[検証]1999年の災害
台風18号
【REPORT8】 山口県宇部市

 台風直撃
 暴風雨とともに
 押し寄せた高潮の猛威

 高潮による浸水で機能が完全停止した山口宇部空港
Assess the disaster damage that occurred in ube in Yamaguchi on Sep. 24, 1999

5m 超える高波が住宅襲う

■台風18号による宇部市内の浸水状況
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平成11年9月24日早朝、大型で非常に強い勢力を持った台風18号は熊本県に上陸、九州を横断して周防ュに抜けた後、午前9時前には山口県に再上陸した。台風の直撃を受けた宇部市では、市内各所で多くの被害が発生した。 台風18号は、雨、風ともに強い台風で、宇部市では24日未明から風雨が強くなり、暴風域に入った午前7時頃からは猛烈な暴風雨となった。市内では午前7時28分に最大瞬間風速58.9 m/sを記録。午前7時30分から8時30分の1時間には最大時間雨量77.5 mmを観測し、強風や大雨による被害が相次いだ。

 

 

高潮に襲われた山口宇部空港の駐車場。駐車していた586台の車が屋根まで水に浸かった
海面の異常上昇で、高波が防波堤を軽々と乗り越えて空港に押し寄せた

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また高潮も発生し、東からの強風で押し寄せた高波が東部沿岸地域一帯を襲った。台風の接近と大潮の満潮時が重なったため、高潮の規模は、57年前の昭和17年に山口県内で約700人、宇部市だけでも276人の死者を出した周防ュ台風による高潮を上回り、犠牲者こそ出なかったものの、大きな高潮被害を同市にもたらした。 特に被害の大きかった西岐波地区や東岐波地区では、海岸縁の住宅が5 mを超える高波を受けて破壊されたのをはじめ、地区内を流れる河川が高潮の影響により下流部で氾濫、流域の低地では床上・床下浸水が相次いだ。西岐波の床波漁港では高波が古い大波止を破壊し、係留されていたボートや船が陸へと打ち上げられ、引き波で車が海へと流された。 山口大学工学部・防災システム工学研究室が、被害を受けた地域の住民(1271世帯)を対象に行った被害調査アンケートによれば、「もし、浸水が夜中に起こっていたらどうなっていたか」の問いに、約55 %の人が「自分や家族の身に危険が及んだ」と回答している。同研究室の村上ひとみ助教授は「今回は、朝の明るい時間帯だったので対応できたが、夜中なら死者が出た恐れがあったと住民自身がとても強く感じていたことが分かる。被災地は高齢者の多い地域でもあり、危険な状況の中、被害が人命に及ばずに済んだのはたいへん幸運なことだった」と話している。

 

 

 

 

 

空港では滑走路が冠水
高潮により空港内は一面冠水した

一方、市の中心部にほど近い宇部港では、午前8時に最大潮位5.60 mを記録。これは通常の満潮位(満潮時刻午前7時56分、天文潮位3.51 m)を2.09 m上回るものだった。 この高潮と大雨による増水の影響で、市の中心街を抜けて宇部港へと流れ込む真締川では、水位が急上昇し、数箇所で%水した。このため市街地では床上・床下浸水が相次ぎ、jr宇部新川駅は一面水浸しとなった。また、真締川沿いにある山口大学医学部付属病院では、川から溢れた水が第一病棟の救急車両進入口から地下に流入、その水位は3.4 m近くにもなった。地下にいた高規格救急車はスロープの濁流を走り抜け、辛うじて脱出したが、地上に出たところで運転不能となった。地上では大学構内の駐車場が1.2 mの深さで冠水し、駐車中の車がすべて水没した。 周防ュに面した山口宇部空港では高潮により、高さ約1.2 m、厚さ約1 mの防波堤が14か所で損壊し、滑走路が冠水した。空港では2000 mから2500 mへの滑走路延長工事が行われており、延長部分の造成を終えていたが、その新設部分も被害を受けた。旅客ターミナルビルや電源局舎など空港施設への浸水は、最高1.5 m近くにもなり、空港の機能は完全に停止した。岡野寛空港事務所次長は「暴風雨で視界ゼロという時に高潮に襲われ、気が付いた時にはすでに建物に海水が入ってきていた」と災害時を振り返り、「台風の目の中に入ったのか、雨も風も突然ピタリと止んで視界が開けた時には、防波堤の先に見える海は、海面が防波堤より10 m近くも高くなっていた。波ではなく、海全体が襲ってくるかのようだった」と高潮の様子を語る。
高波に襲われた西岐波地区では、打ち上げられた船や車が無惨な姿をさらす

空港の駐車場も冠水して586台もの車が屋根まで水に浸かり、完全に水が引いたのは午後9時30分頃だった。幸い運航に必要な精密機器類が致命的な損傷を免れたため、災害から4日後の28日には有視界飛行での運航が再開された。この高潮による空港の被害総額は、主要施設だけでもおよそ18億円に上っている。 山口宇部空港事務所では今回の高潮災害を教訓に、今後の災害対策として新たに非常連絡網や災害対策チェックリストを作り、災害発生時には航空会社、空港整備会社などと一体となって対応できるよう情報伝達体制を整えたという。 また、県内各所で高潮被害が発生した山口県では、土木建築部監理課が主体となって高潮対策検討委員会を発足させ、ハードとソフトの両面から、高潮対策についての検討が進められている。

 

 
山口大学医学部付属病院も水浸しに。地下から脱出した救急車は地上に出たところで走行不能となった
高潮と豪雨による増水で真締川が氾濫。市街地では道路が冠水し、床上・床下浸水が相次いだ