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10月15日付朝日新聞「窓」の報道に対する建設省の書簡について

11月5日付け建設省宛朝日新聞論説主幹発書簡




建設省河川局開発課長 横塚 尚志殿

建設大臣官房文書課広報室長 西脇 隆俊殿

1999年11月5日
朝日新聞社 論説主幹 佐柄木俊郎


10月22日付けの質問書にお答えいたします。

(1) 出典および根拠は、和田吉弘「アユの遡上と魚道」(建設省河川局編『河川』1989年7月号所収)の中の以下の記述です。

 「長良川河口部のアユの遡上は、木曽三川河口資源調査報告によれば、・・・・・遡上量は1000万尾から2000万尾と推定されている」(23ページ)

 なお、和田氏は、かつて木曽三川河口資源調査委員をつとめられ、現在は建設省長良川河口堰モニタリング委員会の委員をつとめておられます。


(2) 出典および根拠は、足立孝「長良川のアユ漁獲高の変化」(長良川河口堰事業モニタリング調査グループなど編集、日本自然保護協会発行の『長良川河口堰が自然環境に与えた影響』−以下『影響』という−所収)の中の表1「漁獲量に占める放流漁獲量の割合」(120ページ)です。

 これによれば、長良川の3漁協の1980年から94年(河口堰の運用が始まる前年)までの平均漁獲量は約753トン、放流漁獲量は約294トンで、前者は後者の2・56倍になります。
 放流した稚アユが翌年は成長して漁獲されるため、放流量(重さ)の10倍を放流漁獲量とし、総漁獲量との差を、遡上してきた天然アユ(遡上漁獲量)と推定することが、一般的におこなわれています。
 たとえば、故中村中六氏もその論文「長良川河口堰と魚道をめぐる諸問題」(建設省の外郭団体である開発問題研究所編『開発』1989年8月号所収)において、この説の妥当性を説明されています。
 なお、中村氏は、かつて利根川河口堰の水産生物に及ぽす影響協議会の委員をつとめられました。


(3) 根拠は、伊藤研司氏(桑名市会議員、「しじみプロジェクト・桑名」代表)の談話です。

 伊藤氏によれば、赤須賀漁協の組合員で長良川河口にシジミ漁に出る漁師は昨冬から一人もいなくなったとのことです。


(4) 建設省が隠している真実とは、「長良川河口堰の運用後、天然アユは順調には遡上・降下していないこと。天然サツキマスや、長良川河口部のヤマトシジミの漁獲量は著しく減少していること」です。


(5) 「建設省がだましている」と記述したのは、そうした現状だとみられているにもかかわらず、報道関係者に別添のような資料を配布し、「堰運用開始後も、アユは順調に遡上し、サツキマスやシジミの漁獲量も著しい減少は見られない」と説明しているからです。

 この資料は五つのグラフを載せていますが、うちここでは三つについて説明します。

 第一のグラフ「長良川河口堰地点のアユ遡上状況(計測実数累計)」は、堰に付置された魚道を遡上するアユを観測した数を示しています。これを見ると、堰の運用が始まった1995年から99年まで年々増えています。しかし、堰の運用が始まる前と比べて、長良川全体を遡上する数が増えたのか減ったのか、その比較がありません。
 これを比較するには漁業共同組合の漁獲量を調べることが有力な方法になります。(2)の根拠とした足立氏の論文は、長良川、揖斐川・根尾川におけるアユの漁獲量を調査比較しています。
 それによりますと、異常降水と異常渇水のあった1993年から94年ごろに3河川でともに漁獲量が減少したあと、揖斐川・根尾川では94年から95年以降、漁獲高はある程度回復しました。しかし、長良川では減少したまま全く回復していません。
 それどころか、92年ごろまでは総漁獲量が放流漁獲量をかなり上回っていたのですが、堰の運用が始まった94、95年ごろを境に逆転し、総漁獲量が放流漁獲量と同じかそれを下回る状態になっているのです。
 「アユの遡上は順調」とはいえないでしょう。

 第二のグラフ「長良川38q地点におけるサツキマスの漁獲量」は、河口から38q地点(岐阜県羽島市地先)で漁をしている二人の漁師の漁獲量を示しています。これによりますと、1996年や97年には、堰運用前の94年に匹敵する漁獲量になっています。しかし、99年の漁獲量は最終的にたったの278尾に終わりました。このグラフにはない93年には1031尾も獲れていたのですから、その三割以下です。
 それ以上に問題なのは、このグラフは、二人の漁師の漁獲量を示しているだけで、下流域のサツキマスの漁獲量を含んでいない点です。新村安雄氏が下流域でサツキマス漁をしている29人の漁師に聞き取り調査をした結果によれば、長良川全体のサツキマスの漁獲量は、1994年には4650尾もあったのに、95年には980尾、96年には977尾に減少したと推定されます。約5分の1に減ったと、新村氏は結論づけています(新村安雄「長良川河口堰によるサツキマスの遡上に対する影響」−『影響』所収−参照)。
 サツキマスの漁獲量は「著しく減少している」のです。

 第三のグラフ「近年の木曽三川下流部におけるシジミの年度別漁獲量(赤須賀漁業協同組合調べ)」によれば、この漁協のシジミの漁獲量は、堰運用の前と後で大きな変化はないように見えます。
 しかしこのグラフは、これらのシジミが三つの川のうちどこで獲れたかを明らかにしていません。(3)の根拠として発言を引用した伊藤研司氏によれば、赤須賀漁協の漁師たちは、堰ができる前は、夏は揖斐川に、そして冬は長良川にシジミ漁に出ていました。ところが、堰の運用が開始されると、堰下流では、名産のヤマトシジミは死に絶えました。上流では、運用開始後しばらくは、ヤマトシジミの放流やマシジミの増加で漁獲量は維持されましたが、それらも年を追うごとに減少し、いまでは漁師がジョレンを入れても、ゴミしか獲れなくなってしまいました。最近の漁獲はほとんど、揖斐川で獲れたものとなっています。
 しじみプロジェクト・桑名「シジミの鋤簾漁法による追跡調査−堰稼働前後の比較−」(『影響』所収)は、河口堰の下流と上流における経年調査の結果を示しています。
 それによれば、堰下流0・5qの場合、ヤマトシジミは堰運用開始直後の95年8月から採取されなくなった、と記されています。
 また、堪上流10・6q(マウンド地点)の場合、採取量のうちの任意の5sに含まれているヤマトシジミの量と数について、次のように記しています。


1995年 9月 6日

  96年10月26日

  97年 8月 3日

  98年 7月20日

  99年 4月30日
4520g

1710g

 350g

70g

ゼロ
2834個
 
766個
 
154個
 
 26個



 この調査結果から、長良川におけるヤマトシジミの漁獲量はほぼゼロになっているとみられます。

 以上、質問にお答えいたしました。建設省が配布している資料部分も含め、回答書の全文を公開していただくようお願いいたします。

以 上