「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第2章 第3節

第3節 国内及び国外からの観光の振興


 日常生活を離れ、未知の自然、人、文化等に触れる旅をすることで、人は新たな感動を受け、充実感を覚え、心身をリフレッシュさせることができる。また、地域の自然、歴史、文化等を生かした観光交流の増大は、地域住民が地域独自の文化を発見、創出し、自らの居住する地域空間についてその価値を再認識する契機となる。加えて、国際的に見ても魅力ある観光地の形成は、地域の新たな産業振興や雇用創出につながり、地域の活性化や個性あるまちづくりに寄与するものである。とりわけ、地方圏においては、居住環境、食文化を含めた地域の生活文化自体が魅力的な観光資源であることから、地域の特色のある観光素材、自然や歴史環境等を保全しつつ活用することにより大都市との交流を進め、地域の活性化を促すことが期待される。このため、21世紀における美しい国土の形成や多様な地域文化の創出のための有効な方策の一つとして観光の高質化を位置付け、観光交流を支える交通、情報通信基盤を総合的に整備するとともに、都市及び農山漁村等が一体となった国際観光、国内観光等の振興に向けた施策を実施する。


1 国際観光の振興

 近年の日本人海外旅行者数の増加、近隣アジア諸国を訪れる国際観光客の増加にもかかわらず、我が国を訪れる外国人旅行者数はここ数年の横這いまたは微減から平成8年には増加に転じたものの、日本人海外旅行者数の約4分の1の水準にとどまっている。また、これらの訪日外国人観光客の訪問地は東京・大阪中心で、地方観光地への訪問はいまだ低水準にあることを踏まえ、積極的な国際観光の振興が必要である。

 (1) 外国人観光客の増加に向けた施策展開

 我が国全体を訪れる外国人の大幅な増加を図るべく、訪日旅行の需要を創造するための日本の観光イメージづくりとPR、方面別のマーケティングを進める。また、国内滞在の費用の低廉化を図るため、交通機関を含めた外国人向け各種割引制度の拡充、宿泊料金の低廉化及びこれに関する情報提供機能の強化を進める。さらに、外国人観光客の利便性の向上を図るため、公共交通機関、道路等における外国語やシンボルマーク等を利用した理解しやすい案内表示の充実、案内所の機能拡充、査証の発行の簡素化、国際空港と国内交通の連携の強化、各種情報提供機能の充実等を進める。

 (2) 地方圏への外国人観光客の誘致

 地方圏への外国人観光客の誘致を図るため、広域的な官民の連携の下、地域の特色を生かしたテーマに即した広域観光ルートの開発、広域観光の拠点となる宿泊滞在拠点の整備等を通じ、我が国を代表する新たな国際的観光地として国際観光テーマ地区の形成を進める。これらの施策により、それぞれの広域国際交流圏において外国人観光客のニーズに概ね圏内で対応できる体制を整備する。また、サービスや受入れ環境の改善、ボランティアによるガイドの配置等を積極的に行い、旅行者を暖かく受け入れる気風や環境の醸成に努める。


2 国内観光等の振興

 余暇時間が増大する中で、観光需要の個性化、多様化等に対応した国内観光の高度化を図り、地域間の交流の拡大等を通じて地域の経済や文化を活性化させる観点から、国内観光等の振興に向けた施策を展開する。

 (1) 観光産業の高度化に向けた取組

 今後増大する個人や家族での旅行需要に対応した国内観光の低価格化と価格・サービス体系の多様化を進めるとともに、余暇時間の増大を踏まえた長期滞在型や拠点を中心とする広域型の旅行のための宿泊施設の整備、高度な観光サービスを提供できる人材の育成等を進める。また、観光客への食材提供や工芸品の販売等の関連する分野を含む一体的な産業として観光産業の振興策を検討する。さらに、地域文化に触れ、地域住民と交流する地域に開かれた観光の実現を図るため、地域住民、行政、観光産業が連携して観光による地域振興計画を策定するなど、地域の主体性ある観光地づくりとホスピタリティの向上を進める。

 (2) 旅行需要の拡大に向けた環境整備

 今後、交流の機会が増大すると予想される高齢者や障害者が安心して旅行を楽しむことができる環境の整備を図る。また、グリーン・ツーリズム、長期のボランティア、マルチハビテーション(複数地域居住)等による都市と地域の交流人口の拡大を通じて地域社会の活性化を図る施策を行う。

 (3) 観光による地域の活性化と地域からの情報発信

 観光による地域の振興、活性化を図る観点から、地域独自の自然、文化、歴史等を活用したイベントや体験型観光の育成を進める。また、地域資源の掘り起こしによる市町村ガイドブックの作成等による地域の魅力のPRを促進するとともに、周遊型観光に対応した新たな観光ルートの形成を地域連携により推進する。さらに、各地域の観光資源、宿泊施設等に関する情報のネットワーク化を進め、地域からの情報発信を促進する。


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