静岡の空から広がる世界の輪

静岡の空から広がる世界の輪

 「すずと、小鳥と、それからわたし、みんなちがって、みんないい。」これは私の大好きな金子みすゞの詩の一片だ。

 今からさかのぼること約1年前。遠路はるばる、日本から遠く離れたアメリカから飛行機を利用してアクレスが我家にやって来た。彼は私と同じ中学生。ホストファミリーとして外国人を受け入れたのは、私が「同じ年代の外国の中学生と触れ合ってみたい。」と母に懇願したからだ。そうは言ったものの「言葉がちゃんと伝わるだろうか。」「相手が困った時は、どう対応すればよいだろうか。」等と頭の中で不安な気持ちが渦巻いていた。母も同様に「家庭料理が口に合うかしら。」「私もお父さんも英語は喋れないからお兄ちゃん頼むわよ。」などと一抹の不安を感じていた。しかし、時間は予想以上に早く流れ、対面の日を迎えた。国際交流センターの一室で彼と出会った。彼があまりにも背が高いので、天井を見上げてしまった位だ。私よりも2、30㎝も身長がある。家族の全員、予想以上の長身に思わず目と目を見合わせた。すると、彼は流暢な日本語で「ヨロシクオネガイシマス」と簡単な挨拶をし、大きな手を差し出して握手を求めてきた。その瞬間、不安は安堵に変わった。互いが打ち解けるまで、思ったほど時間はかからなかった。彼と一緒に学校生活を送るだけでなく、アメリカの中学生のライフスタイルや流行しているもの、時には発展途上国と先進国における諸問題など向上心溢れる話もした。

 ある夜、家族で近くのショッピングセンターに出掛ける機会があった。おもちゃ売り場の前を通ると、アレクスは立ち止まったまま動かなくなった。彼は、目を凝らしてゲーム機を見つめていた。それは、私も以前から欲しくてたまらなかった商品だった。彼は私に「アメリカよりも格段に安い。どうしても買いたい。」と言ってきかなかった。しかし、彼の所持金は日本円で買うには足りず、米ドルでは充分にあった。そこで、彼と共にサービスカウンターに行き、米ドルでも購入できるか確認したが無理だった。彼の落胆は大きかった。国が違っても、欲しいものは変わらない、また手にすることが出来ず意気消沈する気持ちも共通していた。アレクスと一緒に経験した事柄を挙げると枚挙に暇がない。

 彼と出会えたのは、世界の交通機関が発達しているからだ。特に、飛行機の果たす役割は大きい。日本とアメリカのフライト時間は約十数時間である。飛行機は、国と国との短時間で往来することを可能にしている。遠い国も近い国も関係なく、身近に結ぶ架け橋のような存在だ。

 しかし、飛行機は私たちの生活を物理的に豊かにする存在だけだろうか。アレクスと私は背の高さも肌の色も、話す言葉も、物事に対する考え方も違う。金子みすゞが「みんなちがってみんないい」と表現した心情が、私には飛行機が国と国を結ぶ架け橋である真意と重なった。この地球上には、肉体的にも精神的にも文化的にも自分とは異なった人々が実にたくさん住んでいる。「みんないい」とすることがこの星に存在するすべてのものに対する理解を深めていくのだ。そして、この理解を私たちに気付かせてくれる契機が飛行機や世界各国の空港なのだ。飛行機や空港があることで、私たちは様々な国の人々と出会うことができ、交流を深めることができる。

 国土交通省というと、私たちは直ぐに私たちが暮らす日本の河川や海、森林、陸地の乗り物の整備を思い浮かべる。しかし、先日社会科の先生から貰った国土交通省のパンフレットを見ると、国土交通行政の5つの目標の中に、競争力のある経済社会の維持・発展という項目があった。つまり、人と人、地域と地域、国と国がもっとたくさん交流し、競争しながらお互いに発展できるように、道路・空港・港湾・鉄道や都市などの機能の整備と記されていた。

 平成21年3月に静岡県にも富士山静岡空港が開港する。県内に空港が出来れば海外主要都市と直に交流できる。空港を通して世界中の色々な国と静岡県が結びつくのだ。今よりも様々な国から多くの留学生や経済人、観光客が静岡県へ訪れるだろう。そして、静岡県についての文化や教育が世界に発信される。一方、静岡県民も今より海外へ積極的に訪問することが可能になる。地球規模の友情の輪を育んだり、産業間での経済効果も期待され、魅力的な静岡県になるに違いない。静岡県が海外への玄関口になれば、私たち学生も容易に旅することができる。さらには、静岡県が外国の都市との経済競争により参入しやすくなる。そして、静岡県自体が空を通じて世界に大きく羽ばたくことになる。

 富士山静岡空港を通して、私とアレクスが再会できる日も必ずや近い将来やってくる。 

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