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10月15日付朝日新聞「窓」の報道に対する建設省の書簡について

12月27日付け朝日新聞論説主幹宛公開書簡





朝日新聞社 論説主幹 佐柄木 俊郎 殿


 12月13日付け書簡をお送りいただきありがとうございました。

 今回の貴社からの書簡では、当方の質問の多く(特に重要部分)についてお答えをいただけず、また論点をそらす記述や質問も多く、極めて残念に思っております。貴社はこの書簡において、誠実に答えることを当方にお求めになっていますが、貴社も次回の書簡でこそは、誠実な回答をお寄せいただきますよう改めてお願いいたします。

 さて、以下には、貴社からの質問に対してお答えするとともに、お答えいただけなかった質問についての再質問や、貴社回答を踏まえた追加質問をさせていただきます。なお、次回の貴社回答において当方の全ての質問に誠実にお答えをお願いしたいという観点から、10月15日付け貴社夕刊コラム「窓」(以下、本書簡では単に「窓」と呼びます)の記述の当否に関する今回の議論の論点とは関係が不明な質問も含めて回答させて頂きますが、次回からは、今回の議論との関係が必ずしも明確でない質問に関しては、その関係を質問とあわせてお示しいただくようお願いいたします。


1.12月13日付け貴社質問(1)に対する回答等

 貴社12月13日付け書簡では、「『FOCUS』誌によりますと、この論争は竹村公太郎河川局長が全責任を負っているとのことです」と書かれていますが、当該誌には、そのような記述はありません。おそらく、貴社は、当該誌中の「………反論に時間がかかるのでは意味がない。そこで私が全責任を負うからと、河川局のホームページで反論したわけです。インターネットならオープンですし、情報公開という意味でも意義があると考えました」という記述を指して、質問されているものと考えられますが、そうであれば、貴社とのこの書簡を通じた議論の公開手法等についての竹村河川局長の考えが、誌上で紹介されたものであるとお答えさせていただきます。

 今回の議論については、原因となった「窓」の記事が建設省の行政姿勢を強く否定する内容のものであったこともあり、私どもは、竹村局長も含めて、上司や同僚とも相談しながら対応しておりますが、誰が記名をして書簡そのものに責任を負うかは、当方の判断に属する事項です。

 なお、誠に残念なことですが、上の『FOCUS』誌の例を始めとして、本来は原意を損ねずに引用又は解釈を行うべきところを、読者に誤った印象を与えるような引用又は解釈が行われている箇所が散見されます。本来、文書の記述の正確性に最も気を遣われるべき立場の方として、できるだけ的確な引用又は解釈を心がけていただくようお願い申し上げます。


2.12月13日付け貴社質問(2)に対する回答等

 貴社は、「再質問書を拝読しますと、議論を本題からそらそうとしていらしゃるように感じられます。この論争の中心的な論点は、『長良川河口堰では、堰運用(95年7月)後、アユは順調に遡上し、サツキマスやシジミの漁獲量も著しい減少は見られない』という建設省の説明が事実なのかどうか、という点です。事実なのかどうか、事実なら、どのような根拠に基づいてそう判断しているのか、それを改めてお尋ねします。」と述べています。

 これについて、以下に当方の考え方をご説明します。


2.1 質問への回答と「事実」、「真実」という言葉の適正な使用について

 まず、建設省の説明が事実なのかどうかという点ですが、貴社は、「事実」、「真実」という言葉を、非常に安易に用いられているように見受けられますので、以下には、これらの用語の用法に留意しながらお答えを致します。

 貴社が問題にしている建設省の資料(以下、本書簡では「建設省資料」と呼びます)で示されている、長良川河口堰地点のアユの遡上状況の数値は、観測結果という「事実」に基づく「確からしい推定値」です(観測者が10分間アユの遡上量を目視でカウントし、10分休んで、またカウントするという方法で求めた観測値を2倍して遡上量を推定する方法をとっていますので、若干の誤差は伴います)。また、長良川38km地点におけるサツキマスの漁獲量、木曽三川下流部におけるシジミの年度別漁獲量の数値は、事業者が自ら(漁獲を)行っているものではない点において間接的な形の確認ですので、事業者としては「事実であると推定」しているものです。一方、「アユは順調に遡上」、「サツキマスやシジミの漁獲量も著しい減少は見られない」という部分は、建設省の「見解」です。「順調」、「著しい減少が見られない」といった判断は、その当否について絶対的な基準があるものではないことから、軽々に「事実」と断定できる性質のものではありません。そして、建設省は、これらの「見解」を、その妥当性について読者が判断することが可能になるように当該見解の根拠となるデータを付して示したものです。


2.2 貴社の「真実」の安易な用法

 これに対して、貴社は、建設省は「真実を隠した」と断定し、その真実とは、「長良川河口堰の運用後、天然アユは順調に遡上・降下していないこと。天然サツキマスや、長良川河口部のヤマトシジミの漁獲量は著しく減少していること」であると11月5日付け貴社書簡で述べています。我々が驚いているのは、貴社が「真実」という言葉をあまりに安易に用いられていることです。貴社が、「真実」と断定したものは実は単なる「1つの意見」に過ぎず、「隠した」というのも「触れなかった」とでも訂正するご意向があるならともかく、そうでなければ、11月15日付け質問4でお尋ねしているように、貴社が真実であると主張されている内容が、誤りのないものであることを立証して頂く必要があります。「建設省のウソ」、「真実を隠し、国民をだます」という断定を、発行部数420万部余を誇る貴紙夕刊紙上で読者に対して示されたわけであり、今回の議論の中心的な論点はここにこそあるのですから、これは貴社の当然の責任ではないでしょうか。


2.3 国民に誤解を与える誤った引用

 12月13日付け書簡(2)において貴社は、建設省資料の枠囲み中の「長良川河口堰では、堰運用(H7.7)後、アユは順調に遡上」という文と「サツキマスやシジミの漁獲量も著しい減少をしていない」という文を合成して、「長良川河口堰では、堰運用(95年7月)後、アユは順調に遡上し、サツキマスやシジミの漁獲量も著しい減少は見られない」と、「長良川河口堰ではシジミが著しく減少していない」と建設省が主張しているように読める書き方を行っていますが、建設省ではこのような主張はしていません。堰の建設により長良川におけるシジミの漁獲量に影響が出ることは、これまでも随所で認めているところですし、そのための漁業補償等も行ってきたところです。建設省資料において、「シジミの漁獲量も著しい減少は見られない」としているのは、長良川河口堰建設後も、この地域でシジミ漁を営む赤須賀漁業協同組合が堰運用後も著しい漁獲量の減少に見舞われていないことを端的に示したものであります。建設省資料では、「近年の木曽三川下流部におけるシジミの年度別漁獲量」との表題で、漁獲量の変動データを示しており、それに対応した見出しの枠囲みでも、

「・サツキマスやシジミの漁獲量も著しい減少は見られない」

と記しており、長良川に限定した漁獲量の減少が無いとか、長良川河口堰による影響がなかったといった記述は行っていません。

 貴社11月5日付け書簡でも同様の表記が見られたところですが、当方が記述している内容を、誤解を受ける内容に改変して引用することは不適切であり、今後十分注意を願います。


3.12月13日付け貴社書簡質問(3)〜(6)に対する回答等

3.1 質問(3)に対する回答

 多方面の学識者によって構成される委員会を効率的に進めることを目的として、事前に資料の検討等を行うワーキングの場を持つことは一般的に行われている方法です。長良川河口堰モニタリング委員会の場合にも、ワーキングで資料の検討や考え方の交換が行われています。

 このワーキングは、テーマ毎に関心のある先生方が随意に集まり開催しているものです。建設省は、当方の予算措置等の面で支障の無い限り、ワーキングを主催する先生方に運営方法の決定を委ねております。従って、その公開、非公開の判断理由について、建設省はお答えする立場にありません。

 「今後、似たような委員会が開かれる場合は、ワーキンググループのような会合も含めて、すべて公開する意志はおありでしょうか」とお尋ねの件についても、それぞれの「ワーキンググループのような会合」の主催者が決めるべき問題であると考えます。


3.2 質問(4)に対する回答

 モニタリング委員会の認識とは異なる報告を行っている研究者や市民グループと、モニタリング委員会委員との徹底的な公開討論を実施する意志はあるかとのお尋ねですが、拝見しまして、この質問は今回の議論の論点をぼかそうとする最も分かりやすい例だと感じております。モニタリング委員の公開討論参加の意向と、「窓」の記事内容の当否に関する今回の議論とは無関係です。例えて言えば、建設省から、「朝日新聞の紙面審議会委員は、今回の『窓』の記述の妥当性について貴社と異なる見解を持つ市民や識者と公開討論を行う考えはあるか」と貴社にお尋ねするようなものです。なお、もとより私どもはこのような不躾な質問を実際にする考えはありませんので、念のため付け加えさせていただきます。

 あえて質問にお答えするならば、公開討論会参加は、モニタリング委員会委員の判断に属することであり、建設省に質問されるのは的はずれであるというのが当方の回答です。


3.3 質問(5)に対する回答

 「建設省はたしかに、モニタリング委員会に提出した資料はすべて公開しています。しかし、これが調査したもののすべてでしょうか。」とお尋ねです。貴社質問中の「調査」の範囲が不明ですが、これが長良川河口堰のモニタリングのための調査ということでしたら、委員会に提出した資料がその全てです。

 なお、長良川で建設省が行っている河川事業関係の調査としては、用地補償調査等、長良川河口堰のモニタリング以外の目的を持つものもあり、それらの結果を全て公開しているわけではありません。


3.4 質問(6)に対する回答

 「長良川、揖斐川、木曽川の木曽三川について、過去にどのような調査が行われたか、また現在どのような調査が行われているのか、そのリストと調査結果をすべて公開していただきたいと考えます。」と言われる件については、膨大な資料を対象として、情報公開法の施行へ向けて、計画的に資料の整理やリストの作成作業を現在進めているところであり、準備が整いましたら、情報公開法の基準に基づいて、個人のプライバシーに係る情報の保護等一定の措置を講じた上で、情報公開を行ってまいりたいと考えています。

 ただし、今回の貴社との議論に直接関係する調査結果については、中部地方建設局又は水資源開発公団中部支社等までお出で頂ければ、すべてご覧頂くことができます。

 なお、12月13日付け貴社書簡を拝見した結果、貴社は当方の質問には答えずに、かわりに関係のない論点を持ち出して問題のすりかえ及び回避を行う傾向があると判断せざるを得ない状況となっております。

 貴社は、貴社が「窓」執筆時点までに持たれていた情報を基に「真実を隠し、国民をだます」と断定されたわけですから、更なる新資料無しでは当方質問に対する論理構成はできないなどといった主張をされるとするならば、私どもは首肯できませんので、予め申し上げておきます。


3.5 質問(6)に付随する記述について

 貴社は、「長良川、揖斐川、木曽川の三川について、過去にどのような調査が行われたか、また現在どのような調査が行われているのか、そのリストと調査結果をすべて公開していただきたいと考えます。……(中略)……それができない限り、真実を隠していると判断せざるをえません。」(下線、当方)と書かれていますが、あまりにストレートな論点のすりかえではないかと、正直なところ驚いています。

 「窓」において「真実をかくし、国民をだます」と書かれたときの「真実」の内容、すなわち「長良川河口堰の運用後、天然アユは順調に遡上・降下していないこと。天然サツキマスや、長良川河口部のヤマトシジミの漁獲量は著しく減少していること」(貴社11月5日付け貴社回答)を建設省が隠していると、貴社は「窓」において既に断定されているわけです。当方としては、貴社がどうしてそのような断定をされたのか依然として不明な状態が続いているわけですので、まずは断定された理由の説明を貴社から行っていただかないと議論になりません。まさか、断定するに足る根拠が実は無いので、関係のない資料まで含めた情報公開の問題を持ち出したといったことではないと信じたいのですが、そのような懸念が当たらないのなら、以下の質問に対して、論点をそらすことなく回答いただきますようお願いいたします。

(ア) 貴社が「真実」であると断定されている内容(長良川河口堰運用後、天然アユは順調に遡上・降下していないこと。天然サツキマスや、長良川河口部のヤマトシジミの漁獲量は著しく減少していること)について、建設省が、いつ、どこで、どのように「隠した」と考えておられるのか、理解に苦しんでおります。是非、具体的にお示しいただけないでしょうか。


4.11月15日付け当省書簡の質問3に関連する議論

 貴社は、12月13日付け書簡((6)の次の段落)において、当省11月15日付け書簡の質問3についてと断った上で、「この資料は、建設省の見解を簡潔に示したものであると、再質問書で自ら認めていらっしゃいます。それならば、この資料をもとに建設省の見解の当否を判断して、なぜいけないのでしょうか」と書かれています。「窓」の問題点の核心に触れる質問の一つに全くお答えをいただけず、代わりに問題のありかをそらす質問を頂いたことは誠に残念です。これについて、以下にご説明いたします。


4.1 12月13日付け貴社書簡(6)の次の段落の質問への回答

 まず、質問に対するお答えですが、建設省は、私どもが作成した資料に示した見解の当否を判断すること自体がいけないなどという主張は今まで全くしておりません。判断を示されること自体は、(判断の当否については議論があるでしょうが)全く自由です。従って、貴社の質問は意味をなしません。「窓」における記述が、「アユは順調に遡上」、「サツキマスやシジミの漁獲量も著しい減少はみられない」という当該資料における建設省の見解について論じる(例えば、「アユが順調に遡上という建設省の見解は誤りではないか」とか)にとどまったのであれば、建設省としても「私どもが全ての情報を公開しながら各種の科学的調査を進めている事実には一切触れなかったこと」についての貴社の見識を問う必要はなく、その論点についての互いの見解のどちらが正当であるかについて議論すれば十分であったと考えます。


4.2  何故、私どもが全ての情報を公開しながら各種の科学的調査を進めている事実には一切触れずに、私どもの見解を簡潔に示した1つの資料のみで、「建設省のウソ」、建設省は「真実を隠し、国民をだます」と、非常に大きな影響力を持つ貴紙の紙上で断定されたことの適切性を貴社に問うたのか

 問題は、11月15日付け当方書簡の質問3でも記しているように、貴社が「窓」において、建設省は「真実を隠し、国民をだます」と、断定されたことにあります。ここで「真実を隠し、国民をだます」という記述が当たるためには、

  (a)建設省の見解とは異なる「真実」が存在していること、

  (b)その「真実」について建設省が知っているのに隠していること、

  (c)建設省が国民をだましていること

という要件が全て満たされる必要があります。11月15日付け当省書簡では、この内の(a)に関連する質問として、質問4により全般的な貴社の釈明を求め、また貴社が「真実」であると断定している内容に反していると考えられる内容を含む名古屋高裁判決への貴社の見解を質問5により求め、さらに、質問6以降で、貴社が「真実」であると主張される内容に関係する各論的事項について質問しております。一方、上の(b)、(c)については、私どもが、情報を公開しながら科学的調査を進めている事実に照らして考えて疑問であることから、関連する質問として11月15日付け質問3をお尋ねしたものです。

 そこで前回の書簡でお答えいただけなかった質問を重ねてお尋ねします。

(イ) 私どもが全ての情報を公開しながら各種の科学的調査を進めている事実には一切触れずに、私どもの見解を簡潔に示した1つの資料のみで、「建設省のウソ」、建設省は「真実を隠し、国民をだます」と、大きな影響力を持つ貴紙の紙上で断定されたことは、適切とお考えなのでしょうか。

 また、追加してお尋ねします。

(ウ) 11月15日付け当省質問1による「このような各種の情報公開の積み上げの事実、モニタリング年報の内容、及び各種団体との対話活動も踏まえた上で、建設省の河口堰をめぐる言動を「真実を隠し、国民をだます」と断定されたのでしょうか。」という質問に対する12月13日付け貴社回答の中で「再質問書の1および2について。私たちは、建設省が再質問書で述べられたような情報公開や対話活動を行っていることを承知しています。(以下、略)」と述べていますが、質問でお尋ねした「モニタリング年報の内容も踏まえていたか」という論点に対しては残念ながら明確な回答ではないように見受けられますので、この点について次回書簡で明確にお答え下さい。すなわち、モニタリング年報の内容を踏まえた上で、建設省の河口堰をめぐる言動を「真実を隠し、国民をだます」と断定されたのでしょうか。


5.12月13日付け貴社質問(7)に対する回答

5.1 質問(7)に対する回答

 建設省河川局開発課で作成した資料です。資料は、個人名の文書として作成したものではありませんので、特定の個人を責任者としているものではありませんが、あえて責任者を特定せよと言われるのであれば、開発課長である私(横塚)の責任の下で作成しているものであるとご理解頂いて結構です。


5.2 質問(8)〜(9)に対する回答

 貴社が問題にしている資料は、グラフ部分についてはいずれもモニタリング委員会年次報告資料中に含まれているものです。この年次報告資料は、モニタリング委員会の指導を得て作成しているものです。モニタリング委員会の委員の氏名は公表されていますので、氏名は公表資料をご参照下さい。資料中の上部の枠囲みの部分の記述は、建設省の見解です。モニタリング委員会の了解を事前にとって作成したといった性格の資料ではありません。

 さて、今回の議論は、本来は「窓」執筆時点までの情報を基に行うべきものであると考えていますが、12月13日付け貴社書簡(11)において、本年11月22日に開催されたモニタリング委員会後の記者会見等での委員発言についての当方の見解を求められていることもありますので、あえてこの場での貴社論説委員と委員会委員との間の質疑応答についても触れさせていただきます。私共の記録によれば、この場で貴社論説委員は、貴社が問題としている建設省資料について、「これは建設省が報道関係者や政治家に配っております資料で、さまざまな調査、モニタリング委員会なども踏まえた彼らの主張のエッセンスです。その中で、アユは順調に遡上し、サツキマスやシジミの漁獲量も著しい減少は見られない。そしてそこに、それを説明するべくグラフが付いているわけですけれども、このような説明をしていることに対してどう考えるか」という質問を行われました。貴社論説委員から名指しで意見を求められたモニタリング委員からは、「それは、過去5年間にわたりまして調査された内容について、そのままを忠実に表現されたので、そこに誤りはない。モニタリング委員会が指示した調査の報告を出していることであるので、そこで真実を偽ったものがないというように私は確信している」という回答がありました。

 また、別の委員は、建設省見解部分については委員として答える立場にないと答えたのに追ってさらに考えを問いただした貴社論説委員に対して、「本筋では間違いない。それは他の委員もそう思っていると思う。表現が足りない部分はあるだろうけれども。全体として全然間違ったことはしていない」という趣旨の回答をされています。

 貴社が「真実を隠し、国民をだます」ものと断言している建設省資料についてのモニタリング委員会の先生方の考え方は、このように貴社論説委員が直接確認されたとおりです。

 なお、唯一、表現の適切性の問題をモニタリング委員から具体的に指摘された部分としては、貴社との議論の争点になっている部分ではありませんが、水質に関して、「BODに大きな変化は無かったということは言えるが、クロロフィルaについて、『大きな変化はない』としている部分は、『最大値には大きな変化は見られないものの、高い値が観測される頻度が多くなった』とするのが正直な書き方であって、単に大きな変化はないとするのは適当な書き方ではないと思う」というものがあります。今後、同様の資料を作成する際には、クロロフィルaについては、委員の指摘のように修正したいと考えています。

 さて、以上、建設省資料についての、モニタリング委員の見解等について述べさせていただきましたが、ここで質問をさせて頂きたいと思います。

(エ) 貴社論説委員の質問を受けたモニタリング委員会の委員からも、貴社が問題としている建設省資料の内容が真実を偽ったものではないという回答が行われたわけですが、それでもなお「真実を隠し、国民をだます」という断定が適切であると主張されるのでしょうか。


5.3 貴社質問(10)に対する回答

 貴社が問題としている建設省資料は、長良川河口堰運用後の状況を説明する際の資料として、本年夏以降に折に触れ使用しているもので、報道関係者、国会議員、関係行政機関、一般外来者等多方面の方々にお渡ししております。なお、配布部数も多く、配布先の記録管理は行っていません。また、11月5日付け貴社書簡に基づく貴社の求めもあって、11月中旬以降は当省ホームページに当該資料を掲載していますので、インターネットにアクセスできる方であれば、どなたでもすぐに資料の入手ができる状況となっています。12月22日時点での当該資料の頁へのインターネットでのアクセス数は1,625件です。


6.11月15日付け建設省書簡質問4に対する貴社コメント及び質問について

 12月13日付け貴社書簡(10)の下の段落において、残念ながら11月15日付け当省書簡質問4への回答はいただけず、その代わりに、「私たちが『真実』であると断定している内容が『どのような角度からみても誤りのない、文字通りの真実であることを』説明せよとのお求めですが、そう主張されるのであれば、建設省が『正確で公平であるべき報道機関』に配布した資料もまた、『どのような角度からみても誤りのない、文字通りの真実である』必要があると考えます。資料に記載された内容のすべてが、そのような『真実』なのでしょうか」と述べられています。

 これに対して、以下にまず貴社の質問部分に対してお答えするとともに、再質問及び追加質問等をさせていただきます。


6.1 質問部分への回答等

 まず、建設省資料の内容が「真実」かどうかという点についての回答は、本書簡2.1項に示したものと概ね同じです。すなわち、貴社が問題にしている建設省の資料で示している長良川河口堰地点のアユの遡上状況の数値は、観測結果という「事実」に基づく「確からしい推定値」です。また、長良川38km地点におけるサツキマスの漁獲量、木曽三川下流部におけるシジミの年度別漁獲量の数値は、事業者が自ら(漁獲を)行っているものではない点において間接的な形の確認ですので、事業者としては「事実であると推定」しているものです。一方、「アユは順調に遡上」、「サツキマスやシジミの漁獲量も著しい減少は見られない」という部分は、建設省の「見解」です。「順調」、「著しい減少が見られない」といった判断は、その当否について絶対的な基準があるものではないことから、軽々に「事実」あるいは「真実」と断定できる性質のものではありません。これらの「見解」は、我々としては妥当なものと考えているものですが、誰もがそれに同意するとは限らない性質のものであると考えています。これに対して、2.2項に示しましたように、貴社の用いる「真実」という用語はあまりにも安易ではないかと考えております。

 次に、「私たちが『真実』であると断定している内容が『どのような角度からみても誤りのない、文字通りの真実であることを』説明せよとのお求めですが、そう主張されるのであれば、建設省が『正確で公平であるべき報道機関』に配布した資料もまた、『どのような角度からみても誤りのない、文字通りの真実である』必要があると考えます」という主張(下線、当方)ですが、これについての当方の考えを以下に述べます。


6.2 不可解な回答回避の論理

 当方は11月15日付け質問4で、「貴社がここで「真実」であると断定されておられる内容が、どのような角度からみても誤りのない、文字通りの真実であることを、本書簡でお尋ねする他の論点も踏まえた上で、ご説明いただくよう求めます。」と質問しているわけですが、このように質問する上で、「建設省が『正確で公平であるべき報道機関』に配布した資料もまた、『どのような角度からみても誤りのない、文字通りの真実である』必要がある」という論理は不可解としかいいようがありません。当方としては、回答を回避されているとしか考えられません。そこでお尋ねします。

(オ) 11月15日付け質問4をお尋ねする上で、「建設省が『正確で公平であるべき報道機関』に配布した資料もまた、『どのような角度からみても誤りのない、文字通りの真実である』必要がある」という貴社の主張を論理的にご説明下さい。


6.3 報道機関に配布する資料の性格、目的について

 建設省は、数多くの資料を報道機関に配布しております。記者発表の形態を通じて配布するもの、個別のお問い合わせに応じて配布するもの、懇談会等の形式を通じて配布するもの、広報誌やパンフレット等の形態で広く配布するもの等さまざまです。

 これらの発表の内容について正確を期すべきであるのは当然のことです。しかし、どのような角度から見ても誤りのない「事実」、「真実」のみではなく、世上で様々な議論がある案件についての建設省の「見解」、「判断」をお伝えすることも、報道機関に資料を提供することの重要な役割であると考えています。

 もとより、行政機関は、様々な事項について判断を行い、行政施策に反映させていく責任を負っています。長良川河口堰の運用を適切に進めることもその一つです。我々には、「どのような堰の運用が適切か」という「判断」が求められ、さらにその判断を下す上では、環境面を始めとする様々な影響を把握し、我々なりにそれらの影響についての「見解」と「判断」を持つことも必要です。さらに、そのような「見解」や「判断」を報道機関を始めとする様々な方々に対してわかりやすい形で示し、ご意見を頂くことも重要であると考えています。

 貴社が問題としている資料は、このような目的で作成したものです。

 そこで、お尋ねします。

(カ) 行政判断が問われる問題で、その問題に関して明らかに異なる見解が世上存在する場合に、貴社は行政官庁がその問題についての自らの見解、判断を示すのは適切でないと考えているのでしょうか。


7.名古屋高裁判決でアユとサツキマスの遡上量が大幅に減少しているものではないとされていることについて

(キ) 11月15日付け当方書簡に添付した名古屋高等裁判所の判決では、「アユ・サツキマスの遡上数も、控訴人らの主張に沿う認定はできず、本件堰建設後平成九年までの間に大幅に減少しているものではない」と判決理由要旨で述べる等、貴社の主張と相反すると考えられる認定を行っています。一方、貴社は、12月13日付け書簡3頁の第3段落において、この判決に関して、「アユとサツキマスの遡上数については、『堰建設後97年までの間に大幅に減少しているものではない』と判断しているにすぎません」と書いておられます。ということは、平成7年の河口堰運用後平成9年までは(名古屋高裁判決で言うように)「アユやサツキマスの遡上数は大幅に減少しているとは言えない」ことをお認めになった上で、それ以降は急激に悪化して、平成9年までとは異なる状態となっていると貴社は考えていると理解してよろしいのでしょうか。
(ク) 貴社は、上の(キ)における記述に続けて、アユやサツキマスの遡上量について、「環境への影響について建設省が5年間のモニタリング調査を実施しているのに、その結論が出る前に出された判決です。これにとらわれるべきではないと考えます」と述べられていますが、

a) モニタリング調査の結果又は結論と貴社が考える内容の中で、この判決と矛盾するものがあるのでしょうか。あるのであれば、具体的にお示し下さい。

b) 名古屋高等裁判所の判決にとらわれるべきではないとしている理由として、環境への影響について建設省が5年間のモニタリング調査を実施しているのに、その結論が出る前に出された判決であることを貴社は挙げていますが、この判決は、平成9年度までのモニタリング調査結果も証拠として採用された上でのものです。なぜ、裁判所が原告・被告双方の主張を公平な立場で聴き、慎重に下した判決に対して、それにとらわれるべきではないという一方的解釈を示されるのでしょうか。見解をお示し下さい。


8.調査検討の「厳密」・「粗雑」の判断について

 貴社は、12月13日付け貴社書簡(2)の4段落下の箇所において、「『魚類等の遡上・降下の状況』に関していえば、モニタリング委員会での検討はきわめて粗雑なものです」と断言されています。一方、10月15日付け「窓」の中では、「日本自然保護協会の吉田正人部長は、五年に及ぶ厳密な独自調査をもとに、そう指摘する」と書かれています(下線、両方とも当方)。

 調査の精度に関する判断は、通常であれば専門家の間の議論を必要とするところです。専門家で構成するモニタリング委員会における魚類等の遡上・降下に関する検討の精度を、公開を前提とした書簡の中で「きわめて粗雑」と決めつけられたことは、中正な評論を社是とする朝日新聞の論説主幹たる方の言葉とは思えませんが、このような断定を行われたからには、十分専門的な議論に耐えるだけの知見を貴社が有した上でお書きになっているものであると考えます。そこで、以下の質問に対して回答頂くようお願いいたします。

(ケ) 河川の魚類の調査又は検討について、どのような要件が該当するときに「厳密」なのか、あるいは「きわめて粗雑」なのか、それぞれについてできるだけ具体的に貴社の考え方をお示し下さい。
(コ) 上の貴社の考え方について、学会における常識的な考え方と異なるものではないことを示す資料等があればご教示下さい。
(サ) 魚類等の遡上・降下の状況に関するモニタリング委員会の検討をきわめて粗雑であると評価した根拠として、アユに関しては、「忠節橋での計測結果では天然アユの遡上量がわからない」ということを挙げていますが、モニタリング委員会において忠節橋での計測結果を「天然アユの遡上量」であると判断した事実はありません。忠節橋地点でのアユの遡上量の計測は、長良川河口堰を運用することによるアユの遡上への影響を把握する上で、河口堰運用前後で同一の調査方法によりアユの遡上数を比較することができる資料として重要なものとして委員会でも用いられているものです。
 アユの遡上・降下に関するモニタリング委員会の検討のどこがきわめて粗雑であるのか、具体的にお示し下さい。
(シ) 魚類等の遡上・降下の状況に関するモニタリング委員会の検討をきわめて粗雑であると評価した根拠として、サツキマスに関しては、38キロより下流で漁をしていた漁業者たちの漁獲量が激減していることを無視していること及び、漁獲されたサツキマスのかなりの部分は、漁業者と料理店の直接取引および進物等によって消費され、市場にすべて出回るわけではないことを挙げています。
 長良川38キロ地点より下流で漁をしていた漁業者の方々が、堰の運用により堰上流域の流速が小さくなったため、堰運用前から行われていた「トロ流し網漁」が技術的に不可能になり、長良川での漁を止められたことや漁獲されたサツキマスの一部が漁業者と料理店との直接取引および進物等によって消費されていることは承知しています。建設省が岐阜市場への入荷量や38km地点での漁獲量を調査しているのは、漁を止めたことによる漁獲数の減少分や、漁業者と料理店との直接取引および進物等によって消費されている量については、堰の運用前後での比較を客観的に行うことが出来ないため、統計的に集計可能な方法により比較するためのものです。サツキマスの遡上量そのものを表す資料が無い中において、このような参考となる資料をモニタリング委員会で使用することが適切性を欠くとは思われません。
 サツキマスの遡上・降下に関するモニタリング委員会の検討のどこがきわめて粗雑であるのか、具体的にお示し下さい。
(ス) 「窓」で言及されている日本自然保護協会吉田正人部長の指摘のもととなる「五年に及ぶ厳密な独自調査」とは、具体的にどの調査を指すのか、お示し下さい。
(セ) 貴社が、この「独自調査」を厳密であると評価した根拠をお示し下さい。


9.各論的事項について

(ソ) 11月15日付け当方書簡の質問7及び8に対する貴社回答中「93年と94年は冷夏と異常渇水でアユの漁獲量は減少していましたので、正確な比較のためには、堰運用前の5年ないし10年のデータが必要でしょう」と主張しておられます。できるだけ長い期間のデータを用いて比較する方が望ましいのは事実であると考えますが、堰運用前後のアユの遡上量の変化を把握する上で、忠節橋におけるデータは、堰運用前の資料が2年間に限られるといえども、重要なものであることに変わりはないと考えます。一方、貴社書簡では「93年と94年は冷夏と異常渇水でアユの漁獲量は減少していた」ことを、これらの年の資料をベースとして堰の運用前後を比較することの問題として挙げているように見受けられます。そこで、冷夏、異常渇水により、アユの遡上量が平常年よりも大きく変わると主張されるのであれば、その根拠をお示し下さい。また、93年(平成5年)、94年(平成6年)のアユの遡上量に、冷夏、異常渇水がどの程度の影響を及ぼしたのか、何らかの推定等をお持ちでしたら併せてお示し下さい。
(タ) 11月15日付け建設省書簡において、堰ができる前のアユの遡上量に関する質問7で、「『1000万尾から2000万尾』という数値は、昭和30年代前後のデータに基づく『推定値』であり、その後の流域の開発、汚濁負荷の流入による水質の変化等により河川の環境が大きく変化する中で堰の建設又は運用を開始する直前の状況とは異なっているものと考えられます。長良川河口堰の影響を論じるのであれば、堰の建設又は運用を開始する直前時期のアユの遡上量と、堰運用後のアユの遡上量を比較すべきと考えますが、貴社の見解をお示し下さい」とお尋ねしたのに対して、12月13日付け貴社書簡(10)より5段落ほど下では「私たちも、堰の建設または運用を開始する直前のアユの遡上量とその後の遡上量を比較すべきだと考えます………」というお答えをいただいています。平成11年度の六百万匹という数字と対比させて、堰運用開始よりも30〜40年前後も前のデータに基づく「推定値」である「1000万尾から2000万尾」という数値を基に、さらに数字が膨らんだ印象を与える「堰ができる前は何千万匹もが………遡上していたはずだ」という表現を用いたことは不適切であったとお考えなのでしょうか。再度確認させていただきます。
(チ) また、12月13日付け貴社書簡(10)の6段落ほど下では「………再質問書は、忠節橋地点での計測結果がそれ(当方注:堰運用前後アユの遡上量)に当たると主張していますが、この計測結果は天然アユの遡上数を正確に表してはいません。すなわち、この計測結果は、忠節橋下流の調査地点を通過したアユの数にしか過ぎません。目測による計測では、放流魚と遡上魚を区別することは現実的に不可能です。しかも、いったん計測したアユが降雨などの影響で調査地点の下流にまで流されるケースは全く考慮されておらず、再遡上してきたものも数えています。さらに、遡上は降雨による増水の後に集中して起こる傾向がありますが、増水時の目視調査はしばしば中止され、また、行われても、水が濁っているため、その精度は著しく低下すると考えられます。このような計測結果を主な材料にして『アユの遡上は順調』と説明していることこそ、国民を惑わすものではないでしょうか」と主張しておられます。
 確かに、忠節橋地点での調査では、再遡上したアユについても数えている可能性はありますし、天候・河川等の状況によって、観測精度に限界を伴うことは事実です。しかし、フィールド調査では、観測精度に悪影響を与える様々な要因を伴うのは宿命的なものです。重要なことは、その影響の程度をわきまえて結果を適切に用いることであると考えます。なお、放流アユの影響については、忠節橋地点下流でのアユ放流量が平成5,6年と比べて最近の方がかなり大きくなっているという事実は無く(むしろ平成5,6年と比べ平成9,10の方が忠節橋下流における放流量は若干減っている、図−1参照)、この要因により堰運用以降の忠節橋地点のアユ遡上量の数値が見かけ上維持されているという見方は当たらないと考えています。
 モニタリングにおけるアユの遡上調査は、河口堰を運用することによる影響を把握することにあります。この目的からすれば、河口堰運用前後でできるだけ同じ方法で調査したデータにより比較することが最も適切であると考えています。我々の調査が、長良川における天然アユの遡上量の絶対数の精密な把握を目的としたものであるのならともかく、観測精度に限界を伴うことが、調査結果の意義を著しく損ねるものではありません。
 この点について私どもの調査の目的を誤認して主張を展開していると思われますが、貴社はどのようにお考えなのでしょうか。
(ツ) 貴社は、長良川河口堰運用によるアユの遡上量の変化を比較する資料として、堰運用前のデータとしては、堰運用直前の忠節橋地点のデータよりも、貴社が「何千万匹」と表現した昭和30年代前後のデータに基づく推定値の方が適切であるとお考えなのでしょうか。
(テ) 11月15日付け当方書簡の質問9に対する回答中「たしかに最近は、放流稚魚の重さが変わってきているようです。しかし、ここで重要なのは、計数を何倍とみなすのが適当かどうかではありません」と主張しておられますが、「窓」における「堰運用の前は放流ものの漁獲量の二・五倍もの総漁獲があり、その差が天然アユだった。最近は漁獲量が放流漁獲量に届かないほどに減ってしまった」という主張を支える根拠がなくなりますが、この部分の「窓」の記述は不適切であるということを認めておられるのでしょうか。
(ト) また、「堰のない揖斐川での漁獲量にほとんど変化が見られないのに対して、長良川の三つの漁協の漁獲量が93年(平成5年)ごろから減少し、97年(平成9年)以降さらに減少していることこそ、問題とされるべきです。三つの漁協のうち、堰にもっとも近い長良川漁協の落ち込みがもっとも大きくなっています」と主張しておられますが、98年(平成10年)までの揖斐川の漁獲量をみると、長良川同様減少傾向となっており、とても貴社がいう「変化が見られない」状態ではない(図−2参照)と考えています。そこで、どのような根拠をもとに「堰のない揖斐川での漁獲量にほとんど変化が見られない」と主張されているのかお示し下さい。
(ナ) 11月15日付け当方書簡の質問11に対する回答中「私たちが「いま漁に出る漁師は一人もいない」と記したのは、かつてヤマトシジミの良い漁場だったところについて述べたものです。この点について該当個所を明確にしなかったのは舌足らずでした」と主張しておられますが、ここで貴社は「はるかによい漁場だった」という語句が、「長良川」の一部区域に限定したものであり、長良川で実際にシジミは死滅しておらず、また漁に出る漁師はいたとしても、「(記述の)該当個所を明確にせず舌足らずだった」だけで、「誤り」ではないと主張されているということでしょうか。確認のため、再度明確に見解をお示し下さい。また、そのように主張されているのであるとすれば、「だがそのシジミは、長良川でなく、隣の揖斐川で取れたものだ」という長良川と揖斐川全体を対比させた文に続いて「はるかによい漁場だった長良川でシジミは死滅し、いま漁に出る漁師は一人もいない」と述べられていることから貴社が主張するような解釈は文脈上無理であること、また、「はるかによい漁場だった長良川で」の部分は、貴社主張の意味でなら「長良川のはるかによい漁場では」といった、より誤解が少なく字数的にも短い表現を用いていたと考えられることからも、そのような主張は全くの詭弁であると考えます。420万余の発行部数を誇る朝日新聞夕刊の読者に対して流された誤った情報を、詭弁を弄し、「舌足らず」であったという一片の文言でもって弁明とするのは、責任ある報道機関として如何なものかと考えます。貴社の見解をお示し下さい。
(ニ) また、ここで、「ヤマトシジミの良い漁場だったところ」とは、具体的にどの範囲の場所を指しておられるのか、地図(図−3)を添付しますので、それを利用してお示し下さい。また、どのような理由で、その範囲を「良い漁場」と特定したのかもあわせてお教え下さい。
(ヌ) さらに、「長良川河口にシジミ採りに行く漁業者は最近もいます。しかしそれは、『なぎさプラン』によって人工的に砂をまかれた河岸に生息しているシジミを採るためです。この事実はむしろ、河口堰の運用開始後、長良川河口の生態系に大きな変化が出た証拠とこそとらえるべきでしょう」と主張しておられますが、堰の運用後、ヤマトシジミの生息環境が大きく変化することは、運用前から予測しているとおりです。なお、これまでのモニタリング結果では、堰運用前の平成6年度に長良川左岸で施工した「なぎさプラン」以外の左右岸の浅瀬においても多くの個体を確認しています。漁業者がシジミ採りに行くのは、「なぎさプラン」によって人工的に砂をまかれた河岸に生息しているシジミを採るためだと断定されたことは、今でも正しいとお考えか確認のためにお尋ねいたします。
(ネ) 貴社書簡の(11)で「長良川モニタリング委員会の和田吉弘委員は、11月22日に開かれた今年度第2回委員会の席上、およびその後の記者会見において、『ヤマトシジミが激減することは堰建設前から予想されていたことであり、その通りになっている』という趣旨の発言をされました。長良川河口におけるシジミの漁獲量が激減している事実は、この委員会に提出された『赤須賀漁協への聞き取り調査結果に基づく区域別集計表』にも明瞭に表れています。それにもかかわらず建設省はなぜ、『漁獲量に著しい減少は見られない』と主張されるのでしょうか。これでは、『真実を隠し、国民をだましている』と判断されても仕方がないのではありませんか。」と質問されていますが、貴社が指摘している資料にも記述しているとおり、建設省資料における漁獲量はこうした影響区間のみならず長良川の堰下流の浅瀬、揖斐川及び木曽川における赤須賀漁業協同組合の木曽三川下流部における全体漁獲量を示したものです。この資料に基づき「シジミの漁獲量は著しい減少は見られない」との見解を示したわけですが、資料にも「近年の木曽三川下流部のシジミの年度別漁獲量」としています。何を隠し、だましていると言われるのでしょうか、ご見解をお示し下さい。  なお、もしも貴社が、建設省資料ではグラフの部分を見ないと漁獲量の対象範囲が不明であることを不当であると主張するのであれば、「窓」における以下の記述のa)、b)で挙げた表現の妥当性との比較考量も含めて、見解をお示し下さい。

a) サツキマスについて、建設省資料による長良川38キロ地点での漁獲量である278匹という数値に加えて、他に多くの漁獲量が長良川であることを貴社は知っていたにもかかわらず、「絶滅が危ぶまれる種のサツキマスにいたっては、今年は二七八匹しか取れなかった」と、あたかも長良川全体で278匹しか取れなかったとの誤解を招く表現を用いたこと

b) 「堰運用の前は放流ものの漁獲量の二・五倍もの総漁獲量があり、その差が天然アユだった」、「はるかによい漁場だった長良川ではシジミは死滅し、いま漁に出る漁師は一人もいない」といった事実と異なると考えられる表現を用いたこと
(ノ) 11月15日付け当方書簡の質問12に対する回答中「忠節橋地点でのアユの計測結果が天然アユの遡上数と考えるわけにはいかないことを、すでにご説明いたしました」と主張しておられますが、11月15日付け当方書簡の質問12は、11月5日付け書簡において貴社が、建設省資料におけるアユのグラフをとりあげた上で「しかし、堰の運用が始まる前と比べて、長良川全体を遡上する数が増えたのか減ったのか、その比較がありません」と述べたことに対して発した質問です。貴社は、「天然アユ」の遡上数という、明確に計測できない概念を持ちだして議論をすりかえていますが、「アユ」の遡上数ということについての議論であるということを今一度認識した上で、再度回答いただくようお願いいたします。
(ハ) 12月13日付け貴社書簡の(12)の、「私どもの書簡の指摘が間違っているのであれば、建設省が下流域の漁業者の漁獲量を調査し、公表していただけませんでしょうか」とのお尋ねですが、岐阜市場の入荷量についての当方の解釈は(シ)で述べたとおりですが、問題なのは、当方が「サツキマスの漁獲量も著しい減少は見られない」という見解について、貴社は逆に「著しく減少している」と断定し、「真実を隠し、国民をだます」という主張の一つの根拠としていることにあります。11月15日付け当方書簡13に対する貴社回答では、「サツキマスは、漁業者と料理店との直接取引や進物用などによって消費されるものもあるため、岐阜市場への入荷量が漁獲量を正確に表しているとは考えられません」と述べ、それ以上のお答えをされておりません。これでは、岐阜市場への入荷量の数字が全てではないことは主張し得ていても、「著しく減少している」という貴社の断定が適切であったことの論証にはなっていません。「私どもの書簡の指摘が間違っているのであれば、建設省が下流域の漁業者の漁獲量を調査し、公表していただけませんでしょうか」という指摘は、残念ながら論点をぼかす質問の一つであると受け止めざるを得ません。
 私どもは、岐阜市場への入荷量は、漁獲量を正確に表しているものではないとしても、重要な参考データの一つであることには変わりはないと考えています。誤差要因はあるにせよ、サツキマスの漁獲量を推定する上での数少ないデータの一つなのですから。岐阜市場への入荷量が減少していない中で、サツキマスの遡上量が大幅に減少しているという貴社の主張が成立するためには、以前は市場を通さない大量の流通があり、それが現在は激減していることが必要ですが、それを具体的にお示し下さい。
(ヒ) 12月13日付け貴社書簡(13)で、新村氏の第一の指摘についてどのように考えるかとのことですが、長良川38km地点でのサツキマスの50%漁獲日(その年の総漁獲量の半分を獲り終える日)をみますと、堰運用後の平成8,9年には両年とも5月27日と比較的遅い時期になっています。しかし、平成10年には5月16日となり、平成6年とほぼ同時期です。一方、平成11年では5月23日となり、8,9年の場合に近い時期となっています。
 このように、どの年でも過半のサツキマスは5月末までに獲れていますので、「サツキマスが5月に採れなくなった」という指摘は当たっていないと考えています。また、遡上時期が2〜3週間遅れたという指摘に続けて「漁期の変化自体、注目しなければならない生態系の重大な変化だ」と述べられている点は、一つのご意見として受け止めたいと考えております。サツキマスの遡上時期には年変動があり、平成10年のように、堰運用前と比較してさほど変わらない時期にサツキマスが遡上している年もあります。また、モニタリング報告書では、アユの遡上時期と、木曽三川河口域の水温の関係について触れていますが、このような因子も合わせて考える必要があると考えています。指摘を頂いている平成8,9年には、アユの遡上が始まる4月における木曽三川河口域の水温が例年よりも低かったことが確認されています。いずれにせよ、今後の年変動等の動向を見ながら、注意深く考えるべき問題だと考えます。
 また、長良川38キロ地点の二人の漁業者の出荷量を除いた数値をお示しいただいておりますが、仮にこの数値を用いたとしても、堰運用開始後に「著しく減少している」と言えるような数値ではなく、新村氏も述べられている「漸減傾向」という評価の方がまだ当たっているのではないかと考えます。貴社が断定する「著しく減少」という主張を支える資料というよりも、建設省資料における「著しい減少はみられない」という表現が不当と言えるほどのものでないことをお示しいただいた資料ではないかと考えております。
(フ) 12月13日付け貴社書簡(14)は、一次資料からパンフレットや概要版を作る際にデータを恣意的に抽出する傾向がある等の新村氏の第二の指摘についてどう考えるかとのご質問です。建設省としてはそのようなことのないよう努力をしているつもりですが、見方によってはそのように思われることもあるのでしょう。特に、「堰の運用の是非」といった、異なる意見が世上存在する問題について、行政機関としての政策判断を下した場合には、その政策判断が適切であることをお示しする必要があることから、パンフレット等においても、政策判断の論拠となるデータをまずはお示しし、その結果として異なる意見を持つ方から他のデータの紹介が不十分であること等のご批判を受ける点もあろうかと思います。ご批判は謙虚に受け止めて、今後の我々の行政の参考にさせていただきたいと考えます。


10.報道の基本的姿勢について

 12月13日付け貴社書簡では、「建設省の主張はモニタリング委員会の報告や関連資料によって十分に承知しています。それを簡潔に示したのが、前回の書簡に添付した資料です。それらをもとにした、今回の『窓』の取材に落ち度があったとは考えておりません」と述べていますが、

(ヘ) 「堰運用の前は放流ものの漁獲量の二・五倍もの総漁獲量があり、その差が天然アユだった」、「はるかによい漁場だった長良川ではシジミは死滅し、いま漁に出る漁師は一人もいない」といった事実と異なると考えられる表現は、少しでも建設省側への取材を行っていれば防げたのではないでしょうか。貴社の見解をお示し下さい。
(ホ) もしも、12月13日付け貴社書簡の最後から2つ目の段落にあるお答えのとおりに、貴社が「建設省の主張はモニタリング委員会の報告や関連の資料によって十分に承知していた」のであれば、「窓」において、「堰運用の前は放流ものの漁獲量の二・五倍もの総漁獲量があり、その差が天然アユだった」、「長良川でシジミは死滅し、いま漁に出る漁師は一人もいない」と書かれたことは、単なる事実誤認ではなく、事実が異なることを承知していながら国民をだましたことになるものと考えられますが、貴社の見解をお示し下さい。
(マ) 貴社は11月5日付け貴社書簡において、「建設省が隠している真実とは、「長良川河口堰の運用後、天然アユは順調には遡上・降下しないこと。天然サツキマスや、長良川河口部のヤマトシジミの漁獲量は著しく減少していること」と述べていますが、天然アユの遡上・降下が順調であるかどうかという点や、天然サツキマスの漁獲量の減少が著しいかどうかといった点について、貴社が承知しているという建設省の各種資料やモニタリング報告書等で、当方の見解が示されているものがあるとは理解していません。貴社は、何を根拠として、これらの点についての当方の見解を推定し、さらに真実を隠していると断定したのでしょうか。具体的にお示し下さい。
(ミ) また、既存の資料で、天然アユの遡上・降下が順調であるかどうか、天然サツキマスの漁獲量の減少が著しいかどうかという点についての建設省の見解が明確に示されていないのであるとすれば、いきなり「真実を隠している」と紙上で断罪する前に、これらの点についての建設省の見解を確認するための適切な取材を、事前に行うべきであったとはお考えになりませんか。見解をお示し下さい。


 今回の「窓」については、建設省側への十分な取材を欠いていたこともさることながら、建設省がこれまで行ってきた情報公開に関する行政スタンスや、当省の見解を支持するデータ、識者の見解、裁判所の判決等には一切言及せず、「建設省のウソ」という見出しの下、「真実を隠し、国民をだます」という主張を中核とする建設省の行政姿勢を否定する記事を掲載したことが大きな問題だと考えております。この点を取り違えておられる様子は、続けて「この論争の中心的な論点は「堰運用後、アユは順調に遡上し、サツキマスやシジミの漁獲量も著しい減少は見られない」という建設省の説明は事実かどうか」という点にあります。・・・その点を見誤らないで頂きたい」と主張されていることからも伺えますが、建設省としては11月15日付け当方書簡でも言及しているとおり、「窓」の記事が新聞紙上という極めて影響力のある場で、建設省の主張と異なった意見を有する方の見解を取り上げ、それが建設省の主張と異なっているという理由をもって建設省を一方的に「真実を隠し、国民をだます。」と断じたことを論点の中心においているのだということを確認させていただき、貴社の誠意ある回答をお待ちしております。なお、私どもは、貴社とのこの一連の議論は、今後も全てインターネット上の建設省ホームページ(http://www.moc.go.jp)で公開してまいる考えですので、宜しくお願いいたします。

 平成11年12月27日


〒100-8944 東京都千代田区霞が関2-1-3

建設省河川局開発課長    横塚 尚志

建設大臣官房文書課広報室長 西脇 隆俊