「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第1章 第3節 4

4 森林の管理

 (1) 森林管理の基本方向

 国土の3分の2に及ぶ森林については、国土の保全や水資源のかん養等の公益的機能を確保すると同時に、再生産可能な資源として持続的に利用することが肝要である。

 しかしながら、近年、林業と木材産業の停滞、森林管理の担い手の減少と高齢化、それらにともなう森林の管理水準の低下がみられるなど、旧来の森林管理の仕組みが十分に機能しなくなっている。一方、自然災害や渇水等に対する関心の高まりにつれて上流等の森林にも着目されるようになるとともに、自然環境や生活環境の保全、交流の場としての利用や、保健的、文化的、教育的な利用等への要請、さらには、森林づくりに参加したいという要請が高まっている。

 こうした状況を踏まえ、以下のような基本方向で森林管理に取り組む。

  (持続可能な森林経営の推進)

 地球環境問題への対応の一環として、世界の森林を舞台に「持続可能な森林経営」の推進に向けた取組が展開されている中で、我が国においても、海外との技術協力等の推進に加えて、国内の森林は地球全体の森林の一部という認識の下、その推進を図る。この場合、持続可能な森林経営の推進を基本的な理念とした上で、国民の森林に対する要請の高まりを踏まえ、林業経営を通じた管理を基本として、各種の整備事業や保全対策を有機的に組み合わせ、計画的に森林資源の質的充実に取り組む。

  (21世紀型の森林文化の展開)

 我が国では、森林に恵まれた国土条件の下、日常生活、産業、建築、信仰や芸術等の様々な面で森林と深くかかわった「森林文化」を形成してきた。こうした歴史の中で、薪炭や木材等の林産物の確保に加え、水田稲作農業に不可欠な水や肥料の確保等のため、上流の森林や里山林を保全しながらその恩恵を有効に享受していく森林管理の仕組みがこれまで培われ、これが森林文化の根幹をなしてきた。今後は、森林の重要性につき国民意識の一層の向上に努めつつ、都市と山村の交流や連携の推進等による森林とのふれあいや森林づくり等森林管理の仕組みの再構築、再生産可能な木質資源を持続的・安定的に利用するライフスタイルの定着への取組等により、21世紀型の森林文化の育成に取り組む。

  (森林管理の充実への対応)

 森林は、大気、水、土壌、樹木を中心とする植物、動物等からなる森林生態系を形成しており、下流域を含めた国民の生活と生態系の持続性に密接にかかわっている。また、地域から産出される木材の利用促進は、林業の活性化につながり、地域の森林管理が一層充実したものとなる。こうした考え方の下、民有林と国有林、林業と木材産業、上流と下流等の広範な関係者間における合意形成と連携強化を図り、地域の特性を踏まえた森林の流域管理システムの推進を通じて、森林の整備、林業の活性化等に取り組む。また、国民の森林づくりへの参加や森林の公益的機能の維持・増進、さらには、森林管理の充実を進める条件として、山村の活性化に取り組む。

 また、国有林については、国土の保全や原生的な森林生態系の保全等の役割にかんがみ、国有林野の管理経営を木材生産機能重視から公益的機能重視に転換するなど、国有林野事業の健全な運営を通じて、その使命が十全に果たされるよう、国民の要請と時代の変化に対応し、その新たな展開を図る。


 (2) 21世紀に向けた森林管理の推進

  (森林の総合利用の推進と新たな活用)

 森林への理解の醸成を念頭に置きつつ、国民が様々な形で森林に親しみ得る環境の整備を図り、森林の総合利用を推進する。この際、青少年を始めとする国民各層が、人と森林とのかかわり、森林生態系の仕組み、森林の機能等について、身近な森林とのふれあいや、グリーン・ツーリズム等を通じ、体験し、学習できる体制の整備を図る。また、様々な主体が、山村の生活に触れるとともに、自ら参加し森林を育むなど、森林文化を共有し、これを培う機会の充実を図る。さらに、これらの基盤として、森林や、森林の散策等に供する歩道等の森林利用施設の整備に併せて、森林インストラクターの育成、地元の関係者の持つ技術の活用、インターネットの活用等による情報提供等のソフト面の整備も促進する。
 このほか、森林の新たな活用を目指し、森林を生かした居住空間や業務空間の形成に取り組む。

  (森林管理の主体づくり)

 国民参加の森林づくりを推進するとともに、上流と下流の協力を促し、分収林、森林整備のための基金等の活用を推進するなど、森林管理の多様な展開を図る。また、林業経営体や林業事業体の自助努力を基本としつつ、これらに対する適切な支援のほか、森林管理を行う第三セクターの一層の活用等、関係者の連携の下、新規参入を含めた担い手に対する総合的支援を図る。さらに、森林づくりへの参加意欲を実際の森林管理の力に育てるといった観点から、都市と山村の交流や連携を促進する。このほか、森林所有者の地域外への移転等により管理がなされなくなった森林の管理は重要な課題であり、林業経営体、森林組合等による施業受託に加えて、公的機関による森林管理を促進するなど、的確な対応を図る。

  (計画的な森林整備の推進)

 多様な主体の参加と連携を促進しつつ、現状の森林構成や森林への要請を把握した上で、以下のような森林整備を長期的な視点を持って計画的に推進する。荒廃地等への植栽、間伐や保育、複層状態の森林の整備、保全施設の整備等を推進し、水土保全機能の高い森林を整備する。生物多様性の保全、人と森林とのふれあいの促進のため、多様な生態系の保全とそのネットワーク化、混交林化、都市近郊林や里山林の保全、森林景観の整備、広葉樹の保全・育成、保健休養施設の整備等により、美しく健全で親しみのある森林を整備する。再生産可能な森林資源の持続的利用のため、二酸化炭素の吸収機能も考慮しつつ、高度な循環利用が可能な森林を整備する。

 また、森林の管理等に欠かせない林道等路網の整備を推進するとともに、保安林については、治山施設の整備等により、その機能維持及び機能強化を図る。さらに、持続可能な森林経営の推進に関する調査、研究、普及を推進する。加えて、森林の適切な管理に不可欠な森林の資源内容等の情報整備の充実を図る。また、高齢化等が進展する地域では、今後の森林管理の展開を踏まえつつ、必要に応じて所有や境界等の明確化を図る。


5 農用地等の管理

 農用地は、国土の約14%に広がりそこに農業用用排水路やため池が網状に張り巡らされ、食料生産の基盤として豊かな国民生活を支えている。また、その適切な維持管理は、棚田等水田の雨水貯留・土砂流出防止、平地水田の遊水機能や、休養や休息等レクリエーション、農業用用排水路、ため池等によるうるおいある水辺環境の創出等美しい景観や豊かな自然環境の提供、子供の情操や社会教育の場の提供等公益的な効果の発揮にも寄与しうるものであるが、近年、中山間地域等において耕作放棄地が増加するなど農用地等の適正な管理が困難になってきている。
 こうした状況を踏まえ、以下の施策を推進する。

 (1) 農用地等の管理の総合化

 農業の健全な発展と優良農地の維持及び確保が行い得るよう総合的な施策の展開を推進する。特に、農用地等の基盤整備や農道の整備、農用地等の防災対策の実施は、農用地等が適切に保全管理されるための基礎的条件であり、中山間地域等において地域の条件に応じた整備を推進する。さらに、地域住民等による農用地等の管理システムの整備、地域住民等と地方公共団体や企業とのパートナーシップの向上による地域の環境改善への支援強化を推進する。また、過疎化等が進行し棚田が残る地域等農用地等の荒廃が懸念される中山間地域等では、農山村と都市や消費者との交流、連携の推進、地域の状況に応じて国民の理解を得つつ、公的支援を図るとともに、関係する市町村、農業協同組合、土地改良区、第三セクター等の一層の活用を推進し、農用地等の適切な管理及び担い手の育成を行う。

 (2) 農用地等の利活用

 全国各地で展開される農用地等の適切な管理に向けての地域活動を支援するとともに、国民が広く農用地等と触れあえるよう、グリーン・ツーリズムや美しいむらづくりを推進する。このため、耕作放棄地等を樹林帯や花畑等に転換、豊かな自然環境の保全、回復のためのビオトープ・ネットワーク等の整備、都市住民に農作業の場等を提供する市民農園の活用、さらに農作業を通じてレクリエーションや体験学習を行うための施設整備と支援システムの充実を図る。その際、農業の活動、農用地等の利活用等不断の適切な管理は、水質の保全等流域圏の水環境の保全、水辺環境の整備によるアメニティの向上等にも寄与しうるものである。


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