トップページ > 新たな道路行政マネジメント(業績計画書/達成度報告書) > 平成15年度 道路行政の業績計画書

1.業績計画書を策定するに至った背景

(1)行政改革に向けた社会潮流

 1) 道路行政改革の進め方

 行政が肥大化し、国民の声が届かなくなるとともに、行政の効率自体が低下しているのではないかという批判は、我が国に限らず、多くの国において共通の問題として古くから認識されており、これを解決し、行政部門の効率化を図るため、様々な取り組みが行われてきた。
 このため、1980年代より、一部の国では、経営学的手法を採用した、いわゆるニュー・パブリック・マネジメント(NPM)といわれる一連の行政改革を進めている。例えば、米国や英国においては、その一環として、成果を表す指標であるアウトカム指標等を用いて政策目標を設定し、毎年度、業績を分析、評価し、以後の施策、事業に反映する制度を、道路行政も含む、政府全体として導入している。(図1)
 我が国においても、平成14年度より、「行政機関の行う政策の評価に関する法律」が施行され、成果志向の行政への転換が推進されている。また、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003(平成15年6月27日閣議決定)」においても、「事前の目標設定と事後の厳格な評価の実施により、税金がどのような成果を上げたかについて、国民に説明責任を果たす予算編成プロセスを構築する」等、成果を重視した行政マネジメントの本格的な導入が進められているところである。



図1 成果主義の新たな道路行政マネジメント(日米欧の比較)



 DOT:米国連邦交通省(Department of Transportation)

 FHWA:米国連邦道路庁(Federal Highway Administration)

 DFT:英国交通省(Department for Transport)

 HA:英国道路庁(Highways Agency)



 これらを受け、我が国の道路行政においても、透明性や効率性の向上のため、納税者であり道路利用者でもある国民に「成果」が見え、実感できる行政が求められている。これまでの画一的な道路整備の追求から、道路利用者のニーズに即した「成果」を重視する方向への転換を図ることとしている。


 2) 「成果主義」の道路行政マネジメントのスタート

 道路行政においては、「成果」を重視する行政運営の一環として、行政の意識改革を図り、国民と行政の信頼関係を再構築するため、平成15年度より毎年度、事前に定量的な成果目標を定め、事後に達成度の評価を行い、評価結果を以降の行政運営に反映させる「マネジメント・サイクル」を構築する(図2)。
 「平成15年度 道路行政の業績計画書」は、この新しいマネジメント・サイクルの第一歩として、策定・公表するものである。

図2 新たな道路行政マネジメントの流れ 〜平成15年度を例に〜


(2)成果主義の道路行政マネジメントへの転換 ―理論から実践へー


 国土交通省では、成果主義の行政運営への社会的ニーズを踏まえて、平成15年3月より「道路行政マネジメント研究会(委員長:古川俊一筑波大学教授)」を設置し、成果主義の新たな道路行政マネジメントのあり方について、理論的な裏付けに加え、実際に実践するための方策の検討を進めてきた。
 それらの検討の結果を踏まえ、平成15年6月に取りまとめられた研究会提言「『成果主義』の道路行政マネジメントへの転換」では、成果主義の道路行政マネジメントの3つの柱と、その実践のための5つの戦略が提示された。

成果主義の道路行政マネジメントに向けた3つの柱
●毎年度のマネジメントサイクルの確立
  毎年度、事前に数値目標を定め、事後に達成度を評価し、評価結果を以降の行政運営に反映し、マネジメントサイクルを確立
●わかりやすさと実現性の両立
  道路利用者にとってのわかりやすさに加え、実際の行政運営に反映できる実現性のあるしくみを構築
●国民と行政とのパートナーシップの確立
  数値目標、達成度については、バックデータとともに公開したうえで国民の参画も図り、国民と行政とのパートナーシップを確立
成果主義の道路行政マネジメントの実践のための5つの戦略
●目標と指標の設定
  政策目標ごとにアウトカム指標を設定
●効率的なデータ収集
  評価に必要な交通量等のバックデータも速やかに公表
●毎年度の業績計画の策定及び達成度の把握
  毎年度、数値目標を設定し、達成度を評価
●予算・人事のしくみへの反映
  成果買い取り型の予算運用等、成果を反映するしくみを構築(事務所ごとの達成度等を明らかにし、競争原理を活用(ベンチマーキング)
●アカウンタビリティ・評価の妥当性の確保
  数値目標及び評価結果をそれぞれ毎年度、「業績計画書」及び「達成度報告書」として策定、公表



図3『成果主義』の道路行政マネジメントへの転換




2.業績計画書を策定する意義

 成果主義の道路行政マネジメントを進めることの意義は、道路行政における効率性の向上と透明性の向上にある。以下、この2つの観点から、新たな道路行政マネジメントが、いかなるプロセスにより、これらの目的に資するか説明する。


(1)厳格な評価とその結果の反映による効率性の向上


 成果重視の道路行政マネジメントにおいては、事前に定量的な成果目標を定め、事後に達成度の評価を行い、評価結果については、以降の行政運営に確実に反映する。これは、適切な場所・対象に対し、適切な資源配分を行い、対策を講じていく枠組みであり、行政の効率化に資するものである。
 また、定量的な成果目標の設定により、道路行政における施策、事業について、計画から実施に至る各段階において評価を行い、目標を達成するための手段である施策、事業に至るプロセスの妥当性を明らかにし、「業績計画書」としてとりまとめ、公表する。
 この計画書で示された数値目標や、それを実現するための手段に至るプロセスの妥当性については、年度終了時に評価し、「達成度報告書」としてとりまとめ、公表する。ここでの評価結果は、次年度以降の予算や行政運営に反映していくことで、成果主義を徹底し、行政の意識改革につなげるものである。
 平成15年度は、このマネジメント・サイクルの開始年次であり、成果主義の新たな道路行政マネジメントの出発点として位置付けるものである。

(2)数値目標及び評価結果を公表することによる透明性の向上

 「業績計画書」においては、目指す成果を、国民の生活実感にあった指標を用いた数値目標として事前に公表し、その実現のための手段の妥当性を明らかにすることによって、国民と行政が課題と目標を共有することを可能にする。これにより、道路行政における成果重視の姿勢を明確にするとともに、国民と行政との信頼関係を再構築し、行政の透明性の向上を図るものである。




3.成果主義の道路行政マネジメントの実際

1) 生活実感にあった指標を設定し、毎年度、わかりやすい数値目標を設定


指標の現況値と数値目標  【死傷事故率】



死傷事故率について、平成19年度までに約1割削減し、1億台キロあたり約108件とすることを中期的な目標

 【渋滞損失時間】


平成19年度までに、道路渋滞による損失時間を約1割削減することを中期的な目標

2) 目標達成のための手段である施策・事業の妥当性を数字を用いた論理的な分析を用いて明確化

現状と問題点  


特定箇所に集中する幹線道路での事故
単路部では、幹線道路で発生した単路部事故の53%が、幹線道路のわずか6%の区間に集中。


2割の区間に8割を越す渋滞が集中
区間別の渋滞分布を分析すると、道路延長の比率で約2割の区間に約8割を越す渋滞が集中。

課題と講じる施策  
幹線道路の事故危険箇所の集中的な対策

「事故危険箇所緊急対策事業(3,956箇所を選定)」等


ボトルネック対策

ボトルネックとなっている交差点や、踏切等に対する対策を実施 等


3) 客観的かつ詳細なデータに基づく事業箇所の選定が可能に

事業箇所選定への活用  

区間毎の死傷事故率イメージ


詳細なデータ分析から事故の多発している箇所を優先して対策を実施。


区間毎の渋滞損失イメージ

 詳細なデータ分析から渋滞損失大きい箇所を優先して対策を実施。




4.道路行政マネジメントの課題と今後の継続的改善

(1)平成15年度の道路行政マネジメントにおける課題



 平成15年度「道路行政の業績計画書」は、これからの道路行政における理想と哲学を具現化するための第一歩を示したものであるが、初年度であるが故の限界や、費用対効果などの側面から、以下の事項について、依然として制約がある。これらの事項については、成果主義の道路行政マネジメントを進めるための課題として取り組み、今後、データや分析手法の向上、新たな制度の導入等により、これらの課題を解決するため、引き続き所要の取り組みを続けていく所存である。

1) マネジメント・サイクルの立ち上げ初年度であることによる制約
 平成15年度は、予算編成のスケジュール上、年度途中に「道路行政マネジメント研究会」の提言を受けており、マネジメント・サイクルをスタートさせた年度である。
 真に有効なマネジメント・サイクルの構築のためには、毎年度の予算との連携が不可欠であり、業績計画書における年次目標等は、予算要求と同時に決定されるべきものである。しかしながら、これらの理由により、平成15年度においては、予算編成後に平成15年度の数値目標を設定し、公表するものである。

2) データ収集上の限界と制約
 合理的な成果目標を決定し、その成果を客観的に評価するためには、正確なデータ収集が必要となる。例えば渋滞状況の把握に関しては、時刻と位置を記録する装置がついたバス等を一種のセンサーとして使う「プローブカー」等を用いた情報収集体制の確立を進めているが、それらの体制の整った道路は未だ一部に過ぎず、全ての道路に関するデータを毎年度取得する体制は確立できていない。また、山間部等の交通量の少ない場所で、都市部と同様のデータ収集体制を確立することは費用対効果の面から非効率であり、その意味からも、全ての道路について同じ品質のデータを集めることは現実的ではない。
 このようなデータ上の制約から、一部の指標については、道路種別を限定した評価や、データの収集が可能な一部の区間のみを対象とした評価にとどまる場合もある。なお、この場合は業績計画書にその旨を明示する。
 これらのデータについては、今後とも、効率的な収集体制を確立し、体系的なデータを整備していく所存である。

3) 外部要因の存在
 道路は、最も生活に密着した社会資本の一つであり、国民の一人ひとりが利用者であるインフラであるため、そのサービスの質は、ドライバーのマナーや沿道立地のあり方等にも左右され、必ずしも行政のみがマネジメントできるものではない。
 また、道路サービスに係る行政は、必ずしも国土交通省による道路行政のみではなく、他省庁や地方公共団体も含む、他の行政機関の施策の影響が大きいケースも存在する。
 このような、外部要因の影響が大きい成果目標については、その目標の達成にある程度寄与する道路行政の進捗状況などを用いた中間的なアウトカム指標を設定し、それぞれの要因による寄与度等を分析し、確実に内部の執行の管理が可能なしくみを確立することが、現実的な行政マネジメントに向けた今後の課題である。

4) 施策の効果が発揮されるまでのタイムラグの存在
 一般に、道路整備は成果を得るために一定の時間を必要とする。例えば、都市圏の環状道路ネットワークは、一部区間が供用した段階ではその効果は十分に発揮できない。また、交通事故等、確率的事象に基づく成果の中には、統計的に成果の発揮を確認できるまでに一定の測定期間が必要となるものもある。加えて、達成度の把握に必要なデータの収集に時間がかかるなど、年度途中のデータや前年度のデータを利用せざるをえない場合は、データ取得時期以降に得られた成果の評価が困難、または不可能である場合もある。実際のマネジメントに際しては、関連する施策の進捗を示す指標等を用いて評価を行うことが必要である。

(2)地域における取り組み


 成果主義の道路行政マネジメントを実効性あるものとするためには、地域の特性や、地域ごとのニーズに応じた、即地性のある道路行政マネジメントを進める必要がある。また、職員の一人ひとりが成果を意識した行政マネジメントを推進するためには、出先部門まで成果主義を徹底する必要がある。
 これらの目的のため、全国レベルの取り組みに加え、都道府県ごと等、地域レベルにおいても、業績計画を策定した上で達成度を把握、評価し、その結果を以降の施策、事業に反映する、地域レベルの道路行政マネジメントのしくみを構築することとする。その際には、地方公共団体等、他の行政機関における取り組みとも可能な限り連携する。
 地域レベルの道路行政マネジメントにおいては、渋滞状況や交通事故の発生状況等に関する即地的なデータを活用し、生活実感にあった地域ごとの課題とその原因を明らかにし、その対策として実施する施策、事業の妥当性を明らかにする。また、地域の課題を的確に表す指標を用いて数値目標を設定し、関連する施策、事業の妥当性とともに業績計画書としてとりまとめ、公表する。また、事後に達成状況を把握・評価し、全国レベルの取り組みと同様に達成度報告書としてとりまとめ、公表する。
 地域ごとの業績計画書等の策定にあたっては、国道事務所等や都道府県等によって構成される幹線道路協議会等を活用し、様々な道路管理主体の参画を図るとともに、パブリック・コメントの実施や、第三者により構成される委員会の意見を反映する等、道路利用者の声を反映するための取り組みについても実施することが必要である。


図4 地域における取組みと全国レベルの取組みの連携

(3)国民と行政のパートナーシップの確立


1) 業績計画書の公表とその意義
 道路行政の透明性を向上し、アカウンタビリティを確保するため、本業績計画書については、インターネット等を用いて、広く国民に公表する。
 数値目標及びその達成のための施策、事業を公表することは、単なる情報公開にとどまらず、国民との間でいわば「約束」を事前に交わすことであり、対話型の行政運営のための重要なツールである。
 業績計画書を公表することで、国民と行政の間で課題や目標を共有し、目標設定の妥当性や施策や事業の妥当性について、国民の視点からのチェックを行うことが可能となる。

2) 関連データの公表
 業績計画書に記載されている指標、数値目標、施策や事業の妥当性について、国民の視点から客観的なチェックを行うためには、判断の背景となるデータについても同時に公表する必要がある。
 そのため、指標値そのものに加え、関連するバックデータや、月次データ等の詳細なデータについても、業績計画書とともに、道路行政評価サイト(道路IRサイト:http://www.mlit.go.jp/road/ir/)*等、インターネットを通じて公表する。

*現在は道路局ホームページの「道路IR 新たな道路行政マネジメント(業績計画書/達成度報告書等)」(http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-perform/ir-perform.html)


図5 国民と行政のパートナーシップの確立


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