国土交通省 国土交通研究政策所 Policy Research Institute for Land, Infrastructure, Transport and Tourism

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 国土交通政策研究所は、国土交通省におけるシンクタンクとして、内部部局による企画・立案機能を支援するとともに、 政策研究の場の提供や研究成果の発信を通じ、国土交通分野における政策形成に幅広く寄与することを使命としています。
  

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 ● 報告書概要


 高齢者住宅整備による介護費用軽減効果

◆要旨

1. 背景

日本の人口は、現在急速な高齢化を経験しており、2000年までには北欧諸国並み高齢社会を迎えると予想される。その中でも介護が必要となる確率の高い後期高齢者層の急増が見込まれる。
一方、従来要介護高齢者を支えてきた家族機能も大きく変化すると予想される。女子の労働参加の進展、イエ意識の変化、一人暮らし老人や老夫婦のみ世帯の増 加等により、在宅介護の担い手不足が懸念される。こうした中で高齢者に豊かで人間的な生活を保証するには、可能な限り「自立生活」を続けられるような住 宅・社会資本の整備が急務といえる。

2. 研究の枠組み

本研究では、「障害高齢者の自立能力の向上を目指した住宅を整備することにより、介護費用の軽減がどの程度期待できるか」について定量的な分析を行った。 住宅の新築時に高齢者仕様とすることにより、将来要介護となった場合の介護費用の軽減がどれだけ見込めるかを算定した。
高齢者住宅の仕様として、杖歩行程度の高齢者がほぼ自立できるように、段差解消及び手すり設置の基本仕様をほどこした住宅(高齢者住宅T)、重度障害の高 齢者を対象として、Tの仕様に玄関スロープ設置やトイレ・浴室面積拡大などを付加した住宅(高齢者住宅U)2タイプを設定した。
この設定のもとで、高齢者住宅への移行によって介護量がどう軽減するかを算定し、それを介護市場価格で評価することにより、高齢者住宅整備による介護費用軽減額を求めた。

3. 算定結果

建築費用のアップ分は、高齢者住宅Tが54万円、高齢者住宅Uが400万円となった。一方、介護費用軽減額は高齢者住宅Tでは280万円、高齢者住宅Uでは453万円となった。従って費用対効果(b/c)は、高齢者住宅Tが5.2倍、高齢者住宅Uが1.1倍となった。
次に、将来人口推計を用いて日本全体での介護費用軽減効果を求めた。1995年以降に65歳以上となる年齢層から順次高齢者住宅Tに入居すると仮定した場 合のストック効果の積み上がりを計算したところ、2025年までに高齢者住宅の整備に伴う建築費用のアップ分は総額8.2兆円となる一方、介護費用の軽減 額は累計で19.7兆円に上るため、差し引き11.5兆円の経済効果が期待できる結果となった。

4. 分析

試算の結果、高齢者住宅整備によって介護費用軽減効果が十分見込めることが明らかになった。費用対効果は高齢者住宅Tで大きくなったが、これは新築段階で ごくわずかの出費をして高齢者仕様としておくことにより、将来の介護負担を大きく軽減できることを示している。特に重要な点は間取り(プラン)配慮の必要 性であり、居寝室を1階に設置し、サニタリーを隣接させることが、要介護となったときの住宅の利用能力、ひいては介護軽減効果に決定的な違いもたらすこと が明らかとなった。
こうした経済効果は、国民経済全体で見た場合でも同様に認められる。今後は急速な高齢化の流れの中で、高齢者を支えるための国民の負担は急増せざるを得ないが、将来の負担を少しでも軽減するためにも高齢者住宅の整備が急務といえよう。
住宅ストックの積み上がりには時間を必要とするので、高齢化の進展を待ってからでは手遅れになりかねない。加えて、超高齢社会においては、住宅投資のため の余裕も失われるおそれがある。残された短い時間をフルに活用し、今から積極的に高齢者住宅ストックの充実に取り込む必要がある。


◆発行

PRCNOTE第4号/平成5年5月

◆在庫

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◆詳細

表題、目次及び研究の概要 (PDF:479KB)
第1章急増する高齢者人口と変貌する家族関係 (PDF:223KB)
1急増する高齢者人口
2要介護高齢者の状況とその処遇
3家族関係の変化
4介護労働力の見通し
5高齢者介護の将来像
第2章研究の枠組み (PDF:220KB)
1研究の目的
2分析の前提
3研究の理論的枠組み
第3章高齢者住宅の設計及び費用計算 (PDF:379KB)
1高齢者住宅の設計
2高齢者住宅の建設費用
3補論:改築の場合
第4章住宅整備による介護費用軽減効果の算定 (PDF:419KB)
1介護コスト軽減の考え方と計算方法
2計算結果
3費用便益分析
4結果の分析
5補論:費用便益曲線及び最適投資点の決定
第5章国民経済全体から見た場合の効果 (PDF:134KB)
1基本的考え方と計算方法
2計算結果
3結果の分析
第6章まとめ (PDF:106KB)
巻末資料 (PDF:270KB)