長良川河口堰建設差止請求控訴事件判決(H10.12.17)



第三 本件堰の建設差止請求(第一次請求)の当否
 一 被控訴人は本件堰建設工事完了の事実を主張するところ(前記事実欄第四の   二1(一))、控訴人らはこれに対する認否をしないが、証拠(乙262、26   3、291の1、弁論の全趣旨)によれば、本件堰本体の建設工事は平成5年   12月完了し、本件堰の付属施設等の建設工事、本件堰完成に伴う完成検査、   公示の手続を含め、本件堰の建設に関する工事及び手続は、平成7年3月31   日までに完了し、同年7月6日から本件堰の全ゲート扉の閉鎖を伴う操作が継   続されるようになり、堰湛水域が生じ、本件堰が本格的に運用されるようにな   ったことが認められる。  二 被控訴人は、上記工事等の完了により、本件堰の建設差止請求が目的を失い   不適法になった旨主張する。しかし、上記建設差止請求は被控訴人に対する不   作為を求める給付請求であるところ、不作為の給付請求権は、これに反する作   為がなされたため給付の目的を失った場合には、例えば物の給付を求める請求   についてその物が滅失した場合と同様に、履行不能により実体法上その権利が   消滅する(他の権利に転化する場合を含む。)ことになるのであって、実体法   上の権利の消滅と無関係に民事訴訟の審理対象としての適格を欠くに至るもの   とは解されない。そして、実体法上の権利が消滅したのであれば、これに対す   る判断は、本案の判断の問題となるのであって、訴訟要件の判断の問題ではな   いというべきである。    また、被控訴人は、上記工事等の完了により、本件堰の建設差止請求が「あ   らかじめその請求をなす必要性」を有しないものとなったとも主張する。この   点、履行期日の限定されていない建設差止請求訴訟は、現在から将来にわたり   建設行為をしないという継続的な不作為を請求する訴訟であって、事実審の口   頭弁論終結時点における上記継続的不作為請求権の存否を審理の対象としてい   るとみるべきであるから、これを直ちに将来給付の訴えと解することはできず、   したがって訴訟要件として当然に「あらかじめその請求をする必要」(民事訴   訟法135条)という要件が必要であるとは解されない。むしろ、人格権に基   づく建設差止請求権については、今後なされる作為(建設行為)により人格権   が侵害されるおそれのあることが実体法上の要件となると解されるところ(民   法201条2項参照)、被控訴人の上記主張は、本件堰の完工の結果、今後な   される建設行為が存しないことを理由に、今後なされる建設行為により人格権   が侵害されるおそれもまた存しない旨主張するものであるから、実質的には、   「権利侵害のおそれ」という実体的要件の欠缺を指摘する主張ということがで   きる。    したがって、訴訟要件を欠く旨の被控訴人の上記主張は採用できない。  三 被控訴人の主張する本件堰建設工事完了の事実は、控訴人らの主張する不作   為義務が履行不能により実体法上消滅したことを基礎づける事実であって、建   設工事差止請求権の権利消滅原因事実にあたると解される。  四 そうすると、控訴人らの本件堰の建設差止請求権の存否に立ち入るまでもな   く、上記一の認定事実によれば請求権自体が消滅したことになるから、本件堰   の建設差止請求は棄却を免れないこととなる。