閉じる
氏 名所 属
久保田 尚 埼玉大学 工学部 教授

■ご意見の内容

○これまでの道路政策に関しての要改善点
現状のニーズからみると、しばしば言われるように、自動車優先の道路政策であったことは否定できない。その結果として、歩行者や自転車あるいは沿道環境に著しい問題を抱える道路が多く存在することになってしまった。
 当時の時代ニーズから考えると、自動車がまともに走れる道路の全国ネットワークを作ろうとした判断は絶対に正しかったし、特に、高速道路のネットワーク化が少しずつ実現化し、その意義が体感できるようになってきた首都圏にいるものとして、そのことを強く感じる。
 しかし一方で、すでに概成してしまった幹線道路の歩道の狭さ(あるいは無さ)や、自転車の劣悪な走行環境を目の当たりにすると、これからそれらを残らず改善するには100年単位の時間を要すると考えられることから、現代及び将来に課せられた宿題の重さも強く感じざるを得ない。

○優先度の高い課題 
@歩行者・自転車を重視した交通政策が国の目指す方向としてすでに打ち出されてはいるが、さらにそれを進める必要がある。現在、全国的に進められている都市計画道路の見直しをみても、まだまだ「自動車のための道路」の視点の比重が大きいように思われる。歩行者、特にバリアフリーとの関係や自転車ネットワークなどの観点から、道路及び道路空間の必要性についてもっと議論されるべきである。特に今後は、シニアカーのような新たな交通手段が急増することが予想されることから、それへの対応も検討課題として欠かせない。
A生活道路対策としては、生活道路を安全で快適な空間に作り変えることも、少子高齢の将来に向けての大きな宿題である。外に出かける子どもに、親が「車に気をつけなさい」と言わなくてすむ社会になるまで、徹底した対策を行っていく必要がある。
B都心部のまちづくりを支える道路については、道路政策と地域のまちづくりとの連携を強めることもこれからの重要な課題である。街路形成機能やバイパス機能、さらには街の賑わいの舞台となる空間機能など、道路の持つ多様な機能をうまく使い分けて、まちづくりに寄与する道路政策を展開すべきである。
 そのなかでも、特に、鉄道駅を中心とするまちづくりとの関係に注目したい。わが国の特徴である駅を中心とした賑わいづくりと道路政策が、必ずしも連動していない例が多いのである。例えば、最近、首都圏の主要駅について調べたところ、欧州で一般的になっているゾーンシステムやモールネットワークを、鉄道駅との関連で位置づけ、計画決定しているところが驚くほど少なかった。
 街の構造やまちづくりの方向と連携した、具体的な道路政策が必要である。その際、通過交通が駅前などの街中に流入している例が多く、新たなバイパスを計画し実現するには多大の時間を要すると思われることから、欧米で見られるような「地下バイパス」も真剣に検討すべきである。

○国民に意見を聞く際に特に留意すべき点
 意見を聞く際には、まず、正確な情報を提供することが不可欠である。
 提供する情報が不十分だったり、不正確だったりすると、それに基づく意見も思い違いや思い込みになりがちであり、結果として議論が不毛になりがちである。道路に関するプラスとマイナスの両面についてのデータを、余すところ無く開示することが必要であろう。