古来より人々は、海辺とつながりのある生活を送ることで、海辺より精神の豊かさ、生活の豊かさを享受し、地域の固有の文化を創造してきました。海辺は、元来、神事等の舞台となる神聖な場であることが多く、文化の創造につながる心の豊かさを増幅させる空間を担ってきました。これは、海辺が、時には自然の脅威を目の当たりにし、畏怖を感じる場であると同時に、自然の恵みを受け、人間性を回復させる場として人々の生活と密接な関係にあったことによるのではないでしょうか。
しかし、昭和30年代から進められた、海の脅威を取り除くことを優先した整備のために、その恵みをも除かれてしまい、海辺は人々から意識され難い空間となってしまいました。その後、海の恵みである親水、利用、環境、景観といった要素を考慮した海辺づくりが進められてきましたが、不足した機能を施設整備によって付加する方法では、従来のように人々の生活に海辺が密接な関わりをもつまでには至っていません。
心の豊かさを求める現代であるからこそ、荒々しさと優しさ、脅威と恵みを合わせ持つ海辺の価値を再認識し、海辺と人々の本当のつながりを回復することが必要です。
多くの人々が、海辺を訪れ、憩い、癒され、学び、調べ、教え、楽しむことによって、地域の人々がその地域の海辺に愛着を持つことができ、その海辺をかけがえのない地域の共有空間(コモンズ(注))として意識することができるのではないでしょうか。
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