建設省住指発第二二一号
平成二年五月一九日

特定行政庁建築主務部長あて

建設省住宅局建築指導課長通達


外壁タイル等落下物対策の推進について


先の北九州市で発生した外壁タイル落下による人身事故に係る当面の対策については、「既存建築物における外壁タイル等の落下防止について(平成元年一一月二九日付け建設省住指発第四四二号(以下「四四二号通知」という。))」により通知したところであり、かかる事故の再発を防止するため、昨年一二月より当職において安全対策の検討を行ってきたところであるが、今般その報告を別紙のとおり取りまとめたので通知する。
今後は、当該報告を活用し、左記により、建築物所有者等に対し、外壁タイル等の落下防止について積極的に指導されたい。
また、既存建築物の外壁落下防止改修に係る融資制度及び特別償却制度については、「既存建築物の防災改修に係る融資の運用について(平成元年一〇月三〇日付け建設省住指発第四一二号)」及び「建築物の落下物対策のための改修に係る特別償却制度の創設について(昭和六二年五月二三日付け六二国防震第二〇号、建設省住防発第一一号)」により既に通知しているところであるが、今後とも、これらの制度の積極的な活用の指導に務められたい。

一 定期報告について

(1) 対象建築物の範囲の拡大

定期報告の対象となる建築物については、「建築基準法第一二条の規定に基づく定期報告対象建築物等の指定について(昭和五九年四月二日付け建設省住指発第一二五号)」により、その規模及び時期の指定指針を通知したところであるが、この指針に基づき、対象建築物の指定を徹底するとともに、四四二号通知で示した調査対象建築物など定期報告の対象とならない建築物についても、防災査察等を通じて診断実施の指導を行い、その成果を踏まえ必要に応じて改修指導等を行うこと。
また、住宅・都市整備公団及び地方住宅供給公社の共同住宅等についても、定期報告の対象として指定するよう務められたい。

(2) 診断指針の活用

定期報告時における外壁仕上げ診断に当たっては、別紙報告に示された外壁仕上診断指針に基づき診断を行うよう建築物所有者、関係団体等を指導すること。

二 設計施工上の留意事項について

今後、新築及び改修が行われることが計画されている建築物について、報告に示された設計、施工上の留意事項に基づき外壁タイル等の張付けを行うよう建築主、関係団体等を指導すること。

三 外壁仕上診断技術者について

今秋を目途に(社)建築・設備維持保全推進協会において、外壁仕上げの診断を行う技術者を育成するための講習が実施される予定であるので、関係団体への周知方お願いする。


別添

建築技術審査委員会
外壁タイル等落下物対策専門委員会
報告書
平成2年3月
建築技術審査委員会
外壁タイル等落下物対策専門委員会 報告書
目次
第1章 建築技術審査委員会「外壁タイル等落下物対策専門委員会」の概要…1291・420
第2章 タイル外壁等剥落事故事例…1291・422

第1節 住宅・都市整備公団住宅のタイル外壁剥落事故の概要…1291・422
第2節 最近のタイル外壁等剥落事故の事例…1291・422

第3章 タイル外壁等の現状とその診断に係る問題点…1291・425

第1節 タイル外壁の現状と問題点…1291・425
第2節 タイル外壁等診断の現状と問題点…1291・431

第4章 タイル外壁等の剥落防止のための当面の対策…1291・442

第1節 総論…1291・442
第2節 タイル外壁等剥落による災害防止のための診断指針の策定…1291・442
第3節 外壁仕上診断技術者の育成…1291・458
第4節 診断機器の評価、認定に関する基本的方針…1291・459

第5章 タイル外壁等剥落事故防止のための設計・施工上の留意事項…1291・461
第6章 タイル外壁等の剥落防止のための対策の今後の課題…1291・466

第1節 行政上の対応…1291・466
第2節 技術の開発と統計データの整備等…1291・466

第1章 建築技術審査委員会「外壁タイル等落下物対策専門委員会」の概要

第1節 設置の目的

平成元年11月21日に発生した、住宅・都市整備公団住宅の外壁タイルの剥落による死傷事故は、落下物対策の重要性を改めて認識させるものであるが、今後このような事故の発生を防止するために、外壁の診断及びタイル張り・モルタル仕上げ工法の現状の問題点を洗い出すとともに、外壁タイル等の剥落防止のための診断指針、診断技術者の必要性等について検討することを目的とする。

第2節 設置の期間

平成元年12月〜平成2年3月31日

第3節 委員構成

次頁委員名簿参照

第4節 検討内容

(1) タイル外壁等の診断指針の現状の検討
(2) タイル外壁等の診断者の現状と問題点の抽出
(3) タイル外壁等診断指針の策定、診断技術者の育成、診断機器の評価・認定の検討
(4) タイル外壁等の設計、施工上留意すべき事項の検討

第5節 委員会の開催

第1回委員会 平成元年12月8日(金)
第2回委員会 平成2年2月19日(月)
第3回委員会 平成2年3月23日(金)

建築技術審査委員会

外壁タイル等落下物対策専門委員会 委員名簿

(アイウエオ順)

(建築技術審査委員会委員)

◎岸谷孝一 日本大学理工学部教授

青柳幸人 住宅・都市整備公団建築部長
今泉勝吉 工学院大学工学部教授
坂本功 東京大学工学部教授

(専門委員)

池本孝 (社)日本左官業組合連合会常任理事

池本工業(株)

佐野紘一 (社)建築業協会代表

(株)竹中工務店東京支店技術部長

谷口哲彦 (社)建築・設備維持保全推進協会専務理事
田村茂 (社)全国タイル業協会副会長

不二窯業(株)取締役副社長

難波連太郎 工学院大学工学部教授
楡木尭 建設省建築研究所第2研究部長
迫英介 日本電信電話(株)建築部建築技術開発室主幹技師
馬場明生 建設省建築研究所第4研究部施工技術研究室長
吉原朋之 東京都都市計画局建築指導部長
米田修 建設省大臣官房官庁営繕部建築課長

第2章 タイル外壁等剥落事故事例

第1節 住宅・都市整備公団住宅のタイル外壁剥落事故概要

1 事故概要

(1) 発生日時 平成元年11月21日(火)午前11時18分頃
(2) 発生場所 北九州市小倉北区昭和町14番20号路上
(3) 建物名称 住宅・都市整備公団昭和町市街地住宅
(4) 事故の状況 昭和町市街地住宅の塔屋の国道3号線側外壁の躯体とタイル下地モルタル(縦約5m、横約8m、厚さ約3.5cm)が剥落し、31m下の歩道上の通行人の上に落下し死傷者を出した。
(5) 死傷者 死亡 男(71歳)

死亡 女(68歳)
重傷 女(42歳)

(6) 建物管理者 住宅・都市整備公団

2 建物概要

(1) 構造、規模等 鉄筋コンクリート造

敷地面積 3,805.16m2
延べ面積 15,216.54m2

(2) 階数、高さ 地下1階、地上10階、塔屋2階
(3) 外装仕上げ 47二丁掛タイル張り

第2節 最近のタイル外壁等剥落事故の事例

最近の主要なタイル外壁等剥落事故の事例は、表2.1の通りである。

表2.1 最近の主な外壁タイル等の剥落事故事例 建設省調べ

??
発生年月日
場所
建物名称
建物概要
事故概要
備考
1
元.11.21
北九州市小倉北区昭和町
住宅・都市整備公団昭和町住宅
RC造 地上10階、地下1階、塔屋2階
延面積 15,216.54m2
用途 共同住宅
建築年 築後 約17年
塔屋部分のタイルが幅約8.5m×高さ約5mにわたり、約31m下に落下した。
死者2名、重傷1名
 
2
元.12.19
名古屋市中区栄 4―16―23
オフィス栄
SRC造 9階建
延面積 3,460m2
用途 学校
建築年 昭和47年
8、9階部分のタイル張り外壁が、躯体とタイル下地より剥離し(縦6m、横4m)、16m下の洋服に落下し、同建物の屋根を突き破った。
 
3
2.1.5
宮崎市青島2丁目
青島シェルホテル
RC造 一部S造 5階建
用途 ホテル
建築年 昭和42年(RC造)

昭和45年(S造)

(落下部分)
道路に面したS造2階(玄関上部)の外壁タイルが下地モルタルとともに縦1m、横15mにわたり落下した。
死傷者なし
 
4
2.1.15
東大阪市長堂 3−85−1
松村工芸
RC造 6階建
延面積 773m2
用途 事務所、店舗、住宅
建築年 昭和44年頃
3階部分のタイル張り外壁の小口タイル一部剥離し、約9m下の道路に落下
通行中の女性が負傷
 
5
2.2.2
北九州市小倉北区
九州歯科大学
RC造 4階建
延面積 3,304m2
用途 学校
建築年 昭和57年
学校棟4階のパラペット部のモルタル下地タイル張り外壁(縦1.5m、横4m、厚さ5cm)が躯体コンクリート面から剥離し、16m下の駐車場に落下
オートバイ4台が破損
 
6
2.3.5
北九州市八幡西区荻原 3−5
市立荻原小学校
RC造 4階建
用途 学校
建築年 築後 約9年
校舎庇のモルタル壁の一部(約50cm×30cm×5cm)が約2.5m落下
死傷者なし
 
7
2.3.9
北九州市
市営住宅柴川団地
RC造 4階建
用途 共同住宅
建築年 築後 約20年
屋根上庇の一部が落下
死傷者なし
 
8
2.3.12
北九州小倉北区砂津 1−5−26
菱国ビル
昭和町住宅
SRC造 9階建
延面積 2,372m2
用途 事務所
建築年 昭和52年頃
8、9階部分モルタル下地吹付けタイル外壁(縦4m、横1m、厚さ5cm)が剥離し、約25m下の道路上に落下
死傷者なし
 
9
2.3.12
名古屋市東区東桜 1−6−5
ユニープル栄マンション
SRC造 11階建
延面積 2,141m2
用途 共同住宅
建築年 昭和53年
8、9階の階段手摺パネルと外壁部分の隙間の吹付けタイルが下地モルタルとともに3cm角、長さ50cmにわたり、約2.5m下の路上に落下
死傷者なし
 
第3章 タイル外壁等の現状とその診断に係る問題点

第1節 タイル外壁の現状と問題点

建築物の外壁仕上げについては、タイル張り、モルタル塗り、石張り及びカーテンウォールなど色々あるが、ここでは、タイル外壁の現状と問題点について述べる。
1 タイル外壁の現状

(1) 仕様

高層建築物におけるタイル工事に採用されている仕様は、
1) 手張り工法
2) 型枠先付け工法
3) PC板先付け工法
が主体であるが、(社)全国タイル業協会の推計によれば、ビル外壁向けタイルは、1,800万m2/年(外装タイル、外装用モザイクタイルの40%と算定)であり、これらは、それぞれ、95%、1%及び4%程度の割合となっている。
上記各工法のうち最も多く採用されている手張り工法には、
1) 圧着張り工法
2) 密着張り工法
3) 改良圧着張り工法
4) 改良積上げ張り工法
5) マスク工法
などがあるが、外装タイルでは、圧着張り工法、密着張り工法による施工方法が圧倒的であり、外装モザイクタイルでも圧着張り工法が多い。

(2) タイル工事の仕様書

現在、タイル工事の主な仕様書は、次のようなものがある。
1) 建設省大臣官房官庁営繕部監修 「建築工事共通仕様書」第11章 タイル工事
2) 住宅・都市整備公団 「工事共通仕様書」第9章 タイル工事
3) (社)全国タイル業協会 「陶磁器質タイル工事標準仕様書」
なお、(社)日本建築学会の仕様書は現在原案が作成されている段階である。

(3) 品質管理

タイル工事の職務分担は、下地拵え後の手張り工法の場合、タイルの張り付け、目地詰め及び清掃であり、この中で施工後の故障防止、美観の確保のための種々のチェックが行われる。
タイル張り工程順のチェックの主なものは次のとおりである。

項目
チェック内容
1) 工法・張付け材料の決定
・ 接着の信頼性の高い工法の選択

(設計者、施工者の指定による)

2) 目地深さ
・ タイル厚さの1/2以内
3) 下地の検査
・ ひび割れ、浮き、汚れのないこと
・ 亀裂誘発目地の正しい設置
・ 下地の材齢、含水状態
・ 下地精度
4) 張付けモルタルの混練
・ 砂セメント比
・ 水量
・ 混和剤の種類と量
5) 張付けモルタルの塗布
・ 塗厚
・ 下地の水しめし
6) タイル張り
・ オープンタイム
・ 目地部へのモルタルの盛り上げ
・ モルタル充填度
7) 目地詰め
・ 目地深さ
・ 目地材の充填度
8) 清掃
・ 材齢
・ 酸洗いの場合は酸濃度
9) 外観
・ 汚れ、著しい欠点がないこと
10) 打診検査
・ テストハンマーにて全数検査し、浮き剥離のないこと
11) 接着強度
・ 4kgf/cm2以上の接着強度を有すること

2 タイル外壁の問題点

(1) 近年の外壁タイル壁面の落下事故を見ると、多くがモルタル下地施工によるものの落下であり、重大事故につながるものも、大きいモルタル下地を伴う場合である。

タイル張り面におけるタイルの落下は、昭和40年代に多く発生し、その苦い経験から改良工法の開発とその普及に力が注がれており、また、(社)全国タイル業協会により、実験に基いた、タイル密着張り施工要領書、コンクリート直張り工法仕様書、マスク工法施工要領書、目地深さと剥離の危険性などの情報が提供されている。
さらに、前述の協会による、指導員による工事指導制度などが実施され、現在においては、タイルの落下事故は相当減少してきているものと考えられる。

(2) 一方、下地モルタルの施工については、前述のいずれのタイル工事に関する仕様書も「左官工事による」、「JASS 15 左官工事による」とのみ記載され、タイル工事のチェック、検査が必ずしも十分になされていないのが現状である。
(3) 従来は、施工業者が管理していた項目、事項について、責任の明確化と効率化から専門工事業者による自主検査とする場合が多くなってきているが、タイル工事業者は、企業規模が小さいものが多く、1の(3)で述べた品質管理の各工程における検査、チェック項目が忠実に実行されているとは言い難い。
(4) さらに、外壁仕上げに関し、剥落防止の観点から、設計段階において、躯体設計、亀裂誘発目地の設置等各種の配慮を要する事項があるが、必ずしもそれらが実行されてはいない。

なお、参考として、

表3.1 「昭和63年度の民間外壁タイル施工概算実績」
表3.2 「民間外壁タイル工事におけるモルタル下地の変遷と概要」及び
表3.3 「モルタル下地外壁シェアーの推移の概要」

を示す。

表3.1 昭和63年度の民間外壁タイル施工概算実績

工法
施工概算実績
割合
1 積上張り
殆ど使用されていない
0.0%
2 圧着張り
1,901.7万m2
41.7%

・ヴィブラート使用

(1,521.4万m2)
(33.3%)

・木こて使用

(380.3万m2)
(8.4%)
3 モザイクタイル圧着張り
1,597.0万m2
35.0%
4 モザイクタイル改良積上張り
684.0万m2
15.0%
5 密着張り
211.3万m2
4.6%
6 PC版先付け
100.0万m2
2.2%
7 型枠先付け
30.0万m2
0.7%
8 改良圧着張り
20.0万m2
0.4%
9 改良積上張り
20.0万m2
0.4%
合計
4,564.0万m2
100.0%
(社)全国タイル業協会推定

表3.2 民間外壁タイル工事におけるモルタル下地の変遷の概要

 
昭和40年
昭和44年
昭和50年
昭和56年
昭和60年
昭和63年
圧着張り
モルタル下地 100%
同左
100%
同左
100%
モルタル下地 90%
同左 65%
同左 50%
 
 
 
 
直張り 10%
同左 35%
同左 50%
モザイクタイル張り
モルタル下地 100%
同左 100%
モルタル下地 95%
同左 90%
同左 65%
同左 50%
 
 
 
直張り 5%
同左 10%
同左 35%
同左 50%
改良積上張り
モルタル下地 100%
同左
同左
同左
同左
改良圧着張り
モルタル下地 100%
同左
同左
同左
同左
ユニットタイル改良積上張り(昭和49年開発)
モルタル下地 100%
同左 90%
同左 65%
同左 50%
 
 
 
 
直張り 10%
同左 35%
同左 50%
密着張り(昭和54年開発)
モルタル下地 100%
同左 65%
同左 50%
 
 
 
 
 
直張り 35%
同左 50%
(社)全国タイル業協会推定

表3.3 モルタル下地外壁シェアーの推移の概要

外壁仕上
昭和40年
昭和50年
昭和60年
平成1年
モルタル下地吹付仕上
70%
50%
30%
20%
モルタル下地リシン掻落し仕上
10%
10%
5%
0%
モルタル下地人造洗出し仕上
10%
5%
0%
0%
(社)日本左官業組合連合会推定

第2節 タイル外壁等診断の現状と問題点

1 「外壁タイル張りの耐震診断と安全対策指針・同解説」について

現在、タイル外壁等についての診断指針としては、建設省の建築物の耐久性向上に関する総合技術開発プロジェクトにおける、「外壁タイル張り仕上げの劣化診断指針」、「外壁セメントモルタル塗り仕上げの劣化診断指針」及び「外壁タイル張りの耐震診断と安全対策指針・同解説」((財)日本建築防災協会)等が代表的なものである。
ここでは、「外壁タイル張りの耐震診断と安全対策指針・同解説」((財)日本建築防災協会)について、外壁剥落事故の再発防止のための診断という観点から検討をした。
(1) 一般的問題について

1) 同書でも指摘しているように、同書は耐震診断を目的としている。したがって、今回のような事故の防止のためには、維持保全の延長として位置付けられ、2〜3年間隔の定期的診断を目的とした指針が必要である。
2) 現在は、実際に建築の診断に関わる技術者について何等基準がないため、診断方法及び内容が確立されていない。したがって、測定方法や測定結果の評価等について精通した診断技術者の育成が早急に必要である。
3) 指針が整備され、技術者が育成されても、測定の機器やシステムがきちんとしたものでなくては、診断の結果は十分とは言えない。したがって、各種測定器具やシステムについて評価、認定を行ない、診断結果の品質の安定、向上が必要である。
4) タイル等の落下の危険性をある時点での1回限りの測定結果だけで判断することは必ずしも容易ではなく、建物の竣工時の測定結果から時系列的に劣化の進行を把握することが必要である。

このためには、上記の定期診断のほかに、竣工時の測定方法、測定結果の記録等について標準化することが必要である。

5) タイル以外の外壁仕上げ(吹付けモルタル、石張り、カーテンウォール等)についても、診断方法についての指針が必要である。

(2) 第1次診断について

1) 目視では、タイル等の剥離を発見することは困難である。そこで、修繕歴の調査や壁全体の目視に加えて、第1次診断の段階から、部分的に打診法を採用することが妥当と思われる。この場合、費用の関係から特に落下の危険のある開口部、パラペット付近、建物出隅部分等の部位及び日射や雨水の影響を受けやすい方位や高さ等による選択基準を作成し、実施する必要がある。

このことは、先付け工法についても同様であり、コンクリートの充填性や密実性が不十分なため、過去に修繕歴がなく、かつ目視で異常がなくても剥落する例があることから、例外扱いすべきではないと思われる。

2) 何をもってタイルの接着状態が異常とするかの客観的判定基準を作成する必要がある。

(3) 第2次診断について

1) 打診法は、張り付け厚さが厚くなると判断が困難になり、測定者の習熟程度によって測定結果が左右される。また、赤外線装置法は、日射や風等の外的条件の影響を受けやすい等のいくつかの限界があり、反発法についても同じく限界がある。

したがって、これらの限界を明確にしておくとともに、これらの適切な組合せ方法の開発や簡便な診断技術の開発が必要である。

(4) 第3次診断について

1) 剥落の危険性の評価を初めて定量的に示している点は高く評価できるが、数字だけが1人歩きし、その背景が忘れられる恐れもあるため、これだけで判断できない場合もあることを診断者に徹底させることが必要である。
2) 第3次診断として、第2次診断を実施した部位だけでなく、新たに壁面全体について診断するのか否かが、明確ではない。

2 タイル外壁等診断方法の現状

タイル外壁やモルタル塗り外壁の診断方法の現状は、表3.4の通りである。
問題は、現在の技術では、石張り外壁やカーテンウォール仕上げ外壁の診断方法が必ずしも整備されていない点である。

3 外壁診断者の現状と課題

(1) 外壁診断者の現状

診断者の現状(総数、実務経験年数、保有資格、年齢等)についての、定量的な実態を調査した資料は残念ながらまだないが、最近の社団法人 建築・設備維持保全推進協会の実態調査(参考1参照)や業界のヒアリング等より把握すると次のようなことが考えられる。
1) 必ずしも外壁診断に関する実務経験や建築に関する総合的知識のない者もいる。
2) 学歴、診断実務年数、保有資格等が多様であり、年代では、30〜40代が大半である。
3) 診断を専従としている者はどちらかというと少なく、多くが診断と他の業務を兼務している。

なお、外壁診断に携わる人の属する業種は、設計事務所、ゼネコン、サブコン、ビルメンテナンス、メーカー・サービス会社、補修工事業及び検査会社と多様であり、所属する企業を見た場合に、中小規模の企業が多い。

(2) 診断者の課題

1) 知識及び技能の水準の確保

診断に携わる者については、その有すべき経験や知識について何等目安はなく、誰でも実施することができるため、診断の内容にバラツキがある。
そこで、その保有すべき知識や技能水準を明確化し、一定の水準を確保することが必要である。

2) 技術の進歩への対応

診断の対象である外壁の材料や工法の進歩は著しく、診断に携わる者がその進歩に対応していないという問題や、診断の方法や診断機器そのものの進歩にも必ずしも対応していないという問題がある。
そこで、定期的に知識を付与し、技術の進歩に即応していくことが必要である。

3) 社会的地位の向上

診断者の社会的地位は、診断そのものが比較的新しい分野のため必ずしも高いものではない。
そこで、優秀な人材を確保していく上で、その社会的地位の向上を図っていく必要がある。

表3.4 タイル外壁等 診断方法

(社)建築・設備維持保全推進協会調べ
診断方法
基本原理
特色
限界
備考
1 外観目視法

肉眼及び高倍率の双眼鏡、望遠鏡やトランジットを使用して、剥落、白華現象、ふくれ等を発見する。

1) 比較的簡単で、経費も比較的少ない。
2) 広範な調査が可能である。
1) 外形上の異常の発見が可能であるが、外形上異常が発生していない浮き等については発見できない。
2) 外形上異常が存在しても、光の具合や障害物等により見落す恐れがある。
3) 測定結果を客観的な数値として表すことができない。
 
2 打診法

テストハンマーによりタイル等表面を打撃し、打音の差異(清音―健全、濁音―剥離)を聞き取り、タイル等の浮きの有無と程度を判定する。

1) 習熟技術者による精度はかなり高い。
2) 診断に用いる道具が簡便である。
3) 剥離界面が浅い場合に精度が高い。
1) 測定結果を客観的な数値として表すことができない。
2) 測定者の経験に頼る面が多く、熟練度により判定に差異が出る。
3) 足場ないしはゴンドラを必要とする。
4) 型枠先付け工法によるタイル裏側に生じたコンクリートの豆板部についての精度が低い。
 
3 反発法(衝撃振動応答法)

(1) 衝撃応答加速度法(G法)
(2) 衝撃応答振幅法(T法)
シュミットハンマ等を用いてタイル面等に一定エネルギーの打撃を与え、その打撃により生じたはね返りの大きさを自動記録し、反発度の違いによってタイル等の浮きの有無と程度を判定する。

1) 判定値を自動的に記録でき、判定者による判定結果の差異がない。また、特別高度な習熟技術を要しない。
2) 打音法よりも一般的には、精度が高い。
3) ロボット化により、足場、ゴンドラが不要である。
4) 天候、気温等の影響が殆どない。
5) 短時間で作業が可能である。
1) 調査対象壁の裏側の状態や周囲の拘束状態の違いなどから誤診する場合がある。
2) モルタル厚さ40mm以上の剥離を検出できない。
3) ロボットの場合、窓回り、凹凸部周辺で一部探知ができない。
4) ロボットの場合、適用できる建物の高さに限界がある。
 
4 赤外線装置法(表面温度測定法)

タイル等の剥離部と健全部とでは熱伝導の違いがあるが、これによりタイル等の表面部に温度差が生じる。この温度差を利用して、タイル等の浮きの有無と程度を判定する。

1) 非接触型の場合、検査足場や吊り装置を要せず、安全かつ簡便である。
2) 構造物の大きな一面を短時間に一挙に欠陥判定でき、最も効率的である。
3) 晴天日の午前中(気温の上昇時)における探知精度が最も高い。
4) 熱画像の記録、再生ができ、視覚に訴えることができる。
5) 熱画像をさらに処理すると識別しやすく、かつ精度が向上する。
1) 季節、天候、時刻、気温、壁面の向き、カメラ距離、仕上材の色調や、建物の冷暖房・機械類の発熱等の影響を受ける。
2) 上記の結果、映像の解析には、相当高度の熟練を要する。
3) 雨や風の強い日の測定が困難である。
4) 壁面と赤外線カメラの間に障害物があると測定できない。
5) 映像装置も含む測定機器の取得価格が比較的高額である。
6) 機器、画像の処理方法による結果の差異が大きい。
 
5 超音波法

(1) 反射法
(2) 透過法
超音波の伝幡速度、反射、減衰が剥離部と健全部とでは相違することを利用して、タイル等の浮きの有無と程度を判定する。

1) 検査足場や吊り装置(検査者用の)を要せず、安全かつ簡便である。
2) 天候、気温等の影響が少ない。
1) センサーの当て方の上手、下手で結果に差異がでる。
2) 外壁のような広い面には適用しにくい。
3) 各種の部材から構成されている壁面(タイル張り等)では、電波速度の設定が困難である。
4) 表面が粗いものには適用しにくい。
5) 装置価格が比較的高額である。
 
6 AE(Acoustic   Emission)法

固体中に亀裂が伝播するとき、または固体が変形するときに発生する音の放出を捕捉して変形等を判断する。

1) 機械の劣化の判断には適している。
2) 機械を停止しなくても診断できる。
1) 外壁のように面積が大きく、かつ劣化が長いスパンで生じるものについては適用しにくく、またコストも高い。
・設備機械や構造物の載荷試験に使用できるが、壁面の診断としてはまだ実用的ではない。
7 電気抵抗法

電気抵抗の変化を読み取り、劣化を判断する。

 
1) 外壁のように、電気抵抗が大きく、電気的条件が自然条件に左右されるようなものには適用が困難である。
・壁面の診断方法としては、まだ実用的ではない。

4 診断機器の現状と問題点

診断機器は、診断の道具として、診断の品質を大きく左右するものであり、一定の性能を有するものを使用することが適切な診断には不可欠である。
診断機器については、昭和53年の建設大臣告示第976号による建設技術評価規程に基いて、昭和58年「タイル仕上げ等のはく離検知器の開発」が公募され、模擬剥離を仕込んだ統一供試体を使用しての各機器の探知性能の評価、実際の建物において各機器を適用することによる現実の建物への適用性、供用性、安全性の検討及び耐久性や経済性の検討の結果、3つの機器が評価されている(表3.5参照)。
しかし、これ以降の技術開発よりいくつかの診断機器が開発されているが、これらについては何等公正な評価がないのが現状であり、必ずしも一定以上の性能が確保されていないという問題がある。

表3.5 建設技術評価規程により評価された「タイル仕上げ等のはく離探知器」

会社名
原理
鹿島建設(株)
インパルスレスポンス解析方式

壁面に衝撃力(インパルス)を与えて発生した振動を音(レスポンス)としてとらえ、健全部の打撃音の最大振幅との差及び周波数応答スペクトルの形の差をとらえて剥離部を検知する。

(株)竹中工務店・三和テッキ(株)
連続加振、振動測定方式

壁面を連続的に加振し、高周波域での音圧レべルを健全部の音圧レベルと比較することにより、剥離部を検知する。

(株)リコー(現在は、(株)コンステック)
赤外線センサー方式

壁体内に剥離が存在するとその部分は断熱材が挿入されたのと同じ状態になり、壁面の温度差が生じる。この温度差を赤外線センサーで熱映像としてとらえ剥離部を検知する。



参考1
診断に関するアンケートの報告
はじめに

今回のアンケートは診断業の実態を調査するために、(社)建築・設備維持保全推進協会が去る平成2年1月31日に、建物保有者・ゼネコン・サブコン・設計・ビルメン・診断業者・外壁工事業者・屋上防水工事業者等600社を対象に実施した。
263社の回答を得られたが、その内従業員100名以下(100名以上の会社、特にゼネコンでは、診断を実施している者の実態がつかみにくいため、集計から除外した)で、かつ、診断を実施している149社についてまとめた。
質問1 会社概要  従業員数 2〜100名 149社平均24.5名である。

資本金は各社の記入方法がまちまちであるので集計せず。
質問2 診断専業かどうか
専業 20社
非専業者 129社

非専業者の内診断の専門部署があるか

ある 61社
なし 68社

質問3 診断が出来る部位

外壁 148社
屋上 140社
鉄部 104社
設備 25社
耐震 25社

質問4 診断技術者の人数

構造系 240名 内専任111名
非構造系 392名 〃 160名
設備系 68名 〃 27名
その他 98名 〃 27名

質問5 診断者の年齢構成

20代 126名(14.7%)
30代 285名(33.3%)
40代 308名(35.9%)
50代 113名(13.2%)
その他 25名(2.9%)
計 857名

質問6 診断者の現存保有している資格

1級建築士 60名(10.4%)
2級建築士 70名(12.2%)
建築設備士 15名(2.6%)
1.2級建築施工管理技士 306名(53.2%)
特殊建築物調査資格者 45名(7.8%)
建築設備検査資格者 21名(3.7%)
非破壊検査技術者 58名(10.1%)
計 575名

質問7 過去3年間の実績

 
S.62年件数
S.63年件数
H.元年件数
内無料の割合
1 外壁
3,372
4,142
5,018
51.2%
2 防水
4,392
5,013
6,079
53.2%
3 構造
413
257
315
9.9%
4 設備
148
214
318
4.4%

質問8 診断手法による過去3年間の実績

1 打音法 部分診断 4,454件(35.5%)
全体診断 3,825件(30.5%)
2 赤外線法 733件(5.8%)
3 打音・赤外線併用 1,239件(9.9%)
4 目視 2,281件(18.3%)
5 ロボット 0件(0.0%)
計 12,532件

質問9 資格者制度に関する意見(263社の集計)

1 資格制度を早く作ってほしい 88件
2 診断費用の標準化 6件
3 無料診断(サービス)を無くすべき3件
4 類似資格との整合、統合を図る 1件
5 通信施設に関する診断士も必要 1件
6 診断基準を作ること 1件
7 外壁・防水・構造・設備・その他の診断士とこれら全てを含む総合診断士とする 1件
8 定期検査の義務付け 1件
9 工事の施工能力のあるものが資格を取ることが望ましい 1件
10 ペーパーだけの資格者を作っても意味がない 1件
11 半端な資格制度になり易いので不用 1件
12 防水施工技能士で十分である 1件
13 一級建築士で十分 1件

第4章 タイル外壁等の剥落防止のための当面の対策

第1節 総論

タイル外壁、モルタル塗り外壁について、外壁の現状を正確に把握するための診断と、剥落の危険があった場合の改修等については、どの建物を、いつ誰が診断するかの基準が不明確あるいは、診断する人のレベルが必ずしも一定以上ではない、補修、改修工事は適切か等いくつかの問題点があるのは、第3章第2節でも述べたところである。
これらを問題点、原因及び対策として1つにまとめたものが図4.1である。
ここでは、当面緊急に実施すべき対策として、1) タイル外壁等の診断指針の策定、2) 診断に関し、一定の知識と経験を有する技術者の育成及び3) 診断機器の評定制度について検討することにより、建物所有者等のタイル外壁等の剥落防止対策に役立てるものである。

第2節 タイル外壁等剥落による災害防止のための診断指針の策定

1 タイル外壁等剥落による災害防止のための診断指針策定の基本的考え方

タイル外壁等剥落による災害防止のための診断指針策定の基本的考え方は次の通りとした。
(1) 目的

当面、タイル外壁、モルタル塗り外壁について、その剥落による災害の防止を目的として、技術的に実現可能な方策を提言する。

(2) 診断実施者

建物所有者または管理者は、本指針に基き、一定の能力を有する者に診断を依頼して診断を実施するもとのする。
この場合、診断の受託者は、一定の性能を有する機器を使用して診断を行うものとする。

(3) 診断の対象外壁

タイル外壁等の剥落により危害の及ぶと考えられる範囲内に、道路、通路、公共の広場等不特定または多数の人の利用する部分を有する外壁について、本指針に定める診断を実施するものとする。
なお、これ以外の外壁についても、本指針に基く診断を実施することが望ましい。

(4) 診断の方法

1) 当面、外観目視法、打診法、非破壊検査法とし、外観目視法、非破壊検査法は打診法と併用とする。
2) 非破壊検査法としては、本指針では当面、反発法(連続加振、振動測定方式も含む。)及び赤外線装置法を採用する。
3) 診断方法の現段階の適用限界を明示する。

(5) 診断の種類と時期の明示

診断の種類は、定期的外壁診断及び臨時外壁診断の2つとし、その実施の時期は次の通りとする。
1) 定期的外壁診断 建物竣工後2年以内に第1回目の診断を実施し、これ以降は3年以内毎に1回実施する。
2) 臨時外壁診断 タイルまたはモルタルの剥落の場合または地震等の後など必要に応じて実施するものとする。

(6) 診断のレベル

診断のレベルとして次の2つを考える。

診断レベルI 全体の外観目視+部分打診法等
診断レベルII 全面打診法または全面的非破壊検査法と部分打診法の併用

(7) 診断のレベルと実指時期

診断のレベルと実施時期は次の通りとする。
1) 定期的外壁診断

建物竣工後、2年以内に第1回目の診断レベルIの診断を実施し、これ以降3年以内毎に1回診断レベルIを実施するものとし、問題があれば、次に診断レベルIIを実施するものとする。
但し第1回目の定期的外壁診断については、必要に応じて診断レベルIに加えて接着強度測定を実施するものとする。
なお、建物竣工後10年前後の定期的外壁診断においては、診断レベルIIを実施するものとし、必要に応じて接着強度測定を併せれ実施するものとする。

2) 臨時外壁診断

タイルまたはモルタルの剥落の場合または地震等の後など必要に応じて、診断レベルIまたは診断レベルIIを実施するものとする。

(8) 判定基準

建設省建築物の耐久性向上に関する総合技術開発プロジェクトの成果である、「外壁タイル張り仕上げの劣化診断指針」及び「外壁セメントモルタル塗り仕上げの劣化診断指針」の判定基準を参考に安全側に設定する。

(9) 建物所有者等の点検

建物所有者または管理者は、定期的診断とは別に定期的に外観目視による点検を実施するものとする。

(10) 建物所有者への報告の統一と記録の保管の明示

2 タイル外壁等剥離による災害防止のための診断指針の内容

タイル外壁等剥落による災害防止のための診断指針の内容は、別紙1の通りとする。



別紙1

「剥落による災害防止のためのタイル外壁、モルタル塗り外壁診断指針」
第1章 総則

1 目的
本指針は、タイル外壁、モルタル塗り外壁を有する建物について、建物所有者または管理者が実施すべき定期的診断及び臨時診断に係る実施の時期、診断の内容等を明らかにするとともに、建物所有者または管理者から依頼を受けて診断を実施する技術者に対して診断方法の選定基準、診断方法の限界、タイルまたはモルタルの剥落の危険性の判断基準等を明らかにすることにより、タイル外壁、モルタル塗り外壁の適切な診断を実施し、もってタイルまたはモルタルの剥落による災害の防止を図ることを目的とする。
2 適用範囲
本指針は、タイル外壁、モルタル塗り外壁を有する既存または、今後建設される、鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造等の建物のうち、劣化、地震等によるタイルまたはモルタルの剥落により、災害を生じる危険のある外壁について適用する。
なお、タイルまたはモルタルの剥落による災害を生じる危険がないと判断される外壁についても、極力本指針を適用するものとする。
3 用語の定義
本指針で用いる用語の意味を次のように定める。

浮き(剥離): タイル外壁の場合については、タイルと張付モルタルとの界面、張付モルタルと下地モルタルとの界面、下地モルタルと躯体コンクリートとの界面相互、モルタル塗り外壁の場合については、仕上げモルタルと躯体コンクリートとの界面相互の接着が不良となり、隙間が生じ部分的に分離した状態を言う。
ふくれ: タイル張り層または仕上げモルタルの層の浮きが進行し、面外方向に凸状に変形が増大し、肉眼で確認ができる状態になった浮きを言う。
劣化: 物理的、化学的、生物的要因により物の性能が低下することを言い、地震や火災による性能低下を含まない。
外壁診断: 外壁の浮き、ふくれ、ひびわれの状態、躯体とモルタル部の接着強度等を測定することにより、タイルまたはモルタルの剥落の危険の有無を判断し、危険と判断した場合はその対応策について助言することを言う。
定期的外壁診断: 本指針に定める方法により、定期的に実施する外壁診断を言う。
臨時外壁診断: 本指針に定める方法により、タイルまたはモルタルの剥落があった場合及び大規模な地震、火災の罹災後に臨時的に実施する外壁診断を言う。
影響角: タイルまたはモルタルの剥落による危険の及ぶ範囲を示すもので、タイルまたはモルタルの剥落の危険のある外壁の各部分について、縦2、横1の割り合いの勾配で引き下した斜線と壁面となす角を言う。
補修: 劣化、災害等により、タイルまたはモルタルの剥落の恐れのある外壁の部分を原状または実用上支障のない状態まで回復し、タイルまたはモルタルの剥落の危険の拡大を防止する処置を言う。
改修: 劣化、災害等により、タイルまたはモルタルの剥落の恐れのある外壁の全面の機能や性能を初期の水準またはそれ以上に回復させるために外壁を改装し、併せてタイルまたはモルタルの剥落による事故も防止しようとする処置を言う。

4 「災害危険度」の大きい壁面
タイルまたはモルタルが、劣化、地震等により剥落し災害を起こす危険の大きいタイル外壁、モルタル塗り外壁(「災害危険度」の大きい壁面)を、次の通り定める。
当該壁面の前面かつ当該壁面高さの概ね2分の1の水平面内に、公道、不特定または多数の人が通行する私道、構内通路、広場を有するもの
但し、壁面直下に鉄筋コンクリート造、鉄骨造等の強固な落下物防御施設(屋根、庇等)が設置され、または植込み等により、影響角が完全にさえぎられ、災害の危険がないと判断される部分を除くものとする。
5 定期的外壁診断及び臨時外壁診断の実施
タイル外壁、モルタル塗り外壁を有する建物の所有者または管理者は、その建物の用途、規模、階数を問わず、最低限、本指針で定める「災害危険度」の大きい壁面について本指針に定める、定期的外壁診断及び臨時外壁診断を実施しなければならない。
なお、「災害危険度」の大きい壁面以外の壁面についても、本指針に定める、定期的外壁診断及び臨時外壁診断を実施することが望ましい。

第2章 診断方法、診断実施者及び診断機器

第1節 診断方法

1 総論

診断の方法として、1) 外観目視法、2) 打診法、3) 反発法及び4) 赤外線装置法の4つを採用する。
但し、外観目視法、反発法及び赤外線装置法については、打診法と併用するものとする。
なお、上記以外の診断方法については、今後タイルまたはモルタルの浮きにつき、一定の検知率を有する方法が開発され次第、本指針に採用するものとする。

2 診断方法の種類

2.1 外観目視法

外観目視法とは、診断者が直接壁面に接することのできる箇所については肉眼により、診断者が直接壁面に接することのできない箇所については高倍率の双眼鏡、望遠鏡またはトランシットを使用して、外壁の浮き等を調査する方法を言う。

2.2 打診法

(1) 部分打診法

外壁のうち、通常特に剥落の危険の大きいと思われる部分について部分的に打診を実施する方法である。足場やゴンドラ等を使用せず手の届く部分を実施する場合と、足場やゴンドラ等を使用して部分的に実施する場合とがある。

(2) 全面打診法

ゴンドラや足場等を利用して、外壁の全面を打診する方法である。

2.3 反発法

反発法による診断とは、シュミットハンマー等を用いてタイル面等に一定の衝撃を与え、その衝撃により生じたはね返りの大きさを自動的に記録し、反発度または音圧の違いによってタイル等の浮きの有無や程度を調査する方法である。

2.4 赤外線措置法

赤外線装置法による診断とは、タイル等の剥離部と健常部の熱伝道の違いによる温度差を赤外線装置により測定し、タイル等の浮きの有無や程度を調査する方法である。

2.5 外観目視法、反発法または赤外線措置法と部分打診法の併用

外観目視法、反発法または赤外線措置法については、部分打診法と併用するものとする。

3 診断方法の適用限界

3.1 外観目視法の適用限界

外観目視による調査法には、次のような限界があることを念頭において調査を実施しなければならない。
1) 外形上の異常がある場合の発見は可能であるが、外形上異常が発生していない浮き等については発見できないこと。
2) 外形上の異常が存在しても、光の具合や障害物等により見落す恐れがあること。

3.2 打診法の適用限界

打診法には、次のような適用限界があることを念頭に置いて調査を実施しなければならない。
1) 測定結果を客観的数字として表すことができないこと。
2) 概ね厚さ40mm以上の場所にある剥離を検知することが困難であること。

3.3 反発法の適用限界

反発法による診断には、次のような適用限界があることを念頭に置いて調査を実施しなければならない。
1) 厚さ40mm〜70mm以上の部分の剥離を検知することが困難であること。
2) 調査対象璧の裏側の状態により、誤診する場合があること。
3) ロボットの場合、窓回り、凹凸部周辺では探知ができない場合があること。
4) ロボットの場合、適用できる高さに限界があること。
5) ロボットの場合、風等の影響により測定誤差を生じる場合があること。

3.4 赤外線装置法の適用限界

赤外線装置法による診断には、次のような適用限界があることを常に念頭に置いて調査を実施しなければならない。
1) 季節、天候、時刻、気温、壁面の方位、カメラ距離、仕上げ材の色調、建物の冷暖房機器の発熱等の影響を受けること。
2) 雨や風の強い日の測定が困難であること。
3) 壁面と赤外線装置の間に樹木等の障害物があると測定できないこと。
4) 機器、画像の処理方法による結果の差異が大きいこと。
5) ベランダや庇等の突起物がある場合は、測定が困難であること。

4 診断方法の選定

診断技術者は、診断すべき建物の立地、規模、形態等及び上記の各種の診断方法の適用限界を踏まえて、適正な診断方法及び診断時刻等を選定しなければならない。
第2節 診断技術者

1 建物所有者または管理者より委託を受けて外壁診断を行う技術者

建物所有者または管理者より委託を受けて、本指針に定める外壁診断を行う者は、外壁診断に関して一定の知識と経験を有する技術者とする。
第3節 診断機器

1 本指針に定める外壁診断に使用する機器

本指針に定める外壁診断に使用する機器は、浮きの検知について、一定以上の性能を有するものでなければならない。

第3章 診断のレベル、内容及び結果の判定

第1節 総論

1 診断のレベル

診断のレベルは次の診断レベルI及び診断レベルIIとする。

診断レベルI 次のいずれかによる。

1) 外観目視による壁面全体のひび、浮き等の調査+部分打診法
2) 外観目視による壁面全体のひび、浮き等の調査+部分的な赤外線装置法と部分打診法の併用または部分的な反発法と部分打診法の併用による浮きの測定

診断レベルII 全面打診法または全面的な赤外線装置法と部分打診法の併用もしくは全面的な反発法と部分打診法の併用による浮きの測定

2 予備調査

診断レベルIを実施する場合または診断レベルIを実施しないで診断レベルIIを実施する場合には、まず予備調査を実施しなければならない。
第2節 予備調査

1 予備調査の意義

予備調査は、診断レベルIまたは診断レベルIIの診断を実施するための準備として行う調査であり、測定の箇所や診断方法、時期等を選定し、診断費用の見積りを行うための調査である。

2 予備調査の実施者

予備調査は、外壁診断に関する一定の知識と経験を有する技術者が実施するものとする。

3 予備調査の内容

(1) 予備調査の内容は、次の通りとする。

1) 人的災害危険度の大きい外壁の決定
2) 過去の修繕歴の調査

管理者よりのヒアリング、修繕の記録の調査を行うとともに、部分的な張替や樹脂注入の痕跡の有無を目視により観察する。

3) 過去の診断記録の有無

管理者よりのヒアリング、診断の記録の調査を行うとともに、記録があればその内容を調査する。

4) タイル外壁の場合のタイル張り工法の確認

タイル外壁の場合には、管理者よりのヒアリングや図書により、タイル張りの工法を確認する。

5) 建物の履歴や使用法、地域環境の特徴の調査

(2) 予備調査者は、上記の調査結果に基き、診断箇所の決定、診断方法の選定と診断計画の作成及び診断費用の見積りを行うものとする。

第3節 診断レベルI

1 診断レベルIの診断内容

診断レベルIにおいては、壁面全体について、タイルまたはモルタルの剥落、白華現象及びひび割れ等を外観目視法により調査するとともに、上記の異常部分及び通常特にタイルまたはモルタルの剥落の危険が大きいと考えられる箇所の浮きについて、部分打診法または部分的な赤外線装置法と部分打診法の併用もしくは部分的な反発法と部分打診法の併用により測定する。

2 外観目視による調査項目

外観目視による調査項目は、次の通りとする。
1) 剥落
2) 欠損
3) 白華現象(エフロレッセンス)
4) ひび割れ
5) 錆水の付着
6) ふくれ
7) 浮き
8) 汚れ
9) 水濡れ

3 部分打診法等による浮きの測定

(1) 外観目視により、剥落、白華現象、ひび割れ等の異常の認められた、下記の部分については、1) 部分打診法、2) 赤外線装置法と部分打診法の併用もしくは部分的な反発法の部分打診法の併用のいずれかの方法により浮きを測定する。

なお、部分打診法については、ゴンドラ等を使用して実施することが望ましい。
1) 欠損または剥落したタイル、モルタルの周辺概ね1m以内
2) ひび割れ部の両側概ね1m以内
3) 白華部及びその上部概ね1m以内
4) 錆の流出部及びその上部概ね1m以内

(2) 外観目視により、異常の認められない場合でも、特にタイルまたはモルタルの剥落の可能性が大きいと思われる下記の部分については、1) 部分打診法、2) 部分的な赤外線装置法もしくは部分的な反発法と赤外線装置法、反発法では明確な判断ができない部分についての部分打診法の併用のいずれかの方法により浮きを測定する。

1) 開口部周辺概ね1m以内
2) 笠木、窓台等の他の材質と接している部分概ね1m以内
3) 出隅部分、パラペット上端、庇及び窓台部分概ね1m以内
4) コンクリート打継部及びエキスパンションジョイント部周辺概ね1m以内

(3) 上記以外の部分についても、ひび割れの状況等により危険と判断される部分については、適宜測定するものとする。

4 診断レベルIの測定結果の判定基準

診断レベルIの測定結果の判定は、下記の(1)、(2)を標準として診断実施者が行うものとする。

(1) 下記のいずれかに該当する場合は、診断レベルIIを実施するものとする。

1) 1m2以上のまとまった、タイルまたはモルタルの剥落箇所が1箇所以上存在する場合
2) ひび割れが、壁面に全面的に発生している場合
3) ふくれが2箇所以上存在する場合
4) 部分打診法等による探査の結果、浮きの面積が探査面積の30%以上または浮きの面積が3m2以上まとまった箇所が2箇所以上存在する場合
5) その他、異常が認められる場合で、タイルまたはモルタルの剥落による災害防止の観点より、診断レベルIIを実施すべきと判断される場合。

(2) 上記(1)のいずれにも該当しない場合

剥落箇所、ひび割れ箇所、浮きの箇所等について補修を行う。
第4節 診断レベルII

1 診断レベルIIの意義

診断レベルIIは、壁面全体につき、剥落の危険の箇所を検知するため行う。

2 診断レベルIIの内容

診断レベルIIにおいては、外観目視法により壁面全体について、タイルまたはモルタルの剥落、欠損、白華現象、ひび割れ等を調査するとともに、1) 全面打診法、2) 全面的な赤外線装置法もしくは全面的な反発法の赤外線装置法、反発法では明確な判断ができない部分についての部分打診法の併用のいずれかの方法により、浮きの測定を行う。
但し、診断レベルIを実施した結果、診断レベルIIを実施する場合は、外観目視による調査は要しない。

3 診断レベルIIの測定結果の判定

診断レベルIIの測定結果、発見されたふくれ、浮きについては、全て危険なものと判定し、補修または改修を実施するものとする。

第4章 定期的外壁診断

1 定期的外壁診断の意義
建物の外壁仕上げは建物の劣化を保護するという重要な意義を有するが、建物のうちで、常に日射、風雨、汚染空気等に晒され、最も厳しい環境条件に置かれている部分であり、さらに、タイルまたはモルタル等の剥落により死傷事故にもつながる部分である。
そこで、必要があれば外壁仕上げに補修、改修を施すことが、災害の防止はもとより、建物の耐久性の向上に資することになるが、このためには常に外壁のタイルまたはモルタルの浮き、ひびわれ等の状況を定期的に把握することが不可欠であり、ここに定期的外壁診断の意義がある。
すなわち、定期的外壁診断の意義は、外壁の不具合を未然に防止(予防保全)し、建物の耐久性を向上させるとともに、災害の防止の資するところにある。
2 定期的外壁診断のレベル
定期的外壁診断のレベルは、本指針で定める時期を除き、診断レベルIを実施するものとし、本指針の定める基準に従い必要があれば、直ちに診断レベルIIを実施するものとする。
3 定期的外壁診断の時期と診断レベル

3.1 本指針施行後に新築された建物の定期的外壁診断の時期と診断レベル

本指針施行後に新築された建物の場合の定期的外壁診断の時期及び診断レベルは、建物竣工後2年以内に第1回目の定期的外壁診断として診断レベルIを実施するものとし、以下、3年以内毎に1回、診断レベルIを実施するものとする。
また、建物竣工後10年前後の定期的外壁診断については、診断レベルIIを実施するものとする。
なお、第1回目の定期的外壁診断及び竣工後10年前後の定期的外壁診断については、必要に応じて診断レベルIまたは診断レベルIIの実施に加えて、接着強度を測定するものとする。

3.2 本指針施行2年以前に建設された建物の定期的外壁診断の時期と診

断レベル

本指針施行の2年以前に建設された建物については、早急に診断レベルIを実施するものとし、この診断以降の定期的外壁診断については、3.1に準じるものとする。
なお、この第1回目の定期的外壁診断及び竣工後10年前後の定期的外壁診断については、必要に応じて診断レベルIまたは診断レベルIIの実施に加えて、接着強度を測定するものとする。

3.3 本指針施行前2年未満に建設された建物の定期的外壁診断の時期と

診断レベル

本指針施行前の2年未満に建設された建物については、3.1に準じるものとする。

第6章 臨時外壁診断

1 臨時外壁診断
次のような場合は、建物の所有者または管理者は定期的外壁診断とは別に、早急に臨時外壁診断を実施するものとする。

(1) 壁面の一部が剥落した場合
(2) 地震があった場合または火災に罹災した場合で、壁面に、ひび割れ、ふくれ等の異常が認められる場合

2 臨時外壁診断のレベル
臨時外壁診断のレベルは、次の通りとする。

(1) 壁面の一部が剥落した場合 診断レベルII
(2) 地震があった場合または火災に罹災した場合 診断レベルI

3 臨時外壁診断と定期的外壁診断
臨時外壁診断を実施した場合は、これ以降の定期的外壁診断の実施の時期は、臨時外壁診断の実施時期を起点として3年以内毎とすることができる。

第7章 建物所有者または管理者の点検

1 建物所有者または管理者の定期的点検
建物所有者または管理者は、随時、災害危険度の大きい外壁についてその外観を観察し、異常の早期発見に努めなければならない。

第8章 診断の報告と記録

1 建物所有者または管理者への報告
診断技術者は診断の終了後、建物所有者または管理者に、次のような項目を記載した報告書を提出するものとする。

(1) 建物概要
(2) 診断対象外壁
(3) 診断の実施時期、時間、天候条件
(4) 診断のレベル、方法
(5) 診断結果 危険箇所の図示等
(6) 判定
(7) 剥落の危険があると判断した場合は、必要処置の助言
(8) 診断責任者氏名
(9) 写真等の参考資料

2 外壁診断結果の記録と保管
診断技術者は、外壁診断結果につき、建物所有者への報告書とは別に、一定の様式にまとめ、これを保管し、次回の診断の参考に供することにより、より適切な診断に資するとともに、データの蓄積を図り、診断技術の向上に役立てることとする。
第3節 外壁仕上診断技術者の育成

1 外壁仕上診断技術者育成の必要性

最近、外壁落下事故が頻発しているが外壁落下事故の再発を防止するためには、適切な診断方法及び基準に基き外壁の浮き等の現状を診断し、適切な改修等を施すことが不可欠である。
このためには、今後、適切な診断方法、診断体制を整備することが必要であるが、外壁等の診断を行う者については、外壁の劣化、診断方法、診断機器及び補修・改修工法等に関する知識と、診断に関する十分な技能を有する者が極めて少く、外壁等の維持保全を十分に実施できる体制が整備されていない現状にある。
したがって、早急に建築に対する知識と外壁仕上診断に精通した技術者を育成する必要がある。

2 外壁仕上診断技術者育成の方策

外壁仕上診断に係る的確な人材を育成するため、次のような点を踏まえた育成方策の制度化等を検討する必要がある。
1) 外壁仕上診断に関する計画、実施業務の確立とその振興を図る。
2) 外壁仕上診断の計画、実施及び助言に必要な知識及び技能についての範囲、内容、水準を明らかにし、外壁仕上診断技術者の技術の向上に資する。
3) 診断の責任体制の確立を図る。
4) 外壁仕上診断技術者のもとに診断従事者(技術者予備軍)を集結させ、外壁仕上診断技術者に実務を指導させることにより、人材の育成に資する。
5) 外壁仕上診断技術者を活用することにより、診断及び広く建築・建築設備の維持保全に関する知識の普及、啓発に資する。

3 外壁仕上診断技術者育成のための講習等

1) 外壁仕上の診断について、公益法人が講習等を行い、診断の計画、実施及び必要処置の助言を的確に行い得る一定の知識及び技能を有する技術者を育成する。
2) 講習等においては、診断に関する一定の実務経験を有する者に対して、診断の方法、技術、判定等に関する知識及び技能並びに診断に必要な建築に関する知識等を付与するものとする。
3) 外壁仕上診断分野における技術開発の進展に対応するため、定期的に講習等を行い、新たな知識及び技能の付与に努める。
4) 講習等を受講した技術者の建物所有者等への周知徹底に努める。

第4節 診断機器の評価、認定に関する基本的方針

1 診断機器の評価、認定の目的

診断機器については、技術の進歩により、多様なものが使用されており、今後もこの傾向は続くものと考えられる。
しかし、機器により、診断の品質は大きく左右されているのが現状である。
そこで、これらを一定の基準に基き、公益的機関が評価、認定を実施することにより、外壁等の診断の品質の確保及び機器の開発促進に資することを目的とする。

2 評価、認定制度案の概要

(1) 評価、認定の実指機関 公益法人
(2) 評価、認定の対象

1) 外壁診断用の赤外線装置及びその解析システム
2) 反発法採用の外壁診断機器
3) 超音波採用の外壁診断機器
4) その他外壁診断機器

(3) 評価、認定の基準

診断については、一定の試験体を使用し、浮き等の検知率が一定程度以上である等の基準に合致したものを評価、認定する。

(4) 評価、認定の更新と診断技術者等への普及

1) 技術の進歩に対応するため、3年毎に評価、認定の更新を行うこととする。
2) 診断技術者及び建物所有者等に広報する。

第5章 タイル外壁等剥落防止のための設計・施工上の留意事項

第4章においては剥落事故防止のための当面の対策として診断等について述べたが、本章においては、剥落事故の発生しにくい適正な施工が行われるよう、タイル外壁及びモルタル塗り外壁について、設計及び施工時において留意すべき事項について、別紙2のとおりまとめた。
具体的には、躯体設計、躯体処理、モルタル施工及び推奨すべきタイル張り工法等、設計の際に配慮すべき事項及び工期管理、下地面のチェック等、施工管理上の事項について述べてある。



別紙2

タイル外壁及びモルタル塗り外壁の剥離防止のための設計・施工上の留意事項

1 目的
タイル外壁・モルタル外壁の工事に於て落下事故防止のためには、単にその工事のみ言及するのではなく、設計上及び施工管理上の配慮も合わせて考える必要がある。
ここでは、その重要な点を明らかにし、剥離事故防止を図ることを目的とする。
2 適用範囲
鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造の建物のうち、外装をモルタルまたはタイル仕上げとする場合に適用する。
3 用語の定義
本章で用いる用語の意味を次のように定める。

伸縮調整目地:幅が延び縮みする目地で、温度変化や水分変化あるいは外力などによる建物や建物各部の動きによる変形の影響を少なくするために設けられる目地。
ひび割れ誘発目地:コンクリートの収縮及び温度・乾湿によるひび割れを「決めた箇所」に発生させるためにコンクリート壁に設置する目地。
PC版先付け工法:プレキャストコンクリート版製造時に型枠ベッド面にタイルを並べ、コンクリート打設することによりタイルとコンクリートを一体化する工法。
型枠先付け工法:建築現場の型枠にタイルを並べ、コンクリート打設することによりタイルとコンクリートを一体化する工法。
マスク工法(ユニットタイル改良積み上げ張り):ユニットタイル裏面にモルタル塗布用のマスクをかぶせて張付けモルタルを塗り付け、マスクを外してからユニットタイルを叩き押えして張り付ける工法。
モザイクタイル張り:下地面に張り付けモルタルを塗り、追いかけて表紙張りのモザイクユニットタイルを叩き押えして張り付ける工法。
改良積み上げ張り:精度の良い下地を作り、タイル裏面に比較的薄い(5〜10mm程度)張り付けモルタルを塗り、タイルを張り付ける工法。
改良圧着張り:張り付けモルタルを下地面に塗り、これが硬まらないうちにタイル裏面に同じモルタルを塗ってタイルを張り付ける工法。
密着張り:張り付けモルタルを下地面に塗り、これが硬まらないうちにタイルを押えつけタイル張り用振動工具を用いてタイルに振動を与えタイルを張り付ける工法。

* 従来、目地部に盛り上がったモルタルをこて押えし、そのまま目地仕上げとする工法を密着張りと定義してきたが、深目地によるタイル剥離事故の危険性があり、ここでは定義を変更した。

直張り工法:コンクリート躯体面にモルタルによる下地こしらえをしないで直にタイル張りする工法。
突き付け工法:目地幅をとらないでタイルどうしを突き付けて納める方法。

4 設計上の留意事項

4.1 設計

設計に当たっては以下の点に留意する。

(1) 変形の少ない剛な躯体設計を行う。
(2) 伸縮調整目地を設けない大壁面へのモルタル塗及びタイル張りは行わない。
(3) 金属笠木の使用等により、モルタル裏面、タイル裏面に水が回らない設計とする。

4.2 伸縮調整目地の設置

原則として、伸縮調整目地を以下の条件で設置するものとする。

(1) 設置場所

・コンクリート打継部(水平方向)
・3〜4m毎(垂直方向)
・曲面・パラペット、外階段等で躯体挙動の大きい壁面 1〜2m毎
・開口部周辺
・他部材との取り合い部
・柱型周囲、柱間

(2) 設置上の注意事項

・ひび割れ誘発目地の設置箇所には必ず伸縮調整目地を設ける。
・適切な幅、深さを確保する。

 
 

・タイル仕上げを汚染しないシーリング材を選択する。
・タイル割り付けに合わせた位置に設置する。
4.3 躯体処理

コンクリート面にモルタルを塗布する場合は、表面清掃を行いモルタルの接着性を良くするようにしておく。

4.4 モルタル塗り(タイル下地モルタル、モルタル塗り外壁)

一回のモルタル塗り厚は、原則として7mm以下とし、全塗り厚は25mm以下とする。それ以上の厚さを必要とする場合は何らかの方法により、物理的な留め付けを行う。

4.5 タイル張り工法の選択

以下の工法を推奨する。
なお、それ以外の工法を採用する場合は、管理を十分行うこととする。

(1) PC版先付け工法・型枠先付け工法

これらの工法は最も安全な工法であり、剥離の危険度は小さい。

(2) 手張り工法

以下の改良工法を推奨する。

・モザイクタイル……ユニットタイル改良積み上げ張り 但し、25mm以下のタイルはモザイクタイル張りとする。
・外装タイル…………1)大きさ―3丁掛、4丁掛厚手のタイル(厚さ20mm以上) 改良積み上げ張り改良圧着張り
2)その他のタイル(小口平〜2丁掛等) 改良積み上げ張り 改良圧着張り 密着張り

タイル裏面にモルタルを塗布する工法はタイル接着のバラツキが小さく安全な工法である。従って、できるだけタイル裏面にモルタルを塗布する工法の採用が望ましい。
今後は、工場生産によるタイル張りまたはモルタルを使用しない乾式工法によるタイル施工の開発・普及が望まれる。

4.6 タイル

タイルの選択は以下による。

(1) JIS規格製品によるもの、またはJIS A 5209 に適合するものとする。
(2) 材質一磁器質タイルまたはせっ器質とする。せっ器質については耐凍害性を確認のこと。
(3) 裏足は、蟻足型で以下の高さが確保されていること。

モザイクタイル…高さ0.7mm以上
外装タイル…高さ1.5mm以上

4.7 モルタル

現場調合モルタルは、以下の条件を満足すること。

(1) セメント 普通ポルトランドセメントとし、日本工業規格JIS R 5210 に合格するものを用いる。それ以外のセメントを使用する場合は特記による。
(2) 細骨材 川砂もしくはけい砂及びこれに準ずるものとし、清浄にして耐久的なもので有害量のごみ・泥土・有機不純物・塩分などを含まないものとする。

4.8 タイル目地及び目地材

タイルの目地及び目地材の選択に当たっては以下の条件を満足するものとする。

(1) 突き付け目地はしない。
(2) 深目地の禁止。

*目地深さはタイル厚の1/2以下とする。

(3) 骨材の入った目地材を採用する。

現場調合目地材…骨材の混入
既製調合目地材の採用

5 施工管理上の留意事項

5.1 工程管理

工程計画に従い、タイル工事の計画を立て作業者及び資材の手配を進めて計画通りに作業の進行を図る。(無理な作業計画を立てない。)
特に以下の条件を満足すること。

(1) 下地モルタルの施工…コンクリート打設後最低2週間養生後、行う。
(2) タイル張り…下地モルタル施工後最低2週間養生後、行う。

5.2 モルタル施工後のチェック

モルタル塗り仕上げ及びタイル張り下地モルタルは施工後、下記の項目の検査を行う。

(1) モルタルの浮き・ひび割れ・仕上がり面の不良などの欠陥
(2) モルタルの効果及び乾燥の程度
(3) 下地モルタル面の汚れ・レイタンス(タイル張り前にチェックする)

点検の結果モルタルに異常を認めた場合は、工事監理者に報告するとともに、その指示に従う。

5.3 施工

建設省建築工事共通仕様書及び日本建築学会建築工事標準仕様書を参考にし左官工事、タイル工事を行う。

5.4 検査

工事終了後、以下の検査を行う。

(1) 打診 モルタルの硬化を見計らって全面にわたり打診する。
(2) 接着力試験 モルタルの強度が出たと思われるときに試験を行う。

引張強度は、4kg/cm2以上とする。

第6章 タイル外壁等の剥落事故防止のための対策の今後の課題

第1節 行政上の対応
外壁の定期的診断については、次の対応を実施する必要がある。

(1) 国の示した方針に基づき定期報告対象建築物の拡大を図る。
(2) 定期報告において外壁診断の十分な実施を徹底する。
(3) 定期報告の対象とならない建築物については、防災査察を通じて、特定行政庁による診断実施の指導を推進する。

第2節 技術の開発と統計データの整備等

1 総論

第4章で述べた、外壁剥落事故の防止対策は緊急のものであり、この他に今後、以下に述べるような対策を講じていくことが外壁剥落事故の防止上不可欠である。

2 技術開発

(1) 設計技術の開発

外壁の剥落を防止するような設計や万一、剥落しても危害が及ばないような防御施設を設置したり、建物をセットバックしたりするような設計技術の開発が今後とも必要である。

(2) 施工技術の開発

タイルやモルタル等の剥落を防止する施工技術の開発については、総合建設業、専門建設業等の開係業界や関係学会、協会等の研究機関が努力を続けているが、これらの研究成果の集約など今後とも一層の努力が必要である。

(3) 外壁の診断技術の開発

タイル外壁、モルタル塗り外壁の診断技術(診断機器も含む)について、今後一層の技術開発を行い、より、精度の高い、かつ、建物所有者の費用負担を軽減するような技術を一般化することが必要である。
また、現在、石張り、カーテンウォールなどの外壁仕上げについては、診断技術が必ずしも整備されていないため、今後、これらの外壁の診断技術の開発も不可欠である。

(4) 補修、改修技術の開発

現在、補修、改修技術については、一応確立しているが、今後ともより安全な工法の開発が必要である。
また、工事後の検査方法については必ずしも整備されていない状況であるため、工事後の検査方法について整備を図る必要がある。

3 総計データの整備

近時、ストックの増大は著るしいものがあり、安全で優良な建築ストックの形成は、高齢化社会の到来等を控えて急務の課題であるが、外壁に限らず、建築物の維持保全に対する関心の高まりは最近のものであるため、これらに係るデータは極めて乏しいのが現状である。
今、外壁の落下事故事例について見れば、今後落下の原因と時期等の統計的整備を行うことにより、より安全な外壁の設計、施工、診断、補修、改修の実施につながるのであり、また、劣化の時間的経緯等のデータがあれば、不具合が生じる前に適切な費用で適切な対応が可能になる。
そこで、外壁に限らず、広く建築物の維持保全に係るデータの整備を官民をあげて行っていくことが今後極めて重要である。

4 診断業者等の整備と関係業界等の連携

建築物は、複合物であり、これに関係する業界等は多数にのぼる。
外壁のタイル仕上げを見ても、建物所有者、設計事務所、施工業、左官業、タイル製造業があり、また、メンテナンス業、診断業、事故があった場合の損害保険業から研究者、建物の利用者まで密接に関係している。
外壁の剥落事故の防止のためには、広く建築物の維持保全について、これらの関係者が一同に会し協力していくことが一層必要であり、今回の不幸な事故を一過性のものとして終らせるのではなく、今後関係者が一致協力して、継続的に技術開発や、互いの情報交換、フィードバックを進めていくことが不可欠である。
同時に、診断業者や改修業者の整備育成をはじめ、相談窓口の設置等も検討すべき重要な課題である。


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