建設省住指発第一五八号
平成元年五月一六日

(社)日本照明器具工業会・(社)日本建築士会連合会・(社)全日本建築士会・(社)日本建築士事務所協会連合会・(社)商業施設技術団体連合会・(社)新日本建築家協会・(社)建築業協会・日本劇場技術協会・日本コンクリートアンカー工業協会・(財)日本昇降機安全センター・(社)日本エレベータ協会あて

建設省住宅局建築指導課長通知


「懸垂物安全指針」について


近年、建築物内部に大規模空間を構成する技術の発達に伴い、屋内に懸垂される多様な形態又は機能を有する装置、装飾等(以下「懸垂物」という。)に対するニーズが高まつている。
しかし、屋内の懸垂物については、事故が発生した場合の人的被害が大きく、安全対策の必要性が指摘されていたところであるが、今般、(財)日本建築センターにおいて標記指針がとりまとめられたので送付する。
標記指針は、建築物における安全を確保する上で有用なものと考えられるので、懸垂物の設置、維持管理等に際して活用されたい。

懸垂物安全指針

平成元年5月
日本建築センター

懸垂物安全指針検討委員会 委員名簿

委員長
宇野英隆 千葉工業大学工業デザイン学科教授
委員(五〇音順)
浦林亮次 日本劇場技術協会理事((株)石本建築事務所専務取締役)
木村栄一 (株)NTT建築総合研究所代表取締役副社長
北川良和 建設省建築研究所国際地震工学部第二耐震工学室長
坂本功 東京大学工学部建築学科助教授
田尻陸夫 大成建設(株)設計本部設計第四部部長
田所睦雄 東京電機大学工学部電気工学科教授
寺本隆幸 (株)日建設計東京第一事務所構造部部長
直井英雄 東京理科大学工学部建築学科助教授
高木尭男 社団法人日本エレベータ協会((株)東芝 昇降機事業部)
福森清 財団法人日本昇降機安全センター常務理事
藤田隆史 東京大学生産技術研究所助教授
松島勇作 社団法人日本照明器具工業会技術委員長(三菱電機照明(株))
吉田正良 財団法人日本建築センター評定部長
協力委員
山端良幸 建設大臣官房官庁営繕部設備課建設専門官
宇野博之 建設省住宅局建築指導課建設専門官
羽生利夫 東京都都市計画局建築指導部調査課建築設備主査

懸垂物安全指針検討委員会

躯体WG

主査
木村栄一 (株)NTT建築総合研究所代表取締役副社長
委員(五〇音順)
岩木政夫 日本コンクリートアンカー工業協会(日本ドライブィット(株))
浦林亮次 日本劇場技術協会理事((株)石本建築事務所専務取締役)
北川良和 建設省建築研究所国際地震工学部第二耐震工学室長
坂本功 東京大学工学部建築学科助教授
寺本隆幸 (株)日建設計東京第一事務所構造部部長
藤田隆史 東京大学生産技術研究所助教授
松島勇作 社団法人日本照明器具工業会技術委員長(三菱電機照明(株))
協力委員
山海敏弘 建設省住宅局建築指導課設備係長
芭蕉宮総一郎 建設省住宅局建築指導課

駆動WG

主査
福森清 財団法人日本昇降機安全センター常務理事
委員(五〇音順)
浦林亮次 日本劇場技術協会理事((株)石本建築事務所専務取締役)
田尻陸夫 大成建設(株)設計本部設計第四部部長
田所睦雄 東京電機大学工学部電気工学科教授
高木尭男 社団法人日本エレベータ協会((株)東芝 昇降機事業部)
直井英雄 東京理科大学工学部建築学科助教授
藤田隆史 東京大学生産技術研究所助教授
協力委員
山海敏弘 建設省住宅局建築指導課設備係長
羽生利夫 東京都都市計画局建築指導部調査課建築設備主査

一 総則

一・一 目的

本指針は、建築物の内部に取付けられる懸垂物を対象として、使用時の荷重、地震動、風圧等による作用荷重並びに駆動装置付きの場合の偏荷重、振動荷重、衝撃荷重に対し、懸垂物各部の部材・接合部にゆるみ、変形、折損、脱落等が生じないよう設計・施工、運用・維持管理等の全体について安全性を高め、もつて懸垂物による事故の発生を防止することを目的とする。

一・二 適用範囲

本指針は、建築物内部の構造躯体、付加構造物又は工作物(以下「構造躯体等」という。)に取付けられる固定式又は固定式と駆動式が組合わされた照明器具、電気機器、音響機器、装飾広告物等の懸垂物であつて、重量が一〇〇キログラム以上のものについて適用する。

一・三 適用除外

本指針は、劇場の舞台、演出空間等で不特定多数の観客に危害をおよぼす恐れのない場所に設けられるもの及び特別な調査・研究又は設計・施工に基づき懸垂物の運用・維持管理等に事故防止の十分な措置が講じられている場合は本指針を適用しなくてもよい。

一・四 適用規準類

本指針の適用にあたつては、建築基準法令の他、必要に応じて、(財)日本建築センター、(社)日本建築学会等の設計・施工関係の規準、指針、標準仕様書及び日本工業規格(JIS)並びに関連機器・工事工業会等が定める標準的な設計・施工要領等を適用する。

一・五 注意事項

設計者・施工者及び工事監理者は、構造躯体等と懸垂物の設計・施工の分担及び工事・工程区分を合議のもとに明確に把握し、懸垂物の構成全体の安全性の確保に努める。また、建築物の所有者・管理者は、設計者・施工者協力のもとに懸垂物を常時、安全な状態に維持するように努める。

二 構造躯体等

二・一 部位の構成と検討項目

懸垂物の安全性の検討に係る部位の構成と主な項目は下記による。
(1) 構造躯体等との接合部

材料・接合強度、アンカー強度、工法並びに荷重の組合せと耐力

(2) 懸垂用の部材

材料・部材強度、荷重の組合せ並びに懸垂材の形態

(3) 懸垂物との接合部

材料・接合強度並びに接合方式

(4) 懸垂物の構造形態

形状、材料、剛性・重量分布、強度並びに駆動装置の有無と作動時の影響

二・二 設計用荷重と応力の組合せ

構成部材各部の設計用荷重と応力の組合せは下記による。
(1) 自重による鉛直荷重、せん断力、曲げモーメント
(2) 駆動装置の作動時に作用する不平衡力、ねじれモーメント及び振動・衝撃荷重
(3) 地震荷重又は風荷重による引張力、せん断力、曲げモーメント
とくに、駆動装置付きの場合について、構造躯体等のアンカーボルト、懸垂用部材、接合部等の各部は、振動・衝撃又は支点の移動と偏荷重に対し必要な安全率を考慮して設計する。

二・三 許容応力度及び基準強度等

使用する鋼材、コンクリートその他の材料及び部材の溶接部、ボルト接合部の許容応力度、基準強度等は、建築基準法令その他一・四項の適用規準類の規定による。
アンカーボルトの許容荷重は、実験により確かめられた引抜き耐力を必要な安全率で除した値を用いることができる。

三 駆動装置等

三・一 懸垂装置の駆動部分

(1) 原動機、制御器、巻上機

原動機、制御器、巻上機は、安定した架台に強固に取付け、地震動その他の振動により転倒、移動、離脱が生じないようにする。

(2) ブレーキ及び制動トルク

電動機により懸垂物の昇降、回転、走行を制動するためのブレーキを設け、原則として、ブレーキの制動トルクの値は、定格荷重に相当する荷重を吊つた場合におけるトルクの値の一・五倍以上とする。ただし、荷重検出装置がある場合はこの限りでない。

(3) 綱車又は巻胴の直径と鋼索の直径との比

綱車又は巻胴の直径は、原則として鋼索の直径の三〇倍以上とする。

(4) 鋼索の巻胴等への巻込み角度

巻胴の溝に鋼索が巻き込まれる方向と、溝の方向のなす角度は四度以下とする。
また、フリートアングルの値は、二度以下とする。

(5) 銅索と巻胴等との緊結

鋼索と巻胴、懸垂物及び吊り装置との連結は、バビット詰めソケット止め、クランプ止め、くさび止め、シンプル付スプライス止め、クリップ止め等の方法により、端部を一本ごとに緊結する。

(6) 鋼索及び吊り鎖の本数

懸垂物を吊るための鋼索及び吊り鎖にあつては、原則として二本以上とする。

(7) 巻胴等の構造強度

懸垂装置の駆動部を構成する巻胴、軸、軸受、その他の機械部分は磨耗、変形、ひび割れ等が生じないよう必要な強度を有し、その機能に支障のない構造とする。

三・二 鋼索及び吊り鎖

(1) 鋼索及び吊り鎖の材料並びに安全率

鋼索及び吊り鎖の材料は、日本工業規格(JIS G 三五二五、JIS B 一八〇一)に適合するものを使用し、その安全率は、破断荷重を鋼索及び吊り鎖にかかる静荷重の最大値で除した値とし、一〇以上とする。

(2) 巻胴用鋼索の巻き残り数

巻上げ用鋼索にあつては、懸垂物が最低の位置において巻胴に二巻き以上残るようにする。

三・三 安全装置等

(1) 電動機により鋼索又は鎖を介して懸垂物を昇降、回転又は走行させるものにあつては、原則として次の安全装置等を備える。

1) 巻き過ぎを防止するための過巻防止装置
2) 過負荷を防止するための過負荷防止装置
3) 行き過ぎを防止するための過走防止装置

(2) 回転部分の防護

電動機器類の回転部分で、維持管理の作業に危険が生ずる箇所には、覆い、囲い等を備える。

(3) 外れ止め装置

フック等を用いる場合においては、鋼索が外れることを防止するための装置を備える。

三・四 電気機器等

(1) 電磁接触器等

電動機の主回路に使用する電磁接触器等にあつては、その操作回路に接地が生じた場合に電磁接触器等が誤動作(閉路)することのないようにする。

(2) 電動機の操作・制御装置

電動機の運転を操作する開閉器で、操作を続けている間、電動機が運転状態を続ける方式のものにあつては操作部分から手を離した場合に、当該操作部分が自動的に電動機の運転を停止させる位置に戻る機構とする。
電動機の動力により移動又は回転する装置にあつては、予め定めた範囲を超えて移動又は回転することのないように適切なリミットスイッチを設ける。また、電動機には、入力が遮断されたとき自動的に運転を停止し、かつ、停止状態を保持することができるブレーキを備える。

三・五 運転室、操作室

運転室及び操作室は、原則として、運転者が安全に操作できるよう視野及び広さを確保し、他の用途に供しないこと。

四 維持管理体制等

四・一 維持管理規準の作成

所有者、管理者は、設計者・施工者協力のもと、懸垂物の維持管理規準を作成する。

四・二 安全管理者の選任

所有者、管理者は、安全に係る技術的事項を管理するため、安全管理者を選任する。

四・三 自主検査

所有者、管理者は、定期的に自主検査を行う他、非常時には臨時に点検を行い、その結果を記録しておく。

四・四 保守・点検等のマニュアルの作成

所有者、管理者は、保守・点検等に係るマニュアルを作成する。



表1 建築物の用途と懸垂物の種類(例)

 
建築物の用途
設置場所(取付部分)
懸垂物の種類
1
劇場
映画館
演芸場
観覧場
集会場
ロビーの天井部
吹き抜け部分の天井部
壁部分
シャンデリヤ、スポットライト
特殊照明装置、集合スピーカー
反射板、反響板、バスケット板
広告物、どん張、ミラーボール
*複合装置
2
ホテル、旅館
ロビーの天井部
吹き抜け部分の天井部
壁部分
シャンデリヤ、特殊照明装置
スポットライト、広告物
ミラーボール
*複合装置
3
体育館
ボーリング場
スケート場
(スキー場)
水泳場
室内天井部
客席天井部
壁部分
スポットライト、特殊照明装置
集合スピーカー、バスケット板
広告物、ミラーボール
*複合装置
4
百貨店
展示場
キャバレー
ナイトクラブ
舞踏場
遊技場
料理店
飲食店
ロビーの天井部
吹き抜け部分の天井部
壁部分
シャンデリヤ、スポットライト
特殊照明装置
集合スピーカー、広告物
バスケット板、ミラーボール
*複合装置
5
その他
駅ビルホール
空港ビルホール
ロビーの天井部
吹き抜け部分の天井部
壁部分
シャンデリア、スポットライト
集合スピーカー、広告物
特殊照明装置、ミラーボール
*複合装置

*なお、複合装置とは、情報機器、音響機器及び照明機器などを複合搭載した特殊な躯動装置をいう。



参考資料2
<別添資料>


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