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氏 名所 属
井上 正一 鳥取大学 工学部 教授

■ご意見の内容


○これまでの道路政策に関して、特にどのような改善点があるとお考えですか。
 政策面として、先ず、どのような国を造るかに関しての国家体系が明確でない。例えば、過去において道路政策に人口密度偏重でなく全国一律平等という観点で交通整備をしていたとすれば、具体例として@高速道路は全国一様に間隔50 km で碁盤の目状に造る、あるいはA高速道路は太平洋側と日本海側で1本ずつ縦断方向に造り、新幹線は日本列島のど真ん中に1本走らせる、といった国策が採られていたら、日本経済の発展と地域の活性状況は今とは異なったものになっていたであろう。今までの人口密度重視の政策から発展してきた立場の延長線上の観点と従来比較的重視されてこなかった国土の一様開発の観点から無駄・無駄でないといったことを議論するのでは結論は異なってくる。これは、ダムや原子力発電あるいは環境行政において、建設地域とその恩恵を受ける地域の間で必要であるという認識が微妙に異なってくることに類似している。すなわち、建設地域では建設の必要性は認めるが、当地に建設するなら必要性はない・無駄という結論を下すこともある。
 道路政策に関しても、日本全体の道路レベル(質と量)はどの程度の水準とするのかといった軸足を固定しないと、目標達成のためにどの程度の金が必要か、今のレベルはどの程度完成しているのか、であるならば、差し当たりの優先順位はこうしようといった行動が取れないし、数値目標の達成度も議論できない。道路公団民営化の際に議論されていた新規高速道路の建設が無駄か無駄でないかといった結論の相違は、一部は、立場の相違や目標設定の希薄さから生じているもので、今の状況では格差社会や生活の利便性の地域間の是正といった問題点の解決は絵に描いた餅にすぎない。
 ハード面からは、新幹線や高速道路への投資と投資による経済効果を正確に評価する必要がある。また、高速道路網がない地域においては、これを利用することによる時間短縮や経済効果は生み出されない。そんな中で、高額な高速道路の建設は断念し、高規格でないがせめて少しましな、いわゆる中途半端によい道路を造ろうということで、不必要に多く造っている場合も見受けられる。その典型は市町村道に多く見受けられる。これら道路は、立派な農道や林道も含めて全て、いわゆる地方においては、無駄な道路が多すぎると言った結論に使われている。
 国交省に限れば、その道路行政に関しては、まず、対象とする道路の定義を明確にすべきで、国家政策としての道路とそれを造ることによる経済効果、利便度、移動性、距離・時間効果、格差社会の平滑化といった要因を勘案して、再定義する必要があろう。なお、道路特定財源の見直しに関する具体策として述べている「地域間格差への対応や生活者重視の視点を踏まえつつ、地方の活性化や自立に必要な地域への基幹道路の整備、高速道路や高次医療施設への広域的アクセスの強化など、地域の自主性にも配慮しながら、適切に措置する」という声明は妥当で、国土の健全な発展および国民の平等性の観点からは基本条件であると考える。
 道路行政に関しては、確固としたシナリオ造りとそれを強力に推進する環境の醸成を強く感じる。

○ 今後、道路政策においては、無駄を排するなど、効率化を徹底する必要があると思いますが、特にどのような点を重視すべきとお考えですか。
 ネットワークとしての高速道路がない、あるいは寸断されている都道府県が数多くある。一方、無駄とか効率化を云々することが最近の傾向である。無駄、効率化とは何を尺度に無駄、効率化というかは不明確で、例えば、経済効率の尺度としてB/Cを導入すれば、先行投資をした地域でのB/Cは一般に高く、今までに投資を控えてきた地域でのB/Cは小さくなるのは当然である。例えば、新幹線と高速道路が日本海側に集中整備されていたなら、B/Cの値は現状の値とは大きく異なっていたであろう。また、格差社会の是正が第1の目標であるなら、一般にはB/Cに依存しない投資が必要となり、目標達成のためには効率の悪い投資が効率的になるのである。つまり、何を無駄といい、何を効率化というかは目標によって変わることを認識すべきで、現状の人口密度や経済活動を重視した無駄、効率化は絶対的なものでないといえる。
 道路に限定すれば、本来、道路は、地震等の非常時において道路および生活基盤道路としての役割をある程度余裕を持って果たすように造るべきで、これが国の財産であり、安全性確保の尺度であると考える。非常時においてもある程度の余裕を持って安全性を確保するという考え方に基づいた道路整備とそれは平常時では安全過ぎ、無駄な過大設計であるという評価に基づいた道路整備は本質的に異なるものである。余裕という範囲での無駄は無駄という性質のものではなく、合理的な無駄と無駄な(不必要な)無駄は誤解を生じないように明確にする必要がある。
 無駄、効率化に関しては、道路政策において、国家として達成・保証する目標とレベルを明確に設定し、その後に幅広い議論をする性質のものと考える。

○ 道路に関して無駄と感じることはありますか。具体的にお教え下さい。
 国は国全体に係わる計画を策定すべきで、都道府県あるいは市町村が関与する道路を分離し、切り離して議論すべきである。このような観点に立てば、国管理の高速道路、高規格道路は不足しており、無駄という状況はほとんど見受けられない。一方、県道、市町村道においては、計画らしい計画無しに道路を造っているように見え、無駄を感じる。具体的には、A町に行く場合、非常に密な間隔で同一方向に進む道路が5本も6本もあり、それぞれの道路は幅員も舗装の品質も甲乙付け難い立派な道路を造っている。車での移動ということを考えれば、これは道路の重複・過多に過ぎず、効率的であるとは言い難い。また、補修・補強が必要となった場合を想定すると、このような道路への補修・補強の優先順位は決めがたく苦慮するであろう。さらに、農道、林道などにおいて高規格道路よりも立派な道路が存在するが、このような道路のグレードについてもきちっと評価しないと無駄・非効率ということになるであろう。
 現在の無駄という評価を受けている大部分は、市町村が構築した無節操な道路に起因するものと考える。なお、国交省においては、高速道路ないしは高規格道路を中心に、あるいはこれに限定して財政の集中投入を図るような道路施策を行うべきと考える。

○ 今後、取り組む道路政策の一層の重点化を図ることが必要であると思いますが、優先度が高い又は低い課題への対応は何であるとお考えですか。
 平成19年度の道路政策7つのポイントは極めて質の良い良識的な施策であるといえる。ただ、「T国際競争力の強化」や「U地域の自立と競争力の強化」といった標語に対して、Tの標語は、一極集中型、あるいは地域集中型でもって行う方が効率的かつ実現の可能性が高くなるが、Uの標語は、今まで投資を怠ってきた負の遺産で、これを実現するためには、道路網においても全国一律平等になるまでの継続かつ重点投資が必要で、これを早期に実現するか、ある期間を設定して実現するかは高度な政治的判断が必要である。民主主義的な判断と現状の財政状況による良識では、Uの実現は望みが薄く、せいぜいこれから少しずつハード面の遅れを是正して行きましょうと言う程度の天の声にとどまるであろうと推察する。
 重点化や優先度は、自身の所有物や超緊急的なものであれば容易に決まるが、将来の経費縮減を見据えた予防処置や長寿命化処理を含めた道路政策における重点化、優先度は、国家的な視点に立った議論が必要である。
 なお、日本の将来のためには、7つのポイントはいずれも重要で、重要度においても甲乙が付け難く、これは我が国の社会基盤が未だ十分には整備されていない状況の露呈であるといえる。


○ 国民の皆様に対し、幅広くご意見を頂くこととしておりますが、特に留意すべき点などあればお教え下さい。

 我が国の道路政策は著しく偏っていたために、地域によって交通整備に差異があるため、現状の道路に対して、それが無駄か不足と考えるかはその人がどのような道路利便性の中で生活しているかによって大きく異なることは論を待たない。交通の便利が悪い地方にあっても道路不要と考える人は、その人が理想的とする場所を供給することも必要である。
 このような選別の中で、国民に幅広い意見を聞くべきである。そのために、国、都道府県、市町村が道路政策の守備範囲を明確にし、その後に国民の声を聞く必要があると考える。例えば、日本海側縦断高速道路の建設という発議は何処で議論するのが適切であるか。国家のあるべき姿の指針とその合意が無くては、全国民の声を聞こうというスタンスからは不毛の実現不可能な議論となると考える。

○ その他、道路政策全般に関して、ご意見、ご要望等が有ればお聞かせ下さい。
 道路政策に対して、既存ストックの長寿命化という基本方針があります。これは非常に重要かつ貴重な方針である。これらの点に関しても、作り替えは悪、補修・補強による延命は美徳といった一義的な社会風潮を改め、ライフサイクルコスト的なコストの容認を社会全体が受け入れる風潮を醸成することが必要である。
 道路政策に関して、経済と技術者の判断が融合する施策を構築することが望まれる。