特別寄稿


尾崎 睦 氏  社団法人日本港運協会 会長

同志社大学商学部卒業後、上組合資会社(現・株式会社上組)へ入社。常務取締役福岡支社長を経て、昭和62年に株式会社上組代表取締役社長に就任。以降、(株)神戸港国際流通センター代表取締役社長などを多数兼務し、(社)日本港運協会会長、世界の港湾関係者で組織する国際港運連盟の会長ほか元港湾審議会委員、現在は交通政策審議会委員、労働政策審議会委員などの要職を務める。


「港湾物流改革の現状と今後」

 現在、日本の港湾が国際的地位を大きく低下させています。シンガポールや香港の急激な成長に引き換え、我が国港湾は取扱量を伸ばしてはいるものの、アジア全体の伸びの中で取り残されている感があります。アジアと欧米をつなぐ幹線航路にしても、日本に寄港してくる航路数は年々低下しており、欧州航路では既に半数が日本に来なくなっているという現状を踏まえ、横浜、神戸などの世界的な港の地盤沈下を深く憂慮しております。  しかしながら、このような地盤沈下の原因についていくつかの誤解が生じているように思われます。
 まず、日曜や夜間の荷役が行われていないことが、日本の港が地位を落としてきた原因であるとの主張が繰り返されてきております。しかし、もう随分前から必要に応じ日曜・夜間荷役も行っております。今年の春闘においても、労使で議論を尽くし、日本の物流を支える大きな目標に向けて、日曜荷役の恒久的実施や祭日も含めた夜間荷役の実施、昼休み時間のゲートオープンの実現など歴史的な合意を致しました。
 また、日本において、シンガポール港の港湾作業の能率は大変高いといった間違った認識をしている方がいるようです。しかし、あまり知られていないことですが、日本の荷役スピードは大変に高いものです。クレーン1基1時間あたりのコンテナ荷役能力は、シンガポールの場合25〜30個ぐらいですが、日本では45〜50個と非常に能率的になっています。
 むしろ、シンガポールに比べて遅れているのは、輸出入、港湾諸手続きの簡素化、情報化など行政サイドの改革です。シンガポールや韓国においては、港湾をめぐる様々な行政手続きが統合されたシングルウィンドウ化が実現され、24時間いつでも対応できる体制が整っております。民間サイドの努力に併せて縦割り行政を是正し、シングルウィンドウ化や行政手続きのフルオープン化を早急に進めていただく必要があります。
日本の港湾の国際競争力を高めるためには、確固とした戦略の下にソフトとハードの両面をうまく組合せて対応せねばなりません。
 現在、中国、韓国、シンガポール、マレーシア、タイ等では、コンテナターミナルを増強する計画があるようです。中国、韓国からのトランシップを前提として、シンガポールのような国際ハブ港湾化を図るといった主張も聞かれますが、それは現実的ではありません。
 日本の国際ハブ港湾が目指すべきは、国内貨物と合わせてトランシップ貨物を獲得していくといった戦略なのです。このためには、日本の中枢港湾に対し集中重点投資を行い、一方で地方港を拡充強化して日本のハブ港と結び、トータルコストの低減を図りながら、国際戦略と地方の活性化が発展的に両立できるような経済構造を整えることこそ肝要ではないでしょうか。
 世界と日本を結ぶ物流という名の血液が途切れることなく日本の発展を支えていけるよう、これからも港湾関係者が一丸となって努力し、日本の港湾の国際競争力が益々向上していくことを願って止みません。