基調講演


基調講演

安川 彰吉 氏  トヨタ自動車株式会社 取締役

講演テーマ : 「トヨタの国際戦略:グローバルロジスティクスの構築」
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グローバル化の進展
 トヨタは現在、世界で500万台、グループ企業を含めると約600万台の車を販売しています。その内訳は国内販売、輸出、海外生産がそれぞれ1/3となっており、2/3は海外のお客さんです。生産拠点は日本を含めて25カ国で、販売先は160カ国・地域に上っております。
 海外での生産は75年頃より始めましたが大規模生産は貿易摩擦に対応して85年、まず北米でスタート、いまでは7割は現地生産でまかなっております。欧州は5年のタイムラグがあって90年に英国に工場をつくりました。2004年には、フランス工場のフル稼働を含めて、半分ぐらいをヨーロッパ地域でまかなおうと考えております。
 豪州でも着実に生産を伸ばして販売量の7割近くは現地でつくって売っています。南アフリカはトヨタ車のブランドと部品を売るという形で、昔から海外生産をしておりました。
 南米方面でも小規模ながら工場を持っております。近々南米工場を強化して現地生産の比率を高めようと考えております。
 かつての現地生産は組み立て工場のみがあり、多くの部品を日本から持っていっていました。いってみれば日本中心のグローバリズムでありました。
 数年前から部品もできるだけ現地で生産調達する本来のグローバリズムに変えようとしております。たとえばタイのお客さんに車を売る場合、タイにとっての最適な生産調達を考えて、その中で必要ならば日本部品を送り込むということです。

「変化の時代」に対応
 さて、21世紀は「変化の時代」「明日が読めない時代」だと思っております。かつてカローラを例にとると、発売してから4年間は安定して売れておりました。しかしいまは売れていた新車があっという間に売れなくなってしまう。車の色をはじめお客さんの好みがコロコロと変わって、その要因をつかむことができません。ですから、サプライチェーン部門は頭を痛めております。
車両工場に全ての種類の部品を在庫として用意すればいつでも対応できますが、そんなことをしたら会社はつぶれてしまいます。従ってサプライチェーンのリードタイムをできるだけ短くする必要があるのです。それに新車誕生までに数年の準備期間がかかります。こういう車をつくろうとまず開発部門が動き、次いで生産準備の段階に入り、ここでも開発のリードタイム短縮と短いサプライチェーンを造ることが課題となります。いかに情報技術(IT)が発達しても、本だって注文は電子的にできても、本自体は実際に運ばなければなりません。従ってフィジカルなサプライチェーンはスリムで短いことが、必須条件です。

小ロット、多頻度、満載
 このようなグローバルな時代に世界中の市場にフレキシブルに対応するための物流方式は、簡単に言えばリードタイムの短縮、在庫の低減を可能にするものでなければなりません。その為には「小ロット、多頻度かつ満載」の物流をいかに実現化するということです。調達物流を例にとるとリアルタイム・シミュレーションをしながら、最適なトラックの運行とトラックの便数を決め、トラックの荷台が満杯になるような形で運んでおります。小刻みながら回ってでも必ず満杯にするというのがトヨタの物流方式でございます。
 地球温暖化で問題になっているCO2の排出も、物流効率を上げることによってトラックの量や使うガソリンも減少させることができます。梱包資材なども簡易型にすることで物流のコストダウンにつなげ、CO2の減少効果も期待できます。

貿易立国支える港湾
 日本は貿易立国ですから食料や資源を買うために優れたハードウエアをつくって、世界へ売っていかなくてはいけません。港湾のインフラもコスト競争に勝たなくてはいけません。すくなくとも物流の障害になってはいけないでしょう。船であればより大きい方が合理的ですし世界は24時間動いておりますから、夜間でも港で荷物が止まらないのが望ましい。また天候に左右されないタフな港であることも大切です。
GM、フォードに代表される米国のグローバリズムというのは提携企業で生産させて資本で対応しているグローバリズムで、海外に自前の工場を持つことはあまりしていません。欧州のメーカーも海外拠点はあまり多くありません。グローバルな生産体制は日本企業の宿命かもしれません。
 このトヨタ型グローバリズムは、場合によっては、石油、食糧を日本の皆さんが買うための最後の砦となり、まさに、広い意味のロジスティクスの確立が日本の大きなキーワードであります。そういうことを心において、国際競争力のある港をつくっていただき、貿易立国を支えていただきたい。自給自足できない日本文明にとって、出入りのゲートとして大きな役割が港に期待されていると思います。