砂防

21世紀の土砂災害対策を考える懇談会

参考資料1

第1回から第3回までの懇談会議事内容の整理
※[ ]内の数値は開催した時点の懇談会の回数

1.公共事業を取り巻く今後の課題
予算の効率的・効果的な投資
近年の集中豪雨が頻繁に発生する状況から、大規模な山崩れ、河川の氾濫等による災害が発生しやすい状況にある。厳しい財政状況の下でハード対策が進まない中で、自然災害から生命・財産等の安全を確保するための施策や事業の進め方について検討することが必要[2]。
土砂災害危険箇所を全てハードで対策することは予算的にも、時間的にも困難な状況。今後の厳しい予算の状況を踏まえると、防災対策の進め方に大きな転換が必要。重要な課題であり、検討に時間を要するものと考えるが、今後議論をしていくことが必要[3]。
21世紀の中長期的な課題として、科学的・技術的な検討を通じ、重点的、優先的に対策を実施する地域を決めるなど今後の施策の進め方について検討することが必要。特に、土砂災害対策を中長期的な視野で考えた場合、地震等大規模災害を意識した対策が重要[3]。
土砂災害危険箇所を精査し、箇所数の厳選、優先度付けなどにより、効果的な対策の進め方を検討することが必要[2]。
事業費が厳しくなる状況を踏まえると、例えば、1箇所当たりの事業のコストを抑えて、現在のペース以上で事業を進めるなどの方法についても検討することも必要[2]。
管理へのシフト
これからは既存の施設をうまく活用していく時代。メンテナンスなど管理へのシフトも21世紀の土砂災害対策と言えるのではないか[2]。
新たな制度、仕組み
名勝、旧跡等の保全を支援することを目的とするためには、新たな制度や枠組みが必要ではないか。また、土砂に関する流域対策としての制度や仕組みについて検討が必要[3]。
砂防事業への関心の啓発・高揚
厳しい予算の状況にあることから、今後事業を進める上で、国民の砂防事業への関心を高めることが重要[2]。
 
2.高齢化社会を取り巻く今後の課題
災害弱者の現状等を踏まえた対策、支援
社会福祉の観点では、災害弱者が危険な地域に住んでいる(住まわざるを得ない)現状について踏まえた上で、どのような対策、支援を考えていくか検討が必要[1]。
高齢者対策を考える上で、地域社会の近所付き合いなどコミュニティが崩壊しつつある現状を踏まえると、砂防だけでの対応するという視点だけでなく、地域社会における高齢者対策の一環として整理することが必要。特に高齢者の生活実態に即した警戒避難のあり方について考えることが重要[3]。
ITが進展する中で、過疎地域などの高齢者がIT環境に適切に対応することは困難。そのため、これらを支援する地域の高齢者に配慮したコミュニティづくりが必要[3]。
 
3.都市と地方を取り巻く今後の課題
都市化・市街化の進展への対応
土砂災害対策を考える上で、自然災害に起因する必然的なものと、20世紀の急激な都市化による軋轢によるものがあり、対策を実施する上で課題の方向性が異なる。そのため、各々の観点での課題、対策の整理が必要[2]。
グリーンベルト事業及び土砂災害防止法のそれぞれの内容と関係について整理することが必要。その上で、課題や対策を明らかにすることが必要[2]。
斜面の土地利用を考える場合、元来その土地が有する、人間生活の「扶養能力」を考慮することが必要。斜面を開発する場合には、その土地が「扶養能力」を保持できうるものか検討しておくことが必要[2]。
今後の土砂災害対策の参考とするため、20世紀に災害を経験している斜面都市の町並み等を調査、分析してみることも必要[3]。
棚田、山林の保全
耕作放棄地となった棚田の保全は、国土保全上注目されていることから、砂防事業による棚田の保全について検討してはどうか[2]。
山林所有者の相続税の関係で、山林の分割が進んでおり、これらを保全する対策がないことから、国によって保全していく方法について検討してみてはどうか[2]。
 
4.環境を取り巻く今後の課題
里山の再生
一般的に、森林が荒れているため管理が必要であると言われているところであるが、本当にそういう状況にあるのか科学的に分析した上で、施策に反映してほしい[2]。
都市の開発が進展していった結果、山裾の地域の景観、産業廃棄物、土砂採取など土地利用が混乱している状況。このような中、都市と自然の接する山麓を担っている砂防が、さらに一歩踏み込んで、美しい日本を形成するという観点からビジョンを描かれることを期待したい[1]。
自然との共生、都市環境の保全
砂防施設の整備に当たって、自然の景観との調和を図る上で、施設の形状等にできるだけ配慮していただきたい[2]。
各自治体が景観条例等で良好な緑地帯を維持している状況で、斜面住宅を推進するようなことは景観上様々な問題を有している場合がある。そのため、斜面空間の利用に関する施策を展開するに当たっては慎重な検討が必要[2]。
グリーンベルト施策の体系をはじめ、グリーンベルト施策と国土保全における位置づけ、都市における緑の施策との繋がりなどについて整理しておくことが必要[3]。
環境に係る施策に関しては、土砂移動の観点から、樹林等の緑の効果等について科学的な根拠等をもとに施策を打ち出すように努めること[3]。
従来の砂防事業では「はげ山」を緑に復元する対策が基本にあり、その結果、現在では豊富な緑を有するに至っている。今後は、現状の緑に顕在化する課題や砂防事業による対策の必要性等を整理した上で、必要な対策を打ち出すという視点が重要[3]。
 
5.社会を取り巻く今後の課題
効果的な土地利用規制等の推進
土地利用規制などのネガティブな規制だけでなく、斜面全体を一体としてとらえ、施設整備等を通じ、適切に住宅の誘導を図り安全な斜面空間を創出する対策を推進することも必要[2]。
急傾斜地の危険箇所は現在も増加しているのかどうか。急傾斜地の危険箇所は土地の開発等土地利用の変化と大きく関係していることに留意すべき[1]。
土地利用の観点では、近年の都市の開発意欲が落ちている現状を踏まえると、現時点から今後どのような対策を講じていくのか、留意することが必要[1]。
土砂災害防止法により特別警戒区域等の指定が推進された場合、施設整備によるハード対策あるいは住宅移転が求められることになるが、市街化の進んだ区域において、施設整備を行う十分な予算がない現状のもとで、どのように地域に説明し、区域等の指定を進めていくのか整理しておくことが必要[2]。
財産まで含めたリスクマネージメントと面的・広域的な地域での対策
住民が危険であると言われても実感を持たないのは、土砂災害に遭うと考えていないため。そのため、生命のみならず、財産などの被害についても強調すべき。財産まで含めたトータルのリスクマネージメントや対策について検討することが必要[1]。
土砂災害対策を考える場合に、地域を個別のポイントで捉えるのではなく、面的・広域的に捉え、地域のまとまりで考えることが必要[1]。
IT技術の適切な活用
ソフト対策における情報提供に関しては、防災無線や一般の通信回線等の情報提供手段の現状とメリット、デメリットなどを念頭においておくことが必要[1]。
IT関係では、利用者の利便性を確保するという観点から、省庁間の連携を図り、ハードなど互換性を有する効率的なシステム整備、構築が必要[3]。
現在の通信手段では、情報量が多い場合、情報提供に時間を要し、広範囲に伝えることが困難。そのため、災害時等は必要最小限の情報に絞り、ボリュウムの多い情報については日常提供するなど通信手段の機能、役割等を踏まえた情報提供が必要[3]。
「知らせる努力」と「知る努力」
土砂災害に対して危険であるという情報をいかに地域住民に知ってもらうか、知らせるためにはどうすべきか検討することが必要[1]。
例えば、一般住民の認識を高める上で、個人の土地利用が国土の一部であり、災害リスクを担っているという意識を持たせるため、税制的な手法を用いるなどのアプローチも考えられる[1]。
住民にとって土砂災害に関する情報は知りたくない情報。これを住民が「知る努力」を如何に支援するかが課題[1]。
住民の立場からすると、土砂災害に対して自分のところは安全であると思いがち。厳しい予算の制約のもと、行政での対応の限界を住民に示すことが必要。災害の危険性に関する情報を開示し、住民が危険性を負うリスクについて周知することにより、自主的な防災、安全性の確保などについての意識を持たせることが重要[3]。
災害に遭いやすいのは、新しく山麓に住み始めた自然を知らない新住民。このような新住民にいかにその地域の「災害環境」を知ってもらう努力の積み重ねが必要かつ重要[1]。
ハザードマップは、危険の潜在性を示し、地域住民の防災の意識を高めるための防災対策の第一歩。従前は観光産業への影響、イメージ低下等を考慮し作成されていなかったが、むしろ今後は、防災対策の万全の備えとして、これを観光の目玉にするぐらいの意識が必要[1]。
住民にとって分かりやすいハザードマップを作成するためには、ハザードマップ作成の早い段階から住民と情報を共有化するなどの取り組みが有効[3]。
都会の生活では土砂災害に対する意識は希薄。これを知ってもらうためには、危険を強調するという視点からの情報提供ではなく、受け手にとって興味を引くように見せることが必要[1]。
情報提供を行う上で、災害が発生した場合の状況をビジュアルに示すなど現実感のある危険度情報の充実、提供が必要[3]。
「水防演習」と同様に「砂防演習」のようなものを実施し、災害を想定した避難訓練等、砂防事業における植樹体験などを通じて、住民の土砂災害に対する意識の高揚を図ることが必要[2]。
防災情報に関しては、様々な情報の中から信頼できる情報を取捨選択し、判断することのできる人材の育成・確保、支援する体制の整備が必要。整理・蓄積された情報は、災害関係の行政担当者のみならず学校教育等などでの活用も期待される[3]。
情報提供に関しては、情報が一番早く届くところにターゲットをおくことが重要。家庭でいえば母親をターゲットに情報を提供を行うことにより、高齢者や子供の世代に伝達されることが期待される。また、子供の理解を促進するため、教育の場などで、土砂災害に関する内容の教材を取り上げることも重要[3]。
 
6.国民生活を取り巻く今後の課題
公共事業への住民参加
行政の「知らせる努力」、住民の「知る努力」に加え、一旦災害に見舞われた場合のその後の復興のため、まちづくりへの住民参加の視点も考慮することが必要[1]。
これからは地域と行政が連携していく時代であり、今が具体的取り組みを始めるのによいチャンス。気象や災害など興味のある地域の方々の参画を得て、地域の防災意識を高めていく活動を展開していくことが必要[1]。
住民参加や連携に関して、アドプト制度の取り組みを想定しているのであれば、責任の所在の明確化や維持費の拠出などの問題があるので留意することが必要[2]。
まちづくり、地域づくりにおいて、災害に対する安全・安心の確保は基本となるもの。厳しい予算のもとで、ハード対策では補えない部分については、特に、災害に対する住民の意識を醸成するなど住民を育てていく視点での取り組みが重要[3]。


ページの先頭に戻る