「21世紀の国土のグランドデザイン」 第3部 6

 

6 近畿地域


−文化の香り高い、創造性に満ちた、世界に誇り得る中枢圏域−



 (1) 地域整備の基本方向

 我が国の政治、経済、文化及び国際交流の中心的役割を長く担い、高次都市機能の高い集積を有する関西圏と、日本海、太平洋、湖水、森林等豊かで多様性のある自然を有するその周辺地域からなる近畿地域は、東京一極集中構造の進展の中で経済面等相対的に地位を低下させてきたものの、依然我が国の経済、社会活動の枢要な位置を占めている。

 このような近畿地域は、21世紀文明を支える国土を築くに当たり大きな役割が期待される地域であり、「文化の香り高い、創造性に満ちた、世界に誇り得る中枢圏域」として、その発展を目指す。このため、本地域全域において、我が国最大の歴史や文化の蓄積、豊かな自然等を生かし、地域連携軸の展開を図りながら、安全でゆとりとくつろぎのある暮らしを実現する質の高い地域環境の整備を進めるとともに、広域国際交流圏の形成を通じて、世界に開かれた環境の整備を図る。

 関西圏にあっては、本地域の発展の核としての機能のみならず、国土の広範にわたる広域的連携の中心として、また地球時代における日本の顔となる我が国の文化、学術、研究開発を代表する圏域として、さらには世界、特に急速に発展するアジア・太平洋地域と我が国との間の交流のセンターとしての機能の強化が求められ、これを実現するため、阪神・淡路大震災からの復興を念頭に置きつつ、圏域のリノベーション等諸施策を進める。播磨、琵琶湖等の地域にあっては、関西圏との適切な機能分担と連携を図り、経済、文化、学術、研究開発、観光等の様々な面で緊密なネットワークを形成しながら、地域の自立的発展を促進することにより、西日本国土軸の形成に資する。北近畿地域及び紀伊半島地域は、それぞれ長期的に日本海国土軸及び太平洋新国土軸の形成の一翼を担う地域として期待され、多自然居住地域の創造に向けた取組を進めるとともに、関西圏等との連携の推進や、北陸・山陰、伊勢湾地域・四国等隣接する圏域との交流・連携の強化に向けた新たな取組を行う。


 (2) 施策の展開方向

 関西圏においては、大阪湾臨海地域を中心として、世界の中枢都市にふさわしい中枢管理、国際交流等の高次都市機能の集積や環境と調和する良好な居住環境の整備を図るとともに、老朽木造密集市街地の解消、市街地に隣接した樹林帯の保全・整備等による都市の安全性の向上、大規模工場跡地等の低未利用地を活用した既成市街地の土地利用転換や基盤整備、沿岸域の環境の保全、回復、水と緑あふれる河川空間の創造等を進めることにより大都市のリノベーションを推進し、職住遊の近接した高質で美しい都市活動空間を形成する。あわせて、第二名神高速道路、第二京阪道路等の幹線道路の整備や大阪湾岸道路等の整備による阪神高速道路の機能強化等を進めるとともに、都市鉄道の整備、神戸空港の新設等を通じて、通勤混雑や交通渋滞の緩和、圏域内外のネットワークの強化等を図る。さらに、大規模地震・洪水等による自然災害に対する都市の防災対策を推進するとともに、海岸の保全、廃棄物の広域処理場の整備を進める。また、関西文化学術研究都市を中心に、北大阪、播磨等における文化や情報通信、環境、健康等の学術、研究開発の拠点の整備を推進するとともに、それらのネットワークを築き、世界的水準の文化、学術、研究開発機能の連携集積拠点を形成する。さらに、その集積を活用しながら、情報通信、デザイン関連等の先端産業の創造と強化、観光、コンベンション等の集客産業の育成、織物、陶磁器等の伝統的工芸産業の活性化等を推進することにより、新産業の創造や産業構造の転換を促進する。

 多自然居住地域の創造に向けて、生活圏域の拠点となる都市において、業務管理、情報、教育・文化等の都市機能の集積を進め、産業、技術の集積を生かした魅力的な就業機会を確保するとともに、地域特性を生かした安全でゆとりとうるおいのある総合的な居住環境の整備を図る。また、多様で豊かな自然環境の保全、回復を図り、これらの優れた資源等を生かした誇りの持てる農山漁村の整備を推進するとともに、農山漁村と都市との交流の促進を図る。さらに、域内の交通基盤や生産・加工・流通基盤の整備、高質化を進め、バイオテクノロジー等新技術を活用した高品質多品目化、古来からの豊かな森林資源の活用等による農林水産業の振興、歴史的、文化的資源や伝統技術等の地域資源を活用した高付加価値型の産業の育成等、地域産業の活性化を促進する。北近畿地域においては、豊かな自然、文化等の蓄積を生かした丹後地域におけるリゾートの整備や丹波地域における森づくりを基本に据えた地域づくり等の推進を図る。紀伊半島地域においては、隣接する太平洋沿岸地域と連携しつつ広域的な森林リゾートや海洋性リゾートの整備、水産資源の増養殖等、地域資源の多面的な利用による地域の活性化を促進する。淡路島においては、自然環境と調和した快適な生活空間と多彩な交流空間を併せ持つ世界に開かれた公園島の創造を図る。

 文化、学術、研究開発等の豊富な集積を生かしながら、世界、特に地理的、歴史的に関係が深いアジア・太平洋地域との交流を一層発展させるよう、広域国際交流圏を形成する。このため、関西圏を中心に、関西国際空港の2期事業、大阪湾諸港における耐震性の高い国際海上コンテナターミナル群やこれらへのアクセスのための交通基盤の整備、京都迎賓館を始めとする国際会議、国際ビジネス等の交流拠点の整備、国際的な文化、スポーツ、観光機能の充実等を推進するとともに、周辺地域での様々な取組と連携を強化する。また、北近畿地域において、隣接する日本海沿岸地域と連携して、対岸諸地域と文化、学術、経済、環境等の多様な分野での交流を展開し、環日本海交流の一翼を担う。

 都市機能の広域的な活用、質の高い生活文化圏の形成等を図り、魅力と活力ある地域社会を築くため、異なる歴史や文化を有する地域相互の人・物・情報の交流・連携を進める地域連携軸を展開する。日本海沿岸地域から太平洋沿岸地域までの京都、兵庫、徳島、高知の地域を広域的に結ぶ地域連携軸、福井、滋賀、三重を結ぶ地域連携軸、伊勢志摩、吉野熊野、瀬戸内を結ぶ地域連携軸、京都、滋賀、奈良、三重における広域的な交流圏域等の形成を図る。さらに、地域連携の強化による文化資源の掘り起こしや新しい文化の創造を図るため、歴史街道計画として進められている、世界遺産を含む数多くの歴史的・文化的資源を活用した地域づくりの推進を図る。このため、これらを支援するとともに、広域的な交流を支える観点から、京都縦貫、京奈和、北近畿豊岡自動車道、近畿自動車道紀勢線等の高規格幹線道路、鳥取豊岡宮津自動車道等の地域高規格道路、空港、港湾、鉄道、高度な情報通信基盤等の整備を進める。北陸新幹線については、政府・与党検討委員会検討結果に基づき、所要の事業を進める。紀伊半島の東岸から西岸に至る東海、南海を結ぶ地域での連携推進を図るための交通体系の強化について検討する。また、長期的視点から、四国との広域的な連携を図るための交通体系について検討する。紀淡連絡道路の構想については、長大橋等に係る技術開発、地域の交流、連携に向けた取組等を踏まえ調査を進めることとし、その進展に応じ、周辺環境への影響、費用対効果、費用負担のあり方等を検討することにより、構想を進める。

 琵琶湖・淀川流域等においては、流域における一体的な連携を図りながら、水質の保全、水源のかん養、自然環境の保全等の諸施策を総合的に推進するとともに、渇水対策、洪水・土砂災害対策等を進める。

 阪神・淡路大震災の被災地域においては、生活の再建、経済の復興及び安全な地域づくりの基本的な課題を早急に解決していくとともに、新産業構造形成プロジェクト等、阪神・淡路復興委員会の提言による復興特定事業について、提言を踏まえ適切に対処していく。


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