閉じる
氏 名所 属
月舘 敏栄 八戸工業大学 教授

■ご意見の内容

◆今後の道路政策における効率化のポイント
・経済的に豊かになった日本ですが、生活環境の豊かさや快適さにおいてはまだまだ課題が残されています。その背景には、日本の生活環境が長期的課題に充分なイニシャルコストをかけにくい社会状況に陥りつつあるためと考えられます。そのような社会状況の中で必要なことは、<環境の世紀>に相応した生活イメージや国土・都市像を描きながら、これまでの社会的ストックを活かし、将来のイメージに適応した道路整備を進める必要があります。具体的な課題としては、新しい道路行政のポイントに掲げられている4ポイントを国民と共に進める姿勢だと思います。少々時間を要しても、ライフサイクルコストを低減するために景観や生活環境、災害に強い道路造りが望まれます。積雪寒冷地に住む一人として、スパイクタイヤからスタッドレスタイヤへの移行は時間と経費を要しましたが、粉塵公害からの開放を高く評価しています。同様の視点から地域状況に即した施策を計画的に実施することが重要と考えます。

◆今後の取り組む道路政策の優先度
・これまでの公共建築・道路などは、<スクラップアンドビルド>を念頭において造られてきたものが少なくありませんでしたが、<地球環境>と<持続可能な社会造り>を考慮すると、社会的ストックを活かしていく道路政策が最も優先度の高い重点課題と考えられます。
・具体的には、新しい道路行政へのポイントに掲げられている「T高齢化する道路構造物を戦略的に管理」「Uいまの道路を徹底的に活用」を「V地域の人々といっしょに道路や沿道空間を再生」する視点から行うことだと考えます。従って、課題への今後の対応に挙げられている11テーマの中で、比較的取り上げられることの少なかった「テーマ4景観・文化価値の創造」「テーマ6沿道環境・地球環境の保全」の優先度を高めることが重要と考えます。

◆その他
1.道路政策に関する改善点
・第二次大戦後、経済活動の発展により日本の生活は豊かになり、伝統的な生活様式と大きく異なる近代合理主義的な生活空間に変わりました。その実現のために高速道路網に代表される自動車交通に適応した国土及び生活環境整備が進められた結果、その恩恵を受けた機能的な生活を享受しています。その、一方で地球温暖化や自然災害など環境の世紀と謳われている21世紀のサスティナブル社会に適応していくための課題が少なくありません。
・これからの目指す社会と道路において、掲げられている4課題・4つのポイント・11テーマはどれも重要ですが、それらの優先順位と相互関係を踏まえた仕組みづくりが必要と考えられます。次年度、日本で開催されるサミットは<環境>がテーマになるように道路政策においても、<地球環境>が第一課題、<生活環境>が第二課題に位置づけて、その実現のための具体的政策と仕組み作りが肝要といえる。
2.道路に関して感じる無駄
・道路に関して無駄と感じることは、機能的充実と維持管理の関係が十分に検討されにくいことが背景にあると推定されます。具体的課題を挙げると以下の通りです。
○短期間で繰り返される同じ道路における道路工事。工事理由は別個なのでしょうが、無駄の印象が強い工事が少なくありません。
○植栽などの維持管理を低減するために行われている工事。景観と心理的効果を考慮すると、機能一点張りの道路では寂しい。
○積雪寒冷地等で繰り返される春の道路のライン引き。スタッドレスタイヤが普及して少なくなったが、道路の作り方も工夫が必要。
○周辺環境・景観に適応したサイン・信号整備。都市化などの進行に適応した早急な対応が行われずに放置されることが多いこと。
○道路整備が路線の一部にとどまり、却って機能的低下や渋滞などの原因になること。全線整備時の機能性が一部整備時と同じではないので、総合的判断が必要。
3.幅広く意見を聞く上での留意点
・今回のアンケートの回答をまとめるに当たって、「真に必要な道とは 議論のポイント」を資料として拝読しましたが、掲げられている4課題・4ポイント・11テーマの相互関係及び優先度・重要度を評価する仕組みと運用体制が明確でないことが気になりました。例えば、「これから目指す社会と道路」において掲げられている4項目と「新しい道路行政へのポイント」の4ポイント相互の関連性が示されていませんし、一見すると無関係に見えます。詳細に内容を検討すると、前者の1.3.4.を踏まえていると推定されますし、その具体化といえる「課題への今後の対応は?」の11テーマに反映されていることが理解できます。提言されている4課題4ポイント11テーマの相互関係に重要度・優先度と実現への仕組みを体系化した施策になると国民の理解が深まると思います。
4.その他意見
・積雪寒冷地の居住者として、スタッドレスタイヤへの移行時に交通安全確保に相当の不安を覚えましたが、政策・技術開発・住民努力がうまくかみ合ってスムーズに移行できたと評価しています。その一方で、行政による雪処理に対する住民依存が高まったことや融雪剤に対する不安も生じています。スタッドレスタイヤへの移行時の充実は、充分な政策的技術的準備と住民の理解を得れば、少々時間とイニシャルコストを掛けてもトータルコスト・ライフサイクルコストを低減できることを物語っていると言えます。その結果生じた新たな課題に対して継続的に対応していくことの必要性も示唆しています。自然災害の多い日本に於いて地球環境と生活環境に配慮した道路行政を行うためには、日本が進むべき生活・産業・文化の将来像を描き、そのための国土と生活環境のあり方に相応しい道路行政が望まれます。