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氏 名所 属
川上 洋司 福井大学大学院 教授

■ご意見の内容

○ 量より質というか、既存ストックを徹底的に見直すことが大事だと思います。都市内の道路については貴重な公共空間として捉え、それに基づいて管理・運用を行えば相当道路の質が良くなるのではないかと感じます。地方においても道路イコール自動車交通という考え方を少しずつ方向転換していくべきである。道路をその本質的な機能から見るユーザー側にとっては、道路空間の運用管理が道路管理主体の領分なのか交通管理主体の領分なのかはあまり関係ない。ユーザー側の視点で道路の作り方から管理の仕方まで見直すべきだと思います。

○ 中心市街地の活性化に関して道路空間をどううまく使っていくかについては社会実験もやられていてかなり踏み出して来ていると思います。そのことをもっとアピールしていけば良いと私は思います。

○ 道路特定財源を公共交通に使用したり、その他いろいろな事に使用したりしているかと思いますが、特定財源の様々な使途をもっとアピールすることが大事だと思います。LRTに関しても、道路特定財源がどのくらい使用されているのか、例えば昨年開業した富山LRTの財源には、連続立体化するとした場合の事業費(道路財源約33億円)が流用されている事など一般国民・市民は誰も知らない。使途の効果的拡大を考えると道路財源はまだまだ必要だと思います。

○ 道路がどれだけ自分たちの生活に貢献しているかについて“当たり前”意識が前提となっており、そのプラスの貢献についての認識が非常に低い気がする。国民市民というのは通行止め等で困った時にだけアピールして、負のところだけを言う、特にマスコミなどもそうですが道路に対する意識、対応が偏っていると思います。

○ 道路というのは移動空間、生活空間、活動空間でもあり多様な生活と密着している。都市の中で道路面積というのは20%〜25%占めている。その空間の質を高めるということを含め既存ストックをいかに有効活用するのかが重要である。効率的なマネージメントを行うとか、ユーザー側の視点による道路管理や道路運用を行うとかをきちんとアピールするということが大切である。

○ 改善点の方向性としては、特に新規道路づくりにおいて、事前評価から作ったものに対するアウトカム評価、事後評価までを一貫して評価するシステムを確立することが必要だと思います。道路について量的には概成されてきているが、質的にはまだ多くの改善点があると感じます。

○ 例えば、横断歩道橋は徹底的に無くせば良いと思います。福井大学の正門前に横断歩道橋があったのですが、10年ほど前から管理者である県や市ともいろいろ折衝して取り外しました。歩道橋に象徴されているように道路空間内にはいろいろな附属施設があるが、それらが整理、調整されていない。構造的耐用年数が切れているものはもちろん、切れてなくても機能的にみて現状に合わないものに対しても、道路の質を上げる意味において警察協議、地元協議を行い、景観・バリアフリーの問題等に目を向け、柔軟に対応(撤去)するべきかと思います。地元に対して道路というものを一緒に考える、ボトムアップ的な民意の反映という意味でいい機会になると思う。みんなで一緒に考える方向となるチャンスになる。

○ 道路空間の質というのは街の景観や地域国土の景観を決める非常に大きな役割を担っている。道路空間内にある施設及び沿道を含めた看板等が日本の景観の質を落としている。シーニックバイウェイも非常に重要な意味をもっていると思っています。景色の良いところに道路を通すのではなく、道路を通すことによって逆に変なものを立てさせなくさせる等景色を守るという発想が非常に大事であると思う。

○ 従来では道路を作ると自然景観を阻害するというが、シーニックバイウェイという形で美しい風景と接する機会を道路を通して提供できる。こうした視点で社会資本としての道路を捉え、美しい国土の保全と活用に貢献するという方向を打ち出すことが重要ではないか。

○ 道路に関して言うと、沿道土地利用について道路整備と一体化した考えで道路管理側からもっと発言すべきではないか。例えば福井における8号バイパスの整備が沿道の土地利用を高度化し、地域に対してプラスの開発の効果をもたらしたと見る向きもあったが、それが行き過ぎた結果本来のバイパスの機能は失われてきている。こうした狭い視野の効果の考え方は見直すべきだと思います。

○ 今の国道8号沿いは開発に特化しています。都市側にも問題はあるのですが道路側と都市側とが一体となり、バイパス機能、通過機能を確保できるように沿道アクセスについて道路側も強くものを言うべきである。例えばアクセスの集約などを行うことによってアクセス交通の混じり方が少なくなれば、今のバイパスよりもっとスルー機能は良くなるはずです。

○ 鯖江の8号バイパスの沿道に大型ショッピングセンターの計画がありますが、道路をまたいで13ヘクタールという大規模な集客(ほとんど車利用)施設が立地するという計画に対して道路側が何か言わないといけない。確かにこれが出来れば道路の沿道での開発効果や税収効果はあるかもしれないが、道路が果たすべき機能を維持するために、沿道の土地利用の仕方に対してある程度調整できる仕組みが必要だと思います。

○ 今までの道路整備の考えでは、現状で既に国道8号(バイパス)が混んでしまっているのでもう一つ西側に地域高規格の道路を作りましょうとなる。現状ではこの考え方はちょっと納得できない。福井の西環状の高規格道路の計画については構想からの撤退を是非考えるべきである。

○ 8号バイパスについては、北陸自動車道をコストダウンしてもう少し使いやすいようにすれば良いと思う。無料化までいかなくとも、今も割引などいろいろ行っていますが、そのような形で既存ストックを使って行けば良いと思います。

○ 道路というのは一つの事業区間は長く、整備は区間ごとに行っていかなければならない。無駄かどうか、効率的かどうかと言うより作りやすい区間から作るということが起こっている。道路評価で整備延長を言っている限りでは作りやすい箇所での整備になっていたと思います。そのような箇所で道路が作られても交通量が発生しない段階ですから効率的ではありません。それならば必要な箇所から用地交渉を行い整備すればよい。時間が少しかかっても一番必要なボトルネック等の箇所から整備を行えばよいと思います。建設順位はやはり効率化というところにかかわってくると思います。

○ 計画の段階で多くの方に参加してもらい、PIに関しても直接便益を受ける主体だけでなく、もう少し大きなエリアから参加してもらうべきである。主要幹線の道路となると受益者はかなり広域に及ぶわけですから、ローカルな所だけで話を進めても非効率が生じて来ると思います。最初の段階からきちんと受益を評価して、どこから作ると一番効果が先に顕在化していくのか。まだまだ考え方に余地があるかと思います。

○ 踏切の対応でも新設道路は高架化、アンダーパスにしないといけないというルールがあるが、これは柔軟に行えば良いと思う。踏切との平面交差でもきちんと作れば無駄な投資をしなくて済む。LRTなどは自動車交通との共存が前提となるわけですから。JRなど高速交通として頻度の高い幹線鉄道とは立体交差をさせないといけないが、やみくもに平面交差の新しい道路は作らせないという話は無いと思います。自動車の交通量と鉄道の交通量によっては信号制御による処理等も視野に入れてもう少し柔軟に対応することも考えていいかと思います。

○ 道路と鉄道の交差部となる踏切に関しては除雪など管理者の違いによってぶつかるところもあると思いますが、国民から「なぜ重要な箇所なのに除雪を行わないのか」とどちらかにクレームがあるとおもいます。そのような問題は道路にあって当たり前のものだが、国民は問題が起これば非常に過剰になって反応する。良くなった事に対してはすぐに定常化してしまい忘れてしまう。それが人間の心理ですから悪い事だけが蓄積されていくことになる。道路に対して理解するということを、道路管理者だけでなく市民自身にも持たせ、市民自身が考えるべきではないかと思います。例えば街路樹についても落ち葉の問題から剪定の要望がある半面、剪定すれば道路ユーザーから「なんであんなに切ってしまったのだ」と怒られてしまう。もっとオープンに道路沿道住民や利用者に責任を持たせ管理を任せてもよいのかと思います。

○ 福井大学の横断歩道橋を折衝して取り外した時に、撤去した直後に事故がおきればどうするのかと警察に問われました。また、福井のトランジットモールの社会実験について警察協議を行いました時に一番の障害となった事は歩行者に何かあった場合の対応としてバリアが必要だ(現行法上は正しいが)ということでした。管理者にとっては何か変えて問題が起これば責任を問われることになる。管理者責任をすぐ問うマスコミもそうですが、我が国は市民の安全に対して少々過保護ではないかと思います。

○ 優先度の高い道路政策ということを言えば、バリアフリー、事故対策、電線地中化、自転車、バス、LRTなどは今の福井の状況を考えると優先度が高いと感じます。欧米の道路空間の考え方として、公共空間であるという意識が強い。パリにしても完全に車いじめを行っています。一方通行とか需要を考えない自転車道路を作っています。需要があるから自転車道路をつくるわけではなく、街中というのは歩行者、自転車をもっと重視する方向で町を作り変えていかなければならないという意思で行っている。日本も全てこれに習えとはいいませんが、道路政策において方向転換をする意味でそう言うやり方も必要ではないかと思います。沿道の住民などの意見を吸い上げる方法もありますが、もう少し先を見てこうすべきという大きな目標を示し、強権発動的な働きかけがあっても良いかとも思います。

○ 都市計画道路で計画決定後30年、40年立っているにもかかわらず、手を付けていない道路が地方都市でも多く残されている。福井にもそのような箇所がたくさんあるのですが都市側も道路側も含めて一緒になって、未着手都市計画道路の存続、変更、廃止について徹底的に見直すべきだと思います。

○ 都市空間でも中心市街地において道路敷というのは車線主義的というか、断面が一定していますが、ある区間においてその前後と断面が異なる場合があってもよいと思います。一つのポケットスペースを作るなどいろいろ考えながら都市空間全体の質を高めるために道路空間がどうかかわってくるかが重要と思います。

○ 都市空間の再構築を行っていく上で、道路を拡幅することを前提とすることが今まで当たり前のように考えられてきたが、今後方向転換をするべきである。拡幅すべきところは拡幅し、しないでもよい箇所は拡幅しなくてもよいのではないか。移動空間や、都市の重要な公共空間としての道路の見方により、町をどこまで改造してくことが出来るのかが重要である。ニーズも変わっているし、効果の逓減も働いている。今まで通りの道路の作り方ではいけない。政策論的に非常に大きな転換をしないといけないのは確かです。

○ 道路というのはみんなのものですから勝手に使えないという考え方が私は好きです。「道路はみんなのものだからどんどん作ってくれ」といいながら作ってしまえば勝手に使っている。こういう意識をもっているかぎりだめで、道路空間は貴重な公共空間であるという考え方を浸透させなければ日本の町も国土も良くならない。道路整備においては、沿道住民や関係地区住民の意見だけを聞くのでなく、県民全体や訪れる人も含めた共有空間なのであるから、そういう意識もって道路管理者が沿道の人に対して働きかけることが必要であり、それが出来てはじめて本来のPIとなるのでしょう。