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氏 名所 属
加藤 孝明 東京大学大学院 工学系研究科 助手

■ご意見の内容

○ これまでの道路政策に関して,特にどのような改善点があるとお考えですか?
・ 道路整備は「自動車交通を効率よく処理する」ことを第一の目的ではあるが,特に都市部においては,それだけではなく,道路「空間」整備ととらえ,道路平面だけではなく,沿道の土地利用・建物も含めて立体的空間ととらえ,更に対象を拡大し,国民生活の豊かさへの貢献が望まれる.
・ また同時に,上記の概念拡張にあわせて,生活道路レベルにおいては,道路は公共空間であるとの認識を基本としつつも,沿道建物利用者・所有者とのセミパブリック空間と位置づけ,街路樹や花壇等の必要とされる日常のメンテナンスを沿道建物所有者と協働できるようなしくみを設け,社会的に定着させることが望まれる.打ち水,清掃等が自然に取り組める意識を社会的に醸成していく必要がある.結果として維持費低減につながるし,同時に周辺住民の生活の豊かさにつながるものと思われる.
・ 今後,既存ストックの維持費,修繕費の増大が避けられない状況であると思われる.このことに関して情報を国民に積極的に公開し,新規の道路整備と維持費・修繕費のバランスを図りながら,今後の道路整備の考え方について広くコンセンサスを形成していく必要がある.現状では情報公開の積極性が不十分であると感じる.年金破綻のように以前から当然分かっているにも関わらず,差し迫ってから国民が知らされるという状況にならないようにする必要がある.
・ 都市部においては,地球環境対応の都市構造へ再構築が求められているが,その具体的な方法論については限界がみられる.脱自動車型の都市構造が実現すれば,必要な道路は少なくなり,結果として本当に必要な道路の維持,修繕費に資源を十分に配分することができるし,かつ,道路にかかる総予算を減少させることができる.現在の縦割り型行政においては困難であることは承知した上で,道路政策の一環として今後の道路政策側から都市構造の再構築に向けたアクションを期待したい.都市構造を再構築することによってもたらされる道路のライフサイクルコストを減少分を,都市構造の再構築のために利用するなどの方法が考えられないだろうか.
・ 地方都市においては道路整備が市街地の郊外化と中心市街地の空洞化を促進させていく構造にある.市街地の再編成,再構築を視点とする等,総合的な視点から道路の必要性について考えていく必要がある.同様に,都市部においては,公共交通との役割分担を明確化するなど,総合的なアプローチが必要である.
・ 道路基盤の絶対的不足を充足させていくという経済成長と人口増加を前提としたトレンドから,明確にハンドルをきる時代に入った.それに対応し,道路整備の考え方も上記の総合的な視点をいれつつ,その必要性について再考していく必要がある.
○ 今後,道路政策においては,無駄を排するなど効率化を徹底する必要があると思いますが,特にどのような点を重視すべきとお考えですか?
・ 整備の優先順位の明確化を行うべきである.例えば,防災上,必要となる緊急輸送路等,シビルミニマムの確保に必要とされるものは高く,そうでないものは低くする等,客観的な説明付きで優先順位を公に示す必要がある.
○ 道路に関して無駄と感じることはありますか?具体的に教えてください.
・ 一市民としての立場からは,過疎地域における立派な道路は一見無駄に感じる.生活の利便性を考えれば,必要不可欠であろう.しかし一方で限界集落を超える過疎化が進みつつある集落が全国的に散見される今,過疎地域における道路の意味を見直す必要があると考えられる.自然環境との共生環境の提示等,既存の概念を見直す必要があるのではないだろうか.
○ 今後,取り組む道路政策の一層の重点化を図ることが必要であると思いますが,優先度が高いまたは低い課題への対応は何であるとお考えですか.
・ 日常生活において道路がなくて困っている地域は解消されている(もちろん不足している地域はあるが).緊急輸送路等,防災上,必要不可欠な道路のない(或いは,道路が機能しない)地域は,大都市圏を中心に存在する.優先順位は高い.
○ 国民の皆様に対し,幅広くご意見を頂くこととしておりますが,特に留意すべき点などあればお教えください.
・ 考えるために必要とされる客観情報を十分に提供した上で,意見を集めるべきである.例えば,今後の維持・修繕費用の予測,自動車の数の推移・走行kmの推移等.
○ その他,道路政策全般に関して,ご意見,ご要望等あればお聞かせください.
・ 例えば,青函トンネル,本四架橋のような国家プロジェクト的事業については,日本の土木技術の維持,国家的象徴として,一定の採算性を確保しつつ,国民のコンセンサスを得て積極的に取り組むべきである.
・ 道路空間の質の向上を図るべき.特に路上犯罪に対する防犯性.沿道の土地利用とあわせた空間作りを行っていく必要がある.