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氏 名所 属
若林 拓史 名城大学大学院 都市情報学研究科 教授

■ご意見の内容

○重点的に取り組むべき施策
・ 私は、3つの観点から道路施策を進めていく必要があると考えている。

・ 1つ目の観点は、「道路のサービス水準を高める」ことである。これは、道路網の構成に関わることと言える。これは、さらに3つの要求事項に分けられる。

・ 要求事項の1つ目は、災害等の異常時に目的地まで繋がっているという「連結信頼性」と、平常時においては事故や工事があっても目的地まで所与の時間内で到達できる「所要時間信頼性」の両方が満足される「信頼性の高い道路づくり」が必要であるということである。2つ目は、快適速度での移動、所要時間が計算可能なように、「混雑や渋滞の軽減」を図ること、3つ目は、追従走行を強いられ事故や不快の要因にもなっている、暫定2車線の自動車専用道路や国道・都道府県道の「追い越し不可能区間」の4車線化等による改善である。

・ 2つ目の観点は、「交通安全」である。平成22年度に交通事故死亡者5000人以下を目指しているが、事故死者数の削減効果は限界効用逓減となってきており、きわめて厳しいといえる。そのためには、拠点での対策を徹底すること、必要な対策をすぐ行うこと、特に、地方財政が厳しいので予算を集中的に投入できるような工夫をすべきである。また、交通安全対策の3要素である人・道・車について、なお一層この3者の連携を強め、啓発活動も含めてより積極的に取り組むべきである。

・ 3つ目の観点は、「地球温暖化防止」である。京都議定書の達成である。MM(Mobility Management)の推進、『クルマのかしこい使い方』を推進する必要がある。CO2削減方策としてTFP(Travel Feedback Program)手法によって、エコドライブや公共交通利用促進等の、よりかしこいクルマの使い方を推進する必要がある。このために、TFPを社会インフラとして整備する政策はどうか。個々人がトリップ前にWebへアクセスし、クルマで行った場合の予想される総旅行時間や渋滞遭遇位置、排出ガス量等を知り、公共交通へ転換した場合の排出ガス量やカロリー消費を、経路やクルマから公共交通への乗り換え駐車場、公共交通同士の乗り換え情報等とともに知る。このようにして都心部へのアクセスや観光地の周遊をより合理的でかつ楽しい移動とすることができるのではないか。このようなプラットホームを社会基盤の一部と位置づけて整備することが必要である。財政的にも健全なサスティナブルな国土整備と健康な国民生活にも寄与できるはずである。

○その他、道路政策全般について
・ 道路整備においては交通量の多い区間は信頼性や代替性を重視して並行路線を整備すべきである。例えば、名神高速道路では、天王山付近で(さらには第二名神開通時には名神草津付近で)、中国・九州方面と中部・関東方面を連結する高速道路は名神高速1本しかなく、この区間が災害や大事故等で通行不能となると日本の大動脈が機能しなくなってしまう。適切な時間距離の代替路もない。阪神・淡路大震災では唯一の動脈である中国道は生き残ったが,大渋滞の結果,東京の生鮮食料品の価格が上昇した事例がある。その意味で、第二名神の凍結議論はおかしい。名神・東名・東名阪等は重交通による老朽化が進んでおり、合計で年間2ヶ月に近い期間、リフレッシュ工事規制が行われ、渋滞が発生している事実を看過すべきでない。工事期間中、一般道路も迂回交通によって渋滞が発生している。この時間損失は、工場生産やドライバーの労働環境へ悪影響を及ぼす。交通事故も発生し、工事による渋滞後尾での死亡事故も発生している。このような事態は、並行する高速道路の整備によって解決できる。交通量の多い区間は、全線が繋がってこそ意味がある。「多数決原理と後発路線(高速道路と自動車、第35巻第8号、p.18)」と題して藤井教授が述べているように、道路整備は百年の計をもって整備すべきである。社会資本整備には、シビルミニマム、効率性、公平性の3つの論理があり、均衡ある国土の発展には地域の実情に応じて3論理を使い分けるべきである。

・ CO2削減のための公共交通への誘導、バリアフリー、高齢者対策など人に優しい交通システムを構築する必要がある。例えば、郊外から都心への移動は、各結節点では地下鉄、LRT、バスなどが同じホームで乗り換えられるようにして乗り換え抵抗をなくし、公共交通への誘導をスムーズにする必要があろう。都市部においては、勾配・急カーブに強いLRTを部分的に地下空間まで誘導し、地下鉄と共有させるなど、都市交通体系の効率化と充実を図る必要がある。