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氏 名所 属
飯田 恭敬 (社)システム科学研究所 会長
(京都大学 名誉教授)

■ご意見の内容

(概略)
平成17年10月4日づけの国土交通省の道路特別会計に関する資料をインターネットで見たところ、道路特別会計の使途が、公共交通の整備改善、街づくり支援などに拡大されているのは、道路事業との相乗効果を社会にもたらすものであり、評価できる政策だと考えています。
今後の道路事業における重要な視点は、環境、安全、防災、まちづくり、であり、高齢化社会に向けた一層の対応策が求められると思われます。

(道路の階層化)
日本の道路事業でなおざりにされてきたのは、道路ネットワーク階層構造の視点である。北欧の道路政策は参考になる。たとえば、オランダでは主要幹線道路、地域幹線道路、生活道路などの道路種別分類がほぼ出来上がっており、道路機能に適応した運用が行われている。その結果、交通安全が世界で最も進んだレベルとなっている。道路種別によって、交通量、速度、大型車混入率が異なるので、道路種別の不明確な利用は、交通運用効率および交通安全の問題を引き起こす原因となる。日本では、生活の場ともなっているまちなかを大量の大型車が通行したり、住宅地内道路を多数の車両が抜け道として利用したり、車線表示のない狭小幅員道路にバスやダンプカーが頻繁に走行するなど、道路種別に適した利用がなされていない。今後は沿道環境改善も含めた都市計画との緊密化をはかり、道路ネットワークの階層構造化を目指すことが望まれる。ネットワーク階層構造化とは、機能別道路の階層連続性と適正バランスを実現することであり、道路交通の効率化と安全性に向上に寄与するとともに、防災面からもリスク軽減に役立つと考えられる。道路事業は単一路線だけで考えるのではなく、ネットワークの階層機能の視点から計画および評価すべきである。

(良好な都市空間)
道路交通政策では、都心部への車流入規制をするのが世界の流れである。流入規制をすることにより歩行者環境や沿線環境が改善され、結果として観光客の増加や商店の売り上げ増につながった例が多い。地元の反対により車両規制の実施が出来ないところが多いが、目先の不便さや客の減少を懸念して、反対するのはいかがかと思う。長い目でみれば、歩行環境を改善することで地域価値が向上し、来訪者の増加につながると思われる。特に京都は世界的に魅力のある観光地であり、新しい交通システムの構築が必要である。車両規制するだけでは問題は解決せず、相互補完的な交通対策を考えなければならない。公共交通システムの抜本的かつ先進的な改変をすべきである。
また、車と公共交通との乗り換え施設を拠点に整備することが考えられる。たとえば、高速のIC周辺や鉄道やバスの車庫用地空間に公共駐車場整備を行うアイデアがあるが、災害時には物流基地としても利用できるであろう。観光の車両は郊外部の拠点駐車場を利用することが基本となるが、都心部での駐車に対しては料金値上げをして、値上げ分の財源でシャトルバスなどの公共交通サービスの向上をはかる方法が考えられる。

(高速道路)
近畿の高速道路で最も大きい問題は中国自動車道である。宝塚〜西宮間の渋滞は慢性化している。この地域には高速道路が1本しかなく、突発事象で道路が閉鎖されても代替高速道が無く、ネットワーク信頼性の観点からきわめて脆弱な構造となっている。近畿全体で見ても、第二京阪、第二名神が完成して、高速道路がやっとネットワークとして形成されることになる。淀川左岸線及び第二京阪の市内への延伸計画が遅れているのも、大阪港湾アクセスを考えれば問題である。
また、第二名神の「当面着工しない区間」についても、ネットワーク信頼性の観点から重要と考えている。高速道路は、緊急性の高いトリップ、あるいは時間価値の高いトリップに対する道路サービスが使命であり、平面道路の機能とは根本的に異なっている。したがって、現在整備中の高速道路だけでは、所要時間信頼性が十分に確保できないと思われる。渋滞が頻繁に発生していると、到着時刻に遅れないように安全余裕時間を見て早めに出発しなければならず、そのため無駄時間を要することになる。
物流においては到着時刻の制約はさらに厳しく、所要時間信頼性へのニーズは高い。所要時間信頼性が高くなると、安全余裕時間縮小と早着・遅延ペナルティ損失減少が実現されるので、便益額は時間短縮効果だけの方法より格段に大きな評価値になる。すなわち、所要時間信頼性の考え方を適用すると、高速道路整備の必要性は従来評価法よりも増大することが明白になる。高速道路の使命は高速性と所要時間安定性であり、その整備効果はネットワーク信頼性の考え方で論じるべきである。

(道路財源)
道路整備が十分になされていない状況で、無原則に一般財源化することは反対。人口の多い大都市部は整備が進んでいるという認識で、後回しにされてきた人口の少ない地方部の道路整備を不要と論ずることは問題。便益が費用を上回らなくても、地域振興、医療福祉、防災安全、環境改善の観点から公共事業で整備するという考え方がある。投資効率だけでは、大都市部しか整備されなくなる。今の経済性一辺倒の考え方では地方は崩壊してしまう。
鉄道の立体交差、駅拠点再開発、公共交通システムの利便性向上など、道路交通との相乗効果が期待できる関連事業は多数ある。大きな視点で交通システム全体を考えて財源を投入し、必要な事業を進めるべきである。

(その他)
整備効果を的確に評価するためのデータが不足している。例えば、所要時間分布を推定するデータ収集が難しい。将来、ナビゲーション機器のデータが必要に応じて取り出せるようになれば、地点交通量データと組み合わせて、道路ネットワークのOD交通量と経路交通量が高精度で行えるようになる。道路交通実態の現行調査法も改善できるし、道路整備の事前事後比較がネットワークの交通流動変化を通して容易に評価できることになる。


【まとめ】
・ 各道路の性質について整理し、道路の分類、階層化を進めるべき。
・ 都市計画などとの整合性を図りつつ、交通体系全体のあり方を考えながら具体の道路や交通関連事業の整備を検討すべき。
・ 道路整備が十分と言い難い中で、特定財源を一般財源化することは反対。