高速自動車国道の整備・管理のあり方に関する報告 |
平成10年8月25日、建設大臣から道路審議会に諮問された「今後の幹線道路網の整備・管理のあり方について」(諮問第48号)については、同審議会基本政策部会を中心に審議にあたることとし、専門的かつ集中的に検討を進める観点から、同部会に幹線道路網検討小委員会を設置し、平成11年7月29日に諮問に係る検討事項のうち一般国道の直轄管理区間の指定基準のあり方について答申した後、高速自動車国道の新たな整備手法の提案など高速自動車国道の整備・管理のあり方について検討を進めているところである。
このたび、道路審議会における審議が社会資本整備審議会の道路分科会に引き継がれることから、これまでの検討過程における主な意見をとりまとめたので、これを報告するものである。
道路審議会の委員の氏名は、次のとおりである。
宇都宮 象 一
梶 原 拓
田 村 喜 子
西 垣 昭
藤 井 弥太郎
山 根 孟
岡 部 敬一郎
草 野 忠 義
中 村 英 夫
長谷川 逸 子
宮 繁 護
横 島 庄 治
木 村 治 美
竹 内 佐和子
永 光 洋 一
塙 義 一
山 出 保
また、基本政策部会の委員の氏名は、次のとおりである。
委員
竹 内 佐和子
○ 山 根 孟
田 村 喜 子
横 島 庄 治
中 村 英 夫
専門委員
飯 沼 良 祐
磯 田 晋
金 本 良 嗣
残 間 里江子
○ 杉 山 雅 洋
中 西 光 彦
橋 元 雅 司
松 村 みち子
望 月 清 弘
屋 井 鉄 雄
家 田 仁
井 堀 利 宏
川 嶋 弘 尚
白 石 真 澄
玉 川 孝 道
○ 西 谷 剛
○ 林 広 敏
水 谷 研 治
○ 森 地 茂
○ 山 内 弘 隆
○ 石 田 東 生
加 瀬 正 蔵
幸 田 シャーミン
○ 杉 山 武 彦
中 条 潮
○ 萩 原 治
普 勝 清 治
溝 上 一 生
森 野 美 徳
渡 邊 修 自
○印は幹線道路網検討小委員会の委員の氏名である。
目 次
1.高速自動車国道整備の経緯と課題
(1)高速自動車国道整備の経緯
(2)高速自動車国道整備の課題
2.今後の高速自動車国道の整備・管理のあり方
(1)高速自動車国道の新たな整備手法の提案
(2)高速自動車国道の管理の一元化
(3)地域や利用者の多様化するニーズへの対応3.今後の検討課題
1.高速自動車国道整備の経緯と課題
(1)高速自動車国道整備の経緯(2)高速自動車国道整備の課題
- (有料道路制度の活用)
- T) 高速自動車国道は本来建設大臣がその建設・管理を行うものであるが、戦後の遅れた我が国の道路の整備状況の下で、高速自動車国道の整備には多額の費用を要し、また、その利用によって受けるサービスも高度であることから、利用者に料金負担を求める有料道路制度を活用することとされた。
- (全国料金プール制の採用)
- U) 昭和32年以降、高速自動車国道は路線毎に別々の法律により定められてきたが、昭和41年の「国土開発幹線自動車道建設法」の制定により、これら個別路線を含め、国土開発幹線自動車道の予定路線7,600kmが定められた。この国土開発幹線自動車道の予定路線については、全路線が一体となって全国的な自動車交通網の枢要部分を構成すること、各路線の利用者に同質の高速交通サービスを提供すること、整備時期の違いによる料金の格差を回避すべきであることから、料金の額、料金の徴収期間等について一貫性、一体性を持たせることとし、昭和47年より全国料金プール制を採用し整備がなされてきた。
- (高規格幹線道路整備の考え方)
- V) 昭和62年に閣議決定された第四次全国総合開発計画において、多極分散型の国土の形成という国土政策実現のために必要な、全国的な自動車交通網である14,000kmの高規格幹線道路網計画が策定された。このうち11,520kmについては、既定の7,600kmを含め、高速自動車国道のネットワーク(以下「A路線」という。)として、全国料金プール制による整備が適当とされた。残る路線2,480km(以下「B路線」という。)については一般国道の自動車専用道路として整備することとされた。
- (A’方式の導入)
- W) さらに、A路線に並行して混雑解消などのため整備が急務となっている一般国道がある場合、当該一般国道を自動車専用道路として建設することにより、一般国道のバイパスとしての役割も果たしつつA路線の機能を代替させ、高速ネットワークの一部として活用する方式(以下「A’方式」という。)が、高速ネットワークの早期整備と全国料金プールへの負担軽減による高速自動車国道の採算性確保の観点からも有効とされ、暫定的に活用されてきた。
- (高速自動車国道整備の状況)
- X) 平成12年11月末現在、A路線11,520kmのうち、整備計画策定済みの区間9,342km及びA’方式で供用中又は事業中である区間943km(以下「A’区間」という。)を除く1,235kmの区間(以下「未事業化区間」という。)について現在事業化に向けた調査を実施中である。
2.今後の高速自動車国道の整備・管理のあり方
- (整備の必要性)
- T) 高速自動車国道は、21世紀の我が国の経済社会活動を支える大動脈であり、又あらゆる地域計画、まちづくりの基本となる基盤施設であるため、利用交通量のみによって判断されることなく、車社会と一体不可分である最低限の社会資本として、国民が等しくそのサービスを享受できるよう早期に整備されることが求められる。このため、以下の理由により、全国総合開発計画に位置づけられた21世紀初頭までにネットワークを概成するという整備目標を達成する必要がある。
- a) 国土構造を多軸型に転換するため、長期的な国土軸の形成の基礎として、広域的な連携の軸となる縦貫路線、横断路線を早期に整備する必要があること。
- b) 日本新生のための主要政策として、幹線交通のボトルネック解消の観点から、大都市圏の環状道路や、第二東名・名神高速道路を早期に整備し、便利で住みやすい都市構造へと再構築を図る必要があること。
- c) 地域の活性化や地方定住の促進、さらに地域の連携による自立的発展を図るための基盤施設として、災害時における代替性が確保されている安定したネットワークの形成が必要であること。
- (現行整備計画9,342kmの採算見通し)
- U) 全国料金プール制により整備することとしている現行整備計画9,342kmについては、未償還残高がピーク時に34兆円となるものの、高速自動車国道施設全体の平均的耐用年数である約50年で償還が可能とされている。これは、約20年間の建設期間中に、年間約3,000億円の国費充当を受けることとし、現在供用中の6,615km(平成11年度末)の料金収入年間1.8兆円が、9,342km供用時には年間2.5兆円となり、その後もこの水準が継続することを前提としている。現在まで償還は計画通り順調に進んでいるが、もしその収入見込みが下方修正されれば、その程度如何によっては、年間の工事費の縮小、国の負担の拡充などさらなる対策が必要となる。
- (A’方式の課題)
- V) A’区間は、地域内交通にも利用されやすく、また、A’方式を活用すれば、高速自動車国道とこれに並行する一般国道との二重投資を避けることが可能となるなどのメリットが存在する。しかしながら、A’区間は、実質的に高速自動車国道とほぼ同等の道路構造を有しているにもかかわらず、道路交通法の適用が異なるため規制速度が低くなる場合があることや、多くは個別採算制を原則とする一般有料道路として整備されているため、採算の状況によっては供用後に必要な改良の実施が困難となる場合が考えられるなど、高速自動車国道としての高速サービスの提供が困難となる恐れがある。また、A’区間を、高速ネットワークにおけるその位置付けが不明確なまま一般国道として整備を進めることは、透明性確保の観点から課題がある。
- (地域や利用者の多様化するニーズへの対応)
- W) また、これまで供用区間において、インターチェンジの改良による混雑解消、サービスエリア・パーキングエリアの拡張、道路交通情報システムの高度化など、高速自動車国道利用者に対するサービス向上の取り組みが積極的に行われてきた。高速自動車国道が、広域の交通のみならず、日常生活の地域内交通にも利用されるようになってきたことを踏まえ、今後さらに、高速自動車国道を有効に活用し、物流の効率化や地域の活性化など、地域や利用者の多様化するニーズに的確に対応することが必要となっている。
(1)高速自動車国道の新たな整備手法の提案
(2)高速自動車国道の管理の一元化
- (高速自動車国道を巡る情勢)
- T) 未事業化区間1,235kmは、交通量が少ないと見込まれる区間が多いほか、交通量が多いと見込まれるものの沿道環境への配慮等から建設費が多額に上る区間が存在するため、採算性の確保が厳しい区間が大半を占めている。一方、物価水準や金利の動向など社会情勢が大きく変化しない中では、料金改定について国民的なコンセンサスを得ることは厳しいと考えられる。
- (従来の整備手法による未事業化区間の整備)
- U) このような状況の下、21世紀初頭までにネットワークを概成することを目標に、従来の整備手法のみにより未事業化区間1,235kmの整備を行うとした場合、将来の金利の動向等によっては、既存路線からの内部補助が大きくなるほか、50年間で償還を可能とさせるためには国による多額の負担が必要となるとともに、全国料金プールの借入金が大幅に増大することとなり、社会経済動向の将来見通しには不確実性が伴うため、将来のリスクが多大となることが予想される。
- (新たな整備手法の追加)
- V) このため、既存路線からの内部補助を軽減し、全国料金プールの借入金の増大を抑制するため、高速自動車国道整備においても一般道路事業を導入し、原則として一般道路事業と有料道路事業による合併施行方式を活用して整備する手法を追加することが適当と考えられる。この新たな整備手法を用いることにより、先に述べたA’方式の課題に対処することが可能となる。また、今後の高速自動車国道の整備に当たっては、この追加された整備手法と従来の整備手法を組み合わせて効率的に整備を促進することが考えられる。
- (新たな整備手法を導入する場合の負担のあり方)
- W) 新たな整備手法を適用する場合には、高速自動車国道の利用における地域内交通の割合が増加しているなど地域の幹線道路としての役割を踏まえ、一般的な公共事業と同様の手法で行うこととなるので、事業着手の際には、関係地方公共団体の意見を十分考慮することが必要である。さらに、高速自動車国道が我が国の経済社会活動を支える根幹的な施設であり、引き続き広域交通の中枢を担っていくことに鑑み、国の役割が重いと考えられるので、その負担のあり方について十分検討する必要がある。
- (整備手法決定の考え方)
- X) 今後着手する個々の区間の具体的な整備手法については、各区間の整備計画策定時に、交通量の推移、金利の動向など社会情勢の変化を踏まえ、国土開発幹線自動車道建設会議(現在の国土開発幹線自動車道建設審議会)の議を経るなど、より一層透明性を確保しつつ決定する必要がある。その際、従来の整備手法の適用については、個々の区間の収支状況や、ネットワークの欠落状況等を考慮することが必要と考えられる。また、新たな整備手法を適用する区間は、交通量が特に少ない路線の端末部等の区間を除き、原則として合併施行方式を活用して整備することが考えられる。
- (新たな整備手法を適用した区間等の料金のあり方)
- Y) 新たな整備手法を適用する区間や、A’区間を高速自動車国道として位置付ける場合の料金のあり方については、既存路線の料金との整合性や利用者の負担の公平性などを考慮し、その実施までに、継続して検討する必要がある。
- (建設費・管理費の節減)
- Z) さらに、今後整備を行う区間のうち、交通量が少ない区間については、構造基準を見直すなど、より経済的な構造とすることを検討するとともに、管理水準についても見直すなど、建設及び管理に要する費用の節減に取り組むことが必要である。
(3)地域や利用者の多様化するニーズへの対応
- (高速自動車国道の管理の一元化)
- T) 高速自動車国道については、利用者への高速サービスの提供や、ETCの導入・運用等による利用者サービスの拡充、緊急時の迅速な対応が可能となるよう、高速自動車国道の一元的な管理が不可欠である。このため、新たな整備手法を適用する区間については、合併施行方式を活用して有料道路とすることなどにより、一体的に管理する必要がある。
- (A’区間の法的位置付けの明確化)
- U) 現在供用中又は事業中であるA’区間のうち、利用者へのサービス向上のため、必要に応じ改築又は安全施設等の追加的な整備を行うことにより、高速走行上の安全確保が可能となるなど高速自動車国道として扱うことが適当なものについて、高速自動車国道としてその法的な位置付けを明確化することも検討すべきである。
3.今後の検討課題
高速自動車国道の役割の変化を踏まえ、今後整備する区間については、より一層地域の利便性などに配慮し、地域内交通にも利用しやすいルート、構造を採用することを検討すべきである。また、既供用区間においても、インターチェンジの追加などによる空港・港湾などの交通拠点へのアクセス改善や地域づくりの支援、高速自動車国道に直結した物流施設の立地促進などにより、地域や利用者の多様化するニーズへの対応を一層推進することが必要である。
今回の新たな整備手法の提案は、昭和62年に決定された高規格幹線道路網14,000kmのうち、高速自動車国道11,520kmについて検討したものであり、具体化のためには、従来の手法との組合せの考え方、料金のあり方等の課題について引き続き検討する必要がある。また、放射方向の高速自動車国道と一体となって、都市構造の再編を可能とする大都市部の環状道路など、今後全国的な高速自動車国道網の一環として位置付けることが適当と考えられるネットワークもある。このため、高規格幹線道路を含む全国的な幹線道路網の整備・管理のあり方について、今回の提案を基本に、今後とも継続した検討を期待するものである。