都市高速道路の料金体系のあり方等についての答申
 道路審議会は、平成6年11月10日、建設大臣から諮問第45号によって、今後の有料道路制度のあり方について諮問され、平成7年11月に高速自動車国道について、平成9年1月に、都市高速道路・本州四国連絡道路・一般有料道路について、それぞれ中間答申を行った。
 引き続き本審議会は、審議会に設置されている有料道路部会を中心に審議にあたることとし、この部会の中に有料道路調査研究小委員会を設置し、合計7回にわたり審議を行うとともに、本年8月には、ETCの普及促進策及び沿道環境の改善を目的とした交通需要調整のための料金施策の基本的考え方について有料道路部会として整理した上で広く公表しさらに検討を行い、ここに答申するものである。
 今回の答申に当たっては、まもなく本格運用が開始されるETC(ノンストップ自動料金支払いシステム)の導入を踏まえ、ETCを活用して、有料道路に対する今日的課題に的確に対応できるような料金のあり方について、特に都市高速道路を中心に検討を行うとともに、単に有料道路の料金支払いシステムのみならず、ひいては我が国経済社会の変革にも大いに寄与することも期待されるETCの普及を早急に高めていくような方策についても検討を行った。
 今回の答申を踏まえ、答申内容を具体的施策に反映する場合には、必要に応じ広範かつ多様な意見の把握に努めることが望ましい。

道路審議会の委員の氏名は、次のとおりである。

  宇都宮 象 一
  梶 原   拓
  草 野 忠 義
  田 村 喜 子
  永 光 洋 一
  長谷川 逸 子
  藤 井 弥太郎
  山 出   保
  横 島 庄 治
  岡 部 敬一郎
  木 村 治 美
  竹 内 佐和子
  中 村 英 夫
  西 垣   昭
   塙  義 一
  宮 繁   護
  山 根   孟

また、有料道路部会の委員の氏名は、次のとおりである。

委員
  永 光 洋 一
  山 根   孟
  宮 繁   護
  横 島 庄 治

専門委員
  石 田 東 生
  岡 野 行 秀
  金 本 良 嗣
  隈 部 まち子
  杉 山 武 彦
  鈴 木 道 雄
  中 条   潮
  中 村   貢
  廣 川 一 夫
  宮 崎   緑
  山 内 弘 隆
  岩 崎 美紀子
  梶 田 邦 孝
  日 下 公 人
  黒 川   洸
  杉 山 雅 洋
  武 田 善 行
  中 井 美 紀
  西 谷   剛
  溝 上 一 生
  森 地   茂

目  次

1.はじめに

2.有料道路料金をめぐる課題
(1)有料道路の料金の考え方
(2)料金体系のあり方の検討の必要性

3.ETCの普及促進策について
(1)ETCの意義・効果
(2)普及促進を進めるに当たっての基本的考え方
(3)普及促進策の展開方策
 T.導入段階における施策
 U.普及段階における施策

4.都市高速道路の料金体系のあり方について
(1)基本的考え方
 T.背景
 U.目指すべき料金体系

(2)新たな料金体系の検討の方向性
 T.料金圏別均一料金制の見直し
 U.車種区分・車種間料金比率の細分化
 V.多様な料金施策の実施
  @.乗継ぎ制の拡充
  A.渋滞対策を目的とした料金制の導入
  B.沿道環境対策を目的とした料金制の導入
  C.特定区間料金の拡充

(3)段階的導入の検討

(4)都市高速道路に関する手続きの改善

5.おわりに



1.はじめに

 有料道路制度は、財政上の制約の下で、立ち遅れていた我が国の道路整備を促進するため、国又は地方公共団体が道路を整備するに当たり、借入金を用い、道路の利用者から料金を徴収して、管理費等も含め償還する制度として昭和27年に創設された。
 昭和31年には、現在の道路整備特別措置法が制定され、現行の制度の骨格が整えられるとともに、事業の効率的運営を図り、広く民間資金も活用することを目的として、日本道路公団が設立され、それまで国が直轄で施行していた有料道路の建設方式は廃止され、公団による建設方式が採用されることとなった。
 その後、昭和34年には首都高速道路公団、昭和37年には阪神高速道路公団が設立されて、それぞれ首都圏、阪神都市圏の都市高速道路の整備に当たることとなり、さらに昭和45年には本州四国連絡橋公団が設立されて本州と四国の連絡橋に係る有料道路及び鉄道の整備を行うこととなった。また、同じく昭和45年には地方道路公社法が制定され、地方的な幹線有料道路の整備に当たる地方道路公社の設立が認められることとなった。

 有料道路制度の活用により、我が国の幹線道路の整備は着実に進展し、平成12年4月現在で、高速自動車国道 6,615km、都市高速道路(指定都市高速道路を含む)605km、本州四国連絡道路173km、一般有料道路2,114km、合計9,507kmが供用中で、都道府県道以上の道路の供用延長の約5%に相当し、走行台キロでは約17%を分担している等、我が国の経済社会や国民生活上大きな役割を果たしている。なお、その他に一般有料道路として供用した後、無料開放した道路も平成12年4月現在で 1,422kmに達している。

 建設費、管理費等について一定の利用者負担を求め、高度なサービスを提供する有料道路制度は、受益者負担の観点や世代間の負担の公平の観点からも優れた側面を有しており、現在建設中あるいは計画中の有料道路が既に供用中の道路と一体となって国民生活や経済活動に果たす重要な役割を考えれば、今日の厳しい財政状況の下で、今後とも国土・地域整備上重要な幹線道路の整備・管理において、有料道路制度を有効に活用していく意義は依然として大きいものと考えられる。

2.有料道路料金をめぐる課題

(1)有料道路の料金の考え方

 有料道路の料金を決定するに当たっての最も基本的な原則は、料金の額は道路の建設費、管理費等を償うものであることとする償還主義の考え方であり、全ての有料道路に適用される。
 それに加えて、高速自動車国道、都市高速道路については、利用者の負担力等を考慮するという公正妥当主義の考え方が採用されているとともに、利用効率等を勘案することとされている。また、一般有料道路、本州四国連絡道路については、当該道路の通行又は利用によって利用者が通常受ける便益の限度を超えてはならないとする便益主義の考え方が採用されている。
 具体の料金設定は、以上の考え方に基づき、各有料道路について、それぞれの道路の機能・役割や利用者間の負担の公平、さらには交通処理上の制約要因等も踏まえた上で、各有料道路ごとに異なった料金体系が採用されている。

(2)料金体系のあり方の検討の必要性

 近年の低成長経済への移行、物価水準の安定化の中で、有料道路料金に対する国民・利用者の関心が一層高まっており、このような中で、有料道路事業に対する国民や利用者の理解を得ていくためには、適正な料金水準の下で有料道路事業の採算が確保されるよう、有料道路事業が国民生活や都市機能の向上等、広く外部経済効果を有していることに鑑み、国・地方公共団体は今後とも一定の役割を果たしていく必要がある。また、公団等の各有料道路事業主体においても、建設費・管理費の削減等さらなる経営合理化に努めることはもちろんのこと、現在の料金体系について国民・利用者の視点に立って、適切に見直しを行っていく必要がある。

 まもなく本格的な運用が開始されるETC(ノンストップ自動料金支払いシステム)は、有料道路の料金所において、従来のように一旦停車することなく、路車間の通信により料金支払いを行うシステムであることから、対人的な料金徴収と比べ、円滑な交通に大きな支障を生じることなく、よりきめ細かい課金が可能となる。また、有料道路の本線や均一料金制を採用している道路のオフランプ等現在料金所が設置されていない箇所にも路側機器を整備すれば、利用距離や利用経路等に応じた料金設定も可能となるものである。
 こうしたことから、ETCは今後その普及が進むにつれて、現在の有料道路の料金制に大きなインパクトを与え得るものとなってくると考えられ、その早急な普及が望まれる。

 また特に、大都市部の有料道路においては、依然として渋滞が解消されず、利用者の円滑な交通を阻害している状況が存するほか、一般道路も含め特定地域に過度な交通が集中し沿道環境が改善されない地域が存する一方で、当該地域の交通流を分散・円滑化するために整備された路線への交通の転換が、ネットワークが未だ完成していないこともあって、十分には進んでいない状況にある。
 このような課題の解決のためには、抜本的対策として、環状道路等のネットワークの整備やボトルネック部分の改築を引き続き積極的に進めることが必要である。
 それに加えて、既存の道路網を効率的に活用する観点も重要であり、特に現在料金を徴収している有料道路において、料金設定を工夫する等により交通需要を調整し、有料道路ストックを有効に活用することの必要性が高まっている。

 本審議会は、こうした状況を踏まえ、ETCの導入を契機として、有料道路の料金体系について今日的観点から検証を行い、特にETCによる新たな料金に関する施策を実施する可能性が大きく、渋滞解消や沿道環境改善等が緊急の課題となっている都市高速道路(首都高速道路、阪神高速道路)の目指すべき料金体系のあり方を中心に検討を行った。また、ETCが1日も早く我が国において普及するための方策についても、現行料金制との整合を図りつつ、検討を行った。

3.ETCの普及促進策について

(1)ETCの意義・効果

 ETCは、ITS(高度道路交通システム)の重要な構成要素の1つであり、また世界規模で生じている情報通信技術(IT)による産業・社会構造の変革(いわゆる「IT革命」)の中で、IT革命を先導する役割を担うことが期待されるとともに、今後の有料道路の整備・管理上不可欠となる基本的なインフラとなるものである。
 現在ETCについては、千葉地域を中心にモニター車を対象として試行運用中であるが、まもなく一般の利用者も含めた本格運用が開始される予定であり、平成13年春には、全国の主要な料金所において運用が開始され、平成14年度末までに全国の料金所のほぼ7割に当たる約900料金所に拡大し、交通量からみて約9割が利用可能となる見込みである。

 ETCは、従来の料金支払いシステムに大きな変革をもたらすものであり、以下に掲げるような各般の効果が期待される。

(利用者の視点)
 料金所ノンストップ通行による料金支払い手続の省略や料金所通過時間の短縮、各公団共通の簡易な決済が可能となることにより、従来に比べ利用者の利便性・快適性が大幅に向上する。

(交通流の視点)
 ETCにより料金所の処理能力が大幅に向上することから、高速自動車国道の渋滞の3割を占める料金所渋滞が解消に向かう。なお、都市高速道路においては、本線上の渋滞の影響等もあり、その効果は相対的に減殺される。

(コスト縮減の視点)
 ETCの利用率の向上に伴い、料金収受経費等の管理費の削減が可能となる。

(新たな料金に関する施策の視点)
 有料道路本線や均一料金制を採用している有料道路のオフランプ等での路側機器による課金等の技術が確立されれば、ETCの普及に伴って、利用の形態や路線・区間毎の特性等にきめ細かく対応した料金設定が可能となり、利用者ニーズや環境対策等様々な政策目的に対応した多様な料金施策の実施が可能となる。

(ETCに限定した利用とすることによる効果の増大)
 ETCに限定した利用が実現すれば、例えば、有人レーンの大部分を廃止できることから、大幅なコストの削減が可能となるほか、ETCを活用した料金施策についても、施策目的に応じた割増・割引が効果的に実施できるなど、ETCの整備効果は飛躍的に高まることが期待される。

(2)普及促進を進めるに当たっての基本的考え方

 料金所渋滞の解消効果、料金収受経費等の削減効果等のETCの整備効果は、ETCの普及に応じて高まるものであり、またETCを活用した新たな料金施策についても、実施に向けてのコンセンサスを容易にするとともに、その施策効果の効果的な発現を図る必要があることからも、国・公団等は、ETCの早急な普及が進むよう積極的な取り組みを行うことが求められる。

 具体的には、有料道路の利用台数ベースでみた利用率の早期向上が重要であり、当面、高速自動車国道の料金所渋滞が概ね解消される利用率50%の早期達成を図ることが必要である。
 さらに都市高速道路(首都高速道路・阪神高速道路)については、後述するETCを活用した新たな料金体系をより効果的に実施するためにも、ETC対応車と非対応車が混在している状況を早急に解消することが望ましいことから、概ね5年後を目途にETCに限定した利用とすることを目指すことが重要である。また、その他の有料道路についてもできるだけ早期のETC限定化を目指すことが望ましい。
 なお、ETCに限定した利用を実現するためには、ETCの普及が利用者の選択や民間事業者の企業努力によるところが大きいことを踏まえつつ、以下に述べる普及促進策を積極的に展開し、ETCの普及率を十分に高めていくとともに、ETCが高齢者や身体障害者等も含め誰にとっても使いやすいものとなるよう、その利便性の向上を図る等により、今後ETCに限定した利用とすることに向けて国民や利用者のコンセンサスが得られるような条件整備に努めることが重要である。
 また併せて、具体的な限定の手法とその実効性の確保方策等の技術的課題やETC非対応車の通行を制限することの制度的課題についても幅広く検討を進める必要がある。

(3)普及促進策の展開方策

 普及促進策の実施に当たっては、利用者がETCに関して支払うコストをはじめ、ETCシステム全体の公正・透明性の確保を図りつつ、利用者のETCの選択や民間事業者の企業努力を支援・誘導することを基本とし、本格運用が開始され全国展開がほぼ完了するまでの導入段階及びその後の普及段階において、各段階におけるETCの整備状況や車載器価格をはじめ予想される市場環境等を踏まえつつ、各施策について早急に具体化を図り効果的に展開していく必要がある。
 また個々の施策については、ETC普及促進の緊急性に鑑み、可能なものはできる限り前倒して実施するよう努めるとともに、その他普及促進に資するような方策についても、引き続き幅広く検討することが望ましい。

 T.導入段階における施策

 導入段階においては、ETC利用のインセンティブを与えるため、主に一般の利用者を対象として、後述する前納システムの導入時期を見極めつつ、採算に与える影響も踏まえ、実施期間を限定した上で、一定の上限額を設定する等による特例の割引を行う必要がある。
 また、現在のETCについては、クレジットカード等を活用した後納システムを採用しているが、それに加え利用者の利便性を一層高めるため、前納システムの早期導入を図るとともに、ETC利用によるサービス水準の向上や現在の前納型割引とのバランスを考慮しつつ、ETCにおける前納型割引の実施について検討する必要がある。
 さらに、ETCを活用した料金施策の実施のために必要となる、有料道路本線上や均一料金制を採用している有料道路のオフランプ等での路側機器による課金等の技術の早期実用化を図るほか、そうした料金施策自体が普及促進に効果を有するケースも考えられることから、将来の料金体系との整合性や採算に与える影響に配慮しつつ、早期の実施を図り、ETC利用のメリットを一層高めていくことが重要である。
 また、個々の利用者にとってETCのメリットが実感しにくいことが予想される段階であることから、ETC専用レーンの拡大を図る等、できる限りETCのサービス水準の向上を図るとともに、ETCの意義・効果について、国民・利用者に対する周知に努め、例えば利用の一層の喚起に資するような愛称を設けることを検討する等、様々な取組みを行っていくことが必要である。
 一方、民間においても、国・公団等における普及促進策の実施に併せて、ETCについての認知度を一層高めるような取組みや、自動車への車載器のビルトイン化等、ETCの普及促進に資するような事業展開を図っていくことが期待される。

 U.普及段階における施策

 導入段階で講じた施策や民間における取り組みにより、ETCの普及率は相当程度高まっていることが期待されるものの、相対的に有利な現行割引制度の利用者をはじめ一部の利用者は、なおETCに転換しないことも予想されることから、ETCの前納型割引により、ハイウェイカード、回数券の機能をETCに集約することが可能となること等も踏まえつつ、現行割引制度について、負担の公平の観点も考慮し、割引率を含めその見直しの検討を行うことが望ましい。
 また、建設費・管理費の大幅な縮減が可能となるETC技術を活用した自動料金支払い方式によるインターチェンジ(いわゆる「スマートインターチェンジ」)の積極的展開を図るなど、ETCのサービス水準の一層の向上に資するような施策について検討を進める必要がある。
 さらに、民間においても、有料道路以外の用途におけるETCの活用をはじめ、ETC技術の多目的利用についても積極的に取り組むことが期待される。

4.都市高速道路の料金体系のあり方について

(1)基本的考え方
 T.背景

 代表的な都市高速道路である首都高速道路及び阪神高速道路は、それぞれ約116万台/日、約92万台/日にも及ぶ膨大な交通を処理しており、首都圏、阪神都市圏の物流の相当部分を担うなど、大都市圏の経済活動や市民生活を支える大動脈として極めて重要な役割を果たしているが、近年、都市高速道路の料金に関連して以下のような課題が生じている。

(走行距離のばらつきの拡大)
 都市高速道路ネットワークの拡大等に伴い、中・長距離の利用が多くなる一方で、短距離利用が総じて減少する傾向にある等走行距離のばらつきが拡大傾向にある。これを時間短縮便益についてみると、総じて増加傾向にあるものの、中・長距離利用の便益の増加は、短距離利用の便益の増加より大きく、結果として便益の差も拡大傾向にある。

(依然として残る慢性的な渋滞)
 渋滞の発生は、ネットワークの整備の進展もあってピーク時に比べ減少したものの、依然として慢性的な渋滞が発生している。

(沿道環境問題の深刻化)
 都市高速道路における沿道環境については、従来からネットワークの整備による交通の分散や遮音壁、裏面吸音板の設置、低騒音舗装の実施等各般の沿道環境改善対策を実施してきたところであるが、一般道路の交通も相まって依然として沿道環境が改善されていない地域が存在している。

(事業費の増大)
 現在建設中の路線は、その多くが環状道路等既存路線を補完する機能を担う路線であり、渋滞を解消する効果は大きいものの、既存路線の利用者からの転換が多いことから大幅な収入増には結びつきにくい。一方で用地補償費の増大、環境への配慮等のための地下構造の採用等により事業費が増大しており、これを償還していくためには、引き続き所要の公的助成の確保に努めるとともに、一定の利用者負担の増加が必要な状況にある。

(料金改定に向けての国民・利用者の理解を求めていくことの重要性)
 都市高速道路の料金水準は、平均トリップ長当たりでみると、消費者物価水準等と比べて概ね妥当なレベルで推移しているものの、物価水準の安定化等の中で、今後の料金改定に向けて国民・利用者の理解を求めていくことの重要性が従来にも増して高まっている。

 U.目指すべき料金体系

 都市高速道路においては、大量の交通を能率よく処理することが極めて重要な要請であり、料金徴収事務を簡素化し、所要時間を短縮する必要があることや、距離に応じた料金制を採用するために必要な出口の料金所の設置が構造上及び交通処理上困難であること等から、料金圏別均一料金制を軸とした料金体系が採用されている。
 既にみたように、ETCを活用すれば、大量の交通の処理に支障を与えることなく、利用者の利用距離や利用経路、利用時間等にきめ細かく対応した料金設定が可能となることから、新たな料金体系については、基本的にETCにより実施することを前提として検討する必要がある。

 前述の都市高速道路料金における課題を踏まえれば、今後目指すべき料金体系については、利用の程度に応じた負担という公平負担の考え方に一層配慮するとともに、全体としての利用者便益を高めていくものとすることが必要である。
 また一般に料金は、需要を調整する機能を有していることから、料金を弾力的に設定してその機能を積極的に活用し、都市高速道路やその他の道路ネットワークの一層の有効活用を図ることにより、渋滞緩和や沿道環境改善等、都市高速道路に対する社会的要請や、多様な利用者ニーズに的確に対応しうるものとすることも重要である。

 なお、新たな料金体系については、建設等に要する費用を一定期間内の料金収入で償還するための特別措置であるという現在の有料道路制度の考え方を基本として検討を進めることとするが、今後、現在の考え方にとどまらず、例えば、混雑や環境悪化等の外部不経済を内部化する等により、特定の政策目的の達成に一層資するような料金の可能性も含め、幅広い議論と検討が行われることが望ましい。

(2)新たな料金体系の検討の方向性

 上述の基本的考え方を踏まえ、今後の都市高速道路の料金体系について、社会経済情勢を十分踏まえるとともに、採算に与える影響やETCの普及状況を見極めつつ、以下に示す方向で検討を進めていくことが必要である。
 また、料金体系の検討の方向性については、基本的に首都高速道路及び阪神高速道路を対象とすることとするが、単にそれらの道路のみならず、適切なものは、均一料金制を採用している他の道路を含め、広く有料道路全般への適用の可能性 についても併せて検討していくことが望ましい。

 T.料金圏別均一料金制の見直し

 前述のように都市高速道路のネットワークが拡大し、利用形態の多様化が進展しており、結果として利用距離のばらつきが大きくなる中で、中・長距離利用者と短距離利用者との間の便益の差が拡大する傾向にある。
 したがって、利用の程度に応じた負担という公平負担の観点から、現行の均一料金制を見直し、利用者の利用距離の要素を勘案した料金体系への移行を検討する必要がある。特に距離の要素を勘案すれば、中・長距離の利用者にとっては、現在よりも負担増にもつながることも考えられることから、新たな料金体系の意義、効果について、国民・利用者の理解が得られるよう努めることが重要である。
 その際必ずしも画一的な基準によらず、各路線の特性や現在の利用実態等にも留意するとともに、他の有料道路との一体的利用の場合の負担の軽減や利便性の向上に配慮した上で検討を進めることも必要である。
 また、今後の都市高速道路が果たして行くべき役割を踏まえながら、新たな料金体系が都市高速道路や一般道路の交通へどのような影響を及ぼすかについて十分に検証を行い、都市高速道路のネットワークが他の有料道路や一般道路と相まって、大都市圏の交通を効率的に分担していけるよう、料金設定に工夫を行うことが求められる。
 さらに、現在の料金圏についても、この制度は均一料金制を前提として導入されていることを踏まえると、今後その撤廃も含め幅広く検討していく必要がある。

 U.車種区分・車種間料金比率の細分化

 都市高速道路の車種区分・車種間料金比率は大量交通を円滑に処理できる利点を持つことから、2車種区分に簡素化されているが、負担の公平の観点から、占有者負担の考え方、原因者負担の考え方、受益者負担の考え方を総合的に勘案するとともに、大量交通の処理に支障が生じないよう、ETCの普及状況を踏まえつつ、細分化する方向で検討する必要がある。

 V.多様な料金施策の実施
 @.乗継ぎ制の拡充

 現在の乗継ぎ制は、供用中の網と暫定的に切り離されて供用される場合等ネットワークが未完成の段階において、暫定的にその機能を補完するために認められている。
 特に現行の均一料金制の下で、乗継ぎ制の実施に関する利用者のニーズは大きく、利用距離の要素を勘案した料金体系への移行との整合性を確保しつつ、ETCを活用して、ネットワークの補完のための乗継ぎ制の一層積極的な活用を図るほか、完成したネットワーク内においても、ボトルネックとなっている渋滞箇所を迂回するような乗継ぎ制を実施することについて、一般道路への影響に配慮しつつ検討する必要がある。
 また、その場合において、1回分の料金で乗継ぎを可能とする現行方式に加え、2回目の利用を割引で行う等幅広い実施方策についても検討する必要がある。

 A.渋滞対策を目的とした料金制の導入

 現在の都市高速道路においては、同一路線・区間であっても、時間帯別、曜日別、季節別等時間的な違いや、上り・下り等の方向の違いによって、交通量が交通容量を大幅に上回り、速度低下に伴い渋滞がさらに悪化する時間が存する一方で、交通容量に比較的余裕がある時間が存する等、都市高速道路のストックをさらに有効に活用する余地も残されている。
 したがって、環状道路等のネットワーク整備等の抜本的な渋滞対策と併せて、料金の需要調整機能を活用して、現在の都市高速道路ストックを有効に活用することにより、渋滞の緩和・解消に資するよう、渋滞時間帯には割増料金とし、一方で閑散時間帯には割引料金とする等いわゆるピークロードプライシングの導入について、一般道路への影響に配慮しつつ、試行的実施も含め検討する必要がある。
 その場合、料金切り替え時における時間待ち等による新たな渋滞の発生を防止するため、ETCを活用して段階的に料金を引き上げ、又は引き下げていく工夫が求められる。

 B.沿道環境対策を目的とした料金制の導入

 住宅地等を通過する都市高速道路の路線に過度の交通量が集中し、沿道環境が依然として改善されていない地域があり、その改善が急務となっているが、当該路線の機能を代替すべき路線に十分に交通量が転換していない等、都市高速道路ネットワークが必ずしも有効に活用されていない状況にある。
 そのため、総合的な沿道環境改善対策の一環として、料金の需要調整機能を活用する観点から、料金設定を工夫し、ネットワーク内の交通量をより望ましい方向となるよう調整することについて、試行的実施も含め積極的に検討する必要がある。
 この場合、沿道環境改善が効果的に図られるよう留意することとし、交通量を抑制すべき路線については料金を割り増し、交通量の転換を促進すべき路線については料金を割り引くことを基本として検討する必要がある。
 しかし、当該道路や関連する一般道路も含めた道路ネットワークの状況等によっては、割増又は割引のみの対応も考えられる。
 また、沿道環境の改善は緊急を要する課題であることから、ETCの導入段階ではETCの普及状況も考慮し、特に施策の対象となる交通のETC利用率を高めるよう努めるほか、料金徴収方法の工夫によりETC非対応車も施策対象とすることについても検討する必要がある。
 なお本施策は、都市高速道路ネットワーク内においてより適切な交通の分担を実現することを通じて、沿道環境の改善を図るものであることから、本施策の実施に係るコストについては、利用者全体による負担を基本とすべきであるが、本施策の実施による効果は広く地域住民が享受すること等に鑑み、国・地方公共団体による支援についても検討する必要がある。

 C.特定区間料金の拡充

 現在の特定区間料金については、料金区界に係る短距離区間、路線の端末区間等について、均一料金制と当該区間のみの利用者の負担とを調整するために、関連する街路の整備状況や利用者便益等を勘案しつつ設定することとされているが、本来設定することが適当であっても料金徴収実務上の制約から、設定が困難な区間が存在している。
 こうした区間については、ETCを活用して、利用距離の要素を勘案した料金体系への移行との整合性を図りつつ、採算に与える影響に配慮しながら、都市高速道路及び接続する一般道路への交通に悪影響を及ぼさない範囲内で特定区間料金を設定するよう積極的に検討する必要がある。
 特に端末部等が他の有料道路と接続している箇所において特定区間料金を設定すれば、利用者の負担の軽減や有料道路ネットワークの効率的利用にも寄与するものと考えられる。

(3)段階的導入の検討

 新たな料金体系は、既にみたようにETCによる実施を基本とするものであるが、ETCに利用を限定するまでのETC対応車と非対応車の混在期においては、ETC対応車の料金を非対応車の料金より高く設定することは、実効性の観点から問題があることから、新たな料金体系の本格的な導入は、ETCに利用を限定する段階に併せて行うことが現実的である。
 しかし混在期においても、新たな料金体系のメニューのうち可能なものについては、ETCの普及状況も踏まえ、採算に与える影響や今後の料金体系との整合性に配慮しつつ、ETC対応車・非対応車に異なる料金を設定することとなることについて、利用者の理解を得るよう努めながら、順次前倒しで導入を図っていくことが重要である。
 その場合、非対応車について料金圏を廃止することは困難であることから、当面ETC対応車にも料金圏を適用する等、ETC対応車・非対応車の混在期における現行制度との整合性の確保について留意しつつ検討を進める必要がある。

(4)都市高速道路に関する手続きの改善

 新たな料金体系の導入を円滑に行うためにも、料金改定をはじめ都市高速道路の計画から供用に至るまでの手続きの公正・透明性を一層高めていく必要がある。
 現在の都市高速道路の料金については、原則として新規路線を供用する直前に当該路線を償還対象に組み入れた上で決定される仕組みとなっている。
 平成9年1月の本審議会の中間答申を踏まえ、建設の進め方に関する意思決定を行う、都市高速道路の基本計画の変更の際には、当該基本計画に係る料金見通しを開示する等手続きの改善が行われているところであるが、今後とも、計画から供用までの各段階において、透明性を一層高めていくため、よりわかりやすい情報公開に努めるよう、開示するデータ等について工夫を行う必要がある。
 また、新たな料金体系は地域や利用者のニーズに的確かつ迅速に対応していく必要があることから、一定の範囲内の料金設定は、有料道路事業者の弾力的な取り組みを支援する観点からも、許可又は認可ではなく届出で実施可能とするなど制度・運用の改善が検討されることが望ましい。

5.おわりに

 本審議会は、これまで平成7年に高速自動車国道について、平成9年に都市高速道路・本州四国連絡道路・一般有料道路について、それぞれ答申を行ってきた。これら答申で指摘した事項については、国、公団等において順次具体化されつつあるが、経済の低成長化や少子高齢化の急速な進展等にみられるように我が国経済社会が大きな変革期を迎えていることや、今後の有料道路の整備は地方部における横断道や大都市地域における環状道路等当面交通量の増加には結びつきにくい路線が中心となり、収入の大幅な増加は期待できない状況にあること等を踏まえると、現行の制度・運用の下での実施可能な有料道路事業には限界が生じていることも事実である。
 特に環境への配慮等から整備に要する費用が多額になっている都市高速道路においては、今後の望ましいネットワークのあり方や適正な負担のあり方について、十分に議論と検討が行われ、国民や利用者のコンセンサスを得ていくことが不可欠の課題であると考えられる。
 今回、本審議会は、当面の緊急の課題であるETCに関連してその普及促進策や都市高速道路の料金体系のあり方を中心に検討を行ったが、これらについては、早急に具体化に向けて検討されることを期待するものである。
 本審議会は、受益者負担の観点や世代間の負担の公平の観点からも、我が国の幹線道路の整備・管理において、基本的に有料道路制度を活用していく意義は大きいものであると考えており、来るべき新世紀において有料道路制度が的確にその役割を果たしていけるよう、制度の抜本的な見直しも含め、我が国経済社会の長期的展望も視野に入れた今後の有料道路制度のあり方について、幅広い議論が行われるよう望むものである。



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