「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第5章 第1節 4



4 安全で自然と調和した交通体系形成のための施策

 (1) 安全な国土づくりに資する交通体系の形成

 阪神・淡路大震災の教訓から、地域によりその種別、頻度に差があるとしても、災害はどこにでも起こり得るという前提に立ち、減災対策に重点を置いて、直接被害及びその波及の極小化、回復性の向上、復旧、復興への円滑な機能発揮等を目指した安全な国土づくりに資する交通体系を形成する。

 交通基盤施設等の整備については、既に進めている既存施設強じん化の取組の早期完成を図るとともに、今後、新たに整備する施設については被災しても一定レベルの機能が確保できるよう強じん化するとともに、系としての代替性が確保できるよう、粘りあるしなやかな性質の確保を図る。このため、地質構造及び活断層等から発生する地震動に配慮しつつ、施設の重要度に応じた強じん化を進めるとともに、個々の施設について、壊れにくく、直しやすい性質を備えるよう整備する。この際、幹線交通の集中している大都市や海峡部など途絶によって交通体系の全体に重大な影響を及ぼすと見込まれる地点(リスクポイント)の総点検等を通じ、交通体系全体としての安全性確保の観点から、必要なネットワークの多重化、多元化を図るとともに、国際コンテナターミナル等について格段の耐震強化など施設の強じん化を図る。

 さらに、地震被災時の円滑な救命、救急、復旧活動を支えるための緊急輸送ネットワークを全国各地域に構築する。この際、防災拠点の整備とも連携をとりつつ、港湾、漁港における耐震強化岸壁の整備、空港と港湾の一体的整備等を進め、これら拠点間等を連絡する災害時でも十分な幅員が確保できる幹線道路等の整備、河川舟運路の整備等により陸海空が直結するネットワークの構築を目指す。また、迅速かつ的確な災害情報の収集伝達に資するよう、高度な情報通信施設を活用した、交通施設の管理の高度化を進める。地震対策に加え、風水害、津波、岩盤崩落等に対する安全対策として、危険箇所の点検及び所要の施設整備等を進める。また、豪雪地帯等における安全な冬期交通を確保するため、除雪体制の一層の充実、消雪施設の整備、情報の収集、提供の強化等を推進する。


 (2) 環境への負荷の少ない交通体系等の形成

  (二酸化炭素の排出の削減等に向けた施策の推進)

 各交通部門の、省エネ、低公害化と、適正な競争と利用者の自由な選択を通じた、エネルギー効率に優れ、環境への負荷の少ない交通機関の利用の拡大を基本とし、それぞれの交通機関の連携の強化を図り、大気、騒音、振動等環境全般への負荷の少ない、各交通機関の特性が生かされた交通体系を形成する。特に地球的課題となり、国際協調の下で取り組んでいる二酸化炭素の排出の削減のため、次の諸施策に強力に取り組む。

 交通部門におけるエネルギー消費の大宗を占める自動車交通について、エネルギー消費効率を向上させるための諸施策を推進する。このため、低燃費車、電気自動車等の低公害車の開発及びこれらの利用を誘導する施策の推進等により、その普及を促進する。また、道路整備を通じたエネルギー消費効率の向上を進める観点から、交通渋滞によるエネルギー効率の低下とこれに基づく環境負荷の増大を緩和するため、大都市圏、地方中枢・中核都市圏において、交通流円滑化のための環状道路の整備や連続立体交差化及び交通管制センターの高度化の推進等を図る。地方圏においても混雑区間におけるバイパスの整備や渋滞ポイントの解消等を図る。また、交通量の時間的平準化を目的としたフレックスタイムの導入等を含めたTDM、渋滞状況等の道路交通情報の提供を含めたITSの導入、普及、環境に優しい運転方法の普及等ソフトな施策を進める。

 物流については、環境への負荷の低減のみならず経済構造改革を進める上でも、その効率化が重要な課題となっており重点的整備を行う。トラック輸送の輸送効率を向上させるため、共同集配システムの構築、車両の大型化に対応した道路ネットワークの整備や荷捌き施設となる貨物自動車対応の一時停車施設等の整備、高規格幹線道路等のインターチェンジ周辺における、道路と広域物流拠点との一体的整備を推進する。また、大量輸送機関の利用拡大を図るため、内航フェリー、内航コンテナ船等の整備やこれに対応した港湾整備、コンテナ列車の長大編成化等に資する鉄道整備等、複合一貫輸送に対応した施策を総合的に進める。高規格幹線道路、地域高規格道路の計画的整備を進めるとともに、港湾、鉄道駅等ターミナルと高規格幹線道路網等との連結などアクセス強化を図り、また、河川舟運路を計画的に整備し、複数の輸送機関が連携した効率的な物流ネットワークを構築する。

 人の移動にあっても、複数の交通機関の連携による環境への負荷の少ない体系を築くため、高速鉄道網、都市高速鉄道、バス路線等の整備拡充、鉄道駅、高速バスターミナル等でのパーク・アンド・ライドを可能とする駐車場整備、TDM施策の推進等により、鉄道やバスなど大量交通機関の利用拡大と利用の促進を図る。また、エネルギー効率に優れた質の高い路面電車、地下鉄、あるいはモノレールや新交通システム等の導入により、都市内交通での公共交通機関の利用の利便性を向上させる。人口の疎らな地方圏等での移動手段確保のため、運営の合理化等による既存の乗合バスやその他の交通手段の活用等の施策を推進する。このほか、徒歩や自転車の利用を促進するための質の高いネットワーク化された歩道、自転車道及び自転車駐車場の整備、事前に開発行為が交通へ与える影響を評価する交通アセスメント制度等新たな取組を強化する。

  (生活、環境、文化等に配慮した施策の推進)

 道路沿道等における交通騒音等を防止するため、道路構造対策等の実施に加え、交通流対策、土地利用の適正化や緩衝緑地等の対策を含めた総合的対策を進める。また、道路空間、港湾空間の緑化、橋梁、空港ターミナル、鉄道駅等構造物のデザインの向上を図り、切土など自然の改変量の最小化、盛土部における動物用の小トンネルの設置等、生態系との調和に配慮した道路整備、海域浄化機能、海水交換促進等を促す港湾整備等の自然と調和した環境を創造する諸施策を進める。

 ゆとりを持った観光や、豊かな自然へのアクセス等を容易にする低廉で使いやすい交通体系の形成、歴史上重要な道路、鉄道駅等の保存、復元、活用や、海洋文化、歴史等を生かした地域間の連携と交流を促進する海の道ネットワーク構想、地域における情報や文化の発信に資する道の駅、鉄道駅や港湾空間の整備等、交通を通じた、ゆとりややすらぎの保持、地域の歴史、文化の再認識や、その継承に資する諸施策を推進する。


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