生を行うとともに、文化施設、交流拠点、駐車場等の整備や道路、公共交通機関によるアクセスの向上、電気通信の高度化を一体的、総合的に推進することにより、都市的魅力を創出し、その活性化を図る。生活の質的向上のニーズに対しては、自然環境や農業的土地利用との調和を図りながら、遅れている道路、河川、下水道等の都市・生活基盤の整備や良質な住宅の供給を積極的に推進し、快適な居住環境を形成する。 (3) 多自然居住地域の創造に向けた中小都市等の整備 多自然居住地域の拠点としての役割が特に期待される中小都市等については、21世紀型のライフスタイルが実現できる新しい都市のあり方を実践するフロンティアとして、画一的でない個性あるまちづくりを推進する。このため、UJIターン者を含む多様な人材、地域固有の歴史的・文化的資源、豊かな自然環境、特色ある地域産業等を活用して、観光・リゾート都市、芸術・文化都市、伝統産業都市等、地域の魅力ある個性の創出や文化の香り高いまちづくりの推進を図る。これら個性あるまちづくりの中から、その成果を全国、さらには世界に向かって情報発信することにより、国内外と活発に交流する「小さな世界都市」が形成される。 第2節 多自然居住地域の創造に向けた農山漁村等の整備 1 基本的考え方 多自然居住地域は、農林水産業を通じ、食料や木材の安定供給等の役割を担う地域であるとともに、価値観や生活様式の変化に応じ、都市的なサービスとゆとりある居住環境や豊かな自然を併せて享受できる生活を実現する圏域として創造される。 この地域は、中小都市と中山間地域等を含む農山漁村等によって構成され、地域内の交通、情報通信ネットワークを通じた活発な交流と連携による創造的な相互補完関係を持つとともに、相互の機能分担、連携を図りながら地域の自立の基礎を形成する。 中小都市等は、多自然居住地域の形成の一翼を担うために、生活圏の拠点として、圏域全体のニーズを踏まえながら基礎的な保健・医療・福祉、教育、文化、消費等のサービスや身近な就業機会を提供するとともに、地域の個性を生かした都市的魅力を創出していくことが必要で ある。 農山漁村においては、都市部への追随でなく、自然環境、文化、農地、森林、河川、海等地域の有する資源を再発見し、あるいは自然環境の保全と回復をも含む農山漁村環境を積極的に創造し、これを活用した独創的な魅力ある地域づくりが求められる。その地域経営に当たっては、起業家が企業を興し、これを運営していく場合と同様の積極的姿勢と能力が重要である。 以上のように、多自然居住地域において、地域内外の機能分担と連携を図り、同時に、中小都市、農山漁村等を通じて国土基盤整備を行うことにより、安全で個性と魅力あふれる地域づくりを進め、地域全体としての活力の向上を図る。 2 体制づくり 多自然居住地域の創造に当たっては、市町村を中心に、国、都道府県、農業協同組合、森林組合、漁業協同組合、土地改良区、商工会、観光協会、ボランティア団体等が一致して取り組む体制が必要である。加えて、これら主体が起業家的な積極性と能力を持って地域づくりに取り組むためには、自己能力の客観的評価、弱点の発見、これを是正するための組織の改編、人材開発、人材補強等が重要であり、そのための仕組みづくりを推進する。 また、前述の各組合が合併により広域化しつつあり、一方で、限られた社会資本の効率的な投資も要請されることから、この体制づくりは、一市町村の範囲ではなく、複数の市町村が連携して広域的な圏域を形成して行うことを推進する。 この圏域形成は基本的に市町村が自由意思で決定するが、既存の広域市町村圏、地方生活圏、あるいは都道府県の支分部局ごとの圏域等のほかに、森林、農地、河川等の国土管理、沿岸域や地域文化に着目した圏域も選択肢の1つであるため、これらの圏域形成を推進する。 なお、地域によっては、民間企業と連携し、民間企業の経営手法、人材、資金等を地域づくりに活用することも有効と考えられるので、体制づくりの一形態として、積極的な取組を行うべきである。 3 美しく、アメニティに満ちた地域づくり 多自然居住地域において「美しさ」とは、そこにある森林、農地、河川、海岸、集落、市街地等が良好な状態に維持管理され、健全に機能することにより実現される価値であり、「アメニティ」とは、そこに住み、そこを訪れる人々に適切に管理された地域空間が与える心地良さを指す。多自然居住地域に暮らす人々が誇りを持ってそこに住むためには、周囲の自然環境を享受し、活用し得る魅力ある生活空間を形成していくことが必要であり、特に、多自然居住地域の「美しさ」「アメニティ」の確保と実現を図ることが重要である。また、起業家的な姿勢を持って地域資源を活用した独創的な地域づくりを目指す場合や農山漁村の大宗を占める森林や農地を整備する場合、さらに、河川や海岸を整備する場合にも、農山漁村環境の保全と創造による「美しさ」「アメニティ」の存在は重要な基本的条件である。このような地域創造の意欲と能力を備えた先進的な農山漁村空間の整備に対して積極的に支援していく。 この「美しさ」「アメニティ」の確保のために、地域の独自性尊重の立場から住民の自発的活動が重要であり、個々の住民及び集落、旧村等という小規模共同体の主導的な活動が求められる。この場合、日本の伝統的な最小共同体単位は集落であるが、社会構造の面からも地域づくりを一層推進する観点から、地域の実情等に応じ、旧村を単位とした活動をも視野に入れる。あわせて、住民の自発的行動の助長や共同体の意思決定が迅速かつ円滑に行われるよう施策面で配慮する。 地域住民の自発的活動により取り組むべき事柄は、地域全体の自然環境と景観の保全や向上を念頭に置きつつ、森林、農地、農業用用排水路、農道、林道、漁業用施設等の管理の実施、集落内の道路や水路の清掃等、廃棄物処理、排水処理等について地域取決めの確立、地域の土地利用、花の植栽、家並み、街並みの管理等に関する住民協定の締結等を推進することである。 市町村の自主的な取組として期待されることは、農業用用排水路、集落内の道路や水路等生産環境と生活環境に係る社会資本整備を効率的に実施するため、農山漁村環境の保全と創造や地域特性に配慮しながら、これらの整備を一体的に進めるとともに、地域住民の自発的活動を基本とした取組を支援するため、活動の支援、環境デザイナ−等専門家の派遣、公共施設の整備、住民協定の条例化や景観条例や地域の歴史的環境を保全する文化財保護条例化の検討、国土利用計画の作成等を通じたまちづくりの推進、森林整備や農作業受委託等を行う公社等の活用等が挙げられる。特に、中山間地域等のある市町村は、大都市、中枢・中核都市等との姉妹提携や交流等を推進し、地域づくりの充実を図ることが重要と考えられる。 このような個人、共同体及び市町村の活動を支援する。また、農山漁村において居住地域等と生産地域を一体的に扱う観点から、国土利用計画を始めとする地域計画の一層の活用、運用改善について検討する。 4 地域づくりを支える農山漁村の生活環境の整備 農山漁村の居住者の視点からみると、就業、教育、買物等の局面に応じて生活の拡がりの範囲が異なり、これを踏まえた整備が必要となる。 まず、汚水処理施設、上水道、生活道路等は、生活上の必需施設であり、ナショナルミニマム達成の観点からの整備を推進する必要がある。 また、公民館等社会教育施設、文化施設、スポーツ施設、消防団施設等は、地域づくり、防災等のための共同体活動の拠点であるので、これらの整備を推進することとし、あわせて既存施設の高質化、施設の利用内容の充実等にも取り組む。さらに、地域住民のうるおいの場としての良好な水辺空間の整備等を推進する。 市町村は、基礎的自治体として、地域社会基盤の整備主体となり、一方で、教育、福祉、消防、一般廃棄物処理等の行政サービスの提供主体であるので、効率的で質の高い住民サービスを確保するため自己能力の評価、改善、人材補強等を行いつつ、その役割の十全な発揮に努めるべきである。 また、恵まれた自然環境等の特色を積極的に生かした学校教育、社会教育を推進するとともに、高度情報通信手段の活用等の多様な学習指導の研究開発を進め、地域の特色にあった教育環境の充実に努める。地域医療については、プライマリ・ケアの確保を目指した医療機関の整備を図るとともに、高度情報通信手段の活用と地域連携を行いつつ、健康増進から疾病の予防、治療、リハビリテーションに至る包括的な医療の供給体制の充実を目指す。 多機能・高質なスポーツ施設、音楽会場等の施設については、中心都市と周辺市町村がそれぞれの特性をいかした連携を図り、都道府県とも調整を図りながら整備を進める。一般的な公共施設やサービスについても連携により高質化と機能分担を行い、高質のサービス提供を目指すべきである。この場合、機能ごとにまちまちな連携が行われるよりも、一定の圏域内でまとまって連携、機能分担を行うことを推進する。 さらに、この圏域を基礎としつつも、水質保全対策等の実施、高次のサービス機能の分担、新たな交流環境の形成、山岳地の自然環境管理等の観点から、この圏域を越えた広域の連携等を進めることも重要である。 このために必要な圏域内及び広域を連絡する交通基盤、高度な情報通信基盤、その他の基盤の整備及びソフト対策の充実を図る。 5 地域づくりに不可欠な経済的条件の整備 多自然居住地域の住民に所得機会を確保するためには、地域の資源状況を十分に認識し、起業家的な視点と意欲を持って企画に当たる必要がある。農林水産業については、自らの置かれた、地形、気象等の条件を活用し、従来型の生産、流通、加工にとらわれず、事業展開を図る必要がある。例えば、付加価値の高い作目の導入、既存の市場流通を超えた流通販売経路の開拓、間伐材利用の商品開発等である。これらに加えて、地域の自然環境、文化等の資源を総合的に活用した「新ふるさと産業システム」とも呼べる産業展開やグリーン・ツーリズム、ブルー・ツーリズム等の進展を踏まえた自由時間対応型の産業への展開を進めることも必要である。 また、第2次、第3次産業についても、多自然居住地域自体の魅力を高めることにより、例えば立地自由度の高い産業の誘致を推進するなど積極的な展開を図り、所得機会の確保を図る必要がある。 このような活動を支援するための基盤の整備、ソフト対策の強化等を積極的に推進する。 第3節 暮らしの安心の確保 1 豊かな長寿福祉社会の実現 少子化、高齢化が進行する中で、子供を安心して生み育てられるとともに、高齢者等が安心して暮らし、また社会参加を通じて生きがいを感じることのできる、豊かな長寿福祉社会を実現する必要がある。このため、年齢、性別等を超えたあらゆる主体の参加の促進にも配慮しつつ、以下の施策を推進する。 (1) 高齢者等が安心して暮らしていける社会的支援システムの構築 高齢者や障害者が自立した生活を送ることができるよう、寝たきり等要介護状態の発生を極力防止するとともに、介護を必要とするに至った場合でも、利用者本位の質の高い多様なサービスを受けながら、安心して住み慣れた家庭や地域で暮らしていける社会的支援システムを構築する。 (保健・医療・福祉にわたる総合的なサービス体系の確立) 高齢者の要介護状態の発生を極力抑制するため、適切な健康診査やリハビリテーションが提供される体制を充実する。また、介護が必要な高齢者に対し、個々のニーズや状態に即した利用者本位の介護サービスが適切かつ効果的に提供されるよう、公的介護保険制度の下で、保健・医療・福祉にわたる介護の各サービスが一体的かつ効率的に提供される体系を確立する。さらに、多様なニーズに対応するため、民間事業者や住民参加の非営利組織等多様な事業主体の参入を促進するとともに、民間事業者による高齢者の保健、福祉のための総合的施設の整備を促進する。なお、以上の施策の推進に当たっては、情報通信技術を積極的に活用する。 このほか、高齢者が自己の資産を有効に活用しながら介護費用や生活費用を確保すると同時に、高齢者の居住の安定を図る観点から、高齢者の所有する不動産を担保として高齢者に融資を行うリバースモーゲージの制度について検討を進めるとともに、高齢者の財産管理の支援等に資するため、痴呆性老人の権利擁護のためのシステムを構築する。 (地域における介護サービスの基盤整備) 高齢者が介護を必要とするに至った場合においても、できる限り住み慣れた家庭や地域で暮らしていけるよう、在宅サービスに重点を置いて、地域の実状に応じ、保健・医療・福祉サービスの質的、量的な充実を図る。このため、24時間対応の巡回型訪問介護(ホームヘルプサービス)の普及を含め、訪問介護の拡充を図るとともに、日帰り介護(デイサービス)や短期入所生活介護(ショートステイ)の実施施設、訪問看護ステーション等の整備を促進する。また、在宅での介護が困難な高齢者のため、特別養護老人ホーム、老人保健施設や療養型病床群等の整備を計画的に推進する。これらの施設の整備に当たっては、老人保健福祉圏域ごとの広域的な調整や計画的なまちづくりにも配慮しつつ、大都市等においては、公有地や低未利用地の活用、公営住宅等との複合化、小規模施設の設置等により用地問題に対応するとともに、中小都市等においては、複数市町村の連携による共同設置、運営等により効率的な施設整備を推進する。 さらに、介護を担う人材の確保や資質の向上を図るため、訪問介護員(ホームヘルパー)等の養成研修の充実、強化、ナースセンター事業や福祉人材情報システムの推進を図るとともに、福祉用具の開発、普及を促進することにより、高齢者等の自立の促進及び介護者の負担軽減を図る。また、家族が介護と仕事を両立できるよう、介護休業制度の普及を推進する。 老人性痴呆に対応するため、老人性痴呆疾患センターの整備等により相談・情報提供体制を充実するとともに、痴呆の進行を緩やかにするなどの観点から、痴呆性老人向けの日帰り介護や痴呆対応型共同生活介護(痴呆性老人グループホーム)の拡充を図る。 障害者については、世話人付き共同生活住居(障害者グループホーム)や授産施設の整備による住まいや働く場の確保、在宅サービスを始めとする介護サービスの充実を図るとともに、生活訓練施設等の拡充を図ることにより、障害者の地域における自立の支援を促進する。 (2) 福祉のまちづくりの推進 高齢者等が安全に安心して活動できるよう、バリアフリーの連続性の確保に配慮しながら、住宅、公共施設等のバリアフリー化を推進する。 (高齢者等に配慮した住宅の整備) 高齢者等に配慮した仕様のための標準的な設計指針の普及やリフォーム技術の開発等により、高齢者等の自立や介護に配慮した住宅の建設、改造の促進を図る。また、今後の高齢者のみ世帯の増加を踏まえ、高齢者向け公共賃貸住宅の供給を推進するとともに、住宅施策と福祉施策の連携強化を図り、生活支援機能が付加されたシルバーハウジング、高齢者向け優良賃貸住宅、ケアハウス、有料老人ホーム等の整備を推進する。 (安全、快適な活動環境の整備) 高齢者等が安全に安心して活動できるよう、面的整備の中で福祉施設の計画的な配置にも配慮しつつ、公共的建築物、公共施設等のバリアフリー化、幅の広い歩道の整備や段差の切下げによる移動環境のバリアフリー化、福祉施設と公園の一体的な整備等を推進する。また、駅におけるエレベーター等の整備、ノンステップバス、リフト付きバス・タクシーの導入促進等を図るとともに、適切な情報提供を行うことにより、高齢者等が公共交通機関を安全かつ円滑に利用できるようにする。さらに、高齢ドライバーの増加に対応し、わかりやすい道路標識等の整備や福祉施設等の周辺地区における道路交通環境の整備等を図る。 (3) 高齢者等の社会参加の推進 高齢者等が意欲に応じて積極的に社会参加活動を行い、健康で生きがいを持って暮らしていけるよう、情報通信技術も活用しながら、高齢者等の就労の機会の確保や生涯学習・スポーツ、余暇活動、ボランティア活動等地域社会への参加を容易にするような環境整備を図る。 また、高齢者の有する豊富な知識、経験を後世に引き継ぐとともに、高齢者の社会参加を促進するよう、高齢者と若年世代との多様な交流の機会を創出する。このため、多世代居住のための住宅・宅地の供給、公園、広場、公民館、スポーツ・レクリエーション施設等の交流拠点施設の整備等を推進するとともに、交流のためのイベントの実施、情報提供や相談体制の整備を図る。 (4) 子育て支援体制の整備 地域において安心して子供を生み育てることができ、子供自身が健やかに成長できるよう、子育て支援体制を整備する。このため、利用者の需要が見込まれる低年齢児保育、延長保育等の保育サービスの拡充を推進するとともに、多様な保育ニーズに対応した保育施設の整備や幼稚園の運営の弾力化を図る。また、地域全体の子育て家庭が、保育所等において身近に育児相談等を受けられるような地域子育て支援体制の整備・充実を図る。このほか、身近で安全な遊び場を整備するとともに、両親が子育てと仕事を容易に両立できるよう、育児休業制度の定着や労働時間の短縮、弾力化を推進する。 2 食料の安定供給の確保 我が国の食料自給率は、平成8年度における供給熱量自給率が42%と先進国のうちでも極めて低い水準にあり、食料の過半を海外に依存している。一方、中長期的な世界の食料需給は、人口の大幅な増加や経済発展を背景とした畜産物消費の増大にともなって、食料消費が今後大幅に増加していくと見通される一方で、農用地の面的拡大の制約や環境問題の顕在化等、生産拡大を図る上での制約要因が明らかになっており、場合によってはひっ迫することも懸念される。 食料は国民にとって最も基礎的な物資であり、国民に対し安全な食料を安定的に供給していく必要がある。他方、現在の豊かな食生活を前提とすれば、国土条件に制約のある我が国において、すべての食料を自給することは困難であり、食料の安定供給を確保していくためには国内生産、輸入及び備蓄を適切に組み合わせる必要がある。このうち国内生産については、世界の食料需給の見通しを踏まえ、可能な限り維持・拡大を図るとともに、水産資源の開発と利用を推進する。さらに、不測の事態にも対応し得る国内供給体制を確立するため、国内に一定の農業生産ポテンシャルを確保することが必要である。また、国際協力にも配意しながら、国際交流・連携を推進し、農水産物の国内生産を補完する輸入の安定化につなげる必要がある。 (1) 農業における食料の安定的供給のための施策 食料の安定的供給のためには、平素から優良農地、農業用水の確保や地力の維持及び増進に努めるとともに、技術・経営能力に優れた担い手の育成及び確保、農業技術の開発及び普及、等を図る必要がある。 この場合、農地については、国土利用計画において2005年における面積を490 万haと見込んでいるところであるが、農地は、いったん改廃や転用されると、その回復には非常な困難を伴うものであり、今後ますます厳しい国際競争にさらされる中で、食料を適正な価格で供給していくためには、生産性の向上が不可欠であり、生産基盤の整備を進めるとともに、基幹かんがい排水施設を始め土地改良施設の高質化を図りながら計画的な更新を図っていくことが重要である。なお、沿岸域の農地防災対策も必要である。 また、今後、優良農地の確保を基本としつつ、様々な形態での保全のあり方について、その要否、コスト面等を含めた検討も必要である。 また、安定的な輸入の確保の観点から、グローバルな相互依存関係を強化する必要がある。このため、技術協力、経済交渉等国際協調を一層推進していくとともに、持続可能な農業の展開に配慮した国際的な協力関係の下、関係国間での食料国際供給ビジョンの作成に向けて調査を進める必要がある。 (2) 水産業における食料の安定的供給のための施策 国民にとって水産物は、日本型食生活の一翼を担い、動物性たんぱく源の約4割を供給している。しかし、我が国周辺水域における水産資源水準の低下と国際漁業規制の強化等から沖合、遠洋漁業の漁獲量は減少し、自給率は58%(平成8年度)と10年間で24%も低下している。ま た、我が国が水産物を大量に輸入している一方、世界の水産物生産量は大幅な拡大が見込めない状況であり、発展途上国等での需要増大により需給のひっ迫が予想されている。今後、水産業の総合的かつ有機的な安定供給体制の整備が急務である。 このため、世界有数の豊かな漁場である我が国排他的経済水域において、再生産可能な水産資源の持続的利用のために、生産力の高い沿岸漁場の確保と漁場環境の維持、向上を図るとともに、新たな漁獲可能量制度等の実施による資源管理を積極的に推進する。さらに、担い手の育成と確保、水産物生産の基盤となる漁港と漁村の計画的な整備、海域の生産力の向上とつくり育てる漁業の推進等を図る。 3 エネルギーの安定的確保 我が国経済の持続的発展の基盤を確保し、国民生活の安定を図る観点から、エネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保が求められている。また、我が国がエネルギー供給の約8割を輸入に依存していること、中長期的には内外のエネルギー需給の不安定要因がなお大きいこと、地球温暖化の解決に向けて二酸化炭素の排出の抑制を図るべきこと等の諸状況を踏まえ、今後、持続的な経済成長、エネルギー需給の安定、環境保全という目標を同時に達成するための施策の展開が必要である。 このため、新エネルギーの導入、省エネルギーの促進を図るとともに、需要の増大が見込まれる電力について、原子力発電等の推進により安定的な電力供給の確保を図る。 (1) 新エネルギーの導入・省エネルギーの促進等 地球環境問題等に資する太陽光発電等の新エネルギーの開発・導入の促進を図るとともに、新エネルギーの経済性の向上に資する供給需要両面からの施策を講ずる。また、地方公共団体、民間事業者等の新エネルギーの導入の取組を支援する。産業部門における省エネルギーへの取組を引き続き進めるとともに、エネルギー消費の伸びが高い民生・運輸部門において国民の理解と協力を求めつつ効率的な交通網の構築に努める等、省エネルギーの推進を図る。さらに、中長期的なエネルギー需給の不安定要因等を踏まえ、石油等の安定供給の確保を図るとともに、地球環境問題に適切に対応するため、天然ガスの導入に努めるほか、天然ガスパイプラインの可能性について経済性等を含め、検討が行われることが期待される。 (2) 電力の安定的確保 電力については、需要の増大に対応した安定的な電力供給を確保するため電源開発を行うとともに、電源の多様化の推進等により最適な電源構成の構築を進めることが必要である。このため、安全性の確保を最重点としつつ、国民の理解と協力を求めながら、運転時に二酸化炭素を排出しない原子力発電所の建設を着実に推進するとともに、関連する技術開発を推進する。原子力発電所等の立地の促進に際しては、既設地点・新設地点を問わず、広域的な視点に立った地域振興が必要であることから、長期的・総合的な地域振興計画への助言・協力を行い、電源三法等の諸制度を活用して総合的な基盤の整備を図るとともに、地域経済の自立的発展に向けた地域の主体的な取組を支援する。 第4章 産業の展開に関する施策 我が国が今後とも経済の活力を持続し、豊かな生活と雇用の安定の確保を実現していくためには、経済構造や金融システム等の改革を進め、成長が期待される産業を中心として、産業構造の転換、人々のニーズへの的確な対応等を図るとともに、外国企業の対日投資の促進やアジアとの国際分業関係の一層の深化を図る必要がある。経済のグローバル化にともなう国際競争の本格化及びアジア諸国の急成長、情報化の進展、産業構造の変化等を背景として、我が国の地域産業は急激な転換を迫られている。我が国の経済発展を牽引してきた自動車、電機等の量産型加工組立産業や伝統的な地場産地、企業城下町等の工業集積は、国際競争の激化の中で空洞化の懸念が高まっており、地方都市の商業・サービス業についても、輸入品の急速な浸透、流通ネットワークの再編等により厳しい競争にさらされている。さらに、財政構造改革にともなう公共事業の削減により、地域経済に影響が及ぶ場合も予想される。今後の我が国産業を展望すれば、産業機械等の資本財等国際的に比較優位な産業や、医療・福祉、生活文化、情報通信等国民の新しい需要に対応する産業等が発展していくものとみられる。さらに、これらの産業を支える機能を有する、ビジネス支援関連分野、人材関連分野やソフトウェア、企画・設計等の知識財を生産する産業についても、今後の発展が見込まれる。このため、我が国経済構造等の改革を視野に入れつつ、次の施策の展開等を通じて、多様な特性や条件を有する全国各地域において、活力ある地域産業の構築と雇用機会の確保を図るとともに、国際的な立地競争力を高め、我が国に立地する企業の国際競争力の強化を図る。 @ 研究開発・人材育成基盤の飛躍的強化等を通じて知的資本の充実を図るとともに、新たな産業展開のための支援策の充実や産学官連携・協力の強化を図り、地域における「産業創出の風土」を醸成する。 A 規制緩和の推進等による自由な事業環境の整備や高コスト構造の是正及び交通、情報通信基盤の整備等を通じて国際的に魅力ある立地環境を整備する。 B 農林水産業の新たな展開を図るとともに、多自然居住地域において、これらを基幹とし様々な分野に複合的に取り組める「新ふるさと産業システム」とも呼べる産業展開や自由時間関連産業の展開を図る。また、高度情報通信の活用による知的生産活動の環境整備を進める。 第1節 科学技術の振興と「産業創出の風土」の醸成 知識・技術・情報等を創出する研究開発活動等に必要な施設・設備、制度・仕組みや、それらによって育成される創造的な人材等を知的資本ととらえ、これを格段に充実するとともに、新規産業の創出や既存産業の新規分野への事業展開を促進する環境を整備することにより、大都市圏及び地方圏のそれぞれの地域において、地域の内部から自立的に新しい産業の展開を促す「産業創出の風土」を醸成することが必要である。 1 知的資本の充実 (1) 研究開発施設等の整備充実 高度な研究開発や教育活動を展開するとともに、国際社会に貢献する独創的・先端的な研究開発の一層の推進を図っていくため、大学をはじめとする高等教育機関や試験研究機関等の教育・研究開発施設の整備を推進する。高等教育機関については、とりわけ、時代の要請に対応した学術研究の一層の進展を図るためには大学院の果たす役割が大きく、先端的・学際的分野を対象とする研究科の新設を促進するなど、その一層の高度化・活性化を図る。また、高性能化・大型化への要請に対応した研究設備の整備を推進するとともに、競争的資金の充実を図るなど、研究開発投資促進のための重点的な措置を講じる。さらに、国公設試験研究機関や民間企業の研究所、研究開発機能を有する工場等の立地の促進及びそれらの研究開発施設・設備等の共同利用の促進を図る。また、研究開発環境の整備充実を図るため、研究開発活動の場における競争原理の導入、制度・慣行・手続上の制約の緩和や弾力化、審査処理期間の短縮化等知的財産制度の整備改善及び地域における特許情報提供体制の整備、基本規格や試験・評価方法等の標準化等を推進する。 (2) 研究者等人材育成の強化 次代を担う創造力豊かな研究者等の人材に対する適切な処遇と活躍の機会の確保と、研究・生活環境の充実を図るため、各種の特別研究員制度の拡充等による若手研究者支援の強化や研究費の確保、研究環境の整備、研究評価システムの整備等に努めるとともに、将来の科学技術系人材を確保するため、児童生徒が生命、宇宙の諸現象等に関わる科学技術に親しむ機会の充実や大学・高等専門学校の理工系分野の魅力向上に努める。また、地域の研究機関等において、共同研究の構築・運営等に当たるコーディネーターを重要なスタッフとして位置付け、積極的に活用する。さらに、高度情報化を支える人材の育成・確保を図るため、高等教育機関等における高度な情報技術者・研究者等の育成強化や情報処理教育の充実、地方公共団体や民間企業等における研修制度の一層の充実等を図る。 (3) 新たな研究開発拠点の整備 地域の科学技術水準の向上を図るため、地域における先導的・基盤的研究開発等を積極的に推進するとともに、それらを結集することにより世界的水準の研究領域を開拓し、創造的な技術シーズを創出するための研究開発基盤の整備充実を図る。また、産学官の機関のネットワーク化や研究開発投資の重点的な措置により、筑波研究学園都市及び関西文化学術研究都市の整備を推進するとともに、広域国際交流圏の形成の核ともなる国際的水準の新たな研究開発拠点の整備を図る。 2 新規産業創出・新規分野への展開を促進するための環境整備 (1) 新たな産業展開のための支援策の充実 新規産業の創出や既存産業の新規分野への事業展開を促進し、地域における雇用の創出を図るため、新製品の開発を行う企業や創業間もない企業に対する資金供給の円滑化を図るとともに、賃貸工場や研究施設の整備を図る。企業の持つ技術シーズと市場のニーズとを結びつける人材の育成・確保やベンチャーキャピタル等の支援制度に関する情報提供や大学、試験研究機関等の有する技術シーズの流通促進等の施策の強化を図る。また、高等教育機関等における創業意欲にあふれる人材の育成強化、企業内ベンチャーを評価する企業に対する支援等を行うとともに、チャレンジ精神を持った起業家を高く評価するなど、意識面からも地域の「産業創出の風土」の醸成を図る。さらに、既存の生産機能の集積や自然、文化等の地域資源を活用した街並みや交流拠点を整備するなど、産業振興とまちづくりを一体的・相乗的に推進することによって地域の個性と魅力を創出し、地域産業の高度化及び既存産業の新規分野への事業展開を促進する。 (2) 地域内の産学官連携・協力の強化 地域の研究開発ポテンシャルを結集し、地域における新たな産業の展開に結びつけるため、高等教育機関、国公立の試験研究機関、民間企業の研究部門等の地域内での連携・協力を強化する。公設試験研究機関においては、行政区域を越えた技術情報交換や共同研究、試験研究設備等の相互利用等、広域的な連携の推進を図る。高等教育機関においては、地域の民間企業等との共同研究や受託研究、技術相談や技術教育等を推進するため、資金・研究者等の一層の流動性を確保する。また、研究開発を支援する共同研究センター等の設置を推進するとともに、地域における産学官の連携・協力の促進を図るための協議機関等を設置するなど、人材や施設・設備の整備充実を図る。さらに、地域戦略や企業経営・市場戦略等のコンサルタント機能の強化を図る。一方、専門高校等においても、地域の産業界との連携を推進する。 また、これらと併せ、情報通信網を活用して、複数の産学官の研究機関等の共同研究や研究交流を促進するための研究開発等を推進する。 第2節 知的機会の充実による知識財産業等の地域的展開 今後、大幅な成長が期待されるソフトウェア、企画・設計、広告・宣伝、研究成果等知識財を生産する産業(知識財産業)は、地域の雇用増加だけでなく、既存の農林水産業や工業を高生産性・高付加価値なものとするとともに、地域住民の生活の向上に積極的に寄与する社会サービス産業の育成にも資するものである。このため、学習や企業活動の展開を促すために必要な情報を入手したり、知的な刺激を受ける機会、すなわち知的機会の充実を図ることにより、地域の知的資本を充実させるとともに、中枢拠点都市圏を中心に、地方中枢・中核都市等において知識財産業等の立地を促進する。 1 知的機会の充実 (1) 情報通信を活用した知的機会の均等化 全国各地域に均等に知的機会を提供するため、情報通信基盤の整備を図るとともに、情報通信を活用し、ユーザーのニーズの変化等に対応した技術情報や市場情報等を提供する機能の一層の高度化、総合的な学術・科学技術情報等を迅速、的確に提供するネットワークの形成や電子図書館システムの構築等を図り、多くの人々が低廉な使用料で容易に必要な情報や学習機会等にアクセスできるような環境を整備する。また、全国的な図書館の検索・利用システムや地域住民に対して多様な生涯学習情報を提供するシステムのネットワーク化、マルチメディア化を推進し、基礎的な知的機会の充実に努める。さらに、放送大学の全国化、衛星通信を活用した大学間のネットワーク化の推進及び通信制の大学院制度の創設等、学習者の興味・関心や能力に応じた知的機会の提供が可能になるような柔軟な高等教育システムの構築を図る。 (2) 学習、職業能力開発に係る機会の充実 地域において知的資本の充実と知識財産業の集積を図るためには、学習や職業能力開発に係る機会を充実することが必要である。大学等高等教育機関は、地域の新しい産業、技術、文化等の創出に重要な役割を果たすことから、今後18歳人口の減少が見込まれる中、全体として抑制的に対応することとされている大学等の新増設については、技術革新の著しい進展等に対応して高まりつつあるリカレント教育に対するニーズ等も踏まえ、なお地域間格差の存する地域を中心に社会的要請に応じて弾力的に取り扱い、その整備を図る。また、高等教育機関をリカレント教育の場として活用するため、社会人特別選抜の実施等入学機会の多様化や、サテライト的な大学院教育の場の設置等履修形態の柔軟化等を推進するとともに、公開講座の拡充、大学図書館の一般利用等を推進する。さらに、大学間の単位互換制度の活用等高等教育機関間における地域連携を推進する。また、図書館、博物館等の社会教育施設等については、施設・設備の一層の充実及び指導者の育成等質的な向上を図るとともに、広域的な地域連携によって、総合的な生涯学習を振興する体制の整備を推進し、最も身近で基礎的な知的機会の充実を図る。 一方、産業構造の変化に対応した職業能力の開発を促進するため、各地域において公共職業能力開発施設の整備を図る。また、公設試験研究機関や地域の職業訓練施設等で実施する技術研修・講習会の一層の充実を図る。さらに、企業による学習講座の開設や企業博物館の設置等地域の知的機会の拡充に資する企業の社会貢献活動を積極的に支援する。 2 知識財産業等サービス産業の新たな展開 知識財産業の大都市圏の周辺地域や地方中枢・中核都市等への立地を促進するため、知的機会の充実を通じて地域の知的資本の充実等事業環境の改善を図るとともに、地域の生活環境の改善や情報、デザイン等の人材の育成及び受入れを促進する。 また、今後大幅な需要増が見込まれる医療・福祉・健康、教育・文化等の社会サービス産業の集積は、地域の暮らしの充実と魅力の向上につながるとともに、それ自身が新たな産業立地の基盤ともなることから、公的サービスの充実に加え、民間企業によるサービス提供を促進する。環境分野におけるリサイクルや廃棄物処理等の資源節約・環境対応型の産業の展開は、地域における就業機会の確保のみならず、地球温暖化への対応等地球時代における環境を重視する社会を形成する上で重要な役割を果たすものと考えられ、その一層の発展を図る。 さらに、人口減少・高齢化の進展等による地域の消費購買力の低下や、交通網の整備等を背景とした多角的なサービスを提供できる商業施設の郊外立地等により、活力低下が懸念される各都市の中心市街地における商業・サービス業の活性化を図るため、隣接した都市間の地域連携を強化することによる市場圏の拡大、公園、文化施設、病院等と流通・サービス業が一体となった空間整備等を図る。 第3節 国際的に魅力ある立地環境の整備 我が国企業の国内立地を確保し外国企業の対日投資を促進することにより、我が国の経済の活力を維持し雇用の安定を確保するためには、我が国の立地環境を国際的にも魅力あるものとすることが必要である。このため、高度情報通信、物流、金融、エネルギー等の各分野における規制緩和の推進等により、我が国経済システム全体の高コスト構造の是正及び自由な事業環境の整備を推進するとともに、以下の視点から立地環境の整備を図る。 1 産業集積地域における立地環境の整備 (1) 地域の基盤的技術・技能集積の維持・発展 これまで我が国経済を支えてきた産業集積地域が、国際的な分業関係の一層の深化等に柔軟に対応し、新たな展開を図っていくためには、長年にわたって培われてきた技術・技能や人材の集積を活用して、新製品の開発や新しい技術の開拓を進めていくことが必要である。特に、高度な加工技術や試作技術を持つ中堅・中小企業等及び高度な技能を有する労働者の集積は、新たな産業・製品分野を産み出す基盤として、今後とも我が国産業の「ものづくり」機能を支えるものであり、その維持・発展を図る。その際、産業集積地域の企業が商品開発や市場開拓のための幅広い情報に接する機会を提供するため、地域内の異業種交流や産学官交流等を活性化する。また、独自の技術力を有する中堅・中小企業の集積を生かした受発注や商品開発等に係るネットワークの形成を促進する。 大都市圏等の臨海工業地帯については、産業構造の転換等により発生する低未利用地において、都市機能・産業集積への近接性等を生かした新たな産業を展開するに当たっては、これを円滑に進める観点から、当該地区の周辺における居住機能等の都市的利用との調整を図るとともに、産業的利用に係る諸制度の見直しや産業基盤の整備等を行う。 (2) 産業基盤の整備等 国際的にも魅力的な立地環境を整備するため、知的資本の充実等事業環境や生活環境の整備等と併せ、港湾、空港、高規格幹線道路等の道路ネットワークの一体的・効果的な整備を図る。また、輸出入、通関、出入港手続きの情報化・簡素化等利便性の向上や高度な物流基盤施設の整備等を通じ、国際交流に係る機能の充実等を図り、これらを通じて、輸送条件の改善や企業間連携の強化等に資するソフト、ハード両面で利便性が高い産業基盤の整備を着実に推進する。さらに、企業のニーズの多様化を踏まえ、環境の保全に留意しつつ、地域の産業開発戦略に沿った用地、用水等の整備を推進する。 新産業都市及び工業整備特別地域については、これまでに形成されてきた産業集積や都市基盤を生かし、多様な産業の展開、魅力ある都市づくり及び雇用の創出を促進する観点から引き続き整備を進めるとともに、地域振興政策におけるそのあり方について長期的な視点から幅広い検討を行う。また、テクノポリス地域及び頭脳立地地域においては、これまでの施策を通じて産業集積の形成が進みつつあり、当該地域における産業の一層の高度化や地域内からの産業創出を促進する観点から、地域企業、大学等の連携・交流の強化等を通じ今後とも整備を進める。 苫小牧東部地域については、すぐれた立地環境を生かし、生産施設やエネルギー関連施設及び我が国にとって重要な施設である国家石油備蓄基地の立地が進んでいるが、近年の経済社会情勢の変化を踏まえて開発方策等の検討を行いつつ、それに基づき推進する。 むつ小川原地域については、我が国にとって重要な施設である国家石油備蓄基地や核燃料サイクル施設の立地・建設に加えて研究施設の立地が進んでいるが、近年の経済社会情勢の変化を踏まえて、これまでの基盤整備を生かし、開発方策等の検討を行いつつ、それに基づき推進する。 ただし両地域の検討に当たっては、「北海道東北開発公庫に係る両プロジェクトについては、新銀行設立までの間に、関係省庁、地方公共団体、民間団体等関係者間において、その取扱いについて協議の上、結論を得るものとする」としている特殊法人等の整理合理化に関する閣議決定を踏まえて適切に対処する。 2 工業等の地域的展開 (1) アジアとの分業の深化と立地展開 産業機械等の資本財、自動車や電機部品等の技術水準の高い中間財、少量生産・高付加価値型の消費財等の産業は、今後ともアジア諸国との工程間、製品間分業を一層深化させ、完成品、部品の輸出入や人的交流を飛躍的に増大させつつ、着実に成長することが期待されることから、地方圏においてもこれらの産業の成長を可能にするための条件整備を図るため、広域国際交流圏の形成による国際交流基盤の整備を促進する。また、今後も国内立地が期待される内需対応型の工業等の地方圏における展開を促進するため、知的資本や基幹的な交通基盤等地方圏における立地条件の整備を引き続き促進する。 工業再配置政策の推進に当たっては、経済のグローバル化等の環境の変化に対応した我が国工業の将来展望等を踏まえ、国土の均衡ある発展を図るという視点に加え、国際的な立地競争力を確保するという観点にも配慮していくことが求められる。 (2) 外資系企業の立地促進 我が国が成長するアジア地域の一角を占め、その最大の市場であること、研究・技術面の蓄積等の立地上の優位性があることから、今後は外資系企業の工場や研究所の立地需要が増加するものとみられる。このため、対日投資促進の観点から、規制緩和の推進、金融上の措置、情報の提供、M&A環境の整備、日本的商慣行の是正、高コスト構造の是正等の課題に対して積極的に対処する。また、各地域においても外資系企業に対する優遇制度の設置等、地域がそれぞれ創意工夫を凝らした立地促進への取組の推進を図る必要があり、交通、情報通信基盤の整備、地域の研究・技術開発基盤の強化や、言語や文化、安全・生活面にも配慮した、外国人にも魅力のある就業・教育環境の整備充実を図るための支援を行う。 3 労働力需給の産業間・職業間及び地域間調整の推進 今後、各地域における知的資本の充実にともなって研究者や技術者等の需要が格段に増加するなど職業別就業構造が大きく変化することが見込まれ、また、雇用形態や賃金体系についても変化がみられることから、労働力の再配置は、従来の新規入職・定年退職によるものから職業間・産業間の労働力移動によるものに比重が移行することが予想される。そのため、失業なき労働移動に取り組むとともに、参入しやすく転出しやすい労働市場の整備を図り、また、在職者も含めた様々な求職者に対する多様な雇用情報を提供する機会や、専門的・技術的な分野を含む多様な職業能力開発を促進するための体制を整備する。また、各々の能力や適性に応じた職業選択や生涯設計を図れるよう、初等中等教育段階から職場体験等を通じて勤労観や職業観の育成を図るとともに、若年者、中高年齢者を問わずにこれらに対する職業情報の継続的・体系的な提供を行う体制を整備する。 一方、高齢者の増大等地域間移動の困難な労働者層が拡大すること等により雇用機会の地域間不均衡による雇用のミスマッチの拡大が懸念されることから、地域における魅力ある雇用機会の開発に対する支援を行い、あわせて、UJIターンのより一層の促進や職業相談、職業訓練の充実等により、円滑な地域間移動が図れるような環境の整備を図る。 さらに、高齢化や核家族化の進展に対応し、高齢者の就業ニーズや地域の実情に応じた臨時的、短期的な就業の場の積極的な提供及び育児休業や介護休業の普及促進等により、職業生活と家庭生活との両立や女性の就業を積極的に支援するための環境整備を推進する。 第4節 農林水産業の新たな展開 1 農業の新たな展開 我が国の農業は、構造的変革の端緒につきつつある。すなわち、経営感覚に富んだ、意欲ある若き担い手の増加等により、農業が気象や土地条件等に影響されやすいという特性を持ちながらも、その置かれた条件をたくみに活用した取組が各地・各農業分野で育ちつつあり、 発展に向けた明るさがみられる。もちろん、一方では、土地利用型農業での規模拡大の遅れ、担い手の減少・高齢化、耕作放棄地の増大等の問題を抱えている。我が国においては、国民の食生活の変化に農業生産が対応できなかったこと等から、食料自給率が大幅に低下し、また、農山村の過疎化が進行しているという問題も生じている。したがって、21世紀の我が国の農業に求められる農山漁村の活性化、食料の安定的供給の確保等の役割を十全に果たすため、国土や自然環境の保全に配慮しながら、以下の施策を強力に進めることにより、構造的改革を一層促進する。 (1) 農地の流動化による規模拡大の推進 効率的で安定的な農業生産の構築のためには生産基盤の整備等と併せ、規模拡大と農地の集団化を行う必要がある。 このため、土地の利用には社会的責任をともなうものであるとの認識に立ち、その農業上の効率的な利用を図る観点から、農業委員会等のあっせん活動等による農用地利用調整、農地保有合理化法人による担い手への農地の利用集積等により農地の流動化を促進する。 (2) 担い手の確保と次世代の育成 農業就業人口の減少と著しい高齢化の進行が想定されることに対応して、将来の農業の担い手を幅広く確保していくためには、効率的かつ安定的な農業経営への農地の利用集積、地域農業の組織化、非農家からの新規参入を含めた担い手の育成、女性の役割の正当な評価、農業の担い手と高齢者、兼業農家等の役割の明確化等を行い、それぞれの主体が行う農業の適切な誘導を図ることが必要である。 このため、意欲ある経営体への支援施策を充実し認定農業者制度等の推進を図るとともに、経営の熟度に応じた農業経営の法人化を推進する。また、担い手がいないなどその地域の状況に応じて、多様な主体の農業経営への参入等農業生産の担い手をいかに幅広く確保していくかにつき検討する。この場合、農業経営の持続性と投機目的での農地取得防止の担保につき配慮する必要がある。特に、多様な地域資源を生かし、生産・加工・流通及びサービスの提供を総合的に取り組む多産業複合経営を地域の状況に応じて推進する。さらに、新規就農者の確保のため、農地取得等の情報提供とあっせん等を行う組織の強化と農業就業者の安定確保体制の整備等を図るとともに第三セクター等を活用した担い手育成、学校教育の充実、市民農園の整備、技術向上等のための施策を推進する。特に、中山間地域等において、担い手を確保するための方策について、幅広く検討を進める。 (3) 農業生産基盤の整備と高質化 食料の生産力の向上を図り、効率的で安定的な経営体が、生産性や収益性が高く持続可能な農業を営むための基礎条件の整備として、農業生産基盤の整備と高質化を推進する。 このため、大区画ほ場の整備、水田の農業用用排水施設の整備や畑地かんがい施設の整備、農道の整備、農地防災事業等の実施、土づくり等資源のリサイクルに資する施設、水質浄化施設等の整備等を、地域の状況に応じて、生活環境との一体的な整備や生態系を含む農村環境の保全や創造を行いながら、効率的に推進する。その際、技術の進歩等を踏まえ、自動水管理施設、ほ場地下かんがい施設、循環かんがいの導入等生産基盤の高質化を図っていく。さらに、高度情報化システムやクリーンエネルギーの利用技術等の新技術を活用することにより、生産性向上と環境保全を計画的、効率的に推進する。 また、農業生産基盤の整備により形成されてきた社会資本について時代の技術を結集して適切な維持管理を進めるとともに、高質化しながら計画的な更新整備を図る。この場合、農地の流動化による規模拡大にともない、相対的に少数の担い手による新たな農業が進展するきざしがある中、社会資本ストックの機能を十分発揮させるため、必要となるソフト対策をハード対策と一体的に推進する。 (4) 高度情報通信等新たな技術を活用した安定的農業生産の確保 高度情報通信技術を活用し、農業気象情報の収集、市場の動向調査、農産物の流通システム等の高度化等を図るため、情報通信基盤の整備、情報提供システムの開発等施策を総合的に推進する。また、生産性の向上、担い手の労働快適化等を図るため水稲直播技術等の生産現場に直結した技術開発、バイオテクノロジー等の基礎的、先導的な研究を推進する。 (5) 環境保全型農業の展開 農業は農村空間における物質循環機能を生かして営まれてきた。しかしながら、近年、農業生産活動における農薬や化学肥料の多投入や不適切な使用等による土壌や水質等環境への悪影響も生じており、将来的に持続可能な農業の展開を図っていく必要がある。このため、生態系にも配慮した整備を行うとともに、有機物資源のリサイクルによる土づくり等を促進し、環境保全型農業を推進する。 2 林業の新たな展開 世界的に木材需要が増大する一方、地球全体として減少と劣化が進む森林の状況を踏まえ、毎年、蓄積が増加している国内資源を有効かつ持続的に利用していく必要がある。また、林業と木材産業を巡る厳しい情勢の中で、山村経済の振興、森林の多面的機能の確保等の重要な役割を十全に果たしていくため、広範な関係者の連携を通じて、林業と木材産業の一体的な活性化、森林空間、景観等をも最大限に活用した総合的な産業の展開、木の文化の展開を図る必要がある。 (1) 流域を単位とした林業と木材産業の活性化 地域の特性に応じた森林整備とその生産材利用の推進に向け、流域を基本単位として、いわゆる川上から川下に至る関係者の連携の下、木材の生産、加工、流通等に一体的に取り組む森林の流域管理システムを推進する。このため、林業経営体の経営規模の拡大や経営の複合化、林業事業体の協業化や安定的な事業量の確保等を推進し、担い手の確保と育成を図る。また、高性能林業機械のレンタル、情報提供等の流域での事業活動の支援を図るとともに、林道や作業道の整備と間伐とを一体的に促進する。さらに、需要者の住宅等への要請に応じ、安定した品質の製品を低コストで適時適量供給し得る効率的な木材供給体制の整備を図る。 (2) 森林を総合的に活用する産業展開 多産業複合経営による経営基盤の強化といった観点から、多様な木材・木材製品や特用林産物の生産、加工、販売から、森林空間や景観そのものをも活用した、健康や心身のリフレッシュに着目した森林レクリエーション、宿泊や森林ガイド等のサービスの提供等の分野にまで複合的に取り組み、「もり業」ともいうべき森林を総合的に活用した森林産業の展開を図る。 (3) 木の文化の展開 「木の文化」の展開に向け、木材の健康面等での優れた性質や環境に負荷の小さい資材としての有効性を普及し、内装材、屋外施設、未利用木質資源の有効活用等の多様な分野における木材の利用推進を図る。また、研究機関、関連企業、消費者等との連携を促進し、耐久性向上や間伐材利用等の技術開発、住宅関連事業等と提携した商品開発や加工・販売体制の整備、産地直送住宅への取組、学校等公共施設等への木材の利用推進を図る。さらに、リサイクル等による木材の有効利用の推進を図る。 3 水産業の新たな展開 (1) 魅力ある水産業の展開 国連海洋法条約に基づき、新たな漁獲可能量制度の定着を図るとともに、漁業者が自主的に資源を管理するなどの取組を通じて、多面的な資源管理を推進する。あわせて、海洋の持つ生産力を最大限に生かし、持続的かつ高度な利用を図るため、沿岸漁場の整備、栽培漁業、養殖業等のつくり育てる漁業を総合的かつ有機的に推進する。このため、資源・漁獲管理情報システムを整備し、漁場造成技術の開発のほか関連する技術開発を進める。 また、水産業の担い手の確保のため作業の省力化、安全性の確保等、労働環境の改善を図るとともに、新規参入を促す就職情報提供、受け入れ制度等のソフトの面の充実を図る。あわせて、高齢者や女性にも配慮しつつ、漁業者の就労条件の改善を図る。 さらに、漁業者を中心とした関係者の連携の下、海に関する知識を活用した遊漁、ダイビング等の案内や宿泊、魚食文化の伝承、料理の提供、水産物の加工と販売等の「うみ業」ともいうべき海を生かした多産業複合的な取組を推進し、地域の活性化を支援する。 (2) 生産・流通基盤体制の展開 水産物供給の基盤となる漁港、漁村については、海洋・沿岸域の保全・管理上の役割にも配慮しつつ、沿岸域圏内での一体性を有する地域の特性に応じた漁港や漁村での連携と機能分担による効率的な整備を進める。その際、生活環境との一体的な整備、都市部との連携による海とのふれあいの推進、生態環境との調和に配慮して進める。その中で拠点となる漁港においては、陸揚げ、流通機能の高度化、適正な漁獲量管理機能の強化、情報通信機能の集積等を図る。また、消費者の安全で新鮮な水産物への要求にこたえた生産、流通体制を整備し、付加価値の高い加工品の開発と利用を進める。 第5節 多自然居住地域における産業の展開 中小都市と中山間地域等を含む農山漁村等においては、低価格食品や原材料の輸入の増大等により、農林水産業や食品・木材等の農林水産加工型工業への影響が一層深刻となるとともに、地方中心・中小都市を支えてきた商業・サービス業が停滞するなど、地域活力の低下が懸念される。一方、これらの地域は、今後人々の自由時間の拡大、環境・文化を重視する価値観やライフスタイルの多様化、情報通信サービスの一層の充実等により、大都市や中枢・中核都市圏とは異なる自然的・社会的条件を有する多自然居住地域として新たな視点から評価されることが期待される。このため、基幹産業である農林水産業の振興に加え、以下のような地域の持つ特性や条件を最大限に生かした新しい産業の展開を図り、所得機会の確保と地域の活性化を図ることが必要である。なお、これらの地域の産業開発戦略の構築に当たっては、地域の中心となる都市と周辺地域を一体の圏域としてとらえ、両者が都市的機能と自然的な機能を相互補完することや大都市圏との交流人口を拡大すること等を念頭に置いて、より広域的な視点に立って行うことが重要である。 1 新しいふるさと産業システムの展開 中山間地域等を含む農山漁村では、従来から地域にある多様な資源を活用した「ふるさと産業システム」ともいうべき複合的な産業活動が展開されてきた。今日のような自然再認識やゆとりと豊かさを希求する大きな流れの中で、活力ある多自然居住地域を創造していくため、農林水産業の経営基盤の強化を図ることはもとより、地域資源を最大限に活用する観点から、農林水産業のフィールドの積極的な利用も視野に入れ、加工・販売や各種のサービスの提供に取り組み、「新ふるさと産業システム」とも呼べる産業展開を図る。この場合、人材や技術・技能を含めて、地域が持つポテンシャルを有効に活用し、地域全体として、様々な分野を複合的な視点で振興することも重要である。このため、市町村、都道府県、国、商工会、観光協会、農業協同組合、森林組合、漁業協同組合、土地改良区、研究機関、企業、ボランティア団体等の広範な連携を促進し、農林水産業を基幹とした地域の産業振興の構想づくりを行うなど、意欲ある者が様々な分野に進出し、地域が一体となって地域資源を総合的に生かす新しいふるさと産業システムの構築とその推進に対し、ハード、ソフト両面の支援の強化を図る。 2 自由時間関連産業の開発 地域の豊かな自然や文化等の資源を活用することによって都市との交流を促進し、都市の人々の自由時間を活用した滞在型の交流地や第二の居住場所として、観光レクリエーション産業や、グリーン・ツーリズム等の進展を踏まえた産業の展開を図るとともに、新たな定住を促進する。また、アジア諸国の経済発展等にともない我が国を訪問する外国人が格段に増加すると見込まれることから、美しい自然的・文化的景観や優れた滞在環境等を整備することにより、国内外の交流人口の飛躍的な増加を図る。さらに、伝統的な技術を用いた工芸品や地域資源の生産・加工による特産品の開発等、地域づくりと一体となった製品開発を行うことにより、新たな地域産業の展開を図る。 3 高度情報通信の活用による産業及び就業機会の創出 高度な情報通信基盤の活用によって、情報処理サービス、ソフトウェア等の立地自由度の高い産業の展開を図るためには、優れた自然環境を生かしたリゾート型サテライトオフィスを始め多様な知的生産活動の場を提供するなど、これらの産業を地域の新たな産業や就業機会として定着を図ることが必要である。このため、交通、情報通信基盤の整備、通信コストの低減化、知的機会の充実等地域の事業・生活環境の改善を図り、情報・デザイン分野を始めとする地域産業を担う人材の育成及びUJIターンのより一層の促進を図る。 第5章 交通、情報通信体系の整備に関する施策 交通、情報通信体系は、国内外の地域相互を結びつける基礎的基盤であり、地域間の連携を基礎に地域自立のための機会の均等化を進め、全国各地域の発展を求める国土づくりの戦略の下で、その役割が一層高まっている。また、産業など国内外の地域間競争が厳しさを増していく中で、各地域に国際的に魅力ある立地環境を整える上でもその重要性を増している。特に、高度情報化と地球時代の到来の中で、広域国際交流圏の形成と、増大する国際間の人、物、情報の円滑な流動を確保するための機能の強化が全国各地域において求められている。この観点から、公的部門と民間部門、国と地方との適切な役割分担の下で、安全、環境等を考慮した自然との調和の視点にも留意して、交通、情報通信体系の整備を次の基本方向に沿って進める。 @ 交通、情報通信体系の国際競争力の強化を図るとともに、全国各地域と世界とのアクセス機会の均等化を実現するため、国際交通拠点の全国適正配置、これらへのアクセス性の向上及び高度な情報通信基盤の全国展開を図る。 A 雇用機会や高度な都市サービスの享受機会等地域自立のための各種機能へのアクセス機会の均等化を広域的観点に立って実現するため、低廉で、利便性の高い、また高齢者等にも使い易い交通、情報通信体系の形成を図る。 B 安定度の高い交通、情報通信の確保と自然と調和した国土の形成に資するため、自然災害等により完全に途絶することのない粘り強さを持ち、また情報通信による交通の代替等を含め環境への負荷の少ない交通、情報通信体系の形成を図る。 なお、交通、情報通信体系は、国土構造及び地域構造を規定する主要な基盤であり、上記体系の整備は、長期的な国土軸の形成を展望しつつ進める。 第1節 交通体系の整備 1 交通体系整備の基本目標 長期的な国土軸の形成を展望しその基礎として、地域が連携し自立的発展を図ることを可能とし、価値観に応じた暮らしの選択可能性を高める交通体系を築くことと、人と自然との安定的な関わりを求める国土軸形成に資する安全、環境等を考慮した自然との調和を図った交通体系の形成を目指し、次の事項を交通体系整備の長期的な基本目標とする。この体系の形成に当たっては、適切な競争と利用者の自由な選択を通じて、各交通機関が連携し、それぞれの特性が生かされた体系の実現を目指す。 @ 国際間の基幹的な航空路線、海上航路の我が国への就航を保障する国際級の規模と機能を有した国際交通施設の拠点的配置とともに、世界とりわけアジアへのアクセスの利便性を高める国際交通施設の全国適正配置を目指す。 A これまで進めてきた施策を踏まえ、基幹的交通体系と地域の交通体系が直結、融合化した利便性の高い、より高速な国内交通体系の形成を目指す。全国交通体系にあっては、高速性、利便性の向上により、全国主要都市間での日帰り可能性を一層高める全国1日交通圏の形成を推進し、地域の交通体系にあっては、諸機能の適正配置に併せ、人々の広域的な諸活動を支える利便性の高い交通体系を形成する。 B 各交通機関の特性を発揮した適切な組合せや自然災害対策等により、系全体として自然災害に対し粘り強いしなやかさを持ち環境への負荷が少く、文化やゆとりにも配慮する、安全で自然と調和した交通体系の形成を目指す。 2 国際交通体系の整備 (1) 国際交通体系整備の長期構想 地球時代の到来により、商用、観光等我が国を発着する人や物の流動量が飛躍的に増大すると見込まれる。これに備え、各地域と世界とのアクセス性を向上させる国際交通体系、とりわけ交流の活発化が予想される全国各地域と東アジア各国間においては、人の移動にあっては出発したその日のうちに到達でき、一定の用務が行える「東アジア1日圏」とも呼べる、次の国際交通体系の整備を構想する。この構想の推進により形成される対アジアゲート、グローバルゲートとこれへのアクセスのための高速交通体系の整備を始めとした国内交通網の形成により、新しい国土軸から世界への交流の基礎が築かれる。 (対アジアゲート) 全国各地域からのアジアへのアクセスに関し、利便性の高いサービスを提供するため、地方圏において、既存ストックを活用して、おおむね中核都市を中心に、需要の高い特定のアジア諸国との交流の玄関となる空港、港湾の配置を構想する。これら空港、港湾を対アジアゲートとすることにより、次のグローバルゲートとともに、各地域からアジアへの至近な直接交流の基盤を確保する。 (グローバルゲート) 世界各国と多方面多頻度の航空路線で結ぶいわゆる国際ハブ機能を持つ中枢拠点として、国際的な規模と機能を有した競争力の高い国際空港を東京圏、関西圏、中部圏に配置する。さらに、全国各地域と世界各国との国際航空需要に対し利便性の高いサービスを提供するため、既存ストックを活用して北海道、東北、中四国、九州、沖縄等の各ブロックに国内航空ネットワーク、アジアとのネットワークとの連携のとれた、グローバルなネットワークも視野に入れた地域のゲートとなる国際空港の配置を構想する。同じく、多方面多頻度の海上航路が寄港する国際ハブ機能を持つ中枢拠点として、国際的な規模と機能を有した競争力の高い国際港湾を東京湾、大阪湾、伊勢湾及び北部九州の4大域に配置する。さらに、東アジア航路に加えて、欧米等と結ぶ航路も視野に入れ、北海道、東東北、日本海中部、北関東、駿河湾沿岸、中国、南九州、沖縄の各地に地域のゲートとなる国際港湾の配置を構想する。 (2) 国際交通体系整備のための計画期間中の施策 長期構想に沿って、物流の効率化に資する施策に当面の重点を置きつつ、次の諸施策を進め、広域国際交流圏の形成と長期的な国土軸の形成に資する。 グローバルな中枢拠点について、重点的な整備を推進する。空港については、新東京国際空港、関西国際空港の2期事業、中部国際空港について、所要の環境条件を整えた上、国際級の規模と機能を有した滑走路等の整備を推進する。港湾については、東京湾、大阪湾を始め4大域に大水深で高規格な国際海上コンテナターミナルを整備する。これら中枢拠点の国際競争力を強化するため、適正な料金体系の下地球規模の利用を可能とする24時間サービスの提供や、自動化、情報化の推進による効率的な運営等、世界水準のサービスの提供、CIQ(税関、出入国管理、検疫)機能の整備等に総合的に取り組む。地域のグローバルゲートとして、東北、中四国等各ブロックの中心となる空港において、アジアを始め、近中距離を中心とする国際ネットワークを形成するため、滑走路の延長等所要の整備を推進するが、九州等のブロックにおいては需要の動向を勘案し、グローバルゲート機能の強化方策についても検討する。港湾については、需要を見極めつつ北海道、東東北、北関東等の港湾について所要の整備を進める。 対アジアゲートについては、長期構想に沿って需要動向を勘案し、既存ストックを有効に活用して、順次、CIQ等所要の機能を整備する。この際、ポートセールス、チャーター便就航等の需要集約の努力や、広域国際交流圏形成のための諸施策等を地域が連携して進める。さらに、北海道、沖縄における地域の条件を生かした国際交流拠点の形成のあり方について長期的視点から検討する。 これら空港、港湾が地域からの世界との交流の玄関として機能するよう、輸入促進地域整備との連携、空港、港湾等の交通拠点と連結する高規格幹線道路、地域高規格道路、高速鉄道等のアクセスの強化を進めるとともに、必要に応じコンテナの国際規格に対応した道路整備を進め、また、玄関にふさわしい景観を確保し、来訪者を含めバリアフリーな利用しやすい空間となるよう整備する。また、海外からの資源、エネルギーの安定的確保に資する港湾整備を進める。 アジア諸国との旅客船航路や地方空港へのチャーター便等を活用したアジアからの新たな観光需要に対する地方圏の空港、港湾のあり方について検討する。 3 国内交通体系の整備 (1) 国内交通体系整備の長期構想 地域間の連携に基づく交流の活発化、自由時間関連交通の増大等により国内の交通需要は、2010年までは伸び率は鈍化するものの安定的に拡大するものと見込まれる。その後については、社会経済状況の変化等の不確定要因があり、また、輸送機関による差があるとみられるが、全体としては、微増あるいは横ばい状態で推移していくものと考えられる。この中で、交通の長距離化や高度情報化にともない高速性や定時性、低廉性等交通の質の高さが求められ、これらに備え、引き続き「全国1日交通圏」の形成に向け、次のとおり国内交通体系の整備を構想する。この「全国1日交通圏」の一環として、半日での地域間での往復や余裕をもった日帰り活動を可能とする「地域半日交通圏」とも呼べる広域的な地域の交通体系が形成される。「地域半日交通圏」は、都市機能等の適正な配置に併せ形成され、各地方の生活圏の中心となる都市から中核都市へおおむね1時間以内、中枢拠点都市圏や主な物流ターミナル等へおおむね2時間以内の至近のアクセスを可能とし、地域間の機会の均等化に寄与する。この構想に基づき、陸海空の交通網が機能を分担し合い形成する列島を縦貫する複数の交通軸と、横断する主要な交通軸並びに広域的な活動を支える地域交通体系等により、国土に代替性の高い多様な利用可能性と自然災害に対する粘り強さが与えられ、質の高い国土軸を形成する基礎的な国内交通体系が築かれる。 (陸上交通網) 国土を縦貫あるいは横断し、全国の主要都市間を連結する14,000kmの高規格幹線道路網とこれを補完し地域相互の交流促進等の役割を担う地域高規格道路が一体となった規格の高い自動車交通網、並びに大都市圏、地方中枢都市圏及び主要な地方中核都市を結ぶ高速鉄道網により、国土の骨格となる基幹的な高速陸上交通網を形成する。このうち、地域高規格道路については、既存ストックの有効活用も含めて、6,000 〜 8,000kmの整備を進めることを目指す。また、この基幹的な高速陸上交通網に直結する地域の主要な道路網及び鉄道網を通じ、各地域からこの高速陸上交通網への至近のアクセスが可能となり、「地域半日交通圏」の形成も進む。この交通網は、高度な情報通信技術等を活用したITS(高度道路交通システム)やリニアメトロ等の新しい交通システム、質の高い路面電車等の開発、導入、超電導磁気浮上式鉄道等の新しい技術の開発等により、安全性や効率性を高めるモビリティの高い道路交通と高速性や利便性を高める定時性に優れた鉄道交通を支える。 (航空、海上交通網) 大都市圏における拠点空港、地方の拠点空港及び離島空港並びにコミューター空港やヘリポート、3大湾及び北部九州並びに地方の拠点港湾とそれを補完する港湾をターミナルとして、遠隔の地域間等を自由度の高い経路で直結する国内航空網、及び太平洋、瀬戸内海、日本海等の沿岸部を連結し、更に海峡部、島しょ部を結びつける全国海上交通網を形成する。この交通網は、低騒音航空機材、高度な航空保安施設の導入、TSL(新形式超高速船)の導入等により、快適性や確実性を高める高速性に最も優れた航空交通、高速性や定時性を高める低廉で大量輸送に優れた海上交通を支える。 (2) 国内交通体系整備のための計画期間中の施策 長期構想に沿って、物流の効率化に資する施策に当面の重点を置きつつ、次の諸施策を進め、地域連携軸の展開等を支援するとともに、長期的な国土軸の形成に資する。 (道路) 高規格幹線道路及び地域高規格道路に重点を置きつつ、その整備を推進する。高規格幹線道路網については、21世紀初頭の概成を目指し、幹線交通のボトルネック解消の観点から大都市圏間を結ぶ道路、大都市圏の環状道路等に重点を置き、地方圏にあっては、広域的な連携の軸となる縦貫路線、横断路線に重点を置いて整備を推進する。この際、適正な料金水準の下で採算性を確保し得るよう事業方式を検討しつつ整備を推進する。地域高規格道路については、都市圏の育成や地域相互の交流促進、広域交通拠点との連携等の機能を果たし得るよう長期構想に沿って需要動向を勘案し、地方中枢・中核都市圏の環状道路、農山漁村等と都市部を連絡することにより多自然居住地域の活性化を促す道路、地域発展の核となる都市相互を連結し、地域連携の基盤となる道路、空港、港湾等の広域的交通拠点や都市拠点、地域開発拠点と高規格幹線道路網とを連結する道路等を重点的に整備する。この道路は、基幹的な交通体系と地域交通体系を直結、融合化する重要な役割を担う。このため、地域の独自のプランニングによる連携のシステムづくり等と調和した整備を進める。湾口部、海峡部等を連絡するプロジェクトについては、長期的視点からの調査の推進、計画の推進等熟度に応じた取組を進める。 都市内の交通の円滑化を図るため、道路交通容量の拡大や駐車場の整備、道路空間の立体的活用等も含め、質の高い路面電車等公共交通機関の走行空間の確保に資する道路整備を推進するとともに、パーク・アンド・ライドの推進、ロードプライシングの検討等を含めTDM(交通需要マネジメント)施策等を総合的に推進する。広域的な交流を支援するため、比較的近距離にありながら地形的障壁により交流に制約のある地域間の交流と連携の促進に資するトンネルや橋梁等の整備を図る。また、安全で快適な歩行者空間の確保を図るとともに、増加を続ける交通事故の抑止を図るため、幹線道路等における事故多発地点での集中的な対策を実施するなど、重点的かつ総合的な交通安全施策を推進する。 最先端の情報通信技術等を活用し道路交通の安全性、輸送効率、快適性を飛躍的に向上させるため、VICS(道路交通情報通信システム)の全国展開、及び有料道路における自動料金収受システムの導入やドライバーの安全運転の支援に資する自動運転の実用化、交通管理の最適化等を目指すITSの研究開発、導入を推進する。道路の掘り返し防止や景観に配慮した道路空間の形成等を目的として共同溝、電線共同溝の整備、また、道路管理の高度化を図るために情報BOXの整備を推進する。 (鉄軌道) 幹線鉄道の高速化と大都市圏の都市鉄道の混雑緩和に重点を置きつつ、その整備を推進する。 広域的な連携の軸となる幹線鉄道の高速化を一層推進する。整備新幹線については、平成10年1月の政府・与党整備新幹線検討委員会の検討結果(以下、「政府・与党検討委員会検討結果」という。)に基づき、既着工区間の整備を進めるとともに、それ以外の区間について所要の事業を進める。在来線については、新幹線との直通運転化、線形の改良、新型車両の開発等により高速化を進め、新幹線と在来線が一体となった高速鉄道網を形成する。 大都市圏の都市鉄道については、圏内のリノベーションのための施策とも連携をとりつつ、混雑率をおおむね 150%程度に、特に混雑の激しい東京圏については、当面 180%程度に緩和することを目指し、新線建設、複々線化を進めるほか、オフピーク通勤の普及促進を図る。中心市街地の交通渋滞の緩和と魅力ある都心空間の再生のため、地方中枢・中核都市圏における軌道系の交通機関として、一般自動車交通を排除し歩行者と公共交通機関の共存を図るトランジットモールの整備と併せた質の高い路面電車や地下鉄、あるいは、モノレールや新交通システム等の導入を推進する。 中央新幹線について調査を進めるほか、科学技術創造立国にふさわしく、超電導磁気浮上式鉄道の実用化に向けた技術開発を推進し、21世紀の革新的高速鉄道システムの早期実現を目指す。 (空港) 東京国際空港の沖合展開事業の早期完成を図るほか、増大する東京圏発着の国内線航空需要に対応するため、新たな拠点空港の整備について調査、検討を進める。地方圏において、地方空港の就航率の向上等既存施設の高質化を推進するとともに、離島空港、コミューター空港、ヘリポート等についても、地域連携の促進等その役割を踏まえ、適切に対応する。この際、多様な財源の確保等、効率的な空港整備方策について検討しつつ、着実に整備を進める。また、空港への道路や鉄道乗り入れ等のアクセス性の向上を進める。 (港湾) 海運を利用した複合一貫輸送のメリットを享受できる圏域がほぼ全国をカバーするように、各地域の物流の実態に応じて、海陸複合一貫輸送の拠点となる港湾を重点的に整備する。この港湾空間に、所要の船舶利用施設とともに海陸輸送の円滑な連携を可能とする共同配送機能、高度な情報処理や荷捌きの機能を持つ総合的な物流機能を整備する。主要な港湾において、地域連携の促進等の役割を踏まえ、人流のためのフェリーターミナル、マリーナ、観光船のターミナル等の整備を進める。離島港湾等地域の生活、産業を支える港湾を整備する。また、TSLについて実用化に向けた検討を進め、その結果を踏まえ高速の海上ネットワークを支える港湾を整備する。 (交通施設のバリアフリー化) 鉄道駅等交通ターミナルや道路空間を誰もが安全で快適に利用できるよう、交通施設のバリアフリー化を進める。このため、系統的で分かりやすい案内標識や情報案内システムの整備等ソフト面での施策を進めつつ、エレベーターの使いやすい配置等のスムーズな動線の確保、平坦性の高い歩行空間の確保、高齢者にも配慮した信号機の設置等交通施設をやさしくゆとりある構造に整備する。 (交通施設のリノベーション) 既存ストックを効果的に改善し、施設の能力と質を高める交通施設のリノベーションを重点的に推進する。このため、幹線道路の系統的な立体交差化等による高規格化と、これにともない利用実態の変化した既存の道路空間での歩道整備等道路空間の再構築、道路と鉄道の立体交差化や線形改良による交通の円滑化、高速化及び安全確保、貨物鉄道の貨客併用による旅客線化等を推進する。また、鉄道駅等の旅客施設について、交通施設の機能のみならず、多数の人が集まるという空間の特性を十分発揮する機能を備えた、利便性の高い高質な空間形成を図る。さらに、港湾や空港において、利用船舶や航空機の大型化等により相対的に能力の低下した施設について、高機能化への改良や関連する施設への用途転用等を進める。 (交通機関相互の連携) 各交通機関が総合的に組み合わされ、機能を高めるよう、交通機関相互の連携を推進する。このため、空港、港湾等ターミナルへの高速鉄道、高規格幹線道路等の直結、鉄道駅等でのパーク・アンド・ライドの推進等を進めるとともに、乗換えを容易にするターミナル施設や駅前広場等の整備、乗換えに関する情報提供システムの整備を図る。また、利用者の利便性向上の観点から隣接する空港や港湾の就航航路やダイヤの調整により、複数施設の利用可能性を広げる取組を行う。さらに、災害時における交通の確保、環境負荷の低減等の観点からも各交通機関が連携した交通体系の形成を目指す。 4 安全で自然と調和した交通体系形成のための施策 (1) 安全な国土づくりに資する交通体系の形成 阪神・淡路大震災の教訓から、地域によりその種別、頻度に差があるとしても、災害はどこにでも起こり得るという前提に立ち、減災対策に重点を置いて、@直接被害及びその波及の極小化、A回復性の向上、B復旧、復興への円滑な機能発揮等を目指した安全な国土づくりに資する交通体系を形成する。 交通基盤施設等の整備については、既に進めている既存施設強じん化の取組の早期完成を図るとともに、今後、新たに整備する施設については被災しても一定レベルの機能が確保できるよう強じん化するとともに、系としての代替性が確保できるよう、粘りあるしなやかな性質の確保を図る。このため、地質構造及び活断層等から発生する地震動に配慮しつつ、施設の重要度に応じた強じん化を進めるとともに、個々の施設について、壊れにくく、直しやすい性質を備えるよう整備する。この際、幹線交通の集中している大都市や海峡部など途絶によって交通体系の全体に重大な影響を及ぼすと見込まれる地点(リスクポイント)の総点検等を通じ、交通体系全体としての安全性確保の観点から、必要なネットワークの多重化、多元化を図るとともに、国際コンテナターミナル等について格段の耐震強化など施設の強じん化を図る。 さらに、地震被災時の円滑な救命、救急、復旧活動を支えるための緊急輸送ネットワークを全国各地域に構築する。この際、防災拠点の整備とも連携をとりつつ、港湾、漁港における耐震強化岸壁の整備、空港と港湾の一体的整備等を進め、これら拠点間等を連絡する災害時でも十分な幅員が確保できる幹線道路等の整備、河川舟運路の整備等により陸海空が直結するネットワークの構築を目指す。また、迅速かつ的確な災害情報の収集伝達に資するよう、高度な情報通信施設を活用した、交通施設の管理の高度化を進める。地震対策に加え、風水害、津波、岩盤崩落等に対する安全対策として、危険箇所の点検及び所要の施設整備等を進める。また、豪雪地帯等における安全な冬期交通を確保するため、除雪体制の一層の充実、消雪施設の整備、情報の収集、提供の強化等を推進する。 (2) 環境への負荷の少ない交通体系等の形成 (二酸化炭素の排出の削減等に向けた施策の推進) 各交通部門の、省エネ、低公害化と、適正な競争と利用者の自由な選択を通じた、エネルギー効率に優れ、環境への負荷の少ない交通機関の利用の拡大を基本とし、それぞれの交通機関の連携の強化を図り、大気、騒音、振動等環境全般への負荷の少ない、各交通機関の特性が生かされた交通体系を形成する。特に地球的課題となり、国際協調の下で取り組んでいる二酸化炭素の排出の削減のため、次の諸施策に強力に取り組む。 交通部門におけるエネルギー消費の大宗を占める自動車交通について、エネルギー消費効率を向上させるための諸施策を推進する。このため、低燃費車、電気自動車等の低公害車の開発及びこれらの利用を誘導する施策の推進等により、その普及を促進する。また、道路整備を通じたエネルギー消費効率の向上を進める観点から、交通渋滞によるエネルギー効率の低下とこれに基づく環境負荷の増大を緩和するため、大都市圏、地方中枢・中核都市圏において、交通流円滑化のための環状道路の整備や連続立体交差化及び交通管制センターの高度化の推進等を図る。地方圏においても混雑区間におけるバイパスの整備や渋滞ポイントの解消等を図る。また、交通量の時間的平準化を目的としたフレックスタイムの導入等を含めたTDM、渋滞状況等の道路交通情報の提供を含めたITSの導入、普及、環境に優しい運転方法の普及等ソフトな施策を進める。 物流については、環境への負荷の低減のみならず経済構造改革を進める上でも、その効率化が重要な課題となっており重点的整備を行う。トラック輸送の輸送効率を向上させるため、共同集配システムの構築、車両の大型化に対応した道路ネットワークの整備や荷捌き施設となる貨物自動車対応の一時停車施設等の整備、高規格幹線道路等のインターチェンジ周辺における、道路と広域物流拠点との一体的整備を推進する。また、大量輸送機関の利用拡大を図るため、内航フェリー、内航コンテナ船等の整備やこれに対応した港湾整備、コンテナ列車の長大編成化等に資する鉄道整備等、複合一貫輸送に対応した施策を総合的に進める。高規格幹線道路、地域高規格道路の計画的整備を進めるとともに、港湾、鉄道駅等ターミナルと高規格幹線道路網等との連結などアクセス強化を図り、また、河川舟運路を計画的に整備し、複数の輸送機関が連携した効率的な物流ネットワークを構築する。 人の移動にあっても、複数の交通機関の連携による環境への負荷の少ない体系を築くため、高速鉄道網、都市高速鉄道、バス路線等の整備拡充、鉄道駅、高速バスターミナル等でのパーク・アンド・ライドを可能とする駐車場整備、TDM施策の推進等により、鉄道やバスなど大量交通機関の利用拡大と利用の促進を図る。また、エネルギー効率に優れた質の高い路面電車、地下鉄、あるいはモノレールや新交通システム等の導入により、都市内交通での公共交通機関の利用の利便性を向上させる。人口の疎らな地方圏等での移動手段確保のため、運営の合理化等による既存の乗合バスやその他の交通手段の活用等の施策を推進する。このほか、徒歩や自転車の利用を促進するための質の高いネットワーク化された歩道、自転車道及び自転車駐車場の整備、事前に開発行為が交通へ与える影響を評価する交通アセスメント制度等新たな取組を強化する。 (生活、環境、文化等に配慮した施策の推進) 道路沿道等における交通騒音等を防止するため、道路構造対策等の実施に加え、交通流対策、土地利用の適正化や緩衝緑地等の対策を含めた総合的対策を進める。また、道路空間、港湾空間の緑化、橋梁、空港ターミナル、鉄道駅等構造物のデザインの向上を図り、切土など自然の改変量の最小化、盛土部における動物用の小トンネルの設置等、生態系との調和に配慮した道路整備、海域浄化機能、海水交換促進等を促す港湾整備等の自然と調和した環境を創造する諸施策を進める。 ゆとりを持った観光や、豊かな自然へのアクセス等を容易にする低廉で使いやすい交通体系の形成、歴史上重要な道路、鉄道駅等の保存、復元、活用や、海洋文化、歴史等を生かした地域間の連携と交流を促進する海の道ネットワーク構想、地域における情報や文化の発信に資する道の駅、鉄道駅や港湾空間の整備等、交通を通じた、ゆとりややすらぎの保持、地域の歴史、文化の再認識や、その継承に資する諸施策を推進する。 第2節 情報通信体系の整備 1 情報通信体系整備の基本目標 高度な情報通信体系が持つ、国内外の地域間を直結する機能を生かし地域の自立のための機会の均等化を導くとともに、この体系が持つ多様な可能性を引出し国際競争と協調の下で我が国に新しい豊かな産業社会を築くことが求められている。このため、我が国を@国土の隅々まで安定的で高度なネットワークインフラが整備され、Aだれもが何時でもそれを十二分に活用し、B活力ある生活と産業活動を営むことを可能とする「情報活力空間」とすることを基本目標とし、公的部門と民間部門の適切な役割分担により、情報通信体系の整備を進める。また、環境への負荷の低減にも資するよう、情報通信体系の整備と活用を図る。これにより、地域連携軸の展開と広域国際交流圏の形成の促進に資するとともに、新しい国土軸が国内外と直結する基盤が築かれる。 2 利用条件均等化のための情報通信体系の整備 (1) 光ファイバ網等の全国整備 「情報活力空間」の形成の基礎として、通信ケーブルの光ファイバ化及び交換機の高度化を進め、大容量の通信が可能な高度なネットワークインフラの全国整備を図る。このため、国の指針に基づき、光ファイバ網整備について、民間事業者への支援措置を講じつつ、2000年までを先行整備期間として進める。その後も情報通信基盤の総体的整備を図る中で需要の顕在化等を勘案しつつ進めることとし、2010年を念頭に置いた早期の全国整備の2005年への前倒しに向けて、民間事業者の活力を生かし、できるだけ早期に実現できるよう努力する。また、民間主導による整備の原則の下、事業者への負担軽減、道路、河川空間等公共空間の一層の活用及び下水道等公的施設管理用等の光ファイバ網の民間事業者による活用のための環境整備を図る。さらに、地方公共団体及び国が地域情報化、防災、公的施設管理等を目的としてネットワークを構築する際に、相互に光ファイバ網等を活用するための環境整備を図る。 デジタル化については、当面の情報通信の高速化の需要にこたえるため、既存のネットワークを活用したISDN(サービス総合デジタル網)サービスの早急な全国普及を図る。さらに、広帯域ISDNの導入と普及に向けた実用化実験やATM(非同期転送モード)交換機の整備のための支援措置を講じつつ、光ファイバ網を利用した 100〜 200メガビット級の格段に高速化する通信環境の早期の実現を図る。 一方、無線通信については、携帯・自動車電話の移動通信サービスの利用条件の均等化を図るため、公的支援の活用等により中継局等の全国整備を促進する。 放送ネットワークについては、多チャンネル化、高機能化、高画質化を進める見地から、地上放送については2000年以前にデジタル放送が開始できるよう制度整備等を進めることを目標として所要の取組を推進することとし、衛星放送、CATVについても、デジタル化を促進するとともに、これらメディアの一層の普及、充実を引き続き図る。なお残っている難視聴地域や都市受信障害については、公的支援等による解消を推進する。 (2) 需要密度の低い地域での光ファイバ網等の戦略的な整備と活用 急激な高度情報化の進展の中で、需要密度の低い地域での光ファイバ網等高度なネットワークインフラの整備の遅れが、新たな地域格差を生じさせることのないよう、これら地域において、高度なネットワークインフラの整備を進める。 この際、地域の活性化施策と併せ進めることが重要であり、地域の自立の基礎を形成する地方中心・中小都市や地域の活性化に取り組む中山間地域等、交通サービスの享受に格差が避けられない離島、山間地などを中心に、地域が主体となってテレワーク(情報通信を活用した遠隔勤務)や教育、医療等の公的アプリケーションの開発と導入のためのプランを作成し、それに併せて、これら地域に光ファイバ網等の導入を図る。また、光ファイバ網を利用する高度なCATVの整備促進のための公的支援等の施策を推進する。さらに、公共行政サービス、公的施設の管理等の目的で設置される光ファイバやCATV等を民間事業者がネットワークとして活用できるよう、通信事業にかかわる業務委託制度の活用に向けた利用条件の整備等を図る。これらにより、多自然居住地域等での地域住民の利便性の向上と高度なネットワークインフラの戦略的、先行的な整備及び活用を促進する。 (3) 利用コストの低減等ソフト面での施策の推進 「情報活力空間」形成のためには、ハード面での基盤の利用条件と並び、その利用コストの均等化が求められる。このため、通信料金の遠近格差縮小に向け、より一層の競争促進のための努力を引き続き推進する。また、地域連携の進捗等も踏まえ、均一料金区域範囲の拡大の検討が必要である。料金体系については、大量の通信需要に相対的に安価でこたえられる定額制の導入等利用者の多様なニーズに柔軟に対応できる体系の実現を目指す。 現在急速に普及しつつあるインターネットについて、地域間での利用条件均等化、情報の受発信等による地域の活性化を進めるため、全国どこからでも市内通話料金でインターネットにアクセスできるようにすることを目指したインターネットのアクセス拠点の整備の促進や地方自治体等のインターネット利用促進のための取組等を支援する。 誰もが、情報通信の利便を享受できる情報バリアフリーな環境整備を図るため、端末やアプリケーションについて、高齢者等にも配慮した使い勝手のよいものとなるよう技術開発等を総合的に推進する。また、高齢者、視聴覚障害者の情報入手を可能とする字幕放送、解説放送の充実を図る。さらに、学校におけるインターネット等マルチメディアを活用した情報に関する教育や高齢者等にも配意した学習機会の提供、情報化関連のイベントの開催等情報リテラシー(情報活用能力)涵養のための多面的な取組を進める。 3 高度で安定的、効率的な情報通信体系の整備 (1) シームレスな多重的情報通信体系の整備 高度情報化が進展するにつれ、多様化、高度化するニーズにこたえる高度で効率的な体系の構築が求められる。このため、有線系中心の現在のネットワークから、有線系及び無線系それぞれが特性を発揮し、相互に補完、分担し合い、個々のネットワークがデジタル化され、相互の接続性に優れ、利用者があたかも一つのネットワークであるかのように利用できるいわば継ぎ目のないシームレスな多重的情報通信体系を整備する。 このため、光ファイバ網の整備に加え、有限な資源である電波の効率的な利用と新たな周波数帯域への利用拡大を図りつつ、無線系ネットワークの拡充と高度化を進める。特に、容量の面で光ファイバ網とのシームレスな通信環境形成の隘路となる可能性のある移動通信については、高速化、広帯域化等の研究開発の成果を踏まえ、光ファイバ網と円滑な接続が可能となる無線アクセスの実現を図る。利用範囲の広域性、同報性といった特長を有する衛星通信は、容量の面でも高度な情報通信体系全体の多様性や代替性、補完性を確保する上でより一層の活用が期待される。このため、衛星通信についてその利用の拡充に資する諸環境を整備するほか、一層の高速化、広帯域化、移動通信への活用を図るための技術開発を推進する。 これらにより、光ファイバ網の整備、放送のデジタル化と併せ、有線系と無線系、移動系と固定系の各種ネットワークがデジタル化され、シームレスに接続する「トータルデジタルネットワーク」の構築を目指す。 (2) 災害に対し粘り強い情報通信体系の整備 災害に対し安定的な体系を築くため、衛星通信等も活用した多重的情報通信体系の全国的整備を図るとともに、重要な施設の耐災性の強化、通信ケーブルの地中化、伝送路のバックアップ、停電対策等を事業者の負担軽減に配慮しつつ促進する。 災害発生時には情報に関するニーズが極めて大きいものの、被災地域では断線、停電による通信設備の機能不全及び問い合わせ電話による輻輳等により、情報収集、加工、伝達の各能力が著しく低下する。これを補うため、通信と放送の各手段の特性を最大限に生かした災害に対して粘り強い情報通信体系を整備する。このため、@防災行政無線、優先電話等による被害情報等重要通信の確保、A電話によりアクセス可能な情報の蓄積システムの開発と導入及び交番、郵便局等地域の既存ネットワークやコミュニティ放送、パソコン通信の利活用による、住民の安否情報等の多様な情報伝達方法の確保、B衛星通信も含む無線通信の一層の活用等による多様な通信手段の確保等、各地域での災害に備えた体制整備を民間事業者の協力を得つつ進める。 4 高度情報通信社会の形成を先導する環境の整備 (1) 高度な情報通信の利用可能性の拡大と制度的枠組みの再構築 活力ある産業活動の実現や交通の代替機能の発揮等を通じた国民生活の利便性の向上及び環境への負荷の低減を進めるためには、知的活動の基盤となるネットワークや放送により流通するコンテンツ(情報の内容、主に画像や音声などの素材)の質的、量的充実やネットワークインフラの持つ能力を十全に利活用する先進的なアプリケーションの開発と普及が不可欠である。特に、先進諸国と比べこの分野での進捗の遅れが危惧されている我が国では、産業分野での国際競争力の確保の観点からも重要である。 政府機関等によるデータベースの整備と一般への公開、地方公共団体や民間企業によるデータベース構築への支援を行うことによりコンテンツの充実を図る。ネットワーク上の情報の流通を円滑化するため、GIS(地理情報システム)の整備、EC(電子商取引)、CALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)等の実証、普及を推進する。また、行政サービス、教育、研究、学術、文化、医療、交通、防災等当面の需要の顕在化が見込める分野において、地域の活性化施策との連携にも配慮しつつ、地方自治体等の意欲等も勘案して、公的支援の活用等による公的アプリケーションの開発と利用可能性の実証、普及を促進し、地域における情報通信関連産業等の新規産業の創造、育成を促すとともに、民間を含めたアプリケーションの需要喚起を図る。これらの成果を踏まえ、既存の行政単位の枠を越えたより広域的、総合的な社会経済活動を支え得るよう、各アプリケーション等を統合し、また面的に広がりをもって活用するための環境を整備する。これらにより、ネットワークインフラの整備が促進され、その結果またコンテンツやアプリケーションの開発、導入を誘発するという好循環が生み出され、我が国全体の高度情報化を先導するとともに、産業の生産性の向上、情報通信関連産業のリーディングインダストリーへの成長や新たな関連産業の創出を図る。 こうした高度な情報通信の利活用方策の国民生活への定着のため、役場、郵便局等既存の公共施設を活用するとともに、セキュリティの確保、個人情報の保護等に十分配慮して、現行の関連する諸制度について、その目的に配意しつつ、体系的に点検し、それを踏まえた見直し等所要の措置を講ずる。 (2) 国際競争と協調・協力の推進 世界的潮流である高度情報化の中で、次世代の情報通信体系構築のため、広帯域ISDN、全光処理システム、成層圏無線プラットフォーム、ISDB(総合デジタル放送)等の技術開発を推進する。また、この分野での我が国の国際競争力の一層の強化を図る観点から、開発した技術が世界をもリードし得るレベルとなることを目指し、公的部門と民間部門の緊密な連携の下で、所要の資金を確保し技術開発を強力に推進する。 地球時代の高度情報化を支える世界的にシームレスな情報通信体系構築のため、国際協調と協力の下で諸施策を推進する。世界共通の陸上移動通信システム(IMT-2000/FPLMTS) 等国際的な通信システムの標準化に積極的に取り組むとともに、それを踏まえた世界共通のアプリケーションの開発、実証のため、世界的規模の共同プロジェクトを推進する。また、著作権のあり方等制度面での国際的調和を図る。さらに、グローバルなネットワークの構築のための開発途上国における情報通信基盤整備への支援を進めるとともに、映像国際放送、放送番組の交流や共同制作等により放送メディアによる国際的な相互理解の促進を図る。 第3部 地域別整備の基本方向 多軸型国土構造の形成を目指す「21世紀の国土のグランドデザイン」実現の基礎を築くためには、地域の自立を促進し、人々が自らの暮らす地域に誇りの持てる状況を創出していくことが重要である。これからの地域づくりは、「参加と連携」の下で地域が自らの選択と責任で行うことが基本となり、計画の果たす役割も変わってくるが、地域づくりに参加する様々な主体が、地域整備の基本方向に関する認識を共有し、その実現に際して効果的と考えられる各種施策を総合的かつ計画的に展開していくことは重要である。 「地域整備の基本方向」においては、各地域の持つ優れた経済、文化、自然等の特性や将来の可能性を明らかにし、それらを生かした長期的な発展方向とその実現に向けた整備の基本方向を示す。「施策の展開方向」においては、現在各地域において数々の地域づくりに関する取組が展開されていることを踏まえ、地域整備の基本方向に沿って第2部で示した分野別施策について、計画の四つの戦略との関連で示す。 なお、地域間の連携と交流を促すために必要と考えられる交通基盤等の主要な基盤事業については、各地域の意向を尊重しつつ、目標年次2010-2015年までの計画期間を越えて実施が見込まれるもの、あるいは、実施までの間に十分な調査や検討が必要なものも含めて示している。したがって、これらの事業については、経済及び財政状況等を勘案しつつ調整を図っていくとともに、その具体化、実施に当たっては、費用対効果分析及び環境影響評価の実施、一層の技術開発及び構造基準の見直し等コスト縮減の取組、財源の確保、費用負担の調整、地域住民の合意及び協力等を踏まえ、総合的に検討する必要がある。 もとより、各地域の発展のためには、ここに示したものに限らず、地域が主体となって、本計画の趣旨に沿った構想及び施策をさらに発想、展開していくことが望まれる。 地域区分については、既存の計画体系を考慮したものであるが、本計画では、多軸型国土構造の形成を踏まえつつ、既存の地域区分を越えた様々な圏域における地域連携軸の展開及び広域国際交流圏の形成などの戦略に関する構想や諸施策を提唱している。これらの構想は、今後の国、地方、民間等多くの主体の参加と連携によって具体化されるものであり、地域において展開される諸施策は、今後の地方分権や行政改革の進展等を踏まえ、広域的な圏域を念頭において進められる必要がある。 1 北海道地域 −新たな北方型文明を創造するフロンティア− (1) 地域整備の基本方向 広大な空間、豊かな自然を始め多様な国土資源や冷涼な気候に恵まれた北海道地域は、北方圏とアジア・太平洋地域との結節点に位置し、アイヌ文化を始め、北国らしい特色ある文化、生活様式を育んできた。今後は、こうした特色ある自然的、地理的特性や文化的蓄積に加えて、開拓の歴史が育んだ開拓者精神や開放的な気質等を生かし、我が国を始めアジア地域の21世紀の新しいライフスタイルに多様性を与える「新たな北方型文明を創造するフロンティア」として、個性豊かな地域づくりを展開する。 このため、我が国に食料や木材を供給する基地等様々な役割を担う多自然居住地域の創造を図るとともに、道内各地域において、各々の特性、条件を生かした特色ある産業を展開する。また、多様な地域連携を通じ、道内各地域の核となる都市と多自然居住地域との連携を強化すること等により、それぞれが自立した特色ある地域を形成する。あわせて、情報通信機能の積極的な活用等により、各地域相互間の連携の強化を図る。さらに、北方圏やアジア・太平洋地域を中心に世界に開かれた広域国際交流圏の形成に向けて、経済や技術面等における一層の国際交流機能の拡充等を図る。特に、個性的で魅力ある雄大な自然や景観、雪等を生かした、世界、とりわけアジアの人々にも憩いとやすらぎを与える世界の観光・保養基地として積極的な役割を担うことも期待されている。これらの取組を通じて、長期的には北東国土軸及び日本海国土軸の形成を展望しつつ、魅力的で多様性に満ちた北海道の形成を図る。 (2) 施策の展開方向 北国らしい特色ある自然や気候を生かした多自然居住地域の創造を図るため、高度な情報通信基盤、域内交通基盤や生活基盤の整備を進めるとともに、圏域の拠点となる中小都市における都市機能の集積を図る。あわせて、我が国の食料供給基地、木材供給基地としての重要な役割を果たすため、生産・加工・流通基盤の整備や高質化を進めながら、生産性の高い大規模土地利用型農業の展開、北の海産物の宝庫であるオホーツク海等の3つの海域を生かした資源管理型漁業、つくり育てる漁業の推進、木材の供給体制、天然生林等多様な森林の整備等を推進し、付加価値の高い農林水産業の展開を図るとともに、マーケティングの活用等によるブランド化や多産業複合経営を進める。また、原生的な森林やラムサール条約登録湿地を始めとする豊かな自然環境の保全、回復を図るとともに、自然とのかかわりの中で育まれたアイヌ文化の振興等を推進することを始め、歴史的に形成されてきた特色ある伝統文化の継承、発展や、天塩川、鵡川・沙流川等の流域を中心とする新しい文化の創造等を通じ、個性豊かな地域文化の創造、発信を図る。さらに、北国の風土に根ざした安全で快適な地域づくりを進める観点から、雪や寒さに強いまちづくりや高齢者に優しいまちづくり等を進めるとともに、積雪寒冷な気候、広大な面積や火山性の地形を考慮しつつ、地震や洪水、雪崩や土砂流出等による自然災害に対応した防災対策の充実や海岸の保全を図る。 広域分散型の地域構造の北海道においては、各地域が核となる都市を中心として各々の特色を生かした自立した地域の形成を図るため、旭川、函館、釧路、帯広、北見・網走等の都市において高次都市機能の充実・導入や地域の個性を生かした中心市街地の活性化を図る。その際、高齢化等に対応したものとなるよう十分配慮する。あわせて、道内各地域では、これら中核となる都市等を中心に周辺の市町村が様々な連携を行うなどの地域連携に関する取組を「パートナーシップ・プロジェクト」として積極的に推進することとされており、これを支援し、また、各地域相互間及び道外との広域的な連携や交流を進める観点から、北海道の基幹路線となる北海道縦貫、横断自動車道、これらに接続する道南圏における函館・江差自動車道、道央圏における日高自動車道、道央・道北圏にまたがる深川・留萌自動車道、道北圏とオホーツク圏をつなぐ旭川・紋別自動車道、十勝圏における帯広・広尾自動車道の整備や釧路中標津道路等地域高規格道路の整備を進めるとともに、コミューター航空の活用、空港、港湾、高速鉄道網、高度な情報通信基盤の整備等を図る。北海道新幹線については、政府・与党検討委員会検討結果に基づき、所要の事業を進める。このような地域連携に係るソフト、ハードの取組を進め道央圏を中心に集積している産業機能等を積極的に活用しながら、農林水産業、製造業等異業種間の交流や産学官の協力を一層推進するとともに、冬の寒冷な環境条件を活用した独創的な研究開発やそれらの事業化に向けた取組等を促し、時代のニーズに対応した新産業の育成や地場資源を活用した産業の高度化を進める。青函地域については、北海道と東北の両地域のみならず、日本列島と太平洋・日本海をつなぐ津軽海峡が交差する十字路に位置し、インターブロック交流圏として今後の発展が期待される地域であることから、青函トンネルの一層の活用方策、新たな交通体系について、交流圏構想等の動向を見つつ長期的視点に立って検討する。また、高度な情報通信基盤の整備や情報共有の促進等を通じたより一層の交流、連携を推進する。 北方圏やアジア・太平洋地域を中心に世界に開かれた広域国際交流圏を形成するため、札幌を核とする中枢拠点都市圏において、良好な拠点市街地の整備を進めるとともに、高次都市機能の集積を進める。また、富良野・大雪地域やニセコ・羊蹄・洞爺地域を始め道内各地域においては、酪農地帯の雄大な風景や美しい丘、山岳や豊かな天然林、雪、流氷、全国屈指の温泉群等の地域資源を活用したグリーン・ツーリズム等の促進や広域的な観光、リゾート地域の整備を推進するとともに、これらの拠点と道内外の観光資源を有機的に結びつけた魅力ある広域観光ネットワークの形成を図る。これに加え、アジアを始め世界各地域におけるPRや外国人観光客の受入れ体制の強化等を通じて、世界水準の観光・保養拠点を形成する。さらに、国際交流の拠点となる新千歳空港、苫小牧港や釧路港、近隣の北方圏等へ開かれた空港、港湾の整備を推進することにより北の国際ゲートウェイ機能を強化するとともに、アクセスのための交通基盤の整備を図る。また、これらの周辺地域において国際水準の物流機能、研究開発機能等の強化を図る。こうした取組を通じて、北方圏や日本海沿岸諸地域との交流、連携を推進するとともに、長期的視点に立ち、極東ロシア等において進められている各種開発プロジェクトに係る支援機能の集積を図りつつ、特にサハリンのエネルギー開発の後方支援拠点の形成を図る。 苫小牧東部地域については、生産施設や我が国にとって重要な施設である国家石油備蓄基地を含むエネルギー関連施設の立地等が進んでいるが、近年の経済社会情勢の変化を踏まえて、臨海・臨空性と中枢都市圏に隣接するというポテンシャルとこれまでの基盤整備を生かし、国際的な交流需要に対応した空港機能への活用策など開発方策等の検討を行いつつ、それに基づき推進する。 2 東北地域 −21世紀に向け調和のとれた新しいライフスタイルが展開されるフロンティア− (1) 地域整備の基本方向 東北地域は、豊かな森林を擁する山地と盆地とが構成する山間部や変化に富んだ海岸線等の地理的特徴を有し、一般的に積雪寒冷地域ではあるものの脊梁山脈を境に気候区分が異なるなど多様な自然的条件を備えた地域である。また、三内丸山遺跡を始め各地域に広く分布している縄文時代の遺跡等歴史の中で培われてきた特色ある文化や生活、産業、技術等にかかわる豊富な資源を有するとともに、我が国の主要な食料、木材及びエネルギーの供給基地としての役割を担っている。さらに、これまでの高速交通基盤等の整備の進展を背景に中枢・中核都市の拠点性が高まりつつある。 今後は、本地域においてこうした個性とポテンシャルを生かし、豊かで美しい自然と共存できる社会を形成していくことが期待される。このため、各中枢・中核都市の個性や拠点性を一層高めつつ、中小都市や過疎化、高齢化の進展が懸念される沿岸部や山間部地域においてゆとりと豊かさを実感できる多自然居住地域の創造に取り組み、これらの都市間、地域間相互の交流・連携を深めることによって、東北地域全体として「21世紀に向け調和のとれた新しいライフスタイルが展開されるフロンティア」としての発展を目指す。加えて、東北地域を縦横に結ぶ地域連携軸を展開するとともに、北陸地域等との連携を図りつつ環日本海地域を中心とする極東アジアにおける国際文化・経済交流のゲートウェイとして、さらに、北海道、関東地域との連携・補完を図りつつ太平洋地域におけるゲートウェイとしての機能の充実を図り、広域国際交流圏の形成を目指す。こうした取組によって広域的な地域間の交流・連携が進み、東北地域として一体的な発展のみならず、北東国土軸及び日本海国土軸形成の基礎が築かれる。 (2) 施策の展開方向 奥羽山脈等を境に歴史的経緯や生活・文化環境等は異なるものの、その差異を超えて生活、産業、文化等の各般の面で広域的な連携・交流を推進し、これを通じて東北地域全体としての調和のとれた発展を図る。さらに、岩手、秋田を結ぶ地域連携軸、宮城、山形を結ぶ地域連携軸、福島、新潟を結ぶ地域連携軸等の形成を図るとともに、十和田・八幡平を中心とする地域連携や仙台・福島・山形の各市を中心とする地域連携を進め、北東北や南東北における広域的な交流圏の形成を目指す。また、茨城、栃木との県際交流等による連携の推進を図る。このため、これらの基盤となる高規格幹線道路として、沿岸部の諸都市を結ぶ東北縦貫(八戸線)、日本海沿岸東北、常磐、津軽、三陸縦貫及び八戸・久慈自動車道、中央部の諸都市を結ぶ東北中央自動車道、東北地域を横断し太平洋側と日本海側の諸都市を結ぶ東北横断自動車道(釜石秋田線、酒田線)の整備、これら高規格幹線道路を補完する宮古盛岡横断道路等の地域高規格道路等の整備、空港、港湾、鉄道等の整備を推進する。東北新幹線については、政府・与党検討委員会検討結果に基づき、盛岡・新青森(石江)間について着実に整備を進める。さらに、高度な情報通信基盤の整備を進める。青函地域は、南北に縦走する日本列島と太平洋・日本海をつなぐ津軽海峡が交差する十字路に位置し、インターブロック交流圏として今後の発展が期待される地域であることから、青函トンネルの一層の活用方策、新たな交通体系について、交流圏構想等の動向を見つつ長期的視点に立って検討する。また、高度な情報通信基盤の整備、情報共有の促進等を通じたより一層の交流・連携を推進する。日本海沿岸地域及び三陸沿岸地域については、豊かな海洋資源や高度技術産業等の集積を生かし、環境と調和した研究開発・物流拠点や海洋性レクリエーション拠点の形成等を図り、沿岸域各都市及び内陸部との交流・連携を促進する。阿武隈地域においては、進みつつある高速交通体系の整備にともなう開発可能性の高まりを踏まえ、広域的、総合的な開発構想を推進する。 広域国際交流圏の形成を図るため、仙台、新潟を核とする中枢拠点都市圏及び各地の地方中核都市圏において、中枢管理機能、研究開発機能、商業・サービス機能、物流機能、コンベンション機能、さらには高度な教育・文化・スポーツ機能等の集積を図り、世界に開かれた都市機能の整備を図る。また、国際交流の拠点となる仙台、新潟空港や塩釜、新潟港等の整備を進めるとともにアクセスのための交通基盤等の整備を進めるなど、新時代に対応した国内外を結ぶ多様な交通基盤及び国際的な観光レクリエーション拠点の整備を推進する。さらに、地球社会を先導する産業・技術を育む地域の形成を図るため、高等教育機関や試験研究機関等の知的資本の充実を図るとともに、東北地域が一体となったネットワーク化や産学官の交流・連携を進め、東北地域全体において独創的な研究開発等を展開する活動の一層の推進を図り、国際的水準の研究開発拠点の整備を図る。あわせて、地域の産業界が一体となったベンチャー企業育成に向けた運動の展開等によりこれらの研究成果や開発技術の産業化を促進するとともに、地域の先端的な産業・技術集積を活用し、時代のニーズに対応した高付加価値製品の創造拠点を形成する。 多自然居住地域の創造に向けて、世界遺産である白神山地等の豊かな自然と風土が育んできた独自の歴史や伝統を生かし、最上地域における環境と調和した地域づくりや奥会津地域における地域資源を活用した地域づくりの具体化に努めるなど、ハード・ソフト両面にわたり特色ある自然環境や文化遺産の保全・活用を図るとともに、「みちのく」の文学的風土等を生かした個性豊かな新しい文化の創造・発信を図る。また、各地に点在する全国屈指の温泉群及び国際競技大会等にも対応できるスポーツ施設や高度な情報通信基盤、域内交通基盤等の整備、洪水、雪崩、土砂流出等による自然災害への対策や海岸の保全を進め、安全で自然と調和した生活・文化環境や観光レクリエーション機能の強化を図りながら、これらの活用による地域内外の交流を促進する。さらに、圏域の拠点となる中小都市の整備を進めるとともに、高齢化の進展に対応した医療・福祉の充実に向けた施策の展開を図る。地熱、風力等の自然エネルギーの開発利用を推進するとともに、積雪に対応した生産・生活環境の整備等を通じて克雪対策やまちづくりを進める。北上川、阿武隈川等の流域においては、健全な水循環の保全と回復を図り、多様な流域内交流・連携を推進する取組等を支援する。一方、本地域は我が国の食料・木材供給基地として重要な役割を果たしていることから、農業については、生産・加工・流通基盤の整備及び高質化を契機とした経営規模の拡大を進め、新品種の育成や栽培技術の確立等を通じて高度化、複合化を推進する。林業については、豊富な森林資源を活用するため、間伐等の推進等による森林の育成を図りつつ、木材の供給体制の整備及び試験研究の推進等を図るとともに、国民の心身のリフレッシュゾーンとしての整備を図る。漁業については、漁業環境の維持、保全やつくり育てる漁業を推進するとともに、生産・加工・流通基盤や販売体制の整備の推進を図る。さらに、情報ネットワークの活用等により多様な消費者ニーズに対応できる生産・流通体制を整備するとともに、全国的にみて豊かで恵まれた農林水産物、自然環境等の地域資源を活用した複合的経営やグリーン・ツーリズム等の推進を図り、地域の立地条件に応じた生産・生活基盤の整備を図る。 むつ小川原地域については、我が国にとって重要な施設である国家石油備蓄基地や核燃料サイクル施設の立地・建設に加えて研究施設の立地が進んでいるが、近年の経済社会情勢の変化を踏まえて、これまでの基盤整備を生かし、諸施設の集積可能性を含め、開発方策等の検討を行いつつ、それに基づき推進する。 3 関東地域 −21世紀にふさわしい業務、生活、自然のバランスのとれた世界を代表する大都市圏域− (1) 地域整備の基本方向 関東地域は、首都東京を中心に広大な関東平野とその周辺地域を含む中枢圏域として我が国の発展を牽引してきており、これにともない、4,000 万の人口と高度な機能集積を擁する世界でも類を見ない巨大都市圏域が形成されている。今後、関東地域は、東京圏と北関東・内陸西部地域等との広域的な連携の下、これまでに形成されてきた巨大かつ高度なストックを有効に活用しながら、「21世紀にふさわしい業務、生活、自然のバランスのとれた世界を代表する大都市圏域」として、我が国の発展に引き続き積極的に貢献することが期待される。 東京圏は、21世紀においても全国的、国際的な中枢機能を果たし、高度な都市活動や世界的な競争に対応した新たな産業活動が展開される、先端性と活力に富んだ世界の中枢都市を目指す。このため、東京都区部と業務核都市等の機能分担と連携を進め、ネットワーク型の地域構造への転換を図るとともに、環境と調和し、豊かな生活と文化を育む良好な居住環境を形成するなど、長期的に西日本国土軸の形成を展望しつつ、東京圏のリノベーションを推進する。 北関東地域及び内陸西部地域等は、東京圏との近接性、製造業等の集積や豊かな自然を生かした発展可能性の高いフロンティアとして、地域相互間の連携強化を図りつつ、国際交流機能等の高次都市機能の充実や先端技術産業等の展開を進め、都市圏としての自立性を高めるとともに、東北、北陸、中部等の各地域と関東地域との間の地域連携軸を形成するためのアクセスゲートとしての役割を果たす。また、中小都市と中山間地域等を含む農山漁村等において魅力ある多自然居住地域を創造する。これらを通じ、北部の脊梁山脈とその周辺地域において、中部山岳地域から東北地域に至る自然のネットワークの形成と都市の連携が進み、北東国土軸の基礎が築かれる。 (2) 施策の展開方向 東京都区部や東京湾沿岸地域を始めとする東京圏において、それぞれの地域特性に応じて以下のようなリノベーションを推進する。 東京圏について、東京都区部への一極依存構造を是正し、ネットワーク型の地域構造への転換を進める観点から、新たなニーズに対応しながら、業務機能を始めとする諸機能の集積の核として、業務核都市等の育成、整備を推進する。また、首都圏中央連絡自動車道、東京外かく環状道路等環状方向を中心とする幹線交通網の整備を進めるとともに、東京湾岸道路等の整備により首都高速道路の機能を強化し、交通渋滞の緩和等を図る。名古屋圏等との円滑な交通を確保するため第二東名高速道路の整備を進める。さらに、核都市広域幹線道路について構想の具体化を図るなど地域高規格道路の整備を進める。通勤通学の混雑緩和を図るため、常磐新線等の都市鉄道、モノレールの新線建設や既設線の複々線化等により輸送力の増強を図るとともに、新線建設と一体となった宅地開発を推進する。また、環境負荷の軽減等に資する河川舟運路の整備を進める。筑波研究学園都市については、学術、研究開発等の拠点として機能の充実を図る。大規模地震に対する防災対策を進めるため、老朽木造密集市街地の再整備や防災拠点の整備、公共施設の耐震性の向上等を進めるとともに、洪水等による自然災害や事故災害への対策、海岸の保全を進める。また、我が国を代表する成熟した都市文化の象徴となる先端的かつ創造的な文化機能や個性的なデザインを有する魅力的な都市空間を形成する。さらに、広域導水等による頻発する渇水に対する安全度の確保、廃棄物の適正な処理、大規模な緑地の保全、広葉樹林等の整備等について、行政区域を越えて総合的かつ広域的な観点からの取組を進めるとともに、下水処理水等の再生水や雨水の利用による節水、熱電併給の促進等環境負荷の低い都市システムの導入を促進する。 東京都区部においては、副都心に特色ある複合的な機能集積を図るとともに、良好な都市景観の形成や緑とオープンスペースの確保に配慮しつつ、都心居住の推進を含む都心の再整備を推進し、多心型都市構造への転換を促進する。臨海副都心については、業務、居住、防災、文化、アメニティ等のバランスのとれた地域として複合的利用を進める。 東京湾沿岸域においては、湾岸地域が一体となって、自然環境の保全と回復を図りつつ、都市機能や産業集積の高質化、都市環境の改善、防災性の向上等のニーズに対応し、各種機能が複合する新たな東京圏を創造する戦略的拠点を形成するとともに、これらの拠点間を連携する環状方向の幹線道路網の整備を推進する。特に、広域的な観点から、東京湾横断道路、東京湾岸道路等を活用しつつ、京浜、京葉、上総等の環東京湾地域の連携を強化し、業務、研究開発、国際物流等の機能の充実を進める。また、第二東京湾岸道路について構想の具体化を図る。東京湾口道路の構想については、長大橋等に係る技術開発、地域の交流、連携に向けた取組等を踏まえ調査を進めることとし、その進展に応じ、周辺環境への影響、費用対効果、費用負担のあり方等を検討することにより、構想を進める。京浜・京葉工業地域においては、産学官連携の強化やベンチャー企業の創業支援等により、基盤的技術産業や人材の集積を生かした新たな産業の創出や既存産業の高度化を促進する。また、大規模工場跡地等の低未利用地について、必要に応じて土地利用規制の見直しを行いつつ、土地利用転換や都市基盤の整備を促進する。 東京圏と国内外との交流と連携のゲートウェイ機能を強化する観点から、新東京国際空港の平行滑走路等の完成を目指すとともに、東京湾諸港において耐震性の高い国際海上コンテナターミナル群の整備を図るなど国際物流機能を充実させる。さらに、これらへのアクセスのための交通基盤の整備を進める。 また、増大する国内航空需要に対応するため、東京国際空港の沖合展開の早期完成を図るとともに、新たな拠点空港の整備について調査、検討を進める。 北関東地域及び内陸西部地域等においては、東京圏からの高次都市機能の展開を図るとともに、製造業等の集積を生かした先端技術産業の創造と育成の場として、中核都市等について地域特性に応じた育成、整備を推進しつつ、総合的な居住環境の整備を進め、都市圏としての自立性を高める。また、茨城、栃木、群馬、長野、山梨、静岡を結ぶ地域連携軸の展開を通じて、これらの自立した都市圏の機能分担と連携の推進を図る。 このうち、北関東地域及び東総地域においては、北関東、東関東自動車道の整備、常陸那珂港等や高度な情報通信基盤の整備を進めること等により、地域相互間の連携を強化するとともに、東京圏に依存しない新たな物流体系の構築、国際交流機能の強化等を図る。また、宇都宮等における産業基盤や筑波研究学園都市における研究開発機能の集積を活用することにより、製造業等の集積を生かした先端技術産業の育成、研究開発機能の充実を図る。さらに、新潟や福島と北関東地域の間における地域連携軸の展開を通じて、東北地域との連携と交流を進める。内陸西部地域においては、甲府における産業基盤等の整備を図るとともに、長野、静岡等との連携を進めるため、中部横断自動車道や高度な情報通信基盤の整備を進める。 多自然居住地域の創造を図る観点から、圏域の拠点となる中小都市の機能を高めるなど生活環境の整備を図りつつ、大消費地との近接性を生かし、生鮮食品を始めとする農林水産物の供給基地として、生産・加工・流通基盤の整備等を進め、付加価値の高い農林水産業の振興を図るとともに、都市と農山漁村との交流を促進するグリーン・ツーリズムを推進する。また、相模川、多摩川等の流域において、地域が連携して水質保全等の取組を進めるとともに、住民参加の川づくりや森づくりを推進する。さらに、北関東及び内陸西部地域等の山間・高原地域、房総半島等の海岸部、小笠原諸島に至る島しょ地域において、それらの地域に存する森林の整備や沿岸域等の保全と回復を図るとともに、余暇需要の増大に対応し、東京圏との交通の利便性を高めることにより、豊かな自然環境や観光資源を活用した観光・スポーツ・レクリエーションゾーンの広域的整備を進める。 4 中部地域 −先端的産業技術の世界的中枢としての役割を果たし、全世界を対象に多様な交流が活発に行われる地域− (1) 地域整備の基本方向 中部地域は、人口重心に代表されるように我が国の中央に位置し、全国を対象とする物流、交流機能が立地する上で最も有利な条件を備えている。自動車、精密機器、電子機器、航空宇宙やファインセラミックス等の先端的な工業・技術集積、先進的な農林水産業を有する。日本を代表する美しい自然や歴史的蓄積等に恵まれるとともに、これらが多くの都市圏と近接しているという特徴も持つ。 以上のような特性を生かし、中部地域は「先端的産業技術の世界的中枢としての役割を果たし、全世界を対象に多様な交流が活発に行われる地域」となることが期待される。名古屋圏については、既存の産業集積を核に世界的なレベルの産業技術中枢圏域としての役割を高めるとともに、対外的には世界を対象とする諸活動の拠点、対内的には、我が国全体を視野に入れた人流・物流の拠点となり、国内外との密度の濃い交流を通じて21世紀社会を切り拓く知恵や価値が創造される圏域となることを目指す。内陸、南部地域は、豊かな自然に恵まれた多自然居住地域と小さいながらも特定分野で最先端の技術を持つ都市とが織りなす、美しさと知的な機会に満ちた圏域となることを目指す。東部地域は、産業創出の風土の下で独創性のある多彩な産業が育まれるとともに、地域産業と関連した分野の文化活動等を通じた交流が活発に行われる、世界に開かれた自立性の高い圏域となることを目指す。 このため、国土の中央部を広く被う広域国際交流圏を形成する。また、名古屋圏においては、リノベーションを推進し、中部山岳地域や東紀州、三河湾等の自然の豊かな地域においては、多自然居住地域の創造を推進する。さらに、域内外に地域連携軸を展開し、地域の自立と活力ある地域形成を促進する。加えて、東海地震等への備えを充実させる。 これらを通じ、長期的に、中部山岳地域及び内陸部に日本海国土軸及び北東国土軸が、東紀州から伊勢湾沿岸に至る地域及びその周辺地域に太平洋新国土軸が、太平洋ベルト地帯とその周辺地域に西日本国土軸が形成されていく。 (2) 施策の展開方向 名古屋圏、静岡・浜松を核とする中枢拠点都市圏及び長野を中心とする地方中核都市圏においては、中部国際空港、伊勢湾諸港における耐震性の高い国際海上コンテナターミナル群や清水港等及びこれらへのアクセスのための交通基盤の整備等を進めるとともに、都市の規模や特性に応じて、物流拠点、コンベンション等の国際交流機能、研究開発機能等の集積を高める。また、世界遺産に登録された白川郷・五箇山の合掌造り集落等の歴史・文化遺産、産業遺産や文化の域にまで達したモノづくりを観光資源として活用し、外国人観光客の誘致を含む、国際・国内観光の振興に向けた施策を実施する。さらに、2005年日本国際博覧会等の開催により交流の機会を積極的に創出する。これにより、中部地域とその周辺を広く覆う広域国際交流圏を形成する。 名古屋圏においては、良好な居住環境の整備、名古屋市内における老朽木造密集市街地の解消を図るとともに、大規模低未利用地を活用した既成市街地の土地利用転換や基盤整備、伊勢湾の水質改善等を伊勢湾の湾岸地域が一体となって進め、加えて、都市内交通の円滑化に資する名古屋環状2号線を含む自動車専用道路の整備、通勤・通学の混雑緩和を図るための都市鉄道の整備等によりリノベーションを推進する。中心都市である名古屋を取り巻いて比較的分散して配置されている諸都市を結び、これら都市間の連携と機能分担の下、教育・文化、国際交流等の高次都市機能の強化と先端的な産業技術、デザインに関する研究開発拠点の整備を図る。これらを支援するため、東海環状自動車道等の整備を進める。また、大都市圏間の円滑な交通に資するため、第二東名、第二名神高速道路の整備を進める。 静岡・浜松を核とする中枢拠点都市圏においては、名古屋圏、東京圏との適切な機能分担と連携の下、中枢管理、研究開発、情報、国際交流等の高次都市機能の強化及び基礎研究、応用研究の産学官の連携による新規分野の開拓等の産業集積の高質化を図る。長野を中心とする地方中核都市圏においては、高速交通体系を通じた東京圏とのアクセスを生かし、商業・サービス、教育・文化等の都市機能の充実を図る。また、エレクトロニクス、精密工業等の分野において特色ある世界水準の技術集積を持つ地方中心・中小都市においては、周辺地域及び他の都市圏との連携を強化するとともに、自然との調和を図りながら研究開発施設の立地や産業集積地域における立地環境の整備等を促進し、産業の活性化を図る。 東海地震等大規模地震等による災害に備えるため、防災施設の整備や防災体制の強化を図るとともに、交通体系への重大な影響を回避するため、幹線交通の集中している地域において災害対策を推進するほか、交通ネットワークの多重化、多元化を図る。 多自然居住地域の創造に向け、日本アルプス等の中部山岳地域や富士山周辺地域等の山岳系の自然環境と熊野灘から相模湾までの沿岸地域に断続的に広がる海洋性の自然環境、古来より東西文化交流の回廊としての役割を果たす中で育まれてきた貴重な文化遺産等を保全、活用して、個性が光る魅力的な地域づくりを推進する。このため、圏域の拠点となる中小都市の整備、地域内交通基盤や生活環境の整備及び自然とふれあうための条件整備を行うとともに、特色ある農山漁村の美しい景観の維持、個性ある地域文化の醸成を図るなど、美しくアメニティに満ちた地域づくりを進める。また、農林水産物の生産・加工・流通基盤の整備、木材の供給体制の整備、水産資源の管理・増養殖等に加え、果実、野菜等の品種改良やブランド化、多産業複合経営化等による付加価値の高い農林水産業の振興を図るとともに、観光ルートの創設や温泉等をテーマにしたイベントの共同開催等、観光地間の連携による地域資源の活用を通じて、地域相互や都市との交流による自由時間関連産業の活性化を図る。あわせて、高度情報化により立地面で自由度が高まった産業の誘致を進める。さらに、大井川・安倍川、矢作川等の流域での連携を推進し、上流地域の活性化や森林の整備、自然環境や水質の保全を図るとともに、洪水や土砂流出等の自然災害への対応、海岸の保全等を図る。 産業創出の気風に満ちた諸都市と豊かな自然を有する地域を含む地域連携軸を域内外に展開する。東三河、遠州、南信州において異業種間での技術や人材の交流により地域の新しい活力を創出するとともに、都市機能と自然の調和により新たなライフスタイルを可能とする地域連携軸、名古屋圏と北陸地域の国際交流拠点を連結することにより我が国の中央という位置条件を生かす地域連携軸、異なる自然や国際交流機能を相互に利用しあうとともに、防災面での地域協力を推進する、駿河湾と甲信を結んで東京圏を環状に取り巻く地域連携軸の一翼を担い、さらに上越まで伸びる地域連携軸、太平洋、琵琶湖、日本海の三つの「うみ」を生かし、環境保全活動の連携や多彩な食文化を魅力とする観光を通じて、三重、滋賀、福井を結ぶ地域連携軸、北アルプス、日本海の豊かな自然と伝統文化等を生かした広域観光ルートを形成する、山梨を起点とし長野中央部から飛騨を経て福井へ至る地域連携軸、伊勢志摩、吉野熊野、瀬戸内の豊かな自然と古代から近世に至る歴史遺産を結びつけることで、より魅力的なくつろぎの場を提供する地域連携軸等の形成を図る。 このため、高規格幹線道路については、沿岸部と内陸部を結ぶ東海北陸、中部縦貫、中部横断、三遠南信自動車道の整備を進めるとともに、半島地域において近畿自動車道紀勢線、伊豆縦貫自動車道の整備を進める。また、小松白川連絡道路について事業の具体化を図るなど地域高規格道路の整備を進める。紀伊半島の東岸から西岸に至る東海、南海を結ぶ地域での連携推進を図るための交通体系の強化について検討する。伊勢湾口道路の構想については、長大橋等に係る技術開発、地域の交流、連携に向けた取組等を踏まえ調査を進めることとし、その進展に応じ、周辺環境への影響、費用対効果、費用負担のあり方等を検討することにより、構想を進める。あわせて、北陸新幹線については、政府・与党検討委員会検討結果に基づき、長野・上越間について着実に整備を進めるとともに、静岡空港を新設するなど、広域的な交流を支える高速鉄道、空港、港湾、高度な情報通信基盤の整備を図る。 5 北陸地域 −環日本海交流の核圏域として 360度の地域連携と国際交流が行える連携、交流の先導的地域− (1) 地域整備の基本方向 美しく豊かな自然に囲まれ、降雪量が多く水資源に恵まれているなど、豊富な国土資源を有する北陸地域は、農業、工業等の産業と、特色ある文化の蓄積を重ね、我が国でも最も優れた居住環境を有する地域の一つとして発展を続けてきた。人と自然が調和した文化の香り高い生活環境の創出を求め、地域間の連携や国際交流を基軸に地域づくりを進めようという潮流の中、本地域は、こうした豊かな自然や文化の賦存ばかりでなく、県庁所在地が近接し、三大都市圏のそれぞれに近く、環日本海地域の中央として対岸諸国にも開かれているなどの地理的優位性を有しており、「環日本海交流の核圏域として 360度の地域連携と国際交流が行える連携、交流の先導的地域」として発展が期待されている。 こうした特質や役割を踏まえ、本地域内の各地域それぞれにおいて、広域的な連携を図りつつ、恵まれた自然や文化を保全し、これらと調和した、誇りの持てる地域づくりや、新しい時代にふさわしい産業構造への転換を図り、本地域において広く多自然居住地域の創造を進める。また、本地域に集積の乏しい、中枢管理、国際交流等の高次都市機能について、地方中核都市相互の近接性を活用し、地域連携による各都市相互の分担の下で実質的集積を高め、日本海沿岸地域や対岸の諸地域との交流の核となる、広域国際交流圏の形成を目指す。さらに、近接する地域との広域にわたる地域連携軸を広く展開する。これらにより、豊かな自然の広域的利用可能性も拡大し、高次都市機能の集積も一層進み、太平洋側の大都市圏との相互補完関係が高まるとともに日本海沿岸地域との連携も深まり、長期的に日本海国土軸が形成されていく。 (2) 施策の展開方向 多自然居住地域の創造に向けて、地域アイデンティティの基軸となる、世界遺産に登録された白川郷、五箇山の合掌造り集落等の歴史や文化遺産、信仰の山である白山、立山、輪島塗や九谷焼等の伝統工芸、豊かな日本海の恵み等地域の個性を生かした魅力的な地域づくりを推進する。このため、自然環境、街並み景観や生活環境等の地域環境の整備、圏域の拠点となる中小都市の整備、域内交通基盤や高度な情報通信基盤の整備を進めるとともに、圏域一体となった地域ブランドの育成、観光ルートと拠点の確立、芸術振興、農山村都市交流、高度な情報通信を活用した新規産業の創造等を総合的に進める。北陸東部から南部に広がる北陸山麓地域等においては、地域内及び地形的条件から制約されている隣接する中信地域、飛騨地域等の他地域との連携を進めるため、広域的な交通基盤の充実を図るとともに、立山地域や白山・奥越高原地域における豊かな自然を生かした広域観光開発等を目指した取組を支援する。能登地域においては、能登空港の新設等の交通基盤の充実や新産業の導入等、地域の活性化に向けた施策を推進する。若狭湾沿岸においては、原子力発電施設の集積を利用した地域整備を行うとともに、近畿自動車道敦賀線等の整備を推進することにより、北近畿地域とも連携したリゾートネットワーク等連携と交流を軸とした地域活性化等を進める。さらに、九頭竜川流域等流域単位で行われている交流活動等への取組を支援するとともに、本地域内の各地域それぞれにおいて、洪水、豪雪、土砂流出等による自然災害や事故災害に対する安全性の確保のための対策及び海岸の保全を進める。農林水産業については、産地ブランドの確立、経営の複合化、生産・加工・流通基盤の整備等による競争力の強化、高付加価値化等を図る。この際、稲作農業を中心とした大区画化等の生産基盤の高度化を進めるとともに、木工等加工分野との連携、深海性水産資源の増殖等を通じて地域の特性を生かした産業の振興を図る。 金沢、富山、福井等の地域内の各都市において、相互の機能分担や広域的な共同利用にも配慮しつつ、鉄道跡地、大学移転跡地等の低未利用地を活用した中心市街地の活性化、研究開発機能の充実、業務拠点地域の形成、国際交流拠点の形成、高等教育機関、文化ホール、美術館等の充実、電子情報資源の充実を図るとともに、中枢拠点都市圏を中心とした広域的な連携により、国際交流機能を始めとする高次都市機能の充実を図る。この際、伝統的な工芸技術の継承、発展や修復技術の保存等を通じた伝統文化の振興を図るとともに、先端的な企業等の立地や創造的な企業活動への支援への総合的な取組、バリアフリー化の推進等による福祉の里の形成等の福祉の充実に向けた施策等、多自然居住地域に囲まれた文化やうるおいのある新しい都市圏の形成を目指す。これらの都市圏と地域内の各地との連携の下で留学生、研修生の受入れ体制づくり、国際会議、国際観光等の基盤整備等を促進し、文化交流、環境協力、国際物流等、広い視野に立った環日本海交流の核となる広域国際交流圏の形成を図る。このため、地域内及び隣接する地域との機能分担を図りつつ、中枢拠点都市圏を中心に国際交通機能の集積を図ることとし、伏木富山港等国際交流の拠点となる空港、港湾等において、物流施設の整備やアクセスのための交通基盤の整備を図る。 地域内の多自然居住地域、中枢拠点都市圏、本地域と太平洋側の諸都市、内陸地域等との相互間において、産業のみならず文化、スポーツ、保健、医療、福祉、広域型観光のネットワーク等多様な分野において、連携を基軸とする新しい地域づくりを進める。このため、我が国の中央部を能登半島から名古屋圏へと連結する地域連携軸を始め、中部山岳地域を福井から山梨へと東西に縦貫する地域連携軸や福井、滋賀、三重を結ぶ地域連携軸の形成を図る。こうした連携、交流の動きを踏まえ、陸上及び海上の縦貫路線の代替経路の創出等、物流、情報通信、産業の分野における全国的な広域的機能の一翼を担うことにも配慮しつつ、道路、鉄道、空港、港湾等の交通基盤や高度な情報通信基盤の整備を進めるとともに、様々な交流活動を活発化する施策を展開する。高規格幹線道路としては、東海北陸、中部縦貫、能越自動車道の整備を推進する。また、これらとともに地域の交通ネットワークを形成する小松白川連絡道路について事業の具体化を図るなど地域高規格道路の整備を進める。北陸新幹線については、政府・与党検討委員会検討結果に基づき、糸魚川・魚津間、石動・金沢間及び長野・上越間について着実に整備を進めるとともに、それ以外の区間については所要の事業を進める。 6 近畿地域 −文化の香り高い、創造性に満ちた、世界に誇り得る中枢圏域− (1) 地域整備の基本方向 我が国の政治、経済、文化及び国際交流の中心的役割を長く担い、高次都市機能の高い集積を有する関西圏と、日本海、太平洋、湖水、森林等豊かで多様性のある自然を有するその周辺地域からなる近畿地域は、東京一極集中構造の進展の中で経済面等相対的に地位を低下させてきたものの、依然我が国の経済、社会活動の枢要な位置を占めている。 このような近畿地域は、21世紀文明を支える国土を築くに当たり大きな役割が期待される地域であり、「文化の香り高い、創造性に満ちた、世界に誇り得る中枢圏域」として、その発展を目指す。このため、本地域全域において、我が国最大の歴史や文化の蓄積、豊かな自然等を生かし、地域連携軸の展開を図りながら、安全でゆとりとくつろぎのある暮らしを実現する質の高い地域環境の整備を進めるとともに、広域国際交流圏の形成を通じて、世界に開かれた環境の整備を図る。 関西圏にあっては、本地域の発展の核としての機能のみならず、国土の広範にわたる広域的連携の中心として、また地球時代における日本の顔となる我が国の文化、学術、研究開発を代表する圏域として、さらには世界、特に急速に発展するアジア・太平洋地域と我が国との間の交流のセンターとしての機能の強化が求められ、これを実現するため、阪神・淡路大震災からの復興を念頭に置きつつ、圏域のリノベーション等諸施策を進める。播磨、琵琶湖等の地域にあっては、関西圏との適切な機能分担と連携を図り、経済、文化、学術、研究開発、観光等の様々な面で緊密なネットワークを形成しながら、地域の自立的発展を促進することにより、西日本国土軸の形成に資する。北近畿地域及び紀伊半島地域は、それぞれ長期的に日本海国土軸及び太平洋新国土軸の形成の一翼を担う地域として期待され、多自然居住地域の創造に向けた取組を進めるとともに、関西圏等との連携の推進や、北陸・山陰、伊勢湾地域・四国等隣接する圏域との交流・連携の強化に向けた新たな取組を行う。 (2) 施策の展開方向 関西圏においては、大阪湾臨海地域を中心として、世界の中枢都市にふさわしい中枢管理、国際交流等の高次都市機能の集積や環境と調和する良好な居住環境の整備を図るとともに、老朽木造密集市街地の解消、市街地に隣接した樹林帯の保全・整備等による都市の安全性の向上、大規模工場跡地等の低未利用地を活用した既成市街地の土地利用転換や基盤整備、沿岸域の環境の保全、回復、水と緑あふれる河川空間の創造等を進めることにより大都市のリノベーションを推進し、職住遊の近接した高質で美しい都市活動空間を形成する。あわせて、第二名神高速道路、第二京阪道路等の幹線道路の整備や大阪湾岸道路等の整備による阪神高速道路の機能強化等を進めるとともに、都市鉄道の整備、神戸空港の新設等を通じて、通勤混雑や交通渋滞の緩和、圏域内外のネットワークの強化等を図る。さらに、大規模地震・洪水等による自然災害に対する都市の防災対策を推進するとともに、海岸の保全、廃棄物の広域処理場の整備を進める。また、関西文化学術研究都市を中心に、北大阪、播磨等における文化や情報通信、環境、健康等の学術、研究開発の拠点の整備を推進するとともに、それらのネットワークを築き、世界的水準の文化、学術、研究開発機能の連携集積拠点を形成する。さらに、その集積を活用しながら、情報通信、デザイン関連等の先端産業の創造と強化、観光、コンベンション等の集客産業の育成、織物、陶磁器等の伝統的工芸産業の活性化等を推進することにより、新産業の創造や産業構造の転換を促進する。 多自然居住地域の創造に向けて、生活圏域の拠点となる都市において、業務管理、情報、教育・文化等の都市機能の集積を進め、産業、技術の集積を生かした魅力的な就業機会を確保するとともに、地域特性を生かした安全でゆとりとうるおいのある総合的な居住環境の整備を図る。また、多様で豊かな自然環境の保全、回復を図り、これらの優れた資源等を生かした誇りの持てる農山漁村の整備を推進するとともに、農山漁村と都市との交流の促進を図る。さらに、域内の交通基盤や生産・加工・流通基盤の整備、高質化を進め、バイオテクノロジー等新技術を活用した高品質多品目化、古来からの豊かな森林資源の活用等による農林水産業の振興、歴史的、文化的資源や伝統技術等の地域資源を活用した高付加価値型の産業の育成等、地域産業の活性化を促進する。北近畿地域においては、豊かな自然、文化等の蓄積を生かした丹後地域におけるリゾートの整備や丹波地域における森づくりを基本に据えた地域づくり等の推進を図る。紀伊半島地域においては、隣接する太平洋沿岸地域と連携しつつ広域的な森林リゾートや海洋性リゾートの整備、水産資源の増養殖等、地域資源の多面的な利用による地域の活性化を促進する。淡路島においては、自然環境と調和した快適な生活空間と多彩な交流空間を併せ持つ世界に開かれた公園島の創造を図る。 文化、学術、研究開発等の豊富な集積を生かしながら、世界、特に地理的、歴史的に関係が深いアジア・太平洋地域との交流を一層発展させるよう、広域国際交流圏を形成する。このため、関西圏を中心に、関西国際空港の2期事業、大阪湾諸港における耐震性の高い国際海上コンテナターミナル群やこれらへのアクセスのための交通基盤の整備、京都迎賓館を始めとする国際会議、国際ビジネス等の交流拠点の整備、国際的な文化、スポーツ、観光機能の充実等を推進するとともに、周辺地域での様々な取組と連携を強化する。また、北近畿地域において、隣接する日本海沿岸地域と連携して、対岸諸地域と文化、学術、経済、環境等の多様な分野での交流を展開し、環日本海交流の一翼を担う。 都市機能の広域的な活用、質の高い生活文化圏の形成等を図り、魅力と活力ある地域社会を築くため、異なる歴史や文化を有する地域相互の人・物・情報の交流・連携を進める地域連携軸を展開する。日本海沿岸地域から太平洋沿岸地域までの京都、兵庫、徳島、高知の地域を広域的に結ぶ地域連携軸、福井、滋賀、三重を結ぶ地域連携軸、伊勢志摩、吉野熊野、瀬戸内を結ぶ地域連携軸、京都、滋賀、奈良、三重における広域的な交流圏域等の形成を図る。さらに、地域連携の強化による文化資源の掘り起こしや新しい文化の創造を図るため、歴史街道計画として進められている、世界遺産を含む数多くの歴史的・文化的資源を活用した地域づくりの推進を図る。このため、これらを支援するとともに、広域的な交流を支える観点から、京都縦貫、京奈和、北近畿豊岡自動車道、近畿自動車道紀勢線等の高規格幹線道路、鳥取豊岡宮津自動車道等の地域高規格道路、空港、港湾、鉄道、高度な情報通信基盤等の整備を進める。北陸新幹線については、政府・与党検討委員会検討結果に基づき、所要の事業を進める。紀伊半島の東岸から西岸に至る東海、南海を結ぶ地域での連携推進を図るための交通体系の強化について検討する。また、長期的視点から、四国との広域的な連携を図るための交通体系について検討する。紀淡連絡道路の構想については、長大橋等に係る技術開発、地域の交流、連携に向けた取組等を踏まえ調査を進めることとし、その進展に応じ、周辺環境への影響、費用対効果、費用負担のあり方等を検討することにより、構想を進める。 琵琶湖・淀川流域等においては、流域における一体的な連携を図りながら、水質の保全、水源のかん養、自然環境の保全等の諸施策を総合的に推進するとともに、渇水対策、洪水・土砂災害対策等を進める。 阪神・淡路大震災の被災地域においては、生活の再建、経済の復興及び安全な地域づくりの基本的な課題を早急に解決していくとともに、新産業構造形成プロジェクト等、阪神・淡路復興委員会の提言による復興特定事業について、提言を踏まえ適切に対処していく。 7 中国地域 −多様な主体の参加と連携の下でグローバルな交流を進める多軸・分散型発展の先導的地域− (1) 地域整備の基本方向 中国地域は、豊かな自然環境の中に多様な機能を有する大小の都市が適度な間隔で分布し、それぞれの地域が相互にかかわりながら、古くから瀬戸内海、対岸諸国との交流を含め日本海の水運及び陸上交通の要衝としての役割を担ってきた。近年では、広島や岡山を始め各地域で平和、医療、環境、人道援助等の国際貢献やスポーツ交流が東アジアを始め世界各国との間で活発に行われ、地球時代をリードしてきた地域の一つである。さらに、ボランティア団体の活発な活動により拠点整備が進むなど住民参加の地域づくりが先導的に行われながら発展してきた。 今後、本地域は、地域づくりに対する住民の参加意欲の高まりやさまざまなボランティア団体の活発な活動の蓄積を生かすとともに、適度に分散した都市が、周辺の農山漁村とともに、それぞれの個性を生かし、安全で良好な居住環境の下で、豊かな自然を内包しながら、相互に補完・連携し合い、まさに「多様な主体の参加と連携の下でグローバルな交流を進める多軸・分散型発展の先導的地域」として発展することが期待されている。 このため、人、物、情報の活発な交流が行われ多様な資源を複数の地域が共有し、相互に補完・連携しあうことにより、地域連携軸を域内外に展開する。これと併せ、四国地域との機能分担と連携により、一体的な発展を図りながら、広域国際交流圏を形成する。また、中国山地を中心とする中山間地域等を含む農山漁村の有する棚田等地域資源の最大限の活用と地域の創意工夫により、美しく、アメニティに富んだ多自然居住地域の創造に取り組むことが重要である。 これらを通じ長期的に日本海国土軸、西日本国土軸が形成されていく。 (2) 施策の展開方向 日本海から中国山地を経て瀬戸内海に至る多様性に富んだ中国地域の発展を目指し、それぞれの地域アイデンティティを確保しつつ、新しい文化の創出をも視野に入れながら、異なった歴史、文化、都市機能を有する地域間の交流・連携を促進する。このため、広島、岡山等の産業集積地域において、高度な研究開発拠点の整備を進め、研究開発の活性化や創造性を有した人材の育成を図るとともに、自動車や造船等技術・産業集積を生かしながら企業間・産業間のネットワーク化を促進し、産業構造の転換を促進する。これと併せ、都市の個性に応じて、国際交流、文化、医療機能等の強化・整備を進めながら、地方中枢都市、地方中核都市、地方中心都市等との間を結ぶ複合的な都市間ネットワークを地域内外に連ねることにより地域連携軸を形成する。本地域では、南北方向には、日本海から瀬戸内海を経て太平洋に至る地域が広域的に連携し合う、島根、鳥取、岡山、香川、徳島、高知を結ぶ地域連携軸と島根、広島、愛媛、高知を結ぶ地域連携軸の形成を図る。また、日本海沿岸では、下関、浜田・益田、松江・米子・出雲、鳥取等環日本海交流の一翼を担う国際交流拠点が連なる地域連携軸の形成を図る。さらに、瀬戸内海沿岸においては、水資源開発や豊かな自然環境の保全、回復に配慮し、ゆとりある生活と活発な産業の両立を目指しつつ、四国、九州との連携と交流を進める観点から、瀬戸内海地域における交流圏の形成を図る。特に、西瀬戸地域では、東アジアとの近接性を生かした国際交流の推進を視野に置きつつ、産業、観光等において、海を介した様々なネットワークの形成を図る。このため、高規格幹線道路については、山陰自動車道、中国横断自動車道(姫路鳥取線、尾道松江線)、東広島・呉自動車道等の整備を推進する。また、これに接続する鳥取豊岡宮津自動車道、江府三次道路等の地域高規格道路の整備を推進する。さらに、地域の内外の交流等を進めるための空港、港湾、鉄道、コミューター航空網や高度な情報通信基盤の整備を進める。関門海峡道路の構想については、長大橋等に係る技術開発、地域の交流、連携に向けた取組等を踏まえ調査を進めることとし、その進展に応じ、周辺環境への影響、費用対効果、費用負担のあり方等を検討することにより、構想を進める。また、広島、松山の中枢拠点都市圏の連携強化及びその機能の広域的活用のための交通体系について、西瀬戸地域での交流圏構想等の動向を見つつ長期的視点に立って検討する。 地域連携軸の形成と併せて、近畿地域や九州地域とも連携しつつ、四国地域との機能分担と連携による一体的な発展を図りながら、広島、岡山を核とする中枢拠点都市圏を中心として広域国際交流圏の形成を進める。このため、国際交流の拠点となる広島空港、広島港等の整備や日本海側での境港等の整備を進め、アジア・太平洋地域等へのゲートウェイ機能の強化を図るとともに、これらへのアクセスのための交通基盤を整備する。また、広島市におけるアジア各国との交流、国際平和交流、文化・スポーツ交流を生かして国際コンベンション等高次都市機能の充実を進める。さらに、世界遺産である原爆ドームや厳島神社等の歴史・文化遺産や美しくアメニティに富んだ多自然居住地域の伝統文化等の地域資源とが相まって、国際的にも魅力ある観光が展開されるように、拠点となる地域の環境整備やそれを支える体制の整備を進める。 多自然居住地域の創造に向けて、中国地域の美しい自然やたたら製鉄を始めとする伝統文化が継承・発展されているとともに、地域の歴史、文学、芸術等をつなぐ文化回廊構想が提唱されている。さらに、中山間地域等の活性化を考える県境サミット、中国山地森林文化圏での取組、各地で展開されているグリーン・ツーリズム、新たなライフスタイルを創出するテレワーク等の都市・農山漁村の交流・連携が進められているとともに、太田川や江の川等の流域において、流域一体となった水質保全、国土の保全・管理等の取組が進められている。こうした連携、交流の動きを踏まえ、圏域の拠点となる中小都市の整備を進めつつ、域内交通基盤や高度な情報通信基盤等の整備、安心で快適な生活空間の創出のため生活環境の整備や福祉の充実、瀬戸内海や日本海の総合的利用や田園、森林、水辺に親しめる環境の整備とともに、洪水、土砂流出等に対する災害に強い地域づくりや海岸の保全を進める。これらと併せて、農林水産業については、中国縦貫自動車道等の活用による域内や関西圏、九州地域の市場への利便性の向上や日本海側の砂丘地形や瀬戸内海の温暖な気候、なだらかな中国山地等の地域環境と伝統工芸を含む地域資源を最大限に活用するため、農林水産業の生産・加工・流通基盤の整備・高質化を図るとともに、高度な情報通信を利用した経営管理やマーケティング等を進めつつ、地域の創意工夫とアイデア豊かな担い手による複合的経営を進める。 8 四国地域 −国内外にわたる広域的連携型発展の先導的地域− (1) 地域整備の基本方向 四国地域は、中央部を東西に四国山地が貫き、北に瀬戸内海、南に太平洋と多様性に富んだ海に面するという地理的条件を有し、豊かな自然環境や温暖な気候に恵まれており、地域内に適度な規模の都市が分散し、都市機能の集積も進みつつある。また、古来より瀬戸内海や太平洋を介して、他地域との活発な交流が進められ、個性ある文化が育まれてきている。さらに、近年では、本州四国連絡橋3ルートの全線の完成が間近に迫り、各地方中核都市圏における空港、港湾等の整備も進展しつつあるなど、海を越えた国内外の地域との交流環境が飛躍的に向上しようとしている。 このような新たな交流環境の形成にともない、他地域との多様な連携により、豊かな自然、個性ある文化等を広域的な観点から活用し、地域の自立的な発展を実現するポテンシャルが著しく高まってきていることを踏まえ、今後、本地域は、「国内外にわたる広域的連携型発展の先導的地域」を目指す。 このため、四国内各地域の連携の強化を図りつつ、本州四国連絡橋3ルート等を積極的に活用し、多様な地域連携軸を形成する。また、海外との交流の活発化を図り、アジア・太平洋地域を始めとする世界に開かれた地域づくりを促進するため、特に中国地域との機能分担と連携により、一体的な発展を図りながら、広域国際交流圏を形成するとともに、各都市の機能強化、中小都市と中山間地域等を含む農山漁村等における多自然居住地域の創造等を進める。これらを通じ、沖縄から九州、四国、紀伊半島を経て伊勢湾沿岸へと至る太平洋新国土軸の基礎が築かれる。 (2) 施策の展開方向 都市機能や研究開発機能の充実・強化、農山漁村の活性化等を図るため、日本海から太平洋までの地域が広域的に連携し合う、京都、兵庫、徳島、高知を結ぶ地域連携軸、島根、鳥取、岡山、香川、徳島、高知を結ぶ地域連携軸、島根、広島、愛媛、高知を結ぶ地域連携軸の形成を図る。その基礎として、四国縦貫、四国横断、今治・小松、高知東部自動車道の高規格幹線道路や阿南安芸自動車道等の地域高規格道路の整備、徳島飛行場等の空港、港湾の整備、幹線鉄道の高速化等を進めるとともに、高度な情報通信基盤の整備を図る。地域連携軸の形成に向けた取組の中でも特に観光、レクリエーションについては、遍路みち等の文化的資産や四国山地等の自然環境を活用し、太平洋、瀬戸内海、日本海を結ぶ広域観光ルートの設定、歴史・文化とのふれあいを重視した道づくり、滞在型保養空間の整備等を重点的に進める。また、中国、九州地域との交流と連携を進める観点から、瀬戸内海地域における交流圏の形成を図る。特に、西瀬戸地域では、産業、観光等において、海を介した様々なネットワークの形成を図る。さらに、長期的な視点から、本州、九州との広域的な連携を図るための交通体系について検討する。豊予海峡道路の構想については、長大橋等に係る技術開発、地域の交流、連携に向けた取組等を踏まえ調査を進めることとし、その進展に応じ、周辺環境への影響、費用対効果、費用負担のあり方等を検討することにより、構想を進める。また、広島、松山の中枢拠点都市圏の連携強化及びその機能の広域的活用のための交通体系について、西瀬戸地域での交流圏構想等の動向を見つつ長期的視点に立って検討する。 アジア・太平洋地域との自立的な国際交流活動を促進するため、中国地域の中枢拠点都市圏等との機能分担と連携を図りながら、高知新港等国際交流の拠点となる基盤やこれらへのアクセスのための交通基盤の整備を進めるとともに、国際コンベンション、国際水準の研究開発等に係る基盤整備を進め、広域国際交流圏を形成する。また、より高次な国際交流機能を発揮する観点から、関西国際空港へのアクセスの充実を図る。 広域国際交流圏の形成と併せて、松山、高松、高知、徳島を核とする中枢拠点都市圏・中核都市圏において、各都市の連携を図りつつ、業務管理、研究開発、高次の教育・文化、情報等の高次都市機能を強化するとともに、これらを支える都市基盤の整備、中心市街地の活性化を推進し、地域の発展の拠点を形成する。また、瀬戸内海沿岸地域等において、近年の産業構造の変化への対応を図るため、既存産業の高度化や成長性の高い先端技術産業、高次サービス産業の立地等を進める。さらに、人材の育成や技術の高度化を図るため、高等教育機関、研究機関の整備・充実、産学官の連携による研究開発、異業種間技術交流を促進する。 多自然居住地域の創造に向けて、圏域の拠点となる中小都市の機能を高めるとともに、高度な情報通信基盤、交流基盤や生活基盤の整備等を進め、高齢化に対応した医療・福祉の充実、立地自由度の高い産業の育成、棚田等地域資源を生かした産業の活性化等を図る。このため、四国西南地域で展開されている高度情報通信技術の活用による地域活性化、豊富な農林水産物や自然景観の活用による地域づくり、四国東部地域で展開されている留学生等との交流の促進、海洋深層水を活用した産業の創出等への取組を推進する。また、吉野川や四万十川の流域等においては、都市と山村の交流を通じた森づくりや、清流の保全と地域の振興が調和する地域づくりへの取組等により、様々な主体の参加と広域的な連携の下に水源地の森林整備や水質の保全、多自然型川づくりを進める。さらに、瀬戸内海、足摺・宇和海等における自然環境の保全、回復を進め、あわせて、自然とのふれあいの場としての整備を進める。農林水産業については、その活性化を図るため、関西圏等への時間距離の短縮を生かした生鮮食料品の供給地としての機能の強化、木材供給体制の整備や間伐等による健全な森林の育成、つくり育てる漁業を推進するとともに、生産・加工・流通基盤の整備や高度化を図りつつ農林水産物のブランド化等による高付加価値化を促進する。他方、安全で安心できる生活の実現を図るため、洪水や土砂災害等に備えた災害に強い地域づくりや海岸の保全を進めるとともに、瀬戸内海沿岸地域を中心とする渇水の頻発に対応して、節水型社会の形成や地域の特性に応じた水資源開発を進める。 9 九州地域 −アジアと一体化して発展する九州− (1) 地域整備の基本方向 九州地域は、アジアとの地理的・文化的な近接性が高く、歴史的にも我が国とアジアとの交流において重要な役割を果たしてきており、21世紀に向けて成長が期待されるアジアへのゲートウエイとしての優位性を持っている。同時に、工業を始め農業、水産業、観光等様々な局面において、周辺諸国との厳しい地域間競争に直面している地域でもある。また、相当規模の都市が適度な間隔で立地する一方、自然環境に恵まれた離島、半島部、山間部等を有し、都市の利便性と豊かな自然を併せ持つ地域である。さらに、地域づくりの先導的な取組が行われてきた地域でもあり、近年は地域連携による新たな試みが進められている。 このような地域を取り巻く状況や特性を踏まえ、本地域は、我が国のアジアへのゲートウエイにとどまらず「アジアと一体化して発展する九州」を目指す。 このため、隣接地域をも視野に入れ、アジアを強く意識した広域国際交流圏を形成し、アジアとの経済、文化等の幅広い交流と連携を推進する。また、域内の一体的発展に配慮しながら、我が国の食料・木材供給基地として重要な役割を果たす多自然居住地域の創造と個性的で魅力的な都市圏の整備を進めるとともに、多様な交流と連携を行う地域連携軸を展開し、都市の利便性と豊かな自然とを同時に享受できる地域を全域に拡大することを目指す。これらを通じて、長期的に、本地域を幅広く覆う太平洋新国土軸が形成されていき、また、本地域が西の起点となる日本海国土軸及び西日本国土軸の形成にともない、西日本における国土軸の結節点になっていく。 (2) 施策の展開方向 福岡・北九州、熊本、鹿児島、長崎、大分等の中枢拠点都市圏・中核都市圏において、安全で快適な都市環境の整備、各都市圏の規模、特性に応じた中枢管理、研究開発、高次の教育・文化等の高次都市機能の集積を図るとともに、各都市圏相互の機能分担と連携を進める。 地理的・歴史的特性を生かした広域国際交流圏の形成を促進する観点から、国際的な文化拠点やコンベンションホール等の交流施設の整備を進めるとともに、域内の特色ある国際交流の取組を推進する。さらに、着実に増大かつ多様化している国際旅客・物流需要動向等に対応するため、本地域のゲートとなる国際空港機能の強化方策について十分調査検討を行うとともに、北部九州諸港における耐震性の高い国際海上コンテナターミナル群、及び志布志港等の整備を推進するなど国際交流・物流の拠点となる基盤の強化を図る。加えて、これらの利便性を高めるためアクセスのための交通基盤の整備等を進める。 また、アジアを始めとする諸外国との幅広い交流を基礎として、経済、文化等に係る諸活動の高度化、多様化を図る。新規産業の創出や既存産業の国際競争力の向上を図るとともに、アジアにおける研究開発や技術研修等の拠点としての機能を強化するため、電子・機械産業等の既存の産業集積を活用した産学官の連携、高等教育機関、試験研究機関等の知的資本の充実及びそれらのネットワーク化等により研究開発機能の強化を図る。あわせて、アジアとの国際分業の一層の深化を視野に入れ、外資系企業の立地促進の視点を含め産業立地環境の整備を進める。さらに、先進的な環境技術の移転等の技術協力プロジェクトを支援するとともに、留学生、研修生等の受入体制の構築、国際会議、国際競技大会の開催等による幅広い交流を進める。特に、近年、近隣アジア諸国からの観光客が増加しているのを受けて、世界遺産の屋久島を始めとした美しい自然環境、豊富な温泉、有形、無形の文化財等を十分に生かして、国際的な観光地としての環境整備と周遊型の広域観光ルートの整備を進め、観光を通じてアジアを始めとする諸外国の人々との交流を深める。 一方、九州中央山岳部等の都市機能の集積から離れた地域は、農林水産業、観光等の振興を通じた多自然居住地域の創造を目指し、交通基盤等の整備により域内外との連携の強化を図るとともに、生活基盤、高度な情報通信基盤の整備や中小都市等の都市機能の充実等を進め、活性化を図る。また、これらの地域は、自然環境に恵まれている反面、洪水、土砂流出、雲仙・桜島等の火山活動等による自然災害に見舞われやすいことから、災害に強い地域づくりや海岸の保全を進めるとともに、医療・福祉の充実を図り、安心で快適な生活空間を創出する。さらに、適切な国土管理を行うため、森林の持つ国土保全機能等に着目し、その十分な発揮に向けた間伐の推進等諸施策の展開を図る。 また、自然条件に恵まれた多様な農業生産、収穫段階に達する豊富な森林資源、豊かな水産資源等を生かした農林水産業の新たな展開や担い手の育成を図る。あわせて、我が国の食料・木材供給基地としての重要な役割を果たすため、生産・加工・流通基盤の整備・高質化による生産性の向上、コストの低下を図り国際的な競争力を高めるとともに、生産技術等のノウハウの交換等を目的とした交流と連携の推進を図る。また、グリーン・ツーリズムや体験農園等の推進を通じて、多自然居住地域と都市圏との交流の促進を図る。 各地域が相互に交流と連携を図ることにより、それぞれの地域の多様な豊かさを共有し、活力ある地域づくりを進めるため、地域連携軸を縦横に展開する。 九州北部地域において、ダム群連携等による総合的な水資源対策の推進に留意しつつ、先進的な国際交流の一層の促進を図るため、研究学園都市や歴史回廊等アジアとの文化・学術・研究面での交流拠点を形成するなど国際色豊かな一体的圏域の形成を図る。また、東九州地域においては、都市機能、工業集積、観光資源等の集積間の遠隔性を克服し、そのポテンシャルを生かした地域の更なる発展を図るため、交通体系や流通拠点の形成等により魅力ある産業、文化軸の形成を図る。一方、西瀬戸地域においては、中国、四国地域との交流と連携を進める観点から、産業、観光等において、海を介した様々なネットワークの形成を図る。 九州中央の諸都市が縦に連なる地域では、高次都市機能の広域的な享受、産業連携の強化等を目指した交流・連携の一層の推進を図る。また、中九州地域において、交通体系の形成を図りつつ、恵まれた自然を生かした広域観光ルートの強化や菊池川、大野川等における流域連携等域内の多様な交流・連携軸の形成を図る。さらに、有明海・八代海の沿岸地域においては、沿岸域の防災対策の推進に留意しつつ、域内各拠点を有機的に結ぶ循環型ネットワークの形成やアジアとの交流・物流拠点の機能強化を図るなど地域の一体的発展を目指した圏域の形成を図る。一方、東シナ海に面する地域においては、アジアへの近接性や豊かな自然環境、海洋資源等を生かし、水産業や観光を始めとする地域の発展を図るため、九州西岸地域の各拠点を有機的に結ぶ連携軸の形成を図るともに、西岸北部諸都市の都市間連携を進めるなど交流・連携の推進を図る。 南九州地域においては、重要な食料供給地域としての高付加価値農業地域の形成、多自然・滞在型の広域観光ルートの形成を目指した魅力ある交流圏の形成を図る。また、南九州から南の海洋に連なる地域においては、産業、観光において海を通じた交流・連携の推進を図る。 このような地域の連携を支援する観点から、九州横断、東九州、西九州、南九州西回り自動車道の高規格幹線道路、有明海沿岸道路、中九州横断道等の地域高規格道路の整備や在来線の高速化を進めるとともに、新北九州空港等の空港、港湾の整備を図る。九州新幹線鹿児島ルートについては、政府・与党検討委員会検討結果に基づき、船小屋・西鹿児島間について着実に整備を進めるとともに、それ以外の区間及び九州新幹線長崎ルートについては、所要の事業を進める。また、九州北部から中央部を経て南部に至る九州を縦貫する地域の交流、連携の強化のための交通体系について既存ストックの利活用を含め検討する。さらに、長期的な視点から、四国との広域的な連携を図るための交通体系について検討する。豊予海峡道路、関門海峡道路、島原・天草・長島架橋の構想については、長大橋等に係る技術開発、地域の交流、連携に向けた取組等を踏まえ調査を進めることとし、その進展に応じ、周辺環境への影響、費用対効果、費用負担のあり方等を検討することにより、構想を進める。これらの交通基盤に加え、高度な情報通信基盤の整備を図るとともに、交流と連携を促進するソフト施策を展開する。 10 沖縄地域 −太平洋・平和の交流拠点(パシフィック・クロスロード)− (1) 地域整備の基本方向 沖縄地域は、我が国と東南アジア地域等の熱帯・亜熱帯圏との結節点に位置し、広大な海域に囲まれた我が国唯一の亜熱帯海洋性気候の島しょ地域という独特の自然的、地理的環境の下で、古来からの東アジアや東南アジア諸地域との交易を通じて形成された琉球文化に、戦後のアメリカからの影響等が加わった、国際色豊かな独自の文化、生活様式を育んできた。 今後、本地域は、そうした地理的、自然的特性と歴史的、文化的蓄積等の地域資源や、それによって培われてきた多様性を受け入れる国際感覚と相互扶助の精神を積極的に生かし、地域の自立的発展と我が国ひいてはアジア・太平洋地域の経済社会文化の発展に寄与する21世紀のフロンティア、「太平洋・平和の交流拠点(パシフィック・クロスロード)」として特色ある地域の形成を目指す。 このため、アジア・太平洋地域における結節機能を育成、強化し、平和交流や技術協力等の国際的な貢献活動を始め、経済、学術、文化等における多角的な交流を促進して、世界に貢献する広域国際交流圏の形成を図る。また、経済の自立と雇用の確保を進め、地球社会と共生し国際平和に貢献する自立的な地域を構築する。このことによって、海洋性の太平洋新国土軸形成の端緒が開かれる。 (2) 施策の展開方向 沖縄本島を中心に奄美群島も含めた琉球弧を視野に入れ、アジア・太平洋地域における人、物、情報の結節点となる広域国際交流圏の形成を図る。このため、那覇を中心に、中枢管理、国際交流等の高次都市機能の集積を図るほか、那覇新都心等の拠点市街地の整備や独特の歴史、文化を反映したまちづくりを進め、特色ある中枢拠点都市圏の整備を図る。また、各地域の特性を生かして国際貢献活動や経済、学術、文化等に関する交流拠点の整備を進めるとともに、これらの交流拠点間のネットワーク化を図る。こうした交流の基盤として、アジア・太平洋地域に向けたゲートウェイ機能の強化に向け、国際交流の拠点となる那覇空港、那覇港等の整備及びこれらへのアクセスのための交通基盤の整備を推進するとともに、高度な情報通信基盤の積極的な整備を図る。また、那覇空港自動車道の整備や沖縄西海岸道路等の地域高規格道路の整備、沖縄都市モノレールの建設推進等を図る。このほか、高等教育・研修機関の整備等により、若年層を中心に国際化の進展や経済社会の変化に対応しうる人材の育成、確保に努める。 これらにより、国際平和に関する交流や、害虫防除技術等熱帯・亜熱帯地域の発展に寄与する技術の移転、アジアを始めとする海外からの研修生、留学生の受入等の国際協力を進めるほか、珊瑚礁の研究を始めとする亜熱帯特性に関する国際的な学術・研究交流や琉球文化の継承、発展につながる文化交流、観光、スポーツ等、多様な交流と地域の情報発信を促進する。 経済面では、自由貿易地域を充実するとともに特別自由貿易地域を新たに設け、税制・融資の積極的活用により国際的な物流・中継加工拠点の形成を促進するほか、魅力的な立地環境を整備してアジア・太平洋地域のビジネス拠点の形成を目指す。また、健康、医療、環境、食料等に関する研究開発・産業、情報通信産業等の振興を図るため、産学官の協力による研究開発やベンチャー企業の支援等を進める。 一方、多様な亜熱帯海洋性の自然環境や独特の文化を国民的な財産として保全、活用し、北部圏や宮古圏、八重山圏等において、安全で快適な居住と個性ある交流を実現する魅力ある多自然居住地域を創造する。このため、やんばる、西表島等の貴重な亜熱帯生物の生息・生育地や各地の美しい景観を形成する海浜、珊瑚礁海域等の保全、回復や赤土流出対策を進めるほか、歴史的な街並みや史跡、伝統芸能等の保全、継承を図る。また、これらの地域資源をネットワーク化した国際的な長期滞在型、通年型の観光・リゾート地の形成を進めるとともに、これらを支える産業の振興を図る。亜熱帯特有の自然条件等の優位性を持つ農林水産業については、生産、流通、加工基盤の整備等を図るとともに、地場産業等との連携等複合的な取組を通じて、市場ニーズを踏まえた振興を図る。さらに、台風等による自然災害や渇水等に柔軟に対処するため、総合的な防災対策、多目的ダムの建設等を進める。また、雨水等の利用や下水処理水等の循環利用による節水型社会の形成を図る。 これらの施策の展開に当たっては、沖縄地域全体の振興を図ることが重要である。特に北部圏については、沖縄本島の一体的な発展を図る上でその果たす役割は大きく、地域特性を生かしつつ今後とも振興に向けての着実な取組を進める。 また、土地利用上大きな制約となっている米軍施設・区域については、普天間飛行場の返還等沖縄にある米軍施設・区域の約21%、5002haの縮小が盛り込まれている平成8年12月の「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」の最終報告の内容を着実に実施し、その進展を踏まえつつ跡地の利用を計画的に進める。 11 豪雪・離島・半島地域 豪雪・離島・半島地域は、国土や自然環境の保全を進める上で重要な地域であるとともに、多様で特色ある自然条件、歴史的資源や文化的資源等を生かし、国民の価値観の多様化等に対応した21世紀の新たなライフスタイルを実現する貴重な場でもある。このため、安全で美しい国土の形成等の諸課題に的確に対応しつつ、居住の選択可能性の拡大、地域産業の振興等の施策を展開し、あわせて、地域内及び他地域との交流と連携を積極的に推進することにより、望ましい国土構造の実現に資することが重要である。 (1) 豪雪地帯 国土の約半分を占める豪雪地帯においては、雪に強い地域づくりのための克雪対策を充実し、雪や文化を活用した産業振興と地域活性化等を図るとともに、雪国の特性を生かして海外をも含めた交流と連携を促進することが重要である。 このため、冬期の安全で快適な移動性の確保に向け、高規格幹線道路、高速鉄道、空港等の高速交通から歩行者空間に至る交通基盤の適時適切な除排雪の充実、防雪施設や消融雪施設の整備及びその維持管理対策、スパイクタイヤの規制にともなう凍結路面対策、タイヤや車両の冬期走行性能の向上等を推進し、雪に強い交通基盤の整備を図る。また、気象、交通、イベント等の情報提供、生活の利便性の向上、産業の振興等の観点から、高度な情報通信基盤の整備を図る。さらに、雪国の豊かな自然環境や美しい景観の保全を行う一方で、雪とともに生きる新たな雪国文化を形成するため、生活環境の整備に加え、雪と親しみ、雪を楽しむ親雪活動の普及を図る。あわせて、雪国の豊かな自然や伝統的な生活様式の学習及び体験を深めるとともに、これらを生かした地域間交流や国際交流を推進する。 また、地域が行う除排雪等への支援、高齢者等に配慮した克雪住宅の普及、冬期のスポーツ施設や健康増進施設、公園の整備等を図る。農山漁村においては、冬期滞在施設の整備を始め、高齢化の進んだ集落への支援対策等を推進する。都市においては、面的な消融雪施設の整備や電線類の地中化、克雪型の住宅団地の整備、除排雪機能の高い河川や下水道の整備、公共空間を利用した雪捨て場の確保等により、雪に強い都市づくりを進める。また、雪崩、地吹雪、融雪期の土砂災害、積雪期の大規模地震災害等の災害対策を推進する。一方、雪国の特性に対応した農林水産業等の振興を図るとともに、雪室、氷室による農産物等の貯蔵技術を活用した産業育成、地域の自然や文化を生かした個性的な雪国リゾートの創設、雪と関連した商品開発等を推進する。さらに、降積雪等の観測の強化、雪処理の機械化、雪の冷熱エネルギーの利用等の克雪技術及び利雪技術の研究開発を促進する。 (2) 離島地域 離島地域は、排他的経済水域を含む国土の保全・管理上の重要な拠点であり、その役割及び多様な離島ごとの諸条件を十分に勘案しつつ、安全で安心できる生活環境の整備や地域の活性化に向けた各種の基盤整備を推進するとともに、離島地域の持つ多様で特色ある資源や文化を活用した産業振興を図ることが重要である。 このような観点から、交流圏の拡大に向け、港湾、空港、道路や架橋等交通施設の整備、離島航路の高速化や航空機のジェット化、利便性の確保、離島と離島・本土・海外とを結ぶ交通網の構築等を図る。あわせて、生活等の広範な情報の受発信に供する高度な情報通信基盤の整備を進める。また、漁港、漁場、農地、農道、林道等の基盤整備、加工・流通体制の整備、関連企業との連携等により、特色ある離島産品の生産を推進する。特に、地域の基幹産業である水産業の一層の振興を図る。さらに、海洋性気候等恵まれた自然環境を活用した保養・療養活動(アイランドテラピー)やブルー・ツーリズム等魅力ある離島観光の振興を図る。 生活環境については、ダム等の整備、他地域からの導水、海水淡水化等の渇水対策の推進、汚水処理施設、廃棄物処理施設、公園、救急医療を含めた医療・福祉体制等の整備を図る。また、衛星通信等による教育・医療システムの導入等を推進し、教育・医療の機会の均等化を目指す。さらに、治山、治水、海岸保全等の国土保全施設の整備や、災害時の連絡体制を含めた総合的な防災対策を推進する。このほか、自然環境の保全、集落景観の保全、伝統文化の継承と発展等を図る。 特に、外海離島である奄美群島については、沖縄との連携強化によりアジア・太平洋地域における新たな位置付けを求め、小笠原諸島については、東京圏との連携の強化に配慮しつつ、亜熱帯気候等による特有の自然環境や我が国南端に位置する地理的特性を十分に生かした振興開発を推進する。 (3) 半島地域 半島地域においては、周辺地域との交流と連携を図るとともに、それぞれの地域の主体的かつ一体的な取組を基本とし、国土保全・管理上の重要性にかんがみ、その潜在的なポテンシャルを生かした地域の活力の維持と増進を図ることが重要である。 具体的には、域内相互及び域内と周辺地域との連携強化のため、地理的な特殊性に配慮し、半島循環道路を始めとして、道路、港湾等の幹線交通基盤の整備、これと一体となった地域の交通基盤及び高度な情報通信基盤の整備を図る。また、治山、治水、海岸保全のための国土保全施設の整備、ダムの整備等による水資源開発を推進する。さらに、汚水処理施設、廃棄物処理施設、公園等の地域のニーズに応じた生活環境の整備や、高齢者、児童等の福祉に適切に対処することにより、豊かな暮らしを創出する。 一方、農林水産物の生産基盤の整備と加工・流通体制の整備、地場産業の育成、豊かな自然環境を立地要因とする企業、研究開発機関等の誘致等により、新たな産業振興を展開するとともに、自然環境や伝統文化等の観光資源を保全、活用しつつ、隣接する半島、離島を含む沿岸域等と連携することにより、魅力ある広域的な観光ルートの形成を図る。特に、半島文化を生かした個性ある地域づくりを支援し、文化を通じた国内や海外との交流と連携を通じて、新しい半島文化の創造を図る。