水資源

令和2年度第1回水源地域支援ネットワーク会議

日 時 令和2年11月11日(水)~12日(木)
場 所 埼玉県秩父市
主 催 国土交通省
後 援 秩父市、小鹿野町、長瀞町、皆野町、横瀬町
参加者 NPO法人さくらおろち、東峰村ツーリズム協会、湖西夢ふるさとワイワイ倶楽部、(公財)宮ヶ瀬ダム周辺振興財団、奈良県川上村、愛知県設楽町、群馬県、鹿児島県ほか

1.概要

 水源地域支援ネットワーク会議は、全国の水源地域で地域活性化に取り組む個人や団体等が地域と分野を越えて様々な知見や情報を共有し、地域課題の解決や新たな取組みにつなげていくこと、また、お互いに切磋琢磨できる関係を構築する場づくりを目的としています。平成23年度より毎年2回(地方開催1回、東京開催1回)程度開催し、今回で16回目になります。
 令和2年度は、新型コロナウィルスの国内感染状況等を踏まえ、感染対策を徹底した上で、第1回水源地域支援ネットワーク会議を埼玉県秩父市において開催しました。
 会議初日は、東京おもちゃ美術館副館長の馬場氏による講演と、地元関係者活動発表として、秩父市の森づくり及び移住交流の取組、荒川ビジョン推進協議会の取組、ジオパーク秩父の取組についての発表を行い、秩父地域の上下流連携について有益な情報共有の場となりました。
 会議2日目には、浦山ダムや秩父市と姉妹都市である東京都豊島区との協定による森林整備「としまの森」の見学を行いました。各事業内容等の説明を交えながら実際に現地を見学することで、参加者より質問がなされ、活発な意見交換が行われました。

2.会議の内容

(1)講演

 テーマ:『”ウッドスタート”で地域を元気にする~木育でつなぐ都市と水源地~』
 講師:馬場 清 氏(東京おもちゃ美術館副館長)


 木育は北海道で生まれた言葉ですが、目的は一つです。北海道の木材をもっと使ってもらいたい、そのためにはどうしたらいいか、そこに木育が必要なのです。
 そこで北海道庁水産林務部が木育プロジェクトを立ち上げました。木育という言葉が公的に使われた最初と言われています。
 木育とは何かとよく聞かれますが、読んで字のごとく、木で育くむ活動であると私は答えており、3つの部分からなります。1つ目、木であれば何でもいいのですが、ただ、できれば国産材、地域材が望ましいと思います。秩父であれば秩父産材。やはり木の生えている場所に近いほうが活動しやすく、育む目的も達成しやすいと思います。2つ目、いろいろなものを育みます。3つ目、どのような活動でも構わないですが、木のおもちゃで遊ぶことや、木の空間で遊ぶ、過ごすこと、森へ行って林業体験をしたり、木工でものづくりをしたりするのもいいです。
 我々は、よくあるパネルに説明文だけではなく、おもちゃ、遊び、デザイン、ドラマを通じて人が伝える美術館を目指しています。それも教え込むのではなく、自然に伝えられるような仕掛け、仕組みがあれば、自分の使う水が上流の森から来ていて、その森を整備することが必要だと気付き、漫然と水を使っていた都市住民も森や山に興味を持つことで、都市住民にできる事は木を使い、その恩恵を森に返すことになります。そういうことを伝えられるおもちゃ美術館が、東峰村に、福岡市に、秩父市に造れたらいいと思っています。私たちの木育は、必ずしも水源ばかりを意識して活動しているわけではありませんが、私たちの取り組みが皆さんの活動の参考になればと思います。

(2)活動発表

 [1]テーマ:『秩父市の取組(森づくり・移住交流)』 
  【森づくり】
    発表者:富田 貴夫 氏(秩父市環境部森づくり課課長)


 秩父は池袋から特急で約80分、都心に近い観光地として有名です。昨今は新型コロナウイルスの影響で観光客が減少していますが、年間約600万人の観光客が訪れます。秩父市の人口は約6万1000人、面積は埼玉県の約6分の1を占める大きな自治体で、その大部分が森林です。山林の多い秩父では山林担当専門の部署である森づくり課があります。六つの基本事業を推進するセクションです。今回はその中で森林環境譲与税事業と、木材活用推進事業をご紹介します。
 森林環境譲与税は昨年度から各自治体に交付されています。秩父地域1市4町は秩父地域森林林業活性化協議会の中に集約化分科会を設置し、森林環境譲与税事業に取り組んでいます。計画では9カ年かけて秩父地域全域の意向調査を実施し、森林を集約して団地化していきながら、森林整備を進めるというシステムです。その他の森林環境譲与税事業としては、「としまの森」事業があります。昨年7月に豊島区と秩父市は森林整備に関する協定を締結し、豊島区の森林環境譲与税を秩父市に負担金としていただき、秩父市が森林整備を実施しております。「としまの森」1.89ヘクタールを5年間で整備し、森づくりで森林が吸収するCO2を、埼玉県の森林CO2吸収量認証制度により、豊島区内で発生するCO2と相殺することになります。秩父市は豊島区の負担金によって森林が整備され、整備された  
 「としまの森」では交流事業、イベント開催等、豊島区民が森林教育や森林体験ツアーを実施しており、下流域の森林環境譲与税を活用した事業になっています。
 木材活用推進事業としては、秩父市はウッドスタート事業の一環として、木製の誕生祝い品をプレゼントしています。木のおもちゃに触れて、森林や自然を大切にする心を育んでもらう試みです。おもちゃの制作は地元の木工業者にお願いし、地域経済の発展にもつなげていければと思っています。秩父市内の木工事業者が提供する製品で、秩父市では生涯木育と題し、ウッドスタート、ウッドライフ、ウッドエンドとまさに揺りかごから墓場まで、一生涯を通じて木に囲まれた生活をお勧めしています。

  【移住促進】
    発表者:深町 博士 氏(地域政策課移住相談センター主幹)

 
 荒川は秩父市にその源流を発し、上流部が市の中央を縦断しており、都内や県南等、荒川水系の中・下流域から多くの観光客がお越しになることはもちろん、秩父市へ移住された方も多数います。秩父版CCRCは、荒川水系に属し、また姉妹都市でもある豊島区とも連携して行っています。
 CCRCとは、高齢者が元気なうちに地方に移住して社会活動に参加し、介護や医療が必要になった場合でも、ケアを受けて暮らし続けることができる生活共同体のことです。
 当市では本年3月に、人口減少と地域経済縮小の克服、地方創生を目的とした第2期秩父市総合戦略において、豊富な地域資源を活用して、新しい人の流れをつくることを基本目標の一つとして掲げ、人口の超過転出の改善を図るものとしました。秩父版CCRCには三つの大きな特色があります。まず1点目は総合的な移住政策、2点目は総合事業とモデル事業からなる2つのプロジェクトの推進、3点目は都市部との連携です。
 総合的な移住政策は移住者を呼び込むだけでなく、現在お住まいの方もメリットを享受できるよう、消費拡大、雇用創出、税収増加等の効果を生み出します。
 2つのプロジェクトのうち総合事業では、幅広い地域から幅広い年代の移住者を募集し、2地域居住を含めた交流人口の増加を推進しています。モデル事業ではアクティブシニアを対象に、居住区生涯学習、世帯参加等の基本機能をエリアで提供する拠点施設の整備、運営を行っています。
 都市部との連携では、姉妹都市である豊島区との連携に重点を置いています。
 都心まで最短77分、特急で1500円という交通の優位性、豊かな自然に囲まれながらも、普段暮らしの利便性も備えている点を強力にアピールしながら、今後も秩父版CCRCの総合事業とモデル事業を一体的に推進していく予定です。

※CCRC :Continuing Care Retirement Community

 [2]テーマ:『荒川ビジョン推進協議会の取組』
    発表者:吉田 進氏(荒川ビジョン推進協議会事務局長)

 
 荒川流域は1000万人が住んでいます。日本の流域人口では最大です。氾濫が起きたときには約760万人が被害を受けると想定されています。地政学的に秩父と東京の関係は、今後100年、200年たっても変わらない重要なポジションに位置しています。
 埼玉県の約6分の1を秩父市が占めるという話でしたが、私たち荒川ビジョン推進協議会は秩父市、皆野町、長瀞町、横瀬町、小鹿野町の1市4町からなる協議会です。活動は国土交通省の進める水源地域ビジョンに基づいています。平成11年に滝沢ダムと二瀬ダムで協議会がスタートし、次に浦山ダム、合角ダムが参加しました。普通、このような事務局は行政関係の人が多いのですが、私たち事務局は6年前からNPO法人森が運営しています。
 私たち協議会の目指すものは、地域の活性化と連携、交流促進です。旧荒川村以来、秩父は荒川区と30年以上のお付き合いがあります。協議会も4年間かけて荒川区と交流を続けています。
 去年の台風19号で埼玉県吉見町の荒川支流が氾濫して、約2000万トンの水がたまり、県も近年にない損害を被りました。上流、中流、東京で相談して流域治水を考えなければなりません。
 流域の皆さま、秩父と交流してください。そうすれば、洪水のリスクを必ず大幅に削減できると確信しています。秩父には4つのダムの他、水力発電も大正13年から約10カ所できています。
 荒川流域を守るには安定した水のコントロールが必要です。内閣府の資料を基に作ったSDGs構想図には、地球温暖化の防止、流域治水の推進、農業の成長産業化、水を使った新たな産業が生む雇用、気候変動対策の推進、上下流の交流などを、さまざまに描いてあります。これらを実現したいと努力していますが大変です。しかし一歩一歩前に進んでいると思います。なぜ前に進めるかといえば、皆さんとの交流で、自分たちの地域は自分たちで考えなければならないと感化されたからです。

 [3]テーマ:『荒川の源流・秩父の暮らし』
    発表者:吉田 健一氏(秩父まるごとジオパーク推進協議会上席推進員)

 
 ジオパークはユネスコのプログラムです。歴史学、石、大地を研究する地質学等、これらの研究は分かれて行われています。私たちはその両方のつながりを探ります。秩父は多様な地形、地質を持ち、地面の下は場所によってさまざまです。硬さも違いますし、高い山、深い谷もあれば、平らな所もあります。平野はほとんど同じ暮らしですが、秩父はその多様な地質から来る地形がいろいろな暮らしをつくります。
 秩父盆地を取り巻く山は2億年前の地層ですから、石が固く、切り立った崖や谷になります。そこにカエデが残っています。カエデからメープルを採る事業が始まりました。うまくいけば日本のカナダと呼ばれる日も近いと思っています。メープルそのものを売るほどは採れませんが、メープルを混ぜたサイダー、お菓子を商品化できました。
 秩父は荒川の水による段丘でできています。皆さんのいる本会議場は段丘の一番上です。昔は水がなかったため、人は住まず、畑に使っていました。この下の段丘は水が湧き出るため、昔の町並みがあることを江戸時代の地図で確認できます。
秩父盆地の水に関係する典型的な現象が雲海です。雲の下と上で気温が違うため、雲海が発生します。非常に人気があり、新聞に載るほど大勢のお客さんが訪れます。インターネットで明日は出そうだと広まれば、山の上に大勢の人が集まります。
 公式のガイドブックを作りました。見本ができたところでまだ販売していませんが、今お話ししたようなことが網羅されています。ガイドブックを読んで秩父を歩けば、また違った秩父が発見できるでしょう。それでいいなと思えたら、ぜひ移り住んでください。

(3)現地視察

 
【浦山ダム】
説明者:髙橋 健一氏((独)水資源機構荒川ダム総合管理所所長)
 
 浦山ダムは、重力式コンクリートダムとしては全国で2番目の高さ(156m)があります。堤体の上は、広い遊歩道が整備されており、テレビ撮影に数多く使われたり、アニメの聖地としても有名です。ダムに併設されている浦山ダム防災資料館「うららぴあ」の2階には、ジオパーク秩父特設ギャラリーがあり、ダムの仕組みや役割を学べます。



【としまの森】
 姉妹都市である東京都豊島区と2019年7月に「森林整備の実施に関する協定」を結び、長尾根丘陵にある私有林1.89ヘクタールを「としまの森」として、整備し、豊島区民の環境学習や相互交流のフィールドとして活用しています。これで得られる二酸化炭素吸収量について、埼玉県の「森林CO2吸収量認定制度」を活用し、豊島区内で発生する二酸化炭素排出量と相殺することができ、地球温暖化対策を推進することができます。


 
 

お問い合わせ先

国土交通省水管理・国土保全局水資源部水資源政策課手金、田中
電話 :(03)5253-8111
直通 :03-5253-8392
ファックス :03-5253-1581

ページの先頭に戻る