第4回土地収用制度調査研究会 議事概要



           
日時: 平成12年9月28日(木)14:00〜17:10
場所: 中央官庁合同会議所
議事: 公共事業の課題と土地収用法制度見直しの基本的方向性
出席者: 法学界、環境、マスコミ等の分野の有識者19名
議事要旨:
  フリートーキングにおける意見の概要は以下のとおり
  公共事業関係の政策評価という問題として、事業計画の策定段階で、住民参加や情報公開を行い、事業採択に際しての事前評価を行おうということが討議されたところである。事業計画の策定段階で住民参加や情報公開が充分に行われることを前提に、事業の認定の段階では手続の効率性というものを考えるべきではないか。
  公共用地の取得は、土地所有者、財産所有者の理解を得て行うのが一番良いのであって、収用というのは必要悪であり、公共性を振りかざすのではなく、新しい枠組みで考えていくべきである。
  公共事業については、雨が降らなくて断水すれば行政の責任と批判され、ダムを作ろうとすれば無駄遣いだという批判をされるというようなこともあり、その評価は単純な問題ではない。
  事業の遅延によるコストというものがある、という議論がされているが、それは、収用委員会などの手続を迅速化することだけではなく、住民への説得などをしっかりやることにより、事業全体で見たときに、トータルで迅速化されるということ、あるいは、前段階の手続をきちんとやることにより、後の方の手続を迅速化してもよいということである。 それとともに、起業者に住民に対する事業の説明を義務付けた場合に、現在の実態として、起業者が十分な説明力を持っているかということを議論する必要がある。
  事業についての説明の対象は、個別の地権者にとどまらず、地域空間の整備という観点からみるべきではないか。現行の制度では、都市計画についてはそういう空間整備という観点からの計画づくりという枠組みがある。これを土地収用法において考えたときに、地元市町村の役割をどう位置付けるかということが問題となる。従来は、市町村というのは機関委任事務法制の中で、事業認定庁の手足としてしか登場しなかったのであるが、地元意見の集約者、空間管理の責任者というような形で、地元自治体の責任ある見解というものを事業認定に反映させるようなことはできないか。
  現在、地方分権が行われているが、都道府県から市町村への権限委譲というのはわずかしかない。しかし、現場というのは市町村なのであって、住民からすれば国道、県道、市道の別なく、市町村が悪いと言ってくる。市町村長が前面に出るのであれば、それなりの相当の責任を持たなければ、地方分権は成り立たない。
  実態として市町村の役割というものは無視できないものになっているのであって、制度上もそれを明確にしたほうが、透明性の確保、責任所在の明確化に資するものと思われる。 もっとも、市町村を関与させるとした場合に、議会の関与をどうするかという問題がある。議会を関与させることによって、政治的に複雑化を招くことによって、結局はっきりした効果を持てなくなることもあるかもしれない。
  手続の円滑化・合理化を考えるときの問題点は、大きく2つに分けられるものと思われる。1つ目は、事業認定手続と収用裁決手続の役割分担が実態上不明確であることから生ずる収用委員会の場での問題と、2つ目は、役割分担を明確にしたとしても生ずる問題である。手続上の無駄がどこで生じているのかという整理が必要である。
  実際の事例で、住民に意見を求めたときに、なぜもっと早い段階で示してくれなかったのか、ということで反対運動がなされたものがある。そういうこともあるので、計画策定段階のなるべく早い時期に、情報公開とか住民参加とかを十分にすべきではないか。それによって、その後の事業認定の段階でも公益性の議論をやるというような無駄が無くなるのではないか。
  事業の前段において、十分な情報公開、住民参加を行うということを議論するに当たっては、単に説明会の義務化というようなことにとどまらず、情報公開、住民参加が実質的にどの程度効果をあげているかを評価しなければならない。そのための指標というものを設けるべきではないか。 まず、事業者がいろいろな形で事業のPR等をした場合に、どれくらい住民がそれを認識しているのか、どの程度認識しているのかを評価するということがある。 次に、住民参加といっても、どういう人たちが参加しているのかが問題となる。しばしば、町内会や自治会から声をかけると高齢の方ばかりというようなこともある。その地域社会で影響があると考えられる範囲において、年齢なり、社会的ないろいろな構成を反映した形での参加がどれくらい得られているかということを評価しなければならない。 さらに、そこで出された意見がどういう形でその事業、計画に反映されているかという評価があり得る。 事業者の側は十分説明したと言っているのに、住民の側ではやっていないではないかということが起きるのであるが、共通の尺度がないために、どこまでやったのかということが議論できないことで問題になるのだと思う。
  多数当事者の案件については、そのために、起業者だけでなく収用委員会も膨大な金をかけて膨大な努力をし、職員も毎日徹夜をしてやっている。しかし、そのような努力が住民の権利の擁護につながるものものだったのかといえばはなはだ疑問である。そういう意味で、今回の手続面での改正に期待をしたい。
  補償基準を法令化すべしという議論については、最高裁判例では憲法29条3項に基づいて直接補償請求が可能であるということになるので、補償の詳細な内容を法律に定め切るのは無理というか、意味が無いということになる。仮に定めたとしても後から新しい内容が出てくるという可能性もある。 生活再建措置に関する規定を置くという議論については、明文化が必要であるとは思うが、その措置にはさまざまなものがあり、どこまでが法的義務で、どこまでが努力義務なのかというのは微妙なところがある。
  これからの都市づくりというものは、既成市街地が中心となるが、その場合には、今以上に代替地やその他の措置が必要になってくる。一方で、地方公共団体の財政状況が厳しい現状では、あらかじめ代替地を抱えるということは難しいので、もっと体系的なあっせんの仕組みを整備する必要がある。
  今回の被収用者のアンケートの中に、起業者から「収用するとただ同然になる」との脅迫をされたというような意見があるが、脅迫は論外にしても、現行制度上、任意買収のプロセスと収用のプロセスが法的に切れていることに問題がある。我が国では全く任意買収をしなくても収用できるのであるが、ドイツの建設法典では任意買収が法的に義務付けられており、収用手続はそれをベースに補償の額を算定するということになっている。制度の適正化、透明化という見地から、補償に関する基準をできるだけ明確にすべきである。
  ミティゲーションに必要な土地を収用対象に加えるということについては、かなり多様なケースが想定され得るので、対象を絞り込み、個々に検討する必要がある。
  廃棄物処理センターに収用適格を与えるとするならば、適正な履行を図るための措置はどのように講じられているのか。収用権を与えるのであれば、適正な履行の措置を担保しておかなければならない。
  PFIの対象事業の中には、公共性・公益性に該当するものだけではなく、収益施設といったものも含まれている。PFI選定事業者に収用権を付与する場合、その辺の歯止めといったものを検討する必要がある。
  現在、廃棄物、ごみ問題が大変大きな社会問題となっており、国の方も規制強化に取り組んでいる一方、処分場等の施設が非常に不足している。こういう中で、廃棄物処理センターやリサイクル施設というものを収用適格事業とすることは、大変必要性が高いと思う。
  環境アセスメント法でミティゲーションが評価項目に入ってくる場合、適切なミティゲーションが計画されているということを考慮して、所管大臣が許可なりをするということになる。その場合には、その事業が許容されるためには、ミティゲーションが必要だという関係が個別には出てくるであろう。ただ、ミティゲーションは、環境保全の観点からはどんどんやるべきものということになるが、そのすべてに収用適格を認めるべきかどうかについては、一定の限界があるはずであり、そこの線引きが難しいのではないかと思う。
  仮に、ミティゲーションに必要な用地について収用適格を認めた場合、それがきちんと維持されていくかが問題となる。事業主体が国なり公共団体である場合にはそれほど心配ないであろうが、一般の企業の場合に、担保できるか疑問である。


[本議事要旨は暫定版のため、今後修正の可能性があります。]


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