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氏 名所 属
林 良嗣 名古屋大学大学院 環境学研究科長

■ご意見の内容

・ 財源投資を地域・都市を考えた全体システムとして考えるべき。
・インフラの整備は、居住の価値(居住者のQOL)を高めると共に産業活動の生産性を高め、その結果、土地の資産価値を高める。
・ 地域間道路の質は欧州に近づき、場合によっては上回っているが、街中の景観や生活の形成といった内面的質で大きく遅れている。ここで、通りに囲まれた「街区」に着目すべきである。
・住居系の耐用年数は、統計上、アメリカで44年、イギリスで75年の周期で建て替えられるが、日本では26年と極端に短い。パリでは、道路は街区の外周を固めるためではなく、街区の中にいかにスペースを作るかを考えて、建物の配置等空間の創出を工夫している。
・揮発油税は、自動車利用者の受益者負担を根拠として、特定財源として使われ、重量税は道路損傷者負担を根拠として、付加されたのは理にかない、わが国の道路ネットワークが重大な経済ボトルネックになることなしに整備された。このシステムは、財政投融資と相俟って、所得税を主財源とする一般会計の変動を吸収し、道路建設を一定の速度でもって建設し、わが国の大きな経済発展に導く原動力となったことは、大いに評価されるべきである。
・これに加えて、道路交通は、排気ガス等によって道路沿道の大気環境等に損傷をもたらすと共に、幹線道路は住宅やショッピングセンターなどの立地をスプロールさせ、空間秩序に大きな損傷を及ぼしてもきた。前者に対しては、公害患者救済の資金として充当されている。しかし、スプロールの社会的費用を補うことは、なされていない。このための対策に、道路特定財源を投入すべきである。
・わが国の人口は、21世紀中に半減することが予測され、余程の思い切った政策が実施されない限り、これを回避することは出来ない。そこで最も重要な国家としての戦略は、市街地を人口減少に合わせて縮小していくことである。さもなければ、市街地維持のために、人口一人当たりの市街地維持コストは、増大の一途を辿り、自治体のみならず国の財政は破綻することは明白である。
・郊外にスプロールした人口を既成市街地に戻すには、市街地内を街区単位で景観、熱環境、防災性能を高め、頻繁な住宅の建て替えをすることなく、超長期に渡って使い続けられる美しい長寿命街区を創出していくことが必要である。このことは、上に述べたスプロール(空間損傷)を修復するために不可欠のプロセスである。20世紀後半に経済の一流国にするために産業立国を成功させた道路特定財源が、21世紀前半にQOLの高い生活の一流国とすべく居住立国を成功させるために道路特定財源を使うことは、誠に時宜を得ている。
・ 具体的な政策手段としては、これまで街区内の地主が、めいめい勝手に26年に一度ずつ建物を建設してきたシステムを改め、互いに相談し合って全ての建物が建て代わる26年後に調和のとれた街区を形成すること、そしてそこに郊外のスプロールしている人口を呼び戻す後押しをする。そのために互いの敷地を交換分合し、建物の相互調和を図る場合には、補助金または固定資産税の減免を行ない、さらには、こうして造られた調和のとれた街区の居住者の住民税を減免するための財源として、道路特定財源を使うのである。
・ 参考資料:日本経済新聞平成17年8月4日経済教室「郊外撤退と市街地再生」(林 良嗣執筆)