国内ロジスティクス最前線

 

第4回『効率的な国内物流に向けた交通課題』

 


 国内物流の効率化は、我が国の産業競争力の向上、豊かな生活の実現、環境問題への対応、高齢化社会への対応など、さまざまな目的から求められており、早急な実現施策が必要とされている。これに対し、物流事業者やメーカー等の物流ユーザーは、鋭意取組みを進めているが、一方でボトルネックとなる問題が山積みされている。物流は、人とちがって「声を出せない」モノが対象であるため、関係者の工夫と努力が必要である。
 

 

[背景]

§高コスト是正

 経済再生・国際競争力強化のための基盤として、物流については、諸外国に比べて高いコストを、国際的に遜色のない水準にすること等が目標とされている。

 

§国民(消費者)ニーズの多様化

 流通コストや流通システムに対する消費者の意識が高まっており、物流に対する国民のニーズは極めて高度で多様なものとなっている。こうした状況を背景に消費者を起点とする新たなシステムの上に、新たな業態のサービス産業等が伸展しつつある。

 

§環境・エネルギー問題への対応

 地球環境問題への意識が高まるに連れ、増大する運輸部門のエネルギー消費においても、これらに対応していくことが求められるようになっている。

 

§国際化・情報化の進展

 企業活動を中心とするグローバル化の進展、高度情報化の進展等による、物流システムへの影響も小さくない。これらに対応した新しい業態やサービスへの取組も求められている。

 

 

論点:

 

 ・産業立地競争力に資する国内物流体制はどのようなものか。
 ・国内物流のコスト高の要因はどこにあり、どのような解決が望まれて  いるのか。
 ・マルチモードへの期待はどうか。
 ・新たな物流ニーズはどのようなものか。これに対し、どのような先進  的取組みの事例があるか。

 

 

[ゲストスピーカー]


 一層の効率化が求められている国内物流については、生産者(物流ユーザー)、物流事業者双方の視点から、施策を検討することが重要である。そこで、それぞれの立場にある我が国の代表的な企業にあって、主に国内の物流に関わる以下のお二方をお招きした。
 

 













 


長谷川 雅行(はせがわ まさゆき)
(日本通運株式会社
     業務企画部担当部長)
 入社後、営業・企画等を経て、1994年から業務企画部でモーダルシフトや自動車輸送部門を担当している。今回は、事業者としての立場から、将来の物流システムのあり方と、それに対する当社の取組みについてお話ししていただいた。
 













 


稲垣 邦夫(いながき くにお)
(ソニーロジスティックス株式会社
  輸送ネットワーク室統括部長)
 製品・資材の輸送・配送の全体最適化にかかる企画・立案・調整に携わっている。今回は、ユーザー・物流事業者双方の立場から、将来の物流システムについてお話ししていただいた。


 













 

 


物流事業者からみた国内物流のボトルネックと物流効率化に向けての取組み事例(話題提供:長谷川氏)
 

●21世紀初頭の国内貨物量の見通し

 国内貨物輸送量は、1991年度の69億トンをピークに、98年度は64億トンまで減少している。これは、バブル崩壊後の景気低迷の影響にもよるが、サービス経済化、軽薄短小化等の傾向から、今後も減少していくことが予測されている。

 また、かつての国内輸送の主役は鉄道であったが、モータリゼーションの進展に伴い、利便性の優れるトラック輸送が伸びている。また、トラック貸切輸送が減少し、小口化、高速化に対応した宅配便が伸びている。

 

●新しい物流の出現

 かつての国内物流は国内の産地から消費地への輸送が中心であったが、海外生産等が進んだ結果、今日では国際港湾・空港から消費地という新しい流れが生まれている。また、静脈物流についても、これまでは地域内処理が主流であったが、近年は遠隔地域間輸送が増加しつつある。

 

●インフラ整備の問題点

@圏央道・外環道

 首都高速都心環状線の6割は通過交通で、首都圏を通過するトラックは1日13万台にも達する。全国の主要渋滞ポイントの中でも首都圏は特にひどく、首都圏をバイパスする圏央道西側・外環道東側の延長道路の早期整備を強く要望する。

A南方貨物線・整備新幹線

 トラック偏重の物流から脱却し、貨物鉄道を有効活用していくために、本州中央の貨物線を充実させる必要があり、特に整備の遅れている名古屋の南方貨物線の早期完成を要望する。また、東北線・北陸線の整備新幹線に伴う、在来線の貨物利用についても、社会インフラとしての全国貨物鉄道ネットワークという視点から、新たな交通輸送体系の中で位置づけていく必要がある。

B空港・港湾

 今後、国内物流の効率化についても、国内外との接続をいかにスムーズに行うかが重要になる。このため、輸出入手続きの簡素化や、税関の土日オープンなど、規制緩和・情報化によるソフトインフラの改善を要望する。現在は人流だけ傾向であるが、地方空港ではソウル経由で世界を結んでいる。このままでは、やがて国内航空貨物輸送もハブが成田・関空からソウルや香港に移る可能性がある。

 

●物流事業者からみた高コストの問題点

 物流の高コスト構造の要因としては、人件費(米国の1.5倍)、燃料費(同2.4倍)、自動車関係諸税(同2.5倍)、高速料金(日本は大型車1km当たり約40円、欧米は無料)が考えられる。例えば、東京・青森往復の輸送コストは約16万円だが、内訳は人件費4割、車両維持費2割、燃料費等2割、高速料金2割であり、これ以上のコスト圧縮の余地は少ない。さらに米国とは道路条件も異なる上、大型車の通行にかかる規制もある。

 

●日本通運における物流効率化の取組み

 当社では、物流の効率化に向けて次の6つの取組を行っている。

@ロット化(荷物をまとめて運ぶこと)

A標準化(荷姿を揃えて機械を活用すること)

B平準化(繁忙・閑散の波をなくすこと)

C共同化(企業・業界の枠を超えて共同輸送等を実施すること)

D情報化(ムダを省いた輸送、物流最適化に向けて情報を活用すること)

E環境負荷の軽減(モーダルシフト、低公害車、梱包材再利用の普及・推進)

 


物流ユーザーからみた物流課題(話題提供:稲垣氏)
 

●生産と物流の関係

 少子・高齢化、個性重視といった社会構造の変化や、バブル崩壊後の経済構造の諸変化を背景に、マーケティングは従来のPUSH型からPULL型に転換している。

 このため、安くて品質の良いものを早く顧客に提供するため、顧客満足の最大化とコストの最小化を実現する生産・販売・物流革新が求められるようになり、物流面では、在庫の減少、流通チャネルの多様化が課題である。

 一方、ボーダーレス物流による生産と販売の連携により、その機能的接続が求められており、当社でも直送化の推進を検討している。

 現在、工場で生産した製品の一時的ストック拠点である物流センターは既に廃止し、特約店配送用のストック拠点である商品センターを通じて配送を行っているが、今後は徐々にこれらのストック機能もなくし、キャリアのインフラの活用も含めたスルー型に変わっていくと思われる。

 今後の課題は、市場競争力の強化であり、

@コスト(積載・輸送効率の向上:キャリア依存からの脱却、独自オペレーション構築への転換、輸送デバイスの変更、遠距離輸送のモーダルシフト等)、

A時 間(リードタイムの短縮、補給方法の見直し)、

B品 質

以上の3点を改善し、商流情報と物流情報の接続、総合的なコントロール実現に向けた情報化を進めていく。

 さらに、ネットワーク時代の到来に対応して、部品サプライヤーからエンドユーザーまでのロジスティックスサービスプロバイダーをめざし、全体最適な輸配送システムの構築に取組んでいく。

 

●物流ユーザーからみた高コストの問題点

 物流コスト高の原因としては、人件費、燃料、高速代のほかにも次のような点が考えられる。

規制緩和の停滞

例えば、原価積算方式による料金設定では、非効率性が保護されてしまう。本来、料金とは、提供された付加価値に対して顧客が価格を決定すべきである。

LT(ロジスティックス・テクノロジー)革新の未出現

ITは進化したが、物流は、旧態依然の運送方法と考え方を踏襲しており、事業者が独創性を発揮していない。

業界の特質改善

物流業界は、労働集約型であること、大きな物流波動があること(予備戦力分もユーザーが負担する)などがLTが進化しない要因のひとつになっている。

低い生産効率

積みおろし待ち時間、バルク荷役時間、渋滞手待ち時間等の解消が課題である。諸コストが基本料金に包含され、全ユーザーが均一に負担させられているので、基本料金を分解し、ユーザーの選択に応じた負担をするメニュー整備が必要である。

投資効率の無駄

物流事業者各社が、インフラ整備のため、それぞれ独自に莫大な投資を行っている。

 


ディスカッション再録:マルチモーダルや共同配送等の物流効率化はなぜ進まないか
 

●新しい物流の出現

Q:今後、物流分野に対しては、様々な立場、業界の人々が参入することになると思われるが、この点に関する見込みはどうか。

A:日本通運でも、インターネット通販など、「商売」の分野にもう少し入り込んでいくと考えている。例えば、銀行は硬貨を扱いたがらないので、すでに当社が、銀行に代わって夜間金庫の出前(キャッシングデリバリーシステム。コンビニ、パチンコ店などが利用)などを手がけている。

 

Q:そのような銀行の代わりをする例のように、企業のこれまでの固定的な役割は崩れていくと考えられる。こうした状況の中で行政の果たすべき役割について何か意見・要望はあるか。

A:例えば、中小トラック業者を共同化する求車・求貨システムの早期実現への働きかけなどがある。

 

●マルチモーダルはなぜ進まないか

Q:マルチモーダルに関し、結節点におけるモード転換のコストについて、どのような工夫や展望を持っているのか。

A:積み替えに関しては、コンテナならば特段のコスト・時間を要しないが、さらに、当社のスワップボディは、トラックと鉄道の切り替えをスムーズにするための様々な工夫をほどこしている。

スワップボディとは、トラックの荷台をベースに構成され、床面だけで十分な強度を持っており、側面・天井の構造を簡易にして貨物の積載重量や容積をより多く確保したものである。このため、大型トラックの貨物積載量をそのまま鉄道貨車に乗せ替えることができるようになった。

スワップボディは環境対策面でも評価され、ヨーロッパで普及している。

 

●共同配送はなぜ進まないか

Q:配送における現状の問題点は?

A:宅配便車両の1日当たり走行距離はせいぜい20〜30kmで、駐車して配達している時間の方が長い。車を停めるところがないので、遠くから台車を使うため、これがコスト高の原因となっている。また、配送と納品の人間を分けている物流業者もいる。さらに、日本のビルは貨物エレベーターもないので、ビル内の上下も時間がかかる。こんなことで長く駐車していると、それが渋滞の原因になってしまう。

 

Q:業界として、共同配送等の効率改善に向けて何らかの働きかけをしているか。

A:中核都市の商店街などにお願いすることがある。

福岡の天神、熊本をはじめ、トラックベイのある岐阜、名古屋などの取組にならって、各地でこうした対応が広がれば都市内集配も効率的になる。

また、当社が共配インフラを提供して呼びかけている場合もある。現時点では必ずしも収益が出るわけではないので、先行投資的に行っている。

共同輸送の呼びかけにあたり、地方圏ではロットがまとまらない点を改善するという視点で、大都市圏では道路混雑解消をする視点で、というようにアプローチを変えることが効果的である。

 

 

Q:ビル内の共同配送はどうか。

A:横浜みなとみらい地区などにおいて、ビル内部の共同配送をやっている例がある。

 


(研究会を終えて)
 新たな物流に向けて、最近、物流業者のさまざまな取り組みが進みつつあるが、コストの問題を始め、ユーザー側から提示されるニーズもまだまだ多い。
 マルチモーダルに向けては、スワップボディ等の取り組みがあるが、鉄道貨物や内貿航路の再整備が進まないと拡大していかないだろう。また、共同配送の取組は、必要なインフラ整備まで含めると、各社にとって必ずしも収益的な事業でないことが課題である。
 

 

 

 

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