「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第4章 第5節




第5節 多自然居住地域における産業の展開


 中小都市と中山間地域等を含む農山漁村等においては、低価格食品や原材料の輸入の増大等により、農林水産業や食品・木材等の農林水産加工型工業への影響が一層深刻となるとともに、地方中心・中小都市を支えてきた商業・サービス業が停滞するなど、地域活力の低下が懸念される。一方、これらの地域は、今後人々の自由時間の拡大、環境・文化を重視する価値観やライフスタイルの多様化、情報通信サービスの一層の充実等により、大都市や中枢・中核都市圏とは異なる自然的・社会的条件を有する多自然居住地域として新たな視点から評価されることが期待される。このため、基幹産業である農林水産業の振興に加え、以下のような地域の持つ特性や条件を最大限に生かした新しい産業の展開を図り、所得機会の確保と地域の活性化を図ることが必要である。なお、これらの地域の産業開発戦略の構築に当たっては、地域の中心となる都市と周辺地域を一体の圏域としてとらえ、両者が都市的機能と自然的な機能を相互補完することや大都市圏との交流人口を拡大すること等を念頭に置いて、より広域的な視点に立って行うことが重要である。

1 新しいふるさと産業システムの展開

 中山間地域等を含む農山漁村では、従来から地域にある多様な資源を活用した「ふるさと産業システム」ともいうべき複合的な産業活動が展開されてきた。今日のような自然再認識やゆとりと豊かさを希求する大きな流れの中で、活力ある多自然居住地域を創造していくため、農林水産業の経営基盤の強化を図ることはもとより、地域資源を最大限に活用する観点から、農林水産業のフィールドの積極的な利用も視野に入れ、加工・販売や各種のサービスの提供に取り組み、「新ふるさと産業システム」とも呼べる産業展開を図る。この場合、人材や技術・技能を含めて、地域が持つポテンシャルを有効に活用し、地域全体として、様々な分野を複合的な視点で振興することも重要である。このため、市町村、都道府県、国、商工会、観光協会、農業協同組合、森林組合、漁業協同組合、土地改良区、研究機関、企業、ボランティア団体等の広範な連携を促進し、農林水産業を基幹とした地域の産業振興の構想づくりを行うなど、意欲ある者が様々な分野に進出し、地域が一体となって地域資源を総合的に生かす新しいふるさと産業システムの構築とその推進に対し、ハード、ソフト両面の支援の強化を図る。

2 自由時間関連産業の開発

 地域の豊かな自然や文化等の資源を活用することによって都市との交流を促進し、都市の人々の自由時間を活用した滞在型の交流地や第二の居住場所として、観光レクリエーション産業や、グリーン・ツーリズム等の進展を踏まえた産業の展開を図るとともに、新たな定住を促進する。また、アジア諸国の経済発展等にともない我が国を訪問する外国人が格段に増加すると見込まれることから、美しい自然的・文化的景観や優れた滞在環境等を整備することにより、国内外の交流人口の飛躍的な増加を図る。さらに、伝統的な技術を用いた工芸品や地域資源の生産・加工による特産品の開発等、地域づくりと一体となった製品開発を行うことにより、新たな地域産業の展開を図る。

3 高度情報通信の活用による産業及び就業機会の創出

 高度な情報通信基盤の活用によって、情報処理サービス、ソフトウェア等の立地自由度の高い産業の展開を図るためには、優れた自然環境を生かしたリゾート型サテライトオフィスを始め多様な知的生産活動の場を提供するなど、これらの産業を地域の新たな産業や就業機会として定着を図ることが必要である。このため、交通、情報通信基盤の整備、通信コストの低減化、知的機会の充実等地域の事業・生活環境の改善を図り、情報・デザイン分野を始めとする地域産業を担う人材の育成及びUJIターンのより一層の促進を図る。


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