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氏 名所 属
小谷 通泰 神戸大学大学院 海事科学研究科 教授

■ご意見の内容

○ これまでの道路政策に関して
改善すべき点:
 道路特定財源のおかげで、わが国の道路整備は着実に進められてきたが、近年における急激な少子高齢化の進展、人口減少社会の到来など社会情勢の変化により、みちづくりは転換期を迎えており量的充足から質的向上等が求められている。これまでの道路政策の問題としては、以下の4点があげられる。
 @ 潤沢な財源への安住
 A 道路単独主義
 B 車中心の視点
 C 全国一律のみちづくり

その理由:
 @ 財源が確保されてきたことにより、ともすればこれまでは事業量の確保といったことに重きが置かれてきたのではないだろうか。またこうしたことから、できるところから事業が進められてきたという感も否めない。今後は、優先度の高い道路整備(たとえば、都市域の環状道路やバイパス道路の整備、環境、交通安全に資する整備、等)を重点的に行う必要がある。
 A みちづくりを単独で進めるのではなく、他の計画との連携を図ることにより、より大きな整備効果を目指す必要がある。
 ・地域づくりとの連携  たとえば、近年急速に進展した市町村合併を支援できるような道路ネットワークのあり方を検討する。
 ・まちづくりとの連携  環境にやさしい集約的な都市構造、あるいはコンパクトなまちづくりに寄与できるような道路整備のあり方を探る。
 ・沿道土地利用計画との連携  幹線道路沿道などにおける環境対策を、沿道のまちづくりと一体化させて推進する。
 ・他の交通インフラ整備計画との連携  港湾・空港・貨物駅を高規格道路と直結させ物流の効率化を図る。また郊外部などでは、車やバスが駅前にアクセスできるようにすることによって、バス交通と鉄道との連携、P&Rを促進させる。
 B 道路を利用するユーザーは、車の外にも歩行者、自転車、公共交通機関利用者、沿道住民など様々である。これら広いユーザーの意見を道づくりに反映させるべき。また都市部の道路は街路の性格もあわせ持っており、景観形成にも重要な役割を果たす。いずれの利用主体の機能を優先するかによってメリハリをつけ、道路空間を必要な機能に応じて再配分する(自転車道、バス専用レーン、LRT、トランジットモール、歩車共存道路、路上での共同荷捌施設、などの導入など)ことが求められている。
 C 全国一律の道路整備を行うのではなく、地域の特性に応じて、ミニ新幹線のように規格を下げたり、現道を改良して道路整備を行った方が、短期間に効果が発揮できる場合もあるのでは。また、高速道路については、料金の弾力的な運用など柔軟な対応により、既存ストックの有効活用を図る。

○今後の道路政策において
重視するべき点:
 道路特定財源への理解を得るべく、もっとPRをすべきであろう。また、道路特定財源は、道路も含めた種々の交通インフラの整備や、自動車のもつ負のインパクト(交通事故、渋滞、環境問題など)を軽減するための対策へ、積極的に活用を図って行くべきではないか。

その理由:
 今の特定財源に対する風潮は、事業費確保のためにやっているかのように見られがちである。財源の仕組みがわかりにくく、様々な施策によってどのようなものが出来上がるのかも見えづらい。必要な事業をもっとわかりやすく国民に説明していくべき。
 鉄道の連続立体化による踏切の解消への特定財源の充当など、これまでにも使途を拡大して効果を発揮してきた。自動車による負の影響等を考えると車のユーザーは現時点で十分な経済的負担をしているとは言い難いのでは。環境、交通安全等に資する交通インフラ(公共交通整備も含めて)への使途拡大を車のユーザーの理解を得ながらやっていくべきではないか(環境税を新設することも必要だが、特定財源の活用についてももっと検討すべきでは)。ユーザーを納得させられるシナリオをしっかり作ってほしい。

優先度が高い課題:
 @ 災害に強いみちづくり
 A 相乗効果の高い「重点プロジェクト」の策定
 B 都市部における道路空間の再配分
 C 「物流」の視点からみた道路整備

その理由:
 @ 阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、災害に強いみちづくりは重要な課題である。
 A 複数の施策をパッケージ化(地域づくり、まちづくり、沿道の土地利用計画と連携させて)した相乗効果の高い「重点プロジェクト」を策定する。また、ソウルの清渓川再生、ボストンの高速道路の地下化、ミュンヘンにおける環状道路の地下化プロジェクトのような、「世界に誇れるようなみちづくり」も進めて欲しい。
 B 都市内の道路空間に対しては、多様なニーズがある。歩いて楽しいまちづくりも重要である。画一的でなく、利用者のニーズに応じてメリハリをつけた断面構成を考えて行くべきである。道路空間の再配分の視点が必要であり、創意工夫に満ちた道路空間を生み出していかなければならない。
 C 自動車の総走行台キロの約4割は貨物車であり、貨物車交通からみた道路整備のあり方を検討することが重要である。港湾・空港と道路、鉄道と道路など他の交通インフラとの連携を強化させることで物流の効率化に資する。また、貨物車は大型車が多いので走行ルートの設定など環境対策の面からも重点的に対策を講ずるべきであり、都市内でも路上での荷さばき駐車による道路交通への影響にも配慮する必要がある。

○国民から幅広く意見を聞くときの留意点は
 道路整備には透明性が求められている。優先度の高い道路整備に対して、十分な説明が必要である。また、住民や利用者が道路の管理(清掃や植栽の世話など)に参加できるようにしたり、住民自らが利用の形態(オープンカフェーの設置や交通規制の変更、通過交通の排除、など)を発案したりできるような仕組みをつくり、道路に対する関心を高め、また愛着を育くめるようにする必要がある。

○道路政策全般に対するご意見、ご要望
 道路施策を進める上で、民間のノウハウや資金を生かす仕組みがあってもよいのでは。