国土交通省 国土交通研究政策所 Policy Research Institute for Land, Infrastructure, Transport and Tourism

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 国土交通政策研究所は、国土交通省におけるシンクタンクとして、内部部局による企画・立案機能を支援するとともに、 政策研究の場の提供や研究成果の発信を通じ、国土交通分野における政策形成に幅広く寄与することを使命としています。
  

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 ● 報告書概要


 貯蓄率の動向とその見通し

◆要旨

1. 先進国中で最も高いとされる貯蓄率を背景とした日本の高い投資余力も、急速に進展する高齢化により、今後は疑問符がうたれる。そこで、今後の貯蓄率の動向を予測する必要が生じるが、そのためには現在の高貯蓄率の要因を知ることが不可欠である。しかし、貿易不均衡の遠因でもあるこの高貯蓄率が、どのような要因によってその高さを維持してきたか、また今後、高齢化により貯蓄率が実際どの程度影響を受けるのかに関する理論づけは有識者によって異なり、統一的な見解はない。
これらの学説や見解を収集することにより、日本の貯蓄率の変化を展望し、将来も大規模な社会資本整備のための投資が可能か否かを見極める手がかりとしたい。

2. まずは、どの貯蓄率をみるのか、日本の貯蓄率は本当に高いのか、について検証してみた。その結果、ここではSNAベースの家計貯蓄率をみることにし、また、減価償却を欧米と同じ再調達費用ベースに置き換えるなどの調整を行っても、日本の貯蓄率は高いことが可能か否かを見極める手がかりとしたい。

3. それでは、日本の高貯蓄率はいったいどのような要因から決定されているのであろうか。分析のため、諸説を見てみた。やはり上記のように経済学者の間でもさまざま見解があり、それぞれの関心から仮説を立てている状況である。しかしながら、その中でもよく取り上げられ、現在もその有意義が認められる有力な要因としては、

(1)所得の高成長率
家計の予想以上の所得の増加が消費に至るタイムラグのために貯蓄率が高くなる

(2)ボーナス制度
日本で非常に普及しているボーナス制度が貯蓄しやすくしている

(3)人口の年齢構成(ライフサイクル仮説)
若い人が貯蓄し、老人は負の貯蓄率をするというもので、日本は今まで若年人口が多かったから貯蓄率が高かった

が挙げられるであろう。

4. なかでも、現在の貯蓄率における標準的仮説であり、日本において今後の人口高齢化からも、もっとも影響が大きいであろうことから、多く研究されている3.のライフスタイル仮説について詳しく分析した。
その結果、ライフスタイル仮説は基本的に日本においても成り立つが、問題は高齢者が貯蓄を一生のうちにすべて取り崩すか、「意図せざる遺産」や「利他的動機による遺産」により取り崩しが少ないかという、「高齢者の貯蓄の取り崩し度合い」にある。この仮説に関する争点は、ほぼこの点に絞られることがわかった。

5. また、その論争に終止符が打てないのは、高齢者による貯蓄行動について、得られるデータが不足している点にもある。具体的には以下の2つである。

(1)子供と同居の老人のデータ
現在の高齢者は過半数(63%)が子供と一緒に住んでおり、これらのグループは世帯のデータとしてしか統計には表われない。このグループのデータがないことには全体としての高齢者の貯蓄行動を明確に語ることはできない。

(2)要介護高齢者の貯蓄取り崩しデータ
日本では年金受給者も老後のために貯蓄を積み増していることは、データでも存在する。しかし肝腎な、大病をしてから必要となる莫大な医療費用のための貯蓄の取り崩しを表わすものはなく、また、そんな調査などさせてもらえないという統計の弱点がある。高齢者の貯蓄行動をみるとき、このグループの数と取り崩し具合をとらえなければ不十分なものとならざるをえない。

6. 経済審議会2010年委員会報告「2010年への選択」では、現在14%前後である貯蓄率が、2000年には11 3/4%程度、2010年には、9%程度にまで低下するとの見通しが示されているが、ライフスタイル仮説によって高齢化の影響を試算した例のなかには、これよりかなり悲観的な見通しとなっているものもある。加えて、経済成長力の低下や、ボーナス制度の変化による影響を考慮すると、今後、貯蓄率は、経済審議会の見通しを上回るペースで低下していく可能性も大きい。ただし、その程度については、高齢者の貯蓄取り崩し度合いや、ボーナス制度の今後の動向について、どのような考え方をとるかにより、大きく左右される。

7. 一方、一国の貯蓄率が下がったとしても、投資収益力さえあればボーダレス化した国際金融市場から資金調達できるという意見がある。また、貯蓄が投資を制約するというような因果関係で考えるべきではないとする指摘もある。
しかしながら、現在のアメリカのように外国に国債を買ってもらって社会資本へ投資するには非常に高い利子を負うことになり、それには将来の増税が必要であり、国民負担が大きくなりすぎる憾みがある。やはり、高貯蓄率で国内資金に余裕のある今のうちに大規模な社会資本整備を行っておく必要があり、また、世界的に日本の貿易不均衡改善が求められる今こそ、政策努力の一環としての公共投資を通じた国内投資機会の増大に努めるべきである。
なによりも社会資本投資は、将来のストック社会における「生活大国」実現のための必要条件であり、それが可能であるタイムリミットは予想以上に差し迫っている。


◆発行

PRCNOTE第7号/平成5年9月

◆在庫

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◆詳細

詳細(PDF:1.7MB)