W.チェックポイント

 本書ではここまで、「地域のモビリティの確保」に取り組むに当たっての基本的な考え方・進め方と留意点を、これまでの実践例から抽出した「知恵」を整理・とりまとめて示してきた。
担当者は、地域が置かれている状況や取組を進める過程における場面によって、本書を利用の仕方もそれぞれ異なるものと思われる。
 但し、どのような地域でも、取組を進めるに当たって実施することが求められる事項がいくつかあることが、本書を取りまとめる中で浮かび上がってきた。
それを整理したのが、以下に示す「チェックポイント」である。

 取組を進める過程の節目や本書を参照される際には、合わせてこちらも確認して、不足しているものを補うことで、「後悔しない」成果を得られることが期待される。


どのような地域の取組でも実施するべきチェックポイント(必須ポイント)

1.現状の的確な把握

 □ 利用者の動向を把握しているか
   ・利用者数(全体、地区別、路線別、区間別、その他(          ))

 □ 利用者のニーズを的確に把握しているか
   ・論点や仮説を踏まえたアンケート設計がなされているか

 □ 利用者の立場で考えているか

   □ 課題となっている交通機関を利用するなど現地調査をし、実態を把握しているか

   □ 利用者が(利用しない人が)改善して欲しいと考えている問題を把握しているか

2.関係者との連携・協働

 □ 利害関係を有する主体※を把握しているか
  ※利害関係を有する主体
   ・住民(高齢者、通勤・通学者、通院者、その他(          ))
   ・交通事業者  ・町内会  ・利用者代表(高齢者団体、障害者団体、その他(     ))
   ・NPO  ・商業者団体
   ・実施市町村(交通施策担当、企画担当、まちづくり担当、環境担当、福祉担当、商工担当、
    交通安全担当、教育委員会、その他(               ))
   ・関連市区町村(交通施策担当、企画担当、まちづくり担当、環境担当、福祉担当、商工担当、
    交通安全担当、教育委員会、その他(               ))
   ・都道府県 (交通施策担当、企画担当、まちづくり担当、環境担当、福祉担当、商工担当、
    交通安全担当、教育委員会、その他(               ))
   ・警察  
   ・国(地方運輸局、地方整備局、その他(                ))

 □利害関係を有する主体を検討組織のメンバーから意見聴取する等、認識の共有や、それぞれの立場の
  考えの把握を行っているか

 □ 利害関係を有する主体と対話しながら、計画の質の向上に努めているか

3.的確かつ実現可能な計画の作成・実施

 □ 目指すべき方針・目標を達成するための計画となっているか

 □ 施策・事業は、調査分析の結果に基づき選択されているか
(安易にルート、ダイヤ、運賃等を決めていないか)

 □ 乗客数の見込みは立てているか。それは、妥当なものか

 □ 運行経費の見積もりは作成しているか

 □ サービス水準(量・質)と経費負担のバランスについて利用者の意向とかけ離れていないか

 □ 運行経費(の一部)を負担する場合、運行経費は支出可能額を下回っているか

 □ 利用促進のための効果的な広報・情報発信をしているか

 □ 計画の本格実施前に実証(社会)実験等により計画(仮説)の有効性を検証しているか

 □ 計画の実施を始めた後も、利害関係を有する主体による体制を設置し、情報の共有、計画の改善に
  ついての検討等、PDCAサイクルの継続的実施を図っているか

4.「知恵」や支援制度の活用

 □ 計画を作成する際、同様の取組をしている機関や計画技術者(p37参照)に計画の作成方法や
  留意点などについて聞いたか

 □ 関連する法制度や支援制度の最新の状況を確認したか
  (国土交通省地方運輸局・運輸支局、都道府県)


<地域のモビリティ確保に向けた取組のプロセス>の項目ごとのチェックポイント

 各プロセスを実施する際に特に留意すべき点は以下のとおりである。

   □:実施することが求められる項目
   ○:地域の状況によって異なるが、確認しておくべき項目


(1)動機・背景
  □地域の課題を解決するために交通施策で対応することが適切か
  □単に交通だけではなく、地域が抱える課題も含めた戦略的かつ総合的な観点から検討しているか
  □どのような目的 (ターゲット)で実施するのかが明確になっているか

(2)体制・組織の設置・運営 [必須ポイント2も参照のこと]
  □利害関係を有する主体(協議・調整、協力が必要な関係部局、機関)を把握しているか(p167 参照)
  □利害関係を有する主体が参画しているか
  ○学識経験者は参画しているか(専門的・中立的な立場での参画が期待される)
  □計画技術者は参画しているか
  □関係者が本音で議論できるような状況か
  □関係主体の役割が明確になっているか
  □関係者間で共通の目的意識をもつためのテーマが用意されているか
  ○キーパーソンがいるか
  □利害関係を有する主体間で認識の共有や、それぞれの立場の考えの理解が図られているか

(3)予算
  □調査や計画策定も含めたトータル(全体)で必要な費用を適切に見積もっているか
  □国・県の補助制度が利用できないかチェックしたか
  □委託する作業と職員自ら作業できるものを仕分けしているか
  □交通事業者や住民・他機関との役割分担について話し合い、合意しているか
  □民間の資金・活力を活用する必要はないか
  □他の機関や部局での対応が必要か

(4)地域交通の現状の把握・分析による課題の整理・具体化 [必須ポイント1も参照のこと]
  □自ら現地を見て、課題となる箇所等を確認したか
  □各調査項目の目的、位置付けが明確か(何のために調べるのか明確か)
  □仮説を設定した上で把握したいニーズの内容に即したアンケート設計となっているか
  □調査結果を基に利用者の推計を行おうとしている場合、過大な推計にならない配慮がなされているか
  □アンケートの対象者に背景にある基本的な状況について理解を深める工夫をしているか
  □調査結果から仮説(例えば、属性(ターゲット)ごとの運行時間、ルート設定、サービス水準など)
   を検証し、または導き出せるような分析になっているか
  □何が必要で、何から優先的に実施しなければならないのかなど取組の方向性を示す分析結果となっ
   ているか
  □調査費用、実施体制は必要かつ十分なものになっているか


(5)基本方針・達成目標の設定
  □地域・まちづくりの観点から、地域交通サービスの充実により、どのような将来像
  (生活、活力、環境等)が描けるのか示しているか
  □基本方針は、全ての利害関係者に共有されるものとなっているか
  □達成目標は関係者が共有するものとして設定されているか
  □達成目標は、目標値として合理的な説明ができるものとなっているか

(6)施策・事業の検討、選択
  □現状案も含めて代替案を複数用意したか
  □代替案の評価基準を設定しているか
  □将来にわたって持続可能な施策・事業となっているか
  □予算ありきで検討するようなことは避けているか
  □交通分野で、実行可能な代替案が見出せない場合は、他の施策との分担を検討しているか

(7)計画の策定 [必須ポイント3も参照のこと]

 1)マネジメント
  □関係者の議論をコーディネイトできる体制となっているか
  □現場の課題を計画に反映できる体制になっているか

 2)運営主体
  □運営主体は、リスク分担について、関係主体間でよく調整した上で決めているか

 3)運行計画
  □負担とサービス水準の組み合わせについて、データを住民に提示し、合意を得た上でサービス
   水準を決めているか
  □適切な交通モードが選択されているか

 @ルート
  □運行ルートは、住民の移動ニーズ、移動実態を反映しているか
  □ルートが冗長・複雑で非効率になっていないか
  □定時性の確保を損なわないルートになっているか
  □既存の交通事業者と競合していないか

 Aアクセス・イグレス
  □バス停や駅までの利用者の移動の利便性に配慮した環境になっているか

 Bダイヤ
  □利用者の移動目的(移動ニーズ)にあった時間帯になっているか
  (年齢・性別等の属性によって異なることにも留意)
  □わかりやすさに配慮されたダイヤとなっているか
  □他の交通機関相互の連絡・乗継の利便性に配慮されているか

 Cサービス
  □顧客(利用者)とのコミュニケーションによるニーズの把握に努めているか

 D車両
  □車両のデザインについて検討したか
  □道路の幅員や沿道環境、地形(起伏)等を考慮して車両を選定しているか

 E運賃の設定・改善
  □サービス水準を提示した上で地域住民の支払い意思額を把握しているか
 □需要を喚起する運賃形態について工夫する必要はないか
 □交通事業者の経営にマイナスの影響を及ぼさないよう調整がなされているか
 □自治体、利用者等の負担が妥当と考えられる範囲で運賃が設定されているか

 4)利用促進策の作成
  □情報提供、周知がなされているか
  □時刻表、バスマップ等路線図、ホームページ、携帯サイト、運行状況の提供について検討したか
  □利用者にわかりやすく、利用しやすい案内となっているか
  □情報を適宜更新できる(継続していける)見込みができているか
  ○MM(モビリティマネジメント)の必要性を検討したか

 5)調整
  □施策・事業は関係者の合意形成を図りながら選択・計画されているか

 6)他施策、他事業との連携
  □他施策・他事業との連携は検討したか

 7)実証(社会)実験
  □実証(社会)実験を実施するか
  □実証(社会)実験で検証すべき仮説を設定しているか
  □実証(社会)実験時の調査について、仮説の検証のために必要なデータの収集等、
   十分な企画がなされているか

(8)計画の実施、モニタリング・フィードバック

 ■計画の実施
  □実証運行の成果を本格運行に反映しているか
  □複数の交通モード間の連携が図られているか
  □沿線のまちづくりとの連携が図られているか
  □実施に当たっての経費は確保されているか

 ■モニタリング・フィードバック
  □モニタリングの実施体制が構築されているか
  □効果の把握が可能な調査となっているか
  □モニタリングの結果を定期的に関係者で共有しているか
  □モニタリングの結果を踏まえて計画の改善を図っているか

(9)人材、計画技術の維持・向上 [必須ポイント4も参照のこと]
  □利用者の視点から地域交通のあり方を検討することができ、様々な関係者の中で中心的な
   役割を果たすことができる人員が配置されているか
  □計画技術を継承するための資料等の整理がなされているか