道路審議会 「直轄管理区間の指定基準に関する答申」 |
平成10年8月25日、建設大臣から道路審議会に諮問された「今後の幹線道路網の整備・管理のあり方について」(諮問第48号)については、同審議会基本政策部会を中心に審議にあたることとし、専門的かつ集中的に検討を進める観点から、同部会に幹線道路網検討小委員会を設置し、合計15回にわたる審議を行うとともに、地方公共団体の意見を踏まえ、諮問に係る検討事項のうち一般国道の直轄管理区間の指定基準のあり方について取りまとめたので、ここに答申する。
道路審議会の委員の氏名は、次のとおりである。
池 田 速 雄
梶 原 拓
竹 内 佐和子
永 光 洋 一
藤 井 弥太郎
山 根 孟
石 原 一 子
草 野 忠 義
田 村 喜 子
西 垣 昭
宮 繁 護
横 島 庄 治
岡 部 敬一郎
久 米 豊
中 村 英 夫
野 中 一二三
山 出 保
また、基本政策部会の委員の氏名は、次のとおりである。
委員
竹 内 佐和子
横 島 庄 治
田 村 喜 子
○ 山 根 孟
中 村 英 夫
専門委員
井 堀 利 宏
磯 田 晋
加 藤 正 一
金 本 良 嗣
島 田 晃
○ 西 谷 剛
松 村 みち子
○ 森 地 茂
飯 沼 良 祐
岡 並 木
○ 金 谷 邦 男
(平成11年6月23日まで)
川 嶋 弘 尚
鈴 木 敏 文
能 登 勇
水 谷 研 治
○ 山 内 弘 隆
○ 石 田 東 生
加 瀬 正 蔵
○ 幸 田 シャーミン
中 条 潮
○ 林 広 敏
光 岡 貞 雄
渡 辺 修 自
○印は幹線道路網検討小委員会の委員の氏名である。
1.はじめに
道路は自動車交通の基盤であるとともに、鉄道や港湾など他のあらゆる交通機関を有機的に結合し、その機能を発揮させることはもとより、都市の骨格形成等の市街地形成機能、延焼防止機能、電気、ガス等のライフラインや情報通信網の収容機能など多様で多面的な機能を有し、国土づくり・地域づくりにおいて最も基礎的な施設として、国民に多様なサービスを提供している。
我が国の道路網は、高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道から構成され、全国レベルの道路から地域・地区レベルの道路まで、それぞれの機能や特性に応じ、国と地方とが適切に役割を分担しつつ、密接な連携を図りながら整備・管理されている。
一般国道についてその歴史を振り返れば、戦後一級国道と二級国道の二つに区分されていた時期を経て、昭和39年の道路法改正によって一般国道が一つにまとめられたが、その時点では、改良の進捗、管理体制の整備等に合わせ逐次直轄管理区間に編入し、最終的にはすべて国が管理することを目指していた。このため、直轄管理区間の具体的な指定基準を定める考えはなかった。
その後、国の予算や管理体制の制約から、昭和39年以降新たに追加指定された一般国道路線のほとんどが直轄管理区間とされないなど、昭和40年代後半からは、直轄管理区間は微増にとどまっており、今日に至っている。
なお、現在、全部または一部が直轄管理区間となっている路線のほとんどが、道路法第5条第1項第1号又は第4号に該当しており、そのことから現在の直轄管理区間は第1号又は第4号を基本としているといえる。
このような状況から、国の責務という視点に照らし、直轄管理区間の位置付けの明確化についての要請が高まる中で、道路審議会では、近年の経済・社会活動の広域化など経済・社会・国民生活を取り巻く環境の変化に対応するとともに、地方公共団体の意見を踏まえ、一般国道の中でも特に重要な直轄管理区間の指定基準のあり方についてとりまとめたものである。
2.国の役割と広域交通の確保
1)道路の整備・管理における国の主な役割
道路の整備・管理における国の主な役割について、歴史的な経緯や諸外国との現状比較から整理すると、
が挙げられる。
- 我が国の経済・社会活動の基盤等としての中枢的・根幹的な道路の整備・管理
- 道路網の整備・管理にあたって必要となる道路構造や標識などに関する統一的な基準・手続等の策定
- 道路のネットワークとしての機能を効果的に発揮させるための道路管理者間における調整や広域的効果 持つ根幹的な事業等への助成
この三つの役割そのものは今後も大きく変化するものではないが、その対象となる範囲については、経済・社会・国民生活の状況等に応じて変化していくものである。
2)中枢的・根幹的な道路の範囲を検討する視点
国の主な役割の一つである中枢的かつ根幹的な道路の範囲の検討にあたっては、国が直接整備・管理する必要性・緊急性等を勘案し、
などの視点により検討すべきである。
- 全国レベルの経済・社会活動に伴う広域交通の確保などの我が国の経済・社会活動の基盤形成
- 災害時においても機能する信頼性の高い広域ネットワークの確保、道路空間に収容されている幹線のライフラインの保全など広域的な危機管理
- 地域連携の推進や自立的な都市の育成など国土・地域の骨格形成、国土の保全、国の経済・社会の中枢を成す大都市地域の都市機能の維持・向上などの国土の適正管理
- 車両の大型化への対応など物流効率化の支援をはじめ、道路環境対策、光ファイバー網の整備による高度情報通信社会の実現などの国家的な緊急課題への先導的かつ統一的な対応
3)経済・社会活動の広域化と国の役割
戦後、人の移動やモノの輸送における自動車利用の割合は年々増加し、道路の役割は増大してきた。戦後の経済発展は自動車交通の拡大とともにあり、現在では生活用品をはじめモノの輸送の大半を自動車交通が担っていることなど道路は我が国の経済・社会活動を根幹から支えている。 近年、我が国の経済・社会活動は一層活発化するとともに都道府県境を越えてますます広域化している。 こうした中で、新しい国土づくり・地域づくりの方向として従来の行政単位を越えた広域的な地域連携を推進することが求められている。 また、輸出入、製造、売買、消費といった様々な経済活動と密接に関連する物流機能の高度化・効率化は、我が国の産業全体の競争力の強化や多様な消費者ニーズの充足のために不可欠である。 このため、人流・物流の大半を担う道路の役割は重要であり、活発化・広域化する絶え間ない経済・社会活動を支えるため、円滑な広域交通を効率的かつ安定的に確保することは、我が国の持続的な発展にとって極めて重要な国家的な課題であり、直轄管理区間を検討する上で最も重要な視点である。
4)円滑な広域交通を確保するための道路の整備・管理主体
円滑な広域交通の効率的かつ安定的な確保という観点から、道路の整備・管理の主体の決定にあたっては、道路がネットワークとなって初めて機能するという特性を十分に考慮することが必要である。
都道府県境を越えるような広域交通の確保のためには、常に安定的にそのサービスを提供する連続した幹線ネットワークが必要である。このため、円滑な広域交通を確保するための中枢的・根幹的な道路については、部分的には地域的・地先的な利用が卓越しているとしても、以下の@からBを踏まえれば、複数の都道府県による整備・管理よりも国による一元的な整備・管理の方が効率的である。
- 都道府県境を越える人流・物流のほとんどを高速自動車国道と直轄国道で分担している現状
- 地方公共団体の範囲を越えて広域化する人流・物流のニーズに対して、特定地域のニーズを充足することに責任を有する地方公共団体で対応するのは、非効率な面が存在
- 仮に、都道府県境を越える広域交通の確保を都道府県等の地方公共団体が担うとすれば、県境部の道路整備状況の格差に見られるように、整備等のプライオリティが必ずしも一致しない地方公共団体間では整備・管理の各段階にわたって多くの調整が必要
5)直轄管理区間の地先的な管理への地方公共団体の参画の推進
一貫性のある道路管理を行うためには、その管理事務を道路毎に一つの管理者が一元的に担うことが効率的であり、また道路の利用者にとっても単純でわかりやすい。 一方、道路については、交通機能のみならず都市の緑化や景観形成といった空間機能などその機能が多岐にわたることから、少なからず地域的・地先的な利用は存在しており、直轄管理区間についても例外ではない。 したがって、直轄管理区間であっても地域に密着した面を有するという性格を踏まえ、道路管理のうち、歩道の植樹・照明の管理等の地先的な分野については、地域の意見を適切に取りいれた管理を行うことが重要であり、その一つの方策として、地方公共団体の参画を進めることも必要である。このため、地方公共団体の参画を推進するために必要となる仕組みについて整理することが必要である。
3.直轄管理区間の指定基準のあり方
1)指定基準の基本的な考え方
先に述べたように、円滑な広域交通の効率的かつ安定的な確保により我が国の経済・社会活動を根幹から支えることは国の重要な責務の一つである。
この責務に照らして、国が直接整備・管理する一般国道の区間を指定する基準については、都道府県境を越える広域交通を確保するという国土レベルの広域性の視点、災害時においても広域交通を安定的に確保するという信頼性の視点に着目して整理することが必要である。
また、我が国の経済・社会活動を根幹から支えるという視点は、円滑な広域交通の効率的かつ安定的な確保との関連で見れば、全国レベルの経済・社会活動の中核となる重要な拠点(都市、空港・港湾など)間を効率的・効果的に連絡することであるといえる。
一方、国土づくり・地域づくりにおける国の基本的な役割として、効率性を重視しつつ、国土や地域の骨格形成、国土の保全、大都市地域の都市機能の維持・向上といった国土全体を適正に管理するという視点も重要であるが、特に主要な道路においてはその空間に幹線のライフラインや高度情報通信網を収容・保全しているという視点も合わせて検討することが必要である。
なお、高規格幹線道路は、全国的な高速道路網を構成し、地域間の活発な交流を支え、活力ある国土づくり・地域づくりを推進するなど、我が国の産業発展や地域振興に不可欠な基盤であることから、その整備・管理については国の責務とすべきである。
以上を踏まえ、高規格幹線道路の整備・管理を国の責務とするほか、直轄管理区間については、国家的見地から重要な拠点を効率的・効果的に連絡する最小限の枢要なネットワークとすることとし、拠点都市の連絡、空港・港湾等の連絡の順に整理している現在の道路法の枠組みに従い、次のとおりとすべきである。
国土の骨格を成すとともに、国土を縦貫・横断・循環する人やモノ(道路空間を移動する電気、ガス、水、情報等を含む)の移動を安定的に確保するため、原則として次の@又はAのいずれかに該当する区間
@ 都道府県庁所在地等の広域交通の拠点となる都市を効率的かつ効果的に連絡する枢要な区間
(大都市圏における広域にわたる環状道路を形成している区間を含む)
A 重要な空港・港湾と高規格幹線道路又は@の区間を連絡する区間
2)拠点の選定の考え方
直轄管理区間の検討の基礎となる重要な拠点は、人口や産業が集中し、広域交通の拠点となる都市、人流・物流の拠点となる重要な空港・港湾等について選定することが適当である。
なお、北海道、沖縄においては、地域の特殊性を考慮し、支庁所在地等を重要な拠点として選定すべきである。
@広域交通の拠点となる都市の選定
都市については、人口や産業が集中し、我が国の経済・社会活動の中核を成す拠点であるとともに、地域の中心として大量の広域交通が発生する拠点でもあることから、直轄管理区間の指定にあっては、その規模や特性を考慮しつつ重要な拠点として位置づけるべきである。
広域交通の拠点となる都市については、都市の規模や拠点性を重視し、全国総合開発計画である「21世紀の国土のグランドデザイン」(平成10年3月閣議決定)を踏まえ、都道府県の総合計画や国内外の拠点的都市についての考え方の類似事例を参考に選定すべきである。具体的には、地方中核都市(都道府県庁所在地及び人口概ね30万人以上の市)を基本としつつ、地方都市においては、経済・社会活動や生活の基盤となる中核的な都市(人口概ね10万人以上かつ昼夜間人口比1以上の市)を考慮すべきである。A重要な空港・港湾の選定
重要な空港・港湾については、外国や他の地域への連絡口として、人流・物流の拠点となる施設であり、かつ道路との重要な結節点であることを踏まえると、直轄管理区間の指定にあたって重要な拠点として位置づけるべきである。
重要な拠点となる空港については、その利用の広域性を考慮し、大都市及び東北、九州など地方ブロックの中心となる都市の空港を基本とすべきである。
また、重要な拠点となる港湾については、国際競争力の強化等の観点から、広域交通の発生状況、諸外国とのつながりを考慮して、広域交通の拠点となる特に重要な港湾とすべきである。Bその他の重要な拠点の選定
海に突き出している半島地域等においては、その地形上の特性等から広域交通の拠点となる都市が存在しない場合が多く、内陸に位置する地域に比べて直轄国道のネットワークを形成する可能性が低い。
このため、@及びAに掲げた重要な拠点間の連絡により、ネットワークとしてのサービスを享受することができる内陸部とのバランスの確保や国土の適正管理の観点から、広域交通の拠点となる都市の選定要件や半島振興法の考え方を参考に、二つ以上の市を含んだ人口概ね10万人以上の半島地域等であり、かつ広域交通の拠点となる都市への到達が著しく困難な地域においては、その中心となる市を広域交通の拠点となる都市とすべきである。3)重要な拠点間の効率的・効果的な連絡の考え方
選定された重要な拠点間は、主として国土を縦貫する路線によって連絡することが可能であるが、
などの視点からみて、隣接する重要な拠点間を効率的・効果的に連絡するネットワークを構成することが必要である。
イ) 経済・社会活動が広域化する中で、従来の行政単位を越えた多方向の地域連携のための広域ネットワークの確保
ロ) 広域的な危機管理の観点からネットワークの信頼性の確保
ハ) 国土・地域の骨格形成等の国土の適正管理
@重要な拠点を効率的に連絡する方法
重要な拠点間の連絡方法については、効率的かつ信頼性の高い広域ネットワークの形成と国土の適正管理などの見地から、都道府県境を意識することなく、近接する重要な拠点を相互に、原則として機能や規模に応じて重要度の高いものから体系的に直線で連絡するネットワーク(以下「仮想ネット」という。)を基礎として、実際の道路網に当てはめることが適切である。
具体的には、広域交通の拠点となる都市間を効率的に連絡した上で、重要な空港・港湾を最短の距離で連絡するように、仮想ネットを構築する。
その際、地形上の理由から広域交通の拠点となる都市が少なく仮想ネットが的確に形成できない場合や、環状道路を形成する場合を除き、近接する全ての都市間を連絡する直線が交差することなく、距離が最短になるように効率的に連絡する。
なお、都市部においては広域交通の拠点となる都市が狭いエリアに集中する場合があることから、広域的な視点から仮想ネットを形成する際には拠点の整理が必要である。
A重要な拠点を効果的に連絡する方法
@で構築した仮想ネットを実際の道路網に当てはめる際には、重要な拠点間を効果的に連絡するため、仮想ネットを形成する直線から著しく逸脱しない範囲において、重要な拠点以外の拠点(都市が連担する地域、広域交通の発生が多い空港・港湾、観光地等)をより多く連絡するよう配慮する必要がある。
また、大量の広域的な交通需要がある区間においては、その交通を処理する観点から互いに並行する複数の道路に当てはめることができるものとする。
なお、大都市圏をはじめ放射状の道路が集中する都市圏においては、交通を効率的に処理する観点から、実際の道路網に当てはめる際に、中心部への分散導入や都市機能の向上に寄与する環状道路の形成を図るよう配慮する必要がある。
4)直轄管理区間の調整
具体の直轄管理区間の指定にあたっては、地方の中核的な都市(人口概ね 10万人以上かつ昼夜間人口比1以上の市)を考慮するほか、広域的な利用状況や国土全体から見た道路網配置のバランスにより調整を行う必要がある。
その際、地方公共団体の財政状況や一般国道の整備・管理の現状など地域の実情を勘案することが必要であり、このため、地域の代表である関係地方公共団体の意見を反映する手続を導入することが必要である。@広域的な利用状況による調整
東北や九州など地域ブロック毎に、都道府県(北海道の場合は支庁)境を越える交通や大型車交通の状況の指標(大型車混入率、大型車交通量等)により、広域的な交通が多く利用されていることを確認する。
その結果、広域的な利用が相対的に見て少ない区間については、都道府県庁所在地間を連絡するなど区間の重要性や地域の実情を勘案した上で直轄管理区間から除外する。A国土全体から見た道路網配置のバランスによる調整
国土全体を広くカバーし、国土を適正に管理する観点から、人口又は面積に対して地域毎に著しく大きな偏りがないことを確認し、全国の平均値等に対して著しく格差がある場合は、地域の実情を踏まえて調整する。
4.直轄管理区間の指定基準の運用
1)直轄管理区間の定期的見直し
直轄管理区間については、経済・社会・国民生活の状況変化を踏まえて、定期的に見直すことが必要であり、その際、前述したとおり地域の代表である関係地方公共団体の意見を反映する手続を導入することが必要である。
なお、直轄管理区間の指定基準の見直しを伴う場合は、専門的かつ総合的な立場から検討を行うことが必要である。
2)直轄管理区間の指定に伴う経過措置
直轄管理区間の指定の結果、国から地方あるいは地方から国へ移管される区間がある場合、当該区間に関係する地方公共団体の意見をもとに、移管される側の管理体制や財政状況等を勘案しつつ、必要に応じて経過措置を講じるものとする。
なお、以上のような手続については明確化を図るとともに、その過程の透明性の確保に配慮する必要がある。
5.その他
1)バイパス整備後の現道等の整理
現在の直轄管理区間のうち、バイパス整備後の現道等については、直轄事業が施行中であるなど特別な事情がある場合を除き、調整の上、地方公共団体に引き継ぐべきである。
2)広域的なネットワーク調整とその手続の明確化
道路はネットワークとして機能することが重要であることから、国の役割や直轄管理区間の指定基準が明確化されることを踏まえて、広域的な幹線道路網が全体として効率的・効果的に機能を発揮するよう、関係する道路管理者間の調整を円滑に行うための手続を明確化する必要がある。また、関係する道路管理者間の調整により策定される広域的な幹線道路網の整備計画の位置づけや内容についても併せて明確化することが必要である。
6.あとがき
今回答申した内容に基づき、直轄管理区間の範囲の見直しなどを早急に措置することを要望する。直轄管理区間は広域的な幹線道路の中核をなすものであり、その範囲が明確化されることを受け、新しい幹線道路網体系の検討など今後の幹線道路網の整備・管理のあり方について、経済・社会情勢の変化を踏まえつつ引き続き幅広く検討を進める必要がある。
その際、利用者へのわかりやすさを重視して、一般国道をはじめ幹線道路の路線番号の体系的な整理についても検討することが必要である。