「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第5章 第1節 3

 


3 国内交通体系の整備

 (1) 国内交通体系整備の長期構想

 地域間の連携に基づく交流の活発化、自由時間関連交通の増大等により国内の交通需要は、2010年までは伸び率は鈍化するものの安定的に拡大するものと見込まれる。その後については、社会経済状況の変化等の不確定要因があり、また、輸送機関による差があるとみられるが、全体としては、微増あるいは横ばい状態で推移していくものと考えられる。この中で、交通の長距離化や高度情報化にともない高速性や定時性、低廉性等交通の質の高さが求められ、これらに備え、引き続き「全国1日交通圏」の形成に向け、次のとおり国内交通体系の整備を構想する。この「全国1日交通圏」の一環として、半日での地域間での往復や余裕をもった日帰り活動を可能とする「地域半日交通圏」とも呼べる広域的な地域の交通体系が形成される。「地域半日交通圏」は、都市機能等の適正な配置に併せ形成され、各地方の生活圏の中心となる都市から中核都市へおおむね1時間以内、中枢拠点都市圏や主な物流ターミナル等へおおむね2時間以内の至近のアクセスを可能とし、地域間の機会の均等化に寄与する。この構想に基づき、陸海空の交通網が機能を分担し合い形成する列島を縦貫する複数の交通軸と、横断する主要な交通軸並びに広域的な活動を支える地域交通体系等により、国土に代替性の高い多様な利用可能性と自然災害に対する粘り強さが与えられ、質の高い国土軸を形成する基礎的な国内交通体系が築かれる。

  (陸上交通網)

 国土を縦貫あるいは横断し、全国の主要都市間を連結する14,000kmの高規格幹線道路網とこれを補完し地域相互の交流促進等の役割を担う地域高規格道路が一体となった規格の高い自動車交通網、並びに大都市圏、地方中枢都市圏及び主要な地方中核都市を結ぶ高速鉄道網により、国土の骨格となる基幹的な高速陸上交通網を形成する。このうち、地域高規格道路については、既存ストックの有効活用も含めて、6,000 〜 8,000kmの整備を進めることを目指す。また、この基幹的な高速陸上交通網に直結する地域の主要な道路網及び鉄道網を通じ、各地域からこの高速陸上交通網への至近のアクセスが可能となり、「地域半日交通圏」の形成も進む。この交通網は、高度な情報通信技術等を活用したITS(高度道路交通システム)やリニアメトロ等の新しい交通システム、質の高い路面電車等の開発、導入、超電導磁気浮上式鉄道等の新しい技術の開発等により、安全性や効率性を高めるモビリティの高い道路交通と高速性や利便性を高める定時性に優れた鉄道交通を支える。

  (航空、海上交通網)

 大都市圏における拠点空港、地方の拠点空港及び離島空港並びにコミューター空港やヘリポート、3大湾及び北部九州並びに地方の拠点港湾とそれを補完する港湾をターミナルとして、遠隔の地域間等を自由度の高い経路で直結する国内航空網、及び太平洋、瀬戸内海、日本海等の沿岸部を連結し、更に海峡部、島しょ部を結びつける全国海上交通網を形成する。この交通網は、低騒音航空機材、高度な航空保安施設の導入、TSL(新形式超高速船)の導入等により、快適性や確実性を高める高速性に最も優れた航空交通、高速性や定時性を高める低廉で大量輸送に優れた海上交通を支える。


 (2) 国内交通体系整備のための計画期間中の施策

 長期構想に沿って、物流の効率化に資する施策に当面の重点を置きつつ、次の諸施策を進め、地域連携軸の展開等を支援するとともに、長期的な国土軸の形成に資する。

  (道路)

 高規格幹線道路及び地域高規格道路に重点を置きつつ、その整備を推進する。高規格幹線道路網については、21世紀初頭の概成を目指し、幹線交通のボトルネック解消の観点から大都市圏間を結ぶ道路、大都市圏の環状道路等に重点を置き、地方圏にあっては、広域的な連携の軸となる縦貫路線、横断路線に重点を置いて整備を推進する。この際、適正な料金水準の下で採算性を確保し得るよう事業方式を検討しつつ整備を推進する。地域高規格道路については、都市圏の育成や地域相互の交流促進、広域交通拠点との連携等の機能を果たし得るよう長期構想に沿って需要動向を勘案し、地方中枢・中核都市圏の環状道路、農山漁村等と都市部を連絡することにより多自然居住地域の活性化を促す道路、地域発展の核となる都市相互を連結し、地域連携の基盤となる道路、空港、港湾等の広域的交通拠点や都市拠点、地域開発拠点と高規格幹線道路網とを連結する道路等を重点的に整備する。この道路は、基幹的な交通体系と地域交通体系を直結、融合化する重要な役割を担う。このため、地域の独自のプランニングによる連携のシステムづくり等と調和した整備を進める。湾口部、海峡部等を連絡するプロジェクトについては、長期的視点からの調査の推進、計画の推進等熟度に応じた取組を進める。

 都市内の交通の円滑化を図るため、道路交通容量の拡大や駐車場の整備、道路空間の立体的活用等も含め、質の高い路面電車等公共交通機関の走行空間の確保に資する道路整備を推進するとともに、パーク・アンド・ライドの推進、ロードプライシングの検討等を含めTDM(交通需要マネジメント)施策等を総合的に推進する。広域的な交流を支援するため、比較的近距離にありながら地形的障壁により交流に制約のある地域間の交流と連携の促進に資するトンネルや橋梁等の整備を図る。また、安全で快適な歩行者空間の確保を図るとともに、増加を続ける交通事故の抑止を図るため、幹線道路等における事故多発地点での集中的な対策を実施するなど、重点的かつ総合的な交通安全施策を推進する。  最先端の情報通信技術等を活用し道路交通の安全性、輸送効率、快適性を飛躍的に向上させるため、VICS(道路交通情報通信システム)の全国展開、及び有料道路における自動料金収受システムの導入やドライバーの安全運転の支援に資する自動運転の実用化、交通管理の最適化等を目指すITSの研究開発、導入を推進する。道路の掘り返し防止や景観に配慮した道路空間の形成等を目的として共同溝、電線共同溝の整備、また、道路管理の高度化を図るために情報BOXの整備を推進する。

  (鉄軌道)

 幹線鉄道の高速化と大都市圏の都市鉄道の混雑緩和に重点を置きつつ、その整備を推進する。

 広域的な連携の軸となる幹線鉄道の高速化を一層推進する。整備新幹線については、平成10年1月の政府・与党整備新幹線検討委員会の検討結果(以下、「政府・与党検討委員会検討結果」という。)に基づき、既着工区間の整備を進めるとともに、それ以外の区間について所要の事業を進める。在来線については、新幹線との直通運転化、線形の改良、新型車両の開発等により高速化を進め、新幹線と在来線が一体となった高速鉄道網を形成する。

 大都市圏の都市鉄道については、圏内のリノベーションのための施策とも連携をとりつつ、混雑率をおおむね 150%程度に、特に混雑の激しい東京圏については、当面 180%程度に緩和することを目指し、新線建設、複々線化を進めるほか、オフピーク通勤の普及促進を図る。中心市街地の交通渋滞の緩和と魅力ある都心空間の再生のため、地方中枢・中核都市圏における軌道系の交通機関として、一般自動車交通を排除し歩行者と公共交通機関の共存を図るトランジットモールの整備と併せた質の高い路面電車や地下鉄、あるいは、モノレールや新交通システム等の導入を推進する。

 中央新幹線について調査を進めるほか、科学技術創造立国にふさわしく、超電導磁気浮上式鉄道の実用化に向けた技術開発を推進し、21世紀の革新的高速鉄道システムの早期実現を目指す。

  (空港)

 東京国際空港の沖合展開事業の早期完成を図るほか、増大する東京圏発着の国内線航空需要に対応するため、新たな拠点空港の整備について調査、検討を進める。地方圏において、地方空港の就航率の向上等既存施設の高質化を推進するとともに、離島空港、コミューター空港、ヘリポート等についても、地域連携の促進等その役割を踏まえ、適切に対応する。この際、多様な財源の確保等、効率的な空港整備方策について検討しつつ、着実に整備を進める。また、空港への道路や鉄道乗り入れ等のアクセス性の向上を進める。

  (港湾)

 海運を利用した複合一貫輸送のメリットを享受できる圏域がほぼ全国をカバーするように、各地域の物流の実態に応じて、海陸複合一貫輸送の拠点となる港湾を重点的に整備する。この港湾空間に、所要の船舶利用施設とともに海陸輸送の円滑な連携を可能とする共同配送機能、高度な情報処理や荷捌きの機能を持つ総合的な物流機能を整備する。主要な港湾において、地域連携の促進等の役割を踏まえ、人流のためのフェリーターミナル、マリーナ、観光船のターミナル等の整備を進める。離島港湾等地域の生活、産業を支える港湾を整備する。また、TSLについて実用化に向けた検討を進め、その結果を踏まえ高速の海上ネットワークを支える港湾を整備する。

  (交通施設のバリアフリー化)

 鉄道駅等交通ターミナルや道路空間を誰もが安全で快適に利用できるよう、交通施設のバリアフリー化を進める。このため、系統的で分かりやすい案内標識や情報案内システムの整備等ソフト面での施策を進めつつ、エレベーターの使いやすい配置等のスムーズな動線の確保、平坦性の高い歩行空間の確保、高齢者にも配慮した信号機の設置等交通施設をやさしくゆとりある構造に整備する。

  (交通施設のリノベーション)

 既存ストックを効果的に改善し、施設の能力と質を高める交通施設のリノベーションを重点的に推進する。このため、幹線道路の系統的な立体交差化等による高規格化と、これにともない利用実態の変化した既存の道路空間での歩道整備等道路空間の再構築、道路と鉄道の立体交差化や線形改良による交通の円滑化、高速化及び安全確保、貨物鉄道の貨客併用による旅客線化等を推進する。また、鉄道駅等の旅客施設について、交通施設の機能のみならず、多数の人が集まるという空間の特性を十分発揮する機能を備えた、利便性の高い高質な空間形成を図る。さらに、港湾や空港において、利用船舶や航空機の大型化等により相対的に能力の低下した施設について、高機能化への改良や関連する施設への用途転用等を進める。

  (交通機関相互の連携)

 各交通機関が総合的に組み合わされ、機能を高めるよう、交通機関相互の連携を推進する。このため、空港、港湾等ターミナルへの高速鉄道、高規格幹線道路等の直結、鉄道駅等でのパーク・アンド・ライドの推進等を進めるとともに、乗換えを容易にするターミナル施設や駅前広場等の整備、乗換えに関する情報提供システムの整備を図る。また、利用者の利便性向上の観点から隣接する空港や港湾の就航航路やダイヤの調整により、複数施設の利用可能性を広げる取組を行う。さらに、災害時における交通の確保、環境負荷の低減等の観点からも各交通機関が連携した交通体系の形成を目指す。


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