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道路・交通・車両分野における情報化実施指針

はじめに

 本実施指針は、高度化情報通信社会推進本部による「高度情報通信社会推進に向けた基本方針(平成7年2月21日策定)に基づき策定するものであり、警察庁、通商産業省、運輸省、郵政省、建設省が関係省庁の協力のもと、とりまとめたものである。

 なお、情報化をめぐっては、現在、目覚ましい技術革新が起こるとともに、情報通信インフラが急速に整備されつつあるところであり、それらの状況を踏まえつつ、今後、毎年度、実施状況のフォローアップを行い、必要に応じ、本実施指針を改訂していくこととする。


1. 基本的な考え方

 道路・交通・車両分野の情報化を図るため、高度道路交通システム(ITS;Intelligent Transport Systems)の研究開発、実用化等に積極的に取り組む。

 高度道路交通システムは、最先端の情報通信技術を用いて人と道路と車両とを一体のシステムとして構築することにより、ナビゲーションシステムの高度化、有料道路等の自動料金収受システムの確立、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化等を図り、安全性、輸送効率、快適性の飛躍的向上を実現するとともに、渋滞の軽減等の交通の円滑化を通し環境保全に大きく寄与する等真に豊かで活力ある国民生活の実現に貢献するシステムである。

 我が国においては、既に、高度道路交通システムを構成する個々のシステムについて、研究開発や実用化に向けた取り組みが進められているところであるが、高度道路交通システムは道路交通に関する効果に加え、新産業の創出に大きな効果が期待されることから、欧米においても研究開発が精力的に推進されている状況にある。

 そのため、政府においては、学民との連携を図りながら高度道路交通システムの全体構想の策定、研究開発、フィールドテスト、インフラ整備、普及、標準化に関する検討等のなお一層の推進を図るとともに、国際協力を積極的に進める。


2. 施策の展開

  1. 目標

     高度道路交通システムの研究開発等を官学民の連携により推進し、実用化の段階に達したシステムから逐次運用を図り、21世紀の初頭を目途に高度道路交通システムの概成を目指すものとする。

  2. 施策の内容

    1. 全体構想の策定

       高度道路交通システムの構築が、相互に調整が図られ、体系的、効率的に推進されるよう、目標とする機能、主要な研究開発等に係る基本的な考え方をとりまとめた全体構想を策定し、研究開発の進捗状況、技術の進歩等に合わせて随時見直しを行う。

    2. 推進体制の整備

       高度道路交通システムの構築には、多様な分野の広範な技術等の集積や広く関係者の協力が必要であり、官学民が連携、協力を図りながらシステムの実現に向けて積極的な取り組みを行う。

    3. 研究開発

       高度道路交通システムの構築に向けて必要となる多様な研究開発については、国が基礎的な分野や長期的展望に立った研究開発について国の研究機関、官民共同研究、学民への委託研究等により実施するとともに試験研究施設の整備により支援し、民間等は比較的商品性の高い分野の研究開発を中心に担当する等、官学民のそれぞれの特性を活かしつつ、相互に役割を分担しながら積極的に推進を図るものとする。

    4. フィールドテスト

       高度道路交通システムは、最先端の情報通信技術を用いて新しく構築するシステムであることから、フィールドテストによるシステムの実用性等に関する評価が有効である。そのため、研究開発の状況に応じたフィールドテストを実施するとともに、適切なフィールドの確保等民間等が行うフィールドテストが円滑に促進されるように配慮するものとする。

    5. インフラの整備

       高度道路交通システムを構成するシステムについては、フィールドテストの結果等を踏まえながら、そのシステムの構築に必要なインフラの整備を計画的に推進する。

    6. 実用化に向けた展開

       高度道路交通システムの実用化が円滑に図られるよう、関連機器、ソフトウェア等の市場動向を的確に把握し、効率的・計画的に実用化・普及策を講じる。

    7. 法制度等への配慮

       高度道路交通システムの研究開発や実用化等が円滑に進められるよう、製造物責任(PL)、プライバシーの保護、知的所有権等に配慮するとともに、必要に応じて関係する法制度等の整備を行う。

    8. 標準化

       国際電気通信連合(ITU)、国際標準化機構(ISO)等における高度道路交通システムに係る国際標準化の検討については、我が国で研究開発・実用化しているシステムの仕様等について順次提案を行う等積極的な対応を図るとともに、国際的な整合性も踏まえながら今後のシステムの構築に努める。

    9. システムの接続性

       高度道路交通システムは、多数のシステムで構成されるとともに、複数のシステムが同様データを利用することが想定される。さらに、個々のシステムについては研究開発・実用化の進展に合わせて順次機能の拡張も想定される。そのため、システムの構築にあたっては、他のシステムとの接続性やシステムの拡張性、データに関する基本的事項の整合等に配慮するものとする。

    10. 国際協力

       国際会議・セミナーの開催、参加等による国際情報交換、国際標準化に係る検討への参加、研究開発・フィールドテスト等に係る技術協力、開発されたシステムの政府開発援助等による技術移転等を通じて、高度道路交通システムに関する欧米、アジアオセアニア諸国等との国際協力を積極的に推進する。

    11. 高度道路交通システム世界会議

       高度道路交通システムの円滑な推進に向け世界各国が意見交換、情報交換等を行う高度道路交通システム世界会議に継続的に参加するとともに、本年、横浜で開催される第2回高度道路交通システム世界会議については、我が国における高度道路交通システムの研究開発及び普及状況の紹介を行う等政府として積極的な対応を図る。


3. 開発分野と進行中のプロジェクト

 高度道路交通システムの開発分野については次の分野が想定される。

 なお、研究開発の進捗状況、技術の進捗等に合わせて随時見直しを行う。

  1. 開発分野

    ナビゲーションシステムの高度化

    我が国においてはナビゲーションシステムが急速に普及しつつあるが、さらに渋滞情報、所要時間、交通規制、サービス情報等をリアルタイムに収集・提供するシステムを構築し、ナビゲーションシステムの高度化を図ることにより、目的地までのより快適な移動を実現し、利用者の利便性の向上等を図るものである。

    自動料金収受システム

    自動料金収受システムは、高速自動車国道等の有料道路の料金所等で一旦停止することなく自動的に料金の支払いを可能とするものであり、料金所でのノンストップ化による渋滞の解消、近年のキャッシュレス化に対応した一層の利用者サービス向上、料金収受の自動化による管理コストの低減等を図るものである。

    安全運転の支援

    各種センサにより道路・交通の状況や周辺車両の状況を把握するとともに、道路等のインフラと車、車と車の間の情報通信等により、周辺車両の状況、突発事象等をリアルタイムに把握し、ドライバーに対する警告、運転制御による運転補助、さらには自動運転を可能とするシステムの構築により、交通事故の発生・拡大の防止等による安全性の向上を図るものである。

    交通管理の最適化

    1)交差点での効率的な信号制御を行う最適制御アルゴリズムの研究開発、2)交通流の分散等を目標として、車載装置等へ交通情報を提供するシステムの研究開発、3)公共車両優先信号制御手法等の改善、4)目的地情報の活用による最適な車両配分を考慮した動的経路誘導の研究開発、5)車両の動態的把握等による業務車両等の効率的運用を支援する手法の研究開発、6)交通公害の低減を目指す迂回情報提供や信号制御手法の研究開発、等により、交通流そのものの発生にまで踏み込んだ交通管理を行い、交通の安全性・快適性の向上と環境の改善を図るものである。

    道路管理の効率化

    路面状況、工事実施状況等の情報を収集・提供するシステムの構築による道路利用者への工事情報等の迅速な提供及び道路管理の迅速かつ的確な対応を図るとともに、特殊車両通行許可申請・事務処理の電子化、通行許可経路のデータベース化、許可車両の実際の通行経路や積載量等を自動的に把握可能なシステムの構築等による特殊車両の許可手続きの迅速化、通行許可の一層の適正化等により利用者サービスの向上、物流コストの低減等を図るものである。

    公共交通の支援

    公共交通機関の運行状況を把握し事業者及びその利用者に情報を提供するシステム、公共交通機関の円滑な運行を確保するシステム等の構築を通じ、事業運営の効率化、利用者の利便性の向上を図るとともに、交通機関の最適な利用分担の実現を図るものである。

    商用車の効率化

    トラック、観光バス等の運行状況を収集し、輸送事業者等に提供するシステム、高度化・自動化・システム化された物流センター、共同配送・帰り荷情報提供システムの整備、商用車の連続運転を可能とする自動運転システムの整備により、集配業務の効率化、業務交通量の低減、輸送効率の飛躍的な向上による環境の改善を図るものである。

    歩行者等の支援

    携帯用の情報提供装置等を用いた歩行者・自転車利用者への経路・施設案内等を提供するシステム、磁気、音声等を利用した視覚障害者向けの経路案内、誘導を行うシステム及び携帯用発信機による歩行者用信号の青時間の延長システム等の構築により、高齢者、身障者等の交通弱者も安心して利用できる安全で快適な道路交通環境の形成を図るものである。

    緊急車両の運行支援

    災害発生時における交通状況及び道路の被災状況等をリアルタイムに収集し、関係機関への伝達、復旧用車両等の現場への案内等を迅速に行うとともに、交通管理等に活用するシステムの構築により、災害等にともなう迅速かつ的確な復旧・救援活動の実現を図るものである。

  2. 進行中の開発プロジェクト等の推進

    道路交通情報通信システム(VICS:Vehicle Information and Communication System)

    VICSは、ナビゲーションシステムの高度化及び大量普及に対応し、車載端末へ渋滞情報、所要時間情報、規制情報等のリアルタイムな道路交通情報をデジタルデータにより提供するシステムであり、平成8年春に首都圏から運用を開始する予定であり、その後も関係省庁、関係機関が連携し積極的に全国への展開を図る。

    新交通管理システム(UTMS: Universal Traffic Management Systems)

    UTMSは、道路交通の発生にまで踏み込んだ総合交通管理を目指したシステムで、交通管制センターの高度化を基本として、高度な交通情報提供、動的経路誘導、車両の運行管理、公共車両の優先、交通公害の減少を図り、安全運転を支援し、交通の快適性を確保しようとするものである。この構想の一層の推進を図る。

    高知能自動車交通システム(SSVS: Super Smart Vehicle System)

    情報化・知能化技術を駆使した将来の自動車交通システム。環境認識や危険回避、走行情報の交換や交通流の制御等の機能を付加することにより、自動車交通の安全性、快適さ、効率の向上等を図る。現在、この考え方を継承し、環境認識、情報交換・情報処理等の機能を実車に登載し、車・車間通信の研究開発を推進中である。

    先進安全自動車(ASV: Advanced Safety Vehicle)     

    先進安全自動車(ASV)とは、エレクトロニクス技術を応用し、高知能化することにより安全性を高めた自動車である。本プロジェクトでは、官民協力のもと、各種の安全技術についての基本仕様の設定、評価方法の検討及び事故低減効果等の調査・検討を行っているところである。今後、これらの技術を実用化するための環境整備を図り、21世紀初頭にはASVの実現を図っていくこととしている。

    次世代道路交通システム(ARTS: Advanced Road Transportation Systems)

    ARTSは、人と車と道路が一体となり、高齢者や身障者も含めたすべての人々が、より簡単に、より楽しく、より高度に道路を利用することを目的に、1)旅行(計画を含む)の最適化、2)安全運転の支援、3)歩行・自転車利用の最適化、4)公共交通の最適化、5)物流の最適化、6)道路管理の効率化の6つのテーマを掲げ、研究開発等を体系的に推進するもので、将来の自動運転を可能とする自動運転道路システム(AHS)の研究開発等の積極的な推進を図る。

    ワイヤレスカードシステム

    ワイヤレスカードシステムは、ノンストップ自動料金収受システムや駅などの自動改札の高度化等への応用が期待され、現在、郵政省電気通信技術審議会において技術基準等の検討を行っているところであり、ノンストップ自動料金収受システム等の実験結果を踏まえて、技術基準等の策定を図ることとしている。

    ノンストップ自動料金収受システム

    ノンストップ自動料金収受システムについては、研究開発、フィールドテスト、試験運用等を通じ、早期実用化に向け積極的に研究開発を推進する。

    小電力ミリ波レーダー

    小電力ミリ波レーダーについては、自動車の衝突防止や自動走行制御への応用が期待されており、現在、技術基準等の制度化を検討している。