1.はじめに
平成29年6月12日(月)から6月16日(金)まで,第10回日伊土砂災害防止技術会議が日本で開催されました。本会議は,平成10年11月の日伊科
学技術協力合同委員会において「日伊土砂災害防止技術会議の設置」が合意されたことに基づき行われているものです。平成11年10月に第1回が開催され,第3回からは2年に1度となり,日本と
イタリアで交互に開催されています。平成28年度はイタリア中部での地震により,延期となっていましたが,今回無事,第10回目の会議を開催することができました。
2.日程および参加者
(1) 日程
◇6月12日(月) 砂防部長表敬訪問(写真1)
◇6月13日(火)〜14日(水) 現地視察
・熊本地震被災地視察(県災害関連緊急砂防等事業実施箇所(山王谷川,高野台))
・H24九州北部豪雨被災地視察(県災害関連緊急砂防事業実施箇所(坂梨川))
・直轄災害関連緊急砂防事業実施箇所(阿蘇大橋地区)
◇6月15日(木) 第10回日伊土砂災害防止技術会議
◇6月16日(金) 日伊土砂災害防止技術ワークショップ
(2) 主な参加者
イタリア国家研究評議会水・土砂災害対策研究所(CNR-IRPI) | |
ファウスト・グゼッティ | イタリア国家研究評議会水・土砂災害対策研究所長 |
アレッサンドロ・パスート | イタリア国家研究評議会水・土砂災害対策研究所 パドヴァ支所長 |
ピエール・ニコラ・ロリーノ | イタリア国家研究評議会水・土砂災害対策研究所 バリ支所長 |
シルビア・ペルカッチ | イタリア国家研究評議会水・土砂災害対策研究所 研究員 |
アレッサンドロ・コルシーニ | モデナ・レッジョ・エミリア大学 地質工学 准教授 |
ジャンルーカ・マルカート | イタリア国家研究評議会水・土砂災害対策研究所 パドヴァ支所研究員 |
イタリア大使館 | |
アルベルト・メンゴーニ | イタリア大使館 科学技術担当 アタッシェ |
国土交通省水管理・国土保全局砂防部 | |
西山 幸治 | 砂防部長 |
栗原 淳一 | 砂防計画課長 |
草野 慎一 | 砂防計画調整官 |
城ヶア 正人 | 地震・火山砂防室長 |
国土交通省 国土技術政策総合研究所 土砂災害研究部 | |
岡本 敦 | 土砂災害研究部長 |
野呂 智之 | 土砂災害研究室長 |
桜井 亘 | 砂防研究室長 |
内田 太郎 | 砂防研究室主任研究官 |
国立研究開発法人 土木研究所 土砂管理研究グループ | |
西井 洋史 | 土砂管理研究グループ長 |
竹下 航 | 地すべりチーム 主任研究員 |
砂防関係機関 | |
大井 英臣 | (一社)国際砂防協会 理事 |
南 哲行 | (一社)全国治水砂防協会 常勤顧問 |
大野 宏之 | (一財)砂防・地すべり技術センター専務理事 |
酒谷 幸彦 | (一財)砂防フロンティア整備推進機構 上席研究員 |
3.現地視察
平成28年4月に発生した熊本地震の被災地を中心に視察を行いました。初日の6月13日は,熊本県砂防課の皆さんに案内していただき,県が主体となって復旧を行っている現場を視察しました。地震後の地すべりによって5名が亡くなった高野台地区では,広範囲にわたる地すべりの観測体制等について質問が行われました(写真2)。その後,平成24年の九州北部豪雨で土石流の被害を受け,県が災害関連緊急砂防事業により整備した砂防えん堤を案内していただきました。
翌14日には,阿蘇大橋地区を視察しました。熊本復興事務所および施工業者の皆さんにより,対策工事の概要を説明していただきました。(写真3)。無人化機械の操作室を視察した際には,バックホウの操作技術者に対して操作感覚について質問するなど,高い関心が寄せられました(写真4)。その後,阿蘇火山博物館,阿蘇神社等も見学し,阿蘇カルデラや,熊本を代表する歴史施設の成り立ちについて紹介しました。
4.第10回日伊土砂災害防止技術会議
(1) プログラム
10:00 開会挨拶 西山砂防部長 ファウスト・グゼッティ水・土砂災害対策研究所長 メンゴーニ・イタリア大使アタッシェ 10:15 基調講演 ・日本の砂防事業について 西山砂防部長 ・2016年イタリア中部地震におけるCNRIRPI の緊急対応 ファウスト・グゼッティ水・土砂災害対策研究所長 11:45 昼食・休憩 13:00 技術研究発表 セッション1:土砂災害対策について ・2016年4月熊本地震時における土砂災害の概要 桜井砂防研究室長 ・大規模地すべりに対する排水工および抑止工 〜エミリアロマーニャ州地すべりを事例として〜 モデナ・レッジョ・エミリア大学コルシーニ准教授 14:45 技術研究発表 セッション2:地すべりのリスク評価について ・地すべり防止施設の長寿命化を図る取り組み 〜地下水排除工の維持管理を一つの事例として〜 竹下地すべりチーム主任研究員 ・数値モデルを用いた地すべりのメカニズムの解析 ロリーノ水・土砂災害対策研究所 バリ支所長 16:15 ディスカッション 16:45 閉会挨拶 栗原砂防計画課長 |
(2) 概要
熊本の現地視察を終えた翌日15日,「土砂災害対策および地すべりのリスク評価」をテーマに日本・イタリア両国の取り組みの紹介や意見交換を実施しました(写真5)。基調講演では,西山幸治砂防部長からは日本の砂防事業の概要および土砂災害対策の将来的な方向性について,ファウスト・グゼッティ水・土砂災害対策研究所長からは2016年にイタリアで発生した地震の被災概要と,イタリア国家研究評議会水・土砂災害対策研究所が現地調査および数値解析を基に行政や地域住民に対して提供した土砂災害リスク評価等の技術的支援について紹介されました。
技術研究発表では,イタリアのコルシーニ准教授から地すべり対策工について,ロリーノ支所長から数値計算モデルによる地すべりメカニズムの解析についての報告が行われ,日本の桜井砂防研究室長からは熊本地震で発生した土砂災害における地形地質の特徴の分析について,竹下主任研究員からは地すべり対策施設の長寿命化についての考察が報告され,活発な意見交換が行われました。
5.土砂災害防止ワークショップ
6月16日には,国土技術政策総合研究所主催で,日伊土砂災害防止技術ワークショップが行われました(写真6)。土砂災害の発生予測や,監視技術に関する日本およびイタリア両国の最新の研究内容について発表されました。国総研だけでなく,土研・大学・民間等から総勢28名が参加し,監視技術の活用イメージなどに関して,活発な討議が行われました。
6.おわりに
今回の技術交流では,近年災害への対応という視点で両国の対策工や監視技術について情報交換が行われるとともに,活発な意見交換が行われました。
地震や火山を有するなど,国土条件に共通点が多い日伊両国において,技術交流を通じた意見交換を行うことは,近年激甚化の傾向にある土砂災害に対する取り組みとして非常に効果的です。
引き続き,本技術会議等を通じて,二国間で土砂災害防止技術に関する議論を深め,両国の技術の向上を図るとともに,土砂災害から安全・安心な社会の形成に寄与して参りたいと考えております。
最後になりましたが,本技術会議や現地視察の実施に関しては,熊本県砂防課,九州地方整備局,九州大学及び砂防関係法人の関係者の皆様に多大なご協力,ご支援をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。