砂防部

「MoC署名式」及び「第1回日本オーストリア砂防技術会議」の開催

1.はじめに
 「土砂災害リスクマネジメント分野における国土交通省砂防部とオーストリア連邦農林・環境・水資源省林務局との間における協力覚書(以下MoCと記載)」の署名式及び、日本オーストリア砂防技術会議が開催され、それに伴う現地視察も含め、平成29年5月18日(木)から22日(月)までオーストリアへ出張した。日本の参加者は西山国土交通省砂防部長、岡本国土技術政策総合研究所土砂災害研究部長、丸井新潟大学名誉教授、西砂防フロンティア整備推進機構研究第一部長、嶋砂防・地すべり技術センター技術開発研究室長、及び三道保全課係長の6名であった。


2.MoC署名式
 MoC署名式は5月18日(木)オーストリア連邦農林・環境・水資源省林務局において執り行われた。
 MoCに基づき、今後日本とオーストリアの間では、主に以下の内容が定められた。
・土石流、地すべり、斜面崩壊、雪崩など土砂災害等の危機管理分野における協力
・研修、会議、現地視察、並びに専門家の交換などによる協力の促進
・行政機関及び必要に応じた研究機関、地方自治体、民間企業等の参加
 署名式における挨拶では、両国から、準備会合から数ヶ月で署名に至ったことへの感謝、技術交流の更なる発展への期待、協力関係の強化による来年度のインタープリベント富山大会の成功祈念などが表明された。



写真-1 MoC署名式の様子


写真-2 MoCの文書


写真-3 MoCの文書


3.日本オーストリア砂防技術会議
 MoC署名式に引き続き、第1回日本オーストリア砂防技術会議が開催された。日本側からは上記来墺者6名が、オーストリア側からは砂防部長、治水部長をはじめ土砂災害、水害関係の技術者合計7名が参加し、両国からそれぞれ3編ずつ話題提供を行った。


       第1回日本オーストリア砂防技術会議の講演題目
 講演1 「国際防災学会インタープリベントの研究活動」
     インタープリベント事務局長 Dr.Gernot Koboltschnig

 講演2 「日本における土砂災害対策」
     国土交通省砂防部長 西山幸治

 講演3 「オーストリアにおける渓流・雪崩災害対策」
     農林環境水管理省森林局砂防部長 Dr.Florian Rudolf Miklau

 講演4 「オーストリアにおける洪水対策」
     農林環境水管理省水管理局治水部長 Dr.Heinz Stiefelmeyer

 講演5 「日本における渓流・斜面の監視技術(早期警報への応用)」
     国土技術政策総合研究所土砂災害研究部長 岡本敦

 講演6 「日本・オーストリア間における砂防分野の科学技術協力の重要性」
     新潟大学名誉教授 丸井英明




 日本側からの発表に対して、オーストリア側からは、土砂災害警戒区域等が、地形条件や数値計算に基づいて求められる外力により定められるという設定手法について関心が示されるとともに、土砂災害警戒区域等は、避難する住民は認識しているのか、ハイドロフォンを用いた流砂観測は、土石流の予測といった実用化は既になされているのか、といった質問が寄せられた。

 一方、オーストリアでもソフト対策が進められているところだが、土石流と洪水のハザードマップは同じ災害シナリオに基づき、重ね合わせて作成されるとのことであった。”Risk Governance”により、ハード対策、ソフト対策両面において地域住民の積極的な関与を促し、円滑な合意形成や土砂災害対策の効率化を図ろうとしているとのことだった。



写真-4 会議の様子


4.現地視察
 5月19日(金)〜20日(土)には図-2に示す箇所において、現地視察を行った。



図-2 視察箇所


4.1シュピッツ
 シュピッツはユネスコの世界遺産「ヴァッハウ渓谷の文化的景観」に登録されている集落の1つである。平野や丘陵にブドウ畑が広がり、その中に古い家屋が点在し、優れた景観を成している。ここでは、景観に配慮し、可搬式堤が実施されていた。地元のボランティアが、洪水が予測されると12時間程度で組み立てるとのことであった(写真-5及び図-6)。



写真-5 資機材置き場



写真-6 2013年の洪水発生状況(出典:Land NOE)


4.2グシュリーフグラーベン
 当該地区はトラウン湖の東岸に位置し、石灰岩と泥岩・砂岩の地質境界となっている。石灰岩地質の斜面は頻繁に崩壊が発生しており、堆積土砂が地すべりを形成し、災害を誘発している。1978年以降はハザードマップが公表され、土地利用規制が適用されているが、景勝地であるため現在でも土地利用が続いている。2007年には大規模な地すべりが発生し、住民100名が避難、排水工を中心に緊急的な対策工事が実施された。



図-3 ハザードマップにおいて危険瀬が周知された範囲
(出典:die.wildbach)



図-4 グシュリーフグラーベン周辺の地形(赤点は2007年の災害対応時の観測地点)
(出典:die.wildbach)


4.3ハルシュタルト
 当該地区は、ハルシュタット湖の西岸に位置し、ユネスコの世界遺産「ザルツカンマーグート地方のハルシュタットとダッハシュタインの文化的景観」に登録されている。急峻な斜面と湖に挟まれるように伝統的な建築物が建ち並び、風光明媚な景観となっている。当地区では景観に配慮した水害対策が実施されており、集落内には4本の水路が整備されているが、ほとんどの区間は暗渠で整備されていた。2013年の洪水では溢水し、全壊3戸などの被害が生じた。ちなみに、近郊には世界最古の塩坑があり、現在も操業。製塩のため長年にわたり森林伐採が続いていたが、近年では植生の回復が図られているとのことだった。



写真-7 2013年の洪水発生状況(出典:die.wildbach)


4.4リーツェン
 当該地区は扇状地に広がる集落で、2012年に土石流災害が発生。500名が避難し、67棟の建物などが被災している。災害後渓流内に3基の砂防施設を整備し、2015年に完成。2016年に再び土石流が発生したが、砂防施設が効果を発揮し土砂を捕捉、下流の被害を防止している。図-5は渓流に整備された砂防施設のCGだが、特に透過部が日本とは異なる考え方で設計されており、興味深かった。



写真-8 土石流氾濫状況(出典:die.wildbach)




図-5 渓流に整備された砂防設備(出典:die.wildbach)


5.おわりに
 本会議において、オーストリア側からは日本の土砂災害防止法などのソフト対策、監視技術に対して強い関心が示された。一方会議や現地で紹介されたオーストリアの取り組みでは、砂防施設の設計の考え方や洪水防御の手法などに日本と異なる発想が見受けられ、興味深かった。
 日本とオーストリアの間では、古くはアメリゴ・ホフマン氏の来日以来、砂防技術の交流がなされているところであるが、今回のMoC署名を皮切りに、さらなる交流の発展が期待される。





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