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氏 名所 属
小野 善康 大阪大学社会経済研究所 教授

■ご意見の内容

○ 「ムダ」について 
・ 「カネのムダ」と「労働資源のムダ」を峻別しなければならない。カネはいくら使っても決してなくならず、国民の間を移動するだけだからムダにはならない。労働資源は倹約して貯めておくことはできないから、いつも何かに使うことを考えなければならない。何もせずに使わなければ、その分、刻々ムダに消えていく。
・ 失業がない状態では、カネのムダを省くために公共事業を減らし人を雇わなければ、余った労働力が民間で効率よく使われ、労働力のムダが減る。しかし、景気が悪く人余りなら、余った労働力は失業してまったくのムダになる。公共事業縮小はムダをなくしたように見えるが、経済学的には「道路建設をやめ、失業してブラブラしている公共事業(失業手当)に切り替えた」ということで、ムダをさらに増やしている。
・ 本当のムダとは労働資源のムダであり、カネのムダとは、本来のムダとは無関係のだれが得でだれが損かという分配問題である。ムダの議論と分配の議論は区別しなければならない。また、公共事業なら関連業者や労働者にカネがわたって不公平と言うが、やめたら、同じ彼らに失業手当を払うだけで分配は変わらないかもしれない。

○ 効率化の徹底について
・ 効率化とは、「落札額を下げる」ではなく「必要な品質を確保する」こと。そのためには、建設工事の品質検査に関する技術力向上が不可欠。効率化とは、払った金額の大小よりも、一定量のマンパワーをつぎ込んだら、どこまでいい物ができたかで判断すべき。そのため、会計監査より技術検査の方がずっと重要。
・ 技術よりも予算ばかり強調するから、ヒューザーの事件になる。本当の効率をカネの倹約とはき違えた(前項参照)結果、ムダがかえって広がったという好例で、今の世の流れの中で必然的に起こったことである。

○ 道路整備の優先順位について
・ 行政的には優先順位があるのは理解できるが、人によって立場が違うから、どこの道路を優先すべきといったことは、軽々にはいえない。
・ 道路という範囲での優先順位だけでなく、すべての公共事業を含めて考えるべき。何もしないよりはマンパワーを活用した方が効率面でいいという視点で、積極的に何ができるか提案すべき。ただし、生産力向上というセンスは卒業して欲しい。

○ 産業道路について
・ 日本は、既に充分な生産力・技術力を持っており、現状は需要が足りずその生産力・技術力を使い切れていない。それを使い切ることこそが効率化。物流効率化も、それで運ばれる物を買う人がいて、はじめて意味がある。
・ 今の道路事業に対する感覚は、うるさくて環境も悪化するが、生産コストを引き下げて外国や国内他地域の生産力と対抗しなければならないから必要、というもの。しかし、現在の日本が経済的に停滞しているのは、こうした産業力ではなく、カネの倹約こそがムダの排除と信じて、消費者が積極的に物を買おうとしないからだ。そんなときに、さらに生産効率化を推し進め、国際コスト競争力が高まっても、円高を呼んで元の木阿弥となり、いつまで経っても国際競争力は改善しない。
・ 産業道路優先という発展途上段階の発想を根本から見直し、もっと成熟した社会に対応した発想、つまり、道路があるからそれを利用する人が直接幸せになるという方向に転換すべき。そうすれば住民からも支持され、人の移動も増えて需要も拡大し、人々が幸せになりながら景気もよくなっていく。

○ 道路整備について
・ 京都の叡山鉄道は、桜のトンネルで有名でありシーズンには、わざと速度を落として走ったりし、多くの人々が利用する。物流という観点からはあまり意味がないが、人々には喜ばれている。このような発想が必要。
・ 道路そのものを楽しむ、「楽しい道路」というコンセプトが必要。物が売れなければいくら物流効率を高めても物流は増えない。走っても面白くもなく、楽しい場所にも行けない単なる産業道路なら、利用者数も増えない。その結果、ムダな道路といわれる。それが日本の行政がやっていることである。
・ 大学構内でもそうだが、安っぽい建物を建てて倹約したといって喜んでいる。これもせっかくあるマンパワーを安物作りに振り向け、カネの出入り額は減ったが、本当のムダを生んだ一例。安物作りを効率化と同義語のようにとらえているのは、カネのことしか頭になく、心が貧しい証拠。
・ 最近、自転車の需要が増えてきているが、怖くて走れないのが現状である。自転車道の整備は必要。自転車対策といえば、駅前の駐輪場整備とか、不法駐輪対策ばかりである。これらも全部通勤通学という生産効率の発想。働くためのサポートばかり。自転車で楽しく走れる道路ができれば、需要は増えていく。

○ 国民アンケートについて(現物を見て頂いてのご意見)
・ 現在取り組まれているアンケートは、米国や中国に負けないとか、他府県に負けない発展といった産業振興の立場からの質問ばかりで楽しくない。これでは支持されない。
・ 「国民が住みやすくするために、こういうこともできる」というのを示して「楽しい生活をするためにはどんなことをしてほしいですか」というような問いにすべき。