報道・広報

国際海事機関(IMO)第94回法律委員会の結果概要について

平成20年10月30日

 国際海事機関(IMO)第94回法律委員会が下記のとおり開催されましたので、その結果概要について、お知らせします。
 
■日程:平成20年10月20日(月)~24日(金)
■場所:国際海事機関(IMO)本部 ロンドン
■日本代表団:又野己知(国土交通省大臣官房審議官)
          山下幸男(国土交通省海事局危機管理室長)
          藤田友敬(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
          中村秀之((財)日本海事センター特別研究員)ほか
 
■主な結果
1.HNS条約改正議定書案の検討
 今次会合では、本年3月及び6月の国際油濁補償基金(IOPCF)会合の場で検討されたHNS条約改正議定書案について報告が行われ、法律委員会の場での本格的な審議が行われました。
 主要な論点に関する結果は以下のとおりです。
 
(1)梱包HNS物質の取扱い
 1996年に採択された現行HNS条約の批准が進まない理由の一つと考えられる梱包HNS物質の取扱いについて、当該物質の輸入量等の情報収集及び報告が困難であることから、HNS基金への拠出対象物質から外すことが承認されました。その一方で、これら物質による損害事故が発生した場合であってもHNS基金が補償するスキームは維持されました。その結果、補償に関する船主と荷主等の負担バランスを考慮し、梱包HNS物質については船主による保険金額を適度に増加させることが承認されました。なお、実際の保険金額の上乗せについては将来開催される外交会議にて決定されることとなりました。
 
 
(2)LNG会計への拠出者
 今次会合では、LNG会計への拠出者について、以下の3つのオプションについて検討が行われました。
  オプションA:1996年の現行HNS条約にある「権原者」を維持する案
  オプションB:上述「権限者」に代えて「受取人」とする案
  オプションC:「受取人」を原則としつつ、「受取人」と「権原者」の間に何らかの合意が存在する場合は、「権原者」とする案
 審議の結果、我が国も共同提案国として主張してきたオプションCが、大多数の国々の支持を得て承認されました。
 
(3)HNS物質の定義
 1996年に採択された現行HNS条約では、対象物質の定義を他の条約(MARPOL条約附属書2)等)から引用していますが、96年以降、他の条約上での表現がアップデートされたことに伴い、今回HNS条約改正議定書案の検討においても、HNS条約の適用範囲を変更せずにアップデートすることとなっていました。
 今次会合では、IMO事務局から提案された変更内容について承認されました。なお、審議の過程で1996年のHNS条約外交会議において、危険性が低いことからHNS条約の適用除外とすることが合意された特定の物質(例えば、石炭、木材チップ、魚粉)の取扱いについて議論となりましたが、大多数の国々は適用除外の維持を主張し、最終的にHNS条約改正議定書案において当該規定を修正し、維持する旨を明確化することが合意されました。
 
(4)外交会議の開催日程
 多くの国が今次会合のHNS条約改正議定書案に賛成しましたが、その一方で、次回会合での更なる検討が必要という国もありました。そのため、事務局が次回会合に向けHNS条約改正議定書案の清書版を作成し、その案をもとに来年春の次回会合で再度議論されることとなりました。
 このような状況を踏まえ、法律委員会としては理事会に対して、「HNS条約改正議定書の審議及び採択のための外交会議は、2010年のできるだけ早期に開催すべきである」という勧告を行うこととなりました。
 
2.船舶燃料油による油濁損害事故
 2001年に採択されたバンカー条約が本年11月に発効する予定となっています。そのため、同条約の締約国やP&Iクラブ国際グループなどから、関係証書の発給手続きなどについての紹介がありました。それを受けて、日本などが非締約国の船舶についても適切な証書の発給が行われるよう締約国に要請しました。
 また、バンカー条約に基づく補償契約を超える損害が生じた場合の枠組みが存在していないことにかんがみ、将来の検討に備えるため、IMO事務局が情報収集を行うことを日本が提案しました。
審議の結果、情報収集は有意義であるものの、IMO事務局は情報収集する手段とデータを有していないことなどから、オブザーバーであるP&Iクラブ国際グループが、国際タンカー船主汚染防止連盟(ITOPF)と連携して情報収集することを検討することとなりました。
 
 
3.レック・リムーバル条約(海難残骸物条約)決議のフォローアップ
 2007年5月のレック・リムーバル条約外交会議において、補償に関する各種IMO条約の統一証書モデルを策定することを要請する決議が採択されており、今次会合ではIMO事務局から具体的なモデル案が提示され、審議が行われました。
 その結果、統一証書モデルを容認するには各条約の改正が必要となること、各条約によって異なる補償契約の期間をどのように取り扱うのか等、多くの法的及び実務的な課題が存在していることから、オランダをコーディネーターとする非公式コレスポンデンスグループを設置し検討を進め、次回会合にその結果が報告されることとなりました。なお、我が国もコレスポンデンスグループに参加を表明しました。
 
4.船員の公正な取扱いについて
 船員の公正な取扱いについては、IMO/ILO合同事務局からの要請に基づき、現在までに13事例が報告されていますが、それら全てについて虐待の事実は無い旨が報告されました。その審議の中で、昨年末に韓国で発生したHebei Spirit号の事件に絡み、インド人船長等が韓国内で拘束されていることが問題視され、多くの国が韓国の対応に疑問を呈し、その早急な解決を求める多くの発言がありました。
 

【参考】
■国際海事機関(IMO)法律委員会
 国際海事機関(IMO)の理事会の下に置かれている5つの委員会のうちのひとつであり、法律事項を審議する委員会です。
 
■国際油濁補償基金(IOPCF:International Oil Pollution Compensation Funds)
 1978年にロンドンに設立された国際機関であって、座礁したタンカーから流出した油により大規模な損害が発生したトリー・キャニオン号事故(1967年、英仏海峡)を契機として採択された、タンカーによる大規模な油濁損害に対し補償の充実を図るための国際条約に基づくものです。 
 
■HNS条約
 船舶による海上輸送中の有害物質及び危険物質(各種の化学物質、石油、LNG、LPG等)により発生した損害の補償について、被害者救済の充実を図るため、[1]船主責任について無過失責任(厳格責任)を課す一方、一定の責任限度額を設定するとともに、これを強制保険で担保し、[2]船主責任を超える部分については、有害物質及び危険物質の受取人等が拠出する国際基金(HNS Fund)が補償することを規定した国際条約です。1996年に採択されていますが、未発効となっています。
 
■バンカー条約
 タンカー以外の船舶の燃料油(バンカー油)による汚染事故に関し、船主に厳格責任を課すとともに、その責任を一定限度に制限すること及び保険加入の強制などを規定した国際条約です。2001年に採択され、2008年11月21日に発効する予定です。
 
■レック・リムーバル条約(海難残骸物除去条約)
 船舶の航行安全や海洋環境に危険を生じる海難残骸物の除去に関し、船主に除去費用等を担保する保険加入の強制などを規定した国際条約です。2007年に採択されていますが、未発効となっています。
 
■P&Iクラブ国際グループ
 P&Iクラブとは、非営利の相互保険組合(クラブ)で、メンバーである船主や用船者に対して業務上の賠償責任保険を提供しています。P&Iクラブ国際グループとは、主要な13P&Iクラブにより構成されるもので、共同で保険や再保険を手配し、グループのP&Iクラブに加入している船主や用船者の海運業界の問題に関する意見を代表し、更に情報交換の場を提供するものです。
 
■国際タンカー船主汚染防止連盟(ITOPF)
 1967年のトリーキャニオン号事故を契機に、翌1968年タンカー船主が自主的に構築した補償協定TOVALOP(油濁責任に関する油送船船主間の自主協定)の管理組織です。本部はロンドンに所在します。TOVALOPは1997年2月に終了しましたが、それまで蓄積した経験等を生かすため、その目的をタンカーからの油汚染事故発生への対応等に関する技術支援に変更し、現在も活動しています。
 

お問い合わせ先

国土交通省海事局総務課危機管理室 大嶋、永井
TEL:(03)5253-8111 (内線43268) 直通 (03)5253-8616

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