国土交通省 国土交通研究政策所 Policy Research Institute for Land, Infrastructure, Transport and Tourism

サイト内検索 English
 国土交通政策研究所は、国土交通省におけるシンクタンクとして、内部部局による企画・立案機能を支援するとともに、 政策研究の場の提供や研究成果の発信を通じ、国土交通分野における政策形成に幅広く寄与することを使命としています。
  

TOP研究成果調査研究成果報告書(年度別) > 報告書概要

 ● 報告書概要


 都市交通における自転車利用のあり方に関する研究

◆要旨

 第1章においては、研究の基礎となる自転車に係る現況について言及しており、その中で我が国の都市の移動手段として、短距離の移動においても自動車のシェアが非常に高いことを指摘した。その傾向は地方都市において顕著であるが、交通渋滞が頻発している大都市圏においても、やはり自動車の利用割合は高く、さらにその自動車依存の傾向は経年的にも増加していることを指摘した。いうまでもなく、自転車は利用に当たって二酸化炭素を排出せず、自動車に比べて環境にやさしい移動手段であり、それら自転車の特性について記述し、従来の施策の問題点についても言及・整理を行ったものである。
 これらのことから、自動車から自転車の代替が有効であるという示唆が得られる。

 また、本研究では、自転車利用により期待されるメリットとして、これまであまり議論されてこなかった視点から整理を進めた。従来の自転車利用に関するメリットとしては、地球環境への負荷低減や、公害防止など、どちらかと言えば公共側が受容するメリットが中心となっていた。しかし、今後、自転車利用の促進において、国民的な支持を求めるとすれば、公共側だけではなく、利用者である個人の効用向上という、より広範な視点からのメリットを整理し、これまでの施設整備などに加えて施策に反映させることが、有効かつ必要であることを論じた。
 これらのメリットについては、第2章「自転車利用により期待される効果について」において、総合的に整理を行った。特に、自転車の利用者自身が受けるメリットとして、これまで比較的整理がなされてこなかった分野である健康増進効果や、自動車から自転車に代替することによる経済的な効果、あるいは近・中距離帯における自転車の時間節約によるメリット等について言及し、総合的に整理を行った。

 第3章においては、自転車の利用促進に向けた取り組みと課題について、これまでのハード整備についてはもちろん、ソフト施策を中心とした利用促進のための施策を数多く整理・提案した。また、国内外の先進的事例の整理については、同時にその課題についても言及した。
 自転車の利用促進を図るための施策において最も重要なことは、自転車をどのように位置付けるかである。すなわち、単なる端末の補助的な交通手段として捉えるのか、都市の交通手段の主要な一つとして捉えるのかという決定である。
 欧米における自転車の位置付けは、一般に我が国のそれに比較して高く、自転車が一つの交通手段として明確に位置付けられている。一方、我が国では、例えば自転車の走行空間が、歩道であるか車道であるかについて、道路交通法上の位置付けが曖昧であることなど、自転車をとりまく環境として、十分な位置付けがなされていないことは否めない。このことは、今後、我が国における自転車利用のあり方を検討する際の重要な視点となろう。

 本論では、自転車に関する施策において、ハードの施設整備には時間的、及び空間的な制約があり、主としてハード整備にのみ自転車利用促進策を頼ることは実現可能性に限界があることを指摘した。すなわち、ソフト面での施策展開が有効であると考えられるが、しかし、逆にソフト施策に一辺倒に頼ることには、多額の予算を要しないという利点が期待できる一方で、根本的な対応策とならない場合もあることに言及した。
 自転車は、都市交通における有効な移動手段として、十分な機能を持つものと考えられるが、その利用促進策を図る際には、ハード施策とソフト施策とを相互に連携させ、一体的・総合的に講じられることが、自転車利用施策を効果的に促進する上で必要であると考えられる。

 また、自転車を都市交通手段の一つとして位置付け、自転車の一層の有効活用を図るに当たっては、以下の点にも留意することが有効と考える。
 一つには、前段で、自転車施策検討時の重要要素と整理した自転車の位置付けに関する決定に関して、特に行政側の意識・認識を啓発していくための取り組みが重要であることである。
 現在は、放置自転車という眼前の大きな問題があることもあり、自転車は、どちらかと言えば迷惑な存在として認識されがちであることも想像される。効果的な施策展開に向けては、行政だけではなく、住民等を交えて検討を進めていくことが重要であることは言うまでもないが、施策展開において先導的な役割を果たしうる行政の意識を高めることは、必要かつ有効と考えられる。
 また一つには、総合的な交通体系に則り、自転車の活用のあり方を検討すべきであることが挙げられる。上述の自転車の位置付けとも関連するが、総合交通体系における一要素として自転車を明確に位置付けた検討が重要である。
 我が国の特に都心部においては、公共交通機関網がかなり高度に整備されているという実態があり、地方部においても、LRTや公共バスなどの取り組みを含め、公共交通機関に期待される役割は低くない。公共交通機関や自動車、自転車等の特性に勘案して、相互の適切な分担を行うと共に、今後は、相互連携の一層の強化も視野にいれ、総合的な交通体系として検討を進めることが重要である。
 さらには、適正な自転車利用により期待される副次的な効果にも期待したい。交通計画の検討に当たっては、交通体系だけではなく、居住地や通勤・通学先などの土地利用体系と一体的に検討することが重要であるが、昨今の少子高齢社会の進展過程において検討が進められているコンパクトシティの形成においても、自転車は有効なツールであり、自転車利用とコンパクトシティの形成とが相乗効果的に連関する側面も想定される他、例えば都市内観光の活性化にも資することなど、様々な効果が期待される。

 

◆キーワード

自転車の利用促進、地球環境、温暖化防止、交通渋滞、放置自転車、交通安全

◆発行

国土交通政策研究第58号/平成17年11月

◆在庫

在庫有(重量:560g 厚さ:12mm) 報告書を郵送希望の方はこちら

◆詳細

詳細(PDF:4.7MB)

◆事後評価

内部評価シート(PDF:12KB)
有識者評価シート(PDF:8KB)