国土交通省
 高齢者の居住の安定の確保に関する基本的な方針(試案)
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 我が国においては、少子・高齢化の急速な進行に伴い、今後高齢者の存する世帯が急速に増加することが予測され、特に高齢者単身及び高齢者夫婦のみの世帯の増加が見込まれている。また、家族形態の変化、住宅に対する意識の変化等から、高齢者の賃貸住宅居住は増加しており、特に賃貸住宅での居住へのニーズの増大が見込まれている。
 その一方で、民間賃貸住宅においては、入居拒否等の高齢者の円滑な入居を阻害する事態が多く見られるほか、一人暮らしの高齢者については、緊急時への対応や病気になった際の支援が十分に行えない現状となっている。また、高齢者の住宅内の事故が多発しているにもかかわらず、公的な賃貸住宅については加齢対応構造等を備えた住宅の整備が進展しつつあるものの、それ以外の賃貸住宅における加齢対応構造等の整備は立ち後れており、当該整備に係る負担から今後も当該整備が充分には進まないことが見込まれている。
 この基本的な方針は、このような認識の下に、高齢者の居住の安定の確保を図るため、必要な事項を定めるものである。

一 高齢者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する基本的な事項

 国及び地方公共団体は、今後急速に増加すると見込まれる高齢者の存する世帯に対応し、地域ごとの住宅市場の実態に応じて、高齢者に係る賃貸住宅の確保を図り、高齢者の居住の安定確保のための必要な施策を講ずるよう努めるものとする。このため、特に居住の安定を図る必要がある高齢者単身及び高齢者夫婦のみの世帯を中心に、高齢者が入居し得る賃貸住宅を確保する観点から、高齢者の居住の安定確保に関する法律(平成十三年法律第二十六号。以下「法」という。)に基づき、登録住宅、高齢者向け優良賃貸住宅及び法第五十六条の事業(以下「終身賃貸事業」という。)について、高齢者、高齢者に住宅を賃貸する者(以下「賃貸人」という。)、宅地建物取引業者(宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六条)第二条第三号に規定する宅地建物取引業者をいう。以下同じ。)及び高齢者のための相談・情報提供等を行う者を中心に、趣旨・内容の周知を図ることにより、これらの制度の普及を図ることとする。加えて、これらの制度を利用することが見込まれる関係者からの相談に迅速に対応できるよう、必要な情報提供・相談体制の整備に努めるものとする。中でも、国は、高齢者居住支援センターの事務が適切に行われることとなるよう、適正な事務執行体制の確立が図られるよう努めるとともに、地方公共団体に対する支援を行い、あわせて高齢者、賃貸人、宅地建物取引業者、高齢者のための相談・情報提供等を行う者及び国民の意見聴取に努め、法に基づく制度の円滑かつ適切な運用に努めるものとする。
 また、国及び地方公共団体は、高齢者の居住の安定の確保を図る観点から、加齢対応構造等を備えた住宅の普及に努めるとともに、高齢者が安心して生活できる条件の整備を図りつつ、高齢者を円滑に受け入れる民間賃貸住宅、特に高齢者単身及び高齢者夫婦のみの世帯が居住できる加齢対応構造等を備えた民間賃貸住宅の戸数の拡大を図るため必要な施策を講ずるよう努めることとする。この場合において、地方公共団体は、所得が比較的少ない高齢者については、高齢者向け優良賃貸住宅との役割分担のもと、高齢者の身体機能の低下に対応した設備等を備えた適切な公営住宅(公営住宅法(昭和二十六年法律第百九十三号)第二条第二号に規定する公営住宅をいう。以下同じ。)の整備に配慮するとともに、地域の住宅事情等を踏まえつつ、住宅に著しく困窮する高齢者世帯の優先的な入居に配慮することが望ましい。
 また、地方公共団体、都市基盤整備公団(以下「公団」という。)、地方住宅供給公社(以下「公社」という。)その他の公的な賃貸住宅の整備を行う者は、高齢者に対する賃貸住宅の供給に当たっては、地域におけるコミュニティ形成及び世代間の交流に寄与するよう、公営住宅、公団住宅(公団が整備、管理及び譲渡を行う賃貸住宅をいう。以下同じ。)、特定優良賃貸住宅(特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律(平成五年法律第五十二号)第六条に規定する特定優良賃貸住宅をいう。)、高齢者向け優良賃貸住宅などの適切な整備が図られるよう努め、既存住宅の建替えに当たっても、買上げ、借上げ等の制度を活用し、整備主体にかかわらず、適正な種類の公的な高齢者に対する賃貸住宅が確保されるよう配慮することとする。

二 高齢者が入居する賃貸住宅の管理の適正化に関する基本的な事項

1 賃貸住宅の管理の適正化に関する事項

 賃貸人は、国土交通大臣が別に定める指針[PDF形式]に従い、賃貸住宅の管理を適正に行うことが望ましい。
 また、賃貸人は、当該賃貸住宅に入居を希望する高齢者や、当該賃貸住宅に現に入居している高齢者に対し、高齢者であることのみをもって入居を拒否し、又は賃貸条件を著しく不当なものとすること等の差別的な取扱いを行わないよう努める必要がある。また、当該賃貸住宅に係る賃貸借契約の目的を達成するため、当該賃貸住宅を適正に維持管理し、計画的に修繕を行うことが不可欠である。特に、高齢者が現に入居している場合には、当該高齢者の身体状況が入居期間の経過とともに変化すること伴い、当該高齢者が加齢対応構造等の整備を望む場合にあっては、通常の維持管理に支障のない範囲内で、可能な限りこれに対応することが望ましい。加えて、当該賃貸住宅において介護その他のサービス提供が行われる場合には、当該賃貸住宅に係る賃貸借契約と当該サービスに係る契約とを、別個の契約として明確に区分する必要がある。なお、当該賃貸借契約において、家賃の全部又は一部を前払金として受領する場合は、安定的かつ継続的な事業運営の確保を図るとともに、当該前払家賃の算定の根拠並びに算定の前提となった期間の中途で退去する場合(死亡の場合を含む。以下同じ。)の返還金の有無及びその算定の方式についてあらかじめ明示することが望ましい。

2 登録住宅の管理の適正化に関する事項

 登録住宅の賃貸人は、法の規定に基づき知事に登録した事項を真正な内容に保たなければならないことはもとより、宅地建物取引業者と緊密に連携することにより、新たに入居しようとする高齢者に対して、加齢対応構造等の有無をはじめ、登録住宅の現況に関する情報を十分に開示し、説明に努めることが望ましい。また、高齢者が相当期間安定した居住を継続することができるよう、住宅の老朽化や災害による損傷等について適正な維持管理に努める必要がある。
 都道府県知事は、登録住宅の登録簿を閲覧に供するに当たっては、登録住宅に入居しようとする者が、身近な場所で登録住宅に係る情報を得ることができるよう、市町村、関係団体等と連携し、幅広く情報提供が行われるよう努めることとする。また、登録住宅において高齢者が相当期間安定した居住を継続することができるよう、老朽化や災害による損傷等に対し、登録住宅の賃貸人がその登録住宅を適正に維持管理するよう助言・指導を行うこととする。

3 高齢者向け優良賃貸住宅の管理の適正化に関する事項

 認定事業者は、高齢者向け優良賃貸住宅の適切な維持管理に努めなければならず、高齢者向け優良賃貸住宅において当該認定事業者により介護その他のサービス提供が行われる場合には、賃借人の募集又は高齢者向け優良賃貸住宅に係る賃貸借契約に際して、賃貸に係る契約時には介護その他のサービスの提供に関する契約を締結しない場合であっても、当該サービスの契約の内容について十分説明しなければならない。ただし、都道府県知事による当該認定事業者に係る供給計画の認定が当該サービスの内容を含んで行われたものと応募者又は当該契約の相手方に誤解させるような表示又は説明を行ってはならない。また、介護その他のサービスの提供に関しては、老人福祉法、介護保険法等の規定に従わなければならない。

4 終身賃貸事業に係る賃貸住宅の管理の適正化に関する事項

 認可事業者は、終身建物賃貸借の対象となっている住宅の適切な維持管理に努めなければならず、終身建物賃貸借に係る契約を締結しようとするときは、賃借人による解約の申入れができる場合の説明を行うとともに、当該住宅の賃借人となろうとする者から、終身建物賃貸借の契約に先立ち体験的に入居するため仮に入居する旨の申出があった場合においては、終身建物賃貸借に先立ち、その者を仮に入居させるため定期建物賃貸借(一年以内の期間を定めたものに限る。)をするものであること、賃借人が死亡した後にはその同居配偶者等の継続居住が可能であること、期限付死亡時終了建物賃貸借に係る制度が設けられていること等を、その賃貸住宅に入居しようとする者が正しく理解できるよう十分に説明しなければならない。また、当該契約に係る賃貸住宅に対し、将来賃借権に優越する可能性のある抵当権その他の権原が設定されている場合には、当該契約に先立ち、当該賃貸住宅に入居しようとする者にその事実を説明しなければならない。あわせて、当該賃貸住宅の敷地の所有権その他当該賃貸住宅の整備及び管理に必要な権原の内容についても説明しなければならない。加えて、当該契約に係る賃貸住宅において当該認可事業者により介護その他のサービス提供が行われる場合には、賃借人の募集又は当該契約に際して、賃貸に係る契約時には介護その他のサービスの提供に関する契約を締結しない場合であっても、これらのサービスの内容について十分説明等を行わなければならない。ただし、都道府県知事による事業の認可が当該サービスの内容を含んで行われていると応募者又は当該契約の相手方に誤解させるような表示又は説明を行ってはならない。また、介護その他のサービスの提供に関しては、老人福祉法、介護保険法等の規定に従わなければならない。
 都道府県知事は、終身建物賃貸借において、認可事業者により解約の申入れが行われる場合における法第六十二条第一項に規定する承認を行うに当たっては、終身建物賃貸借に係る賃貸住宅の状況、賃借人である高齢者の状況等を十分把握するよう努めることとする。

5 国及び地方公共団体の役割

 国及び地方公共団体は、賃貸住宅に入居しようとする者又は賃借人が高齢者であることをもって差別されることのないよう、賃貸人、宅地建物取引業者等の啓発に努めることとする。
 また、地方公共団体は、都道府県及び市町村、公団、公社等の公的な賃貸住宅を管理する者、登録住宅の賃貸人、宅地建物取引業者等で構成する連絡調整の場を設けるなど、関係者の連携を適切に図ることにより、高齢者の入居に係る賃貸住宅の管理の状況及びこれらの住宅に入居している高齢者の居住の状況、各管理者の連絡先等の情報が必要に応じ提供されるよう努めるものとする。加えて、高齢者が登録住宅からやむをえず退去する場合にも同様に、公営住宅や他の登録住宅等の情報を適切に提供することにより、高齢者の居住の安定が図られるよう配慮することが望ましい。

三 高齢者に適した良好な居住環境を有する住宅の整備の促進に関する基本的な事項

 高齢者が居住する住宅を整備しようとする者は、高齢者が安心して居住できる住宅の整備に努める必要があり、当該住宅の整備に当たっては、当該住宅に居住する者の加齢に伴う身体機能の低下等に対応するため、国土交通大臣が別に定める住宅設計に係る指針[PDF形式]に従って当該住宅を設計又は整備するとともに、高齢者に特有の身体機能の低下が認められる場合には、その状況に応じ、適切な住宅改修及び身体機能を補い得る設備又は機器の設置を図ることが望ましい。また、当該整備に当たっては、住宅性能表示制度を活用することが望ましい。加えて、必要に応じ、高齢者の居住ニーズが、個々の住戸のみで充足されるのではなく、住宅の居住機能の一部を担う共同の食事室、居間等の共用部分において生活が営まれることにより充足される形式の住まい方等に適した住宅を供給する場合にあっては、それぞれの生活形態に適合した設計が行われるよう配慮することが望ましい。
 国は、介助のしやすさ、移動の容易性等の観点から、高齢者に配慮した住宅ストックの形成のため、平成二十七年度までに、手すりの設置、広い廊下幅の確保、段差の解消等がなされた住宅ストックの割合を全住宅ストックの二割とするほか、同年度までに、居住者の個別の事情に応じたバリアフリーリフォームがなされた住宅ストックを新たに二割形成することを目標とした第八期住宅建設五箇年計画の達成のために、また、地方公共団体は、都道府県住宅建設五箇年計画の達成のために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
 このため、国及び地方公共団体は、高齢者の存する世帯の世帯人数に対応した適切な規模の住宅に高齢者が居住できるよう、高齢者向け優良賃貸住宅の整備の促進等民間による高齢者に適した良好な居住環境を有する住宅の整備に対する必要な支援等に努めるとともに、必要に応じ地方公共団体が整備する高齢者向けの優良な賃貸住宅等の高齢者に適した良好な居住環境を有する住宅の整備の確保のための必要な施策の実施等に努めるものとする。さらに、高齢者の居住ニーズが、個々の住戸のみで充足されるのではなく、住宅の居住機能の一部を担う共同の食事室、居間等の共用部分において生活が営まれることにより充足される形式の住まい方等に適した住宅の確保が必要と判断される場合には、これに適した住宅の整備又は整備に対する支援等を行うことが望ましい。また、国民に対し、高齢者向け優良賃貸住宅、加齢対応構造等を有する住宅への改良に対する死亡時一括償還方法による資金貸付け等の支援措置等についての必要な情報提供等に努めるものとする。

四 保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との連携に関する基本的な事項

 国及び地方公共団体は、高齢者が安心して安定した生活を送ることができるよう、住宅に関する施策を講ずるに当たり、高齢者に係る保健医療及び福祉の増進に関する施策との連携が図られるよう必要な措置を講ずることとする。
 国は、高齢者の居住の安定の確保に係る施策の企画及び運用に当たり、高齢者に係る保健医療及び福祉の増進に係る制度との連携及び調整が図られるよう、関係部局間の協議調整の円滑化等の措置を講ずるとともに、地方公共団体に対し、情報提供、助言その他の支援を行うこととする。
 地方公共団体は、良質な住宅の確保と保健医療サービス又は福祉サービスの提供との連携を適切に図るため、必要な体制整備等の施策を講じるよう努めることとする。また、賃貸人が高齢者に円滑に住宅を賃貸することが可能となるよう、家賃に係る債務保証制度の普及に加え、賃貸人と連携しつつ、賃貸住宅に入居している高齢者の安否の確認及び緊急時の通報への対応を可能とする措置がとられるよう、情報提供、助言その他の措置を講ずることが望ましい。加えて、老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)の規定に従い、高齢者の福祉に関し必要な実態の把握に努めるとともに必要な情報の提供を行い、並びに相談に応じ、必要な調査及び指導を行うこととし、また、日常生活を営むのに支障がある者が、心身の状況、その置かれている環境等に応じて、自立した日常生活を営むために最も適切な支援が総合的に受けられるような措置の実施及び地域の実状に応じた体制の整備等の必要な施策の実施に努めるものとする。
 賃貸人は、在宅のまま介護サービスを受ける高齢者の増加に対応し、高齢者向け優良賃貸住宅その他の高齢者が安心して居住できる住宅において、必要な介護サービスが確保されるよう、保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との連携に努めることが望ましい。
 なお、公的な賃貸住宅の整備を行う者は、当該賃貸住宅の整備に際しては、地方公共団体等と協力し、当該賃貸住宅及び周辺の地域を対象とする福祉及び介護に関する施設の整備を促進するため、その建替えに支障のない範囲内で、地域の実状に応じ、土地の譲渡その他の必要な措置を講ずることにより、福祉及び介護に関する施設の併設を図るなど、地域の福祉及び介護の拠点形成に努めることが望ましい。また、公的な賃貸住宅における入居している高齢者の安否の確認、緊急時の対応等が行われるよう、地方公共団体及び当該賃貸住宅の整備を行う者は、地域の実状に応じ、住宅施策と福祉施策との連携に努めることが望ましい。

五 その他高齢者の居住の安定の確保に関する事項

 賃貸人は、賃借人である高齢者が、居住に係る不安等の解消のため、その居住する賃貸住宅において緊急時における通報等に係るサービスの利用を希望した場合には、これに応じることができるよう、地域の実状に応じ、関係行政機関等との連携を図るとともに、必要な設備の設置準備、必要な体制の整備等を行うことが望ましい。また、認定事業者は、この場合にあっては、当該サービスの利用が可能となるような措置をあらかじめ講じておかなければならない。なお、賃貸人が自ら当該サービスの提供を行うこととせず、かつ民間事業者を活用して当該サービスの提供を行う場合にあっては、責任の明確化、防犯上の観点から、警備業法(昭和四十七年法律第百十七号)第四条の規定により都道府県公安委員会の認定を受けた者を活用することが望ましい。
 地方公共団体は、高齢者の居住の安定の確保を図るための施策を講ずるに当たっては、地域の整備、都市の整備に関する施策にも配慮し、これらと連携の取れたものとしなければならない。中山間地域において高齢者向けの優良な賃貸住宅を供給する場合にあっては、当該地域の定住の促進に関する施策等との整合を取りつつ、その立地及び団地規模について、福祉サービス等の提供の効率化等にも配慮して計画することが望ましい。また、密集市街地(密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(平成九年法律第四十九号)第二条第一号に規定する密集市街地をいう。)の再編整備などにより高齢者が安定した居住の場を失うことのないよう、まちづくりと住宅整備との一体的な推進の観点から、高齢者向け優良賃貸住宅の整備を支援するとともに、必要に応じ、高齢者向けの優良な賃貸住宅、公営住宅等の適切な役割分担のもとでの供給等に努めることとする。

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