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● 報告書概要
貯蓄率の動向とその見通し ◆要旨 1. 先進国中で最も高いとされる貯蓄率を背景とした日本の高い投資余力も、急速に進展する高齢化により、今後は疑問符がうたれる。そこで、今後の貯蓄率の動向を予測する必要が生じるが、そのためには現在の高貯蓄率の要因を知ることが不可欠である。しかし、貿易不均衡の遠因でもあるこの高貯蓄率が、どのような要因によってその高さを維持してきたか、また今後、高齢化により貯蓄率が実際どの程度影響を受けるのかに関する理論づけは有識者によって異なり、統一的な見解はない。 2. まずは、どの貯蓄率をみるのか、日本の貯蓄率は本当に高いのか、について検証してみた。その結果、ここではSNAベースの家計貯蓄率をみることにし、また、減価償却を欧米と同じ再調達費用ベースに置き換えるなどの調整を行っても、日本の貯蓄率は高いことが可能か否かを見極める手がかりとしたい。 3. それでは、日本の高貯蓄率はいったいどのような要因から決定されているのであろうか。分析のため、諸説を見てみた。やはり上記のように経済学者の間でもさまざま見解があり、それぞれの関心から仮説を立てている状況である。しかしながら、その中でもよく取り上げられ、現在もその有意義が認められる有力な要因としては、 (1)所得の高成長率 (2)ボーナス制度 (3)人口の年齢構成(ライフサイクル仮説) が挙げられるであろう。 4. なかでも、現在の貯蓄率における標準的仮説であり、日本において今後の人口高齢化からも、もっとも影響が大きいであろうことから、多く研究されている3.のライフスタイル仮説について詳しく分析した。 5. また、その論争に終止符が打てないのは、高齢者による貯蓄行動について、得られるデータが不足している点にもある。具体的には以下の2つである。 (1)子供と同居の老人のデータ (2)要介護高齢者の貯蓄取り崩しデータ 6. 経済審議会2010年委員会報告「2010年への選択」では、現在14%前後である貯蓄率が、2000年には11 3/4%程度、2010年には、9%程度にまで低下するとの見通しが示されているが、ライフスタイル仮説によって高齢化の影響を試算した例のなかには、これよりかなり悲観的な見通しとなっているものもある。加えて、経済成長力の低下や、ボーナス制度の変化による影響を考慮すると、今後、貯蓄率は、経済審議会の見通しを上回るペースで低下していく可能性も大きい。ただし、その程度については、高齢者の貯蓄取り崩し度合いや、ボーナス制度の今後の動向について、どのような考え方をとるかにより、大きく左右される。 7. 一方、一国の貯蓄率が下がったとしても、投資収益力さえあればボーダレス化した国際金融市場から資金調達できるという意見がある。また、貯蓄が投資を制約するというような因果関係で考えるべきではないとする指摘もある。
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◆発行 | PRCNOTE第7号/平成5年9月 |
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