国土交通省
 土地収用制度調査研究会報告
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はじめに

 土地収用法は、昭和26年に制定されて以来、約半世紀が経過しているものの、昭和42年以来抜本的な改正はなされていない。
 一方、社会情勢の変化により、公共事業の円滑な実施の確保等の見地から見て、現行土地収用法が必ずしも想定していなかった次のような現状に直面している。

(1)民間等による公共施設等の整備の増大、リサイクル施設など新種の事業の登場による伝統的公益概念の変更等、現行土地収用法が想定していた公益概念の変動、拡大が見られるようになったこと。
(2)厳しい財政事情を踏まえた、公共事業のより一層の効率化・迅速化の要請が強まっている一方で、他方、行政手続法の制定を踏まえた、収用手続の透明化、明確化が求められていること。
(3)公共事業に関する損失補償・損害賠償は、従来金銭補償を原則とし、現行土地収用法も金銭補償を原則としているが、生活再建補償などの補償の充実が必要となっていること。

 このような現状にかんがみ、各方面のご意見を踏まえつつ、現行土地収用制度の問題点を調査研究するため、建設省建設経済局長の私的研究会として、土地収用制度調査研究会は設置された。
 調査研究会の委員は、法学界、経済界、環境、都市計画、マスコミ、自治体、行政実務経験者、法曹界、不動産鑑定、NPO、収用委員会、事業者という各分野の有識者20名に委嘱された。
 調査研究会は、平成12年5月24日に第1回会議が開催され、12月25日の会議まで、6回開催された。また、法学の専門家5名よりなる法制小委員会が調査研究会に設けられ、調査研究会での議論の基本的方向を踏まえ、法制度の実現可能性の見地から、より具体的な検討を行うため、5回開催された。
 この間、調査研究会では、土地収用制度の現状を把握するため、建設省を通じて、被収用者162名及び関係団体110団体に対しアンケート調査を実施し、幅広い意見の聴取を行った。
 平成12年11月30日に、法制小委員会の検討結果が第5回会議に報告され、それを踏まえて調査研究会としての検討を行い、平成12年12月25日に、この調査研究報告を、取りまとめた。
 調査研究会としては、この調査研究報告の趣旨に沿い、速やかに土地収用制度の見直しが行われることを期待する。

第1 総論

1 土地収用制度見直しの必要性
 公共事業関連法制度の中で、土地収用法は、公共事業の用地取得に当たって地権者の同意が得られない場合に、当該土地を取得するための最後の法的手段を規定し、もって公共の利益の増進と私有財産との調整を図る法律であり、社会資本の整備に当たって重要な役割を果たしている。
 しかしながら、土地収用法は、昭和42年以来抜本的な改正がなされておらず、その後の社会経済情勢の変化を踏まえ、公共事業の抱える課題に適確に対応していくため、その見直しが必要となっている。

2 土地収用手続に関する見直しの考え方

(1)土地収用手続体系の基本的考え方
 土地収用法は、憲法第29条第3項の「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」を具現化したものである。
 土地収用法に定める土地収用手続は、事業認定に関する手続と収用裁決に関する手続に大別される。これを、憲法の上記規定に照らせば、前者は基本的に「公共のために用ひる」ものであることを認定する役割を担っており、後者は主として「正当な補償」を確定する役割を担っている。

(2)事業認定に関する手続についての見直しの考え方
 事業認定における事業の公益性の判断は、従来は、いわゆる公共事業であれば公益性の存在を推定し得たものが、昨今では環境問題や事業効果の観点も加わり、いわゆる公共事業であることだけでは、比較衡量した結果としての公益性の存在が必ずしも推定し得なくなっている。
 このため、事業の公益性に関しては、従来に比しより高度かつ複雑な判断が求められるようになってきている。このことから、事業認定に関する手続において、情報公開と住民参加の手続を保障することなどにより、その透明性・公正性・合理性を確保することが必要である。

(3)収用裁決に関する手続についての見直しの考え方
 一方、事業認定における事業の公益性についての判断が、(2)に記したような要件を満たした適正な手続により行われる限り、その後になされる収用裁決に関する手続において、重ねて事業の公益性について議論する必要はない。この段階に至って、事業の公益性の議論に時間や労力を費やすことは、その直接の費用に止まらず、事業により実現されるはずの公益が適切な時期に実現されないことによる社会的損失をも生むことになる。
 したがって、事業認定における事業の公益性の判断が、情報公開や地域住民の意見の反映が確保された適正な手続を経て行われる限り、(1)で記した本来の役割分担に沿って、収用裁決に関する手続について、その主たる目的である「正当な補償」の実現のために必要な手続の合理的かつ円滑な遂行が確保されるよう所要の見直しを行うべきである。

第2 今回の土地収用制度見直しにおいて実現すべき施策

次に掲げる事項について、土地収用法上所要の措置を講ずることが相当である。

1 事業認定手続きについて

(1)事業説明会の義務的開催

 起業者は、事業認定の申請前に、適切な場所、時期、周知方法等による事業の目的、内容等に関する説明会を開催しなければならないこと。

(理由)
 関係権利者等に事業内容を周知させ、その理解を深めることにより、事業認定手続の円滑適正な遂行を図るため、事業認定の申請前に、適切な場所、時期、周知方法等による事業の目的、内容等に関する説明会の開催を起業者に義務付ける必要がある。

(2)公聴会の義務的開催

 事業認定庁は、事業認定を行おうとする場合において、利害関係者からの申出があるときは、公聴会を開催しなければならないこと。

 (理由)
 事業認定は、事業の公益性を判断する処分であるが、従来は、いわゆる公共事業であれば公益性の存在を推定し得たものが、昨今では環境問題や事業効果の観点も加わり、いわゆる公共事業であることだけでは、比較衡量した結果としての公益性の存在が必ずしも推定し得なくなっているという状況にある。
 そのため、事業認定庁が申請を受けた案件に関する判断の適正を期するためには、様々な利害関係人から幅広く意見を聴取し、これを勘案することが必要であり、事業認定庁は、公聴会を開催しなければならないこととすべきである。
 なお、公聴会の主宰者について、職能分離の見地から、独立性のある審査官的な者であることが行政手続法の精神から望ましい。

(3)第三者機関による意見聴取
 事業認定庁は、事業認定を行おうとする場合には、事業認定庁が国土交通大臣の場合は社会資本整備審議会の、都道府県知事の場合は条例で定める機関の意見を聴くべきこと。

 (理由)
 事業認定の適正に対する国民の信頼を確保するため、中立的な第三者機関の意見を事業認定に反映することができる制度とすることが望ましい。
 意見を聴くべき第三者機関については、
1.事業認定庁が国土交通大臣(地方整備局長を含む。)である場合は、現行の公共用地の取得に関する特別措置法で公共用地審議会の関与を位置付けていることにもかんがみ、同審議会の後身である社会資本整備審議会とすることが適当であり、
2.事業認定庁が都道府県知事である場合は、地方公共団体の組織の自律性の確保を図りつつ、収用委員会とはその目的、権能、適性等が異なることを勘案し、具体の機関については、条例に委ねるべきである。

(4)事業認定理由の公表

 事業認定庁は、事業認定の告示に記載することにより、事業認定をした理由を公表すること。

 (理由)
1.事業認定は、土地所有者等の権利を剥奪し又は制限する処分の重要な前段階でもあり、また、これにより関係人は一定の行為制限を受けることから、実質的には、不利益処分の性格を帯びている。
 このため、行政運営における公正の確保と透明性の向上という見地から不利益処分について理由の付記を義務付けている行政手続法の趣旨等にかんがみ、事業認定庁は、事業認定の理由を公表することが相当である。
2.事業認定告示に記載する「理由の概要」は、事業認定をした事業が第20条各号(認定基準)に該当するものであることについて、その判断の基礎になった事実関係その他の事情を具体に示す等により、事業認定をすべき旨の判断に至った過程を理解できる程度に記載されるべきである。

2 収用裁決手続について

(1)土地・物件調書作成の特例

1.土地所有者及び関係人が多数であることにより、土地調書及び物件調書(以下単に「調書」という。)を事業認定が失効するまでの間に作成することに相当の困難がある場合又は
2.1人当たりの補償金見積額が僅少であるため、簡便な手続によることが合理的である場合
 としてそれぞれ政令で定める場合には、土地所有者及び関係人の立会い及び署名押印に代えて、以下に記載する手続に従い、調書の作成ができる制度を創設すること。

  (制度の概要)
1.起業者は、作成した調書を添付して、特例手続の申出書を対象土地等が所在する市町村長に提出する。
2.当該市町村長は、対象土地等の所在地等を1か月間公告し、その期間内、申出書及びその添付書類である調書を土地所有者等の縦覧に供する。
3.調書の記載に異議のある土地所有者等は、縦覧期間内に、市町村長に対し、その旨を記載し署名押印をした異議申出書を提出することができる。
4.市町村長は、公告・縦覧期間の終了後、公告・縦覧手続を経た旨を証する署名押印のある書面を起業者に交付する。
5.起業者は、裁決申請に際しては、調書にCの書面(Bの異議申出書の提出がある場合にあっては、更にその異議申出書)を添付する。
6.調書の証明力については、土地収用法第38条に規定するものと同じ取扱いとする。

 (理由)
1.現行の調書作成手続によれば、土地所有者等が多数である場合には、事業認定が失効するまでの間に調書作成手続を終えることは相当に困難があり、また、一人当たりの補償金見込額が僅少であると見込まれる場合には、煩瑣な手続を執らなければならないことの合理性には疑問があり、簡略な手続によることができることとするのが相当である。
2.具体には、土地所在地の市町村において1か月間の公告・縦覧を行って、調書の記載に異議のある者がその旨を申し出る機会を確保することとし、なお当該期間内に異議を申し出ない者については、調書についての土地所有者等の署名押印を要しないこととすべきである。これにより、土地所有者等の権利を損なうことなく、円滑に調書作成手続を進める方策となり得る。
 この特例手続を執ることができる場合は、政令で限定的に規定することとなるが、調書の作成は、一筆の土地を最小の単位として行われている実情にかんがみ、過去の事例を基礎とし、通常の場合の一筆の土地についての所有者数及び一人当たりの補償金の額の極限値を求め、これを踏まえて定めることも一案である。

(2)代表当事者制度の創設

 共同の利益を有する当事者が多数である場合には、収用委員会の審理に際し、自ら代表当事者を選定することができ、また、収用委員会は、代表当事者の選定をすべき旨の勧告をすることができること。

 (制度の概要)
1.共同の利益を有する多数の者は、その中から全員のために審理手続において当事者となる3人を超えない者を代表当事者として選定することができる。
  2.収用委員会は、共同の利益を有する者が著しく多数であり、かつ、審理の円滑な遂行を確保するため必要と認める場合には、当該共同の利益を有する者に対し、代表当事者の選定をすべき旨の勧告をすることができる。

 (理由)
1.収用委員会の審理においては、補償額の決定がその中心であるが、例えば、土地の共有者が多数存在する場合であっても、権利の目的たる土地は同一であり、それに対する補償金額が正当なものであることが各共有者の共通の利益であるといえる。
 したがって、そのような場合には、当該共有者が代表当事者を選定することができるよう措置すべきである。
 また、共同の利益を有する多数の当事者がいる場合には、代表当事者を選定することは審理の円滑かつ合理的な遂行に寄与することになる。したがって、そのような場合において必要があると認めるときは、収用委員会からその選定を勧告することができる旨明示することが相当である。
2.なお、代表当事者選定の強制については、収用手続は望まずして手続に取り入れられる当事者について行うものであるから、自らの意思で開始した手続の当事者を対象とする類似制度の存在を理由として、それに関する制度を設けることは相当でない。

(3)補償金払渡方法の合理化

 補償金等の払渡しについて、一定の日までに、現金又は郵便為替証書等を書留郵便に付して発送した場合には、権利取得裁決は、権利取得の時期までにその払渡しがないことを理由としては、その効力を失わないこと。
 郵便為替証書等の直接交付をした場合についても、権利取得裁決及び明渡裁決につき、同様とすること。

 (制度の概要)
1.起業者の責めに帰すことのできない事由により権利取得の時期までに補償金等の払渡しが困難である場合において、政令で定める日までに、補償金等を受けるべき者に対し、現金又は郵便為替証書等を書留郵便に付して発送したときは、権利取得の期日までにその払渡しがないことを理由としては、権利取得裁決は効力を失わない。
2.1の場合において、権利取得の時期までに補償金等の払渡しがないときは、起業者は、速やかに当該補償金等の払渡しのため必要な措置をとらなければならない。
3.権利取得の時期又は明渡しの期限までに、補償金等の払渡しのために、郵便為替証書等支払いについて確実性がある証書等を直接交付した場合についても、@と同様に権利取得裁決又は明渡裁決の効力を失わないこととする。

 (理由)
1.収用に伴う補償金等の払渡しは、「先補償・後取得」が基本であり、しかも、権利者等がいかに多数であっても、権利の範囲が明確である限り、各人にそれを払い渡さなければならないことはいうまでもない。このため、現行土地収用法は、権利取得の時期までに補償金等の払渡しをしなければ権利取得裁決を失効させることにより、その確保が図られている(第100条)。
 もっとも、権利取得裁決から権利取得の時期までは比較的短期間と定められる実情にあることから、その期間内に補償金等の払渡しを終えることが著しく困難である場合があることは否定できない。
 そこで、我が国の郵便事情を踏まえ、権利取得の時期前に到達することが確実と認められる政令で定める日前に、権利者等に対し、現金又は郵便為替証書等を書留郵便に付して発送すれば、仮に、権利取得の時期までにその払渡しがないときでも、そのことのみを理由としては、権利取得裁決の効力が失われないとすることには、合理性がある。
2.なお、1の措置による場合は、権利取得の時期までに補償金等の払渡しがないこともあり得るが、その際には、速やかに当該補償金の払渡しのための措置をとるべきことを起業者に義務付けることは、例外的な事態を最小限度にとどめるために必要である。
3.権利取得の時期又は明渡しの期限までに、補償金等の払渡しのため、郵便為替証書等支払いが確実な証書等を補償金等を受けるべき者に直接交付する場合は、未だ「弁済の提供」にとどまるとしても、受領者の意思によりその現金化を図ることができる状態にあり、その保護に欠けることにはならないから、仮に、補償金等の払渡しがないとしても、そのことのみを理由としては、権利取得裁決又は明渡裁決の効力が失なわれないこととするのが相当である。

(4)収用委員会審理における主張制限

 収用又は使用の裁決に関する収用委員会の審理において、事業認定が違法である等の主張を制限し得ることを条文上明確化すること。

 (理由)
 収用又は使用の裁決に関する収用委員会の審理において、土地所有者及び関係人から事業認定の是非に関する主張をされることが多いが、当該事項については、事業認定が無効であるというような極めて稀な場合を除き、裁決に影響を及ぼさない事項であると解されている。
 もし、そのような主張により円滑な審理が阻害されることになれば、ひいては事業遂行の遅延を来し、公共の福祉に反する結果を生ずることになる。審理の円滑な進行は、収用委員会の適切な手続指揮に待たなければ確保できないが、明文上、事業認定に関する主張は制限することができることを規定することは、その一助にはなると考えられる。

3 損失補償について

(1)生活再建措置の充実

 事業認定を受けた事業の起業者は、代替地、代替住宅、代替店舗等のあっせん、職業訓練のあっせん等に努めなければならないこと。

 (理由)
 金銭補償を原則とする損失補償だけでは、代替地の手当てが難しい、あるいは高齢者等の居住の確保が困難であるなどの事情から、生活再建に支障を来している事案がある。
 このため、公共事業に必要な土地等を提供することによって生活の基礎を失うこととなる者に対しては、移転後の居住や事業活動がなるべく支障なく継続できるよう、また、生活の激変になるべく早期に対応できるよう、多様な需要に対応したきめ細やかな措置を講ずべきこととすべきである。

(2)補償基準の法令化等

 土地収用法の補償に関する規定について、具体的な補償基準(細目)を政令で定める根拠規定を設けること。

 (理由)
1.収用委員会における審理は、相対立する権利者間の調整を行うものであり、その根拠、内容について明確化することは、具体的紛争の解決に資することになる。また、それにより、行為規範として、紛争の未然防止にも資するものである。したがって、収用委員会の裁決の内容の根拠を明示的に規定する必要がある。
2.損失補償は権利対価補償が基本であるが、それだけでは、特に高齢者等の場合においては居住の確保が困難な場合も見られる。移転後の居住がなるべく支障なく継続できるよう、きめ細やかな補償が必要であり、土地収用法の通常受ける損失の補償の例示として、居住上の損失に対する補償を加えるべきである。
3.事柄の性質上、基準の具体的な内容は、政令に委任することになるが、政令においては、原則として現行の閣議決定に即したものとすることも一案である。

4 補償金に関する仲裁制度の創設

 収用手続によらない紛争処理手続として、補償金の額のみに争いがある当事者間の紛争について、収用委員会の委員を仲裁委員とする仲裁制度を設けること。

(制度の概要)
1.収用適格事業の用に供するための土地等の取得に関する関係当事者間の紛争のうち、補償金の額のみを原因とするものについては、事業認定告示前に限り、関係当事者の双方は、都道府県知事に対し、仲裁を申請することができる。
2.申請を受けた都道府県知事は、仲裁を行うに適しないと認める場合を除き、収用委員会が推薦する3名の収用委員会の委員を仲裁委員に任命し、その仲裁に付する。

 (理由)
1.収用適格事業用地についての任意の買収交渉が不成立となった理由が補償金の額に限られる場合においては、収用委員会による収用手続の開始に至らなくとも、その委員が仲裁委員となって仲裁を行うことにより、簡易な手続により補償金の額に関する紛争の解決が図られることになれば、土地収用制度の目的を達成するに十分である。
2.なお、事業認定告示後においては、現行のあっせん制度と同様に、両当事者間において合意による紛争解決が図られる見込みは少なく、その紛争解決は収用委員会審理に委ねることが適当であることから、事業認定告示前に関係当事者の合意により申請したものに限るのが相当である。

5 収用適格事業について

(1)独立行政法人用施設

 独立行政法人が設置する庁舎等の直接その事務及び事業の用に供する施設に関する事業を収用適格事業とすること。

 (理由)
 独立行政法人は、独立行政法人通則法において「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業」(第2条第1項)を行う主体であるという位置付けがされているため、独立行政法人の事務・事業に直接供される施設については、一般的に公益性を有している。
 したがって、独立行政法人が設置する庁舎等の直接その事務及び事業の用に供する施設に関する事業を収用適格事業として位置付けることは、既定の収用適格事業に対比して、相当である。

(2)廃棄物処理センターのリサイクル施設等

 地方公共団体又は廃棄物処理センターが設置する廃棄物の再生施設(リサイクル施設 )に関する事業及び廃棄物処理センターが設置する廃棄物の処理施設に関する事業を収用適格事業とすること。

 (理由)
 本年の通常国会で成立した循環型社会形成推進基本法において、リサイクルの促進や適正な廃棄物処分の確保が循環型社会の形成のための中核をなすもの位置付けられたことから、その積極的な推進が急務となっており、また、廃棄物処理センターについては、その組織、業務に関する行政の監督等も廃棄物の処理及び清掃に関する法律により適切に担保されていることから、その信頼性は、地方公共団体と対比しても遜色のない存在と言える。
 したがって、廃棄物の再生施設に関する事業及び廃棄物処理センターが設置する廃棄物の処理施設に関する事業について、一般的に公益性を認めることができ、これらを収用適格事業として位置付けることは、既定の収用適格事業と対比して、相当である。

第3 引き続き検討すべき課題

 次に掲げる事項については、相当の必要性が認められるものの、その実現には、なお解決すべき問題が残り、引き続き検討を行うのが相当である。

1 事業認定手続について

(1)事業認定の条件付加

 事業認定に条件を付すること。

 (理由)
 事業認定についての土地収用法の守備範囲や事業認定庁の関与の限界等につき、なお慎重に検討すべき問題が残されているため、今後、更に検討を深めていく必要がある。

2 違法性承継の遮断規定について

 収用裁決の取消訴訟において、事業認定の違法をその理由とすることを許さない旨の規定を設けること。

 (理由)
 違法性の承継の遮断の可否ないしそれに関する規定の設置については、事業認定処分の手続と収用裁決手続との相互関係を含めた収用手続の全体構造の在り方、特に土地所有者等の位置付けや司法上の救済の必要性について、なお慎重に検討すべき問題が残されており、今後、更に検討を深めていく必要がある。

3 収用適格事業について

(1)PFI事業

 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(以下「PFI法」という。)に規定する選定事業(以下「PFI事業」という。)を、一律に収用適格事業とすること。

 (理由)
 PFI事業は、官民の適切な役割分担を踏まえて、民間の長所を活用しようとするものであり、元来、収用になじみにくい面があるのみならず、PFI事業の形態、特に公共の関与、行われる事業の公益性の確保については、PFI法の規定のみで十分とはいえず、PFI事業を一律に収用適格事業とすることは、現時点では適切でない。今後、事業の実績や収用に対するニーズを見極めつつ、中長期的課題として慎重に検討する必要がある。
 また、現状のPFI事業を一般的に収用適格事業として位置付けることは、広い意味での私的公用収用の議論につながっていく可能性があり、慎重に検討する必要がある。
 なお、個別法の中でPFI事業を位置付けることにより、結果として、特定のPFI事業が収用適格事業となることまでを否定するものではない。

(2)その他環境関係

 ミティゲーション(代償措置等)の用に供する土地の収用を認めること。

 (理由)
 ミティゲーションの範囲について、制度的にきちんとした手続がなく、取得後の利用形態、継続性の担保がなく、まず、環境利益、地権者の利益も含め、きちんとした計画プロセスを策定すべきである。ミティゲーションの用に供する土地の収用については、代替地収用と同様の問題をはらんでいるため、運用で対処すること、制度改正によって措置することのいずれも、現時点においては問題がある。
 ミティゲーション以外の環境保全のための土地の収用については、第3条第31号又は第32号の「施設」であるためには、必ずしも工作物の設置を必要とするわけではないから、国や地方公共団体が設置する限り、場合によっては現行法で読み得るため収用適格事業として追加する必要がない。
 よって、いずれも、今後更に検討を深めていく必要がある。

第4 その他

 第2及び第3に掲げた検討の結果以外に、公共事業の実施に関して、次のような意見があった。土地収用制度の調査研究を行う本調査研究会としては結論が出せなかったが、いずれも重要な問題なので、別途、それについて十分な議論の展開を期待したい。

 ○ 公共事業の実施に当たっては、国民、地域住民への早期の計画段階からの情報公開と住民参加が必要である。我が国の国土計画や土地利用計画では、住民参加や情報公開を踏まえた意見調整機能が不十分な場合があり、その手続及びその住民参加や情報公開の実質的内容に関する評価方法の整備が必要である。

 ○ 我が国の行政機関は、住民参加や情報公開の内容・方法が、一般的に極めて不十分・不得手と感ぜられる。住民参加や情報公開の改善、及び必要な人材の育成を図ることが課題である。

 ○ 公共事業が自然環境に与える影響を、評価し審査する運用基準をできるだけ明確化する必要がある。また、事業の環境への影響を回避・軽減するためのミティゲーション(代償措置等)が積極的に講じられるように、支援制度を検討する必要がある。

 ○ 我が国経済の国際競争力の強化という視点から、また、時間の遅れによる社会的損失を回避する視点からも、より一層円滑・効率的に公共事業を実施し、都市基盤を早期に整備していく方策の検討を深めることが必要である。

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