「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第1章 第4節


第4節 海洋・沿岸域の保全と利用


 地球環境への意識の高まりと国連海洋法条約上の我が国の権利と責務を踏まえ、海洋・沿岸域を人類共有の財産として、また望ましい姿で子孫に引き継ぐべき貴重な国土空間として認識し、適正に保全するとともに多面的に利用していくことが基本である。

 我が国の海洋・沿岸域は、それぞれの新しい国土軸に対応する黒潮、親潮、対馬海流に沿う地域と、西日本国土軸に対応する三大湾・瀬戸内海等が連なる地域に大きく分けられる。このような地域特性をいかし、以下の施策を行い、望ましい国土構造の形成に寄与していく。


1 海と人との多様なかかわりの構築

 我が国の沿岸域は、厳しい自然条件の下に置かれているとともに、人口、資産の集積が進んでいる。このため、高潮、津波、波浪等による自然災害や全国的に顕在化している海岸侵食に対応し、国民の生命や財産を守り、質の高い安全な沿岸域を形成していくため、地震・津波防災対策の早急な実施、面的防護方式による耐久性の高い整備等の海岸保全施設の整備及び津波・高潮等の観測・情報伝達体制の高度化を推進する。

 また、陸・海水系の相互作用の下にある沿岸域では、自然の持つ循環、復元性、多様性が劣化し、海岸侵食、富栄養化や赤潮、多様な生物の産卵・生育に重要な場の減少等の問題が生じている。このため、沿岸域の特性を踏まえ、陸域の取組と併せた自然と調和した土砂管理、水質、底質の改善及び干潟、藻場、砂浜等の浅場とその連続性の質的・量的な回復や自然の浄化能力の修復を広域的、総合的に進め、人間と自然が良好にかかわる美しく健全な沿岸域環境の復元・創造を図る。

 さらに、臨海部・海岸を多様な機能をもつ空間として整備し、良好な景観の形成、パブリックアクセスの確保、海の魅力をいかしたウォーターフロントの整備を図る。また、海に由来する自然、生活、文化等にふれあう健康、保養、学習等のための交流、海洋をテーマとした研究・技術交流、漁業等の海洋関連産業の連携・交流、イベントの開催、海上交通網を活用した広域観光ルートの形成等「海流連携」とも言うべき海を通じた連携・交流を推進する。なお、海洋性レクリエーション利用者の組織化や利用ルールの策定、規制と併せたプレジャーボートの保管場所の確保とその広域的ネットワークの形成を進める。


2 沿岸域圏の総合的な計画と管理の推進

 沿岸域の安全の確保、多面的な利用、良好な環境の形成及び魅力ある自立的な地域の形成を図るため、沿岸域圏を自然の系として適切にとらえ、地方公共団体が主体となり、沿岸域圏の総合的な管理計画を策定し、各種事業、施策、利用等を総合的、計画的に推進する「沿岸域圏管理」に取組む。そのため、国は、計画策定指針を明らかにし、国の諸事業の活用、民間や非営利組織等の活力の誘導等により地方公共団体を支援する。なお、沿岸域圏が複数の地方公共団体の区域にまたがる場合には、関係地方公共団体が連携し、特に必要がある場合には、国を含めた広域的な連携により、計画の策定、推進を図る。

 なかでも、より良好な環境を形成するためには、広域的な視点から沿岸域をとらえ、長期的な目標を掲げ、段階的な計画により環境の復元、創造等を行うことが必要である。あわせて、多様な主体による個別の事業と計画との整合を図るとともに、管理者間の連携の取組を計画で位置付け、その総合的な推進を図る。


3 国際海洋秩序の確立と技術開発

 排他的経済水域内の水産資源について適切な権利の行使と義務の履行のため、漁獲可能量制度により再生産資源の特性を生かした資源管理を一層進める。あわせて、開発による影響の緩和も含めた藻場等の良好な漁場環境の保全と回復、資源管理型漁業、栽培漁業等の展開、調査研究の充実により、資源の持続的かつ高度な利用を進める。また、21世紀のフロンティアである海の活用を進めるため、新たな船舶、浮体等による空間利用、水産資源の基礎生産力の向上とその高度利用等の技術開発及び実用化を進めるとともに、大陸棚の石油、天然ガス、深海底の鉱物資源、潮汐、波浪の海洋エネルギー等の調査、開発を推進する。さらに、海洋環境を保護・保全するとともに、地球温暖化、気候変動等の地球規模の諸現象の解明とその正確な予測並びに海洋・沿岸域における事故等への的確な対応のため、国際機関等とも協力しつつ、海洋に関する観測、調査、研究開発、情報整備等を進める。なお、海洋における資源開発・管理や調査・研究等を実施する際には、国際的な協力体制の確立も必要である。


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