「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第1章 第3節 2

2 安定的な水資源の確保と有効利用

 近年の降雨量の不安定化傾向等により、利水に対する安全度が低下し、渇水が起こりやすくなっていることに加え、工業用水の高度利用、生活様式の変化等により、渇水が及ぼす社会的な影響が増大している。また、水資源の賦存状況の偏在等から依然渇水の生じやすい地域が存在している。これらに対応するために、流域圏での総合的な施策展開を図る。

 (1) 水資源の有効利用

 「節水型社会」を目指し、都市域における雨水、下水処理水等の有効利用を促進するとともに、節水意識の啓発、節水型家庭用品の普及、水道の漏水対策、工業用水の回収率の向上等を推進する。また、地盤沈下等の地下水障害を発生させないよう、地下水の保全と適正な利用を図る。さらに、現行の水利用の実態を明らかにした上で、農業用水、水道用水、工業用水等各種用水の必要量の変化、水環境維持・改善のための新たな水需要等を踏まえ、地域の意向や現代の社会状況に対応した合理的な水利秩序の形成に向けて検討を進め、その実現を図る。

 (2) 渇水対策の強化と水資源開発

 渇水対策の強化のため、渇水調整のための協議会等を活用するとともに、必要な施設整備を推進する。また、異常渇水時の用途間、地域間の水融通を適正かつ円滑にするため、補償等の観点を含め、有効な調整方策の検討を行い、関係者間の調整を図る。

 都市用水需要の増大、水資源開発の遅れ等により、利水に対する安全度が低い水系等において、水資源開発等により利水の安全度を確保する。また、離島、半島等の水資源に恵まれない地域において、生活貯水池、海水淡水化、地下ダム等多様な手段による安定的な水資源の確保を図る。これらの整備を行う上で、既設ダムの再開発、ダム群の連携等、既存の施設を有効に活用する。また、農業水利施設の更新等に併せて農業用水の再編を行い、潜在的余剰水の有効利用を図る。限られた水源を効率的に運用できるよう、河川間を結ぶ調整河川の整備、水道広域化施設の整備等による広域的な水供給システムを整備する。


3 水系の総合的な整備

 都市化にともなう洪水量の増大、河川水質の悪化、湧水の枯渇等による河川水量の減少、流出土砂量の変化等、流域の土地利用や水利用の変化にともない顕在化した治水や水環境上の様々な問題に対応するために、流域で連携した総合的な取組を行う。また、ふだんの川の機能に着目した河川整備を推進し、流域における人と川の関係を再構築する。

 (1) 流域、氾濫原と一体となった治水対策

 洪水・土砂災害に対する安全性を確保するため、総合的な流域対策、洪水に強い社会づくり、施設計画規模を超過する洪水等に対する減災性の確保等、流域圏単位での総合的な取組を推進する。このため、河川が氾濫した場合にも被害を最小限にくいとめるため、河川周辺の樹林帯等の保全、洪水・土砂災害危険区域図、避難図の公表等の氾濫原等における対策を推進する。さらに、洪水・土砂災害にかかわる施設については、適正な土砂管理に配慮した砂防施設の整備、まちづくりと調和し流域の視点に立った河川、下水道、ダム、放水路等の整備、土石流・がけ崩れ・地すべり等に対する施設の整備、市街地に隣接する山麓斜面の樹林帯の保全、整備等を推進する。また、災害対応や河川管理の高度化等を図るため高度な情報通信基盤等を整備する。河川整備等については、長期的な河川整備の目標の下、当面21世紀初頭において、大河川において30年から40年に一度、中小河川及び土砂災害対策については5年から10年に一度の降雨規模を対象とした整備を行う。

 また、大都市域等においては、洪水が生じた場合の被害の可能性が大きく、広域的に被害が波及する恐れのあることから、河川整備の早期完成を目指すとともに、施設整備規模を超過する洪水に対する減災性に考慮し、まちづくりと一体となった高規格堤防の整備、大洪水や地震に対する耐災性を高めるための堤防の構造強化を行うとともに、浸水常襲地域の解消のため、排水機場を整備するなど下水道施設整備や治水施設整備を推進する。

 一方、中山間地域等においては、洪水・土砂災害による地域の孤立の危険性の高いことから、集落の安全を確保する洪水対策、土砂災害対策等を推進する。

 (2) 流域、沿岸域を視野に入れた総合的な土砂管理

 河床低下、海岸線の後退等に対処するため、山腹から海岸に至る一連の土砂の流れについて調査、研究を進め、生態系にも配慮した総合的な土砂管理を目指す。このため、陸域においては、貯水ダムの排砂施設、中小洪水時等に土砂の流れを妨げない砂防ダム等の開発等を行う。沿岸域においては、海岸沿いの砂の流れを確保し、砂浜を維持・回復するための工法等の開発、整備を推進する。また、沿岸域の安全を確保するため、高潮、津波、波浪等の外力条件、海岸侵食及び後背地の状況に応じた海岸保全施設の整備を推進する。

 (3) 河川空間の自然性と水辺の快適性の向上

 自然をいかした川を目指し、河川空間の自然性と水辺の快適性を向上させるため、防災上の配慮や自然になじむ新素材の開発等を行いつつ、自然河岸・河川周辺の樹林帯等の保全、河道の再自然化、多自然型川づくり、魚道の設置等、河川環境の保全、整備を進める。また、高齢者、身障者等にも配慮した人々が親しめる水辺づくりを行うなど、ふだんの川の機能に着目した整備を行う。ダム貯水池等においては、地域にひらかれたダム湖周辺の整備を行うとともに、副ダム等による定常的な水面の確保、湖岸の緑化等により水辺環境の向上を図る。都市部においては、緑地、水路、河川等の整備を連携して行うことにより、水と緑のネットワークを形成し、都市の快適性や防災性の向上に資する。


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